スー、スー…
誰かの寝息で目が醒める。
「ここは…横七本島?」
辺りを見渡すと、数日前まで補給の為だけにいた島にいた。
「取り敢えず、晴風に行かなきゃ」
まだドックにいるかもしれない。
そう思って歩き出したが、少し違和感を感じてしまう。
「あれ?ワームホールがない」
公園のおトイレみたいな感じのワームホールに入る場所がない。
仕方がないので周りにいる人に聞いてみよう。
「そしたら、提督さん褒めてくれたっぽい!!」
「ふふっ、提督は優しいね」
丁度良く人が来てくれた。
滞在中に一度も見たことがない少女達だけど、多分大丈夫なはず。
「すみません、ワームホールに入りたいんですけど、どこですか?」
「…」
どちらも答えてくれない。金髪の子は見てくれているけど、
それも私じゃない誰かを見ている様な感じだった。
「あーっ、加古さんこんな所で寝てたっぽい!!、提督さん怒ってたっぽいよ」
いきなり指を指されて驚いたが、呼ばれた名前は私ではなかった。
後ろにいる「かこさん」を見ようと振り向こうとしたが…出来なかった。
「あれ?どうして首が回らないの…」
「ごめんごめん、つい良さそうな場所を見つけちゃって…」
「それで良いかも知れないけど、提督が「サボったな」って騒いでたよ」
「あー、そりゃ結構怒ってるかも…ってもう1500じゃん!!」
「もしかして…朝からそこにいたっぽい?」
「急がなきゃ!!じゃないと怒られちゃう!!」
体が走り出したと思ったら、急に視界が微睡んだ。
視界が晴れた時、私は海の上にいた。
「義明の奴、逮捕されたのにまだ提督だと思ってんのか?」
声のする方を見る、いたのは靄に顔が包まれた人だ。
服は黒で、剣の様な物を持っている。
腰にはリボルバーがぶら下がっており、声からして男の人だ。
何処かで聞いたような、力強くて安心感のある声だった。
「あたし達、大丈夫なんだよね、――。昔みたいに戻ったりしないよね!?」
「大丈夫だよ、既に勝負は目に見えているからね」
不安に包まれた声に、まるで母親の様な優しさで答える。
前を見たら、巨大な飛行船支援母艦が半分に割れて燃えていた。
驚きのあまり目を閉じて、そして開けたら状況は一変していた。
「汝は健やかるときも病めるときも、加古様を愛し、助け合うことを誓いますか?」
そう言ったのは、神父服を着たお爺さんだった、
しかし本から目を離していない所から、初めてやっているんだと思う。
その後も続き、そして誓いのキスをする場面。
横を向き、ベールを外してくれた人は…裕兄だった。
その顔は、今まで見たこともない幸福感で溢れていた。
その手は、真の幸せを優しく掴み、決して離さないような力強さで溢れていた。
その口は、自然と綻び、何か暖かい言葉を言おうとしていた。
その目は、優しく相手を見ており、喜びで泣きそうだった。
そしてその瞳には…私ではなく、以前何処かの写真で見た女の顔が映っていた。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う
これは全て嘘、幻、妄想、現実ではない
だって現実では裕兄は今、過労で倒れ病院で眠っている…
違う
思い出す、都合のいい世界…妄想の世界ではなく、理不尽で地獄の様な世界を。
知名裕一ではない、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフという兄…いや、『元』兄を。
これは恐らく、ロイ教官の過去。
始まりから、幸せの絶頂を見た。
これから見るのはきっと、終焉だろう。
そう思って意識を前に向ける。
荒れる海で、波に呑まれていた。
ロイ教官を見つけ出し、掴み、鎮守府に向けて投げる。
その瞬間で全てが止まる。
海も、空気も、雲も。
そして私の視界も。
まるで終わって止まった動画の様に動かない。
しかし、唯一一つだけ動く者があった。
「俺・深・棲・・・・飲・せろ」
とても喋れるような姿勢ではなかったが、しっかりと喋っていた。
「俺に深海棲艦の血を飲ませろ!!」
その声で目が醒める。記憶の世界から現実の世界へと戻る。
「美波さん!!深海棲艦の血ってまだある!?」
「艦長!?あるが…どうした急に」
「急いで教官に飲ませて、本人から許可は貰ったから」
「許可を!?一体如何やって…しかし分かった。研究用に教官自身が与えてくれたのがある」
それからは早かった。美波さんが深海棲艦の血を教官に輸血し、目覚めてくれた。
…その数瞬後、ロイ教官の体が燃え始め、数秒後には灰も残されず消えていった。