「鷹宮大佐が到着しました!!」
案内してくれた兵の声を聞きながら、テントの中に入る。
建物の見取り図、多くの通信機、数多のバッチを胸につけるエリート将校。
横七と戦うにはやはり戦力差を感じる見た目である。
「私が指揮を執る。爆破作業を急ぎつつ一階に増援の部隊を展開、ロイとの交戦に備える。後退中の部隊はグレネードを使用し足を止めろ」
「しかしグレネードでは奴を倒すに至りません」
「物は使いようだ。崩落を起こし生き埋めにしろ」
持ち込んだ端末が部隊の位置を示す。エレベーター前で止まっている。おそらく待っているんだろう。
「来ました、ロイです!!」
「よし、手榴弾を足元に投げろ」
「了解、投擲!!」
カチカチカチとピンを抜く音と爆発音が聞こえる。
「うまくいきました、生き埋めです!!」
「よくやった。至急エレベーターに乗れ」
「りょうか…瓦礫が動いている?…奴だ!!ロイはまだ健在だ!!」
叫びながらもエレベーターに駆け込んでボタンを連打するのは訓練されたが故の行動か恐怖からかは分からない。だがそれでもいい。作戦通りだ。
「こちら突入部隊、エレベーターに乗って後退することに成功した。これからの指示を…」
ガガガガガガガ無線の声を掻き消す重い金属音。それを聞いた隊員のパニック。
「エレベーターの扉を強引に開けている?」
全員の視線が上に集まるのを無線越しに感じる。
シャー…ロープとの摩擦で生じた金属音だろうか、それが聞こえたと思ったらドゴンと金属を叩く音が響く。
「来るぞ!!撃て、撃てぇー!!」
「馬鹿野郎!!ロープに当たって切れたらどうする!?」
ブチンカシャ―――
何かが切れた音と金属の摩擦音。隊員の泣き叫ぶ声がヘッドセットから溢れ、思わず外してしまう。するとドガシャーンと建物から大音がした。
「…総員戦闘態勢!!」
マイクに向けて叫んだ後、俺は自分の新しい銃や携行品を急いで取って戦う為に走った。
――
大日本帝国陸軍、それは大和男児の目指す所。それは誇り高き皇軍。それは家族や御国を守る最後の砦。それは…それは…それは失墜の代名詞。
帝国陸軍の最盛期、それは明治時代だろう。眠れる獅子と恐れられていた東洋の大国、清に対し、日本は圧倒的と言える勝利を飾った。
その後の日露戦争でも、南下をするロシア帝国と戦い、旅順攻囲戦や奉天会戦で少なくない犠牲を出しつつも勝利した。
しかしその後の地殻変動による陸地の沈没と大陸進出の足掛かりを失ったこと、海軍の重要性が高まったことで陸軍は年々予算が大きく削られ、少ないときは数個師団だった。
現代でもそれは変わらない、寧ろ悪化している。
船は女が乗るもの、そんな考えがあったことで国防に就きたい人間が陸軍に流れていたもののWDの発足やナナヨコ時代のロイに影響を受けた『漢の水上戦闘会』によってそれらも失われた。
――
「状況はどうなっている!?」
数分間走り、現場に着く。そこでは部隊がエレベーターを監視していた。
「動きはありません。しかし爆破作業ができなくなりました」
「そうか…生存者もなしか」
僅かに開いた隙間から、血が流れる。
あの中に何人もの戦士が生き埋めか潰されて死んだ。
「手榴弾を中に投げろ。無線の内容から察するにロイはエレベーターにいる可能性が高い」
「…了。投擲します!!」
順番に手榴弾がその僅かな隙間からエレベーター内に侵入し、爆発する。
だが、それではやはり終わらず、爆発によって大きくなった隙間から、腕が出てくる。それは少し奥に戻り、手が扉を掴む。
「opensesame(開けゴマ)」
小声で聞き取れなかったが、直ぐに体は動いた。
「ロイだ、撃て!!」
軽機関銃をエレベーター向けてぶっ放す。
気づけば部下も各々の銃をエレベーター目掛け撃っていた。
「無駄だぁ、そんな武器じゃシールドも破れない!!」
「チッやはりか…総員、高電圧砲準備」
横七のシールド、それを破る為に開発された新兵器高電圧砲。詳しい原理は分からんが、シールドに高電圧で発射された鉄をぶつけることでその鉄に送られた電圧がシールドの発生装置に負荷をかけ破壊させるらしいそれを構え、狙う。
「テロ対策の部署が秘密裏に新兵器の開発をしていたと聞いてはいたが、それが…」
「くらえ!!」
高電圧砲が命中し、金色の光が失われる。
「…やるじゃない」
何もせず突っ立っていたロイが一瞬で視界から外れ、三人を蹴り倒す。すると柱の陰に隠れたので、大口径の銃やランチャーでその柱を撃つ。
「ゴホッゴホッ…いるか!?」
「ダメです、逃げられました」
「…そないなら、仕方あらへん。負傷者は救護テントに。無傷なら生存者を探すぞ」
—―
「ううっ…はぁはぁ、な、なんとかだが生きてるぞ」
あの男、この俺を外にぶん投げやがって。一体あそこが何階だと思っていやがる。
だが、俺は実に運がいい。突入してきた兵士がクッションとなり幸い軽傷で済んでいる。それに横七のあの航空機と幾つかの銃の設計図も貰えた。
航空機は日本が世界をリードしているがじきにアメリカ製の航空機が世界を席巻するだろう。そして俺は世界一の億万長者となって生きるんだ。
「いけない、アタッシュケースを探さなければ」
空中で離してしまったがそう遠くはない。近くの植え込みに隠れていた。
「へへ、へへへ…」
再び出会えたねぇ愛しの設計図ちゃん。さ~確認させてよねぇ。
「な…なんなんだこれは!!」
0:03…0:02…0:01…
「騙しやがったな、ロイィィ―――!!」
大きな爆発が二回起こり、近くの建物の窓や精密機械を破壊する。
当然のことながら、爆心地にいた男は生き延びることはできなかった。
――
「大佐、横須賀における戦闘の報告書です」
「傍から見ているだけの癖に立派な物をお作りになる」
椅子に座る男は部下と思われる男に皮肉を言いつつ書類を掠め取る。
「やはり動いていたか」
「はい。このままでは計画に支障が出るかと」
「構わん。むしろ面白いではないか。私としても実に楽しみだよ」
椅子から立ち上がり、カーテンを開ける。そこは大きな島に建てられたプラットフォームだった。
「こんなに正確だったのに、なぜ見つけれなかったんだ」
「私には分かりません。ですがこちらから何かアクションを起こしますか?」
「いや、その必要はない。彼らが直に見つけてくれる」
強い風を感じながら下に降りる。
「ここにある核ミサイルで世界を混沌とさせてやる。そうなれば放射能汚染された世界で活動できるのは横七一つだけだ。私によって破壊され、私によって創生される。待とう、諸君。我々はただ待っているだけでいいのだ。そうすれば王も、奴隷も自ずと集まり、罠にかかって息絶える。はっはっはっはっは」
その笑い声は風に乗り、海を行き、陸に届く。
だが風に乗った段階で声は声と認識できなくなるまでに変化をするのだった。