勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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四話 擬態

 旅行から帰ってきた家って、少し違和感があるよね。

 見慣れた光景の筈なのに、どういうわけか馴染まない感じ。

 どこかが変わっているわけじゃないけれど、違和感。

 ボクのお気に入りの巫女があんまり曇っていない気がする違和感。

 

(みーちゃん、みーちゃん、あの子って前からあんな風に笑った?)

「・・・・・・・・・」

(無視するなよー! また歌野の腕で暴れるぞコノヤロウ!)

「この前、里帰りしたみたいだよ」

(大社の癖に、里帰りとか認めるなよーっ!)

 

 あー、くそっ、気のせいじゃなかったのか。

 最近のバーテックスくん達、ちょっと怠けすぎじゃないのー?

 切羽詰まらないと、大社の畜生ぶりが発揮されないじゃないか。

 うー、ボクがあちこちで八つ当たりでバーテックスくん達をボッシュートしたせいかな。

 このままだと大社が平和な宗教団体に成り下がっちゃうじゃないか。

 ヤバイ、想像したらそれだけで気分が萎えてきた。

 いや、落ち着けボク、ここは大社の可能性を信じるべきだ。

 大社は何も無くても美少女を曇らせる畜生パワーを秘めていると。

 期待しているぞ大社、頑張れ大社。

 この世界の美少女の曇り顔は、大社の頑張りに懸かっているんだ。

 

「そういえば、最近あんまり暴れなかったけど・・・・・・」

(ふふん、ボクは世界中の美少女の曇り顔を愛でるのに忙しいからね! 最近はちょっと北海道まで出かけて、せっちゃんの曇り顔を楽しんでいたのさ!)

「せっちゃん・・・・・・? 北海道に誰かいるの・・・・・・?」

(キミ達と同じく土地神に匿われている連中さ。せっちゃんはどうしようもない連中を表情を曇らせながら守っている可哀想で可愛い子でね、いやー、ちょっと前まではホントに良い感じに曇っていて――)

 

 うんうん、せっちゃんの曇り顔を思い出したら、元気も出てきた。

 今後も、ああいう曇り顔の美少女に出会う機会はいくらでもあるんだ。

 ポジティブシンキングで行こう、ボク。

 よし、上里ひなたにも久しぶりの顔面パンチ行ってみよう。

 

 また避けられた。久しぶりで不意打ちの筈なのに・・・・・・。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 上里ひなたは、素人臭いテレフォンパンチをダッキングで回避した。

 歌野の腕は、制御を奪ってから暴れるまで数秒の溜めを作る癖がある。

 歌野と連携すれば、必ず顔面を狙ってくる拳の回避は容易かった。

 

「おや、久しぶりですね」

「ホントね、二週間ぶりかしら?」

 

 もう、拳を避けながら和やかに会話出来るくらいには慣れた物である。

 最近のひなたは、格闘経験のある友奈から助言も受けていた。

 今日も貴重な休日ながら、ひなたは自主トレの最中だったのだ。

 なお、歌野の腕はひなたに殴り掛かる事を優先しているフシがある為、ゲーム好きの千景から提案されたヘイト管理の要領で、ひなたと歌野はなるべく近くに居るようになっていた。

 

「お、腕はギブアップみたいよ。上里さん、ナイスファイト」

「お疲れさまです、歌野さん」

 

 とはいえ、その程度であれば悩みというレベルではない。

 ひなたがうっすら汗をかいたところに、歌野がドリンクとタオルを投げてくる。

 この件で問題など、ダッキングの繰り返しでひなたの腹筋が固くなった事ぐらいだ。

 今はうっすらと筋肉の形が透けて見える程度だが、腹筋が割れてしまうのはいただけない。

 

「それにしても、こちらが来たという事は・・・・・・」

 

 水都の方にも、何か来たかもしれない。

 ひなたがそう思った途端、スマホにラインで連絡があった。

 

「あら、あちらが先でしたか・・・・・・ほぅ、北海道に勇者が?」

「なんだか面白そうなニュースね?」

 

 水都からもたらされた情報にひなたは自然笑ってしまった。

 

「どんなつもりかは知りませんが・・・・・・」

 

 神託もどきが何を考えているか知らないが、これは素晴らしい情報だ。

 ひなたはこれに対して何ができるか、思案を巡らせた。

 そして、巫女の派閥内でまず話し合うべく、スマホから情報を流した。

 それから勇者にも相談しなくてはと、リーダーの若葉に電話をかけるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 どうでもいいけど、迷子センターのカオスっぷりって良いよね。

 うんうん、そっか、キミのお姉ちゃんが勝手にいなくなったんだ。

 いや、違うよね、逆だよね。

 キミがお姉ちゃんの隙を突いて、迷子になったんだよ。

 いくら不安で怖いからって、お姉ちゃんを責めちゃダメだよ。

 

 愛媛県よりお越しの安芸様、五歳の男の子がお待ちですよー。

 

 あーあ、だけど予想が外れちゃったな。

 イネスの迷子センターなら女の子の泣き顔を見放題だと思ったのに。

 誰も彼もが子供すぎて、ボクのストライクゾーン外だ。

 おっと、新しい迷子がやって来た。

 

 沖縄県よりお越しの赤嶺様、五歳の女の子がお待ちですよー。

 

 ほらほら、キミも男の子なんだから、女の子を安心させてあげなよ。

 そうそう、その子の絵本を一緒に読んであげたりしてさ。

 やればできるじゃないか、偉い偉い。

 でも、"なつめおねえさま"とか、変わった絵本だな・・・・・・。

 

 えぇっと、ボクは何をしにイネスに来たんだっけ。

 

 そうだ、美少女の曇り顔を探しに来たんだった。

 丸亀城も巫女の寮も、休日でリラックスした美少女ばっかりだし。

 あはは、だけどイネスも完全に空振りだよ、ちくしょう。

 誰も彼も、イネスライフをエンジョイしてるよ。

 晴れ晴れしてるよ、快晴だよ。

 あまりに快晴すぎて迷子センターにトチ狂って逃げ込んだんだよ。

 

 あーもうやだ、誰がこんな世界にした。こんなの絶対おかしいよ。

 

 バーテックスくん達はイモってるし、巫女も勇者も、大社の許可を取って休日は出歩いてるし。

 大社も何さ、このボクが応援してやってるのにさ。

 みーちゃんにちょっと口出しされただけで巫女のクスリ漬けをやめちゃうし。

 諏訪の英雄が何さ。みーちゃん達にはね、ボクが力を貸したんだぞ。

 どいつもこいつも、そんなにボクの楽しみを潰すのが楽しいか。

 いや、ボクもそういうのは大好きだけど、自分がされるのは嫌だし。

 

 ホント、どこかに良い感じに曇ってる美少女いないかなぁ・・・・・・。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 休日の人が多い駅前、郡千景は落ち着かない心地で人を待っていた。

 久しぶりの自由な休日でありながら、千景の表情は緊張している。

 本当にこのまま待つだけで良いのか、迎えに行くべきではないか。

 相手を信じていないわけではないが、心配で気を揉みながら、千景は待っていた。

 

「千景・・・・・・!」

 

 そんな思い悩む千景の耳に、スッと届く声があった。

 千景がこの声を聞いたのは何年ぶりだろうか。

 里帰りで聞いた声は弱々しく、今にも消えてしまいそうだったのに。

 

「お母さん、よかった。迎えに行こうかと思ってた・・・・・・!」

「ごめんなさい、支度に手間取っちゃって・・・・・・」

「ううん、久しぶりの外出なら仕方ないよね」

 

 帽子を深く被っている母親だが、その声には張りがあった。

 

「でも、会えて良かった・・・・・・」

「えぇ、私も千景の元気な顔が見れて、本当に・・・・・・」

 

 千景の家庭は残念な事だが、しばらく不幸な事が続いていた。

 例えば、千景の両親は駆け落ち同然の結婚をして、高知の田舎に流れ着き、千景という子宝に恵まれたのだが、社会慣れしていない母親は千景を幼稚園に通わせるのにお金が足りないからとパート仕事に出たところでイジメに遭い、心が弱っていたところで職場の親切なエリアマネージャに相談に乗ると言われ、つい相談を何度もするうちにエリアマネージャと浮気をしているいう根も葉も無い噂を職場で広められてしまい、その噂が村中に広まるとそれを信じた父親と揉めた末に家を飛び出してしまう事などがあったのだ。おまけに、そこから更に噂が噂を呼んで、千景の家がまるごと村八分の扱いを受ける羽目になるという、田舎あるあるに陥ってしまった始末。

 千景がネット掲示板で「無実の罪で村八分、田舎あるあるだよね」と書き込んでも、「ボク知ってる。高知県の○○村でしょ、畜生の巣窟だよね」というテンプレ回答や、「ねーよ」「相談乗ろうか?」「高知だけだし」「高知への熱い風評被害」と反応が返ってくるだけで、「あるある」とは誰も言ってくれないのだが、きっと日本中の田舎でこのくらいの出来事が起きていると千景は信じていた。

 そうでないと千景は己が惨めで仕方ないのだ。

 閑話休題。

 そんな千景の家だが、千景がバーテックスと戦うようになってから少しだけマシになった。まず、母親が帰って来てくれた。母親はバーテックスに襲われたせいで空を見ると精神が不安定になる"天空恐怖症候群"という病気になってしまい、一人で生活を送る事が難しくなってしまったというのが帰ってきた理由だったが、それでも帰ってきてくれたのは千景にとっては前進だ。

 しかし、家へ帰ってきたばかりの母親は外出すらできない状態で、顔つきも三十代前半とは思えないほどやつれ衰えていた。

 

「お母さん、どこかお店に入る? 外だと辛いでしょ?」

「大丈夫よ。それより、千景が生活している寮を見てみたいわ」

「あ、それじゃあ大社に連絡を入れるね。一般の立ち入りがダメなところが多いから、ちゃんとした案内が無いと・・・・・・」

 

 そんな母親が、帽子を被りながらでも外出できるようになった。

 現状を噛みしめるうち、我が家にもついに平和がやって来るのではと、千景は淡い期待を抱いてしまうのだった。

 いや、実際のところ千景がバーテックスと戦っている影響か、はたまた大社による取りなしがあったのか、父親が職場で受けていた嫌がらせも沈静化に向かったらしい。家へ帰ってきたらもう何もしたくないと余裕が無かった父親も家事に協力してくれるようになる等、母親が別居を始める前よりも客観的に見て、千景の家庭環境は右肩上がりと言えた。

 

「千景は凄いわね・・・・・・。まるで立派な社会人みたい・・・・・・」

「そんな事無いと思うけど・・・・・・」

 

 ちなみに母親は別居中、安アパートに転がり込み、千景の進学費用をパート仕事の掛け持ちでせっせと蓄えていたそうだが、天空恐怖症候群の治療で大半を溶かしてしまったそうだ。

 

「ダメなお母さんでごめんね・・・・・・」

「大丈夫、大社の寮にいれば生活費はかからないし、高校課程までの授業料もタダだから・・・・・・」

 

 その日、千景は大社職員による案内を受けつつ、普段過ごしている寮の部屋や、友達と一緒に過ごす丸亀城天守を改造した教室を母親に見せて回るのだった。ゲームが山積みになった千景の部屋に母親が苦言を呈したりもしたが、壁に飾られていた千景と友達らが並んで写っている集合写真を母親も欲しがり、イネスのカメラ屋で焼き増しをお願いする等、和やかな雰囲気に包まれながら千景の休日は過ぎて行く。

 その筈だった――

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 おー、イネスなんて笑顔しか無いと思ったけど、面白い物を発見。

 ぐんちゃんだ、ぐんちゃん。

 しかも、隣の人って、ぐんちゃんのお母さんっぽいよね。

 そういえば、ぐんちゃんの家庭環境ってよく知らないな。

 ぶっちゃけ、誰の家庭環境もよく知らないんだけど。

 母娘でお出かけなんて、最近流行りの友達親子って奴かな。

 

 うんうん、いいね、仲良し親子。滅茶苦茶にしたくなってきた。

 

 イネス駐車場のトラックに丁度良い物があるし、これを使おう。

 さてと、どんな事をして二人をギスギスさせてやるかな。

 ぐんちゃんとお母さんが離れた隙を見計らって、いざ突撃だ。

 

「お母さん、おまたせ」

「あら、もうゲームコーナーはいいの?」

「ちょっとお母さんに言い忘れた事があって」

 

 よしよし、バレていないぞ。

 おあつらえ向きに、ぐんちゃんのブロンズ像を載せたトラックがいたのはラッキーだった。

 ボクの依代としてなかなか悪くないクオリティだ。

 このまま、ぐんちゃんとお母さんの関係をぐちゃぐちゃにしてやる。

 

「お母さんは、私をバーテックスと戦わせて、悪いと思った事ある?」

「えっ・・・・・・」

 

 必殺、言いがかりアタック。

 とりあえずそれっぽい言葉を並べ立てて、難癖をつけていくよ。

 

「諏訪の大人達はさ、諏訪の結界が崩壊した時、自分達が囮になってバーテックスを引き付けて、子供達を守り抜いたんだって。北海道でもバーテックスが蔓延る土地から物資を調達してくる大人達がいるっていうけど、四国の大人は何をしているの? 私達みたいな、バーテックスと戦える子供に全部の責任を丸投げして、安全なところで暢気に生活しているだけ? そんな生き方、情けないと思わないの?」

「千景・・・・・・」

 

 四国の住民が、結界の外に出る必要が無いのは百も承知だよ。

 元自衛隊は四国外で警戒任務もやってるみたいだけど、どうせ大した意味も無いだろうし。

 諏訪みたいな、覚悟ガン決まりの連中がそうそう居るわけが無いよねって。

 そもそも一般人はバーテックスと戦う力なんて無いわけだしさ。

 ボクの難癖を真面目に考えて、罪悪感に苦しめられるといいさ。

 

「四国の大人はどうせ、私達がバーテックスとの戦いで死んだとしても、無能な勇者が役にも立たず死んだって、罵るだけなんでしょ? 私達がどんな気持ちで、ありふれた中学生活を諦めて、バーテックスとの殺し合いに身を投じているかなんて想像すらしないで、野球観戦の気分で好き勝手言うだけなんでしょ? バーテックスと戦えなくても必死にそれに立ち向かった、諏訪の大人の垢の爪でも煎じて飲んだらどうなの? ホント、同じ人間なのか疑うくらい情けないわ」

「・・・・・・・・・」

 

 被害妄想じみた言葉でも、とりあえず悪意は伝わったかな。

 四国の大人がどんな感じかは知らないけど、どうでもいいよね。

 ボクはぐんちゃんとお母さんの関係に亀裂を入れたいだけだからさ。

 

「なんとか言ってよ、お母さん」

「私は・・・・・・」

 

 よーし、ここで何を言ってきてもとりあえずキレる感じで――

 

「何をしているの?」

「えっ、千景・・・・・・?」

「あ、やばっ」

 

 ――と思っていたのに、良い所で邪魔が入るなぁ、もう。

 ぐんちゃん、ちょっと早すぎるよ。

 もっとのんびりゲームコーナーで遊んでいなよ。

 ぐんちゃんって、そんなにゲームよりお母さんが好きな子だったの?

 

「お母さんに変なことを言わないでくれるかしら」

「そう言われて、素直に引き下がるボクじゃないよ」

「何者? 何が目的?」

 

 まぁ、このタイミングで邪魔をされたらもうこれは失敗だね。

 適当にぐんちゃんに不安を植え付けて去るとしよう。

 

「さぁ、誰だろうね。目的は当然、嫌がらせだよ嫌がらせ。ボクはキミ達が落ち込んだり悲しんだりするのが何よりの楽しみだからね」

「あぁ・・・・・・。貴女、白鳥さん達のところのアレなのね・・・・・・」

 

 うわ、バレた。っていうか、アレ扱いなんてひどいなぁ。

 ボクってば、それなりに力のある褐色美少女なのに。

 

「まぁ、戻ってきたならいいや。ぐんちゃんはせいぜいお母さんを守ってあげると良いよ。ボクはこのまま別の誰かを煽りに行けば良いからね」

「なっ、待ちなさい!」

 

 待てと言われて待つボクじゃないんだよねぇ。

 そうだな、歌野が四国に合流してから、勇者達のリーダー的立場に不安を持つようになった、乃木若葉にリーダー失格と言いに行ってやろう。

 実際、あの子ってリーダー適性あんまり無いっていうか、ちょっとした事で熱くなって大局が見えなくなる猪武者タイプだからなぁ。

 いやぁ、千景の顔をした奴に「リーダーの才能が無いのよ」って言われた若葉の顔がどんな風に曇るのか楽しみだ。

 そうだ、もっと演技のクオリティを上げるのに、大社のサーバも覗いて行こう。

 

 ふふふ、楽しくなってきたぞー。

 

 

 

(つづく)




改変箇所:ぐんちゃんの荒みっぷりがマイルド
原因:ネット掲示板の相談力
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