「お兄ちゃん!!こっちこっち」
「裕兄速く速く!!」
懐かしいようで懐かしくない幼児がこっちに向けて手を振る。
誰だったか、朧気に名前は出てくる。
まだツインテールの方は若干だが分かる。
岬阿賀だったか、伊崎明乃だったか。そのどちらかだ。
しかしもう一人の方は全く分からない。
忘れてはいけないようで実の所忘れても大丈夫な気がする。
「おーい、ロイ。こっちこっち」
今度は後ろ…海の方から声がする。
知っている顔だ。しかし本人ではない。そっくりさんだ。
「…」
上から視線を感じる。
私は頭を垂れて膝をつく。
何故こんなことをやったのか自問自答を始めようとした時その視線の主が喋る。
「貴方…名を何と言うのですか」
「ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフで御座います」
「…分かりました、これを御覧なさい」
何も喋ってないのに自分の声がする。
しかし陛下は御満足されたのか水晶玉が現れる。
「これは…このままだと逃がしますね」
「ええ。記憶も戻り始めたみたいだし、話そうかしら」
記憶について話しているが私は私です。
ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ、元親衛隊メンバーで陛下の剣。
コードネームはブリッジ。
今は横須賀で教師をやりながら横七提督としてアベルと戦っている。
そして自爆特攻を応急修理女神で無駄にされ死んだ。
・・・ざけんな、怒りが込み上げてきた。
「陛下、直ぐに戦場に戻らせてください。私はまだ…」
「いいえブリッジ。いえ、ロイ。まだここに居てもらうわよ」
「何故です、このままではアベルに逃げられます」
「身体を手配するのは難しいのよ…」
「失礼しました」
陛下が仰っているのだ、待とう。
「そういえば、不思議に思ったことはない?」
「不思議に?何をでしょうか」
「自分のことよ」
何を…と言いたくなったが答えは水晶玉に映った。
多くの軍人が深海棲艦と戦い、為す術なくやれてた中、一人屍を築く者。
「私は何故深海棲艦を殺せるのでしょうか、人間なのに…」
「説明しましょう、それは貴方に深海の血が流れているからです」
「私に?私は人ではないと」
「人間離れした身体能力ではなく、人間ではない身体能力…」
陛下は説明して下さった。
私の家系、ヒドルフ家について。
曰く、私の家は代々海軍関係者らしい。
大昔から家主は帆船などの艦長や司令長官として、バイキングや海賊、外国の軍と戦ったらしい。
そして必ず沈められ漂流した村や島で生涯のパートナーを見つけ結ばれる…。
傍から見たらとんだ羨ましい奴だが、実際は違う。
沈めているのは深海棲艦で、結婚するのも深海棲艦。
目的は深海棲艦が地上に出た際、サポートするためらしい。
深海の血が濃くなると時の女王に自ずと忠誠を誓ってしまう。
他にも同じ家はあるらしく、元帥の家もそうらしい。
話を戻そう、そして私の母に当たる方は当時親衛隊長と近衛隊長を兼任していたらしく、
その家の者は皆強く戦果を挙げてきたらしい。
とどのつまり、私はその中でも一番の方の息子、故に強いらしい。
「知名裕一には深海の血が流れていませんので、輸血は危険でした」
「お陰で食事という最大級の娯楽が消し飛びました」
「それは失礼、ですが身体を御用意できず申し訳ございません」
「お伺いしますが、何故用意出来なかったのでしょうか」
「私の友人がまだ役目は残っているとのことで渡してくれませんでした」
「魂は取れたのにですか」
「もし友人に知られたら大変な騒ぎになります」
その友人はきっと人や深海棲艦ではないのだろう。
陛下も深海棲艦か怪しくなる。
――
「さて、身体が届きました。これからどうします?」
「聞かなくてもお分かりの筈です。私は裏切者を始末しにいきます」
「良いでしょう、ではこちらに」
水晶玉から綺麗な光る白い手が伸びてきたので掴む。
すると強い力で引き込まれ、自分が水晶玉越しに見える。
少し驚いたが、きっと魂だけを掴んでいるのだろう。
そしてあれは亡骸、中に何も詰まっていない。
「貴方にはやはり彼女が似合う、行きなさい、親衛隊。貴方は自由です!!」
光に包まれ、急降下する。
地面を貫き雲を貫き再び地面を貫く。
――
「敵本隊を発見、攻撃します!!」
「よせ!!そいつは危険だ!!」
ケンプファーが数機、敵陣に突撃する。
対空弾幕が薄いから、容易に撃破できると思ったのだろう。
「ふふ…愚か者がぁ!!」
相手の射程に入った瞬間、弾幕が厚くなり付近のMS隊を撃墜する。
「あんなの倒せないぞ!!如何やって戦えばいい!?」
「既に武蔵は確保したらしい、副司令もこれ以上は追撃できないと」
「目的は既に果たした。撤退しても文句は出まい」
「文句?出るさ。アベルを逃がせばもう殺せるチャンスは二度と来ない!!」
ザク改やズゴックE型、ハイゴックのパイロットは怒鳴りあう。
だが答えは出ない。出る気配すらしない。
理由は簡単だ。アベルを倒せる技量が横七全体にもう無いからだ。
「スパルタンと交代したらどうだ?彼らなら技量もある」
「無理だ、MSはこの場にあるのが全てで操縦できるのも横八艦隊にいる奴だけだ」
「インフィニティに連絡してアーチャーミサイルを頼むか?」
「頭上で迎撃されるのが関の山だ。砲弾ならいけるかもだがな」
「兎に角、補給だ。連戦で弾薬が尽きかけてる」
――
「第何波か分からないけどまた来てます!!」
「飽きねえ連中だ、包囲下のスパルタン隊は大丈夫か!?」
「幸いにも武器庫で戦っている。弾と重火器には困らないようで健在だ」
「攻勢に出た部隊が着くまで持ち堪えろと伝えろ」
アーチャーミサイルによる爆撃は精密で、防御陣地を残してくれていた。
お陰で攻勢に転じても徴発ステーションで補給でき継戦能力は落ちない。
だがこのまま地上戦も泥沼化したら10年続くかもしれない。
何せ揚陸艦が本隊や対空艦隊などに囲まれる位置にいて攻撃できず永遠と上陸してくる。
兵を全滅させることで引き揚げさせようと思っても無尽蔵と言わんばかりに出てくる。
お宅らの兵士は畑から採れるんですか?えぇ!?
兎も角、それを打開する為の兵器は謀らずも手元にあった。
しかしそれらに初撃で命中させる距離に運ぶには埠頭まで確保しなければいけなかった。
つまり、追い返せというわけだ。
「スパルタンから、マンティスの使用を許可するようきています!!」
「うーん、スパルタンレーザーがあれば棺桶だがないしな、許可する」
「下水道守備隊から封鎖に成功したとの報告です!!」
「!!、海兵隊員はそのまま警戒、スパルタンは地上で攻勢に参加させろ」
地図上の勢力図から深海棲艦が徐々に海に追いやられているのが分かる。
あるj…提督の言っていた、防衛で勝つと楽しいというのが分かる。
絶望的状況から増援の到達、隠し玉の使用で追いやるのが楽しい。
「包囲下の隊と合流したフェートン隊が砲撃位置の確保に成功したとのことです!!」
「車庫で待ちかねてる連中に連絡、出撃して位置につけ!!」
「マンティスに便乗して既に出撃し、位置に着いたようです」
「砲撃目標、敵揚陸艦。回避行動を取ってない今がチャンスだ。命中させろ!!」
モニターが一瞬輝く。そしてガウのカメラから送られている映像に爆発が映る。
そしてやや興奮気味の声で報告される。
「敵揚陸艦を撃沈、これでもう敵は陸上戦力を送れません!!」
雄叫びが司令室のみならず立案室や車庫のマイクからも聞こえる。
「目標を撃破、次の目標を教えてくれ」
横須賀に昨日からいた戦力ではトップクラスの活躍をした隊の長が興奮気味に言う。
「MTの砲撃はミサイルと違い高速でありながら小さく噴射音が聞こえません。
敵本隊を撃破してください」
「了解した、しかしアクティブカモフラージュの効果が切れる。大丈夫か?」
「移動中のみ使えれば良いです。構わず攻撃してください」
「了解、全車アクティブを解除。敵中枢を蹴散らすぞ」
埠頭に十数輌の自走砲が並ぶ。
全て緑色でモノアイがピンクの光を発している。
「良いですね、完全に自走砲化したヒルドルブは」
「提督が設計したんです、当然のことですよ」
「後は隊長の癇癪が無ければ最高ですね」
「いえ、ヒルドルブ隊の隊長は彼でなければ務まりません」
再装填の完了したヒルドルブは再び一斉に砲撃する。
「撃沈なし、しかし随伴艦が大破した模様」
「アベルには当たったのか?」
「それが…」
徹甲弾・榴弾到達2秒前に回避行動をとった?
これではいけない。このままでは本当にいけない。
提督がアベルに勝てなかった場合、討ち取るのはヒルドルブと考えていた。
事実砲弾は並の深海棲艦ではそのまま察知できず、察知できても当たる,数秒前なのだ。
それでも当たらない、爆破範囲に入らない。
これでは新しい方法を考えなければならない。
横八艦隊による海域単位の爆撃?被害の出るのだけ空中で爆破される。
MSによる突撃?技術が奴の10分の1以下の連中に勝てる筈がない。
このままだと核の使用を検討しなければならない。
「インフィニティから上空に落下中の人がいるとのことです」
「映像を回してくれ」
「それが早すぎてカメラが捉えれません」
「着水した時に見失うなよ」
それから数秒後、水飛沫を飛ばす事無く彼らは着水した。
波紋が広がったかすら疑いたくなるほど静かにだ。
物理法則なんてものを無視して着水したのは、この状況を変える者達だった。