ここは譲れません
ウゲッ
「サーチライトが横七機を捉えました。射撃の許可を」
「一般市民の避難は既に完了している。高射砲及び対空機関銃、撃ち方始め」
ガガガガガ、ドーン、ドーン
長い間聞くことのなかった音が、狙われない為に灯りを全て消した暗闇の横須賀市に響く。
「高射砲、命中せず!!但し機関銃がW方向に散開した機に多数命中!!」
「よーし、W方向に行ったのをα、直進するのをβ、引き返したのをγと呼称する。航空隊は手負いのαを重点的に狙え。高射砲隊は待機。機関銃隊は機会が巡ってき次第撃て」
過去に資料で見た謎のシールドは、αを見る限り無い。ならばこの戦いは既に勝ったも同然だ。
「こちら月光隊、αの撃墜に成功。残骸はビル群の方向に行った。付近の部隊は注意せよ」
「月光隊、こちら司令部。良くやった、それと注意喚起に感謝する」
撃墜報告。勝利はもう掌の中にある。
「高射砲の射程に一機が入ります、射撃許可…あいつ、こっちを狙ってるぞ!!撃て、撃て!!」
ドゴーン、ドゴーン。
高射砲の砲撃音だけが、ヘッドセットを通して聞こえてくる。これでは高射砲隊がどんな様子か分からない。カメラを渡しておくべきだったと軽めの後悔をする。
「おい、どうした。状況を報告しろ、おい、おい!!」
二、三度同じことを繰り返すと、返事がやっと帰ってくる。
「すみません、こちら高射砲隊。接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。また、敵機はレシプロ機と判明」
「こちら機関銃小隊、敵機は撤退を開始、繰り返す、敵機は撤退を開始!!」
「何だと、主モニターに映像回せ!!」
小隊からの映像は、しっかりと横七製と思われる機体が横須賀から遠ざかっていく様子を捉えていた。
そして、それはつまり敵の逃走…我々が撃退に成功したことに他ならない。気付けば司令室のみならずパイロットや砲兵達も勝利の雄叫びをあげている。
「よくやった、お前達。そしてこの勝利は只の勝利じゃない。我々の技術はあの横七を超えたことを意味している。全員、次の戦いに備えて休め」
締めの言葉を少し早めに出す。
全員が弾薬や砲弾の入ったケースや砲や銃を解体しようとしていたり、飛行場へ部隊が航路を採る。
「緊急事態発生、緊急事態発生、司令部、応答願う!!」
「こちら司令部、どうした?」
「αの残骸が結集を始めている、おそらく数秒後に活動を再開…伏せろ!!」
ズギャギャギャという機銃掃射の音が聞こえる。応答はない。足音も聞こえない。ただ小さい呻き声が聞こえるだけだ。
「全部隊に通達、敵が再度攻撃を…」
「司令?」
待て、巡回部隊は最期に何て言った?残骸が結集し始めている。それはつまり、撃墜した機体が自己修復を行っているということだろう。そして実際に巡回部隊は機銃掃射でやられた。
胸騒ぎ。それと同時に一分前の報告を思い出す。
接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。
接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。
撃墜…γ、撃墜…接近!!
「高射砲隊、逃げろ!!」
「なんです、どうしたんです!?」
「γがお前たちを狙っている、今すぐに持ち場を放棄して逃げろ!!」
「γが?撃墜したはずで「敵機襲来!!こっちを真っ直ぐに目指してきてます!!」何だと!!総員緊急迎ℊ…」
爆発音と砂嵐。
それが意味することは彼らの死。
だが、それに落ち込んでいる時間は無い。
「月光隊はどうなっている!?」
「横須賀に戻り始め…撃墜されています!!」
「何だと!?」
「これは…対空砲火?違う…電磁波攻撃による機械系統への攻撃です!?」
「電磁波攻撃…どこから!?」
「…βが何かを流しています…公共電波にも影響があるもよう」
「テレビを映せ、どの局でもいい!!」
主モニターに映像が映る。電波障害の影響で長らく見ることのなかった放送だ。
尤も、内容は娯楽でもニュースでも料理番組や教育番組でもない。
ギリッ
自然と顎に込める力が強くなり、歯軋りをしてしまう。
一人の男が立っていた。その後ろは多数の大型艦艇や航空機、砲や兵士が綺麗に整列している。
何年も前の蜂起宣言と同じように。
「私は横七提督…いや、横七国家元首、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ!!我々は日本政府始め世界各国に対し、宣戦を布告する。事由は諸君らも痛感しているであろうことだ。それ即ち、死者への冒涜である。我々横七にはその存在や跡地への徹底調査と根拠なき批判。深海棲艦に対してはその存在の抹消。それらは永久の眠りに就こうとする我々を叩き起こし、怒りの炎を燃え上がらせた。だからこそ、我々は諸君らを絶望の世界へ案内し、残酷な死を贈る。覚悟しておけ」
映像が入れ替わり、横須賀の空を映す。定点カメラや兵士に月光隊に持たせたものではない。そして映っているのは国立横須賀プラネタリウム技術試験場…に偽装したO7型電探。そしてサブリミナルで映っているのはβ。
βは噴進魚雷…開発中のミサイルを発射し、離脱するような動きをしていく。そしてそのミサイルは真っ直ぐに防空部隊のいない横須賀の空を進み…O7型電探に直撃する。
「防空能力を失ってしまった…これでは核ミサイルを早期に発見することができない…」
宗谷さんから言われた、横七の計画。
都市を一撃で破壊できる、核弾頭を搭載したミサイルなる現在開発中の噴進兵器。それを世界中に発射し地球自体を破壊する。それを一早く発見できる能力を持ったO7型電探。
彼らにとっては一番の障害であったと想像するのは難くない。
国土保全委員会から中継を介した電文が送られてくる。
『貴公ら横須賀守備隊の活躍、しかと見届けた。夜間戦闘機の実戦運用、横七以外の人類初の航空戦、御苦労である。特に横七機の仮撃墜、実に見事であった。現在連合艦隊が帰還中である。ドックの復旧・整備を最優先せよ』
悪いようには思われていないようで安心した。しかしどういうことだと思う文もある。連合艦隊が帰還中…ドイツに向った艦隊が帰ってきている。日数から考えてハワイに着いたぐらいの筈。
「…戦闘完了、生存者は直ちに連絡を。こっちからも瓦礫除去や復旧作業の為に部隊を出す。東京の方の司令部にも応援を出すよう連絡入れといてくれ」
被害は大きい。高射砲隊に機関銃隊は全滅、月光も過半数が撃墜された。砲や銃、試作機とはいえ航空機。何よりO7型電探。笑って許しそうな保全委員会には悪いが、腹を切らねば自分自身を許せない。
だが、そんな愚行はしない。
07型電探は緊急時、運用状況を問わず地下に避難させることが許可されている。地下に避難させることが出来れば何重もの複雑な装甲と防衛システムが厳重に守る。
だが実際は避難されることなく、ミサイルが直撃した。
避難命令は赤石が出せる。あいつのことだから月光や展開中の部隊を思って出し続けた訳じゃないはずだ。
「車を用意してくれ、それとレスキューチームも」
「どちらへ?」
「な~に、友人の無様な面を拝みに行くのさ」
口でボロカスに言いつつも、胸の内のザワツキを治める為急ぐ。
それから間もなく、赤石局長は横七との取引があったと自白、駆け付けたレスキューチームに連行された。取引内容は赤石がO7型電探を避難させないことであったことは確認されたが、見返りは分かっていない。銀行口座を全て調査しても大きな変化や不明な歳入はなし。家宅捜査もされたが隠された金品はなかった。