勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十八話 ぼたもちおはぎ

 九月に差し掛かると、暑気もいくらか和らいでくる。

 さもありなん、旧暦八月ともなればもう秋である。

 白鳥歌野は諏訪で、自給自足の農業を営んでいたので知っていた。

 田んぼの実りがある、旧暦八月の朔日は"田の実の節句"と言うのだと。

 

「というわけで、若葉に蕎麦饅頭をプレゼントするわ!」

「どういう事だ・・・・・・?」

「今日は普段"頼み事"をしている人に感謝する日なのよ!」

 

 乃木若葉に説明するが、なんという事は無い。

 田の実と頼みをかけた、昔の人間の洒落である。

 歌野にとっても、たまたま都合が良かっただけである。

 北海道に沖縄に、歌野は若葉に四国の守りを任せてしまった。

 そのお礼をする理由になるからと、便乗しただけだった。

 

「そうだったのか・・・・・・。くっ、こちらは何も用意できていない・・・・・・」

「気にしないでいいわよ。日頃の感謝の気持ちだもの」

「いや、そうはいかない。何事にも報いを。それが乃木の生き様だ!」

 

 しかし、若葉は非常に真面目な少女であった。

 歌野のお返しは良いという言葉も聞かず、若葉は走り去って行った。

 沖縄での一件以来、四国を襲撃するバーテックスの気配はまだ無い。

 勇者達は毎日の勉強と訓練を除けば、かなり自由を満喫しているのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「ひなた! 今日は田の実の節句と言うらしい!」

「えっと、それはつまり・・・・・・」

「かくかくしかじか」

「なるほど、そういう事でしたか・・・・・・」

 

 歌野の元から走り去った若葉は、上里ひなたに相談を持ちかけた。

 若葉は勇者達のリーダーで、頼りにしている仲間がとても多い。

 その為、各自に適した礼を用意するのはかなりの難題であった。

 

「うどんなら間違いは無いだろうが、単純にうどんばかり出して、千景あたりに『乃木さんはうどんが無いと何もできないのね・・・・・・』と思われるのは避けたい・・・・・・」

「そうですね・・・・・・。では、このような物はいかがでしょう?」

 

 ひなたはすぐにアイデアを出してくれた。

 しかし、それは若葉の期待とは少し違う物だった。

 

「それは、かなり大がかりになるな・・・・・・」

「手伝って下さる方が数名、心当たりがあるので大丈夫かと」

 

 若葉一人で用意できる物ではなく、やはり手伝いを呼ぶらしい。

 若葉は思いがけず話が広がってしまい、止めるべきかどうか悩んだ。

 

「上里さん、何の話をしてるの?」

「あら、安芸さん丁度良いところに」

 

 しかし、廊下を通りがかった安芸真鈴がその話題に食いついた。

 真鈴も色々な場所に、お礼をしたい相手がいるらしい。

 若葉が止める間もなく、あいつも呼ぼうと"赤嶺"なる巫女も呼ばれた。

 

「後は・・・・・・あの畜生も呼びますか、真鈴先輩?」

「んー、とりあえず呼ぶだけ呼んでみるけど、来るかわからないわよ?」

 

 それから大社の職員も一人呼ばれる事になった。

 人間を畜生呼ばわりは褒められた事ではないが、前科があるらしい。

 

「四国の体制を整えた手腕は認めますが・・・・・・」

「まぁ、犠牲を割り切る一方で、わりと優しい部分もあるのよ?」

 

 真鈴の話では、大の為に小を切り捨てるタイプの人間のようだった。

 ただ、性根が悪人なわけではなく、真鈴の相談にも乗ってくれたらしい。

 真鈴に呼ばれても、大社の職員は不承不承といった様子で駆けつけてくれた。

 そして、精神安定の注射を自分に打とうとして、真鈴に取り上げられていた。

 

「藤森さんが禁止しましたよね、クスリ」

「老害共と向き合う仕事がまだ残っているんだ・・・・・・」

「身体に良くない影響があるのは医療機関で確認済みです」

「巫女に与える前から使って、私は何も問題無かったんだ・・・・・・」

「ダメです。没収です。仕事は手伝いますから」

 

 若葉はよく知らないが、大社は今でも仕事が大変らしい。

 若葉も何か手伝える事が無いかと、うっかり口を出してしまった。

 

「それなら上層部の老害の機嫌取りをしてくれ・・・・・・。具体的に言えば、大社のこのダサいキーホルダーを持ってテレビに写ってくれ・・・・・・。新発売のこれの売り上げが伸び悩むと、連中は通販の煽り酷評レビューに真っ赤になって対応して、書類処理を滞らせるに決まっているんだ・・・・・・」

 

 すると大社の職員からは予想外の回答があったが、若葉も前向きに検討する事にした。

 その程度で誰かの役に立てるのであれば、嫌という事は無い。

 

「あと、そうだ・・・・・・。小人閑居して不善を為すとはよく言う話。バーテックスの襲撃が下火になって、大社の仕事のできない連中が勇者を組織内政治に巻き込もうとしたら、安芸に連絡してくれ・・・・・・」

「若葉ちゃん達へのお気遣い、感謝します」

「私は巫女で、大社の小間使いじゃないんだけど・・・・・・?」

「沖縄の件、どうしてお前が叱られるだけで済んだと思っている・・・・・・?」

 

 真鈴と大社の職員の間で少々の悶着もあったが、大した物ではなかった。

 

「いいか、お前の手伝いと癒しが無くなれば、私は間違いなく大社の老害に足を引っ張られ続ける心労に耐えきれず、過労死する・・・・・・。私が死ねば、ドミノ倒しのように死ぬ連中も続発するだろう・・・・・・。だから、大社の現場を預かっている連中が寄って集ってお前を助けてやったんだ・・・・・・。だが、私が過労死しても大社だけなら大丈夫だ。私の大量の仕事はきっちり、お前に引き継がれる形にしてある。そのくらいの安全管理は出来ている。喜べ、私が過労死すれば、私のポストはそのまま過労死予備軍の座とセットでお前の物だ・・・・・・。まぁ、なんだ、私の手伝いをボイコットするなら、その"覚悟"をしておく事だ・・・・・・」

「ひぇ・・・・・・」

 

 真鈴が謎の脅迫も受けていたが、それだけ期待されているのだろう。

 真鈴の大社における立ち位置を、ようやく若葉は垣間見た心地だった。

 真鈴が言うならば、若葉の求める物も大社が揃えてくれると言う。

 

「真鈴先輩、まるで大社のアイドルですね。お羨ましい事です」

「赤嶺、代わってあげようか?」

「私では務まらないかと。先輩の自称凡人の雑用は真似できません」

 

 若葉のお礼の準備は順調だった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 甘い香りに誘われて、高嶋友奈は歩き出した。

 ほっこりとした香りは、どこかで嗅いだ覚えがあった。

 そして、丸亀城公園の一角にある公民館からその香りは漂っていた。

 

「わぁ・・・・・・!」

 

 公民館の窓を覗き込めば、テーブルにずらりと並んだ小豆色の丸い物。

 まぎれもない、友奈の大好きな"ぼたもち"作りの光景だった。

 

「あら、友奈さんに見つかってしまいましたか」

「あっ、ひなちゃん! どうしたの、こんなにいっぱい!?」

 

 エプロン姿のひなたを見て、友奈は尋ねた。

 どうしてこんなに沢山のぼたもちを作っているのかと。

 

「若葉ちゃんが、普段からお世話になっている方々にお礼をしたいと言うので、せっかくなら大社の皆さんにも振る舞って顔を繋いでしまおうと。もちろん、友奈さん達のぶんもありますよ」

 

 それは嬉しい心遣いだったが、友奈は心配でもあった。

 友奈も、普段からたくさん皆の世話になっている。

 自分もお礼をしなくてはいけないかもと、友奈は不安になった。

 そして、友奈が手伝える事は無いかと縋るように尋ねると、ひなたは言う。

 

「では、皆さんを呼んできて下さいますか? 勇者も巫女も、大社の方でも、ぜひ食べにいらして下さいと」

「うん、わかった! 皆に声をかけて回ればいいんだね!」

 

 ひなたに言われた通りに、友奈は走り出した。

 勇者の寮から、巫女の寮、大社の各施設を巡って行くのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 いやー、ホントに腹が立つほど平和だよねー。

 沖縄の一件から、バーテックスくん達がぜんぜん仕事しないし。

 学校の二学期が始まって気怠そうな女の子は多いけどさー。

 でも、まったく切実さが無いよねー。

 命がけの辛さっていうかさー。

 

「ねぇ、真鈴ちゃんはそこらへんどう思う?」

「乃亜さん、手を止めないで」

「はーい」

 

 何が辛くてボクがおはぎを作る羽目になるかなー。

 確かに暇だったけどさ。

 上里ひなたに殴りかかって、また叩きのめされたけどさ。

 真鈴ちゃん、触手の手数を活かせば一人で五人力とか、普通考えないよ。

 初対面の時の真鈴ちゃんは、あんなに怯えて可愛かったのに・・・・・・。

 

「真鈴ちゃん、普通にボクより作るに早くない?」

「コツを覚えればこれくらい普通だと思うけど・・・・・・」

 

 猛烈な勢いでおはぎを量産する真鈴ちゃんがいれば、ボク要らなくない?

 上里ひなたに物理で負けて、真鈴ちゃんにお菓子作りで負けて。

 ボクの曇り顔なんて非常食みたいな物で、いつでも見たい物じゃないのに。

 最近、ボク以外に誰も曇ってない気がするこの世界。

 こんなの絶対おかしいよ。

 

「おはぎにタバスコでも混入してやろうか・・・・・・。その辛みを針の痛みと勘違いした精神病患者が発狂して大事件を引き起こしたり・・・・・・」

「乃亜さんが食べるならどうぞ」

「嫌だよ、タバスコ味のおはぎなんて誰が食べるのさ」

 

 あと、何でここの連中はおはぎをぼたもちって呼んでるのさ。

 ぼたもちは牡丹で春、秋は萩でおはぎでしょ。

 だいたい、ボクはぼたもちの響きがあんまり好きじゃない。

 おはぎの方がぼたもちよりお行儀が良い感じがするじゃないか。

 

「どっちでもいいかなー」

「むー、真鈴ちゃんのいけずー」

 

 誰一人として同意無しとか寂しいぞ。

 くそぅ、せめてボクの信じるおはぎらしく小ぶりに作ってやる。

 ずっしりどっしりしているのは、ボク的にはおはぎじゃない。

 小さくちょこんと可愛く手に乗る感じが、ボク的ベストおはぎだ。

 

「乃亜さんはちまちま作って、まるで餡子が減っていませんね・・・・・・」

「うるさいなぁ! ボクのおはぎはこだわりがあるんだよ!」

 

 上里ひなたがゲンコツみたいな餡子の塊を片手に言うが、知ったことか。

 ボクのおはぎは、美少女がダイエット中にちょっと手を伸ばしても許されるかなって気分になってしまう、絶妙サイズなんだ。

 お菓子はあくまで間食、甘い物でお腹一杯になるなんて邪道だよ。

 

「見た目でどなたが作ったかわかりやすいので良いのでは?」

「赤嶺のそれ、何・・・・・・?」

吹上餅(ふちゃぎむーちー)ですが?」

 

 ふちゃぎは沖縄の旧暦八月に食べる、餅に塩茹で小豆をまぶすお菓子だね。

 秋のお彼岸のおはぎと同じく季節のお菓子、ボクの仲間と見た。

 

「キミはなかなかわかってるね」

「・・・・・・・・・」

「言わなくてもわかるよ。秋にぼたもちとか、ナンセンスだよね」

 

 そのうえ塩茹で小豆だから、甘い物が苦手な人でも大丈夫。

 これは甘い物が苦手な男性の心を鷲掴みだろうなぁ。

 お客さんの大半はボクと赤嶺ちゃんで奪い合う事になるに違いない。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ねぇ、どうしてあの小さいぼたもち大量に余ってるの・・・・・・?」

「え、だってなんかキモくない・・・・・・?」

「まぁ、その感覚はわかるけど・・・・・・」

「でしょー?」

 

 そう思っていた時期が、ボクにもありました。

 あーあ、一生懸命になって作って損した。

 百歩譲って接客とかしないで、引き籠もっていればよかった。

 

「おはぎ、食べて行ってくださーい」

「・・・・・・・・・」

「おみやげ用のパックもありますよー、職場の人にどうですかー?」

「・・・・・・・・・」

 

 きちんと外面は取り繕ってるつもりなんだけどなー。

 やっぱり、ぐんちゃんブロンズ像の依代を捨てたのが痛かったかなー。

 

「おはぎ、いかがですかー?」

「・・・・・・・・・」

 

 くそぅ、結局誰一人としてボクのおはぎを食べていかなかった。

 どうするんだよこの大量のおはぎ。

 ボクの手伝いとか、要らなかったじゃないか。

 ボクが手ずから生ゴミを増やしただけじゃないか。

 

「あれ、乃亜さんのおはぎそんなに残っちゃったの?」

「あ・・・・・・。うん・・・・・・」

「一個貰っていい?」

「うん、ありがとー、真鈴ちゃん」

 

 まぁ、こうなる理由はわかり切ってるけど。

 ボクって完璧な美少女だけど、只の美少女じゃないからね。

 不幸じゃない人間の目に映りづらい、避けられやすい体質とかさ。

 沖縄の時は依代があるのにアレで、沖縄が悪いって言い訳ができたけど。

 こればっかりはボクの自業自得としか言いようが無いねー。

 

「それにしても、勇者の皆がごっそり持って行ったと思ったのに・・・・・・」

「ボクのおはぎは目に映らなかったんじゃないかなー」

 

 小豆と餅米には悪い事をしちゃったね。

 せっかく美味しく炊き上がったのにね。

 

「目に映らないって、どういう事?」

「かくかくしかじか」

「・・・・・・おかしな生態をしてるのね」

「そうそう、歌野の腕も言ってしまえばそれの応用っていうかねー」

 

 真鈴ちゃんがいてくれてホント良かったよ。

 でも、流石にこれ全部は片付かないよなぁ。

 

「じゃあ、上里さんと赤嶺と一緒に、これ配って来るわね」

「えっ、いいよ、どうせ嫌な顔されるだけだし。ボクはそういうの大好物だから良いけど、真鈴ちゃんはそういうの嫌いでしょ?」

「私は、こんなに美味しいおはぎが余る方が嫌かなー」

 

 どうしよう、真鈴ちゃんが変なことを言い出した。

 心が痛いからやめてほしいんだけど。

 真鈴ちゃんに顔面パンチ叩き込んで止めようか。

 そうだ、そうしよう、ボクのおはぎとかどうでもいい気分にさせよう。

 

「何をしているのですか?」

「げぇっ!?」

 

 なのに、どうして邪魔をするかな、この上里ひなたは!

 ボクがパンチの予備動作を見せた瞬間に割り込んで来るし。

 恐ろしく素早い割り込み、ボクですら見逃しちゃったよ。

 

「ん、どうかしたの?」

「いえ、乃亜さんが転びそうでしたので、支えに入っただけですよ」

「そんなわけ、いた・・・・・・っ!」

 

 お尻を抓るな、やめろこの変態女。

 

「それにしても、こんなに余ったのは確かに勿体ないですね」

「食べに来なかった巫女の子達に配ろうと思ってるけど、どうかな?」

「安芸さんが召し上がった感想はいかがですか?」

「何も、普通の美味しいおはぎだけど」

「では、巫女達に食べさせても大丈夫でしょう」

 

 ボクを無視して話を進めるなよ。

 ボクのおはぎとかどうでもいいだろ、優しくされると切なくなるからやめろよ。

 

「甘い物を我慢してる子でも、このサイズなら一個くらい食べるでしょ」

「えぇ、乃亜さんのこだわりサイズのようですから」

 

 ボクのおはぎなんか、どうでもいいだろ・・・・・・。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 紆余曲折はありつつも、ぼたもちは全て消化された。

 上里ひなたは皿の片づけをしながら、ホッと安堵の息を漏らした。

 

「上里さん、乃亜さん見なかったー?」

「いえ、いきなり泣き出して逃げて、それきりですが・・・・・・」

「どこ行ったんだろ、赤嶺は知らない?」

「すみません、あまりその方の印象が残っておらず・・・・・・」

 

 今回のぼたもちパーティで、大社の関係者との情報交換もできた。

 まさか沖縄の"おばあ"が海から帰って来ていたとは。

 おまけに全身が神の恵みで作られた"御姿おばあ"として元沖縄住民に隠然とした力を発揮、大社の諜報能力を飛躍的に向上させたなど大社関係者に聞かなければ、ひなたには知る由も無い情報だった。

 ひなたは皿の片づけを済ませると、寮の私室へと一旦戻る。

 頭に取り込んだ情報を忘れないうちに、ノートへ書き出してしまう為だ。

 そして、以前からノートにまとめている情報にも追記をしていく。

 

 ~~~~~~~~

 

 白鳥歌野、藤森水都に取り憑いている謎の存在について。

 

 ・褐色美少女を自称している。(実体は褐色肌にピンクの髪が特徴)

 ・人間の不幸を喜び、不幸を感じている人間にすり寄って行く。

 ・美少女(定義は不明)の曇り顔(悲痛な表情)を好む。

 ・誰かを直接的に害する際には、強いこだわりがある。

   →こだわりその一、相手に応じて手加減を行う。

   →こだわりその二、美少女と本人が認識している相手に勝てない。

 ・都合の悪い事をすぐ忘れる。何度殴られても懲りない。

 ・根拠の無い全能感を持っているが、殴られるとすぐ心が折れる。

 ・乃亜(ナイア)と自称している事が判明。

 ・依代を求めている。依代が無いと他者に認識されづらくなる。

 ・不幸な人間、もしくは適性の高い巫女以外には認識されづらく、避けられる。

 ・歌野の腕の、空間を削り取る力は本人の特徴の応用らしい。

 ・自分の作ったおはぎを人に美味しいと言われて喜ぶ感性はある。

 

 (推定欄)

 ・北海道のバーテックスを全滅(?)させた。

 ・バーテックスに警戒されており、千景が風評被害を被っている。

 ・企んだ事が高確率で失敗している。(自分を曇り顔にする趣味がある?)

  →美少女を曇らせるやる気が自分(自称褐色美少女)に跳ね返っている?

  →わざと失敗している可能性は?

  →自分の欲望が満たされない事に、何かしら生存に有利な意味がある?

  →本人から自分の不快な感情も"非常食"になると証言を入手。

 

 ~~~~~~~~

 

「何なのでしょうね、このナマモノは・・・・・・」

 

 ひなたはなるべく感情的な意見を挟まないよう注意した。

 感情的な意見を挟むとしたら、ひなたはこんなふざけた存在がどうしてこの世に生まれたのか、創造神の頭を虫眼鏡で確かめてみたい気分だった。

 しかし、冷静に書き連ねると、改めて不自然な箇所が浮き彫りなって見える。

 

「この部分はどう解釈すべきか・・・・・・」

 

 不自然なのは、最新の一点。

 他の部分と比べて、お菓子作りを楽しむ感性が致命的に不自然だった。

 まさか自身を"美少女"に近づけて非常食としての性能を上げる為の自己催眠を施しているとでも言うのか。ひなたは自分の妄想に悪態を吐きたくなった。

 

「いえ、冷静に考えましょう・・・・・・」

 

 だが、乃亜が一つの存在ではないと考えれば、不自然さにも説明がつく。

 二種類の存在が同居している可能性だ。

 片方は、おはぎ作りが好きだったりする基本的にアホな少女。

 片方は、歌野の腕のような力を振う、誰かの不幸を糧に生きているナニカ。

 前者が外付け媒体で、後者が本体という形ならば、生態として納得はいく。

 

「しかし、これはあまりにも・・・・・・」

 

 ひなたは深みに嵌ってしまいそうな気がした。

 少女の側に別の意思があるとすれば、両者の関係がアレのように見えてしまう。

 現時点で、乃亜に直接怪我をさせられた人間が居ない事を、深く考えてしまう。

 乃亜の行動の一つ一つに、何か意味があるように思えてしまう。

 

「仮にそうだとしても、どうすれば――」

「むにゃ・・・・・・うへへへ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 しかし、そんなひなたの思考を耳障りな声が中断させた。

 ひなたの部屋には、ひなた以外は誰もいない筈だった。

 

「たいじゅうけいにのれない・・・・・・うえさと・・・・・・ざまぁ・・・・・・」

 

 しかし、ひなたが振り向けば、ベッドに丸いふくらみがある事に気づく。

 ひなたは急に、全ての思考がとても馬鹿馬鹿しくなった。

 ひなたは布団をめくって確認した寝顔に嘆息した。

 これは、そもそも睡眠を必要とする存在なのか疑問符がつくというのに。

 

「もう、考えるのは止めましょう・・・・・・」

「ふへへ・・・・・・たべすぎだよぉ・・・・・・」

「勝手に人のベッドで寝ないでください」

「んぅ・・・・・・やだぁ、おこらないで・・・・・・」

 

 どんな夢を見ているのか、肩を揺さぶられた乃亜はベッドの隅で小さくなる。

 そこまで追いやるつもりは無かったのだが、ひなたは気まずくなる。

 

「ハァ・・・・・・」

 

 ひなたは仕方なく乃亜をベッドの中心に引き込んだ。

 ふぎゃぁと猫のような悲鳴が上がったが、構わず布団をかけ直してやる。

 そして、ひなたは天井の明かりを消して、部屋を出た。

 ひなたが部屋へ戻ったのはあくまで一時の事。

 まだ今日のうちにやらねばいけない事が残っているのだ。

 

「本当に、何をしたいのやら・・・・・・」

 

 断じて、乃亜が眠っているのを起こすのが可哀想と思ったわけではなかった。

 

 

 

(つづく)

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