今回は『20061文字』まで頑張って書きましたが
豆腐のようなクソナメクジメンタルの自分はきちんと
面白く書けているのかとても心配になります……(汗)
ちなみに今回のお話は納得いかなかったので再度、
『修正と更新』をさせてもらいましました。
【お気に入り】『62人』、【しおり】『18人』
【投票】『7人』と本当にありがとうございます‼︎
更に【お気に入り】や【しおり】、【投票】
そして【感想】などいただければ豆腐メンタルな
自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
今回は『あのキャラクター』が登場します‼︎
最後まで読んでもらえたら本当にありがたいです‼︎
新しい日常
「シドー! クッキィというものを作ったぞ!」
腰まであろうかという
冗談のように美しい少女が、興奮気味にそう言って、
手にしていた容器を士道の目の前にずいっと突き
出してくる。
少女の名を呼んだ。
「と、十香……」
「うむ、なんだ⁉︎」
背景に花が咲き乱れるかのような屈託のない笑みで、
少女──
「……や、その」
言いたいことはいろいろあったのだけれど、
その眩しすぎる笑顔に、何も言えなくなってしまう。
十香はそんな士道の様子を不思議そうに眺めてから、
容器の蓋を開いた。
「そんなことよりも、シドー。これを見てくれ!」
そこには、形が歪だったり、ところどころ焦げて
いたりはするものの、まあ辛うじてクッキーと称する
ことができなくない物体が入っていた。
士道と十香は同じクラスだったのだが、なんでも、
個々人の作業量が充実するように……とかなんとか
いう理由で、現実的に、調理実習を少人数分けて
行っていたのだった。
つまり、今日は女子だけが調理実習の日だったのだ。
「これは……」
「うむ、皆に教えてもらいながら、
私がこねたのだ! 食べてみてくれ!」
言って、十香がまたも満面の笑みを作る。
「………」
士道は、言い知れぬ寒気が背筋に注がれたのである。
別に十香のクッキーがどうこうという話ではない。
単純に──教室中から、男子たちの怨嗟に満ちた
視線が注がれたのである。
だがそれも無理からぬことなのかもしれない。
ただでさえ、女子の手作りクッキーをいただくなんて
のは、他の男子たちの嫉妬の的だ。
しかもそれが、転入直後から、彼女にしたい女子
ランキングを駆け上がった(と
のものだというのである。
一番近いところだと、すぐ近くにいた友人の殿町宏人
までもが
「? どうしたシドー。食べないのか?」
「え……い、いや……その」
士道が頬をぴくつかせながら言うと、十香が
少ししょんぼりと肩を落とした。
「むう……そうか、シドーの方が料理は得意
だからな……」
「! そ、そういうわけじゃないって。
い、いただくよ」
士道は意を決すると、容器からクッキーを
一枚取った。
そしてそれをゆっくり口に運──
「……ッ⁉︎」
ぼうとしたところで、目の前を
ものが、一直線に通り過ぎていく。
廊下の方から放たれたと思しきそれは、士道が
手に取ったクッキーを粉々に砕くと、そのまま
壁に突き刺さった。
「な……なんだ……ッ⁉︎」
突然の事態に一瞬身体を硬直させたあと、叫ぶ。
銀色の軌跡の先に目をやると、フォークが壁に
突き刺さって、ビィィィン……と柄を揺らして
いるのがわかった。シンプルなデザイン。多分、
調理室の備品だ。
「ぬ、誰だ! 危ないではないか!」
十香が叫び、廊下に顔を向ける。士道もそれに
倣うように、そちらに目をやった。
「………」
そこには、つい今し方何かを投擲したように、
右手を真っ直ぐ伸ばした少女が無言で立っていた。
肩口をくすぐるくらいの髪に、色素の薄肌。
顔立ちは非常に端整であるものの、そこに表情の
ようなものが一切見受けられないため、どこか人形
のような無機的な印象がある少女だった。
「と……
「ぬ」
士道は頬に汗をひとすじ垂らし、十香は不機嫌そうに
眉根を寄せる。
少女──
ゆっくりと歩み寄ってきた。
そして士道の前まで辿り着くと、左手に持っていた
容器の蓋を開け、先ほどの十香と同じように士道に
差し出してくる。
「夜刀神十香のそれを口にする必要はない。
食べるならこれを」
そこには、工場のラインで製造されたかのごとく、
完璧に規格の統一されたクッキーが綺麗に並んで
いた。
「え、ええと……」
「邪魔をするな! シドーは私のクッキィを
食べるのだ!」
士道が反応に困っていると、十香がぷんすか!
といった調子で声を上げた。
しかし折紙は微塵も怯まず、それどころか表情を
ぴくりとも動かさず、のどを震わせる。
「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」
「何を言うか! あとから来ておいて偉そうに!」
「順番は関係ない。あなたのクッキーを彼に摂取
させるわけにはいかない」
「な、なんだと⁉︎」
「あなたは手洗いが不十分だった。加えて調理中、
舞い上がった小麦粉に咽せ、くしゃみを三度して
いる。これは非常に不衛生」
「な……っ」
虚を突かれたように、十香が目を丸くする。
なぜだろうか、折紙のそんな言葉が発せられた瞬間、
周囲の男子生徒たちが、ざわ……ッ、と色めき立ち、
視線が十香のクッキーに注がれた。
しかし十香はそんなものに気づく様子もなく、
ぐぬぬ……と拳を握りしめる。
「し、シドーは強いからそれくらい大丈夫なのだ!」
「因果関係が
の分量を間違っていた。レシピ通りの仕上がりに
なっているとは思えない」
「……っ⁉︎」
折紙が言うと、十香は眉をひそめ、自分と折紙の
クッキーを交互に見た。
「な……っ、なぜその場で言わんのだ!」
「指摘する義務はない。──ともあれ私の方が、
彼を満足させる可能性が高いことは明白」
「う、うるさいっ! 貴様のクッキィなぞ、
美味いはずがあるかっ!」
十香はそう叫び、目にも止まらぬスピードで、
折紙の容器からクッキーを一枚かすめ取ると、
自分の口に放り込んだ。
そしてサクサクと咀嚼し──
「ふぁ……っ」
頬を桜色に染め、恍惚した表情を作った。
どうやら、美味しかったらしい。
しかし十香はすぐにハッとした様子で首を横に
ブンブンと振った。
「ふ、ふん、大したことはないな!
これなら私の方が美味いぞ!」
「そんなことはあり得ない。潔く負けを認めるべき」
「なんだと⁉︎」
「なに」
「まったく……二人とも……」
士道が十香と折紙のやり取りを見てため息をつくと
「相変わらずモテモテだね。五河君」
士道は背後から聞こえてくる声に振り返って見ると
「れ、零! いつの間に⁉︎」
「さっきだよ。それにしても十香ちゃんと鳶一さん
が何か言い合いをしてるみたいだけどこれは一体、
どうしたのかな?」
「そ、それは……」
士道は零から視線を逸らす。
「どうして逸らすのかな? ねぇ、五河君?」
「い、いや、それはですね……」
こんな時こそ琴里や令音さんのアドバイスが
今この瞬間にとても欲しいところである。
士道がそう考えながらも額に汗をかいて零に
言い訳する理由を必死に考えていると
「言い訳しようとしているなら無駄だからね?」
「ハ、ハイ。是非とも説明をさせてもらいます……」
士道はがっくりして零にそう言って原因を話す。
「という訳です……」
士道がそう言うと零にそう言うと零は呆れた顔
をしてため息を浮かべていた。
「それって、五河君の自業自得なんじゃない?」
「うッ! そ、それは……」
「それに最初は担任の
その次は
したんでしょ?」
「い、いや それは……ッ‼︎」
いくらなんでも教室の中でその黒歴史を言わない
でほしい……十香や鳶一、更には他の生徒達に絶対
に聞かれたくない内容であるしもし聞かれたら一体、
どうなるか……
「はあー……まあ、いいけど……それで今にも
一触即発寸前のあの二人は一体、どうするの?
止めなくていいの?」
「えっ……?」
士道は間抜けな声を出しながら背後を振り返って
見ると十香と折紙は今にも放っておいたら殴り合い
になってかねない状態になっていた。
「ま、まずい……‼︎」
士道は急いで二人の間に割って入ってなだめるように
距離を取らせた。
「お、落ち着けって二人‼︎」
「ぬ……ではシドーは、どちらのクッキィが
食べたいのだ?」
「え?」
と、不意にそんなことを言われ、士道は間の抜けた
声を発した。
十香と折紙が、左右から同時に、クッキーの入った
容器を差し出してくる。
「さあシドー」
「………」
十香と折紙、二人の刺すような眼光に射竦められた
士道は、顔中にぶわっと脂汗を浮かべて後ずさった。
……なんだか、どっちを食べても殺されそうな
気がする。
士道は自らの生存本能の命ずるままに、両手で
二つの容器からクッキーを取ると、同時に口に
放り込んだ。
「う、うん、美味しいぞ、二人とも!」
十香と折紙はそんな士道の様子をジーッ……と
見つめたのち、
「うむ、私のクッキィを食べる方が、
ほんのちょびっとだけ速かったな!」
「私の方が〇・〇二秒速かった」
まったく同時に、そう言った。
「…………」
「…………」
そして、静かに顔を見合わせる。
「……ええと」
『この空気』は、今日が初めてではない。
士道は最後の望みに縋るかのように視線を零に
向けるが零はそんな士道たちの様子を見てため息
を吐きながら「
視線を送っていた。
零からの助けが求められないとわかった士道は
諦めにも似た気分で、再び二人の間に身を踊らせた。
そしてその瞬間、予想通り双方から、凄まじい
スピードでお互いの急所を狙った拳が放たれ──
二人の間に割って入った哀れな男の頭部と腹部に
吸い込まれていった。
「……はあー……」
士道は、長く重たいため息を吐き出した。
日の傾き始めた住宅街の道を、足腰弱った
おじいちゃんのような足取りで進んでいく。
顔は疲労の色に染まり、目にかかるくらいの髪にも、
心しかツヤがない。
歳はまだ一六だったが……実際何歳か老けて見えた。
だが、それも無理からぬことだろう。
「……はぁ」
ため息をもう一つ。
結局あのあとも
士道が止めに入っていたのである。
しかも、そんなバトルは今日に始まったこと
ではない。
先月十香が、士道の通う都立
からというもの、毎日のように二人の小競り合いは
続いていたのだ。
──だが、それがただの女子高生たちの口喧嘩で
あれば、士道の心労はここまで深刻なものにはなって
いなかっただろう。
「………」
士道は先月目にした十香と折紙の姿を思い起こした。
片や、世界を殺す
片や、陸上自衛隊・
双方、人間の領域を遥かに超えた、規格外の異能を
有する少女だった。
そんな二人の間に、一応は一般人の士道が割って
入らねばならないのだ。肉体的疲労はもとより、
精神的疲労の蓄積度は尋常ではなかった。
「ったく、あの二人、少しは仲良く
できねえのかよ……」
言ってから、士道は自分の発言の阿保さに頭を
くしゃくしゃとやった。
今は十香に精霊の反応が認められないため、
折紙たちASTが表立って命を狙ってくることはないと
『司令』が言ってはいたのだが……そう簡単に仲良く
などできないのは、当然といえば当然のことだった。
だが……さすがにこれが続くようでは、士道の
身が保たない。
士道は今までで一番大きなため息を吐こうとし──
「ん……?」
不意に、顔を上にやった。
突然、ぽつん、と首筋に冷たいもの垂れてきた
ような気がしたのだ。
「……うわ」
うめくように言って、顔をしかめる。
いつ間にやら、空がどんよりと曇っていたのだ。
「雨かよ。おいおい、天気予報では晴れって
言ってたじゃねぇか」
最近的中率の低い気象予報士に恨み言を呟く。
と、まるでそれを見計らったかのようなタイミング
で、ぽつ、ぽつ、と、大粒の雫がアスファルトの道
に染みを作り始めた。
「っとと……」
慌てて、持っていた鞄を頭の上にやり、小走りで
家へと急ぐ。
しかし、雨はそんな士道をあざ笑うかのように、
みるみるのうちに激しさを増していった。
「おいおい、マジかよ……」
制服に染みていく冷たい感触に、士道はうんざり
と眉をひそめた。
まあ、両親が出張中で家事を取り仕切っている士道
としては、服が張り付いて気持ち悪いなあとか、
風邪を引いたら嫌だなあという思考より先に、
部屋干しで明日までまでにブレザーが乾くかなあ
という、少々所帯じみた心配が先に来たのだが。
できるだけ服が濡れないよう、無駄な努力を
しながら、自宅への道を走る。
だが、丁字路を右に曲がったところで。
「あ……?」
降りしきる雨の中、士道はふと足を止めた。
足が疲労に耐えかねたわけでも、もう濡れて
いいやー、と開き直ったわけでもない。
ただ──前方に。
天から落ちる水玉よりも、遥かに気になる
ものが現れたのだ。
「女──の子……?」
士道の唇は、そんな言葉を紡いでいた。
そう、それは、少女だった。
顔は
大きなフードが、彼女の頭をすっぽりと
いたからだった。
そしてもっとも特徴的なのは、その左手だ。
いやにコミカルなウサギ形の
装着されていたのである。
そんな少女が、ひとけのなくなった道路で、
楽しげにぴょんぴょんと跳ね回っていた。
「なんだ……?」
士道は、眉をひそめてその少女を凝視した。
頭の中を、疑問符が通り抜ける。
なぜあの女の子が傘を差さず、雨の中飛び跳ねて
いるのか、という疑問ではない。
──なぜ。
なぜ、自分はあの女の子に、目を奪われたのだろう。
そんな、疑問。
確か目を引く格好ではある。
だが──違う。そんなことではない。
上手く言語化できないのだが……士道の脳内は
違和感で溢れていた。
不思議な感覚。前にも、しかもつい最近どこかで
感じたことがある気がしてならない。
「………」
もう雨の冷たさも、濡れた服の不快感も気に
ならなくなっていた。
ただ、冷たい雨だれのカーテンの中、軽やかに
踊る少女に、目を釘付けにされ──
──ずるべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!
「は……?」
呆然と目を見開く。
……女の子が、コケた。
顔面と腹を盛大に地面に打ち当て、あたりに
水しぶきが散る。ついでに彼女の左手から
パペットがすっぽ抜け、前方に飛んでいった。
そして、うつぶせになったまま、動かなくなる。
「……お、おいッ!」
士道は慌てて駆け寄ると、その
抱きかかえるように
「だ、大丈夫か、おい」
そこで初めて、少女の貌を見取ることができた。
年の頃は士道の妹・
ふわふわ髪は海のような青。
「………!」
と、そこで少女が目を見開いた。長い睫毛に
飾られた、
「ああ……よかった。──
士道が言うと、少女は顔を真っ青に染めて目の
ぐらぐら
飛び上がった。
そして少し距離を取ってから、全身を小刻みに
カタカタと
送ってくる。
「……ええと」
まあ、助け起こすためとはいえ、急に身体に触れて
しまったのは軽率だったかもしれないが……
それでも少しショックである。
「そ、そのだな。俺は──」
「……! こ、ない、で……ください……っ」
「え?」
士道が足を前に踏み出すと、少女が怯えた様子で
そう言った。
「いたく、しないで……ください……」
続いて、少女はそんな言葉を吐いてくる。
士道が自分に危害を加えるように見えるのだろうか、
その様は、まるで震える小動物のようだった。
「ええと……」
と、対応に困った士道は、そこで地面に落ちていた
パペットに気がついた。
先ほど少女の手から抜けてしまったものだろう。
ゆっくりと腰を折ってそれを拾い上げ、少女に
示してやる。
「これ……君のか?」
「……!」
少女がビクッと肩を揺らすが──士道の意図に
気づいたのだろう、あちらもゆっくりとすり足で
近づいてきた。
そして、士道の手からパペットを奪い取るなり、
それを装着する。
すると突然少女が、パペットの口をパクパクと
動かし始めた。
『やっほー、悪いねおにーさん。
たーすかったよー』
腹話術だろうか、ウサギ妙な甲高い声を
発してくる。
首を傾げ、訝しげに少女の顔を見やるが……まるで
士道と少女の間を遮るように、ウサギのパペットが
言葉を続けてきた。
『──ぅんでさー、起こしたときに、よしのんの
いろんなトコ
どーだったん?』
「は、はぁ……?」
パペットは笑いを表現するようにカラカラと
身体を揺らした。
『またまたぁー、とぼけちゃってこのラッキー
スケベぇ。……まぁ、一応は助け起こしてくれた
わけだし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ』
「……あ、ああ、そう」
苦笑いしながら、パペットが言ってくるのに返す。
『ぅんじゃあね。ありがとさん』
と、パペットがそう言うと同時、少女が踵を返して
走っていってしまった。
「あ──おいっ」
士道が声をかけるも、少女は反応を示さない。
「何だったんだ……ありゃあ」
奇妙な少女の後ろ姿を呆然と見送ってから数秒。
その場に立ち尽くした士道は、頬をかきながら
そんな言葉を発した。
「……あ」
そこで、気づく。
少女に気をとられて気がつかなかった──
士道の身体は余すところなくびしょ濡れになって
しまっていたのだ。
ついでに、地面に膝ついたものだから、ズボンが
盛大に汚れてしまっている。
「うわー、もう……」
染み抜きが家に残ってたかなあ、なんてことを
考えながら、髪をくしゃくしゃにかきむしる。
水滴が弾けるように辺りに舞った。
もうここまで濡れてしまってはどうしようもない。
士道は陰鬱な心地をため息に変換してその場に残し、
家へと歩みを進めていった。
「あー……びしょ濡れだよ」
ぼやきながら歩いて、数分。
「……ん?」
自宅の前まで辿り着き、玄関に鍵を差し込んだ
士道は、小さく眉をひそめた。
ドアノブを握り、そのまま引いてみる。
予想通り、出がけに鍵を掛けていたはずの扉が、
なんの抵抗なく開いた。
「──琴里のやつ、ようやく帰って
きやがったのか」
ふうと息を吐いてから、士道は微かに表情を
硬くした。
士道の妹──
一三歳の中学二年生。
そしてそれと同時に、
無力化しようとする組織・〈ラタトスク機関〉の
司令官でもある。
十香という精霊を保護した事、そして世界各国から
『討伐するのは絶望的に不可能な精霊』〈アテナ〉
の出現のせいでかなりの後処理に追われ、先月から
一度も家に帰ってきていない妹の顔を思い浮かべて、
士道は「ったく」と嘆息した。
十香と〈アテナ〉の一件で忙しいのはわかるが、
無断外泊は看過できない。一応学校には行っている
ようだったが……ここはお兄ちゃんとして一言
言わねばならないだろう。
「それに──」
士道は、ごくりと唾液を飲み込んだ。
士道には、琴里に訊かねばならないことが山ほど
あったのだ。
ひと月前、士道が体験した、およそ現実とは
思えない数々の事象。
琴里は、それに深く関わっていた。
「………」
ただ妹と顔を合わせるだけだというのに、やたら
動悸が激しくなる。
士道は意を決して「ぇえい!」と頬を張り、
家の中に足を踏み入れた。
「──ただいま」
雨でぐっしょりと濡れた靴と靴下を脱ぎ、ズボンの
裾を捲り上げてから、フローリングの床にペタペタ
と足跡を残していく。
と、廊下の先から、テレビの音が漏れ聞こえてきた。
きっと琴里がリビングにいるのだろう。
士道は爪先の向きを風呂場の方に変えた。
どうせ濡れ鼠状態のまま話し合いというわけには
いかない。まず身体を拭いて服を着替えてから、
リビング向かう方よいだろう。
士道は片手に鞄と靴下を持ちながら、脱衣所の扉を
慣れた調子で開けた。
と。
「─────ッ⁉︎」
瞬間、士道は身を凍らせた。
──脱衣所に、ここにいるはずのない少女の姿が
あったのである。
背を
形容の頭に「絶世の」を一〇付けようとも、
その美しさの一割も表しきれないほどの、
そんな少女は、士道の記憶中に一人しかいなかった。
世界を殺す
二年四組出席番号三五番。
──その身に、一糸すら
「と、十香……?」
呆然と、呟く。
芸術的とさえいえる美しい肢体が、一瞬のうちに
士道の
手の平に収まるぐらいの乳房に、きゅっと締まった
ウエスト、柔らかそうな
そうな、
「……ッ⁉︎」
そこでようやく、十香がビクッと震わせ、顔をこちら
に向けてくる。
「な……ッ、し、シドー⁉︎」
「! あ、や、ち、違うんだ……! これは──」
何が違うのかわからないが、士道の口は無意識に
そんな言葉を発していた。
「いッ、いいから出ていけ……ッ!」
「ぐぇふッ……⁉︎」
士道は、見事過ぎる右ストレートを
そのまま後方によろめいて、壁に背を、床に尻を
預けてへたり込んだ。
間髪入れず、びしゃん! と、脱衣所の扉が
閉められる。
「──けほッ、けほッ……あ、あんにゃろ、本気で
十香が本気で殴っていたら、士道の身体収納に
便利な上下な脱着式になっている。
段々と鳩尾の痛みと、脳内と網膜を
落ち着きを取り戻す。
と、脱衣所の扉が少し開かれ、頬を真っ赤にした
十香が顔を
「……見たのか、シドー」
「……!」
士道は、じとーっとした視線を送ってくる十香に、
ブンブンと首を振った。
……実はちょっとだけ見てしまったのだけれど、
馬鹿正直にそんなことを言ったら、今度こそスーツ
ケースに収めやすい身体にされてしまいそうだった。
一応はそれで納得したのか、十香が「むう……」と
うなってから、扉を全開にする。
無論、もう十香は服を着ていた。
しかしそれはいつもの制服ではない。琴里が
貸し与えたのだろうか、士道が愛用している
部屋着だった。
一回りサイズが大きいため、
少し目のやり場に困ってしまう士道だった。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
十香に指を突きつけ、叫ぶ。
「な……っ、なんでおまえがうちにいるんだ、
十香……ッ!」
しかし十香は、士道が何を言っているのか
わからないといった感で首を傾げると、
「何? 妹から聞いてないのか? なにやら、
ナントカ訓練だとかで、しばらくの間ここに
なんて、事なげに言い放った。
「く、訓練……⁉︎」
士道は眉根を寄せると、視線を廊下の奥の方に
やった。
そしてそのまま立ち上がり、つかつかと歩いて
いくと、乱雑に扉を開け放つ。
「琴里ぃ! どういうことだッ!」
「おー?」
すると、ソファに座りながらテレビを見ていた
ツインテールのちびすけが振り向き、そのどんぐり
みたいな丸っこい目を士道に向けてきた。
「おー、おにーちゃん。おかえり」
「お、おう、ただいま……じゃなくて!」
思わず普通に返事をしてしまってから、首を
ブンブンと振る。
「おまえが十香を連れてきたのか……?
訓練って、一体何のことだよ……っ!」
「まーまー、落ち着いて落ち着いて」
「落ち着いていられるかっ! な、なんで十香が
うちに……? 今日も、いつもみたいに令音さんと
一緒に帰ったじゃねえか」
「え? んー、それなら──」
琴里が、指をピンと立て、キッチンの方に向ける。
「あ……?」
士道は、琴里の指が指し示す方向に目をやり──
また、固まった。
「……ああ、邪魔しているよ」
なんて、言いながら。
やたら眠たそうな顔した女が。リビングとキッチン
を隔てるダイニングテーブルに着き、湯気を立てる
カップに角砂糖をいくつも放り込んでいたのである。
──
士道のクラスの
ちなみに彼女もの軍服や白衣姿ではなく、士道の
母のパジャマを着用し、首にタオルを掛けていた。
心なしか、髪も少ししっとりしているように見える。
「れ、令音さん? 何やっているんですか……?」
「……ふむ?」
令音は士道の問いにしばし考え込むような仕草を
見せたのち、後頭部をかいた。
「……ああ、すまない。砂糖を使いすぎたかな」
「いや、そうじゃなくて!」
たまらず、叫ぶ。
確かにカップには、令音の血糖値が心配になるくらい
の角砂糖が放り込まれだが、士道にとって重要なのは
そこではなかった。
士道は心拍を落ち着けるように軽く胸を叩いて
から言葉を続けた。
「どういうことですか? 十香は今、組織が所有する
〈フラクシナス〉に住んでるじゃ?」
〈ラタトスク〉に保護された十香は今、組織が所有
する空中艦〈フラクシナス〉内部の隔離エリアで
生活しながら、学校に通っているという話だった。
力を封印されているとはいえ、かつては世界を殺す
災厄とさえ言われた精霊である。
万一のことがあっても即座に対応できるように。
また、効率的に定期検診を行うために、厳重な封印
が施された隔離エリアに部屋などが用意されている
らしい。
ゆえに、十香は学校が終わると、令音と
〈フラクシナス〉に戻っていたのだが……
「……ああ、そうだね。まず説明をしなければ
ならないね」
令音が、
声を発している。
「……しかし、だ。その前に」
「その前に……?」
「……着替えた方がよくないかね?
床が濡れているよ」
言われて、士道は「あ」と短く声を発した。
「……で? 一体どういうこった?」
部屋着に着替えた士道は、テーブルの向かいに
座った琴里と令音に視線を向けた。
今三人がいるのは、五河家二階に位置する、
琴里の部屋だった。
六畳くらいのスペースに、パステルカラーのタンス
やベッドが配置され、そこかしこに、ファンシーな
小物やぬいぐるみなどが所狭しと並んでいる。
本当ならリビングで話を続けたかったのだが、
十香の耳に入れたくない話もあるということで、
こちらに場所を移したのだ。
ちなみに十香は今、リビングでアニメの再放送に
夢中になっている。とりあえずあと二〇分くらいは
大人しくしているだろう。
「んーとね」
と、琴里が、指を頬をぷにっ、と持ち上げた。
「今日からしばらくの間、十香がうちに住むこと
になったのだ!」
そして、えっへんと胸を反らすようにしながら、
「だから、どうしてそうなったんだって訊いとる
んじゃぁぁぁぁぁッ!」
「……まあ落ち着いてくれ、しんたろう」
士道が叫んだところで、令音が声を上げた。
案の定というかなんというか、名前は間違えた
ままだ。
「しんたろうじゃなくて士道です」
「………ああ、そうだった。訂正しよう。
悪いね、シン」
「………」
訂正されていない。ただの愛称になっている。
わざとやっているのだとしか思えない……のだが、
令音のぼうっとした顔見ていると、なんか本当に
間違えて覚えてしまっているのでは、という疑念が
浮かんでくるのだった。
しかし、士道はそれ以上、名前の件に関して追及
できなかった。
「……理由は大きく分けて二つある」
令音が、静かな声で、そんなことを言い始めた
からだ。
「……一つは──十香のアフターケアのためさ」
「アフターケア……って言うと?」
「……シン。君は先月、口づけによって十香の力を
封印したね?」
「……っ、は、はい……」
士道は小さく首を前に倒した。
同時に、
少し顔が赤くなる。
「あー、おにーちゃん赤くなってるー。
かーわいいー」
「う、うるせ!」
琴里が心底楽しそうに言ってくる。
士道は気まずげに目線を逸らした。
「……まあ、そこまではいいのだが、一つ問題が
あってね。……今、シンと十香の間には、目に
見えない
状態なんだ」
「パス? どういうことですか?」
「……簡単に言うと、十香の精神状態が不安定に
なると、君の身体に封印してある
逆流してしまう恐れがあるということさ」
「な……ッ」
士道は、戦慄に身を凍らせた。
──封印した十香の、精霊の力が、逆流する……?
剣の一振りで天を、再び十香が備えてしまうという
ことだろうか。
もしそうだとしたなら──考えるだけでも怖気を
ふるう事態だった。
「……君の知っての通り、十香は今、
〈フラクシナス〉の隔離エリアで生活している」
士道の狼狽を知ってか知らずか、令音が静かな調子で
言葉を続ける。
「……十香の精神状態は常にモニタリングしている
のだが……どうも、〈フラクシナス〉にいると、
学校にいるときに比べて、ストレス値の蓄積が
激しいんだ」
「そ、そうなんですか?」
「……ああ。それに、一日二回の定期検査もあまり
お気に召さないようだ。今はまだ許容範囲だが、
このまま放置しておくのも好手とは言い難い。
──そこで、だ」
令音が、立てた指をあごに当てた。
「……検査の結果も安定してきたし、そろそろ
〈フラクシナス〉外部に、十香の住居を移そうと
ということになってね」
「は、はあ……そうなんですか」
「……ああ。というわけで、精霊用の特設住宅が
できるまでの間、十香をこの家に住まわせることに
なったんだ」
「プリーズ。ウェイト」
士道は右手を額に当てて、頬をぴくつかせた。
「……どうかしたかね?」
「な、なんでうちになるんですか……?」
士道が問うと、令音は小さくうなりを上げた。
「……まあ簡単に言うと、だ。君といるときが、
一番十香の状態から安定するんだよ」
「え……っ」
急にそんなことを言われ、息を詰まらせる。
「逆に言えば、君以外の人間は、まだ十香の信頼を
得ているとは言い難いのさ。私や琴里なんかは比較的
顔を合わせるそんな機会が多いが───それでもね。
……まずは少しでも安全性などが高い場所で、十香が
きちんと生活できるかどうかを試してみたいところ
なんだ」
「……むう……」
士道は、額に汗を滲ませながらうなった。
確かにそう説明されると、整合性がある気が
しないでもない。
それに──まあ、自分は十香に信頼されている、
というのも……嫌な気がしなかった。
しかし、士道は思い直すように首を軽く振った。
そう軽々に許可を出せるような問題でもない。
食い下がるように、また令音に問いを発する。
「それで……もう一つの理由っていうのは
何なんですか?」
「……ああ、これはもっと単純明確だ。──シン。
君の、訓練のためさ」
「……っ」
先刻、服を着替える前に言われた言葉が繰り返される。
訓練。その単語には、あまりいい思い出がなかった。
「そういえばそんなこと言ってましたね……。
でも、もう訓練なんていらないでしょう?」
「……ふむ? それはなぜかね」
「なぜって……だって、もう十香の精霊の力は
封印したから後は〈アテナ〉、彼女の精霊の力を
封印すれば……」
士道がそう言うと令音ゆらゆらとした調子で
首を横に振った。
「……精霊が十香と〈アテナ〉の二人だなんて、誰が言ったのかな?」
「え……? それって……どういう」
「……そのままの意味さ。
指定生物──通称・精霊は十香や〈アテナ〉だけ
ではない。現在の段階でも、彼女達の他に数種が
確認されている」
「な──っ」
士道は、心臓が引き絞られるのを感じた。
──精霊は十香と〈アテナ〉の二人ではない?
緊張だろうか、戦慄だろうか、なんとも形容しがたい
感情が胃の底でぐるぐると渦巻き、身体の全身へと
放出されて手足の指先を震わせた。
しかし令音は、硬直した士道に構わず言葉を
続いていった。
「……っ、じょ、冗談じゃ──」
と。士道が膝を叩き、叫びを発した瞬間。
「──ふうん?」
先ほどから静かに話を聞いていた琴里が、小さな声
を上げた。
いつの間にか、髪を二つ結びにしていたリボンの
色が、白から黒に変わっている。
「──っ」
……見覚えがある。今の琴里は、
『司令官モード』だ。
「嫌なの? 士道。──もう精霊とデートして
デレさせるのは、嫌だっていうの?」
今までの調子とは違う、どこか大人びた雰囲気を
漂わせながら、琴里が言ってくる。
──そう。
〈ラタトスク〉の提唱する、精霊を平和的に無力化
する方法。
それは、士道を精霊と仲良くさせ、その身に精霊の力
を封印してしまおうという、その言葉にするなんとも
間抜けな代物だったのだ。
「っ、あ、当たり前だっ!」
士道が言うと、琴里は軽く身体を反らしてあごを
上げながら唇を開いた。
「ふうん。──じゃあ、もうどうしようもないわね」
「あ……?」
「空間震によって世界がボロボロになって行くのを
黙って眺めているか──それとも、精霊がASTに
殺されるなんて奇跡的なイベントを気長に待つか。
どっちかになるでしょうね」
「……っ」
言われて。士道は、声を詰まらせた。
失念していたわけではない。だが──改めてその事実
を口に出されると、心臓がちくりと痛むのだった。
の世界に現れることがある。
その際、空間の壁が大きな撓み、空間震という現象
が起きてしまうのだ。
規模の大小はあれど──精霊が出現した一帯は、
爆弾が炸裂したかのように滅茶苦茶に破壊されて
しまう。
そして、そんな精霊を危険な存在として、武力を以て
確実に殲滅しようとしているのが、陸上自衛隊所属の
「精霊の力を封印できるなんて規格外な能力、
持っているのはこの世にあなた一人だけよ。
──そのあなたが嫌だと言うのだもの。
もうどうしようもないじゃない」
「……っ、な、なんだよ……それ……っ」
士道は、苦しげにうめいた。
知らずに負わされた重責。そのあまりの重さに、
胃が痛くなる。
だが──そもそも前提として。
士道には、確かめておかねばならないことが
いくつもあった。
「──琴里」
「何かしら?」
なんとなく質問の内容を推し量ったのだろうか、
琴里が悠然と返してくる。
「……まず、聞かせてくれないか。〈ラタトスク〉
ってのは、一体、なんだ? おまえはいつ、そんな
組織に入ったんだ? それに──俺のこの封印する
力ってのは、一体何なんだ?」
そう。士道がずっと訊きこうとしていたのは、
それだった。
琴里がずっと家を空けていたゆえに、発せずにいた
問い。
琴里は、ふうと息を吐くと、ポケットから大好物
のチュッパチャップスを取り出し、包装を解いて
口にくわえてから、話を始めた。
「──そうね。ちょうどいい機会だし、簡単に
話しておこうかしらね」
言って、後方にあった大きなクッションに背中
を預ける
「〈ラタトスク〉は、有志により結成された……
まあ、言うなれば一種の自然保護団体みたいな
ものよ。──もちろん、その存在は公表されて
いないけれどね」
「保護団体……ねえ」
なんだか腑に落ちないものを感じるが、それで
話の腰を折るのも躊躇われた。先に促すように
相づちを打つにとどめる。
「ええ。そして〈ラタトスク〉の結成理由にして、
最大の目的、それは──精霊を保護し、幸福な生活を
送らせることよ。……ま、最高幹部連である円卓会議
の中には、精霊の最大な力を得てどうこうしようって
助平心を持ってる奴もいるみたいだけれど」
「あ……? 空間震を防ぐことじゃないのか?」
「ま、それももちろんあるのだけれど。それは
あくまで副次的なものよ。そこだけを見るのなら、
私たちもASTも変わらないわ」
「……ぬ、まあ、それもそうか。で……そういう
組織があるとして、だ。おまえはいつ、どうして
そこの司令官になんてなったんだよ。俺は全然
知らなかったぞ」
憮然とそう言う。
隠し事をするなんて言うつもりはないけれど、
こんな重大な──それこそ、最悪命に関わるやも
しれないことを秘密にされていたのは、お兄ちゃん
としては少し不満だった。
そんな心境をも察したのか、琴里がふうと鼻から
息を吐く。
「私が〈ラタトスク〉実戦部隊の司令官に着任
したのは……大体五年くらい前のことよ」
「五年前……ね。──て、はあ……っ⁉︎」
士道は頭の中で簡単な計算を済ませ、うなずき
かけた頭を上に戻した。
「ば、馬鹿言うな。五年前って……おまえ、
まだ八歳じゃねえかよ!」
士道は信じられないといった感で顔を歪めた。
いくら普通の組織ではないとはいえ、小学三年生
程度の女の子を司令官にしようなんて、正気の沙汰
ではない。
「ま、数年の間はずっと研修みたいなものよ。
実際に指揮を執りだしたのはここ最近」
「い、いや、そういうことじゃねえだろ。
そもそもそんな小さな女の子を──」
「まあなんていうの? 〈ラタトスク〉が、
私の溢れ出る知性に気づいてしまったのよね」
「納得できるかそんなんで!」
「そんなこと言われたって、事実なんだから
仕方ないじゃない。もうちょっと素直に妹の言葉を
信じなさいよ。人の言葉を疑えば頭が良く見える
だなんて思ってるの?」
……いつもの可愛い琴里とはまるで違う挙動に、
言葉。士道は頬にあせをたらした。
「……おまえの二重人格も、〈ラタトスク〉の
せいなのか?」
士道が言うと琴里がふんとはなを鳴らした。
「失礼かつ短絡的ね。もう少し考えてものを
言いなさい。第一これは──」
「これは?」
「…………」
琴里はなんとも微妙な表情で士道を見たあと、
士道の言葉を無視するように首を振った。
「──そんな話はどうでもいいの。今は
〈ラタトスク〉の話でしょ。同じく五年前、
組織の転機となる、ある出来事が起こったの」
「おい、はぐらか──」
しかし、士道の言葉は途中で止められた。
琴里が、くわえていたチュッパチャップスの棒を
指で挟み込み、ピッと士道に向けてきたからだ。
「接吻によって、精霊の力を封印することのできる
そんな体質を持つ少年が発見されたのよ。それにより
〈ラタトスク〉は、積極的に精霊を保護しようって
方針にシフトしていったわ」
「な……っ」
士道は、驚愕に眉を歪めた。
「そ、それが……俺だってのか?」
「ええ」
琴里がうなずき、再びチュッパチャップスを
口に戻す。
士道とはいえば、頭の中が混乱しっぱなしだった。
一気にいろんな情報が与えられすぎて、処理などが
しきれなくなる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……そもそもなんで
俺にそんな力が備わってるんだ?」
「さあ?」
「は……? いいやいやいや。そこまで言ってて
勿体付けるんじゃねよ」
「勿体付けてなんていないわよ。本当に
知らないだけ。『キスを介して、精霊から力を
奪い取り、安全な状態にして自身に封印する』。
そういう能力が士道に備わっているのを知って
いるだけで、なぜ士道にそんな力があるのかは、
少なくとも私は知らないわ」
「そ、それじゃあ、なんで俺にそんな力があるって
ことがわかったんだよ! それに五年前に!
一体何があったってんだよ!」
と。士道が頭をわしゃわしゃとかきながら
そう言った瞬間。
琴里が、ふっと目線を下の方に逸らした。
「……っ」
いつもとは違う、少し憂いを帯びたような表情に、
思わずどきりとしてしまう。
何か感慨に浸るような。悲しい思い出を思い起こす
ような。
──取り返しのつかない過ちを悔いるような。
そんな──顔。
士道が名前を呼ぶと、琴里はハッとした様子で
小さく肩を震わせた。
「え、っと──そう、〈ラタトスク〉の観測器でね、
調べたの。それで、その時にわかったのよ。
──私に関しても、同じ」
なんだか、司令官モードとは思えないような、
歯切れの悪い調子で琴里が言う。
だけれど……なぜだろうか、士道には、それ以上
琴里を追及することができなかった。
「と、とにかく、よ」
琴里はコホンと咳払いすると、士道にビシッと
指を突き付けてきた。
「今必要な情報は、『士道には、精霊をなんとか
する力がある』。それだけよ! その上で選んで
ちょうだい。──これからも、精霊を口説き
落としてくれるかどうかを、ね」
「………っ」
士道は、苦々しく唇を引き結んだ。なんとも
意地の悪い設問である。
士道にしか、精霊の力を封印することはできない。
士道がやらなかったら、精霊は──要は、士道が
救いたいと思った十香や〈アテナ〉と同じ境遇の
存在たちは、こちらの世界に出てくるたびにASTに
襲い掛かられてしまう。
彼女たちは、自分の意思で世界を壊している
わけではないのに。
一方的に災厄と断じられ、命を狙われてしまう。
それに──
精霊の力を封印しなければ、いつかまた、
ユーラシア大空災害が起こる可能性だって
あるのだ。
士道は、大きな吐息とともに、髪を
かきむしった。
「……少し、考えさせてくれ」
「───ま、今はそれでいいわ」
琴里はふうと息を吐いてからそう言うと、
隣に座った令音に視線を送った。
「それじゃ令音、準備を」
「……ああ、任せてくれ。……というか、
もうおおむね終わっているよ」
令音が頭をゆらゆらさせながら言うと、
琴里はひゅうっ、と口笛を吹いた。
「さすが。仕事が速いわね」
「……準備? 何のことだ?」
二人の不穏な会話に嫌な予感を覚え、士道は
頬に汗を滲ませながら問うた。
すると、琴里がさも当然のごとく返してくる。
「え? だから、十香の部屋の準備に決まってる
じゃない。二階奥の客間を使うわよ」
「ちょ、ちょっと待て! 少し考えさせろって
言っただろ!」
「ええ。だから、こっちのことは気にせず、
じっくり考えてちょうだい」
「無茶言うんじゃねぇぇぇぇぇ!」
士道が叫ぶと、琴里はやれやれと耳を塞いだ。
「うるさいわね。どっちにしろ、特設住宅ができる
までの間、十香にはここにいてもらうしかないの。
それに〈アテナ〉の行動が気になるし士道が決断
してから訓練してたんじゃ遅すぎるのよ」
「んなこと言ったって……と、年頃の男女が
同じ家に住むってのはどうかと思うぞ……!」
士道が顔を真っ赤にしながら言うと、琴里は
ハン、と鼻で笑った。
「士道に間違いを起こす甲斐性があれば、
私たちもあんなに苦労しなかったでしょうよ」
「ぐ……ッ」
なんだか否定しきれない自分が悲しかった。
「だ、だからってだな……!」
と、士道が食い下がっていると、士道の後方──
琴里の部屋の出入り口にあたる扉が、ガチャリと
いう音を立てて開いた。
「………!」
肩をビクッと揺らして、振り向く。
いつからそこにいたのか、廊下から、十香が
不安げな眼差しを送ってきていた。
「……シドー。やはり、駄目か? 私は……
ここにいては」
「………ッ」
眉を八の字にし、悲しそうな
十香に、士道は声を詰まらせた。
……この状況で、否と言える人間がいるのなら、
お目にかかってみたいものである。
「……わ、わかったよ……っ……」
士道はそう言って深ぁぁぁいため息を吐いた。
『いやぁー、びっくりしたね。ねぇ、
「う、うん、そうだね……。『よしのん』」
降りしきる雨の中、四糸乃という少女は
誰もいない神社でコミカルなウサギ形の人形と
話していた。
『それにしてもラッキースケベのおにーさん
だったけど一応、よしのんを助けてくれたから
良かったよ!』
よしのんはそう言ってカラカラと頭を揺らし
ながら思い出し笑いしていた。
すると、
「……!」
四糸乃は何かに気が付いたのか視線を
神社の鳥居に向けると
目の前には『
「だ……だれ、ですか……?」
四糸乃は怯えた表情を浮かべていた。
「そんなに怯えなくてもいいのに……とはいえ
自己紹介は必要だよね。自分の名前は〈アテナ〉
って言うんだ。よろしくね、四糸乃ちゃん」
〈アテナ〉が四糸乃にそう言うと四糸乃は自分の
名前が出た瞬間、更に警戒を強めた。
「ど……どうして私の名前を……知っている
んですか……?」
「ごめんね。少し立ち聞きしてたんだ」
「そ、そう……ですか……」
四糸乃はそう言うと〈アテナ〉はゆっくりと
四糸乃に近づいていく。
「いたく、しないで……ください……」
近づいてくる〈アテナ〉を見て四糸乃は小動物
のようにカタカタと震えて更に目をギュッと
瞑って怯えていた。
そして、
「ふぇ…?」
気が付けば〈アテナ〉は四糸乃の頭を撫でていて
それに気が付いた四糸乃は間の抜けた声を上げて
いた。
「何か勘違いしているみたいだけど別に四糸乃
ちゃんに痛いことしようとなんて考えてないから
大丈夫だよ?」
「そ、そう、なんですか…?」
「うん、そうだよ。だから精霊同士仲良く
しようよ」
「わ、わかり……ました……」
〈アテナ〉のその言葉を聞いたからか警戒を
解いて安心した表情をしていた。
「ところで、こんな雨が降っている中、
神社で何してるの?」
「じ、実は……よしのんと、お話し……して、
いたんです……」
「よしのん?」
〈アテナ〉が四糸乃に尋ねるようにそう呟くと
『わはは、やっほー、初めましてだねぇ‼︎
四糸乃と同じ精霊のおねーさんがいるなんてねぇ
初めて見たよぉ! 四糸乃から説明したと思うけど
よしのんだよぉ!』
「そっか、それじゃあ、よろしくね。
よしのん」
『こちらこそよろしくねぇ!』
〈アテナ〉はしゃがんで四糸乃とよしのんの
同じ目線になってよしよしと四糸乃の頭を
更に撫でた。
「あ、あうぅぅ……」
撫でられたせいか頬を真っ赤にして俯いていた。
「四糸乃ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……です」
『もぅ! 四糸乃ばかりに構ってないで、よしのん
にも構ってよぉ!』
「そうだね。ごめんね、よしのん」
〈アテナ〉はそう言って撫でいた四糸乃から
よしのんの頭を優しく撫でた。
『そうそうっ! よしのんの繊細な頭をこんなに
丁寧に撫でて上手だねぇ、おねーさん。すごく
手馴れているねぇ?』
「か、家族……はいるん、ですか……?」
「家族……か」
四糸乃が〈アテナ〉に質問すると〈アテナ〉は
言いづらそうな声を出していた。
「 ご、ごめん、なさい……‼︎」
四糸乃は〈アテナ〉の言いづらそうな声を聞いた
瞬間、それは聞いちゃいけないことだと四糸乃は
一瞬で理解して自分の口を塞ぐ。
「大丈夫だよ。四糸乃ちゃんにかえって気を
遣わせちゃったね……安心していいよ?」
「そう……なん、ですか……?」
『わはは‼︎ いつも気にし過ぎだよぉ、四糸乃』
「よ、よしのん‼︎」
「よしのんの言う通りだね。四糸乃ちゃんは
少しばかり気にし過ぎ……いや、優しすぎる
のかな?」
「そ、そうで……しょうか……?」
「うん、そうだよ。四糸乃ちゃん」
〈アテナ〉はそう言って四糸乃の頭を再度
撫でていると
きゅるるるる……
と、間の抜けた音が鳴り響いた。
「ふ、ふぇ……⁉︎」
「今のは……」
〈アテナ〉がそう言って四糸乃に視線を向けると
四糸乃の顔を真っ赤に染めて背を丸めて俯いて
いた。
『四糸乃ったら、そんなにも可愛いお腹の音を
鳴らしちゃってぇ、相当お腹空かせちゃって
たんだねぇー‼︎』
「よしのん……ッ‼︎ あ、あの、いまのは……」
四糸乃は慌てながらよしのんにそう言った後、
そう〈アテナ〉に言うと
「お腹が空いているんだね」
〈アテナ〉は持っていた『ある物』を渡した。
「こ、これは……?」
「四糸乃ちゃんの口に合えばいいんだけどね」
四糸乃は受け取った物を確認すると
それは『クッキー』だった。
「今日、クッキーをたまたま作ったんだ。
物足りないかもしれないけど是非、食べてみて
欲しい」
「は、はい……わ、分かり…ました……」
〈アテナ〉が四糸乃に言うと四糸乃は恐る恐ると
クッキーを一口、口の中に入れる。
すると、
「…………!」
〈アテナ〉が四糸乃に聞くとクッキーがとても
美味しかったのかカッと目を見開いてプルプル
と身体を振るわせながらうんうんと頷いていた。
「どう? 美味しい?」
〈アテナ〉が四糸乃に聞くと四糸乃は恥ずかしそう
に目を逸らしていたがクッキーの味に満足して感動
したのか
「お、美味しい……です……ッ‼︎」
キラキラした瞳を作ってからグッ、と〈アテナ〉に
親指を立ててさらにクッキーをもぐもぐと口の中に
入れて頬を膨らませながら食べていた。
「そう、それは良かった」
「ぁ……り、が……ぅ……」
〈アテナ〉は四糸乃にそう言うと四糸乃は
恥ずかしそうな表情で俯きながらたどたど
しくお礼を言った。
「それじゃあ、これで失礼するね」
そして〈アテナ〉そう言った後、四糸乃がいる
神社から離れようすると
「あ、あの……ッ‼︎」
「ん? どうしたの?」
四糸乃は勇気を出して〈アテナ〉に声を掛ける。
「ま、また……会えますか……?」
四糸乃はうるうるとした上目遣いをしながら
〈アテナ〉に問う。
「うん。きっとまた、会えるよ」
〈アテナ〉は四糸乃に言いながらも四糸乃の頭を
優しく丁寧に撫でた後、四糸乃のいる神社を後に
した。
最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎
豆腐メンタルな自分も書いた甲斐があります‼︎
今回、『四糸乃』と『よしのん』をなんとか登場
させてみましたが四糸乃とよしのんの口調などが
ちゃんと出来たらいいなと思います。
【意見】や【感想】があれば是非ともよろしく
お願いします‼︎
『他の投稿作品』もありますので、是非とも見て
いってください‼︎
更にこれからも『面白い話が投稿や更新』が出来る
ようにこれからも努力したいと思います‼︎
十香と士道が出会う前の四月九日の話を書いた方がいいか
-
書くべき
-
書かなくていい
-
どっちでもいい