夜の出来事は、傷となって少年の心に残る。
「
少女が現れた時、俺の身体は動くことを止めていた、ご飯を食べていた手も止まり、視線は彼女に集中する。
見た目は幼い少女に見えるが、喋り方から数年生きてきた人間じゃない。俺より上、もしくはそれ以上かもしれない。少女は慣れた手つきで俺の頬を撫でようとしてくる。
数秒おいて反射。気がつけば俺の手は無意識に彼女の伸びてくる腕を掴みあげていた。少女は満足しているのかにっこりとした表情でこちらをみている。
「お前は・・・誰だ」
もちろんだが俺は彼女のことを知らない。ここら辺の人でもないし知り合いと言うわけでもない。先程の関係者か、あるいはさっきの違和感の正体なのか。どちらにしろ彼女の素性だけはどうしても知りたかった。
「誰じゃろな?」と誘ってくる彼女に俺は心底腹を立てていた。だが彼女が何か知っているのは確かだと踏んで怒りに怒れなかった。怒ってしまえば彼女の都合の良いように扱われると思ったからだ。
「そうじゃな・・・わしは・・・
「理解できないな。できるようにお願いしたはずだが」
「・・・
その言葉に俺の頭が激しく反応し、頭痛が俺を襲う。頭の中に先程の映像が流れ込んでくる。〈異能〉・・・〈
「思い出したか?」
「お前はその〈異能〉・・・〈異能〉そのものなのか?」
俺の答えに対し彼女は満足気に笑ってみせる。突然手に出現させた扇を前で扇ぎ、口元を隠す。しかし、その下ではうっすらと微笑んでいるのが見える。
どうやら可もなく不可もなくみたいだ。にしても先の戦闘で戦ったのは俺なのか・・・。イマイチ、自分では戦った感触というものはなかった。もしかしたら彼女に乗っ取られたかもしれない。彼女が言っていた「私はお前だよ」というのはあながち間違いではないのかもしれないな。
「まぁ今日はゆっくり休め。明日また起こしてやるからな」
「まて・・・ぐっ。俺は、まだ・・・」
彼女の言葉に釣られるように身体、そして意識が落ちていく。どうやら俺の体は彼女に弄ばれるみたいだ。
―――次の日―――
「お前について聞かせてもらう」
次の日、リビングにて俺たちは机越しに向き合っていた。お互いの机にはお茶が、まるで合コンのようだがそんな生易しいものでは無い。これは俺の将来を決めるかもしれない話なのだ。
目の前にいるのは
「わしか?昨日も言ったじゃろ?
「それじゃ納得のいく答えじゃない。もう一度聞こうか?」
今出せる最高の圧力鍋をぶつけ、俺はこの女の子に強迫する。喋りたくないのは何回もはぐらかされてこっちだって理解している。しかし先程も言った通り、これは俺の将来を決める事なのだ。下手に「はいそうですか」と返す訳にはいかない。それに昨日の感触がまだ手に残っているのだ。
すると女の子はへらへらした顔つきから一変。見てわかる。真面目な顔になる。それと同時に俺の背中を冷たいものが通る。まるで刃が背中にあるように俺の背中は固まってしまう。
「そうじゃな・・・どこから話すか?」
「全部だ。まずは君のことから聞きたい」
「先程も言ったがお前じゃよ。正確には・・・お前の心かな」
言われてピンと来なかった。心?こんな可愛い女の子が?信じられない。
「・・・次に昨日のことかの。昨日のアレは
「超能力・・・」
「信じれんか?」
簡単には信じれない話だ。しかし、俺の身体が昨日の感覚を不思議と覚えている。納得まで行かないが、理解はした。
そしたら昨日の男も
「それで?俺の異能はどういうものなんだ?」
「ふん。自分で考えれば分かるものを・・・まぁよい。名を知らぬば力も発揮できまい」
「・・・頼むよ」
「良かろう良かろう。貴様の異能の名は
この女の子は今、考えれば。と言ったか、ということは俺の思考の範囲内で異能は酷使出来るということか。
しかし、そう簡単に使えるものじゃないだろう。昨日、少なからずその異能で・・・
「そういえば家は壊れてないよな?なんでだ?」
そうだ。昨日、アレだけの力を酷使したのにも関わらず、周りの家にそこまで被害は出ていなかった。
「ん?それはそうだろう。神から授かった力が大地を壊すことがあって溜まるか。それも少なからず神の子である人間のな」
「なるほど・・・」
神から授かった力ってのは本当のようだ、建物が壊れなかったのもこれが理由なら納得がいくが、自分の中ではまだ考えがまとまったわけではない。昨日の襲撃のことといい、異能の力といい、聞きたいことは聞けば聞くほど出てくるのだ、すべて聞きたいところだが、それでは今日という日だけでは終わらないと玲音は考えていた。
それに147とヤツは言った。俺の悪い予感が当たっていればその数字は、グリム童話の数に等しい。
「随分ロマンチックな話だな・・・神がいるとでも?」
「少なくともいなければこんなことにはなるまい」
・・・そこから沈黙。玲音はあまりの言葉の数々に絶句していた。目の前の少女はお茶を飲んでぬくぬくと座っている、その平然とした態度に、玲音は何も言えなかった。
とりあえず今日を過ごそう。それが彼の出した結論である。
◇
「
いつものご飯の買い出しに向かっている最中。俺はこのまとわりついてくる女の子
「神から与えられたとはいえその力には限りがある。特に太陽は苦手みたいでな」
「不思議な話だな」
「む。これ欲しい」
そういって莉亜が指を指したのはお酒だった。見た目はこんなのでも中身は来てるんだなと思った。
「未成年だから今度な」そう言い彼女を引きずりながらその場を後にする・・・と、俺の目はある場所に釘付けになる。そこには
「・・・あれは」
「儂と同じじゃよ。あれこそが
「・・・あの人は気づいてるのか?」
「覚醒を迎えていない
昨日のことを言っているのだろう。覚醒・・・目覚めの間違いだろうと考えながら会計を済ませ、お店を後にする。手には大きな袋が2つ。莉亜の手にはお菓子が握られていた。
次はどうしようか。そんなことを考えていると見知った人と出会うことになる。
「よう」
「・・・」
玲音の数少ない友人。八坂 零だ。玲音とは腐れ縁の彼は学校には行っておらず・・・というかサボっている問題児でかなりの喧嘩っ早い性格の少年だ。
前会った時とは変わり、髪は金髪に染まっていた。まさにチャラい、という言葉が似合う奴に変わっていた。
そんな彼の手には俺と同じビニール袋。先程俺が行ったスーパーと同じものが握られていた。中身は・・・。
「またお菓子とか弁当か」
「悪いか?料理はしない趣味でな」
「・・・今度作りにいってやるよ」
「期待しないで待ってるぜ。じゃあな」
久しぶりの再会は言葉を少し交わしただけだがそれでも俺たちにとっては普通なのだ。今となっては遊ぶことも、共に歩くこともないがそれでも俺たちはどこか通じていると思っている。
チラッと横を見る。莉亜は何か感じたように冷たい視線を零に向ける。先程、スーパーで出会ったモノを見るように・・・。
「玲音よ。あやつは何者だ」
「・・・腐れ縁だよ。学校は何かと一緒でな。昔はよく遊んでた」
「今は」
「中学からかな。アイツとは遊ぶことも、会うことも少なくなった。それ以外は今のままだよ」
「・・・そうか。
莉亜が言った言葉の意味。最後の言葉だけは俺は理解出来なかった。
――――――――
「隠れてて正解だな」
「アイツ・・・
帰り道。零の隣には先程と変わって黒い鎧の巨人・・・まるで、悪魔が隣を歩いていた。
玲音が
それと隣にいた女の子・・・なるほど。あれが
「・・・ドウスル」
「まだだ。まだ俺たちが出る時じゃない。玲音が敵になるなら・・・それは殺すがな」
「マダ」
「そうだ。あいつは俺たちの状況を知らない。アイツが次に俺を尋ねた時・・・それがあいつの最後だ」
少年の身体が黒に包まれる。そして次、少年は飛び上がる。建物を飛び越えて、電柱の上にそびえ立つ。
「・・・
異能を授かった少年たち。彼らはどこへ行くのか。