「合衆国は今、建国以来最大の危機に瀕しています。一部高官らの独断によって開戦は決定され、多くの議員や閣僚は先の大統領のスピーチで開戦を知ったのです。遺憾ながらそれは上院、下院、副大統領に等しく。この先起こるであろう米横戦争は、先の深海戦争を見るからに想像できないものになるでしょう。ですので国民の皆様は軍に赴くのではなく、シェルターや地方の知人宅などに厄介になり、安全に過ごしてください。それが日本にいる副大統領である私が言える唯一の言葉です」
—―
「アーノルド副大統領、我々横七としてもこの戦争で民間人の犠牲者は0にしたい。だが落とし前は付けなければならない、分かるね?」
「ああ。今ここで処断されても文句は言わないよ」
彼は下手に出ている様で、実の所強気に出ている。まぁ、仕方のないことだろう。
「既に大統領やCIA、国防省、海軍や陸軍の長官は処断が決定された。他に銃器製造メーカーや戦闘用重装服を開発している連中もだ。こいつらは深海棲艦の仲間だということが既に分かっている。だからこそ、あんたにも聞きたいことがある」
「分かっている、それは…」
「「なぜ、RATsの研究を許可したのかだ(だろう?)」」
沈黙が場を支配するが、直ぐにそれは破られる。
「分かっているなら話が早い。では聞かせてもらおうか」
「…私の主な政策が差別問題の解消であることを知っているか?」
「ええ。時にはキャンペーンも実施していますね」
「それは、私の真の願いでもあるからだ」
—―
私の人生は、順調な滑り出しだった。
親は南側で農業関連の会長で、個人所有の大農園も幾つかあった。私はそこで何不自由なく農園や近所の自然を満喫する少年時代を過ごしていた。
ある日、近所の森で迷子になったとき、その近くの同年代の子が造った秘密基地にお世話になってね。それ以降、私は休みになれば秘密基地で過ごすことが多くなった。
だが、10代中盤を迎えつつあるある日、父が私をぶった。
理由は単純、秘密基地にいる黒人やヒスパニックの友達と関わっていたからだ。
それ以来、秘密基地には滅多に行かなくなった。だが、幾ら父に言われようと少年の、それも長い間自然に触れて生きてきた少年の心は変わるはずがなく、時間と場所を変えながら、時に偶然を装って、時に勉学に励むふりをして、友情を深め続けた。
しかしそれもやがて終わった。一向に有色人種と遊び続ける私を見た父は、同じ白色人種の用意した友達擬きを家に招いたり、友人の家族に圧力を掛けたりした。何より大きかったのは、父が引退するから後継者として遊ぶ時間も余力もなくなったことだ。
父亡き今、かつての友人との親交を取り戻そうと努力しているが成果はない。当時の私もある種諦めていたんだ、もう手遅れだと。だが、そうだったとしても、納得はしていなかった。肌に色があるかどうかで親が友人を選ぶ権利などないと。
こうした考えが今の差別問題に対する原動力となっている。
おかげで、そろそろ任期を一旦満了しそうだが、今でも政策を考える気になれるよ。
…ここからが、君の知りたい話だ。
差別問題解消に全くの進歩がなかったある日、執務室に女が訪ねてきた。名はアルバート・ベイル・ルライン。何度も名前を変えているが、頭文字を取ると必ず『ABR』か『ABL』になることから『アベル』と呼ばれている女だ。
そいつは「貴方の悩みを解決できる可能性のあるものができるかもしれない」と言ってRATsについて話始めた。意識の統一、理念の共有、自衛意識の強化。一歩踏み外せばマインドコントロールと呼ばれるそれは、確かに私の悩みを解決する可能性を秘めたものだった。
私は計画書に許可のサインをし、研究用の海上プラントに必要とあれば予算も都合した。事実に基づかない差別を解消する為、私の様な苦しみを他の者に味合わせない為に。
そして試作品が完成したと聞き、見に行ったときの喪失感は計り知れなかった。完成したのは凶暴になるのが感染する、電子機器をダメにする鼠だった。研究目的も、敵地に放ち自滅を誘発する為というわけの分からないものになっていた。
帰りの船で、私は計画の破棄や予算の凍結、鼠を含めた研究成果に実験器具の全てを焼却処分し、プラントも爆破するよう命じた。
のだが、アベルはそれを良しとせず表面上はやったように見せかけて日本の機関にて研究を続けさせていた。その後は君の知る通り、アベルは実は人ではなく深海棲艦で、RATsも完成し実戦投入されていた…と。
—―
「これで満足かね?」
「…はい、ありがとうございます」
話を進めるにつれて、彼の顔は少しずつ暗くなっていったな。だが、それでいい。私は例え深海棲艦でなくとも世界を破滅させるに充分なものを作る計画にGOサインをしたのだ、ここで殺されても文句はない。
いや、一つだけあるな。またあの故郷の山の、おそらく誰も整備してないから既にボロ小屋と化した秘密基地で、友人らと酒を飲みたい。
「副大統領、あなたにはもう少し頑張ってもらいます。詳しいことは後日伝えますので、今は少し不自由な生活に慣れてください」
「えっ?私をここで殺さないのかね」
「あなたを殺す理由がないので」
そういうと、彼は扉を開けて出ていった。
私は自然と、ゆる気が溢れ出ていた。
—―
アメリカが横七に宣戦布告をしたことで始まった米横戦争は、一週間で終わりを迎えた。それも超大国アメリカの惨敗という形で。
開戦初日にワシントンD.Cと臨時首都のニューヨークが武力によって無血占領。その後も開戦を決定した政府首脳は転々と逃げ回るも一人、また一人と逃げ遅れたり、クーデターや逃げた先の住民に捕まり最終的には西海岸へ列車で移動中に横七の主力に発見され、全員逮捕された。
その後は横七が正義のせの字も無い裁判で次々と処刑していき一週間後にアーノルド副大統領が一部の反乱を詫びる形で平和条約が結ばれ、終戦によって国交が生まれた。
横七はその後、航空技術の供与を目的とした親善会を日米同時に行い、各国首脳に「貴国には未知の技術に対する専門知識を有する優秀な野党議員がいる」と皮肉の電報を送り御破算となるも、飛行船の改良などを行って空の発展に努めた。
他にも海賊やテロリスト、アカや麻薬カルテルに対して「便所に隠れていても息の根を止めてやる」と第三回横七基本方針公表会で発言し赤色帯や海賊問題のあるソマリアなどに軍を派遣している。
またロイやその妻加古は日本の横須賀市で結婚式を執り行い、その後正式に入籍したという。(噂では高校生が数人血涙を流したり水雷関係で抗議をしたとの話が…)
これにてハイスクールフリート 転生者と若き人魚 AnoterStoryは終了です。ご愛読ありがとうございました。
では、次は何を書くかと言われたら、まだハイスクールフリート 転生者と若き人魚 AnoterStoryを書きます。
具体的には横須賀決戦時、深海棲艦の血を飲んでも燃えず、アベルを倒し、加古と出会わなかったという世界線を書いていきたいと思っています。
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