4月中旬
南極という何もかもを凍らせてしまう大陸。岬明乃率いる7隻の艦隊は、それらを漸く目視で捉えた。
「ナイアットとダッケインは上陸を。磯風、浦風、谷風、浜風に本艦は南極大陸近海の哨戒をします」
電探に反応はなし。目視による確認でも水上目標は確認できなかった。
「天候は暫く安定するようです。一応ソナー撃っときますか?」
「うん。油断はしたくないからね」
桜艦隊。旗艦桜は勿論の事、近代化改修を施された陽炎型にとっては、水中の索敵すら朝飯前である。何人たりとも、彼女らの水中探信を受けてはその姿を隠すことはできない。
そう。何人であっても。
「!!水中に何かいます!!」
「対潜戦闘!!」
反射的に叫ぶも時すでに遅し。海面から現れた一本の太い光線が豪陸軍軍人1500人と船員100人の乗るナイアットを包む。
水面には、何も残っていなかった。まるで初めから、何も無かったかのように。だがそこにナイアットはいた。それを示すのは空を舞う燃える旗だけだった。
「な…」
「ナイアット、連絡取れません!!」
「爆雷を投下、急いで!!」
「ダッケインは座礁させてでも上陸させて!!」
爆雷が海に落とされ、適当な深度で爆発する。
気泡も残骸も出てこないので、まだ沈めれてはいない。
そんな中でもワームホール出現位置に一番近い場所にダッケインが到着し、半壊した豪陸軍3個大隊が急いで上陸する。
それを脇目に見つつ、5隻が同じポイントに集まる。
「水測員の報告によれば、目標動いてません」
「サナーを撃ちますか?」
「うん。5隻同時にソナーを。万一を考えて回避行動を取りつつ」
少しの沈黙。だが、ソナーの結果を見て誰もが安堵の息を漏らす。
「反応なし」
動いているものも、海中でとどまっているものもない。
「逃げられた?」
ナイアットを沈めたのはソナーに映った潜水艦。そしてそれはほとんど一瞬で姿を消した。潜水艦の魚雷攻撃ではなく光線。そして、予想ではあるもののワームホールによる撤退。何をどう考えても横七以外ありえなかった。
—―
「この氷の裏に、クランクが。これを回しますと…」
脅威は去ったと判断し、最低限の人を残して桜艦隊の乗員もマッケンの捜索の為、出現位置の調査をしていた。
そして現在、発見した横七の南極基地の入口を見ていた。
とても広い空間。恐らく、放棄されたが故に物は何もない。
「見事なカモフラージュです。横に開く航空機用の格納庫のハッチ。車輌の出し入れするためのエレベーターもありましたが、破壊されえていました。人用はこっちです」
暖かい風に触れつつ道を進む。
「大隊長、大佐は発見されましたか?」
「いいえ、岬艦長。発見されたのはこのカセットテープだけです。それもノイズだけの」
「ノイズだけ?ノイズ除去は出来ないの?」
「専門の機材がないと…ですが、耳の良い者に聞かせましたが、ノイズ以外の音は甲高い音だけとのことです」
「ありがとう。貰っておきます」
掲示板と思われる板を見る。
「全部劣化してる。ここに人は長らく立ち入ってなかった」
「はい。人のいた痕跡は全くと言っていいほどありませんでした」
「急いで探して。多分、ここに食料はないから軽い栄養失調のはず」
—―
怖い、シンプルに怖い。
先行した部隊から、既に放棄されているとは聞いていたから、暗いことは予想できた。だけど元からほとんどない陽の光は地下基地の為届かず、非常用の照明も点いていなかった。
そして無音。頼りになるのは懐中電灯のみという始末。
効率の為と無茶言わず、何人か連れてくればよかった。
「ついてない…」
はぁ、と溜息をつこうとした瞬間、
カタカタ
という音が聞こえその場で跳ねる。
何者かがタイピングをしている。それもあまり遠くない…扉を2か3戸開けたら出会えそうなほど近い。進めば進む程その音は大きくなっていく。
そして、間違いなくこの扉の先にいるというのが分かる程、大きくなる。意を決してドアを蹴り、中に入る。
「動くな!!こちらはBM特務艦た…マッケン大佐?」
「すまない真白副長、もうしばらく待ってくれ」
横七関係者と思っていたが、いたのは救出目標、バーナード・マッケンその人だった。
「一体何をしているんです」
「ああ。横七が計画し、実行中の計画を、私はこの偶然生きていた横七のデータバンクから奇跡的にも拾うことができた。今はそれをコピーしている」
「横七の計画?一体何です?」
軽い気持ちで聞いたそれを、私は少し後悔した。何の心の準備も出来ていなかった私にとってそれは、とても衝撃的だった。
彼は少し息を吸い、作業の手を止めて振り返り、私の目を見て言う。
「人類の滅亡だ」