『デート・ア・ライブ ■■■の精霊』の『最新話』
を更新をさせてもらいます‼︎
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本当にありがとうございました‼︎
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【しおり】などしてもらえたら豆腐メンタルな
自分にとってはとても嬉しいです‼︎
出来れば、更に『評価』してもらえたら自分的には
嬉しいです‼︎
最後に『他の作品』も見てくれたら、自分的にも
とてもありがたいです‼︎
「………」
士道が手にした伝票に書かれた数字と、自分財布の
中身を交互に見ながら、ふうと息を吐いた。
ほとんど残らないが、辛うじて払いきれる額
だった。
「ほら、行くぞ十香」
「ん、もうか?」
十香が目を丸くしながら言う。士道は急かすように
立ち上がった。これ以上ここにいては皿洗いか
食い逃げしか退路が残らなくなってしまう。
士道がレジに歩いていくと、十香もそれについて
きた。周囲の客にも、そこまで刺々しい敵意は
放っていない。だいぶ人のいる街に慣れたよう
だった。とりあえずは安堵して、レジに伝票と、
有り金九割にあたる紙幣を三枚置く。
「お会計お願いします」
言って士道はレジに立っていた店員に声をかけ──
「……ッ⁉︎」
盛大に眉をひそめて、一歩後ずさった。
なぜならそこに立っていた店員が、
「……はい、お預かりします」
見覚えのある、目の下に分厚い隈を拵えた、
やたらと眠そうな女だったのだから。
「な、ななななな……」
「ん? どうしたシドー。敵か⁉︎」
この上なくわかりやすく狼狽えた士道に、
十香が戦慄した顔を向けてくる。
「いや、違う違う……」
力無く十香の言葉に否定を示す。
と、いやに可愛らしい制服を着て、肩にクマさんを
乗せた令音が、その眠たげな双眸をギラリと輝かせ、
士道を睨みつけてきた。
一瞬、「こんなところでバイトしているなんて誰かに
言ってみろ、殺すぞ」みたいな視線かと思わなくも
なかったが──すぐにそうではないことに気づいた。
「……こちら、お釣りとレシートでございます」
士道が驚いている間に手早く会計を済ませた令音が、
紙面をトントンと叩きながらレシートを渡してくる。
そのレシートの下の方に、『サポートする。自然に
デートを続けたまえ』という文字がしたためられて
いたのである。
つまり今の視線は、士道が令音と知り合いである
ことを十香に悟らせることなく、デートを続行しろ
ということ……なのだろう。
「い、いや、なんでもない」
士道は十香に言ってレシートをポケットに
ねじ込んだ。令音が、研ぎ澄ましていた視線を
いつものぼうっとしたものに戻す。そしてレジ下の
引き出しからカラフルな紙を一枚取り出すと、
士道に手渡してきた。
「……こちら、商店街の福引き券になっております。
この店から出て、右手道路沿いに行った場所に福引き
所がありますので、
場所を詳しく説明したうえ、後半をやけにはっきり
言ってくる。士道は頬をかいた。よろしければ、
ではなく絶対に使えというのだろう。
とはいえ、そう念を押されなくともよかったかも
しれない。
「シドー、なんだそれは」
なぜなら十香が、福引き券をもの凄く興味深そうに
見つめていたのだから。
「行ってみるか?」
「シドーは行きたいのか?」
「……おう、行きたくてたまんねえ」
「では行くか」
十香が、大股で元気よく店を出ていく。
士道は令音に軽く頭を下げてからそのあとを追った。
「──ご苦労さま、令音」
レジの陰に隠れていた琴里は、二人が店を出るのを
確認してから立ち上がった。
「……慣れないね、どうも」
零音がやたらとフリルのついた制服の裾を持ち上げ、
抑揚のない調子で言う。
これが──作戦コードF-08、通称・オペレーション
『天宮の休日』である。
〈ラタトスク〉には、ありとあらゆる可能性を
考慮し、細かく分ければ一〇〇〇以上の作戦コード
が存在している。これはそのうちの一つだった。
精霊がこちらの観測をすり抜け、士道に接触した
場合──〈フラクシナス〉クルーが街の住人に
溶け込み、陰ながら士道をサポートするのである。
このためにクルーは、皆最低一カ月、劇団の演技講習
を受けている。
「似合ってるわよ。可愛い可愛い」
琴里は飴を舐めながらそう言ったあと、
すぐに携帯電話を開いて電話をかけた。
「ああ、私よ。今店を出たわ。……ええ、
なるべく自然にね。失敗したら皮を剥ぐわよ」
簡潔に要件とペナルティを伝え、電話を切る。
「第二班のスタンバイは完了しているみたいね。
──さて、私たちは〈フラクシナス〉に
戻りましょう。こちらの声が届かないにしても、
映像だけでは見ておかないと」
「……ああ、そうしよう……ところで一体なぜ、
〈フラクシナス〉からレストランに来たのかね?」
令音が思っていた理由を琴里に質問すると
「そうね…私がここまで赴いた理由はね……」
琴里は苦い顔しながらも困った仕草していた。
それを令音は察したのか
「……もしかして〈アテナ〉かい?」
令音がそう言うと琴里はピクリと反応をさせる。
「そう…ね、さすが令音ね……その通りよ」
琴里は令音にそう言ってさらに言う。
「〈アテナ〉のことについて同じ精霊である十香なら
彼女のことについて何かしら知っているかと思って
〈フラクシナス〉からレストランに急いで来て
みたけど……結果は残念ながら何も知らなかった
みたいだけどね」
琴里は苦笑いをしながら肩をすくめて令音に言うが
「……今の十香の反応を見ていて分かったが
十香が〈アテナ〉について何か知っているとは
思えないのだが?」
「念の為よ。念の為……自分の目で確かめておきた
かったのよ。それに何故だか分からないけどインカム
や小型カメラの調子が悪くなってしまったから心配
だったのよ……まあ、今のところ士道は無事だと
いうことが分かっただけでも良かったわ……
とにかく〈フラクシナス〉に戻るわよ」
「……分かったよ、琴里」
「さあ──私たちの
「えーと、福引き所……あれか」
士道と十香が店を出てから道なりに進むと、
赤いクロスを敷いた長机の上に、大きな抽選器が
置かれたスペースが見えてきた。
ハッピを羽織った男が、抽選器のところに一人、
商品渡し口に一人おり、その後方に、賞品と思しき
自転車やら米やらが並べてられていた。既に数名、
人が並んでいる。
「………」
士道は頬をかいた。
うろ覚えであるが……ハッピを着た男たちはもちろん
のこと、並んでいる客の顔もまた、〈フラクシナス〉
内部で見たことがある気がしたのだ。
「おお!」
しかしそんなもの十香に関係あるはずがない。
士道から受け取った(というか、ものすごく物欲しそうに見るものだから持たせてやった)その福引き券を握り
しめて、目を輝かせる。
「ほら、じゃあ並んで」
「ん」
と、十香がうなずき、例の最後尾につく。
前に並んだ客が抽選器を回すのを見ながら、
首と目を目まぐるしく動かしていた。
すぐに十香の番がくる。十香は前の客に倣って券を
係員に手渡し、抽選器に手を掛けた。よく見ると係員
は〈
「これを回せばいいのだな?」
言って、ぐるぐると抽選器を回す。数秒後、
抽選器から赤いハズレ玉が飛び出した。
「……っと、残念だったな。
赤はポケットティ──」
士道が言いかけたとき、川越が手に持っていた鐘を
ガランガランと高らかに鳴らした。
「大当たり!」
「おお!」
「は、はあ……?」
と、士道は眉をひそめだが……川越の後ろで
別の係員が、後ろにあった賞品ボード『1位』の
ところに書いてある金色の玉を、赤いマジックペン
で塗り潰しているのを目撃し、声を出すのを止めた。
「おめでとうございます! 1位はなんと、
ドリームランド完全無料ペアチケット!」
「おお、なんだこれはシドー!」
「……テーマパークか? 聞いたことない名前
だけど……」
興奮した様子でチケットを受け取る十香に、士道
が訝しげな調子で返す。すると川越がずずいと顔
を寄せ、
「裏に地図が書いてありますので、是非!
これからすぐにでも!」
「……っ、は、はあ……」
気圧されるように一歩下がりながら、チケットの
裏を見る。確かに地図が書いてあった。というか
もの凄く近かった。
「こんなところにテーマパークなんて
あったか……?」
士道は首をひねったが、まあ、〈ラタトスク〉の
指示である。何かあるのだろう。
「……行ってみるか? 十香」
「うむ!」
十香も乗り気なようで、とりあえず足を運んで
みることにする。
場所は本当に近かった。この福引き所から路地に
入って数百メートル。まだ両側には雑居ビルが
並んでおり、とてもではないがテーマパークが
あるようには思えない。
だが──
「おお! シドー! 城があるぞ! あそこに
行くのか⁉︎」
十香が今までになく興奮しながら、前方を指さす。
そんな馬鹿なと思いつつチケットの裏面から視線を
外して顔を前に向ける。
「……ッ」
瞬間、士道はその場に凍りついた。
確かに小さいながらも、西洋風の城である。
看板にドリームランドとも書いてある。
……ついでにその下に『ご休憩・二時間四〇〇〇円〜 ご宿泊・八〇〇〇円〜』という文字も書いて
あった。
まあつまりは、大人しか入ってはいけない愛のホテルだった。
「も、戻るぞ十香……っ! 俺ってばうっかりさん
だから道を間違えた!」
「ぬ? あそこではないのか?」
「ああそうだ。ほ、ほら、早く戻るぞ」
「あそこにも寄っていかないか?
入ってみたいぞ」
「……ッ! い、いやいやいや。今日のところは
やめとこう! な⁉︎」
「むう……そうか」
残念そうに言う十香には悪かったが、さすがに
あそこは無理である。
「はあ、まったく……琴里のやつ……」
十香が納得してくれて安心したのか士道が
ため息を吐いた。
もし、この場面を誰か知り合いにでも見られでも
したら黒歴史どころじゃ済まなくなる。
士道が「良かった……」とそう考えていると
「こんなところでなにをしているの……五河君?」
「え?」
聞いたことがある声が聞こえたので振り返ると
「れ、零……‼︎」
そこには信じられない物を見たような驚いた表情
を浮かべている零が立っていた。
「こんなところで一体、何をしているの……?」
「い、いや、これには事情があってだな……ッ‼︎」
士道は零にこの状況をどうやって言い訳しようかと
考えていると
「シドーそいつは何者なのだ?」
「そ、それは……」
十香は零が気になったのか士道に質問すると
士道は悩んでいた。
(ど、どうする……? 零なら殿町みたいに
言いふらすタイプじゃないと思うけど……
事情は伏せて話すか?)
零に十香のことを誤魔化すのは更なる誤解を
生んで逆効果であると判断した士道は決心して
十香に自己紹介をする。
「彼は十六夜零。俺の通う来禅高校の生徒で俺の
友達だ」
「おお‼︎ ということはシドーの親友なのだな‼︎
だったら安心だな‼︎ 私は十香というよろしく頼む‼︎」
「十六夜零だよ。よろしくね、十香ちゃん。
気軽に零って呼んでね?」
「うむ! 零だな‼︎ しっかと覚えたぞ‼︎」
「ありがとう十香ちゃん。ところで、五河君……」
零は視線を十香から士道に向ける。
「五河君はあのホテルがどういうホテルなのか
知っていて十香ちゃんを連れているの……?」
それはあり得ないといった訝しむ半信半疑の表情と
視線を向けていた。
「そ、それは……」
士道は零からの質問に答えられずに視線を逸らす。
「十香ちゃんはあのホテルがなんのホテルなのか
知っていて行くのかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……‼︎ 零‼︎」
零が十香に質問すると士道の顔が慌てた表情に
なり零を止めに入る。
だが──
「五河君。僕は今十香ちゃんとお話しているから
悪いけど、五河君は黙っててくれるかな……?」
「は、はい……」
士道は零の笑顔の威圧に勝てなかったのか黙って
しまい、そして零は視線を十香に向ける。
「む? そのホテル……? とやらは分からんが城
に寄るのだと思っていたのだが、どうやらシドーは
間違えてしまったらしいのだ‼︎」
「なるほど……ふーん……」
十香が零に自信満々に説明すると零は視線を
士道に戻す。
「五河君は
「は、はい……そうなんです……」
零が士道に聞くと士道はどうやら観念したのか
がっくしとした表情を浮かべていた。
どうやら、零に全てお見通しらしい。
「で、出来れば……この事はクラスのみんなには
内緒にしてくれれば、ありがたいんだけど……」
「はあ……言わないから大丈夫だよ。友達の秘密を
簡単に売るようなことしないから安心してよ?」
「ありがとう‼︎ 本当に助かる……ッ‼︎」
「ちょ、ちょっと……‼︎ お、大袈裟だよ‼︎」
士道が零の手を握り締めて感謝してそう言うと
零は困った表情を浮かべた後、「ところで」と
士道に言う。
「どうして十香ちゃんは
のかな?」
「そ、それは……‼︎」
士道は本気で焦った。
ホテルの件は解決したがこれ以上十香のことを
零に言う訳にはいかない……
「うむ。実はだな──むぐっ‼︎「零‼︎ すまない‼︎
急用が出来た‼︎ また今度……ッ‼︎」」
「ちょ、ちょっとッ‼︎ 一体、何処に行くの⁉︎
五河君‼︎ 」
十香は零に何か言おうとしていたが士道が十香の
口を塞ぎ十香の手を引いてその場を後にした。
後ろで零が何か言っていたが一刻も早く急いで
この場を去らなけれならない。
士道は、恐らく上空から一部始終を見ているで
あろう琴里に睨みをくれてやってから急いで道を
戻っていった。
「まったく、あそこまで行っておいて引き返す?
つくづくチキンねえ我が兄ながら」
〈フラクシナス〉の艦長席に身を預けた琴里は、
ため息混じりに肩をすくめた。
「……まあ、仕方ないだろう。いきなりあれは酷だ」
艦橋下段に座った令音が、コンソールを操作しながら
言ってくる。
彼女の解析によって画面に表示された数値は、
昨日よりもずっと安定値を示していた。恋人とは
いかないまでも、十香が士道を信頼のおける友人と
思っている数値だ。
まあ、だからこそ少し思い切ったパターンを
試してみたのだが。
「最後までいかなくても、キスくらいかまして
くれれば『詰み』だったんだけどね」
言ってキャンディの棒をピコピコさせ、鼻から
息を吐く。
「……次はどうするね」
「んー、そうね。次は『連結』と、『一通迷路』で
いきましょうか」
「はぁ、はぁ……」
なんとか必死になって零から逃げきれたせいか、
息が切れていた。様々な店が建ち並ぶ通りに出た
ところで、歩調を緩めた。
「シドー。零は良かったのか?」
「えっ? あ、ああ、多分、大丈夫だと思う……」
「それと気分でも悪いのか、シドー?」
「や、そういうわけではないんだが……」
「ではどうした?」
十香が首を傾げて問うてくる。
「……少し、お空にいる妹に思いを馳せていた」
「お空にいるのか」
少し驚いたような顔を作り、十香。
「ああ。可愛い妹だったんだんだがなあ……」
まさかあんな二重人格だったとは、と嘆息する。
「そうか……」
なぜか十香がしんみりした空気を発するのを見て、
士道ははたと気づいた。今の言い方では、まるで
琴里が死んでしまっているみたいではないか。
「ああいや、違うんだ十香。それは──」
と、士道はそこで言葉を止めた。
「お願いしまーす」
急に目の前に、女がポケットティッシュを
差し出してきたからだ。
咄嗟に手を出してそれを受け取ると、女は小さく
会釈してどこかへ去っていった。
「シドー? なんだそれは」
「ああ、これはポケットティッシュっていって──」
言いかけて、士道は首をひねった。
街頭で配っているポケットティッシュは普通、
企業の広告用だ。なのにこのティッシュの
パッケージには、手をつないだ男女のイラストと、
『幸せなら手をつなごう』というフレーズしか
書かれていなかったのだ。何かの宗教団体だろうか?
と、不思議に思っていると、今度は右手にある電器店
から、どこかで聞いたような声が聞こえてくる。
店頭に並べられたいくつものテレビに、奇妙な番組
が映し出されていた。
「な……ッ⁉︎」
士道は眉根を寄せて声を上げた。
昼間にやっている情報番組のようなセットに、
何人かコメンテーターのような人物が確認できる
のだが、それらが全て〈フラクシナス〉で見た顔
だったのだ。
『やっぱり初デートで手を握ってくれないような
人は嫌ですよぉー』
『そうですよねぇ。男ならガッといかないとねえ』
「………」
と、士道が黙っていると、不自然なほど周囲に
カップルが増え始めた。
しかもみんな仲むつまじく手をつないで、
時折「手をつなぐのっていいよね!」やら、
「心が通じ合う感じがするね!」やらと、
わざとらしく言ってくる。
士道は軽い目眩のようなものを感じて額に手を
当てた。
───これは、やっぱり、『そういう』こと
だろうか。
大きく息を吐いて、しばしのあと。
士道はティッシュをポケットにしまうと、
動悸を抑えながら十香に目を向けた。
「な、なあ、十香……」
「ん、なんだ?」
十香が不思議そうに首を傾げる。士道はごくりと
唾液を飲み込んでから手を前に出した。
「その、手……つながないか?」
「手を? なぜだ?」
まるで悪気なく、純粋な疑問符を浮かべながら
十香が問うてくる。
なんかもう、ただ拒絶されるより恥ずかしかった。
「…………そうだな。なんでだろうな」
実際、説明できるようなものでもない。
士道は目を泳がせながら手を引っ込め──
「ん」
──ようとしたところで、十香の手が、士道の手
を取った。
「……っ」
「ぬ? なんだその顔は。シドーがつなごうと
言ったのだろう」
「あ、ああ」
軽く頭を振ってから、道を歩き出す。
「ん、悪くないな、これも」
言って十香は笑い、きゅっと手を握る力を少し
だけ強くした。
「……っ、そ、そうだな」
なんかもう、小さくて柔らかくて少し士道よりも
体温の低い、ひやりとした手を触っていると、
自然と顔が赤くなるのが自覚できた。
できるだけ感触に気がいかないよう、別のことを
考えながら歩いていく。
と、どれくらい進んだ頃だろうか、進行方向上に、
工事中を示す黄色と黒の立て看板が見えた。
ヘルメットを被った男たちが、あくせくと
働いている。
「っと……ここ通れないのか。じゃ仕方ない、
こっちに……」
士道が足の向きを変え、右側に向くと、今度は
その通路に立ち入り禁止の看板が置かれた。
「あ?」
不審に思いながらも、仕方なくもときた道を
戻ろうとする。だが今度は、今まで士道達が
歩いてきた道が、看板で塞がれた。
「………」
いくらなんでも不自然過ぎる。士道は目を凝らして
作業員の顔を睨てみた。案の定、その内数名の顔に
見覚えがあった。〈フラクシナス〉のクルーだ。
士道は無言のまま、高台の方に向かう、左に延びた
通路に目をやった。
通れる道はそこしかなかったのだ。
「……こっちに行けってことかね」
「ぬ? どうしたシドー」
「や、なんでも。……とりあえず、こっち
行ってみるか?」
「ん、いいぞ」
十香は、もう歩いているだけで楽しいというような
顔を作りながら首肯してきた。
「さて、では行くかシドー」
「お、おう……」
士道は、ぎこちない様子で、左手の道を歩いて
いった。
時刻は一八時。
天宮駅前のビル群に、オレンジ色夕日が染み渡る。
そんな最高の絶景を一望できる高台の小さな公園
を、少年と少女が二人、歩いていた。
少年の方はさほど問題ない。普通の男子高校生だ。
しかし、少女の方は──
「……ふう」
日下部遼子は目を細めながら唇を舐めた。
「存在
とかで説明できるレベルじゃないか」
世界を殺す厄災。
三〇年前にこの地を焦土とし、五年前には
呼んだ
「………」
しかし今遼子の
女の子だったのである。
「狙撃許可は」
と、静かな──逆に言えば、底冷えするような声音
が、遼子の背に投げられた。
振り向くまでもない。折紙である。
遼子と同じくワイヤリングスーツにスラスター
ユニットを装備し、右手に自分の身長よりも長い
対精霊ライフル〈クライ・クライ・クライ〉を
携えている。
「……出てないわ。待機してろってさ。
まだお偉い方が協議中なんでしょ」
今回〈プリンセス〉だけならまだ良かったかも
しれなかったが……しかし〈アテナ〉が出てくる
ならば話しは別だ。
世界各国の精鋭のウィザードたちを容赦なく殲滅
まで追いやった『討伐することは絶望的に不可能
な精霊』を自分たちASTに務まるような相手とは
思えない……だからお偉い方もこの案件について
慎重に協議しているのだろう。
そして何よりも一番の心配なのは折紙である。
『折紙の〈アテナ〉に対する憎しみが異常である』
ということである。
前回の〈プリンセス〉殲滅作戦の時もそうだったが
突如現れた〈アテナ〉を見た次の瞬間、今にも切り
殺さんとばかりのものすごい勢いで〈ノーペイン〉
で〈アテナ〉に向かって切り掛かって、さらには
CR-ユニットに搭載されていたミサイルを全部発射
したからだ。
(もし、また〈アテナ〉と遭遇したらと考えると……
『二重の意味』で想像したくないわね……)
また折紙が〈アテナ〉と遭遇などしてしまったら、
きっと折紙は命令無視してでも〈アテナ〉を殲滅
しに行くだろうというのは非を見るより明らか
であり、そしてこちらの被害もただでは済まない
だろうということだけは分かった。
故に今回ばかりは〈アテナ〉が現れないことを
ただ祈るばかりである。
「そう」
遼子が密かにそう考えている中、安堵した様子も、
落胆した様子もなく、折紙がうなずく。今精霊が
いる公園の一キロ圏内には、遼子たちAST要員が
一〇人、
二人がいるのもそのポイントのうちの一つである。
公園よりもさらに都市部から離れた、宅地開発中の
台地だ。昼間はトラックやらクレーンやらの作業車
が列を作っているものの、この時間になれば
もう静かなものだった。
数時間前、折紙が発見した少女に精霊の判定が
出てからすぐにCR-ユニットの起動許可が下りた。
だが、まだ防衛大臣やら
協議しているらしい。
要は、攻撃を仕掛けるか、否か、である。
空間震を観測できない現界だったため、空間震警報は
鳴っていない。つまり住民は誰一人として避難はして
おらず、今精霊が暴れ出しでもしたら、深刻な被害が
出てしまうのである。
かといって、今警報を鳴らして精霊を刺激して
しまうのも上手くない。なんとも嫌な状況だった。
だが──
「これは好機」
折紙は、いつものごとく温度のない口調で唱えた。
確かに折紙の言うとおり、これはチャンスでも
ある。
なぜなら今、精霊はその身に
ない。
遼子たちの
究極で無敵の生命体たらしめている
いない。
今ならば、こちらの攻撃が届く可能性は十分
あった。
ただしそれもあくまで可能性にすぎないうえ、
確実に一撃で致命傷を与えなければならない。
折紙が、平常装備に含まれない対精霊ライフルを
携えている理由がそれだった。
使用者が悲鳴を上げ、弾道が軋み、目標が
声を上げる。
ゆえに
腕が折れてしまう、頭のおかしい銃である。
だが、遼子は、その銃を使うような事態になるとは
あまり思っていなかった。
「……頭ん中日和ってお偉方が、この状況で攻撃
許可出すかしらねえ」
「出してもらえなければ困る」
遼子がそう言うと、ノーウェイトで折紙が
そう返してくる。
「……ま、現場としちゃそうなんだけどさ。
攻撃許可を出したけど一撃仕留め切れなくて精霊が
暴れ出しました、ってのと、精霊が勝手に暴れた
けど、現界してたなんて知りませんでしたー、
ってのと、責任問題になったときに随分意味合いが
違ってくるのよ」
「そんな理由で決められては困る」
「そうは言っても、
地位が大事なお方が多いからねえ」
言って、肩をすくめる。
折紙の表情は微動だにしなかったが、何となく
憮然としているような気がした。
と──そこで、遼子の耳にノイズ混じりの音声が
届いてきた。
「はいはい、こちらポイント
──え?」
遼子の鼓膜に伝わった情報に、目を丸くした。
「──了解」
そうとだけ言って、通信を終了する。
「……驚いた。狙撃許可が下りたわ」
正直、少し以外だった。間違いなく待機命令が出る
と踏んでいたのだ。
否──そういえば、昨日の校舎への攻撃命令も、
今までではあまり考えられない強攻策だった。
上層部で人事異動でもあっただろうか。
まあ、遼子は自分の仕事をするだけだ。具体的に
言えば今は──ここにいる中でもっとも作戦成功率
が高い隊員、引き金を預けることである。
「──折紙、あんたが撃ちなさい。今いる面子の中
では、あんたが一番適任よ。失敗は許されないわ。
絶対に一撃で仕留めること」
その言葉に。
「了解」
折紙はやはり何の感慨も浮かべぬまま答えた。
夕日に染まった高台の公園には今、士道と十香以外
の人影は見受けられなかった。
時折遠くから自動車の音や、カラスの鳴き声が
聞こえてくるだけの、静かな空間。
「おお、絶景だな!」
十香は先ほどから、落下防止用の柵から身を乗り
出しながら、黄昏色天宮の街並みを眺めている。
〈フラクシナス〉クルーたちが巧妙(?)に誘導する
ルートを辿ってきたところ、ちょうど日が傾きかけた
頃に、この見晴らしいのいい公園に辿り着いたので
ある。
士道も、ここに来るのは初めてじゃない。
というか、密かなお気に入りの場所でもあった。
終着点にここを選んだのは……まあ、きっと
琴里だろう。
「シドー! あれはどう変形するのだ⁉︎」
十香が遠くを走る電車を指を指し、目を輝かせ
ながら言ってくる。
「残念ながら電車は変形しない」
「何、合体タイプか?」
「まあ、連結くらいはするかな」
「おお」
十香は妙に納得した調子でうなずくと、くるりと
身体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に
向き直った。
夕焼けを背景に佇む十香は、それはそれは
美しくて、まるで一枚の絵画のようだった。
「──それにしても」
十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。
そして、にぃ、と屈託のない笑みを浮かべてくる。
「いいものだな、デェトというのは。実にその、
なんだ、楽しい」
「…………っ」
不意を突かれた。自分からは見えないけれど、
きっと頬は真っ赤に染まっている。
「どうした、顔が赤いぞシドー」
「……夕日だ」
言って、顔をうつむかせる。
「そうか?」
すると十香が士道のもとに寄り、見上げるように
して顔を覗き込んできた。
「ぃ──ッ」
「やはり赤いではないか。何かの
吐息が触れるくらいの距離で、十香が言う。
「や……ち、違う、から……」
視線を逸らしながらも──士道の頭中には、
デェト、という言葉が渦巻いていた。
たぶん、恋人たちがデートの終盤でこんな素敵な
場所を訪れたなら、やっぱり──
自然、士道の目は、十香の柔らかそうな唇に
向いていた。
「ぬ?」
「──ッ!」
別に十香は何も言っていないのだが、自分の邪な
思考が見透かされた気がして、再び目を逸らし
ながら身体を離す。
「なんだ、忙しい奴だな」
「う、うるせ……」
士道は
ちらと十香の顔を一瞥した。
一〇日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた
鬱々とした表情は、随分と薄れていた。鼻から
細く息を吐き、一歩足を引いて十香に向き直る。
「──どうだ? おまえを殺そうとする奴なんて
いなかっただろ?」
「……ん、
まだ信じられないくらいに」
「あ……?」
士道が首をひねると、十香は
した。
「あんなにも多くの人間が、私を
私を否定しないなんて。──あのメカメカ団……
ええと、なんといったか。エイ……?」
「ASTのことか?」
「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、
私を
ある」
「おいおい……」
さすがに発想が
それを笑えなかった。
だって十香にとっては、それが普通だったのだ。
否定されるのが、普通。
なんて──悲しい。
「……それじゃあ、俺もASTの手先ってことに
なるのか?」
士道が言うと、十香はぶんぶんと首を振った。
「いや、シドーはあれだ。きっと親兄弟を人質に
取られて脅されているのだ」
「な、なんだその
「……おまえが敵とか、そんなのは考えさせるな」
「え?」
「なんでもない」
問い返すと、今度は十香が顔を背けた。
表情を無理矢理変えるように、手で顔をごしごしと
やってから、視線を戻してくる。
「──でも本当に、今日はそれくらい、有意義な
一日だった。世界がこんなに優しいだなんて、
こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて
……思いもしなかった」
「そう、か──」
士道は口元を綻ばせて息を吐いた。
だけど十香は、そんな士道に反するように、
眉を八の字に歪めて苦笑いを浮かべていた。
「あいつら── ASTとやらの考えも、少しだけ
わかったしな」
「え……?」
士道が怪訝そうに眉根を寄せると、十香が少し
悲しそうな顔を作った。
士道が嫌いな鬱々とした表情とは少しだけ違う
──でも、見ているだけで胸が締め付けられて
しまいそうな、悲壮感の漂う顔だった。
「私は……いつも現界するたびに、こんなにも
素晴らしいものを壊していたんだな」
「───っ」
士道は、息を詰まらせた。
「で、でも、それはおまえの意思とは関係ない
んだろ……ッ⁉︎」
「……ん。現界も、その際の現象も、私には
どうにもならない」
「なら──」
「だがこの世界の住人たちにしてみれば、破壊という
結果は変わらない。ASTが私を殺そうとする道理が、
ようやく……知れた」
士道は、すぐには言葉を発せなかった。
十香の悲痛な面持ちに胸が引き絞られ、上手く呼吸
ができなくなる。
「シドー。やはり私は──いない方がいいな」
言って──十香は笑う。
今日の昼間に覗かせた無邪気な笑みではない。
まるで自分の死期を悟った病人のような──
弱々しく、痛々しい笑顔だった。
ごくりと、唾液を飲み込む。
いつの間にかのどはカラカラに渇いていた。
張り付いていたのどに水分がしみていく軽い痛みを
感じながら、どうにか口を開く。
「そんなこと……ない……ッ」
士道は声に力を込めるため、グッと拳を握った。
「だって……今日は空間震が起きてねえじゃねえか!
きっといつもと何か違いがあるんだ……ッ!
それさえ突き止めれば……!」
しかし十香は首を振った。
「たとえその方法が確立したとしても、不定期に
存在がこちらに固着するのは止められない。現界
の数は減らないだろう」
「じゃあ……ッ! もう向こうに帰らなければ
いいだろうが!」
士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。
まるで、そんな考えをまったく持っていなかった
というように。
「そんなことが──可能なはずは……」
「試したのか⁉︎ 一度でも!」
「…………」
十香が、唇を結んで黙り込む。
士道は異様な動悸を押さえ込むように胸元を
抑えながら、再びのどを唾液で濡らした。
咄嗟に叫んだ言葉だったが──それが可能ならば、
空間震は起こらなくなるはずである。
確か琴里の説明では、精霊が異世界からこちらの
世界に移動する際の余波が空間震となるという話
だった。
そして、十香が自分の意思とは関係なく不定期に
こちらの世界に引っ張られてしまうのなら、最初
からずっとこちらにとどまっていればよいのだ。
「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが
多すぎるぞ?」
「そんなもん、俺が全部教えてやる!」
「寝床や、食べものだって必要になる」
「それも……どうにかするッ!」
「予想外の事態が起こるかもしれない」
「んなもん起きたら考えろッ!」
十香少しの間黙り込んでから、小さく唇を
開いてきた。
「……本当に、私は生きていてもいいのか?」
「ああ!」
「この世界にいてもいいのか?」
「そうだ!」
「……そんなこと言ってくれるのは、きっとシドー
だけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、
こんな危険な存在が、自分たちの生活空間にいたら
嫌に決まっている」
「知ったことかそんなもん……ッ‼︎ ASTだぁ⁉︎
他の人間だぁ⁉︎ そいつらが十香! お前を否定
するってなら! それを超えるくらい俺が!
叫んで。
士道は、十香に向かってバッと手を伸ばした。
十香の肩が、小さく震える。
「握れ! 今は──それでいい……ッ!」
十香は顔をうつむかせ、数瞬の思考案するように
沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと
手を伸ばしてきた。
「シド──」
と。
士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。
「────」
士道は、ぴくりと指先動かした。
なぜかわからないけれど──途方のない寒気が
したのだ。
ざらざらの舌で全身を舐めるような、嫌な感触。
「十香!」
士道ののどは、意識してもいないのにその名を
呼んでいた。
そして十香が答えるより早く。
「……っ」
士道は、両手で思いっ切り十香を突き飛ばした。
細身の十香は突然の耐えられず、漫画みたいに
ごろんと後ろに転がった。
それから刹那も間を置かず。
「───────あ」
士道は、胸と腹の間くらいに、凄まじい衝撃を
感じた。
「な──何をする!」
砂まみれになった十香が、非難の声を上げるが、
それに返すことすら困難。
息が、できない。
意識と姿勢を保っているいることも、難しい。
とにかく、なんか、きもちわる、い。
「──シドー?」
十香が、呆然と言ってくる。
原因を探ろうと、震える右手を脇腹にやってみる。
おかしい。
だって、なにも、てごたえが、な
「あ─────」
折紙は
士道の影を見ながら、自分ののどからそんな声が
漏れるのを聞いた。
宅地開発のため平らに整備された地面に腹ばいに
なり、対精霊ライフル
まま、数瞬の間身体を硬直させる。
数秒前。
折紙は
された
定めてから引き金引いた。
外れる要素は微塵もなかった。
───士道が、精霊を突き飛ばさなければ。
折紙が放った
綺麗に
「─────」
今度は、声すら出なかった。
指が、引き金を引いた指が、
分かる。
だって、今、自分は、士道を───
「──折紙ッ!」
「──っ」
遼子の声で我に返る。
「悔いるのはあとにしなさい! あとで死ぬほど
責めるから! 今は──」
言って遼子が、
「生き延びることだけ、考えなさい……ッ!」
「シドー……?」
名を呼ぶが、返事がない。
それはそうだ。士道の胸には、十香の手のひら
を広げたよりも大きな穴が開いている。
頭が混乱して、意味がわからない。
「シ──、ドー」
十香は士道の頭の隣に膝を折ると、その頬が
つついた。
反応は、ない
数瞬前まで十香に差し伸べられていた手は、
一部の隙間なく血に濡れていた。
「ぅ、ぁ、あ、あ────」
数秒のあと、頭が状況を理解し始める。
……あたりに立ちこめる焦げ臭さには覚えが
あった。
いつも十香を殺そうと襲ってくるあの一団──
ASTのものだ。
研ぎ澄まされた一撃。恐らく──あの女。
如何に十香とはいえ、
あれを受けたなら、無事では済まなかったろう。
ましてなんの防護も持たない士道がそんな攻撃を
受けてしまったなら。
「─────」
十香は途方もない目眩を感じながらも、未だ空を
眺める士道の目に手を置き、ゆっくりと瞼を
閉じさせてやった。
そして、着ていた制服の上着を脱ぐと、優しく
士道の
次いで十香はゆらりと立ち上がると、顔を空に
向けた。
──
しれないと思った。
士道がいてくれたら、なんとかなるのかも
しれないと思った。
すごく大変で難しいだろうけど、できるかも
しれないと思った。
だけれど。
嗚呼、だけれども。
やはり、『駄目』だった。
この世界は──やはり十香を否定した。
それも、考える限り、最低最悪の手段を以て──ッ!
「──〈
のどの奥から、その名を絞り出す。
絶対にして最強の、十香の『領地』
瞬間、世界が、啼いた。
周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体に
絡みついて、
そして
──
ぎしぎし、ぎしぎしと。
空が
突然霊装を顕現させた十香に、不満をさえずる
ように。
十香は、視線を少し下げた。
山が削り取られたかのように平らになった高台に、
今士道を撃った人間がいる。
十香は地面に踵を突き立てた。
瞬間、そこから
出現する。
十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに
足をかけ、背もたれから剣を
そして。
「ああ」
のどを震わせる。
「ああああああああああああああ」
天に響くように。
「ああああああああああああああああああああ─────ッ‼︎」
地に
自分の頭を麻痺させ、自我を
感覚。
「よくも」
目が、湿る。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」
十香は剣を握る手に力を込めると、視線の先まで
「な──ッ⁉︎」
「────」
瞬きほどの間も置かず、十香は今し方見ていた高台
に移動していた。
目の前には、驚愕に目を見開く女と無為意味な
表情の少女がいる。
憎い、憎いその貌を見ると同時、十香は吠えた。
「〈
刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、
バラバラに砕け散った。そして玉座の破片が十香の
握った剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに
大きなものに変えていく。
全長一〇メートル以上はあろうかという、長大に
過ぎる剣。
しかし十香はそれを軽々と振りかぶると、二人の女
に向かって振り下ろした。刀身の光が一層強いもの
になり、一瞬にして太刀筋の延長線上である地面を
這っていく。
次の瞬間、凄まじい爆発があたりを襲った。
すんのところで左右に逃れた二人が、戦慄に
染まった声を上げる。
それはそうだろう。十香はただの一撃で、広大な
台地を縦に両断していたのだがら。
「この……ッ、化物め──!」
長身の女が叫び、無骨な剣のようなものを振るって
十香に攻撃を仕掛けてくる。
だがそんなもの、霊装を纏った十香に通じるはず
もない。視線をそちらに向けるだけで、その攻撃
を霧散させる。
「嘘──」
女の顔が、絶望に染まる。
だが十香はそんなものには興味示さず、もう一人の
少女に目を向けた。
「──嗚呼、嗚呼。貴様だな、貴様だな」
静かに、唇を開く。
「我が友を、我が親友を、シドーを殺したのは、
貴様だな」
十香がそう言うと、ほんの少しだが、少女が
初めて表情を歪めた。
しかし、そんなことどうでもよかった。
【
ものなんてこの世界存在しないのだから。
真っ黒に淀んだ瞳で少女を見下ろしながら、
十香は
「悪いけど……ちょっと、待ってもらおうか」
「誰だ‼︎」
十香は視線を声がする方に向けると
「〈アテナ〉……ッ‼︎」
「どうして〈アテナ〉がこんな時に……‼︎」
目の前には『討伐不可能と呼ばれた精霊』
〈アテナ〉がいて折紙は〈アテナ〉の名前を
口にして遼子は目を見開き驚いていた。
「貴様は確か……シドーが言っていた〈アテナ〉
と言ったか……貴様も我が友であり我が親友である
シドーを殺したその女を庇うつもりか?」
「庇うもなにもないよ。ただこの街でそんな物騒
過ぎる剣を振り回さないでほしいだけ」
〈アテナ〉がそう言うと「それに……」と十香に
言う。
「そのシドー君、少年は十香ちゃんに復讐を
してくれって頼んだりする人物だったかな?」
「それは……」
本当は十香もわかっていた。士道は十香に自分の復讐
してくれだなんて絶対に頼まないだろうししてほしい
とも思わないだろう……。
だが──
「分かったらその物騒な剣を解除してくれないかな?
それに『あの人』が──「黙れ」」
〈アテナ〉が話している途中で俯きながらも十香
の苦しそうで冷たい殺意の一言が発せられた。
「貴様の言いたい事は分かった……確かに我が友、
我が親友、シドーはそんなことを頼まないだろう
……だが、我が友であり我が親友であるシドーを
殺したその女が許せない……ッ‼︎ だから私はこの剣
を振るう……ッ‼︎」
十香は真っ黒に淀んだ瞳で折紙を睨みつけながら
そう言って顕現した【
士道の仇である折紙に向けていた。
「そうか……だったらこっちも対応させて
もらうよ……〈
〈アテナ〉がそう言って〈
と十香は静かな声で
「結局、貴様はシドーを殺したその女を庇うのだな
……良いだろう……」
十香は〈アテナ〉にそう言って覚悟を決めたのか
俯いていた顔を上げた。
「貴様もその女諸共、
そう言った十香の真っ黒に淀んだ絶望した瞳には
つぅーと一筋の涙が頬に流れ落ちていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます‼︎
これからもたくさん更新する予定なので、どうか
温かい目で『応援』などをしてもらえれば本当に
ありがたいです‼︎
これからももっとバリバリとたくさん『更新』が
出来るように一生懸命に努力していきたいと思います‼︎
十香と士道が出会う前の四月九日の話を書いた方がいいか
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書くべき
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書かなくていい
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どっちでもいい