いつか黄金の世界で   作:Schweitzer

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第11話

「―――平和ね。」

 

 アミエリタと別れその足で、街の中心にしてシンボルである時計塔の頂上に赴き腰を下ろしていた。

 

「ねぇ、ユーグスタクトの魔女ってなんなんだろうね」

 

 ほんの少し冷たい夜風に髪をなびかせながら背後に控える数人の使者達に顔を向ける。しかし使者達は答える事なくただ沈黙し主であるアストリッドの命を待っている。

 

「どうしてママは消えなきゃいけなかったのかな?」

 

 夜景を見下ろしながらアストリッドは待っていた。

 

「あ、来たわ。お疲れ様、ありがとう。」

 

 少女がそっと手を伸ばすと白い小鳥がその指に止まった。鳥の小さな頭に額を乗せ情報を得る。脳裏に流れてきたのはどこかの室内。優雅にお茶を飲みながら休憩をしている青年の姿。

 

「―――見つけたわ。」

 

 鳥を消し立ち上がり鎌を虚空から取り出す。

 

「ユーグスタクトの使者よ!あいつを見つけた!敵の数は5。全員魔術師と呪術師。あいつ以外殺せっ!」

 

 使者達は主の命に頷き音も無くと走りだした。屋根の上を飛ぶように移動し目的の建物へと向かう使者達。

 

「人間の分際で気安くママの魂に触れるな!」

 

 鎌の柄を握り締め使者に続き走りだすが焦る気持ちと苛立ちから走るのを辞め飛行に切り替える。舞うように飛びながら体内にいくつもの魔法陣を刻み展開準備に入る。

 

「撃ち、砕けっ!!!」

 

 アストリッドが鎌を振り下ろすと前方にあった建物の壁に穴が空いた。部屋の中では先に到着した使者達が魔術師たちを相手に戦闘をしていた。そんな中優雅に椅子に座り戦場を眺めるルネット・ラザフォードがいた。ラザフォードの前に降り立ち魔力を放ち威嚇をする。

 

 「おや、やはりあなたは来てくれましたか。あなたの使い魔に細工して正解でしたよ。お茶でもいかがですか?せっかくなので一緒にお茶をしましょう」

 

 威嚇されても顔色一つ変えずにこやかに、客人をもてなすように笑う

 

「うるさいっ!ママの魂はどこ!」

 

「さぁ。少なくともここにはありません」

 

「封印石ごと封印したのね―――返して!」

 

「それは出来ない話しですよ。まだ、ね。」

 

 ラザフォードは美しい中世的な顔にぞっとするほどの涼し気な笑みを浮かべる。アストリッドの背中に冷たいものが走りおもわず一歩下がってしまった。

 

「確かにあなたは強い。だけど今はまだ私の方が強い。なぜだか分かりますか?」

 

「ゴチャゴチャうるさい!」

 

「ご自身の足元を良く見てから言いなさい。」

 

「!?」

 

 突然全身の力が抜けガクンとその場に崩れ落ちるアストリッド。

 

「…な、にを…」

 

「対魔女用の拘束魔方陣です。魔女の活動源であるコアに干渉して体内に流れるはずの魔力を強制的に外に流出させる陣ですよ。魔女に使えることは確認できましたが何分ユーグスタクトに使うのは初めてで賭けでしたがまさか効くとは思いませんでした。」

 

「っ・・・ゆ、ユーグスタクトの使者よ!陣を破壊して!壊せっ!!」

 

 アストリッドが叫ぶが何も起こらない。不思議に思った瞬間、手に持っていた鎌が消えた。

 

「―――え?」

 

 それどころか先程まで戦闘をしていたはずの使者達の姿が見えない。辺りを異様な静けさが満たす

 

「どうして?…ユーグスタクトの使者よ!出て来て!出て来なさい!…来て

よ!!!」

 

 アストリッドが叫ぶが使者は現れない。それどころか魔力が正しく体内を循環していない。確かに魔力はちゃんと身体の中で生産できている。しかし作られた瞬間に身体から出ていっている感覚がある。

 

「当たり前じゃないですか。魔力が強制的に外に流出させられているのですから使者を呼びだし維持するための魔力もあなたから切り離されるわけです」

 

「っ…」

 

「今のあなたは何も出来ないただの小娘。あなたが散々見下してきた人間の小娘と何も変わらないんですよ」

 

座り込み呆然とするアストリッドを見下すラザフォード

 

「ねぇーるるっちー終わったぁー?」

 

破壊された扉から10代後半の少女が軽快な声と共に現れた。黒い三角帽子とマントを羽織った少女は紫色の髪の毛を掻き上げながらラザフォードに近づいた。

 

「えぇ。予定通りユーグスタクトを捕獲しましたよ」

 

「うわぁー本当の本当にユーグスタクトだぁ!殺して、切り刻んで食べたらどんな味がするんだろうねぇ。あ、血も飲んでみたいかもぉ」

 

「その程度で彼女が死ぬとは思いませんけどね。そもそもあなたに“味覚”なんてあるんですか?」

 

「だよねぇー。じゃあさ、いっそ生きたまま先に切り刻んでから鍋に放り投げて脳を磨り潰してみるってのはどぉ?ユーグスタクトを食べたらすんごい発想しちゃうかもなぁー。んでもって、おもしろいもの書けそう♪」

 

「ひっ…」

 

 聞くに耐え難い会話の内容にアストリッドの喉が小さく鳴る。今の自分は魔法が使えない。本当にか弱い人間の小娘と同じなのだ。ずっと魔法に頼ってきた、だから今の状態では自分を守ることすらできない、守り方が分からない

 

「まぁそうするのも面白そうですがまだこの小さなユーグスタクトには役目があります。殺してはいけませんよ」

 

「はぁーい」

 

 本当に残念そうに返事をする少女。先の発言から一先ず自分はすぐには殺されないと分かったが何かに利用されるようだ

 

「そういえばグイードのおっさんはどーしたの?」

 

「あちらは別件で動いてもらっています。それよりナーシャ、あなたはここにいても大丈夫なのですか?」

 

「む、確かにその陣に近づいちゃあ平気じゃないわぁ。でも今はへーき。ねねっ、あなたのお名前はぁ?」

 

「…」

 無言で睨み上げるアストリッド。魔力は使えず、身体は鉛のように重たい。そんなアストリッドを見ているのが面白いのか更に近づきにっこりと笑う。

 

「えー名前、教えてよぉー。同胞は結構見たことあるけどぉユーグスタクトは別格だもん。生で見るの初めて!」

 

「―――どう、ほう…貴女も魔女なのね…なら私に敬意を示しなさいよ。相手が誰だか、分かっているの?あんまり失礼な態度を取るなら壊すわよ」

 

 拘束され自分の身体すら自由に動かせないにも関わらず態度だけは立派なアストリッドが面白いのか大げさにお辞儀をする少女。

 

「えー知っているよぉ。あたし達魔女の支配者、ユーグスタクト様。だけどねぇ、残念だけど貴女にあたしは殺せないよぉ?あたしねぇ、ナーシャ・イグノランス。イグノランスの魔女だよん」

 

「イグノランス―――無知の家…魔女の裏切り」

 

 すっとアストリッドの瞳が細くなる。

 

「―――魔女に生まれながら魔法を使えず、血を裏切る者。その家の名をイグノランス。裏切り者の名をナーシャ・イグノランス。ユーグスタクトの名において彼の者の全機能の停止を命じる……あれ…?」

 

本来なら全機能の停止命令を出された瞬間、魔女の身体は弾け消し飛ばされる。魔力が使えずとも破壊出来るはずだがナーシャには何も起こらない。それどころか面白そうにニンマリ嗤う。

 

「ふっふーん、だからぁ、言ったでしょぉ?殺す事が出来ないって。忘れたのぉ?今の状態の貴女は魔法が使えない。使えたとしてもねぇ、あたしの家の名の役割を思い出してみてぇ?ね?」

 

  イグノランス―――与えられた名の役割は裏切り。

 

「どこまでも裏切るのね、イグノランス。魔女だけではなく家すらも裏切っていたとはね」

 

「そっ。まぁー仕方ないじゃん?イグノランスってぇそう作られたんだしぃ?でもぉ魔女の癖に魔法が使えなくてもあたしのような天才的発想で魔方陣とか生み出す事に特化しているのがイグノランスなんだよん」

 

「ナーシャ、おしゃべりはそこまでにして外の掃除でもしてきてください」

 

「りょーかい。じゃっ、また会おうねーユーグスタクト様ぁ♪」

 

 まるで友達と別れるかのように手を振り床に瓶を投げつける。瓶が割れ液体が床に広がり小さな泉を作るとナーシャはその中に入って消え、泉は気体となって消滅した。

 

「イグノランスの魔女は魔法が使えないはずよ」

 

「魔法が使えなくても魔女としての魔力はあります。貴女も知っているはずですよ。あの家はただ魔力を運用する能力がないだけで魔力は等しく存在する。そうでなければ魔具は作れないですからね。まぁナーシャの場合はイグノランスの中でも異色の天才児。我々人間にも魔女にも思いつかないような方法で魔法を使ってきます。」

 

「そっ」

 

 適当に適当に頷き立ち上がろうと力を入れるがやはり立つことは出来ない。別の方法を使い魔力を練ろうとするがそれも出来ない。完全に手詰まりとなってしまった。

 

「さて、ようやく二人きりで話せますね。」

 

「―――私は人間と話すつもりはないわ。」

 

「ただの小娘に成り下がってなお口だけは達者ですね。いいでしょう。この際どちらが上なのかはっきりとさせておきましょうか」

 

「ユーグスタクトの魔女を嘗めるなよ、に…きゃあ!!」

 

 僅かな魔力を搔き集め魔力砲を放とうとしたアストリッドは、突然何かに押し付けられたように床に倒された。

 

「ぅぐ…げほっ!」

 

 喉に詰まった異物を吐き出そうと咳きをすると血を吐き出した。

 

「対魔女用の魔法陣がユーグスタクトにも効いたのでこれも試したかったんですよ」

 

 まるで自慢のおもちゃを見せびらかす子供のようなにこやかな笑顔でアストリッドの胸の上に短剣を突き立てた。

 

「っ!―――重力・圧迫系の魔術ね、それにその短剣、かなりの毒を仕込んでいるみたいだけど。でも、残念ねこの程度じゃ私は死なないわ」

 

「別に殺すのが目的ではないので構いません。私と取引をしませんか?」

 

「断る、って言、ったら?」

 

「実力行使のみです」

 

「ぁぁああああ!!!」

 

 ズドンと質量を持った見えない何かに押し潰され悲鳴をあげるアストリッド。その小さな身体の骨は嫌な音をたて粉砕されていく。内臓も押しつぶされ破裂する感覚もある。普通の人間なら即死の傷だが、ユーグスタクトはこの程度では死なない。死なない身体は、痛みに気絶することさえも許さない。

 

「さてどうしますか?」

 

「…っ…取引は、…はなし、聞くわ・・・。」

 

「停戦を結び私と協力して先代のセイラ・ユーグスタクトの魂を回収しませんか?」

 

「それをして、なんのメリットがあるのよ・・・人間がユーグスタクトの魂を扱うには、負担が大きすぎるのに…」

 

「ですからその為にあなたが必要なのです。我々は人数で効率よく魂を回収できます。しかしあなたは一人だ。我々は魂を扱うことは出来ないけどあなたにはそれが出来る」

 

「だから・・・?」

 

「私のものとなってください。アストリッド・ユーグスタクト」

 

「っ・・・」

 

 あごを捕まれ、頬を撫でられる。ラザフォードの手は冷たくて気持ちが悪い。もう片方の手で首を絞められる。魔法を使って筋力を強化しているのかその小さな首から骨が軋む音が聞こえてくる。気道を潰されたがその程度問題はない。

 

「―――決めたわ。断る」

 

 激痛に顔を歪めながらも不敵に嗤う少女。

 

「ほぅ?」

 

「私は人間となんか与しないし、あんたの物になるつもりなんて、ないっ!!」

 

「!?」

 

 瞬間、アストリッドの身体から暴力的な量の魔力が吹き出した。慌てて少女から離れ距離を取る。

 

「バカなっ!魔力は使えないはずだ!!」

 

「えぇ。確かに魔力は使えなかったわ。でもあなたはユーグスタクトの魔女をなめすぎよ」

 

 胸に突き刺さっていた短剣は白く小さな手で触れられるだけで粉々に砕け消え去る。動けなかったはずの少女の身体はゆっくりとだが起き上がった。まるで目覚めをの朝を迎えたように優雅に、そして立ち上がる。

 

「時間はかかったけど所詮発動済みの魔術。ゆっくり割り込みをかけて外に流れるはずの魔力を自身の身体に向けたのよ」

 

「そんなことをしたら負荷に耐えられず肉体が!」

 

「えぇ、お陰で血を吐いたわ。でもユーグスタクトの魔女はこれくらいじゃ負けない。骨を砕かれ、内臓を破裂させられても、この程度問題ない・・・よくもやってくれたな人間。ユーグスタクトの怒りと屈辱をその身で思い知れ!!」

 

 少女が手の中にはいつの間にか漆黒の巨大な鎌が握られていた。鎌を振り上げ魔力を流し込む。ユーグスタクトの魔女がまるで死神のように鎌を振り下す

 

「ウォール!!!」

 

 漆黒の闇のような影を纏った刃が空気を高度に圧縮した壁に阻まれる。

 

「小さな箱庭、箱庭の人形!来れ、我が前に!!」

 

 ラザフォードが虚空に高速で陣を描く。

 

「逃がさないっ!」

 描かれた陣の内容を読み取り魔法で毒を染み込ませた鎌を空間と共に陣を切り裂いた。

 

「―――ちっ!」

 

 しかし発動する前に切り裂かれた陣は注意を引きかせる為の囮だったのかすでにラザフォードはどこにも居なかった。敵を逃がし、目的の物も手に入らず八つ当たり気味に部屋を破壊する。部屋を破壊した事で拘束や結界魔法の陣も破壊したのか魔力が戻り、魔法を使わなくても身体が動くようになった。

 

「―――・・・ぅ・・・ぁあ・・・」

 

 疲れたように座り込み自身の体内で未だに暴れ狂う魔力の流れを調整する。

 

「・・・あは、あはは・・・強がっちゃったけどやっぱりきつかったなぁ・・・」

 

 確かにラザフォードの言う通りだった。魔力の流れを自身に向けてユーグスタクトの魔女だろうがやはり無事ではいられなかった。表面的には無事でも体内のいたるところが破損して自力では修復できない傷を作ってしまった。多分これ以上人間界に留まり魔法を使い続けるのは本格的にまずい。今敵に襲われたら、今度こそ確実に殺されてしまう。

 

「―――帰ろ・・・お城の礼拝堂に還れば時間かかるけど、治るかもしれないし」

 

 血を吐き捨て空間を歪めアストリッドはその中に身を投げた

 

 

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