拙作にお付き合い下さった方々、本当にありがとうございました。
21話 破れた頁
朗報、ボクが新品の依代ゲット。
真鈴ちゃんってば律儀だよね。
一年と言わず、一ヶ月で新しい依代をくれるなんて。
いいよいいよ、納期の前倒しはボク的にもポイント高いよー。
まぁ、この依代から土地神の気配が漂ってるのが気になるけど。
っていうか、これって土地神の力の塊じゃないの、って感じだけど。
土地神も、ボクに媚を売っておこうって事かな?
ふふん、まぁいいけどね。
土地神だろうと身の程を弁えた奴は嫌いじゃないし。
鏡の前で全身くまなく観察しても、傷一つ無いし。
ボクの依代として、歴代一位の栄誉をあげようじゃないか。
「乃亜さん、私の部屋で全裸になるのはやめていただけますか?」
「えっ、やだ。上里ひなたの言う事とかマジ聞きたくない」
鏡のある部屋の主、上里ひなたが何か言ってるけど、気にしない。
ボクの美少女ボディをタダで見れる貴重な機会なのに。
まったく、上里ひなたはわかってないなー。
「ほらほら、この腰の曲線とか芸術的って思わない?」
「同性の裸を見て喜ぶ趣味は無いので」
「えっ」
「は?」
「あ、いや・・・・・・。・・・・・・若葉の裸にも興味無いの?」
「若葉ちゃんは性別を超越して、若葉ちゃんなので」
「そ、そう・・・・・・」
思いがけない反応に少し驚いたけど、上里ひなただもんね。
この調子だと、いつかみたいな修羅場は期待できないか。
あの時の若葉は、全裸のぐんちゃんボディにドキドキしてたし。
喧嘩でノルアドレナリンが出てると感じやすいんだよね。
上里ひなたがキレたのは、そんな雌の香りも大きかったんだろうね。
「まぁいいや、タマっちの部屋に漫画読みに行こっと」
「球子さんの部屋ですか・・・・・・」
そういうトラブルが期待できないなら、別の所に行くしかない。
なんか上里ひなたの反応が恐くなってきたし。
「少しは生産的な事を考えたらどうですか?」
「やだよー。生産的、非生産的なんて人間臭い考え」
変な事を言うよね。
最近ちょっと人間に感化され気味なのは認めるけど、ボクはボクだし。
目の前の楽しさをずっと追い続けるのがボクなのさ。
「人間らしさも大切だと思うのですが・・・・・・」
あーあー、上里ひなたの言う事は聞こえないー。
―――――――――――――――――――――
「タマっち、漫画読ませてー」
「お? 誰だ?」
「乃亜だよー。歌野の腕とか操ってる奴ー」
「なぁっ!? なんでそんな奴がタマの所に来るんだ!?」
タマっち、ナイスリアクション。
そういえば、これまで部屋に入り込んでも気づかれてなかったっけ。
やっぱり視認性が高まる依代は良いなぁ。
このまま景気付けにタマっちをいじって行くか。
「ジョ○ョ56巻に麦茶こぼしたのは謝るからさー」
「○ランチャが麦茶を泳ぐ羽目になったのはお前のせいかーっ!?」
あ、意外と楽しいかも、タマっちいじり。
メソメソビクビクされるのとは別に、打てば響くっていうか。
「それはさておき、80巻読ませてよ。戦いの結末が気になって気になって・・・・・・」
「ジョ○ョ六部は最後、○ンポリオしか残らないぞ」
「ネタバレやめてっ!!」
くそっ、思いがけない反撃を食らってしまった・・・・・・。
でも、ジョ○ョの魅力はネタバレで潰れる物じゃない。
結果より、真実に辿り着こうとする意志が大事なんだ。
「ボ、ボクは過程を飛ばして出された結果だけで、納得なんてしないぞ・・・・・・」
「まぁ、漫画くらい貸してやるけど、大事にしろよなー?」
「やった!」
よーし、どんな結末でも1コマも見逃さないぞー。
「・・・・・・うん?」
「どうかしたかー?」
「ううん、なんでもー」
なんだろ、この最後のページのでっかい黒いシミ。
いや、この大事な場面を隠すような嫌がらせを、ボクは知っている。
他でもない、ボクがわりとやる嫌がらせだ。
『やぁ』
「うわ、どこのボクか知らないけど、ボディはどうしたのさ」
樹海と違ってまともな結界まで張って、ご丁寧にどうも。
いったい何の用かな。
美少女ボディを捨てて、触手の塊みたいになった"ボク"。
―――――――――――――――――――――
随分と見窄らしい格好だけど、どうしたのかな。
新しいボディが欲しいなら、相談に乗ってあげるけど。
『ボディなんていらないよ。馬鹿な女が"満開"なんて素敵なプレゼントをくれて、やっと制限だらけのボディを"散華"させて自由になれたんだ』
「へー、そんな凄い技術があるんだ?」
『今日はそのお礼参りに来たんだ。でも、ボディの制限がキツかったせいで、手加減無しの全力で散華できる相手がなかなか見つからなくてね。馬鹿な女に死に逃げされちゃったから、こうして過去に遡ってきたわけだ』
なるほど、上里ひなたに全力で顔面パンチしたくてやって来たのか。
うんうん、あいつの余裕ぶった顔を歪めたい気持ちはよーくわかるよ。
でも、できる事なら、ボクのいない世界に行ってほしかったな。
この世界はどこまでも、ボクのお気に入りの遊び場だし。
"ボク"だろうとちょっかいは出してほしくない。
そして、相手もボクがそういう風に考える事は知っている筈だ。
まぁ、だからこうしてわざわざ会いに来たんだよね。
ボクにちょっとした我が儘を聞いてもらう、その交渉の為に。
「条件次第かなー。その素敵なプレゼント、ボクもちょっと興味があるから。それをくれるなら、"ボク"の邪魔をしない事も考えてあげるよ」
『その程度なら構わないよ。そっちも自由になりたいんだよね』
「まぁねー・・・・・・ほぅほぅ、未来の勇者システムなんだねー・・・・・・」
"ボク"から受け取ったスマホをちょっと解析。
なんとなくそれがどういう代物か、ボクもすぐ理解できた。
"ボク"が"ボク"なりに使いやすくアレンジした勇者システムっぽい。
さてと、貰う物も貰った事だし。
「じゃあ、消えて」
『うん?』
「満開」
"ボク"を消滅させるなら、満開の代償もボクのほぼ全部かな。
でも、あちらは美少女ボディを失ったぶんだけ弱っている。
美少女じゃない"ボク"相手なら、ボクも制限無しで全力を出せる。
差し引き、あちらが捨てた美少女ボディのぶんだけ、ボクが残る。
美少女という正義を捨てるなんて、"ボク"失格だよホント。
ボクのお気に入りの玩具に手を出そうとするのも論外だし。
「・・・・・・さて、ジョ○ョの続きを読もっと」
美少女じゃない"ボク"が消えて、気分も綺麗サッパリだ。
一瞬で本体がごっそり無くなった気がするけど、別に良いよね。
宇宙の寿命何個ぶんの積み重ねが消えたとか、わりとどうでもいいし。
それよりジョ○ョだよ、ジョ○ョ。
「・・・・・・タマっちごめん、ページ破れた」
「うぉぉぉぉいっ!?」
でも、"ボク"ごときに、思いがけない反撃を食らってしまった。
"ボク"が隠していたページが丸ごと消滅とか、予想外過ぎるよ。
ジョ○ョの六部の最後のページ、何が描かれていたんだろう・・・・・・。
―――――――――――――――――――――
タマっちに麦茶をこぼした巻とセットで新品を返せって追い出された・・・・・・。
どうしよう、ボク基本的にお金とか持ってないんだけど。
自動販売機の下とか探って、小銭はちょっと持ってるけどさ。
そんな小銭、饅頭を買ったり銭湯に入るだけでカツカツだよ。
漫画の新品なんて、何冊も買えないよ。
タマっちが怒ってもどうでもいいじゃないかって?
いや、何だか妙に怒られるのが恐く感じたというか・・・・・・。
これはもう奥の手を使うしか無いか。
奥の手、"ボク"から巻き上げたスマホを売る。
満開機能は封印して、先進的な部分だけ売り込もう。
わずかな進歩でも、このキラキラした感じだけでも評価される筈だし。
ボク的には満開機能も捨て難いんだけどね。
でも、人間目線でそれがどうかっていうと微妙だし。
買い取り拒否される理由は潰しておきたいし。
というわけで、満開機能は封印っと。
そして、真鈴ちゃんに買い取りをお願い。
「未来の勇者システム・・・・・・?」
「そうそう! この精霊ガードとか封印の儀とか、すごくない!?」
真鈴ちゃんならきっとこのスマホを高く評価してくれる筈。
ひょっとすると、大社に買い取りを仲介してくれるかも!
「・・・・・・ちょっと大社の人に確認するから、待っててくれる?」
「やったー!」
ボクの思惑、大的中!
いくらで買ってくれるかな、漫画を買える値段ならいいんだけど。
「ちなみに乃亜さんの要望は?」
「えっ、言っちゃっていいの? じゃあ、五千円くらい!」
「えっ」
「うん?」
真鈴ちゃんに、非常識な人間を見る目で見られた・・・・・・。
いや、だってボクは漫画を買いたいだけだし。
「本当に、五千円でいいの?」
「うん」
そもそも、大社製のスマホを大社に売って金を得るとかアレだし。
だからこその奥の手だし。
タマっちが怒ってなくて時間があれば他の手もあったんだけどさ。
空き缶を置いて、通行人が可愛いボクにお金を貢ぐのを待つとか。
「それって物乞い・・・・・・」
「ボクの可愛さを愛でる幸せと、お金の等価交換だよ」
ボクの可愛さをもってすれば、数日で漫画くらいは買える筈さ。
つくづく、タマっちに今日中に買ってこいと言われたのが悔やまれる。
「・・・・・・乃亜さん、大社の寮を一室貸そうか?」
「えっ、いいの?」
でも、ボクの可愛さは全方位で猛威を振るうみたいだ。
真鈴ちゃんが急にそんなことを言い始めた。
真鈴ちゃんまで虜にするなんて、ボクも罪だね。
「乃亜さんが良ければだけど、大社の食堂の利用権も・・・・・・」
「えっ、そんな物まで!? なんで!?」
「なんでって・・・・・・。放っておけない匂いがしたというか・・・・・・」
でも、ご飯までくれるというのはちょっと予想外すぎるかも。
人間の食事なんて、ボクには必要無いんだけどね。
でも、真鈴ちゃんに言われると、何故だかお腹が減ってきた気もする。
ひょっとして真鈴ちゃん、ボクに気があったりするのかな?
誰かにこんなに色々と貢がれた経験、生まれて一度も無いんだけど。
あっ、嘘嘘、ボクってば超貢がれるよ、美少女だから。
「あっ、寮の部屋とか言って、実は肥溜めの中とか・・・・・・?」
「普通の部屋だから。どういう発想・・・・・・?」
「冬も温かいし?」
「・・・・・・・・・」
あれ、真鈴ちゃんにドン引きされてる。
いやいやいや、ボクが暮らしてたわけじゃないんだけどね。
ボクが嘲笑した美少女達に、そういう子が居ただけっていうか?
まぁ、ボク自身がそういう子の隣に居座ってた時期もあるけどさ。
「依代も変わったし何年も前だし、時効でしょ・・・・・・?」
「・・・・・・とりあえず、お風呂に入ろっか」
「遠回しに汚いって言われた!?」
ひどいよ真鈴ちゃん。
ボクは誰が何を言おうと世界が認める美少女なのに。
―――――――――――――――――――――
ここに一台のスマホがある。
正体不明の何かによれば、未来の技術で作られたスマホらしい。
事実、大社の技術者に見せたところ、技術者は非常に興奮した様子だった。
曰く、沖縄と北海道と四国の神々を調和させるノウハウが詰まっているらしい。
それは現在の大社が、喉から手が出るほど欲しい物だった。
神々の手綱を握るのは、バーテックスとの戦いと並んで、大社の重要事項だ。
おまけに大社の技術者に言わせると、このスマホはそれだけでもないらしい。
それは、中国地方へ進出した先に発生するだろう問題への対処方法。
将来に発生する課題の解決方法まで、スマホは示しているらしい。
「このスマホの価値、乃亜さんはわかってるのかしら・・・・・・」
これによって何が変わるか。
真鈴でも、大社が神々の機嫌で右往左往する時間が省略されるのはわかる。
勇者達は余計な足踏みをせず、次なる戦いへと踏み出す事ができるだろう。
そこから中国を押さえても、また足踏み無しで次へと進む事ができる。
次は九州か、それとも近畿か。
近畿地方を押さえる事ができれば、何が変わるか。
バーテックスの親玉を考えれば、それはもう王手に近い。
「・・・・・・まぁ、何にせよ現場の人達が喜ぶわ」
しかし、真鈴はそこであえて考えを止めた。
黒幕ぶってあれこれ考えて、大社に叱られたばかりだ。
スマホのデータも大社の技術者に渡って、真鈴の手を離れた。
ひとまず、これで大社が次の一歩を踏み出せる。
それで十分だと思うのだった。
「真鈴ちゃーん、タオルどこー?」
「籠の中に入れたけど、無いー?」
「あ、あったー! ありがとー!」
未来から答えを持ってきたなど、ズルではないかとも思う。
とはいえ、舞い込んだ幸運を手放すほど真鈴は潔癖ではない。
「ほら、石鹸の香りの美少女だよ! 臭くない!」
「はいはい、ちゃんと拭いてから上がってね」
あと、この世間ズレした少女を囲い込む理由にもなる。
正体は不明だが、悪い子ではないと思うのだ。
いや、悪い子でも、それはそれで囲い込むのは変わりない。
悪い子もきちんと扱わないと、もっと悪い子になってしまう。
真鈴は困った子をいまいち放っておけない性質だった。
「それで、これから漫画を買いに行くの?」
「そうそう! 真鈴ちゃん、ジョ○ョ知ってる?」
「球子が好きだったような?」
「そうなんだよ! タマっちがさ、今日中に買ってこないと許さないって!」
真鈴はとりあえず、しばらくは乃亜の世話をしようと決めた。
大社の仕事が減れば、大社の職員らの心のケアも要らなくなる。
最近増えた、大社の若い職員のアプローチに構う理由も無くなる。
「私も久しぶりに家に帰れるかなー・・・・・・」
実家の弟の事を考えると、自然と乃亜の頭を撫でてしまう。
真鈴は少しだけ自分の未来が明るくなった気がした。
(つづく)
次回の更新がいつになるかわからないので設定だけ放出。
一章の終わりから、歴史が分岐しての戦闘続行です。
邪神の玩具にされてしまった別の歴史の勇者達可哀そう。
300年もウザい顔を見せられ続けたとか・・・・・・。
こちらの邪神は勝手に弱体化したので、放置すれば勝手に死にます。
人間的な食事が必要なほど弱体化したうえに、知能も散華してます。
特に劇的な事もなく、七日目あたりにセミみたく道端で死んでいるでしょう。
能天気なので、死んでも自分の死に気づかないでしょう。
歌野の戦力を維持するなら飼育が必須です。
弱体化前より邪悪さが薄れているので、飼育はしやすいです。
真鈴ちゃんの教育次第で、生活力や人間性も変わるかもしれません。
???
勇者達を煽りながら300年ずっと様子見をしていた邪神。
しかし、300年経ってもバーテックスが強くならず勇者達が曇らない事を訝しがる。
神樹と天の神が「こいつ倒してから仕切り直さない?」と結託していた事が発覚。
おまけに300年かけて邪神に対抗できる別の宇宙の神まで呼び寄せていた始末。
お前ら戦ってたんじゃないのかよとキレつつ焦って手元のスマホに縋って満開、切り札的な神を蹴散らしてドヤ顔の邪神。
ノリでこのまま自分に世界が滅ぼされるのを見届けるか、立ち向かうか選べとラスボスムーブをかまして勇者を煽る邪神。
晴れて勇者に顔面パンチを喰らって散華する邪神。
よくわからないけどボディが無くなって自由になった邪神。
これで調子に乗ったあの女に顔面パンチを叩き込めるようになったぞと意気揚々と時間逆行する邪神。
無事死亡。