勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十九話 終わらない戦い

 天の神は、地を支配すべく尖兵を送り出した。

 しかし、最初の尖兵は地の乱れに恐れをなし、地へ降りる事は無かった。

 次に送り出された尖兵は地に服し、三年を経ても天に復命する事は無かった。

 

 これらは、とある神話の一説である。

 二番目の尖兵は地方では任務を遂行したと言われる事もある。

 しかし、地に服したと言われる程度には、戦果を挙げられなかったのだろう。

 二番目の尖兵は天に見限られ、そのまま地の臣になれと命じられる。

 

「なんか、最近バーテックスくん達の元気が無いよねー」

「それは、私達にとっては有り難い話ですが・・・・・・」

 

 そして、次に天から派遣された尖兵は、地と結ばれて天を裏切る。

 

「バーテックスくん達と講和するなら、今がチャンスかもしれないよ?」

「バーテックスと講和ですか・・・・・・?」

「弱っているところに優しくされてコロッと行くのは定番だからね」

 

 上里ひなたは、そんな乃亜の話に少しだけ興味を引かれた。

 もう、乃亜が前触れもなく私室のベッドに腰かけていても気になどしない。

 ひなたは乃亜の言う、バーテックスとの講和に軽く質問を返した。

 言葉が通じない相手だが、そんな事が可能なのだろうかと。

 

「ボクや人間では無理だろうけど、土地神ならできると思うよ?」

 

 神話においては結婚による取り込みだったが、それも工夫次第。

 両者を結びつける巫女は最低でも必要だが、可能だと乃亜は言った。

 

「そういった和解の儀式で差し出される人質の定番が女の子ってだけじゃなく、土地神の意図を読み取れる巫女じゃないとこれが務まらないのはわかり切った話だよね。まぁ、基本的に殺さないのがマナーだから、やるだけやる価値はあるんじゃないかな。そもそもバーテックスくんとの橋渡しになってあげるような、殊勝な心がけの子がいたらの話だけどねー」

 

 ただ、巫女を人質に差し出す必要があると聞いて、ひなたは首を振った。

 誰が好き好んで、バーテックスに身を捧げたりするだろうか。

 

「貴女のおっしゃるとおり、大社には一人として居ないでしょうね」

 

 巫女を人質として差し出したいと思う人間はいくらでもいるだろうが。

 ひなたは、その言葉を飲み込んで乃亜の提案を却下した。

 

「ふーん、そっかー・・・・・・」

 

 その時見せた、乃亜の表情をひなたはよく覚えている。

 ひなたを嘲笑するわけでもなく、不快そうなわけでもなく。

 ただ、安堵したように静かに笑って、部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 そんな、ひなたと乃亜のやり取りがあったのとは無関係。

 とある大社施設の裏手にて。

 

「赤嶺の"アレ"って、誰から教わったか覚えてる?」

 

 真鈴は、赤嶺に人目を忍んで話を振っていた。

 最近では少なくなった、人気の無い場所での赤嶺との密談。

 久しぶりだが、真鈴の表情は真剣だった。

 

「アレですか? でしたら、おすすめの古本屋をご紹介しましょう」

 

 真鈴は今日、何か心当たりが無いかと大社の職員に尋ねられたのだ。

 何の心当たりかと尋ね返せば、真鈴は相手の返答に驚愕させられた。

 

「この住所の古本屋の、この本が良いかと」

「サンキュ。赤嶺はブランク長いし、儀式の内容はぜんぜん覚えてない?」

 

 真鈴は赤嶺の"ソレ"を誰にも教えず、証拠も処分したつもりだった。

 だが、大社は真鈴とは逆の経路でソレを掴んだのだろう。

 大社の職員は人気の無い場所を選んで、真鈴に伝えてきた。

 "バーテックスを崇拝する組織"が、大社の調査で見つかったという話を。

 大社はそれに内偵を忍ばせて、構成員のリストを入手したと。

 まもなく一斉検挙が行われる予定だと、大社の職員は言った。

 

「すみません、真鈴先輩。私はこの程度の事しか知らず・・・・・・」

「そう・・・・・・」

 

 だが、大社の職員は真鈴に対して、まだ時間があるとも言った。

 知り合いに足を洗うよう忠告するくらいは許してやるとも言った。

 真鈴が声をかければきっと知り合いも改心して、大社に協力的な情報をこぼして、大社の検挙リストから外れる事もできる、監視はつくが平和な生活を送れるだろうと言うのだった。

 真鈴は赤嶺からのメモを受け取り、これで大丈夫だと思った。

 これで大社への情報提供者として体裁を整えることができたと。

 

「じゃあ、私はちょっと用事があるから行くわね」

「私に手伝える事はありますか?」

「あはは、後輩が協力的で助かるわ。でも、大丈夫よ」

 

 そう、真鈴は大丈夫と思ったのだ。

 しかし、真鈴は強い失望を味わう事になる。

 これでは足りない。

 それは大社が既に入手している情報であった。

 これでは弱いと、大社の職員は言うのだった。

 

「そんな・・・・・・」

「おっ、真鈴ちゃんの珍しい曇り顔、何かあったのー?」

 

 そして、そんな折、どこからともなく声がかかった。

 褐色美少女は実に嬉しげにすり寄って来たのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「わぉ、久しぶりの大社の畜生ムーヴが発揮されてる感じ?」

 

 真鈴ちゃんの曇り顔に釣られて来たら、大社のナイス畜生だった。

 赤嶺ちゃんの過去の因果が巡った、自業自得の結果でもあるけどね。

 過去はいつも真の平和をがんじがらめするって、本当名言だよね。

 

「ねぇ、どうしたらいいかな・・・・・・?」

「いや、これはもう"試練"と受け取るしか無いんじゃないかなぁ?」

 

 そうなったらもう、未熟な過去に打ち勝つしか無いよね。

 ボクが握ってる大社のスキャンダル情報で相殺するのは簡単だけどさ。

 過去をきっちり乗り越えての前進が一番だよ。

 

「どうせならバーテックスくん達を崇拝する組織を利用しちゃえば?」

「利用って・・・・・・?」

「えっと、今のバーテックスくん達の状況はね・・・・・・」

 

 上里ひなたに教えたのと同じように伝えたけど、伝わったかな。

 

「こんな感じの講和一つでも、八年くらいは時間を稼げるうえに戦力充実できる、結構素敵なアイデアだと思うんだよねー。人間にしてみれば、憎らしいバーテックスくん達と手を結ぶなんて死んでも御免って気分だろうけど」

「講和・・・・・・。表向きそれを隠せば、すごく効率的ではある・・・・・・」

「真鈴ちゃんは、そのあたり割り切ってるよねー」

 

 バーテックスくん達を崇拝なんて、たぶんろくでもないけどねー。

 人間は破滅願望を抱えやすい生き物だから、そっち系だよねって。

 どうせ今ある世界が嫌で、世界を壊してくれる何かを求めたパターンでしょ。

 最後の審判とか、ゾンビ映画とか、人間は大好きだもんね。

 

「・・・・・・でも、組織の人間を使うわけにはいかないのよね?」

「まぁ、両者の橋渡しをするのが破滅願望を抱えた人達だと憂いが残るからね」

 

 守りたい物がある人でないと人質になれないなんて、酷い話だよね。

 でも、皆まとめて滅んでしまえって人がバーテックスくんの人質になったら、ろくな結末にならないだろうし。

 ついでに講和無しの真っ向勝負は、次は本気の尖兵を送り込んで来る流れだから、そっちもあんまりオススメできないし。

 

「他には、何かあったりしない・・・・・・?」

 

 でも、真鈴ちゃんも結局、講和には後ろ向きみたいだねー。

 そこまで割り切れないあたりは、上里ひなたと一緒かな。

 

「うん、まぁ・・・・・・。キミ達が何をしても、ボクはボクで楽しめるように好きに動くつもりだから、ボクの意見はそれほど気にする必要は無いかな。真鈴ちゃんにはボクのおはぎを嫌がらず食べてくれた感謝もあるし、大社を脅すスキャンダルの一つや二つは教えてあげるよ」

「そ、そう・・・・・・!」

 

 まぁ、結果的には戦闘激化、勇者達にしわ寄せが行って、歌野達が曇る事になるだろうから、これはこれでボクとして有りなんだけどね。

 

「どんな決断にしても後悔はつき物だから、せいぜい頑張るといいよ」

 

 最低限の犠牲を惜しんで、戦いの落としどころを見逃すという答え。

 これに対して、将来の人間はどんな評価を下すのかな。

 悪しき前例を拒んだ英断か、惰弱な人間が下した愚断か。

 まぁ、真鈴ちゃん達の死後、誰が何を言おうがどうでもいいんだけどね。

 当人らが満足さえしていればね。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 丸亀城の食堂にて、勇者達は食いつくようにテレビに見入っていた。

 テレビ画面には、ニューステロップが大きく表示されている。

 バーテックスを地上へ招いた、犯罪集団が摘発されたというニュースだ。 

 大社発表によれば、地上の乱れを正すのに天の裁きが必要であると神に訴える儀式を何十年と続けてバーテックスを地上へと呼び寄せた、狂信者の集まりだという。

 

「・・・・・・なぁ、これで何か変わるのか?」

「いや、戦いは変わらず続いていく筈だ」

 

 球子の疑問に、若葉はあっさりと救いの無い返答をする。

 バーテックスが地上へ降り立った今、もう状況に変化は無いだろうと。

 禁じられた箱を開いた罪人を捕らえたところで、箱から放たれた災いは元には戻らず、できるのは希望を胸に抱いて生きる事だけだろうと。

 

「だが、バーテックスとの戦況は幸いにしてこちらの優位で動いている」

「だよね! 歌野ちゃんに、せっちゃん、棗ちゃんも合流できたし!」

「四国の結界強化も順調ですし、結界の拡大も夢じゃないですよね」

 

 友奈と杏は、これからの戦いに怯える様子は無い。

 バーテックスと戦えている自分達に自信があるのだろう。

 

「ただ、領土を拡大して土地神が強まると問題もある・・・・・・」

「あー、なんか沖縄はエラいことになってたみたいだもんねー」

 

 だが、棗と雪花が言うように、戦いは簡単には進まない。

 

「土地神の力が強まると、それだけ制御が難しくなる。沖縄と北海道の神々が合流した結界が落ち着くまで、一年は動くべきではないと帰って来たおばあは言っていた・・・・・・」

「帰って来たおばあ・・・・・・なんか沖縄って色々キャラが濃くない?」

「海の力だ・・・・・・」

「そうなんだけど、なんか納得行かない感じが・・・・・・っ!」

 

 一歩一歩確かめて進まなくては、思わぬところで落とし穴に嵌まるかもしれない。

 

「でもまぁ、一年一年頑張っていけば、いつか世界が畑で一杯になる日も来る筈よ。私だって農業をやるとき、一人で何でもかんでもやるわけじゃないもの。いずれは私も農業皇帝の一人として力を継承して、最終農業皇帝による農業界統一の礎になっていく。その為にも、私はまず農業王にジョブチェンジしないとね!」

「白鳥さんの農業界はどういう構造になっているのかしら・・・・・・」

 

 歌野の言うように、若葉達だけでは達成できないかもしれない。

 いくつも世代を重ねた先で、それは成し遂げられるのかもしれない。

 雪花や千景のツッコミも気になるが、それは一旦さておく。

 

「あるいは後の世代にどう伝えていくか、それが問題になるかもしれないな・・・・・・」

「乃木さん、まさか愛国教育でも始めるつもり・・・・・・?」

「む、ダメだろうか・・・・・・?」

「ダメとは言わないけど、聖戦に命を捧げられて幸せですとか子供が唱和させられる未来は、私は絶対に嫌よ」

「わ、わかった、気をつけよう・・・・・・」

 

 そして、千景が前のめりで言うような事もある。

 まさかそこまで狂信的な事にはならないだろうが、多少の考慮はすべきだろう。

 

「結局、これまで通りって事かー・・・・・・」

 

 しかし、今すべき事は、残念ながら球子の言葉の通りだった。

 若葉達は今後もバーテックスと戦い続ける。

 バーテックスから世界を取り戻すまで、勇者達の戦いは続く。

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

          ???

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 西暦2019年、勇者達はとある土地神の本拠である中国地方へと進出。

 そして、島根県を取り戻した事で、神樹の飛躍的な強化を成し遂げる。

 これにより、勇者達は一時はバーテックスとの短期決着を夢見るのだった。

 しかし、それは本当に束の間の夢。

 

 中国を確保した直後に起きた大災害を境に、両者の形勢は変わる。

 

 それは太陽が落ちてきたような大災害だった。

 大地すら溶けて煮え立った大災害を大社は"天沼矛"(あめのぬぼこ)と呼んだ。

 強化された神樹の結界により、四国・中国は大災害の被害を免れた。

 だが、結界外の地域はもはや海も陸も無い、灼熱地獄と化してしまった。

 もはや、勇者達が取り戻そうとした世界は跡形もない。

 かつてのバーテックスは自然を傷つけず、人類文明のみ破壊して地上を闊歩していた。

 だが、大災害以降、バーテックスは世界を薪とした炎の異形と化したのだ。

 

 勇者達の奮闘により、炎から生まれたバーテックス達の結界内への侵攻は食い止められた。

 

 しかし、大社による領土拡張の動きはこれを機に停滞を強いられる。

 バーテックスの侵攻を勇者が食い止め、人々が平穏を享受し続ける。

 そのような形で戦況が硬直し、出来上がった体制は惰性で続いていく。

 勇者達の力でバーテックスに対抗できてしまうが為に、体制が改まる事は無い。

 勇者達は英雄として人々の信仰を集め、次代へとバトンを渡して行く。

 百年、二百年、三百年と、勇者達の役目は続いて行く。

 

 ゴールの見えないまま、バトンはどこまでも続いていく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「デウス・エクス・マキナ? 物語を台無しにする仕掛けだよね」

 

 これはどこかで交わされた会話。

 デウス・エクス・マキナ。

 それは物語を強引に終わらせるべく舞台に現れる、神を模した仕掛けだ。

 しかし、それも使い所を間違えなければ良い物だと、女は思っていた。

 

「貴女はそういう強引な結末がお嫌いでしたね」

「そうそう、ようやくわかって来たじゃん」

 

 とある女と、とある褐色肌の少女。

 二人の関係は何だかんだと長かった。

 しかし、年月を経るうちに、二人も変化を強いられる。

 この頃、とりわけ女は己の衰えを感じるようになっていた。

 巫女としての力が弱まり、女は少女にそれを差し出したのだ。

 

「・・・・・・どういうつもり?」

 

 差し出された側は、女の意図を確認するように尋ねた。

 

「勇者達の力が足りなくなった時の為の、保険です」

「なるほどなるほど、えげつないねー」

 

 なんてことはない風に言い放つ女に、少女は楽しそうに笑った。

 スマホに表示されている、勇者システムの新機能。

 その名称を、少女は読み上げる。

 

「"満開"と"散華"ね・・・・・・」

 

 女もそれが人道に反した、忌まわしい機能である認識は持っていた。

 それが勇者システムに実装されれば悲劇を呼ぶ事も、十分に理解していた。

 しかし、女は思ったのだ。

 それでも、それは人類にとって必要な物になると。

 

「ま、ボクはボクの好きなようにやるから、期待通りにはたぶんならないよ?」

「えぇ、何もかも思い通りなどとは期待しません。貴女にお任せします」

 

 少女のそっけない対応にも、女は不敵に笑った。

 少女も笑い、スマホを大切に胸元へ仕舞い込む。

 

「もうボクの事が見えなくなるみたいだから、言っておくね」

「はい、どうぞ」

「お前のこと、大っ嫌いだったよ」

「そうですか。私は若葉ちゃん一筋なので痛くも痒くも」

「知ってるよ、奇跡の無駄遣い、職権乱用女」

 

 少女の悪態にも、女は笑った。

 

「お前が幸せそうなのは気に食わないけど、コレに免じて許してやるよ」

「ありがとうございます」

 

 そして、少女はスマホを指差して、そう言った。

 女は自分のズルい部分を少しだけ恥じつつ、少女の答えに安堵した。

 わざわざスマホを用意した甲斐があったという物だ。

 女は膨らんだお腹を撫でつつ、自身の幸福を噛みしめるのだった。

 

 

 

 

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