「…」
横須賀の被害が無かったドックに、軽巡桜は帰港した。
昨夜の戦いにおいて、ロイの指揮する潜水艦と遭遇し艦橋に発砲され、数名の負傷者と一名の死者が出た。その後も逃走を開始した潜水艦を追撃しようとするも機関の過負荷が原因で横須賀付近で停止、翌朝、哨戒中のボートに発見され、曳航、現在に至る。
「彼の遺体はどうするんですか?こんな状況じゃドイツまで運べませんよ」
「話によるとアメリカ大使館が預かるそうよ。アラスカ、カナダを経由した後海路でヴィルヘルムスハーフェンに運ぶわ」
「…母さん、私は何もできなかった」
顔を伏せ、涙を垂らす真白を、母である真雪はそっと抱きしめる。
温かい抱擁を受け、少しづつ落ち着く真白を見て、ゆっくりと語る。
「しろちゃんは精一杯頑張ったわ。それに彼も。昔、一度だけ彼と会ったことがあるの。まだ幼いのに銃を持って戦う彼に、私は聞いたの。『どうして戦うの?死ぬのが怖くないの?』って。そしたら彼は何と返したと思う?『僕にはもう大切な残されたものがない。けど他の人は違う。だから僕は戦う。他の人の大切なものを守るために』そう彼は言ったの」
「じゃぁ、彼はあれで満足して死んだっていうの!?」
「そんなわけないでしょ!!…ロイを逮捕できなきゃ、彼は安心して眠れない」
「…」
横須賀基地の寮に真白は帰ろうとした時、一人のガタイの良い男が入ってくる。
「お前が宗谷真白か」
「は、はい。そうですが…」
「俺は鷹宮龍介大佐。日本軍の特殊テロ及び超技術テロ対策本部長及び緊急対応隊隊長。今回は横七の横須賀攻撃を超技術テロと判断し出動した。許可証はこれだ」
鞄からクシャクシャに丸まった紙を出す。
「それで、真白二等監察官に本部長殿は一体どのような御用件で」
「そうかっかすんな、宗谷の婆さん。対策本部は横七と繋がりのあった人間を全員監視する。あのバーナード・マッケンも元は横七本島捜索連盟の立派な関係者だった。そのマッケンがロイに狙われたなら、晴風元乗員で一時は家族同然の付き合いをしていたあんたらも狙われても可笑しくはない」
「あんたら…私もなのね」
「勿論。他に海洋医大で活動している美波という奴だったり海上レストラン開いてる伊良子や杵崎姉妹もだ。安心せぇ、監視言うてもそれは横七に対する牽制や護衛や」
ドタドタと重装の兵士が4人入ってくる。
「この二人が婆さん、こっちの二人が孫の護衛係や」
瞬時に美しい敬礼をする。
「それと、もう一人紹介したい奴がおる。入ってこい!!」
「はっ!!」
大きな声で返事がされ、鷹宮よりも大きい男が入ってくる。
「横七本島突撃守備隊長、横須賀決戦の際は、前線の武器庫で包囲されながらも守り切りました。スパルタンのイエローウッドです。コールサインはシエラです」
「スパルタン!?」
「ああ。何でも事を最後まで見届けられるよう護衛を出してくれたらしい」
「はっ!!閣下からの伝言を伝えます。私の成すことを最後まで見届け、そして理解し、それを伝えることを君達に任せる。スパルタンはそれを達成するために必要な存在だ。以上です」
「あ…あなたは、横七本島の位置や目的を知っているんじゃないんですか!?」
真白はシエラに叫ぶが、反応はない。代わりと言わんばかりに鷹宮が首を振る。
「こいつはその話題に反応しない。おそらくそうプログラムされているんだろう。彼の持ち物を検査したが自前の武器とスーツ以外何もなかったしそれらにも隠されているものは無かった」
「そう…」
話題が無くなり、鷹宮が外に出ようとした時、真白のスマホが鳴る。
「メールだ。内容は…高級レストランで食事。差出人は不明…」
差出人不明のメールに困惑する。自分の身近な人に高級レストランで二人分の食事代を払える人間など母か真霜しかいない。しかし片方は目の前にいるしもう片方だって差出人の名前は出る。
「取り敢えず行ってみたらどうです。今は護衛もいますし」
「ああ。是非とも行ってほしい」
シエラと退出したはずの鷹宮に推され、真白はその差出人不明の誘いに乗ることにした。
—―
都内某所 夜
「こいつをここまで持ってくんのには苦労しましたよ」
白人だが小柄で禿げた男は、大きなアタッシュケースを机の上に置く。
「私は要求されたものを出したんですよ。そっちも早く出してください」
机を挟んで反対側に座る男は、二つのアタッシュケースを置く。
「拝見…素晴らしい、これが私達が長年追いかけた…」
もう一つのアタッシュケースに手を伸ばした時、鋭い眼光を浴びせられる。そして机を数回指で小突く。
「な~に、ちょっと忘れていただけですよ。あなたが要求した品。我が民間用銃器研究販売会社の最新のブツ。こいつを運ぶのにも苦労したんですぜ」
焦りながら二つのアタッシュケースを机の上に新たに置く。
「最新モデルのハンドガンです。フルバーストの場合秒間72発、専用のロングマガジンは最大のドラム式にすれば3000は入ります」
「確かに、このモデルだ。だが…オリジナルではないな」
「…こちらに」
男がこの場で初めて喋ったことで、すこし焦りながらまた二つのアタッシュケースを置く。
「これを製作するよう言ったアメリカ軍の女将校はこの設計図と要求スペックを言って去りました」
そう言いながら、一つのアタッシュケースを開ける。
中にはロングマガジンのハンドガンの設計図とメモ書きが入っていた。
「秒間で400は最低。威力も一発で核シェルターに穴を空ける程。当時は勿論、今でもそんな要求を満たせる技術は持っていません。女将校の代理人を名乗る人物にそのことを伝えたら、こちらを渡されました」
もう一つのアタッシュケースを恐る恐る開ける。
中身は一本の紫色の光を放つ鋼材と弾丸だった。
「この鋼材を使った所、400は優に超え、500、600、700、物によっては800も連射できたのです。そしてこの弾丸、これは何重もの超合金を貫通しました。これらを使用・改造し、造られたロングマガジンハンドガン二丁は再度訪れた女将校が持ち去っていきました」
「この鋼材と弾丸はまだあるのか」
冷たい声で言われ、間髪入れずに答える。
「こ、鋼材は本社の隠し金庫に。開けるにはパスワードと電子ロックに加え私の指紋、声紋、IDカードを夜の3時から4時の間に入力・解除することが必要です。弾丸は改造したのを含め、全て代理人が回収していきました」
「そうか…」
「ど、どうして横七の元首たるあなたがこのようなことを聞くのです?あなたなら聞かずとも造れたはずです」
「私が知りたかったのは設計図でも材料でもない」
「じゃぁ何です?」
「鋼材の隠し金庫の開け方だ」
机を叩き割ったと思ったら、頭を掴んで持ち上げる。それに少し遅れて、アサルトライフルを持った部隊が入ってくる。
「いたぞ、本部に連絡。本命は商人、本命は商人!!」
「動くな、このビルは既に包囲されている」
扉からドタドタと入ってきたと思えば、窓を割って突入する部隊もいる。
「な、なんでここにいることが…まさか売ったのか!?」
「お前はここで死んでもいいだろ?」
「えっ?」
窓から突入してきた隊員に投げつけ、その隊員ごと外に落ちていく。
「う、撃て!!撃て!!」
全員の銃口が光を放つ。
「無駄だ」
そうは言うもロイは逃げず、避けず、守りの姿勢も取らない。
そして命中。だが倒れる様子も膝をつく様子もない。ただ着弾する瞬間にオレンジの光がロイを包んでいることが分かる。
「シールド…悔しいが、一度後退する。撃ちつつ後退!!」
「逃がすかよ」
格闘戦を一つしかない扉の前で展開する。扉から入ってきた部隊は逃げれたが窓から突入した部隊はそこで倒された。
ロイを確保或いは殺害するこの戦闘は、まだ始まったばかりだった。