ソマリアは紅く燃える
私が横須賀女子海洋学校に入学して航洋艦晴風の乗員となったあの春は、もう八年前の事だった。
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横七とRATsを操る深海棲艦が、世界中で戦った第二次深海戦争は深海棲艦の首領が戦死しその後の残党を横七が狩ったことで終結した。
その中でもRATsが日本本土に一番近付き、また横七と深海棲艦の一大決戦が行われた横須賀決戦は多くの死者・行方不明者を出した。
当時、記録員として晴風に搭乗していた私はその時の海をよく覚えている。
深海棲艦によって海は黒く染まり、空は横七の艦隊によって青がなくなっていた。その中で横七提督のロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは己の身体に猛毒である深海棲艦の血を輸血させ瀕死の状態から回復し深海棲艦首領アベルを追い詰めていった。
決戦はアベルの戦死によって統制を失った深海棲艦が敗走し横七の勝利に終わった。だが横七の戦力も酷く消耗し、艦艇や航空戦力の大半を喪失、横須賀市内にて防衛を行っていた海兵隊・スパルタンの壊滅、提督ロイの重傷を始めウォイル、レイの戦死によって追撃戦が出来なかった。
敗走した深海棲艦はその後立て直し、BM本部のあるハワイ、ニイハウ島へ進路を採った。しかし横七はそれらに対し横七本島を隕石のように落とすことで殲滅に成功する。
これによって第二次深海戦争の幕は下りたが勝者である横七は各地の支部が壊滅、本部も海中に没したことで帰る場所が無くなり、横須賀の荒廃した駐屯地を仮設本部として立て直しや戦災復興などを行う。
だが数日後、提督のロイが横須賀女子海洋学校にて授業中に倒れ、仮設本部に緊急搬送、その後死亡が公表される。死因は深海棲艦の血液を輸血したことによって体内に現れた深海棲艦特有の成分による体組織の崩壊だった。
その年は代理のスパルタンが来たが、冬頃に仮設本部が一晩で消滅し、スパルタンも卒業式を迎えると去っていった。
それから横七の行方は掴めず、国際的な大捜索が行われたが、何の成果も無かった。また、アメリカが主導の海底に没した横七本島を調査する為、総額8000万ドルが使われた『オペレーション・シーバード』で巨大な海上プラントや潜水艇が造られたが、海底の景色をエレベーターで降りて行けば見れるようになったこと以外何も得れなかった。
これらのことを鑑みて、国連及びBM、WDは横須賀決戦日の終戦記念日にて横須賀第七鎮守府の活動停止を正式に認めた。
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「岬艦長、ソマリア基地司令より帰還せよとの命令です」
「今日はいなかったね。進路をソマリア基地へ」
「了解、進路をソマリア基地に」
司令の急な帰還命令に少し驚いたけど、出来るだけ表に出さず命令を出す。ここ最近ソマリア沖での海賊が活発化していて、横須賀にも援軍要請が来たほどだった。
出港前に送られてきた報告書を呼んだところ、BIG7や大和型を超える大きさの砲を持っている戦艦や、酸素魚雷と思われる魚雷を積んだ武装艇がいるとのことだった。
初めて読んだとき…いや、ソマリア基地に向かうまでずっとそれを何かの間違いだと思っていた。
前者だとそれを積める船体を造るところから問題になる。大和型建造以降、世界の海軍艦艇は大艦巨砲主義から巡洋戦艦主義というものに変わっていった。内容は41cm未満の主砲を積んだ巡洋戦艦で臨機応変且つ縦横無尽に動けるかららしい。尤も、それが主流となった理由は46㎝を超える砲やそれを積んでも以前と変わらぬ速力を出せる機関の開発と巨大な船体やそれを造れるドックなどで予算の問題があったからだ。
そして巡洋戦艦主義の一番の問題は、ドクトリンとして完成して以来、一度も巡洋戦艦を主力とした海戦が起こっていない為、効果が未知数なことだ。。
それはともかくとして、仮にあったとしても飛行船の目に留まるし、巨大ドックの整備を海賊が出来る筈がなかった。
後者に至っては更にありえないことだった。酸素魚雷は日本政府が名指ししてでも守りたい技術で、アメリカやイギリスが技術提供を要請しても断固としてつっぱね、仮に横七が要求した場合は設計図のある施設と生産工場を爆破する予定だったらしい。
そんな態勢が功を奏したのか酸素魚雷に関する技術流出事件や海賊による使用はなかった。少なくともこの報告書以外では。
だからこそ、何か錯覚を使ったものであると思っていたが、報告は嘘も誇張も錯覚などによる認識異常でも無かった。
ソマリア沖の海賊討伐を行ったところ、3隻に2隻が先進国であったり海軍強国の新兵装を積んでいた。ここに来てもう二カ月だけど日に10隻は検挙や撃沈している。
だけど今日は珍しく一隻も発見できないまま、母港であるソマリア基地に向かった。
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ソマリア基地、それは悪化するソマリア沖や紅海の海上治安問題解決の為1990年代に設営されたBMの基地だった。BMの基地と言っても別にWDお断りではないし、一般のタンカーや輸送船も停泊することがあった。
だが近年の海賊問題で艦艇の損耗はかなり酷くなり、修復と新造艦や各国の派遣艦隊を主軸に何とか回っているソマリア基地は元々50隻が限界だったが、突貫工事や土地買収の結果、敷地は元の30倍、300隻の停泊にも耐えれる一大拠点となった。
「うわっ!!」
「キャッ!!」
岬明乃指揮の重巡洋艦が帰港し司令官に報告して戻っている途中に、一人の少年とぶつかってしまう。
「君、大丈夫!?」
「はい、貴女こそ大丈夫ですか?」
「私は大丈夫、ごめんね」
岬明乃は立って少年の手を取り、立たせる。
「ありがとうございます…あっ、今は航海歴史室は清掃中で通り抜けできませんよ」
「あっ、そうなの。ありがとう」
少年は自分が出てきた部屋が清掃中であることを伝え、違う道で帰ろうとするのを見て言う。
「あの…そっちよりも早く艦に戻れる道ありますよ」
「えっ?私がどの艦に勤務してるのか知ってるの?」
「ええっと、二カ月ぐらい前から日本から岬明乃と宗谷真白が指揮する重巡洋艦が来ていることを知っていたので」
「へぇ…」
その後、少し裏道を通ったりした結果、普通に戻るよりも早く戻れた。
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「あっ、艦長と…少年?岬艦長、その子如何したんです?」
タラップを降りながら、私は艦長に質問する。ドイツ系の顔の少年は、私の事をじっと見ていた。
「この子が道案内してくれたの、おかげで早くこれちゃった」
「はぁ…もうそろそろ出航です。早く艦橋に来てください」
「分かったシロちゃん」
「だから、しろちゃんではなく副長若しくは宗谷さんと…はぁ」
艦長は昔から本当に変わっていない。この前も観艦式の際にマイクを切っていないにも関わらずシロちゃん呼びをしようとしていた。
ふと、まだ少年が立ち去っていないことに気付き、声を掛けようと思い、近付いた時、体が浮いた。
耳鳴りがし、タラップの上を転がるも何とか立って周りを見たとき、戦慄した。
アフリカでは喜望峰やジブラルタル、スエズに次ぐ大拠点、ソマリア基地。最大停泊可能数300、人の数に至っては100万人も収容可能な一大拠点が、一大拠点が
燃えている。
ドックの屋根は剥がれ落ち、中から出てきた軍艦は炎に巻かれ艦橋が焼け落ちる。積まれたコンテナは轟音を立てて落下し、司令棟は燃えて、やがて姿を消した。
「うわああぁぁぁ」
叫び声のする方向に目を向けると、少年が炎に包まれていた。助けようとにも方法がなかったときに、少年は自ら海に落ち、その火を消した。
私は少年を急いで引き上げ、胸骨圧迫をしたところすぐに息を吹き返した。
その後、生存は絶望的、救助活動は不可と難を逃れてたアメリカの沿岸警備隊所属の艦長の意見が出て、私達は取り敢えずインドに、彼らはスエズを目指して出港した。
その影を何者かが見ているのなんて気にせずに。