「その…もう一度説明してくれないかしら。ちょっと理解が追い付かなくて」
オーストラリアのダーウィン基地から、日本の横須賀に電波障害の中直接連絡が取れているのは、以前から敷設されていた有線回線のおかげだ。
そして対応している人も、体は老けているが、頭はまだ現役世代よりも優れる面もある。
それでも混乱しているのは、それ程彼女にとってその情報が、理解できないものだったからだ。
「では、もう一度。横七の南極基地のデータバンクから、横七の実行中の作戦計画を発見しました。中身を見たところ、最終目的は人類の粛清です」
「彼は…ロイは、彼自身としては倒したかった深海棲艦を倒しただけと考えているんでしょうけど、その実行動の節々に人を思いやる優しさがあった。だから、彼がそんなことをするなんて考えれない」
「ですが、計画は存在します。コピーを横須賀に戻り次第渡すので。そして…次の横七の行動ですが…」
「彼ら、横須賀を襲いますよ」
対応している女性…宗谷真雪が口を開けたまま固まっている。
後ろで会話を聞いている岬明乃と宗谷真白も同じだ。
「続けますよ?攻撃開始時間は36時間後。そちらだと丁度0時を回ったところです」
「…」
「宗谷特別顧問?」
「あっ、ごめんなさい」
「彼らの横須賀攻撃の方法は恐らく、この写真の武器」
見えるかな…と零しながら、二枚の写真をかざす。
一枚は、ランチャー系の筒が入っていたことが分かる、空の箱。
もう一枚は、射撃試験結果の複数のクレーターが映っている写真とクラスター弾が拡散している瞬間の写真が貼ってある兵器概要の報告書。
「この兵器は、クラスター弾を弾頭とし、威力はコンクリートを深さ20m、半径3kmものクレーターを作る威力。弾速は秒速300m。拡散範囲は…横須賀市を丸々飲み込む程です」
兵器の威力を説明し、それがどれほど危険な物かを伝える。
「けど、横七の攻撃手段はそれだけじゃない…」
後ろから、ポツリと、岬艦長が呟く。
「ああ。横七は私達が空想の絵空事と思っていたガスを使わない空を飛ぶ乗り物を幾つも所有していた。それを使わない理由はない」
それに続くように、宗谷副長も言う。
「そうね。マッケン大佐、あなたはどう思う?横七が横須賀に対し、航空攻撃を仕掛ける可能性を」
「…横須賀襲撃の際、まずこちらのクラスターランチャーを使用。それによって防空陣地や指揮所を無力化。混乱している間に、夜間作戦用航空機で撃ち漏らした目標を破壊する…」
「つまり二段構えね。夜間作戦用機の使用というのは?」
「我々は横七の正確な居場所を掴めていない。視認性の悪い夜間では、早期発見能力も追撃能力も無くなり、何処から来たかを推測することすら不可能になる。彼らなら、まだ実用化できていない夜間作戦用航空機を量産していても可笑しくない。だからです」
「ありがとう。赤石部長にしらせておくわ」
—―
「岬艦長、話があります」
通信室を出て早々、マッケン君に呼び止められる。
「出航を半日早めることができます。補給や修理を急がせてもよろしいでしょうか」
マッケン君の言いたいことは分かる。横須賀襲撃に艦隊を間に合わせて防空戦に参加したいのだ。そうすれば最新鋭巡洋艦である桜の防空能力は遺憾なく発揮され、横七の航空隊を撃ち落とすこともできるだろう。
そして今の艦隊は、行きでセブン機関の燃料を全て使用してしまい、補給できていないので、通常航行で戻る必要がある。その為、一分一秒でも早めたいのだ。
「でも、それだとまだ半日足らないよ」
「はい。ですので桜単艦で出港します。そうすれば出港までの所要時間も3時間で済みますし、船速の速い桜は35時間55分で横須賀に着けます」
「ギリギリだよ。それに、単艦で航行している最新鋭巡洋艦を海賊が見逃すとは思えない。焦って横須賀と桜を同時に失うのは、一番いけないことだと思うな」
食堂に行くため、マッケン君から目を離し、歩こうとする。
一、二歩進んだところで、肩に手を置かれる。
マッケン君だ。まだ私と比べると年の差は大きい。けど彼はドイツ人。日本人の女性よりも大きい。そして威圧感も。まるで赴任一年目の時の基地司令のようだ。
「そんなに、かつての家族が人を滅ぼそうとしているのが信じられませんか?」
丁寧な口調で、しっかりと目を見て、ドスの効いた声で言われる。
「あなたとロイの関係を知らない訳ではありません。しかし、彼は現にこうして計画し、行動「うるさい!!」…」
「分かってる!!裕兄はもう敵、BMの敵!!ソマリア基地の犯人は横七だから。君を南極に誘拐したのは横七だから!!けど、けど、戦いたくないよう…」
言われなくても頭は理解している。だけど、心がそれを違うと叫ぶ。私の兄はそんなことをしない。彼は英雄やヒーローと讃えられても悪者、ヴィランと叫ばれ、恐れられていい人じゃない、と。
「もしかしたら…攻撃を中止できるかもしれません」
「えっ?」
「先程説明したように、桜単艦なら35時間55分で行けます。そして、このポイントに横七の観測艦が。この観測艦にはロイ本人が乗っている可能性大です」
つまり…
「つまり、話し合って中止させることが出来る?」
「はい。可能性は0ではありません」
「ありがとう!!私はこのことは基地司令官に話してくる。マッケン君は皆に伝えて!!」
「分かりました。頑張りましょう!!」
私は冷たい目で見られながらも廊下を走り、9時間繰り上げと桜単艦での出航を伝える。良い反応はされなかったが、それでも許可を得れた私は、3時間の間に真雪さんから渡された指令書を全て使って帰り道の安全を確保し、急いで横須賀に帰港した。