いつか黄金の世界で   作:Schweitzer

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 月明りが静かに照らす真夜中に、自室で休憩をしていたところを叩き起こされ呼び出されたギルバードは報告を聞きイライラしたように部屋を言った入り来たりしている。

そんな従者を呆れたように横目で見ながらも資料を捲る手は止まらない。

 

「少し落ち着いてはいかがかしら?ギルバード。紅茶を飲みなさいな」

「あ、あぁ」

「今晩の件についてなにか進展はありましたか?」

「いえ。夜中で目撃者が少ない上、場所が場所だったもので」

「―――呪術、魔術師専用宿。確かに戦闘は行われていたのは確認出来ましたが調査隊が向かって何も進展はなし。」

 

 呪術、魔術師専用宿、また厄介な場所で戦闘をしてくれたものだと深いため息をつくギルバート。魔術等を使用する者が安心安全に宿泊できると売りに出している宿はそれらを使用しにくい結界に囲まれているため痕跡が残りにくく調査が難航していた。

 

「調査の途中の報告では魔女の痕跡もありませんでした。この件にはユーグスタクトを筆頭にその他の魔女の関与も認められなかったとのことです。」

「会議で進展なしとなると厳しいですわね。痕跡はその道のプロが証拠隠滅を行った可能性もありますわね。」

「あぁ」

 

 やっと落ち着いたのかソファーに座り紅茶を口にする。

 

「まだ調査が続いているのであれば私たちは待つしかできませんわね。」

ため息をつくと資料を机の上に置き暖かい紅茶を飲む。

「ところで貴方が以前お話しをしていたアリスさんというお方とはお会いできましたか?」

「ここ一週間街中を歩いてみたが見かけることはなかった。」

「そうですか、普段はどちらにいらっしゃるのでしょう。早くお会いしてみたいですわ―――」

 

 

 

 

 

 冷たい吹雪で覆われたユーグスタクト城。止まぬ吹雪は世界を冷たく、深く包み込んでいた。細部まで豪華な装飾の施された威厳のある作りの立派な城は静まり返っていた

 

「―――ぅ・・・」

 

 城の一角にある歴史を感じさせる礼拝堂。本来信者の為にあるはずの席はすべて取り払われ床一面に複雑な魔法陣が描かれている。人間が神に対し持つ信仰心を持ち合わせていないユーグスタクトにとっての礼拝堂は自身が生れ落ちた場所であり、魔力を高め、自身を世界に繋ぐために必要な神聖な場所だ。

その魔法陣の中心。

固く冷たい大理石の上で眠る少女。いつもの紅いローブではなく、肩を露出させた白いドレスも身に纏っている。髪も、肌も、服も真っ白な少女は瞼をきつく閉ざし時折苦しそうに顔を歪め、寝返りを打つ。先日の戦闘で想像以上のダメージを受けていたようだった。城に帰りその足で礼拝堂についた瞬間ローブが弾け飛び、白い布が身体に巻き付きドレスとなった。細かな装飾が施されたドレスは、装飾自体が魔法式の部品となりドレス全体が魔法式として成立するように組み込まれていた。少女自身では足りない魔法をドレスに組み込まれた修復魔法を使い治療を続ける。

 

「―――ママ…ローレンヌ様…痛いよ…寂しいよ…」

 

 弱々しいアストリッドの声が、気が狂いそうなほど静寂な礼拝堂に響く。城に戻ってからずっと礼拝堂に籠もり治癒に専念してきた。自身の従者であるユーグスタクトの使者達が動き回る気配は分かるがそれ以外の気配はない。狂いそうになるほどの静寂の中、アストリッドはただひたすら治療を続けている。

 

「…」

 

 意識が戻ったのかゆっくりと瞼を開けそっと辺りを見渡して自身の身体に魔力を流し状況を確認する。

 

「―――あと、少しだ…そしたら、またアミタのところに行こう…向こうは何日たったんだろう…一年経っていたら、アミタ怒るだろうなぁ…」

 

 静寂の中、自分が狂わないように、ここにいることを確かめるように声に出す。時間の流れが狂っているユーグスタクト城。そんな空間に何日も居たら今が何時なのか正直分からない。もしかしたら人間界は100年経っている可能性もあるし、逆にまだ1分も経っていない可能性もある。どれぐらいの時が過ぎたか知るすべはない。だから今はとにかくまた魔法が使えるようになる為に治療を続ける。

 

「あぁ、そうだ…ギルとの約束もある…ギルに会おう。てか、勝手に死んでいたら許さないんだから―――それから、あぁ、やっぱり最初はアミタのところ、いこっと」

 

 早く身体を修復したら行きたい所は沢山ある。楽しみが増え嬉しそうに目を細める。

 

「?」

 

 ふと気配を感じ、目を向けるとユーグスタクトの使者が入り口に立っていた、

 

「どうしたの?・・・そう、向こうは一週間なんだ・・・あなたマメね。自我に近いものを持っているし、時間も理解できるなら、お城勤めの上位個体の子かな・・・あそこはどうなった?」

 

 僅かに使者が身動きをする。使者と記録をリンクさせ自分が戦闘の爪痕を残してきた建物を視る。ユーグスタクトの痕跡を沢山残してきてしまった。本当は早く痕跡を消しに行きたいのに体は動かない。

 

「あぁ、そう・・・そっか、あのラザフォードとかいう人間が細工したのね・・・むかつくけど助かったわ。」

 

 使者の記録からユーグスタクトと魔女がいた痕跡が消え去っていたことにとりあえず安心をする。

 

「それで?イグノランスの当主とはコンタクト取れた?・・・わかった。行く前に知らせは出すって伝えておいて」

 

 使者と接続を切り再び寝返りを打つ。

 

「―――また、会えるかな…」

 

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