『デート・ア・ライブ ■■■の精霊』の『最新話』
を更新をさせてもらいました‼︎
『十香デッドエンド編』はこれにて完結となります。
『次の続編』も続けて書けるようにこれからも更に
一生懸命頑張っていきたいと思います。
【お気に入り】や【投票】、【感想】、【しおり】
などしてくれたら、豆腐のような脆いメンタルな
自分にも自信が付きますし、次の『創作意欲』が
漲って湧いてきます‼︎
最後まで読んでいただければ嬉しいです‼︎
「司令……ッ!」
「わかっているわよ。騒がないでちょうだい。
発情期の猿じゃあるまいし……と言いたい所だけど
この状況じゃあそうも言ってられないみたいね……」
琴里は口の中で飴を転がしながら、額に一筋の汗
をたらりと流しながらも狼狽した様子の部下に
言葉を返した。
〈フラクシナス〉艦橋。正面モニタには身体を
ごっそりと削り取られて倒れ伏している士道と、
精霊・十香と『討伐することは絶望的で不可能だと
言われた精霊』〈アテナ〉の戦闘映像が表示されて
いる。
部下の動揺もわからなくなかった。
状況は、
だった。
ようやく
避難が終わっていない状態で、十香と〈アテナ〉の
戦闘が始まってしまったのである。
人の住んでいない開発地で、というのが唯一の
救いだが──十香の一撃は、そんな楽観を容易く
打ち砕いた。
今までの十香が可愛く見える、
たった一撃で広大な開発地は二分され、中心に深淵
を作ってしまった。そして──〈ラタトスク〉の最終兵器であったはずの五河士道の突然の死。
琴里たちは、考え得る限り最悪の状況に立たされた
格好になっていた。
だが、
「ま、ちょっと優雅さが足りないけど、
は及第点かしらね。今のでお姫様がやられてたら
目も当てられなかったわよ」
琴里は、〈アテナ〉の姿を見て深刻そうな様子を
見せながらもそう言って、キャンディをの棒を
動かした。
そんな琴里の言葉に、クルーたちが戦慄したような
視線を向けてくる。
まあ、仕方あるまい。今まさに兄が死亡したばかり
なのである。
だがそんな中にあって、令音と神無月だけは違った
反応を見せていた。
令音は、平然とした様子で十香の戦闘をモニタリング
し、データを採取している。
神無月の方は少し違う。頬を朱が差し、口から唾液が
漏れていた。
見るからに「ああ……身体にあんな大きなアナが
開けられるなんて……ビクンビクン。すごいんだ
ろうなあ。さぞ、さぞすごいんだろうなあ。
で、でも死んだら元も子もないしなあ」みたいな
ことを考えている顔である。
「とう」
「はうッ⁉︎」
琴里は神無月のすねを蹴り飛ばすと、その場に
立ち上がった。そしてフンと鼻を鳴らしながら、
半眼を作って告げる。
「いいから自分の作業を続けなさい。
士道が、これで終わりなわけがないでしょう?」
そう。
ここからが、士道の本当の仕事なのだ。
「し──ッ、司令! あれは……!」
と、艦橋下段の部下が、画面左側──公園が映って
いるものを見ながら、驚愕に満ちた声を発してきた。
「──来たわね」
キャンディの位置を変え、にやりと口元を歪ませる。
画面の中には、公園に横たわり、制服の上着を
かけられた士道が映っていたのだが──
その制服が、突然燃え始めたのである。
精霊の生成物消失しているとか、太陽光によって
火がついたとかでは、ない。だって、燃えていた
のは制服ではなかったのだから。
制服が燃え落ち、綺麗に刳り貫かれた士道の身体が
顕わになる。そこで、〈フラクシナス〉のクルーたち
は再び驚愕の声を上げた。
「き、傷が──」
そう、傷口が。ぽっかりと消失した欠損の断面が、
燃えている。その炎は士道の傷を見えなくする
くらいに燃え上がってから──徐々にその勢い
をなくしていった。
そしてその炎が舐めとったあとには、完全に再生
された士道の身体が存在していた。
そして──
『─────ん』
画面の中に横たわった士道が、
『ん…………………ぉ
と、未だ腹にくすぶっていた火を見て、跳ね起きた。
慌てた様子でバンバンと腹を叩き、火を消し止める。
『て──あ、あれ? 俺……なんで』
艦橋内が、騒然となる。
「な……し、司令、これは──」
「言ったでしょ。士道は一回くらい死んだって、
すぐニューゲームできるって」
琴里は唇を舐めながら部下に返した。クルーたちは
一斉に訝しげな視線を向けてきたが、無視しておく。
「すぐ回収して。──彼女たちの争いを止められる
のは士道だけよ」
───意味がわからない。
士道は自分の腹をペタペタと触りながら、盛大に
眉の間にしわを寄せた。着ていたブレザーと
ワイシャツには綺麗な穴が開き、ネクタイは途中
から千切れている。
でもそんな恥ずかしげな格好も、今は気になら
なかった。もっと気にかけなければならないこと
が、ある。
「俺──なんで生きてんだ……?」
もう一度腹を触り、呟く。
あのときとても嫌な予感がして、十香を
突き飛ばした。
次の瞬間腹に穴が開いて──意識が途絶えたのだ。
あのときとても嫌な予感がして、十香を突き
飛ばした。次の瞬間腹に穴が空いて──意識が
途絶えたのだ。
実際服には穴が開いているし、盛大な血の染みも
残っている。夢とは思えなかった。
「そうだ──十香……!」
あの攻撃は間違いなく十香を狙っていた。
一体十香はどうなったのだろうか。その姿を探して
あたりに目を向ける。
と、士道のいる公園よりもさらに高台から、
黒い光が発せられ──次いで、凄まじい爆発音と
衝撃波が撒き散らされた。
「うぉ……ッ⁉︎」
不意のことに力が入らず、風に煽られる格好で
地面に転がされる。
「な、なんだ、一体……!」
叫びながら、そちらに目を向け──士道は身体を
硬直させた。
そこから見える景色が、士道が意識を失う前とは、
まったく別物になっていたのである。
その方向には、宅地開発中の現場やら、三〇年前
に地形が変わって以来まだほとんど手を入れられて
ない山などが広がっていたのだが──
それらが、まるで空襲を受けたかのように
に崩壊していたのである。
否──少し違うか。どちらかというと、巨大な剣で
何度も何度も切り裂かれたように、鋭利な断面を
いくつも覗かせていた。
「あれは……」
と、呆然と呟いた瞬間。
「ぬぁ……ッ!」
士道は、自分の身体から重さがなくなるのを感じた。
この感覚は初めてではない。〈フラクシナス〉の
転移装置である。
士道がそれを認識したときにはもう、士道の視界は、
高台の公園ではなく〈フラクシナス〉の内部に変貌
していた。
「こちらへ!」
と、そこに控えていた〈フラクシナス〉のクルーが、
大声を上げてくる。
「は、はあ……」
少し混乱しながらも、士道は艦橋に引っ張られて
いった。
そして艦橋に到着するなり、
「──お目覚めの気分はいかが、士道」
艦橋上段の
ピコピコやりながら、琴里が言ってくる。
「……琴里」
士道はきぃんと鳴る耳を軽く叩きながら、
眉をひそめた。
「……ちょっと状況が読めん。
一体どうなったんだ?」
「ん、状況はとても最悪よ……士道がASTの攻撃で
やられて、キレたお姫様がASTを殺そうとした
ところで突如〈アテナ〉が現れたて現在戦闘状態に
なっているわ……」
言ってちょいちょい、と斜め上──艦橋の
大スクリーンを指さす。
「んな……ッ」
そこには巨大な剣を振るって山を切り刻もうとする
斬撃を放つ十香と山すらも切り刻もうするような
その斬撃を受け止めて防御しながらもそれに応戦
する〈アテナ〉の姿があった。
十香は猛烈な勢い攻撃を仕掛けているものの、
〈アテナ〉には微塵も届いていない。
〈アテナ〉の防御は容易く吹き飛ばすぐらいの威力
がある十香の斬撃を容易く防御して天宮市に被害が
出ないようにしているようだった。
「十香は完全にキレているわ。よっぽど士道を
殺されたのが許せなかったのね」
言って、琴里は肩をすくめる
「……ッ、なんだよ、それ……っ! ていうか
そうだよ! 俺はなんで生きてんだ⁉︎」
士道が叫ぶと、琴里は明らかに何かを知っている
様子でニヤリと笑った。
「ま、その話はあとにしましょ。今はもっと他に
することがあるんだから」
琴里が画面の十香と〈アテナ〉に目を向けながら
言う。
「他に──すること?」
「ええ。今のところ〈アテナ〉が街への被害を最小限
に抑えてくれているけど……ウチとしても、精霊関係
で人的被害が出るのは勘弁願いたいのよ」
「……ッ、そんなの、当たり前だ!」
士道が叫ぶと、琴里が楽しそうに目を細めた。
「オーケイ、上出来よ
わよ。お姫様を止めにね」
琴里はそう言って士道から視線を外すと、声を
高らかに張り上げた。
「〈フラクシナス〉旋回! 戦闘ポイントに移動!
誤差は一メートル以内に収めなさい!」
『了解!』
操舵手と思しき数名のクルーが、一斉に声を上げる。
次いで、重苦しいそんな音とともに、微かに
〈フラクシナス〉が振動した。
「こ、琴里」
「ん、何よ士道」
「十香を止めるって──そんなこと、できるのか⁉︎」
「何言ってんの? できるのか、じゃなくて
やるんでしょ。士道が」
琴里が盛大に眉を上げ、呆れたような顔を作った。
「お……俺ぇ⁉︎」
「当たり前でしょ。いつまで
───士道以外には不可能よ」
「い、一体どうやって……ッ!」
士道が額に汗を滲ませながら尋ねると、琴里が
口からチュッパチャップスを引き抜いた。
そして妖しい笑みを浮かべながら、
「知らない?
方法なんて、一つしかないじゃあない」
言って、すぼめた唇でキャンディにチュッ、と
口づけた。
状況は最悪だった。
待機していたAST要員は既に一〇名全員が参戦
しようとしていたが、今の精霊には傷を負わせる
ことすら叶わないだろうというのは一目見て理解
した。
それ以前に、十香は、折紙以外の人間など意識の
端にも入れてはいなかった。
あたかも──
ように。
だが、そんな中、もっと最悪な状態が起きた。
遼子達ASTにとって決して一番あってほしくない
最悪の可能性。
『討伐は絶望的で不可能だと諦められた精霊』
つまり〈アテナ〉の出現である。
そして〈アテナ〉は折紙の前に立つ。
「おああああああああああああああああ──ッ!」
まるで涙に濡れた泣き声のような咆哮を上げ、
十香が巨大過ぎるそんな剣を振り下ろす。
「これは、いくらなんでもやり過ぎだよ……」
〈アテナ〉はそう呟きながら溜め息を吐いて
〈
「【
〈アテナ〉がそう言うと白銀の障壁が現れて山すら
をも切り刻むほどの十香の斬撃を軽々と防いだ。
「なっ⁉︎ わたしの斬撃を防いだだと……ッ‼︎」
十香は目を見開きながらも折紙を庇っている
〈アテナ〉を見て睨みつけた。
「ならば…貴様が防ぎきれないくらいの斬撃
を増やすまでだ……ッ‼︎」
十香はそう言って〈アテナ〉と折紙に向かって
更に霊力を込めて斬撃を増やす。
「──ああああああああああああああッ!」
十香が、吠える。
「まったく……これじゃ街に被害が出るのは時間の
問題じゃないか」
〈アテナ〉はボソッと呟きながらそう言って
十香を見る。
「─────終われ」
空に立っていた十香の表情は酷く悲しそうな顔を
しながら剣に力入れ握る。
そんな十香の姿を見た〈アテナ〉はひどく
小さな少女に見えた。
『──折紙‼︎ 大丈夫なの⁉︎ 折紙‼︎』
「………」
十香と〈アテナ〉の激しい戦闘のせいか
折紙はAST隊長の遼子と逸れてしまったのだ。
そんな状態の中、折紙は自分の判断が甘かった
ことを知った。
精霊のことはおおよその威力を推し量っていた
つもりだったが──違う。明らかに、世界が、
違う。
己と二人の精霊を比べることすら、攻略法を
考えることすら冒涜に思える、一人の精霊は
もう一人の精霊はそんな暴虐なる王の鉄槌すら
も軽々と防ぎありとあらゆる災厄を払い何物をも
通すことも犯すこともない穢れや淀みなどが一切
ない白銀の
遼子が折紙に連絡を取るが今の折紙には遼子の
言葉が聞こえていないのか遼子の声に返事は
しなかった。
ただ自分を守っている〈アテナ〉を見つめいた。
遼子をはじめとする他のAST要員達は十香と
〈アテナ〉の激しい戦闘を見て彼女達も戦意喪失
していたからか急いで折紙に連絡を取っていた。
そして十香の【
〈アテナ〉が理解した瞬間、〈アテナ〉は視線を
十香に向けて〈
していた。
そして───
「〈
そう言って〈アテナ〉はそう言って〈
十香に目掛けて穿つように飛ばす。
「ッ‼︎ なんだと……⁉︎」
十香は驚いた。
だが、問題はない。これは我が鎧にして領地。
故に侵される心配ない。
と十香は内心そう思って安心していると
「【■■】」
〈アテナ〉が小声でそう言った瞬間、〈
スピードがもの凄く速くなって鋭さが増していく。
「槍の速度と鋭さが増しただと……ッ‼︎」
十香は大したことはないと思っていた白銀の槍
のもの凄く早い速度と鋭さに驚いていた。
(マズイ‼︎ なんとか回避せねば……ッ‼︎)
十香はなんとか〈
だが、
「ぐっ‼︎ し、しまった……‼︎」
あまりにも予測以上の速度だったのか回避が
間に合わずに十香の横腹に当たる。
だが、〈
一部が破損しただけで傷どころか血すら出て
いなかった。
そして宙に浮いていた〈
音をさせてまるで閃光のようなもの凄いスピードで
持ち主である〈アテナ〉の手元に戻っていた。
「これは勝負ありじゃないかな?」
〈アテナ〉は〈
そう言うが
「ま、まだだ……まだ終わっていない……ッ‼︎」
〈断罪槍〉に当たったのが原因なのか十香は
ふらふらになりながらも〈アテナ〉にそう言って
破損した横腹の鎧の部分に霊力を込めてゆっくり
とではあるが修復していく。その間、十香は
〈アテナ〉から視線を逸らさずに睨みつける。
そして【
いるのが分かる。
「安心しろ、シドー。今すぐコイツを倒して
必ずシドーの仇を────」
十香はそう言って十香の周囲に黒い輝きを放つ
光のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に
吸い寄せられるように収束していく。
「あれは……」
何の説明がなくとも、わかる。
あれは、十香の渾身の力を込めた一撃だった。
剣が闇色の輝きを帯びるのを待って。
十香が、剣を握る手にかつてないほどの力を
込める。
と──そのとき。
「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ────ッ‼︎」
空から。
精霊よりももっと上から。
そんな叫び声が聞こえてきた。
「え──?」
折紙は、命の危機が迫っているというのに、
そんな呆然とした言葉を発していた。
だってさっきの悲鳴は、ついさっき、折紙が撃って
しまった少年のものだったのだから。
「お姫様は滞空中か……なら士道をここから
いらないわよ。低空まで下りているし、十香に
接近したら、こっちから重力中和してあげるから。
──ああ、うん、
の直下にいる限りはね。……え? もし直下から
ずれたら? んー……そりゃまあ、地面に
花が
士道に『十香を止める方法』とやらを語ったあと、
琴里はモニタを眺めながらそう言った。ついでに
くすくす笑った。
「ちょ、ちょっと待て! ただでさえ難しいって
のに、なんでそんな……ッ!」
「やあねえ、成功率が同じくらいなら、楽しい方が
いいにきまってるじゃない」
「楽しいのはおまえだけだろうがぁぁぁぁッ!」
「うるさいわね。連れてって」
『はッ!』
琴里が言うとどこからもなく屈強な男が二人現れ、
士道の両手を拘束した。
そのまま、士道を引きずっていく。
「あっ、てめ、覚えてやがれ琴里ぃぃッ!」
「はいはい。覚えてあげるからいってらっしゃい」
そんな声を聞きながら、艦体下部に位置するハッチに
連れてこられた士道は、
『幸運を』
不満をさえずる暇さえ与えられず、空に突き落と
された。
「ぎゃああああああああああああああああ
───ッ!」
凄まじい風が、身に纏った制服や頬の肉をばさばさ
ぶるぶるとはためかせる。
失禁してしまいそうな浮遊感。
もうジェットコースターなんてコワクナイ。
と───意識が飛びそうになる恐怖の中、士道は
視界の中に一つの影を見つけた。
「───ッ!」
手足を引っ張って姿勢を安定させ、ぶれまくる
視界の中、その少女の姿を捉える。
そして。
「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ───ッ‼︎」
力の限り声を張り上げ、その名を呼んだ。
それから一泊もおかず、身体にかかっていた
Gと浮遊感が和らぐ。
〈ラタトスク〉からのサポートだろう。
まだ落下していることに変わりはないのだが、
これならば───
「────」
十香が、士道の声に気づいてか、長大な剣を
振りかぶったまま、顔を上に向ける。
頬と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。
なんともまあみっともない有様だった。
十香と、目が合う。
「シ──ドー……?」
まだ状況を理解できていないような様子で、
十香が呟く。
だんだんと緩やかになっていく落下速度の中、
士道はそんな十香の両肩に手をかけた。空に立つ
十香の助力を得るような格好で、その場に
とどまる。
「よ、よう……十香」
「シドー……ほ、本物、か……?」
「ああ……一応本物だと思う」
士道が言うと、十香は唇をふるふると震わせた。
「シドー、シドー、シドー……っ!」
「ああ、なん──」
と、答えかけたところで、士道の視界端に凄まじい
光が満ちた。
十香が振りかぶったまま空中に静止させていた
剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒な
輝きを放っている。
「な──なんだこりゃ……」
「ッ……! しまった……! 力を──」
十香が眉をひそめると同時、刃から光が雷のように
漏れ出、地面を穿っていた。
「と、十香、これは──」
「【
どこかに放出するしかない……!」
「どこかってどこだ⁉︎」
「────」
十香は無言で、地面の方を見た。
つられて目をやると、そこには〈アテナ〉と
無表情であるが士道の姿を見て目を見開いて
呆然として驚いている折紙が見える。
「……ッ! 十香、おまえ……っ!
だ、駄目だぞ、あっちに撃っちゃ!」
「で、ではどうしろというのだ!
もう臨界状態なのだぞ!」
言っている間にも、十香の握る剣はあたりに黒い雷を
撒き散らしていた。まるで
して地を抉る。
と、そこで、士道は琴里の言葉を思い出した。
──十香を止め、その力をも封ずる唯一の方法。
「……十香。あ、あのな、落ち着いて聞いてくれ」
「なんだ! 今はそれどころでは──」
「それを! 何とかできる……かもしれない
可能性がある……んだよっ!」
「なんだと⁉︎ 一体どうするのだ⁉︎」
「あ、ああ。その───」
だが士道は、すぐにはそれを口に出すことが
できなかった。
だって琴里が言った方法はあまりに
「早くしろ!」
「……ッ!」
士道は腹を決めると、口を開いた。
「そ、その、あれだ……っ! 十香!
俺と、キッ、キスをしよう……ッ!」
「──何!」
十香が、
それはそうだろう。非常時にそんなことを
言ったのだ。何かの悪ふざけと取られても
仕方あるまい。
「す、すまん、忘れてくれ。
やっぱり他の方法を──」
「キスとはなんだ⁉︎」
「は……?」
「早く教えろ!」
「……っ、き、キスってのは、こう、唇と唇を
合わせ───」
と、士道の言葉の途中で。
──十香が何の
士道の唇に押しつけてきた。
「──────ッ⁉︎」
力一杯目を見開き、声にならない声を上げる。
だってもう十香の唇が、柔らかくてしっとりとしてて
甘い匂いまでしてきてそんな感覚感触が脳の中では
ヘルアンドヘブンしているのである。キスはレモン味
とかあれ
がした。
一拍おいて。
──天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、
バラバラに
次いで、十香がその身に纏っていたドレスのインナー
やスカートを構成する光の膜が、弾けるように
消失した。
「な──」
十香が、狼狽に満ちた声を発する。
「…………ッ⁉︎」
だがどちらかというと驚いたのは士道の方だった。
十香の剣や衣服が消失したことに、ではない。
それは半信半疑ではあったが琴里から聞かされて
いた。
どちらかというと、キスをしたままの状態で十香が
喋るものだから、接触していた唇が蠢き、なんか
もう士道の語彙では表現しきれないカオスな状態
になってしまったのだ。
──十香の身体から力が抜け、地面に向かって
落ちていく。
士道は朦朧する意識の中、逡巡しながらも、
十香を離すまいとその身体を抱いた。かなり
弱々しく。おっかなびっくり。
頭を下にしながら、唇を、身体を合わせながら、
二人は落下していく。
十香の
残していた。
それはあるいは、幻想的な光景だったのかも
しれない。だけれど士道に、それを自覚できる
ほどのゆとりはなかった。
十香を支えながらゆっくりと落下していき──
自分の身体を下にして、地面に着地した。
そのまま少しの間重なり合ったままでいたあと、
「ぷは……っ!」
まるで息継ぎでもするように、十香が唇を離し、
身体を起こした。
「す……ッ、すすすすすすすまん十香ッ!
こうするしかないって言われて……ッ!」
士道は身体の上から十香が退くなり即座に跳ね起き、
後方に飛び退くと同時に身体を丸めて、見事に綺麗な
ジャンピング土下座を決める。
まあ厳密にはキスをしたのは十香からなのだが、
なんというか、そんな問題でもない気がしたので
ある。
だけれど何秒経っても、士道は頭を踏みつけられも
しなければ、罵倒されもしなかった。
「……?」
不思議に思って顔を上げる。
十香はその場に座ったまま、不思議そうな顔して、
唇に指を触れさせていた。
というか、それよりも───
「ぶは……ッ⁉︎」
士道は鼻血でも
真っ赤にして
纏っていた霊装がボロボロに崩れた十香は、
見るもいやらしい
「──ッ!」
士道の反応で十香もそれに気づいたらしい。
「ち、ちちち違うんだ十香、俺は──」
「み、見るな、
キスの意味も知らなかったわりには、人並みに
十香が頬を染めながら睨んでくる。
「す、すまん……っ!」
泡を食って、目をつむる。
「それでは駄目だ!
「じゃ、じゃあどうしろってんだよ……!」
士道が言うと、数瞬の間のあと、身体の全面に
再び温かい
「え──」
思わず、閉じていた目を開く。
目の前には、十香の
要は──ぴたりと、身体を触れ合わせている。
「……これで、見えまい」
「っ、あ、ああ……」
本当にこれでいいのだろうか、と思いながらも、
身動きを取ることができず、そのまま固まる。
しばしのあと。
「……シドー」
十香が、消え入りそうな声を発してきた。
「また……、デェトに連れて連れていって
くれるか……?」
「ああ。そんなもん、いつだって行ってやる」
士道は、力強く首肯した。
「ふう……なんとか無事に解決したみたいで
良かった」
〈アテナ〉は十香と士道の二人やり取りを
眺めながらそう呟いていた。
「しかも……死んだはずの少年は五体満足に無事に
生き返ってしかも精霊の霊力を封印することに成功
するなんて……本当に信じられないよ」
だって、それじゃあ、まるで……
〈アテナ〉は驚きながらも関心した声を
出しながらそう思っていた。
「さてと……もう用は済んだから帰るとするか」
〈アテナ〉がそう言ってその場を後にしよう
とすると
「ま、待て‼︎ 〈アテナ〉……ッ‼︎」
「ん? 何かな? 折紙ちゃん?」
〈アテナ〉は背後からする声を掛ける方に
振り返ると背後には折紙がゆっくりとだが
立ち上がっていた。
「なぜ、私を助けたの……?」
折紙は〈アテナ〉を警戒しながらも視線を離さず
に睨みつけるように質問をする。
精霊を殲滅する目的とする組織ASTに所属して
いる自分を精霊である彼女が救う必要などない
からだ。
「別に助けたわけじゃないよ。ただ自分に降り
掛かる火の粉を振り払っただけだよ」
「それに……」と〈アテナ〉はそう言って視線を
折紙に向ける。
「か弱い人間である折紙ちゃんが彼女の逆鱗に
触れて一方的に殺戮されるのは見てられなかった
し可哀想だと思ったからね」
〈アテナ〉が折紙にそう言うと
「か弱い? 可哀想? ふざけるな……ッ‼︎
貴様等精霊に心配されるほど私は弱くない。
それに貴様だけには心配なんて言葉を言われる
筋合いはない‼︎」
折紙は表情は変わっていなかったがギリッ‼︎
と歯軋りの音をさせて瞳には
などの憎しみが渦巻いていた。
「そうか……」
〈アテナ〉は折紙にそう後、折紙に背を向けて
そう言う。
「安心して良いよ。弱っている者をいたぶって
楽しむ趣味はないから……って言っても精霊を
嫌っている君からしたら信用出来ないか……」
「貴様は私を馬鹿にするのかァァァッ‼︎」
〈アテナ〉の言葉が気に食わなかったのか折紙は
〈アテナ〉に向かって絶叫していた。
「別に馬鹿にしたつもりはないんだけどね……
これ以上、話すことはないからこれで失礼させて
もらうよ」
〈アテナ〉は折紙にそう言って宙に浮かんでいく。
「〈アテナ〉ァァァァッ‼︎ 逃げるなァァァァッ‼︎」
その場を離れようする〈アテナ〉に折紙は怒りで
我を忘れるぐらい叫んで手を伸ばすが〈アテナ〉
はそんな折紙を気にせずにその場を後にした。
「──以上です」
司令たる琴里しか立ち入ることの許されない
〈フラクシナス〉特別通信室。
その薄暗い部屋の中心に設えられた
つきながら、琴里はそう言って報告を締め
くくった。
精霊の
円卓には、琴里を含めて五人分の息づかいが
感じられた。
だが──実際に〈フラクシナス〉にいるのは
琴里のみである。あとメンバーは、円卓の上に
設えられたスピーカーを通してこの会議に参加
していた。
『……彼の力は本物だったというわけか』
少しくぐもった声を発したのは、琴里の右手に
座ったブサイクな猫のぬいぐるみだった。
まあ、正しくはぬいぐるみのすぐ前にある
スピーカーから声が発せられているのだが、
琴里から見ればブサ猫が喋っているようにしか
見えない。
先方にはこちらの映像が見えていないはず
なので、琴里が勝手に置いたものである。
おかげで〈フラクシナス〉の最奥に位置する
この部屋は、妙にファンシーな空間になっていた。
まるで不思議の国のアリスのマッド・ティー
パーティーである。
「だから言ったじゃないですか。士道なら
やれるって」
琴里が得意げに腕組みすると、今度は左手に
座った泣き顔のネズミが静かに声を発する。
『──君の説明だけでは、信憑性が足りなかった
のだよ。何しろ自己蘇生能力に……精霊の力を
吸収する能力というんだ。にわかには信じられん』
琴里は肩をすくめた。
まあ、仕方のないことなのだろう。
様々な観測装置を使って、士道の特異性を
確かめるために要した時間は──およそ五年。
とはいえ、その間に〈フラクシナス〉が建造され、
クルーが集められたのである。タイミングとしては
ちょうど良かったのだろう。
『精霊の状態は?』
次いで声を発したのは、ブサ猫の隣に座った、
涎をだらっだらに垂らした間抜け極まるデザイン
のブルドッグだった。
「〈フラクシナス〉に収容後、経過を見ていますが
──非常に安定しています。
されてはいません。どの程度力が残っているかは
調べてみないとわかりませんが、少なくとも、
『いるだけで世界を殺す』とは言い難いレベル
かと」
琴里が言うと、円卓についた四匹のぬいぐるみの
うち、三匹が一斉に息を詰まらせた。
『では、少なくとも現段階では、精霊がこの世界
に存在していても大丈夫問題ないと?』
明らかに色めき立った様子で、ブサ猫が声を
上げてくる。琴里は視線に嫌悪感を滲ませながら
も口調は穏やかに「ええ」と答える。
「それどころか、自力では
すら困難でしょう」
『──では、彼の様態はどうなんだね。
それほどまでに精霊の力を吸収したのだ。
何か異常は起こっていないのかな?』
今度は、泣きネズミが問うてくる。
「現段階では異常は見られません。
士道にも、世界にも」
『なんと。世界を殺す
人間の身に封じて、何も異常が起こらないと
いうのか』
バカ犬が言ってくる。
「問題が起こらないと踏んだから、彼の使用を
承認したのでしょう?」
『……彼は一体、何者なのかね。そんな能力
……まるで精霊ではないか』
ぬいぐるみの顔だけでなく、本当に、馬鹿だ。
琴里は内心で嘆息しながらも律儀に口を開いた。
「──蘇生能力については、以前説明したとおり
です。吸収能力の方は、現在調査中としか」
琴里が言うと、しばしぬいぐるみたちは黙った。
『なるほど……ところで
彼女、〈アテナ〉がこの天宮市に現れたそうだね』
クルミを抱えたリスのぬいぐるみがそう言うと
『〈アテナ〉ですと……ッ‼︎』
『あのギリシャで発見されたと噂の『世界各国が討伐
は絶望的に不可能だと言われた精霊』ですか⁉︎』
『しかし、そうなると状況がかなり変わってきて
しまいますぞ……』
リスのぬいぐるみ以外の三匹のぬいぐるみ達は
〈アテナ〉の名前を聞いた瞬間、スピーカー越しで
騒ぎ始める。
『落ち着きたまえ』
するとリスのぬいぐるみが三匹のぬいぐるみ達に
そう言って静かにさせる。
『慌てる必要はない。現に彼は精霊の力を封印する
ことに成功している。それに
それを承認したのは我々だ。違うかね?』
『それは……』
『た、確かにそうですが……』
『しかしですなぁ……』
三匹のぬいぐるみ達は不安そうな声を出す。
「〈アテナ〉についてですが急ぎ攻略できるよう
に万全にしていますのでどうか安心してください」
琴里がそう言うと三匹ぬいぐるみ達は琴里の言葉
に黙ってしまった。
『──とにかく、ご苦労だったね、
これからも期待しているよ』
「はっ」
琴里は初めて姿勢を正し、手を胸元に置いた。
「…………ふはあ」
あの一件から土日を挟んで、月曜日。
復興部隊の手によって完璧に復元された校舎には、
もう相当数の生徒が集まっている。
そんな中士道は、気の抜けた息を吐き、ぼうっと
教室の天井を眺めていた。
──あの日。
あれからすぐに気を失ってしまった士道が目を
覚ますと、またも〈フラクシナス〉の医務室に
寝転がされていた。
そしてその後、施設で入念なメディカルチェックを
受けさせられたのだか──気を失って以降、十香の姿
を見ていない。十香と話をさせろといっても、検査が
あるの一点張りで、結局最後まで姿を見ることすら
叶わなかった。
「……あー」
十香や〈アテナ〉に出会ってから、めまぐるしく
過ぎ去っていった一〇日間が嘘のように、ひたすら
に何もない休日は、正直──空虚さと無力感で、
死にたくなるくらいだった。
だが……一つだけ、それ以外に士道の思考に
引っかかったものがある。
あの日。士道は確かに十香とキスを交わした。
その瞬間、十香の纏っていた
それと同時に、何か自分の身体の中に、温かいもの
が流れ込んでくるような感覚を覚えたのである。
──あれは一体、何だったのだろうか。
「……………」
無言で、唇に触れる。
もう三日も経つというのにまだその感触が
残っている気がして、士道は軽く赤面した。
「……本格的に気持ち悪いぞ。何やってんだ五河」
「! っ、殿町。いるなら気配発してろよ」
急に話しかけられ、首の位置を元に戻す。
「……普通にいたぞ。ていうか話しかけてだぞ。
殿町さん寂しいと死んじゃうんだぞ」
「殿町君……だからやめておいた方がいいって
言ったのに……それに五河君も考え事している
みたいだから邪魔しちゃ駄目だよ……それに席に
着いた方がいいと思うけど……?」
「大丈夫だ‼︎ 俺と五河の関係はこんな程度じゃあ
崩れたりしないしホームルームまで時間もまだある
から安心しろ‼︎」
「そういうことじゃないと思うんだけど……」
零が殿町に言うが殿町は笑顔で親指をグッと
出して零にそう言うと零はやれやれといった
表情を浮かべながら呆れていた。
その後、殿町は無人であった前の椅子に馬乗り
になって、士道の机に肘を突いてくる。
「いや、知らねえよ。ていうか零の言う通り
自分の席戻れよ。もうすぐホームルームだぞ」
「だいじょーぶだって。どーせタマちゃん
少し遅れるんだし」
「殿町君……」
「おまえ……一応担任だろ。そんな猫かアザラシ
みたいなあだ名やめとけよ」
「はは、いいじゃん、可愛いし。歳は離れている
けど、俺全然ストライクゾーンだわ」
「ストライクゾーンって殿町君……自分の担任の先生
にそんなことを言うなんて……」
「あー……じゃあプロポーズしてやれよ。
多分受けてくれるぞ」
「五河君……? 一体、何言っているの……?」
「まったくだ。何言ってんだおまえ」
と、そこで教室のドアをガラガラと開ける音がし、
士道はぴくりと肩を揺らした。
───一瞬、教室がざわつく。
それはそうだろう。何しろあの鳶一折紙が、
頬やら手足を絆創膏だらけにして登校して
きたのだから。
「……っ!」
さすがに、息を詰まらせる。
話だ。三日経ったというのにこれだけの絆創膏が
残っているということは、相当に怪我や切り傷など
が多すぎて治療が間に合わなかったのだろう。
「………」
折紙は教室中の注目を一身に集めながら、
しっかりした足取りで、士道の目の前まで
歩いてきた。
「傷だらけだけど大丈夫なの……?
鳶一さん……?」
「大丈夫。問題はない」
零が心配そうに聞くと折紙は表情を変えずに
零に視線を向けながらそう言った後、視線を
士道に向けた。
「お、おう、鳶一。無事で何より──」
気まずげに言いかけたところで、士道の視界から
折紙がふっと消える。
一拍おいて、士道は折紙が深々と頭を下げている
ことに気づいた。
「と、鳶一……ッ⁉︎」
教室が騒然とし、士道と折紙に視線が集中する。
しかし折紙はまるで意に返していない様子で、
言葉を続けた。
「──ごめんなさい。謝って済む問題では
ないけれど」
のちに聞いた話によれば──十香を狙っていた
あの一撃は、折紙が放ったものだったという。
それを詫びでいるのだろう。
「な……五河、おまえ鳶一に何かしたのか……?」
「しとらんわ! してたら俺が謝る方だろうが!」
訝しげな視線を送ってくる殿町に返す。
とはいえ、詳しい事情を説明できるはずもない。
士道は折紙に向き直った。
「い、いいから、とりあえず頭を上げてくれ……」
士道が言うと、折紙は存外素直に姿勢を戻した。
「でも──」
と、次の瞬間、士道のネクタイが根元から
引っ張られる。
「ぃ──つ⁉︎」
折紙は、そのひんやりした表情をまったく
変えないまま、顔を近づけてきた。
「
「……………は?」
「う、
士道──をはじめ、折紙の挙動に注目していた
クラスの面々の目が点になる中、零は一言呟いて
いた。
「五河君……十香ちゃんがいるのに折紙さんと
浮気をしていたの?」
「ちょっ⁉︎ ち、違うんだ……ッ‼︎ これには理由が
あるんだ‼︎」
「ふーん……。なら、納得する理由をじっくりと
聞かせてもらおうかな?」
「そ、それは……」
士道は零から視線を視線を逸らした。
何故なら部外者である零や殿町やASTの隊員で
ある折紙の前で精霊、十香のことを言う訳にも
いかない。むしろ言うなど論外である。
(こんな時、どうすればいいんだ……)
琴里や令音の援護がないこの状況で士道がこの窮地
を脱する為に思考を巡らせているとそれに合わせる
ように、ホームルームの開始を告げるチャイムが
鳴った。
(チャイムだ‼︎ 助かった……ッ‼︎)
士道は逃げられると思いホッとした安心した
表情を浮かべていた。
「あとでしっかりと説明してもらうからね?」
「は、はい……お手柔らかにお願いします……」
零は士道にそう言った後、士道は苦い顔をしている
のに気が付いていたがそんなこと気にせずに自分
の席について行った。
零と士道のやり取りの後、クラスの面々は興味
深そうに折紙と士道の方を眺めながらも、自分の
席に着いていく。
だが、折紙だけはそのまま、士道の顔をジッと
見つめてきていた。
と、そこに救いの女神が現れる。
「はーい、皆さーん。ホームルーム
始めますよぉー」
扉を開け、タマちゃん教諭が教室に入ってきた
のである。
「……? と、鳶一さん、何してるんですかぁ?」
「早く席に座りなよ。鳶一さん」
「………」
折紙は無言のまま珠恵と零を一瞥すると、
士道のネクタイを離して自分の席に戻っていった。
とはいえ、そこは士道のすぐ隣。
安堵の息を吐けない。
「は、はい、皆さん席に着きましたね?」
教室の不穏な空気を感じ取ってか、珠恵がやたら
元気な声を上げる。
次いで、思い出したかのように手を打ち、
うんうんとうなずいた。
「そうそう、今日は出席を取る前にサプラーズが
あるの!───入ってきて!」
言って、今し方自分が入ってきた扉に向かって
声をかける。
「ん」
と────それに応えるようにそんな声がして。
「な……」
「────」
「う、うそ……」
士道と折紙、そして零の驚愕とともに。
「──今日から厄介になる、
皆よろしく頼む」
高校の制服を着た十香が、ものっすごくいい笑顔
をしながら入ってきた。
見ているだけで目が痛くなるほどの美しさに、
クラス中が騒然とする。
十香はそんな視線など意に介さず、チョークを
手に取ると、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ
書いた。そして満足げに「うむ」とうなずく。
「な、おまえ、なんで……」
「ぬ?」
言うと、十香が視線を向けてきた。
不思議な輝きを放つ、
「おお、シドー! 会いたかったぞ!」
そして大声で士道の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて
士道の席の真横──ちょうど、ついさっきまで折紙
が立っていた位置までやってくる。
再び、士道はクラス中から注目を浴びた。
ざわざわ、ざわざわ。あたりから、二人の関係を
邪推する声や、先ほどの折紙との関連性を探るような
声が聞こえてくる。
士道は額に汗を浮かばせて、生徒たちに聞こえない
よう小さく声を発した。
「と、十香……?
どうしてこんなとこにいるんだ?」
「ん、検査とやらが終わってな。──どうやら、
私の身体から、力が九割以上
らしい」
十香も士道の真似をしてか、小さな声で
言ってくる。
「まあ──とはいえ怪我の功名だ。私が存在して
いるだけでは、世界は啼かなくなったのだ。
それでまあ、おまえの妹がいろいろしてくれた」
「み、
「何といったかな、あの眠そうな女がつけて
くれた」
「あいつら……っ」
士道は頭をくしゃくしゃとやって突っ伏した。
十香を自由にしてくれたのはありがたいが、
他にやりようがあるだろう。
しかし十香は何食わぬ顔で、
「なんだ、シドー。元気がないな。──ああ、
もしや私がいなかったので寂しかったのか?」
なんて、冗談めかす調子もなく、そんなことを
言ってきた。
しかも、周りが皆に聞こえるくらいの大きさで。
クラスのざわめきが、最高潮に達する。
士道はこの上ない
なんとか声を上げた。
「おま……ッ、変なこと言うんじゃねえよ」
「なんだ、つれないな。あのときはあんなに
言って両手で
顔を作る。
『──────っ⁉︎』
周囲の空気が変わるのが、わかった。
なんかもう中には机の陰でメールを打っている者
さえいる。これでは一瞬のうちに学校中に士道の名
が知れ渡ってしまうだろう。
士道はあえて大きな声を張り上げた。
「ち、違うだろ十香! そ、そんな言い方したら、
みんなに誤解されちまうじゃねえかあ!」
「ぬ? 誤解などと言い張るのか?
私は初めてだったのに……」
『───────、……………ッ⁉︎』
──致命打。多分、琴里とか
クラスの面々が、教諭の制止も聞かずに騒ぎ出す。
と、瞬間──十香が士道に近づいていた顔を
右に動かした。
「え……?」
呆気に取られる士道の目の前を、ペンと思しき
ものが凄まじい速さで横切っていく。
「うわッ⁉︎」
驚き、その出所を見る。そこには、たった今ペンを
放った格好のまま、冷たい視線を向けてくる折紙の
姿があった。
「……ぬ?」
「………」
十香と折紙。二人の視線が混じり合う。
「ちょ、ちょっと……⁉︎ 鳶一さん‼︎
少し落ち着いて‼︎」
「私は落ち着いている」
零は席から立ち上がって折紙に言うが折紙は
視線を十香から離さずに冷たい声でそう言う。
「さすがにそんな殺気を剥き出しにして落ち着いて
いるなんて言えないでしょ? それにもし五河君
や十香ちゃんにペンが当たったら危なかったよ?」
「私はそんなミスはしない。それにその女、
夜刀神十香にそんな心配をする必要はない」
「はあ……まったく、鳶一さんは……」
零は表情を変えずに言うそんな折紙に呆れながらも
視線を十香に向ける。
「大丈夫だったかな、十香ちゃん?」
「おお‼︎ 零ではないか‼︎ あの時以来だな‼︎」
「まあね。とりあえず無事で良かったよ」
「うむ‼︎ ところで……」
十香は零に視線を向けて笑顔でそう言った後、
視線を折紙に向ける。
「なぜ貴様がこんなところにいる?」
「それは、私の
まさに一
──しかし二人とも、ここで戦闘をやらかそう
という気はないようだった。
それはそうだろう。片や力のほとんどを失った
状態、片や装備もなく、怪我をした状態なのだ。
「は、はい! おしまい!
おしまいにしましょう! ねー! 仲良く!」
岡峰教諭が慌てた様子で二人の間に割って入り、
どうにかその場は水入りとなった。
「じゃあ、夜刀神さんの席は───」
先生が十香の席を探し始めると、
「無用だ。──退け」
十香は、士道の隣──折紙の反対側に座っていた
生徒に、鋭い眼光を放った。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
そのプレッシャー圧され、座っていた女子生徒
が椅子から転げ落ちる。
「十香ちゃん。それはやり過ぎだと思うよ?」
「む? そうなのか?」
十香は零の言葉に不思議そうに首を傾げた後、
視線を転げ落ちた女子生徒に向ける。
「い、いえいえ‼︎ どうぞどうぞ‼︎
私のことは遠慮せず座ってください‼︎」
転げ落ちた女子生徒は先程の十香のプレッシャー
にびびってしまってビクビクと自分の席を十香に
譲っていた。
「ん、そうか、すまんな」
言うと、十香は悠然とそこに腰掛け、士道の方に
視線を送ってきた。
だがそうなると、視線が混じるのは士道ではなく
折紙になるわけで。
「………」
「………」
二人して、無言で
いや、十香がこちらの世界に居続けることが
できるようになったのは、士道しても嬉しいのだ。
いろいろと手を回してくれた琴里たちにも感謝して
いる。
それに、折紙が生きていてくれた件に関しても、
〈アテナ〉のおかげではあるのだが正直安堵して
いる自分がいた。
これはきっと、最高の決着と言える
なのだろう。
だが、これは……
「おおう……」
士道は、左右両側から発せらる、
眼光に
最後まで読んでもらってありがとうございます‼︎
『他の投稿作品』もあるので、そちらも
是非、読んでもらえたらありがたいです‼︎
これからも『応援』よろしくお願いします‼︎
十香と士道が出会う前の四月九日の話を書いた方がいいか
-
書くべき
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書かなくていい
-
どっちでもいい