勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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九話 腹の中

 はいたい、ボクだよー。

 沖縄の挨拶ってスゴいよね。

 胚胎だなんて、卑猥っていうかグロいっていうか。

 褐色美少女のボクの胚胎とか、犯罪臭しかしないじゃん。

 

 うん、そんなどうでもいい話をするくらい、なんか暇なんだ。

 

 沖縄に来てみたら、ホントに海しか無くてさー。

 むしろ、海の中みたいな?

 沖縄本島の内陸なら、もっとマシだったんだろうけど。

 本島ってばバーテックスくん達に大部分占拠されてるみたいでさ。

 バーテックスくん達の数は三千そこらだけど、棗一人なら十分だよね。

 棗が頑張って間引いて、また数を増やしての繰り返し。

 

 バーテックスくん達に効くバルサンなんて無いからね、仕方ないね。

 

 だけど、どうして沖縄住民の意見がまとまらないわけだよ。

 バーテックスくん達の脅威がさ、あんまり大したこと無いんだ。

 とはいえ、四国に逃げた連中には危機感があったんだろうね。

 バーテックスくん達も、そろそろ本気を出し始めたみたいだしさ。

 

 三年間どうにかなったのも、バーテックスくん達の遊びのおかげなんだろうね。

 

 防空壕とかを見つける度にバーテックスくん達が立ち止まって、生き残りが飢えて出てくるのを、アサガオの観察日記をつける小学生みたいに「まだかなまだかな」って待っていた、そんな感じだったんじゃないかな。

 いやー、えっぐいね、バーテックスくん達ってば。

 つくづく、ボクがこの一件で出遅れたのが惜しくなるよ。

 

 ボクが里帰りで地球を出ていなければなぁ・・・・・・。

 

 まぁ、一度過ぎてしまった事は、どうしようも無いか。

 どうしようも無いんだけど、大阪とか、本当に惜しかったなぁ。

 八つ当たりで名古屋のバーテックスくん達を万単位ボッシュートしちゃったし。

 おかげで諏訪の方にバーテックスくん達が大量に向かっちゃったんだけど。

 いや、どうでもいいか、昔のバーテックスくん達の話は。

 

 それより今は沖縄で、棗の曇り顔だよ。

 

 まず、四国から帰って来るなり曇ったのはグッド。

 町を占拠しているバーテックスくん達の姿は、心臓に悪いよね。

 バーテックスくん達を蹴散らして、防空壕に隠れていた皆が出てきてホッとした棗の顔も、ナイススパイス。

 だけど、ボクを四国からの援軍扱いするのはノーグッド。

 そりゃ、棗の援軍みたく、バーテックスくん達を蹴散らしたけどさ。

 それはさ、棗が曇る様子をじっくり見たかっただけだよ。

 ボクは映画を見るとき、最初から見ないと気が済まないからね。

 フランダースの犬で、ネロが死ぬ所だけ見せられても楽しくない。

 棗がいて、沖縄住民がいて、そこからスタートじゃないと。

 

 最初から問題が多いけど、まぁ、棗の曇り顔を期待していくかな・・・・・・。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 四国から帰ってきた古波蔵棗は、血の気が引くのを感じた。

 皆が暮らす町が、何百体ものバーテックスに占拠されていたのだ。

 最初に避難民を四国へ連れて行って戻った時は、こうではなかった。

 乃亜の助けがあって、どうにか日が暮れる前に敵を撃退する事ができた。

 

「すまない、助かった・・・・・・」

 

 だが、沖縄住民の恐怖もさる事ながら、棗の受けた衝撃も大きかった。

 棗が沖縄を離れたのは数百体もの間引きをしてから、せいぜい四日間。

 その僅かな間に何百体ものバーテックスが押し寄せたのだ。

 バーテックスの攻撃の本格化が、棗も肌身に沁みてしまった。

 棗はもう二度と、沖縄を空けられないと思うのだった。

 

「ま、初回限定サービス、感謝される程でもないよ」

 

 今回助けてくれた乃亜も、棗の味方ではない。

 海の神が、棗にそう言っていた。

 

「やはり、味方はしてくれないのか・・・・・・?」

「当然、ボクはキミが苦しんで戦い抜いて、沖縄で最後の一人ぼっちになるところが見たくて一緒に来たんだ。ボクに沖縄の留守番とか、沖縄住民を乗せた四国行きの船の護衛とか任せたら、あっさり全部投げ出してキミの所に戻ってくるから、そのつもりでいると良いよ」

 

 乃亜を性悪と言うのは簡単だが、それは贅沢だろう。

 棗は最初から沖縄で一人きりの勇者だった。

 かつていた親友、犬のペロも寿命で逝ってしまった。

 しかし、それでも沖縄の海を守ると心に決めて戻って来たのだ。

 今更、その覚悟が揺らぐ事は無い。

 

「おばあ達に紹介するから、一緒に来てくれるか?」

「別に要らないけど、キミがそうしたいなら付き合ってあげるよ」

 

 棗がいない間に起きた事も、皆に聞かなくてはいけない。

 棗は防空壕にいた皆の無事を確認しつつ、乃亜を皆に紹介しようと歩き出すのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「百人以上も脱出できたんだ。もう十分だろう」

「あぁ、棗様がこのまま沖縄にいてくれれば安心だ」

 

 ふむふむ、沖縄の住民らしき連中の数は四百そこらってところかな。

 数だけなら、元自衛隊の船を一隻よこせば解決する話だね。

 だけど、こいつらは沖縄を離れないんだろうなぁ。

 ボクくらいになればわかるよ。

 コイツらは水がゆっくりお湯になっても逃げない、茹で蛙だってね。

 

「なっち・・・・・・じゃない。棗様、四国はどうでしたか・・・・・・?」

「あまり四国を見物する時間が無かったから、よくわからない」

「そ、そっか・・・・・・」

 

 ただ、茹で蛙ばかりの中でも、まだ見込みのある子がいた。

 いいね、希望や絶望がある、生きている子は見ていて楽しい。

 棗の元同級生だっていうし、可愛いし、見所ありだ。

 

「あの、乃亜さん・・・・・・?」

「うん、ボク?」

「乃亜さんは、四国が沖縄をどう思っているか、知りませんか?」

 

 うんうん、四国から来たっていうボクにもちゃんと食いつくし。

 ボクみたいな注目すべき存在にすら無関心な連中とは大違いだ。

 他にボクに注意を払ったのなんて、おばあって呼ばれる婆さんくらいだし。

 こうやって若い瞳に、未来への希望が浮かんでいるのは貴重だよ。

 これは曇らせ甲斐がある。どうやって曇らせてやろう。

 

「ボクは大社から来たわけじゃないからね。詳しい話は知らないよ」

「そうですか・・・・・・」

 

 とりあえず、後ろ向きな情報を与えて不安がらせてやろう。

 

「ただ、大社はやっと北海道に向けて救援を送り始めた段階だ。沖縄に順番が回ってくるのはだいぶ先になるんじゃないかな?」

 

 ボクの言葉に、棗の元同級生は露骨に表情を曇らせた。

 ほほぅ、焦りが強い、それくらいわかっているんだね。

 

「だいぶ先って、どのくらい先になるんですか・・・・・・?」

「うーん、棗から聞いた話だけど、大社は沖縄から生存報告を受け取っているんだよね? それなのに、どういうわけか北海道を優先しているあたり、どこかで沖縄の生存報告が握り潰されている可能性がある」

「そんな・・・・・・っ!?」

「希望があるかどうかは、四国へ逃れた沖縄出身者がどれだけ発言力を得るか次第だね。普通に待っているだけじゃあ、まず四国は動かないよ」

 

 実際、ボクがクラックした大社のサーバにろくな情報が無かったんだよね。

 メールサーバには沖縄からのメールが、インフラが生きていた期間限定だけど大量に届いていて、それなのに大社側からはテンプレ回答みたいな返信を出すばかりで反応らしい反応をした形跡が無かった。

 一部のメールは閲覧許可のセキュリティレベルが違ったから、全部のメール内容をチェックしていたのは間違いない。

 単にまともに対応する気が無かったのか、畜生じみた理由があったのか。

 

「で、でも、四国に行った皆が頑張ってくれたら・・・・・・!」

 

 なんだろう、この子から古き良きみーちゃんの香りがしてきた。

 すっごくイジメたい。可愛い、もっと曇らせてあげたい。

 

「棗が自身の存在をどれだけ明るみに出しているかも問題だろうね。棗が大社から隠れて行動するのに、沖縄から逃れた住民に何かしらの箝口令を敷いていたとしたら、誰も沖縄の事を知らないかもしれない。沖縄出身者は、棗の許可が出るまで秘密を守り通してしまうかもしれない。そうなれば、沖縄出身者の善意が、沖縄住民を地獄へ突き落とす結果になるかもね」

「っ・・・・・・」

「え、嘘、なっち・・・・・・?」

「すまない・・・・・・」

「そんなぁ・・・・・・」

 

 おー、棗にも思いがけず飛び火して、すごく良い感じだ。

 箝口令なんて本当に敷いてたんだ。

 でも、ボクってば大社以外で沖縄の単語に覚えがあったりして。

 沖縄の様子を見に行く気にもならなかった、曖昧な記憶だけど。

 大社が動くようなタイミングじゃなかった気もするし、別にいいよね。

 

「まぁ、気長に頑張りなよ。ひょっとすると、大社の職員が仕事に忙殺されて、沖縄の存在を忘れているだけかもだし」

「そう・・・・・・ですよね・・・・・・」

 

 元同級生の子と、ついでに棗が曇って大満足だ。

 いやー、やっぱりこの元同級生の子、好きだなぁ。

 棗よりこっちの方が好きかも。みーちゃん臭がたまらない。

 本家みーちゃんは、最近は巫女にちやほやされて曇らないからなぁ。

 こういうスナック感覚の曇りが懐かしい。

 

 みーちゃん二号ちゃん。ボクはキミを心から応援しているぞ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あぁ、水都お姉様・・・・・・」

 

 安芸真鈴はバルサンの後片付け中、新人巫女の奇行にげんなりした。

 

「赤嶺、また藤森さんの写真を拝んでるの・・・・・・?」

 

 真鈴はこの赤嶺と関わる中で、濃いキャラに戸惑う事が多かった。

 まず、巫女として採用されるなり寮の個室に祭壇を作り、玄関で寝ている事が一つ。

 次に、その祭壇で祀っているのが、藤森水都である事が一つだ。

 当然、真鈴はこの変人と進んで接触したわけではなかった。

 

「変な感じよね。赤嶺は妹と違って、"棗お姉様"を拝まないんだ?」

 

 ただ、弟にイネスに行きたいとねだられて、休日に仕方なく連れて行ったところ、赤嶺も偶々妹を連れてイネスに来ていたらしく、しかも同時に真鈴の弟と赤嶺の妹が迷子になり、迷子センターで鉢合わせたのだ。

 もちろん、それだけならば大した話ではなかった。

 だが、真鈴はイネスからの帰り道に弟から、赤嶺の妹が自慢げに語ったという沖縄の勇者、"棗お姉様"の話を聞かされてしまったのだ。

 

「棗お姉様は、既に多くの妹に守られていますから」

「ふーん、そういう物なんだ・・・・・・?」

 

 そして、沖縄に勇者がいるなど聞いた覚えが無かった真鈴が、勇者システムへの不正アクセス事件から各種資料チェックを手伝う中、好奇心から大社の記録をこっそり調べた結果、三年前から沖縄からの連絡が途切れるまで、生存報告と救援要請を受けながら、のらりくらりとした回答を繰り返すばかりで放置していた大社の対応の形跡を見つけ出したのだ。

 そこから、真鈴がこれは面白いネタを見つけたかもしれないと、より詳細な情報を求めて赤嶺に揺さぶりをかけたところ、沖縄の勇者が大社を信じず独力で沖縄と四国間で避難民輸送を行っている話まで出てきて、これは大社が己の不手際で沖縄の勇者へ四国への不信感を植え付けてしまった不祥事ではないかと、真鈴は思いがけず大社との交渉に使えそうなカードを手に入れて、その扱いを考える羽目になった。

 諏訪の一件から、四国の興奮はいまだ冷めやらず、各地の勇者への期待感は最高潮と言える。

 そんな四国世論を鑑みて、この事実が明らかになった際にどんな反響があるかは予想がつく。当時の対応を担当した大社の職員は、高確率で大社の目立った要職には就けなくなるだろう。逆に言えば、普段から真鈴が大社の仕事を手伝っている都合で把握しているのだが、当時の対応を行った職員は三年かけてそれなりの立場を作っており、そんな職員の弱みをこちらで握る意味は大きく、真鈴は赤嶺と結託する形でこの交渉カードを活用していく事にしたのだった。

 

「しかし、そっちは藤森さんに更なる栄誉を、私は大社の尻拭いのお節介と、上里さんに貸しを一つ。北海道住民の救出作戦の裏、こんな打算で大社のケツを盛大に蹴飛ばしたなんて、誰にも言えないわよね」

「私は仕事熱心な大社幹部の方に廊下でばったりお会いして、気軽に仮面を付けたまま雑談をしただけですよ」

 

 赤嶺が大社相手にどんな話をしたか。北海道住民の救出作戦という前例を作れば、そのまま沖縄住民の救出作戦を提案するにも都合が良い筈云々。三年前はお世話になりましたと、沖縄に送られてきた大社からの不誠実なメールへの返信形式で、フリーアドレスからメールを出して、今度こそ色よい返事が欲しい云々。

 

「私が言えた事じゃないけど、赤嶺ってば腹黒だよね・・・・・・」

 

 そして、赤嶺はあくまで表向きは無関係の形を保つらしい。

 いや、正体を知られた際のリスクを考えれば当然かもしれない。

 真鈴も保身はしており、今回の仕事は水都とひなた以外にはほぼ教えていない。

 だが、不正アクセス事件のあったタイミングで正体不明の相手に脅されて、どんなデータを抜かれたか疑心暗鬼の大社が手加減無しでこちらを潰しに来る可能性があった事を考えれば、真鈴の方がむしろ不用心過ぎたのかもしれない。

 

「ホント、大社が動いてくれて良かったわ・・・・・・」

 

 大社が北海道住民の救出作戦を行うと公表して、護衛艦を動かす費用の大部分を賄うほどの募金が市民から一日で集まったのは真鈴にも幸運だったのだろう。少ない費用で救出作戦を実施できるなら、このくらいの要求、目障りだが結果的に対外イメージを良くできたから目こぼししてやろう、と大社に思われたのかもしれない。

 真鈴も駅前で帽子を被った長い黒髪の女性に頼まれて募金をしたが、普段の心がけで思わぬ命拾いをしたのかもしれない。

 

「せめて、上手く行って欲しいよねー。うちの杏と球子も一緒だしさ」

 

 真鈴は保身の為にも、そう言わずにはいられなかった。

 

「真鈴先輩は、上里さんへの貸しを作れれば良いのでは?」

「いや、それとこれは別だから・・・・・・。まったく、赤嶺は腹黒すぎ」

 

 赤嶺は逆に、保身が完璧だからこそ余裕綽々なのだろう。

 そもそも、赤嶺は水都すら四国外の英雄の旗印として、本意を隠す材料にしているフシがある。

 水都と歌野が成功を重ねれば重ねるほど、四国外の勇者を集めればバーテックスに対して四国がより盤石になると、四国全体に印象を刷り込む事ができる。

 水都を信奉しているように見せながら、水都の成功によって救援が早められる、沖縄住民を第一に考えている。

 それが赤嶺という巫女だろうと、真鈴は予想していた。

 どうやって沖縄出身である事を隠して大社へ潜り込んだのかは知らないが、まるでスパイ映画の女スパイだ。

 

「こんな私ですが、真鈴先輩には感謝しているのですよ?」

「どうだかね・・・・・・」

「新人の私では、大社の資料を漁るような真似は勿論、接触すべき相手の選別もできませんでしたから」

「まぁ、私は前から大社の職員に気に入られて、仕事の手伝いもやらされてたからね」

「えぇ、そう聞き及んでいました」

 

 真鈴は妙な違和感を覚えた。

 

「まぁ、普段から私の行いが良かったおかげって事よね」

 

 そして、一瞬間を置き、背筋に冷たい物を感じたので、あえて笑った。

 真鈴は赤嶺を利用して、己のお節介な目的を達成した。

 しかし、真鈴の行動の根本にあったのは赤嶺の妹から流された情報だ。

 

「おかげさまで、後は成功を祈るだけです」

「そうね、私達は巫女だもの。こんなのもうこりごりよ」

 

 ちなみにだが、真鈴の弟は、赤嶺の妹に相当に入れ込んでいる。

 母親に弟の近況を聞いて、"赤嶺ちゃん"の単語を聞かない事は無い。

 赤嶺が"誰の成功を祈っている"のか、真鈴は笑顔が強ばらないよう努めた。

 

「そういえば赤嶺は、例の獅子座の話は聞いた?」

「はい、聞けば聞くほど、恐ろしい敵ですよね」

 

 真鈴は赤嶺と雑談しつつ、弟の身辺調査を母親に頼まなくてはと思った。

 まだせめて後手に回っていない事を、真鈴は祈るのだった。

 

 

 

(つづく)

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