クィーンズ・ルール   作:よなみん/こなみん

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覚醒

戦う覚悟を決めたとしても、通常の人と経験がある人とでは動きが違ってくる。それはどの世界でも同じだ。何事も経験があったほうが強い味方となってくれるからだ。しかし、この考えは経験がある人と、ない人での単純な比較である。当然、何事も初めてやる出来事には普通の人なら戸惑い、何をしたらいいのか、どうすればできるのだろうとか、要するに、その世界での戦い方を知らないのである。

 

それとは逆に慣れている人にはふたつのタイプがある。一つは「いかにサボる方法を探すか」、もうひとつは「どうすれば確実に物事を運べるか」である。これらを考えるのは慣れている経験上の心の余裕からくる考えである。

 

確実に物事を運ぶには緻密な計算が必要である。何回も何回も重ねて考え、それが確実になったときにはじめて成功、、、とは言わないのだ。そこからさらに何回も罠を張って確実に成功に導くのである。しかし、それ故に欠点もある。

 

逆にサボる方法を探す人間は物事を先ほどの確実な方法よりもより深く考えるのである。「情報が少なければ作戦も立てれない」この考えだとは思う。しかしそれ以上に自分の能力、そしてそこから自分に合ったサボり方を見つけていくのだ。

 

 

なら「普通の人間」はどうなる?その考えすら持つことのない普通の人間は。その場で対応しなければならない人間というのはパニックになる。志向がそっちには向かず、自分にとっての最適な解すら知らない人間は助けを求める。

 

しかし、今、俺の周りには助けを求めれる人間はいない。

 

 

 

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深夜の裏路地、工事現場になっている建物に音が鳴り響く、人がいない分、その音はより繊細に周りの人には響いて聞こえる。高く空を裂く音は、俺のすぐ後ろまで聞こえてくる。

 

遠くで女性の笑い声が聞こえる、狂気と悦びを含んだ笑いは俺の耳には危険を感じさせる不協和音のようにも聞こえた。

 

「ほらほら!もっと避けないと当たるわよ!」

 

イライラするような声に無邪気に飛んでくる彼女の腕、そして深いスカートからも同様に腕のような何かが飛んできていた。それは鋭く、空気を裂く音が聞こえたときには周りの壁、床に切り裂く痕がはっきりとできていた。

 

頭の中で志向を回す。そもそも〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉は俺が扱えるような〈異能(アクション)〉じゃない。あのアホが俺に代わって初めて使える〈異能〉だ。それに俺はまだまともには戦うことができない。

 

頭の中で先ほどの映像が繰り返される。莉亜が使って見せた、〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉の力の一部、剣を造り、それを操ること、実際やってみようとは思うものの、何も反応はしない。

 

莉亜は「私はお前」だと言っていたが、実際は莉亜が俺にならないと、変わらないと〈異能〉は発動しないのではないのか?そうでなければ、今俺が力を使えないことの証明が出来ない。

 

(俺には、資格がないってのか、この異能を使う)

 

力は人を選ぶ。その人に真にその力が使えるかその力自身が選ぶのだ。今、俺にはその資格がない。〈異能〉が発動しないところを見ると、きっとそういうことなのだろう。

 

「馬鹿者!右だ!」

「!?」

 

短い莉亜の叱咤、しかし身体が反応することはなく、そのまま俺の足は彼女のムチとなった腕に切り裂かれる。少しかすっただけなのに、深い傷ができる。俺の身体は足からくる痛みと衝撃に耐えきれず。そのまま前のめりに倒れこんでしまう。

 

血は足から次々と出で来る。もうこの中に流れ込んでくる風ですら、今は激痛の要因でしかない。足を引きずり、距離を取ろうとするが、彼女はすぐそこまで来ている。このまま逃げ続けたとしてもいつかは捕まってしまう。なら・・・

 

「覚悟を決めたか」

「どうしたらいい!もう一度聞くぞ!どうすればお前になれる!!」

「・・・女王は我が儘だ」

「は!?」

「女王は我が儘なんじゃよ、自分の思い通りにならないと、不機嫌になる」

 

わからない。こいつの言う女王が何を指していて、こいつが何を考えてこの言葉を選んだのかも、しかし、妥協してここまでの言葉を選んだのなら、何か理由があるはずなんだ。きっと、彼女なりに伝えたいことが・・・

 

女王は我が儘で、自分の思い通りに動かないと不機嫌になる。そして・・・何だろう、何か引っかかる。思い通りに?ルールがあるのではなくてか。

 

いま改めてこの状況を確認する。そうだ、今この状況こそ莉亜が言っている我が儘、そして今は〈女王の遊戯〉なんだ。俺が死ななかったのも、きっとこの〈異能〉が間接的に俺を助けてくれていたからだ。そしてこの〈異能〉に足りていないのは〈本質〉なのだ。

 

「・・・」

「わかったか?ほれ、妾を使いこなして見せろよ」

「行くぞ、これが俺の・・・〈絶対生存領域〉だっ!!」

 

 

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「もう終わりかしら?」

 

その時、あの女が俺のいる近くまでやってくる。女はまるでタコみたいな見た目で足、手はすでに触手というよりはムチになっていた。当たったらひとたまりもなく引き裂かれるだろう。俺はそんな女の前に堂々と出る、足の出血はある程度抑えた。痛みは残るが生きることよりはつらくはない。

 

「・・・考えてたんだ。〈異能〉について」

「それで?答えは出たのかしら?」

「ああ、君を殺す答えもな」

 

コンディションは最悪、推しは負傷してるし建物内とか個人的には好きではない。しかし、最高なことに頭はクリアだ、しっかり鮮明に自分が何をしたらいいのか、そしてこの力をどう使うのか、はっきりと理解できていた。

 

頭の中には次々と情報が流れ込んでくる。〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉の使い方、今わかる能力のすべてが頭に流れ込んでくる。

 

手に握りしめていた石を彼女に向かって投げる。彼女に当たることはなく、そのまま彼女の顔の横をスルーしていく、同時に彼女のムチが俺に向かって飛んでくる、恐らく狙いは足、先ほど傷を負った部分を狙い、さらに損傷を与えるか、もしくはそのまま切るつもりなのだろう、地を這って飛んでくるムチが何よりの証拠だ。

 

彼女のムチが、俺の足に触れるその時、俺の姿は一瞬にして消える。彼女も何が起こったかわからない様子で回りをキョロキョロして探そうとする。

 

「ここだ」

 

俺が飛んだ場所は彼女の真後ろ。彼女が気づき、こちらに振り返る前に彼女の顔に一発、重たい拳を入れてコンクリートの柱まで吹き飛ばす、彼女の身体はムチで支えることはできず、そのまま硬い柱に衝突する。

 

これが〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉の〈能力〉、〈空間移動(テレポーテーション)〉だ。〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉の〈本質〉、〈女王の遊戯(クィーンズ・フィールド)〉で決められた領域内の物質と物質の位置を入れ替えるものだ、それは入れ替えれる物質に限る。そして先ほどまで攻撃を躱せていたのは〈妖精の魔眼(アカシック・アイ)〉のおかげだろう。物質の落下軌道や本来見えないはずの攻撃の軌道まで見えるのだ。

 

しかし、本来ならそれだけの、〈異能〉なのだ。彼女みたいに肉体が強化されたわけでもない。なのに今の俺から出てくるこの力は何なのか。

 

「やってくれたわね!!」

 

気が付けば彼女は体を起こし、次々とムチを飛ばしてくる、今度のムチの動きは不規則で、普通の〈異能者(フォーリナー)〉には見えない。しかし、この〈妖精の魔眼(アカシック・アイ)〉なら、不規則な軌道だろうが見えるのだ。

 

その手に、莉亜がやったように剣を〈複製〉し、突撃していく。〈妖精の魔眼(アカシック・アイ)〉の軌道を信じ、飛んでくるムチを次々と躱していく。近くまで来たムチを切り落としていくが、彼女のもとに戻ると、一つ一つ丁寧に 治っていく。なるほど、どうやら彼女は一つ一つのムチは対応できるものの、恐らく複数のムチを一斉には治せない。

 

「なら、もっと躱して煽ってやる」そう〈妖精の魔眼(アカシック・アイ)〉には人の深層心理そして心が読めるのだ。

 

「なんで当たらないの!!」

「そりゃあ一発一発じゃあたらないだろ」

「ならっ!!」

 

教科書通りの一斉に飛んでくる最後の攻撃をキレイに切り落とし、俺はさらに加速する。その足で足元に溜まった彼女の腕を蹴り飛ばすともう片方の手にも剣を複製してみせる。今、宙には彼女の腕が飛び散っている状態だ。

 

「な!?」

「誰が()()()()()()()()()()()()って?」

 

その次の瞬間、俺は空に散った数々の腕の位置に転移し、彼女を翻弄する。その時間、わずかに0.3秒、しかし、それだけあれば十分だ、今、彼女の心は大きく崩れている、恐怖と絶望が彼女の心を支配している。

 

彼女の視界から外れ、俺は彼女の反対側から地面にゆっくり降りようとする。彼女も気づいたようで、こちらに向き直ろうとしたが少し遅い。俺は剣先を地面に向けて、彼女めがけて振り下ろす。振り下ろされた刃は見事に彼女の細い腕を切り落として見せる。

 

血しぶきが綺麗に宙を舞う。彼女の顔は歪んでおり、俺の顔には笑みがこぼれていた。やがて、彼女の顔は苦痛にゆがんだものに変わる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

「浅かったか、だが・・・!」

 

しかし、追撃は阻まれ彼女はこの建物を支える柱を無差別に破壊する。支える柱をなくしたぼろぼろの建物はその衝撃で形を保てなくなり、崩壊していく。

 

「ここまでか」心でそう思いながら、俺は崩れ行く建物の中から脱出していった。

 

 

 

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「・・・」

「まさか、本当に〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉を使えるとはな」

「嘘を言ってたのか?」

「〈女王の決議(クィーンズ・ルール)〉の発動は多々だ、それに、妾に嘘をつくメリットはないしな」

 

よくよく考えればこいつが俺を生かすメリットもないのでそこに関しては納得してしまった。しかし、予想以上の情報量だった。戦闘中だったとはいえ、少しばかり頭を抱えてしまった。〈異能〉のことに関ししてますます疑問がわいた瞬間でもあった。

 

しかし、向こうも俺の顔は覚えたはずだ。次からは容赦なく叩き潰してくるだろう。ましてや、仲間がいようものなら共有されているに違いない。次からは本格的に潰してきそうだ。

 

「そういえばあの女って事件の女じゃろ」

「は?」

「朝見とった殺人事件の女じゃよ。確か頭だけ消えてるってやつの」

 

そういえば朝そんな事件が流れていたな。あの女は世間でいう、夜のお店で働いていた女で、事件の重要参考人だったはずだ。現場では、個室に男が一人、首から上のない状態で発見されている。そしてその男も事情持ちで、浮気をしているか、最近離婚、彼女と別れたという事情持ちだ。

 

・・・確かに、あの鋭いムチのような腕、そして触手なら可能だろう。ましてや〈異能〉でそれすら自由に操れるとしたら少しえぐいかもしれない。

 

 

「・・・今までの事件。もしかして」

「うむ、大半は〈異能者(フォーリナー)〉によるものじゃな」

「莉亜」

「なんじゃ」

「もしこの力を俺が自由に使いたいって言ったらどうする?」

 

 

その問いに莉亜は戸惑ってしまったのか、すぐには答えれなかった。俺は「いや、気にしないでくれ」というと元来た帰路を帰るように愛しい我が家に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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