勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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三話 北の暗躍

 ストレスが溜まった時はやっぱり旅行だよね。

 思い通りにならない連中の顔を見ないで済むし、気分が清々する。

 みーちゃんは、巫女を相手にお姉さんキャラ始めちゃったし。

 上里ひなたは、ぜんぜん顔面ストレートを食らってくれないし。

 それに比べて、北海道はいい。

 

 生存者がいると思わなかったけど、厳しい環境に見合ったギスりっぷりだ。

 

 食糧不足だから口減らしをしようとか平気で言い出す奴がいる。

 そんな話題に、バーテックスくん達と戦っている美少女が表情を曇らせる。

 いやぁ、久しぶりの良い曇りっぷりに心が洗われるよ。

 秋原雪花、せっちゃん、ホント可愛い。

 リアリスト気取りの癖に、困った人を放っておけない良い子ちゃん。

 

 自己保身で避難壕に溜め込んでいた保存食も困ってる皆にぜんぶあげちゃうし。

 

 あーあー、今は良くても、この先どうするのかなー。

 このままじゃ、全員共倒れが良いところじゃないかなー。

 リアリスト気取りのせっちゃんは、将来の不安も分かるよね。

 うんうん、だからお礼を言われても、そんな曇った笑顔なんだよね。

 

 そうだよ、やっぱりこういう曇りが無いと、人生ハリがないよ。

 

 美少女は八割が曇りぐらいで丁度良いんだ。

 ちょっと笑顔になったところで、すぐ曇るのがベストバランス。

 逆に、曇りっぱなしなのも面白くないけどね。

 マンネリっていうかさ。薬味がほしくなるっていうか。

 せっちゃんに添える薬味は何がいいかな。

 あんまり大きな希望を与えたら台無しだけど、何にしようかなー。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 秋原雪花は現状に行き詰まりを感じていた。

 雪花が旭川のカムイコタンで、バーテックスと戦う勇者だ。

 雪花が勇者になって、かれこれ三年が経過した。

 三年も決して平坦な月日ではなかったが、最近の厳しさは一段違う。

 カムイコタン周辺を徘徊するバーテックスの数が一日毎に右肩上がりで、そのせいで物資調達の遠征を担当している住民達から、物資の節約をしなくては遠征隊が全滅してしまうと悲鳴が上がるようになったのだ。

 雪花の体は一つで、カムイコタンを守りながら遠征隊の守りにつく事はできない。それどころか、最近ではカムイコタンを襲撃するバーテックスから皆を守る事にさえ、雪花は手を焼いている始末だ。

 カムイコタン滅亡の秒読みを、雪花は肌身に感じていた。

 

「あー、もう、これなら避難壕にさっさと引きこもれば良かった・・・・・・」

《雪花は優しいから、どうせそんな事はできなかったでしょ?》

「私は優しくないし、自分が第一だから引きこもれるし!」

《えー、絶対嘘だぁ》

 

 カムイの精霊に愚痴を吐きながら戦い続ける、雪花自身の精神と体力も限界だった。

 雪花はとにかく現状を打破する手段を頭からひねり出そうと唸った。

 

「やっぱり守るだけじゃ勝てないし、打って出るか・・・・・・」

《ゲリラ戦は時間稼ぎには最高だから、悪くないかもね》

「結局は時間稼ぎ・・・・・・だけど、何もしないよりはマシで・・・・・・」

 

 カムイの精霊によれば、カムイコタン周辺に集結しているバーテックスの数は現時点で三千体を数えて、尚も増加中、このままのペースで増え続ければ来週には五千の軍勢にまで膨れ上がる見込みらしい。

 

「少しでも数を減らせば、カムイコタンが滅ぼされても逃げ切れる住民がいるかもしれないし、できる範囲でやってやりますか・・・・・・」

 

 かくして、雪花は寝食を惜しんで、カムイコタン周辺を徘徊するバーテックスへのゲリラ攻撃を開始した。

 百でも二百でも、誰かがすり抜ける隙間を作れば希望が繋がると信じて、多勢に対して戦いを挑むのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 いやー、せっちゃん頑張るねー。

 

 百匹減らしたところで二百匹が増員して来るのに、ちまちま健気だよ。

 結局、バーテックスくん達は五千程度の軍勢による包囲殲滅を狙ってるんだよね。

 バーテックスくん達の側には、何も焦る理由は無いから、じっくり焦らずだ。

 一週間そこら時間を稼がれても、確実に人間を皆殺しにできる体制を整えると。

 なるほどなるほど、とっても冷静だね、バーテックスくん。

 じゃあ、四千を超えたら、半分は神隠しに遭ってもらうね。

 

 え、いやだって、せっちゃん一人相手なら二千でも十分でしょ?

 

 もちろん、バーテックスくん達にはこのラインは内緒だよ。

 いやー、いつまで経っても軍勢が集まらなかったらどうするのかなー。

 今いるだけで十分だって、見切り襲撃するのかなー。

 それともバカ正直に五千の軍勢を集めようとして、ボクのゴミ箱に延々と飛び込んでいくのかなー。

 ほらほら、賢い賢いバーテックスくん達の知能が試される時だよ。

 生物の頂点なら、ボクの存在に気づいて対策を練るくらい簡単でしょ。

 

 ほらほら、天の神様の為に頑張れー。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 雪花のゲリラ活動開始から、僅か一週間。

 バーテックスらの活動は奇妙な程に沈静化していた。

 ゲリラ活動に刺激されたバーテックスの報復攻撃があると覚悟していた雪花にとっては拍子抜けだが、カムイの精霊によれば、カムイコタン周辺のバーテックス達はどういうわけか背後を気にして、集結と離散を繰り返す統一感の無い動きをしながら、数を減らしているらしい。

 せいぜい数百匹がカムイコタンを遠巻きに眺めて、数匹が近づいて来たかと思えば何かに怯えるように逃げていく、その行動の意図は読めないが、雪花の時間稼ぎは大成功していると言えた。

 

「よくわからないけど、一心地つける感じ?」

《そうだね、今日なんてカムイコタン周辺にバーテックスの影がぜんぜん無いから、食料調達の遠征にもまた出られるんじゃないかな》

「え、嘘、そんなに・・・・・・?」

 

 何があったのかはわからないが、その話が本当ならチャンスだった。

 雪花は急ぎ遠征計画を立てなくてはいけないと、走り出した。

 

「とりあえず及川さんのケツを蹴飛ばして、皆を集めさせないと!」

 

 ちなみに及川さんはカムイコタンを仕切る偉い人である。

 食糧不足なら口減らしをしようと言い出したり、雪花を養子にして自分だけしっかり守ってもらおうと企んだり、バーテックスの襲撃に混乱してカムイコタンはもうダメだと叫びながら町の外へ飛び出して死にかける残念な人だが、とりあえず形だけは偉い人だ。カムイコタンの住人も、いざというときに責任を取らせる為だけに担ぎ上げているフシがあり、それが自己保身の塊のような及川さんを加速させるから始末に負えない。

 だが、とりあえずは偉い人なのだ。

 

「おぉ、勇者様、今日はどのようなご用件で?」

 

 良い年して雪花にすり寄ってくる及川さんに内心で溜息を吐きつつ、雪花は食料調達の遠征について話を切り出すのであった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 ねーねー、バーテックスくん達さぁ、一言良い?

 

 キミらって、バカでしょ。

 二千の仲間が神隠しに遭って、対策を練るのはわかるよ。

 でもさ、それでどうして、一万の増員っていう結論になるのかな。

 当然、全部神隠しだけど、キミらそれでも数を増やし続けたよね。

 合計で、どれだけの仲間が神隠しに遭ったか覚えてるかな。

 

 二十万八千と一匹だよ。

 

 一万二万と数を増やして、四万から十万へのジャンプは意表を突かれたよ。

 でも、そういう問題じゃないんだよ。

 数千の軍勢を合体させて、一体の大型バーテックスくんになった時は感心もしたよ。

 それを一匹扱いしてあげるのもアリかなって、少しだけ思ったよ。

 でもさ、大型バーテックスくんの取り巻きに六千とか普通に連れてくるあたり、キミら本当にわかってないんだなって。

 ボクの考えを理解したわけじゃなくて、合体して強くなれば消されないに違いない、悔しかったらこの大型バーテックスを倒してみろって言われてる気がしてさ。

 

 全部まとめてボッシュートしちゃったけど、ボクは悪くないよ。

 

 キミらが少数精鋭って発想に辿り着かないのが悪いんだよ。

 それなのに、キミらどうして、十万の軍勢でも大型バーテックスでも落とせないカムイコタンは後回しにしちゃえって雰囲気を醸し出しているのさ。

 違うよね、そこは二千の少数精鋭ってほどじゃない中くらいの軍勢で、カムイコタンを襲撃してせっちゃんを良い塩梅に曇らせる展開だよね。

 

 ため息が出ちゃうよ、キミ達の救えないバカさ加減には。

 

 こんなにボクとバーテックスくん達の間で意識の違いがあるなんて思わなかったよ。

 キミらがそのザマだと、可愛いせっちゃんの表情が曇らないじゃないか。

 ボクはバーテックスくん達の言葉なんて知らないんだから、空気読んでよ。

 ホント、バーテックスくん達ってば使えないよね。

 もう台無し、せっちゃんがぜんぜん曇らない。

 

 つまんない、つーまーんーなーいー。

 

 

 

(つづく)

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