勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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六話 北への船出

 香川県の坂出市には、四国の外へと通じる回廊が存在する。

 瀬戸大橋の近辺に、四国を守る結界の隙間があるのだ。

 それはバーテックスにとっては四国へ攻め入る間隙であり、人類にとっては四国外へ兵力を送り出すのに使える、一つきりの城門だ。

 

 大社は早期から四国を巡った人類対バーテックスの戦いは、坂出市の回廊を奪い合う物になると想定していた。

 瀬戸内海の交通を監視する為に設置された歴史的な経緯を持つ丸亀城で勇者達が生活を送っているのも、そうした大社の狙いからすれば当然の備えの一つだった。

 だが、三年間、そんな大社の想定は良い方向で裏切られた。

 バーテックス出現から三年が経過し、囮として想定された諏訪が壊滅しても尚、坂出市の回廊は非常に小規模な襲撃を受けるに留まっていた。

 それゆえ、坂出市の回廊はいまだ元自衛隊の武装船団に利用されている。

 元自衛隊の人々は三年間、二十四時間体制で四国外を警戒していた。

 そして、今日も坂出市の回廊から元自衛隊の船が出て行く。

 ただし、今日のそれはいつもとは、三年間のそれとは少しだけ趣を異にしていた。

 海岸にそれを見送る人々がいて、そのうえ一隻だけの出航だ。

 

「うーん、絶好のクルージングウェザー、航海日和ね!」

 

 二〇一八年、八月某日。

 白鳥歌野はそんな船の上、潮風に吹かれていた。

 船の甲板は歌野が思わず走ってしまうほど広々として、良い風が吹いている。

 

「速さも大きさも、静岡から乗った漁船と大違いだね、うたのん」

 

 片や水都は風で靡く巫女装束を押さえて、歌野とは違ってじっと風に耐えていた。

 

「流石は元とはいえ自衛隊のデストロイヤー、護衛艦ね。やっぱり、北海道を目指すならこれくらいビッグな船じゃないと、やる気が感じられないわよね! うんうん、この甲板でますますエモーションが上がってきたわ!」

 

 元自衛官の話によれば、甲板下にはヘリも格納されているらしい。

 ただ、大きな護衛艦であればこそ、これを動かす予算は元自衛隊の有志らには無かったそうだ。

 米国との合同演習に参加すべく海上に出ていたおかげでバーテックス襲撃の難を逃れたものの、大社指示の下、四国の港で解体されるのを待つばかりだったという。

 それを有志の元自衛隊員や、兵庫から逃れてきた造船会社のボランティアが整備を続けて、大社から予算が降りた事で日の目を見る事になったらしい。

 

「まとめ役の人が町を捨てて逃げ出そうとするくらい大変みたいだし、たぶん住民を全部乗せる事になるもんね・・・・・・。安芸さんが大社と予算を交渉してくれたみたいだけど、何をしたのかな・・・・・・?」

「まぁいいじゃない。それより、私はバーテックスとの戦闘を考えないとだし」

 

 ただ、今回の遠征は急遽決められた為に準備が不十分で、今も勇者達へ教育が続けられている。

 歌野達が甲板に出てくる前にも、船内で伊予島杏がヘリからの射撃を元自衛官から教わっていた。

 その他にも、土居球子が甲板から飛び立つ際に船の速度を利用できるように、船の進行方向を間違えないよう注意を受けていたが、歌野は幸い船の逸話と迷子防止に船の構造を教わるだけで自由になれた。

 

「私が船上でバーテックスと戦うなら、立つのはあそこね!」

 

 歌野は勇者として、射撃能力や飛行能力を持ち合わせてはいない。

 だからこそ、歌野には己の武器を活かせる広い場所さえあれば良いのだ。

 その為に甲板を見に来たのだが、良い場所はすぐ見つかった。

 

「レッツ、メタモルフォーゼ!」

 

 そこへ向かうべく歌野が操作するスマホは、大社から歌野へ贈られた特別製だ。

 歌野が諏訪にいた頃、大社は歌野に何一つとして支援をしなかった。

 ただ、大社も大社で、四国で何もしていなかったわけではない。

 三年間、土地神の力を科学的に制御する技術を確立しようと努力を続けていたのだ。

 そして、ついにスマホを介して神々の加護を望むタイミングで引き出す、勇者システムという形で結実させたのである。

 諏訪は滅びたが、歌野も含めた人々の血の滲む努力の末に、勇者システムは出来上がった。

 

 金糸梅をモチーフにした、諏訪の勇者装束。

 神威の宿った、藤蔓の鞭。

 勇者システムによって再現された諏訪の加護を纏い、歌野は勇者になった。

 

「うーん、指先一つで変身なんて、バッと脱いでパパッと着替えていた頃を思うと感慨深いわ・・・・・・」

「だよね・・・・・・。勇者装束が後ろ前になったり、パーツを探す苦労をしないで良いんだね・・・・・・」

「あはは、まったくね。っと、それじゃあちょっと確認してくるわ!」

 

 水都とかつての苦労話で笑い合うと、歌野は護衛艦の艦橋へ飛び乗る。

 歌野の武器である鞭は、広所で本領を発揮する。

 素早く伸びて、遠く離れた敵も一瞬で打擲する。

 艦橋から船の舳先、船尾まで、歌野は鞭の間合いを確かめる。

 

「船上はオッケーね。問題は海上だけど、距離が掴みづらいわね・・・・・・」

 

 目印の無い海上の射程は、歌野の手応えで測るならば、艦橋から半径二百メートル程度だろう。

 諏訪で過ごした三年間でも、その程度の距離であれば確実に鞭を当てる事ができた。

 

「そして、次の問題はこっち・・・・・・」

 

 鞭の具合がわかったところで、歌野は二つ目の武器の確認にかかる。

 歌野は褐色に染まった腕を意識して、その力を引き出した。

 そして、目測で四百メートル程度の距離にいる海鳥に腕を振る。

 

「ソーリー。うん、だいたいこのくらいね」

 

 その結果、海鳥は歌野の目前に引き寄せられた。

 傍目には分かり辛いが、これが歌野の腕が行使する力だ。

 

「おっ、ナイスライディング・・・・・・あいたたっ! ごめんごめん!」

 

 肩に乗った海鳥に、歌野は嘴でツツかれながら驚かせた事を詫びる。

 大社による調査では、歌野の腕は空間を削り取っているらしい。

 それは小型のバーテックスなら数百体は容易く削り取れる、広範囲の攻撃になる。

 削った距離はゼロになり、海鳥のように狙った物を引き寄せたりもできる。

 

「間合いの内側に誰もいない事を確認してから使うように、っと」

 

 海鳥を艦橋へ残し、歌野は甲板で待っている水都の元へ戻る。

 

「お待たせ、みーちゃん。だいたい感覚はわかったわ」

 

 静岡から四国までの海路を腕一本で切り開いた時と比べても、やり易い。

 やはり、戦場を見渡せる事が、歌野が戦うのには重要なのだろう。

 海上はそのうえ空間を削り取る事による周辺被害を気にしないで良い。

 よほどこの腕と海は相性が良いのだろう。

 

「じゃあ、船内に戻りましょうか。風の当たりすぎはノーグッドだもの」

「うん、そうだね・・・・・・。私も外に出たら神託の聞こえ方に違いがあるかなって思ったけど、そんな事がないのがわかって、もう十分だし・・・・・・」

 

 やがて船内へと戻った歌野達は、しばし休息を取るのだった。

 最初の戦いは淡路島に近づいた時だと、歌野は予想していた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 まさか、こんな空母もどきを隠し持っていたなんてねー。

 

 北海道住民を丸ごと収容してお釣りが来るし、チートじゃないのコレ。

 いや、ホントに北海道だけなら簡単過ぎる任務になっちゃうよ。

 ぶっちゃけ、ボクが大量にバーテックスくん達をボッシュートしたせいだけどさ。

 北海道のバーテックスくん達って、もう絶滅危惧種だから。

 海岸にどれだけ停泊しても、北海道ではバーテックスくん達に出会えたらむしろラッキーなレベルになっちゃってるから。

 

 でも、問題なのは、北海道まで辿り着けるかだよねー。

 

 まぁ、萎える話、それもかなりのイージーモードだけど。

 歌野が四国へ撤退するときにガオンしたバーテックスくん達も多いし、ボクもその支援で結構バーテックスくん達をボッシュートしちゃったし。

 ガオン対策に作られた遠距離砲撃型のバーテックスくん達がちょこっと海を彷徨っているだけで、警備網なんてザルだよザル。

 

 仕方ない、ボクがバーテックスくん達を焚きつけて戦わせるか。

 

 いや、だってさ、やっぱり簡単に達成されたら悔しいじゃない。

 ボクの言葉がぜんぜん通じないから、うまくできるか不安だけど。

 ほらほら、淡路島でイモってるバーテックスくん達ファイト。

 あんまりイモってるとボッシュートしちゃうよ。

 もっと集まってさ、合体してさ、船を追い返してやりなよ。

 できるできる、キミ達なら絶対できるやれる気持ちの問題だから。

 

 おー、バーテックスくん達ってば、意外と立派になったじゃん。

 

 え、なに、これひょっとしてイケちゃうんじゃない?

 ボクってなかなか煽動者の才能があったりするのかな。

 参ったね、ただでさえ美少女のボクにそんな才能があったら大変だ。

 あっという間に世界だって支配できちゃうじゃないか。

 

 全人類が美少女に富を捧げる世界とか作っちゃうよ?

 ちなみにボクは調子づいた美少女を特権階級から蹴落として曇らせる役ね。

 うんうん、上里ひなたとか超蹴落としたい。

 

 ・・・・・・ボクが蹴落とされるリスクは、まぁ、無いよね。

 

 無い無い、ボクに限って、そんな事は絶対あり得ないって。

 だって、ボクだよ?

 人間風情がボクを蹴落とそうなんて、宇宙の歴史一つくらい早いよ。

 バーテックスくん達だって、そう思うよね。

 

 あれ、バーテックスくん達どうしたのかな?

 

 なんで、ボクに元気っぽい玉を向けてるのかな。

 ダメでしょ、そんな危なっかしい物を向けるのはボクじゃないでしょ。

 

 ちょっ、服が焦げた!

 ボクのボディに傷が付いたらどうするのさ!

 あり得ないから、ボクに傷が付くとか世界の損失だから!

 やめっ、やーめーろーっ!

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 バーテックスの襲撃を知らせる警報が船内に鳴り響く。

 淡路島と四国の境、鳴門海峡に差し掛かったところだった。

 海峡に架かっていた橋はバーテックスによって落とされて、今では跡形も無い。

 淡路島はバーテックスによって占拠されて久しい地域だった。

 しかし、元自衛隊の武装船団による監視記録では淡路島のバーテックスが四国を攻撃する動きは一年以上見られず、海峡通過時に襲撃があったとしてもごく小規模になるだろうと予想されていた。

 

「みーちゃん、神託があったのね」

 

 護衛艦の艦橋には、元自衛隊の幹部並びに勇者達も集まっていた。

 

「うん、すごく大きな、太陽みたいな星が待ち構えていて・・・・・・」

「星はバーテックスのイメージよね。巨大なバーテックス?」

「こんな神託は初めてだけど、たぶん・・・・・・」

 

 護衛艦の艦長からは、球子と杏に偵察任務が与えられた。

 それも、相手戦力を正しく見積もる為、目視できる距離までの接近を求める内容だった。

 

「大丈夫です、行けます」

「ちょっと見てくるだけなんて、タマ達にはお茶の子さいさいだ!」

 

 二人は勇者装束を身に纏い、球子は甲板に出ると奥の手を切った。

 球子の奥の手の精霊は"輪入道"という。

 奥の手を切ると、球子の武器である旋刃盤は巨大化、更には鬼火を纏う事で空中で軌道を操る事が可能になる。

 そして、巨大化した旋刃盤に乗れば、それはヘリコプターよりも三次元的な動きをする空飛ぶ円盤に早変わりするのだった。

 

「タマっち先輩、気をつけてね」

「杏も気をつけるんだぞ!」

 

 一方、杏は武器のボウガンを携え、元自衛官の操縦するヘリに乗っての出撃だ。

 護衛艦との情報連携と、杏と球子の役割分担がその理由だった。

 

「それじゃあ、私も持ち場にスタンバイしておくわ」

「気をつけてね、うたのん」

 

 歌野も艦橋の外に出て、バーテックスの襲撃に備える。

 偵察任務は始まったばかりだが、歌野は肌のヒリつきを感じていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 バーテックスくん、やっと大人しくなった・・・・・・。

 

 あちこち削り取っても、ボクに牙を剥くなんて。

 その根性をもっと別のところで発揮すればいいのに。

 おかげで空母もどきが来てるのに、修復する時間がぜんぜん無いよ。

 巨体は維持できているけど脆い部分が丸出しで、攻撃力は半減。

 おまけに機動力は完璧ゼロの固定砲台だよ。

 

 どうしてこうなった。

 

 ここが海峡でなければ迂回されるマジノ線待った無しだよ。

 まぁ、そんな風に嘆いても、首の皮は一枚繋がったかな。

 自分の身体で味わったからね、流石にわかるよ。

 このバーテックスくんの力は、こうなってもまだ侮れない。

 

 まず、このバーテックスくんが連射する火球には自動追尾機能がある。

 遮蔽物の無い、海上ではまず避けきれない。

 こちらが打ち落とさない限り追いかけてくるから、ホント厄介だ。

 

 そして、主砲の元気っぽい玉はそれに輪をかけてタチが悪い。

 火球は何かにぶつかった拍子に炸裂する。

 だけど、元気っぽい玉は何もかも蒸発させて飲み込むプラズマの塊だ。

 エネルギーが尽きるまで、決して消える事は無い。

 安心な事に、自動追尾機能は据え置きだ。

 こっちに対処できるのは、歌野の腕くらいだろうなぁ。

 

 こんな怪物を生み出してしまうなんて、流石はボクだよね。

 

 歌野達に勝ち目は無いと思うけど、海の藻屑と消える美少女も乙な物。

 火球の弾幕に空母もどきが飲まれて、爆発四散するのが目に見えるよ。

 友達が討ち死にした後の勇者や巫女達の反応も気になるなぁ。

 

 ・・・・・・取らぬ狸とか、無いから。

 

 そういえば、バーテックスくんの火球は何を目印に追尾してるんだっけ?

 ミサイル同様、チャフで攪乱されるなんて事は無いと思うけど。

 ひょっとして、バーテックスくんが目視で誘導していたりはしないよね。

 だったら煙幕であっさり無力化できちゃうけど、まさかねー。

 

 ・・・・・・いや、まさか、まさかだよ。

 

 そんなの自動追尾じゃないじゃん、単なる誘導弾じゃん。

 まさかねー。

 

 

 

(つづく)

 

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