デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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みなさんお久しぶりです。灰ノ愚者です‼︎

今回は九月に入ってからなんとかすぐに『最新話』
を無事に更新をすることができました‼︎


今回は『10672文字』までの膨大な量を頑張って
書きましたが豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配
になります……(汗)


【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそのメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎


面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。


最後まで読んでいただければありがたいです‼︎


思惑と覚悟

 

折紙は士道が教室を出るのを横目から確認してから、

ゆっくり立ち上がった。

 

 

士道が昼食も摂らずに、しかも夜刀神十香まで放って

向かった場所も気にかかったが──今はそれよりも

やらねばならないことがある。

 

 

しょんぼりと肩を落とすそんな十香の脇を通り抜け、

目的の人物の席まで歩いていく。

 

 

「──少し話がある」

 

 

そして、その席の主──時崎狂三に、冷たい視線を

投げながらそう言った。

 

 

狂三は大仰に首を傾げると、右目をまん丸に

見開いてきた。

 

 

「折紙さん……でしたわよね。わたくしに何か?」

 

 

「きて」

 

 

折紙は短く答えると、そのまま教室の外に歩いて

いった。

 

 

狂三は数秒の間逡巡するようにあごに手を当てて

いたが、折紙が廊下に出てしまうというところまで、

慌てた様子で席を立ってきた。

 

 

「ま、待ってくださいまし。折紙さん一体いきなり

どうしたんですの?」

 

 

「…………」

 

 

ちらと後方を一瞥する。

 

 

触れれば折れそうな華奢な手を振りながら、

必死に折紙に付いてくる少女の姿が目に映る。

 

 

なるほど、どこか庇護欲を掻き立てられる、

愛らしい少女だった。

 

 

だが──今折紙はその姿に、得体の知れない

気味の悪さしか感じなかった。

 

 

そのまま歩調を緩めることもなく、すたすたと

屋上前の扉に歩いていく。

 

 

以前、士道と話すために連れてこともある場所

である。平時であればまず人が訪れることのない、

耳を気にせねばならない話をするときには便利な

空間だった。

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 

階段を一気に上がったからだろうか、狂三が肩で

息をしながら手すりにもたれかかる。

 

 

それから数十秒。呼吸が落ち着くのを待って、

狂三は唇を動かしてきた。

 

 

「ええと……何かご用ですの? わたくし、

まだお昼を食べていないのですけれど……」

 

 

少し不安そうに眉を八の字にしながら、狂三が

言ってくる。

 

 

折紙はそんな狂三の様子に表情をぴくりとも動かす

こともなく応じた。

 

 

「あなたは、昨日死んだはず」

 

 

「え……?」

 

 

「──あなたは、昨日死んだはず」

 

 

そう。折紙は昨日、確かに見た。

 

 

狂三が真那によって四肢を絶たれ頭を潰され、

完全に絶命させられたのを。

 

 

真那としては不服だったそうだが、遼子の命令で召集

された折紙たちAST隊員は、万が一にも真那が精霊を

仕留め損なったときのために、周囲を固めていたので

ある。

 

 

「………」

 

 

狂三が、ぴくりと眉の端を動かした。

 

 

その後数秒間、外気に晒されている右目で、

折紙の顔を睨め回してくる。

 

 

そして。

 

 

 

「──ああ、ああ。あなた。昨日真那さんと一緒にいらっしゃった方ですの」

 

 

「……!」

 

 

狂三がそう言った瞬間、折紙はその場から一瞬にして

飛び退いた。

 

 

根拠はない。ただ脳が何か得体の知れない違和感を

覚え、折紙に逃げろと警告したのだ。

 

 

「まあ! まあ! 素晴らしい反応ですわ。

素敵ですわ。素敵ですわ。でぇもォ」

 

 

「──っ」

 

 

折紙は息を詰まらせた。後方に飛び退いた先で、

何者かに足首を掴まれたのである。

 

 

見やると、いつの間にか折紙の足元にまで狂三の

影が伸び──そこから、白く華奢な細い手が二本、

生えていた。

 

 

しかも影はじわじわと面積を増すと、壁をも這い

上がっていった。

 

 

そしてそこからも無数の手が生え、後方から折紙の

腕や手をがっちりと拘束する。

 

 

「く──」

 

 

もがくも、細い指は折紙の身体から離れようとは

しなかった。それどころかさらに力を増し、折紙を

壁に磔にしてくる。

 

 

「きひひ、ひひ、駄ァ目ですわよぅ。そんなことを

しても無駄ですわ」

 

 

狂三が、笑う。

 

 

数刻前の狂三からは想像も付かない歪んだ笑みを

顔に貼り付け、聞いているだけで腹の底に冷たい

ものが広がっていくかのような声を発しながら。

 

 

「昨日はお世話になりましたわね。きちんと片付けて

くださいまして? わたくしのカ・ラ・ダ」

 

 

狂三が、髪をかき上げながらゆっくりと折紙の方に

近づいてくる。一瞬、前髪に隠されていたその左目

が見えた気がした。無機的な金色。およそ生物の器官

とは思えない形状をしたその瞳に見えるのは、一二の

文字とそして二本の針。そう──それは、まるで時計

のように見えた。

 

 

「わたくしのことを知りながら、一人で接触を図る

だなんて、少々迂闊なのではございませんこと?

しかもわざわざ、人目につかない場所まで用意して

くださるなんて」

 

 

「……っ」

 

 

確かにその通りだった。昨日のあまりにあっけない

幕切れを見て勘違いをしていたのか──それとも、

学校での狂三の姿から自分でも錯覚をしていたのか。

いずれにせよ、折紙のミスだった。精霊の脅威と

言っていながら、心のどこかに油断があったのだ。

 

 

「あなた──は、何が……目的」

 

 

喉を締め付けながらも、声を発する。すると狂三は

にいぃぃ、と唇の端を上げた。

 

 

「うふふ、一度学校というものに通ってみたかった、

というのもわたくしも嘘ではございませんのよ? 

でも、そうですわね、一番となるとやはり──」

 

 

そこで一拍おいてから、息がかかるぐらいの距離に

まで顔を近づけてくる。

 

 

 

「──士道さん、ですわね」

 

 

 

「──ッ‼︎」

 

 

士道の名前を出されて、折紙は声を詰まらせた。

 

 

そんな反応を見てか、狂三がいたく楽しそうに

笑みを濃くする。

 

 

「彼は素敵ですわ。彼は最高ですわ。彼は本当に

──()()()()()ですわ。ああ、ああ、焦がれますわ。

焦がれてしまいますわ。わたくしは彼が欲しい。

彼のあの力が欲しい。彼を手に入れるために、

彼と一つになるために、この学校に来たのですわ」

 

 

──戦慄。折紙は背中がじっとりと湿るのを感じた。

まさか、精霊が一個人を──しかもよりにもよって

士道を狙って現れるだなんて、予想だにしなかった。

 

 

しかし。そこで折紙には疑問が生まれた。

 

 

 

今し方狂三が発した言葉。『彼の力』とは一体──

 

 

「……っ」

 

 

その思考は、狂三によって中断させられた。

 

 

狂三が、折紙の身体に妖しい手つきでゆっくりと

指を這わせてきたのである。

 

 

「折紙さん。鳶一、折紙さん。あなたも──

()()ですわよ。すごく、美味しそうですわ。

ああ、たまりませんわ。今すぐ食べてしまいたい」

 

 

頬を上気させ、息づかいを荒くしながら、左手を

胸元を這わせ、右手で足をなぞって、スカートの中

をまさぐるようにしてくる。

 

 

「……っ、触らないで」

 

 

「ふふ、そうつれないことをおっしゃないで

くださいまし」

 

 

そう言い長い舌を伸ばして、折紙の頬に唾液の線を

引いていく。

 

 

「く……」

 

 

「ああ、ああ、でも駄目ですわ。駄目ですわ。

とてもとても惜しいですけど、お楽しみにはあとに

とっておかなくてはいけませんわ」

 

 

狂三は大仰に首を振ると、折紙の首筋に口づけを

残し、身体を離していった。

 

 

「あなたは、士道さんのあとに。──もっと、もっと

美味しくなってくださいまし」

 

 

そう言うと、狂三はくるりと踵を返し、階段を離して

いった。

 

 

そしてその背が見えなくなると、折紙を拘束していた

手が影の中に吸い込まれたていった。

 

 

「……っ、けほっ、けほっ」

 

 

床にうずまるような格好で咳き込む。

 

 

廊下に広がった影は、主のもとに帰るように、

階段の方へと収縮していった。

 

 

「士、道──」

 

 

なぜかはわからないが、狂三は、士道を狙っている。

 

 

早く本部にそのことを伝えなくてはならない。否、

たとえそうしたとしても、精霊が個人を狙っている

なんてそんな話を信じてもらえるかどうかは折紙には

わからなかった。

 

 

 

──もしそのときは、折紙が、士道を守らなくては。

 

 

 

折紙は奥歯を噛み締め、くっと拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……むぅ」

 

 

十香は椅子に座ったまま顔を上げ、黒板の上にある

時計を見やった。そろそろ昼休みが終わってしまう

時間である。

 

 

お腹がコロコロと鳴る。朝ご飯を以来食べ物を口に

していないものだから、健啖家の十香はもう目眩が

するくらいお腹がペコペコだった。

 

 

でも、弁当はまだ開けていない。士道はに食べていろ

と言ったが……士道と一緒に食べるご飯のおいしさを

知ってしまった十香は、どうにもそういう気分には

なれなかったのである。

 

 

「シドー……」

 

 

もう教室には、外に遊びに行っていた生徒がちらほら

と戻り始めていた。気の早い者などは、もう次の授業

の準備を始めている。

 

 

だが、まだ士道の姿は見えなかった。

 

 

 

「う……う……」

 

 

なぜだろうか、目がじんわりと熱くなって、鼻で呼吸

をするのが苦しくなってくる。

 

 

ずずっと(はな)をすすって、目元を拭う。制服の袖が少し

濡れていた。 ──と、そこに。

 

 

 

「 ──あれ? どしたの十香ちゃん」

 

 

「何、まだご飯食べてないの?」

 

 

「もう授業始まっちゃうよー」

 

 

そとで昼食を摂っていたらしい女の子三人組が、

教室に入るなり、十香に声をかけてきた。

 

 

よく十香を構ってくれる女の子たちである。確か名前

は、右から亜衣(あい)麻依(まい)美衣(みい) 似たような名前で縁で

仲良くなったのだという。

 

 

「ってうわ! どーしたのよ十香ちゃん!

泣いてんじゃん!」

 

 

「なになに誰かに何かされたの⁉︎」

 

 

「おいコラ誰だよ出てこいやぁッ‼︎」

 

 

見事なコンビネーションで十香を囲い込み、三人が

口々に言う。そんな声に教室の男子たちがビクッと

肩を震わせた。

 

 

「ち、違うぞ! 別に何もされていないぞ!」

 

 

十香は慌てて手を振ると、三人に訴えかけた。

 

 

「ええ? そうなの?」

 

 

「じゃあ何、どうしたの?」

 

 

「花粉症? 花粉症なんだ?」

 

 

十香はブンブンと首を振ると、手元の弁当箱に視線

を落とす。

 

 

「シドーがな、戻ってこないのだ。……それで、

今日は、あまりシドーと話せていないなと思って

しまって、そうしたら、なぜか、こう……」

 

 

それを口に出すと、目からぽろぽろと大粒の涙が

こぼれた。

 

 

「あぁっ! 十香ちゃん! いいのよ辛いなら

それ以上言わなくて!」

 

 

「ていうか五河君あり得ないんですけど!

こんなに可愛い子泣かせるとか!」

 

 

「首を落として豚の餌にしてくれるッ!」

 

 

三人がやたらテンション高く叫ぶ。十香は再び

あわあわと静止した。

 

 

「し、シドーは悪くないのだ! ただ、私が……」

 

 

十香は乏しい語彙の中からなんとか言葉を拾い集め、

士道に非がないこと、十香がちょっと士道がいること

に慣れてしまっていたことが原因なのだと三人に説明

をした。

 

 

それを聞いて亜衣、麻衣、美衣がふぅむとうなる。

 

 

「十香ちゃん的には、五河君と楽しくお話しできて、

ご飯とか食べちゃって、あまつさえ遊んだりできたら

スーパーハッピーなわけね?」

 

 

亜衣が言ってくる。十香はこくこくとうなずいた。

 

 

「くぅッ、なんて純真なの。もうこれ五河君百叩き

じゃ済まないでしょ」

 

 

次いで、麻衣が芝居がかった調子で涙を拭く真似を

する。十香は目を丸くした。

 

 

「ちょっと家の物置からアイアンメイデンと三角木馬

持ってくるわ」

 

 

美衣が真顔で言う。十香は首を傾げた。

 

 

そんな様子を見ていた三人は「よし!」と膝を

叩いた。

 

 

「十香ちゃんのためなら人肌脱ぐよ私は!」

 

 

と、亜衣が言うと、自分の鞄からある紙切れを二枚

持ってきた。

 

 

「あ、亜衣、あんたそれは……!」

 

 

「そう、これはあの天宮クインテットの水族館の

チケットよ……ッ! 確か明日開校記念日で休み

でしょ? 十香ちゃん! これあげるから、明日

五河君と行ってらっしゃい!」

 

 

「亜衣! それはあんたが岸和田(きしわだ)君と──」

 

 

麻衣が言いかけるのを、亜衣が手で制する。

 

 

「それ以上言うんじゃあねえ! 十香ちゃんが遠慮

しちまうだろぃ……」

 

 

亜衣が言うと、麻衣と美衣は涙を堪えるような仕草を

して、十香の肩をそれぞれ掴んだ。

 

 

「十香ちゃん……! 黙ってこれを受け取って

ちょうだい……!」

 

 

「亜衣を! 亜衣を立派な女にしてやって

くんなせぇ……!」

 

 

「ぬ、ぬぅ……?」

 

 

十香はなんとなくこの場の雰囲気を壊してしまう

ことが躊躇われて、大人しく亜衣からチケットを

受け取った。するとその瞬間、亜衣がその場で

くずおれる。

 

 

「十香ちゃん……五河くんと……幸せに……ね」

 

 

「あ、亜衣ぃぃぃぃぃぃッ!」

 

 

「気をしっかり持って! 傷は浅いわ!」

 

 

「……⁉︎ ……⁉︎」

 

 

十香は目を白黒させると、チケットを持ったまま

キョロキョロと左右に首を回した。

 

 

もしかしたら、何かいけないことをしてしまったの

かもしれない。十香は涙目になりながら、亜衣の手

にチケットを戻した。

 

 

「ふぉぉぉぉ!」

 

 

すると、亜衣が復活した。

 

 

「亜衣!」

 

 

「奇跡だわ!」

 

 

「って、いやいや」

 

 

急に冷静になった亜衣が十香にチケットを渡し直そう

としていると

 

 

「君たち一体、十香ちゃんの席の前で何してるの?」

 

 

「おー、零ではないか!」

 

 

零がやって来て十香と亜衣、麻衣、美衣の三人に

声をかけていた。

 

 

「やあ十香ちゃん。あれ? 五河君がいないね?

いつもなら仲良く食べていると思ったんだけど」

 

 

「う、うむ。シドーがな、戻ってこないのだ。

……それで……」

 

 

零がそう言うと十香はまた泣いてしまいそうな

そんな表情をしていた。

 

 

「あぁっ! 十香ちゃん! そんな悲しそう顔

で泣かないで!」

 

 

「ちょっと! いくら十六夜君でも十香ちゃんを

泣かせるとか!」

 

 

「マジであり得ないんだけど!」

 

 

「わ、悪気はなかったんだ、気を悪くしちゃった

ならごめんね……」

 

 

「れ、零は悪くないのだ! ただ、私が……」

 

 

亜衣、麻衣、美衣の三人が零に向かってテンション

高く叫ぶ。零は慌てて頭を下げて謝ると十香は零の

姿を見てあわあわと静止した。

 

 

「一体、何があったのか僕にも詳しく説明して

くれないかな?」

 

 

「実はね……」

 

 

零がそう言うと亜衣が今までのことを説明をした。

十香が士道がいなくて寂しさのあまりに今にも泣いて

しまいそうになってしまいそうなこと、そんな十香の

ために自分が人肌脱ごうとして明日開校記念日で休み

だから自分が持っていた天宮クインテットの水族館の

チケットを十香に渡して明日士道と行ってこいと背中

を押しているところであったことを

 

 

「なるほどね、それにしても五河君も本当に罪作り

男だね……」

 

 

「でしょ? こんなに純真で一途で健気なそんな

十香ちゃんを悲しませるとか本当に男の風上にも

おけないわ! 十六夜君を見習ってほしいわ!」

 

 

「マジで本当にそう思う!」

 

 

亜衣の説明を聞いて事情を理解した零がそう言うと

麻衣と美衣が揃ってそう言う。

 

 

「というわけで、十香ちゃん。これ持って、五河君に

お誘いかけてみなさい」

 

 

「お、おさそい……?」

 

 

「そ。明日デートしてらっしゃいって言ってんの」

 

 

「……!」

 

 

言われて、十香は目を見開いた。デート。

確か、男女が一緒に遊びに行くことだ。

 

 

──嗚呼、それはとてもいい。

 

 

思えばここ最近ずっと、士道とデートに行っていない

気がする。久しぶりに二人で楽しくデート。それは、

とっても素敵なことに思われた。

 

 

 

だが──一つ問題があった。

 

 

 

「わ、私が誘う……のか?」

 

 

十香は緊張に汗を垂らしながら言った。

 

 

「まあ、そうなるだろうね」

 

 

「ええ。いったんさい、いったんさい。たまには

女子から誘うのもいいモンよ」

 

 

「だ、だが……もし断られたら……」

 

 

「五河君なら断らないと思うけど……」

 

 

十香が不安げにそう言うと、零は十香にそう言って

いる中、三人は肩をすくめ、「はふゥ」と軽い息を

吐いていた。

 

 

「おっけおっけ。十六夜君もさっき言っていた通り

まず断られはしないと思うけど、ていうか断ったり

なんかしたら五河君、シチュー引き回しの刑だけど、

私たちがとっておきの秘訣を授けてあげるわ」

 

 

「ひ、秘策……?」

 

 

「なんか嫌な予感がするんだけど……」

 

 

「そう。結局男なんてエロで動いてるモンなんよ。

十香ちゃんがこの誘い方すれば、一国を制圧できる

レベルの兵力が集まるわよ」

 

 

「い、いや、そんなにはいらんのだが……」

 

 

「亜衣ちゃん。あんまり十香ちゃんに変なことを

教えたらダメだよ?」

 

 

「いーからいーから。まずはね……」

 

 

「まったく……」

 

 

零は呆れてため息を吐いている中、十香は、こくこく

とうなずきながら亜衣の秘策を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りのホームルームが終わると、士道はすぐさま

席を立ち、狂三のもとへと赴いた。

 

 

その際、右半身に十香のなんだかもじもじしたと

視線を、左半身に折紙の絶対零度(ぜったいれいど)魔眼(まがん)を浴びた

気がするが、どうにか無視して歩みを進める。

 

 

「狂三、ちょっといいか」

 

 

言ってから、廊下の方を指で示し、歩き出すと、

狂三は大人しくあとをついてきた。

 

 

ひとけのない場所まで歩いてから、狂三に向き直る。

 

 

「士道さん。いかがいたしましたの?」

 

 

「あ、ああ。突然で悪いんだが……狂三、明日は

暇か?」

 

 

「? ええ、大丈夫ですけど」

 

 

「その、もしよかったら、この辺りを案内を

しようか……?」

 

 

「え? それって……」

 

 

「ま、まあ……平たく言うと……デート、かな」

 

 

瞬間、狂三がパァッと顔を明るくした。

 

 

「本当ですの⁉︎」

 

 

「あ、ああ……どうかな?」

 

 

「もちろん。光栄ですわ」

 

 

「そっか、じゃあ……明日一〇半に、天宮駅の改札前

で待ち合わせな」

 

 

「ええ、楽しみにしておりますわ!」

 

 

狂三が満面の笑みで言ってくる。そして士道は

「それじゃあ、また明日」と軽く手を上げると、

教室に戻っていった。

 

 

と、教室の扉を開けると、そこには折紙が

立っていた。

 

 

「……い……っ⁉︎」

 

 

「──彼女と何を話していたの」

 

 

怜悧な瞳で士道を見つめ、静かで抑揚のない声を

響かせてくる。

 

 

「い、いや、何でもないよ」

 

 

「答えて。これは非常に──」

 

 

 

これ以上追及されたなら、口を滑らせてしまうかも

しれない。士道はそう判断して、急いで折紙の脇を

すり抜けると、自分の机まで走って鞄を手に取った。

 

 

「い、急ぐからまたな折紙! 十香! 帰るぞ!」

 

 

「ぬ? う、うむ!」

 

 

言って、追及を受ける前に逃げ去る。十香も何とか

反応し士道のあとをついてきた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

しばらく走り、折紙が追ってきてないことを確認して

から速度を緩める。

 

 

「いきなりどうしたのだ、シドー」

 

 

「い、いや……とにかく、まあ……なんだ、帰るか」

 

 

「ん、うむ……」

 

 

十香が、どこか歯切れ悪くうなずく。

 

 

不思議に思わなくもなかったが……まあ、別にあえて

追及するのことでもあるまい。士道は廊下を進むと、

昇降口で靴に履き替え、学校の敷地を出て行った。

 

 

と、その道中。

 

 

 

「あ、あああああああああのだなシドー……!」

 

 

珍しく何も喋らずにいた十香が、妙に落ち着かない

様子で声をかけてきた。

 

 

「ん? どうしたんだ、十香」

 

 

「っ、あ、ああ。その……だな」

 

 

そこで十香は鞄の中を探る仕草を見せたが──

なぜかきょろきょろと辺りの様子を窺うと、顔を

赤くしてうつむいてしまった。

 

 

「ど、どうした? 何かあったか?」

 

 

「な、なんでもない……! 早く家に戻るぞ!」

 

 

十香は目を泳がせまくりながら叫ぶと、士道を先導

するようにのしのしと歩いていった。

 

 

「なんだ、あいつ……」

 

 

十香の妙な様子に首をひねりながらも、そのあとに

ついて行くような格好で一緒に帰路に就く。なぜか

わからないが下校中、十香はあまり顔を見せようと

しなかった。

 

 

ほどなくして、五河家と、隣に聳えた精霊用特設(せいれいようとくせつ)

マンションにたどり着く。

 

 

「おう、じゃあまたあとでな。今日も夕飯はうちで

食うだろ?」

 

 

と、士道がいつも通りの挨拶をしながら手を上げかけ

──途中で止めた。

 

 

理由は単純。十香がマンションではなく、五河家の

方に足を向けていたからだ。

 

 

「十香? 着替えてこないのか?」

 

 

「! い、いいから、鍵を開けろ!」

 

 

「はあ……まあ、別にいいけどよ」

 

 

どうせ夕食時には五河家にご飯を食べに来る十香

である。特に問題はなかった。ポケットから鍵を

取り出し、扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

 

鍵がかかっているということは、琴里はまだ帰って

いないのだが、つい習慣でそう言ってしまう。玄関

で靴を脱いで家に上がると、そのままリビングに

直行してソファに鞄を放って軽く伸びをした。

 

 

「んー……」

 

 

と、そこでカチャリと音がする。

 

 

どうやら士道のあとから家に入ってきた十香が、

玄関の鍵を閉め直したらしい。そのまま、顔を

うつむかせてリビングに入ってくる。

 

 

「ん? 別に鍵閉めなくてもいいぞ? どうせ琴里も

帰ってくるんだし」

 

 

「…………」

 

 

しかし十香は答えず、その場に鞄を落とすと、その中

に手を突っ込み、何やらチケットらしきものを二枚、

取り出す。

 

 

「し、シドー、もしよかったら……なのだが」

 

 

そしてそこで、何かを思い出したかのようにハッと

顔を上げる。

 

 

「そ、そうだ、ちゃんとやらなくては……」

 

 

「ちゃんと……? 何をだ?」

 

 

士道が首を傾げていると、十香は何やら慌ただしく

リビングの窓に走っていくと、厚手のカーテンを

ピシャッと閉めてしまった。

 

 

「お、おい、十香……?」

 

 

「ちょっと待っていろ! じゅ、準備する!」

 

 

「準備……? な、何の……?」

 

 

だが、やはり十香は答えない。

 

 

今度は鞄からルーズリーフを一枚取り出し、

テーブルの上に置いた。

 

 

そして、それを難しげな顔で見ながら腰元に手をやる

とスカートの上部をくるくると巻き込んでいった。

女子たちがスカートを一時的に短くする際に使う小技

である。段々と、十香の健康的で白くて綺麗な太腿が

顕になっていく。

 

 

「お、おい、十香……?」

 

 

十香の行動の意図を読めず、士道は頬に汗を垂れ流し

ながら眉をひそめた。

 

 

次いで十香は制服のリボンを緩めると、ブラウスの

ボタンを上から順番に外していった。第二……第三

……なんと、第四まで。ブラウスの隙間から十香の

白い胸元が覗き、士道は思わず急いで目を逸らして

しまった。

 

 

「な、何やってんだ十香⁉︎ 着替えならマンション

に戻って自分の家で──」

 

 

「し、シドー!」

 

 

十香は士道の言葉を遮ると、チケットを唇でくわえ、その場に四つん這いになって、いわゆる雌豹のポーズを取った。ちなみに、十香の顔はまるで熟れたトマト

のように真っ赤である。

 

 

()これ(ほえ)を……!」

 

 

 

「な、なななんだ……⁉︎ どうしたってんだ一体⁉︎」

 

 

士道が混乱したまま十香に言うと、十香は

「だ、駄目か……っ!」と悔しそうにチケットを

口から取り落とした。……駄目も何も、まったく

意図が読めない。

 

 

しかし十香はテーブルの上のルーズリーフに再び

目をやると、

 

 

「よ、よし……ッ!」

 

 

気合いを入れるように叫んで、チケットを

拾い上げた。

 

 

そして今度はチケットを、開いた胸元に入れ──

「ん?」と首を傾げる。

 

 

どうやら上手く挟めなかったらしい。少し前屈み

になり、左手で両胸に寄せて谷間を作ってから、

そこにチケットを挟み込んで士道に視線を向けて

きた。

 

 

「な……ッ⁉︎」

 

 

なんだかもうもの凄くイケナイものを見ている

気がして、士道は後ずさった。

 

 

「シドー……そ、そのだな」

 

 

「お、おう……なんだ?」

 

 

「あ、明日……デェトに行かない……か?」

 

 

「は……? で、デート……?」

 

 

「う、うむ……!」

 

 

十香が大仰にうなずき、胸元のチケットを

示してくる。

 

 

……これは、あれだろか。受け取れということ

だろうか。

 

 

これでチケットを取らなかったら、さらに十香の行動

がエスカレートする可能性がある。

 

 

士道も高校二年生、思春期真っ盛りの男の子。

興味がないといえば嘘になるが、さすがにこのまま

にはしておけなかった。顔中にびっしりと汗を浮き

立たせながら、震える手をそろそろと十香の胸元に

伸ばしていく。

 

 

そして、十香の胸に指が決して触れないよう注意を

払いながら、チケットを摘み取った。

 

 

「お、おお!」

 

 

すると十香が顔をパァっと明るくし、姿勢を

元に戻す。

 

 

「明日! 朝一〇時に駅のパチ公前で待ち合わせだ!

で、では着替えてくる」

 

 

そうとだけ言うと、十香はその目にも留まらぬ速さで

リビングを出ていってしまった。バタバタと廊下を

走り、玄関の鍵を開けて外へ駆けていく。

 

 

「な、なんだったんだ……?」

 

 

士道は呆然と呟くと、手にしたチケットに目を

落とした。どうやら水族館のチケットらしい。

一体どこで手に入れたのだろうか。

 

 

ついでに、十香がその場に置いていったルーズリーフ

に目を落とす。そこには、丸っこい独特的なその文字

『十香ちゃん悩殺技(のうさつわざ)集』 となるそんな文字がそこに

書かれていた。下に順番が記されている。

 

 

 

①雌豹のポーズ。

 

 

②おっぱいにチケット。

 

 

③上二つで駄目ならもう押し倒しちゃえ。

 

 

 

……よくわからないが、危ないところだったのかも

しれない。

 

 

「なんだこりゃ……」

 

 

と、士道が首をひねっていると、再び玄関がガチャリ

という音を立てた。

 

 

十香が戻ってきたのかと思って身構えたが──違う。

リビングに入ってきたのは、黒いリボンで髪を括った

琴里だった。

 

 

「ただいま。って、ん……?」

 

 

薄暗い室内を不審に思ったのか、琴里が眉を

ひそめる。

 

 

「昼間からカーテンなんて閉めて、一体どんな

いかがわしい行為に耽っていたの、士道」

 

 

「な、なんもしてねえよ!」

 

 

「まあなんでもいいけど。何を持っているの?」

 

 

「ああ……実は、十香に……デートに誘われてな」

 

 

士道がそう言うと、琴里は感嘆するように口笛を

吹いた。

 

 

「へえ。十香から誘ってきたの。いい傾向じゃない。

一体いつ? サポートするわよ」

 

 

「ああ、明日なんだが……」

 

 

「明日?」

 

 

琴里が難しげに顔をしかめる。

 

 

「ちょっと、明日っていったら、狂三との約束が

あるじゃない」

 

 

「あ──」

 

 

言われて、士道は思い出した。あまりにショッキング

な十香の艶姿に失念していたが──そうだ、明日は

狂三とデートの約束をしてしまっていた。

 

 

「やっべ、今から断ってくるか……?」

 

 

士道が言うと、琴里は憂鬱そうに首を横に振った。

 

 

「駄目よ。一度承諾したデートを取り消したりなんか

したら、十香の機嫌が崩れるのは明白。ただでさえ

今朝から寂しさメーターが上昇気味だっていうのに」

 

 

「いや、承諾したってわけじゃないんだが……」

 

 

「大事なのは十香がどう思ってるか、よ。──まあ、

仕方ないわ。私たちがサポートするから、どうにか

二つのデートを両方成功させなさい」

 

 

「は──はぁッ⁉︎ そ、そんなこと……」

 

 

と、士道が声を上げかけたところで、ポケットの中の

携帯電話が震え始めた。

 

 

画面を見ると、見知らぬ番号からの着信であることが

わかる。

 

 

少々不審に思いながらも電話に出ると、電話口から

静かな声が聞こえてきた。

 

 

『もしもし』

 

 

「ん……? その声、折紙……か?」

 

 

『そう』

 

 

折紙が短く肯定を示してくる。士道は頬にひとすじの

汗を垂らした。

 

 

「あれ……? 俺、おまえに番号教えてたっけ?」

 

 

折紙は答えず、しばしの無言のあと、そして言葉を

続けてきた。

 

 

『明日は休日』

 

 

「? あ、ああ……そうだな」

 

 

『あなたは、一人になってはいけない』

 

 

「え……?」

 

 

士道が訝しげに返すと、折紙は声のトーンを変えない

まま続けてきた。

 

 

『午前一一時。天宮駅前広場の噴水前で待っている』

 

 

「へ?」

 

 

『デート』

 

 

「………………………は?」

 

 

『絶対に来て』

 

 

それだけ言うと、電話は切られてしまった。

 

 

「誰よ、一体」

 

 

「いや、折紙だったんだが。なんか……で、デートに

……誘われた」

 

 

「はぁ……⁉︎」

 

 

琴里が、盛大に眉根を寄せて叫び声を上げた。

 

 

「デートって……まさか、明日じゃないでしょうね」

 

 

「そ、その……まさかで」

 

 

その時の琴里は、額に手を当てて深いため息を

吐いていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎


『他の投稿作品』もあるので、是非ともそちらも
楽しんで見ていただければ、ありがたいです‼︎




【報告】

『転生したらスライムだった件 ■■の魔王』
『東方墨染ノ残花』の『最新話』を更新します。


それと『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』
書き直し(修正)する予定ですので、是非ともよろしく
お願いします。
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