を無事に更新をすることができました‼︎
今回は『24820文字』まで頑張って書きましたが
豆腐のようなクソナメクジメンタルの自分はきちんと
面白く書けているのかとても心配になります……(汗)
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ豆腐のようなそのメンタルで脆い
自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが、
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただければ、ありがたいです‼︎
『──いい? 午前一〇時に十香と落ち合って、
東天宮の水族館へ。そうしたら何か途中で理由を
付けて抜け出してちょうだい。外に出たのならば
〈フラクシナス〉で拾うわ。それから一〇時三〇分に
改札前で狂三と待ち合わせして移動一一時には駅前の
広場にすぐに戻って鳶一折紙と合流をしなさい。
ただ、この時点で十香を三〇分放置してしまうことに
なるわ。すぐにフォローをして。その後もできるだけ
間隔を狭めて、それぞれの空白の時間があまり多く
ならないように調整しないとね。タイムテーブル管理
はこっちでやるから、士道はとにかく、彼女たちが
へそを曲げないように優しい言葉をかけてあげて。
最優先目標は狂三をデレさせてキスまでいちゃうこと
だけれど、十香の機嫌を損ねても駄目だし、鳶一折紙
に勘づかれるのも上手くないわ。どうにか──って、
ちょっとねえ士道、ちゃんと聞いてる?』
「……き、聞いてるよ」
……頭に入っているかどうかは別だけれども。
士道は中心の呟きを悟られないように咳払いを
すると、インカムから聞こえてくる琴里の声に
小さく頷いた。
結局士道は、十香と折紙からのお誘いを断ることが
できず、トリプルブッキングデートを強行することに
なってしまったのである。
本来ならば今は狂三攻略を第一に考えるべきなの
だろうが、約束を反故にすれば、十香の精神状態が
著しく悪化し、精霊の力が逆流してしまう恐れがある
というし、十香と狂三とのデートに乱入される可能性
がある以上、折紙も放っておけない。
その結果できあがったのが……この鬼畜過ぎるような
スケジュールだったのである。
『聞いてるだけじゃ意味ないのよ。ちゃんと頭の中に
入れなさい』
「う……」
読まれていた。頬に汗が伝う。
『はぁ……まあいいわ。基本はそれに従って移動して
ちょうだい。準備はいい?』
「あ、ああ……たぶん」
言いながら、顔を下に向けて自分の装いを見直す。
今の士道の格好は、紺色のポロシャツにベージュの
チノパンというシンプルなものだった。
琴里曰く、「女の子の男の子に対するお洒落採点法は基本的に減点方式」らしい。初心者があれこれ気を
回しても失敗は目に見えているので、無難な服装でも
いいから清潔感を大切にせよ、とのことだった。
『さてと、そろそろ時間よ。 ──私たちの
「お、おう」
言われて、士道は緊張を抑え込むように深呼吸
をした。
既に士道は、天宮駅東口出てすぐのところにある犬の
銅像前に立っている。
確か正式名称は別にあるのだが、あまりにも渋谷駅の
忠犬と容貌が似ているため、近隣住民からは親しみと
嘲りを込めて『パチ公』と呼ばれていた。まことに
哀れなワンちゃん。
とはいえ駅を出てすぐという配置のため、本家忠犬
と同じように、待ち合わせスポットとしては機能を
していた。周囲には士道の他にも、結構な数の人間
が見受けられる。
と、その人の波を割るようにして、聞き慣れた十香の
声が、士道の鼓膜に届いてきた。
「シドー!」
声の方向に振り向いて、目をやる。そこにはもう太陽
より眩しいんじゃないかなあなんて思えるほどの満面
の笑みを浮かべた十香が立っていた。
装いは、いつもの制服ではない。薄手のチュニック
にショートパンツという組み合わせだった。これが
また、誂えたように似合っている。
「こ、これは……」
士道がポカンと十香を見つめていると、インカムから
令音の声が聞こえてきた。
『……ああ、十香から、何を着ていけばいいのかと
訊ねられたんだ。悪くないだろう?』
「は、はい……」
ぼうっと様子で士道は口を開く。悪くないどころか
とてもイイ。一瞬目を釘付けにされた。
「シドー?」
「あ、ああ……! 悪い。ボッーッとしていた。
……ん、似合っている。可愛いぞ、十香」
「な……っ」
士道が言うと、十香は顔を真っ赤に染めた。
あたふたと手と首を動かしてから、くるりと踵を
返す。
「い、いいから行くぞ! ほら、早く!」
「な、なんだよ、急かす──」
と、言いかけたところで、士道は言葉を止めた。
士道の前を歩いていた十香が急に足を止めたため、
ぶつかってしまったのである。
「十香? どうした?」
「む、むう……」
十香が、困ったように眉を歪め、振り返ってくる。
頬はまだ少し赤かった。
「シドー、そういえば、私たちは一体どこ向かえば
いいのだ……?」
「え? 水族館じゃないのか?」
十香が、ものすごく困った顔を作る。どうやら、
場所がわからないらしい。
「はは……ちょっと待ってな」
士道は自分の財布からチケットを取り出すと、
裏面の地図に視線を落とした。
「ええと? 場所は天宮クインテットか。
ん、なら向こうだな」
言って、十香が進んでいた方向とは逆の道を指す。
すると十香はくるり身体を回転をさせ、士道の後ろに
ぴったりと張り付いた。たぶん、先に進めということ
だろう。
士道は苦笑して、歩みを進めていった。
と、そこで。
「…………ッ⁉︎」
視界の端に見覚えのある人影が映った気がして、
士道は眉根を寄せた。
身体の向きは変えないようにしながら、視線だけを
左手に向ける。
駅前から道路を隔てた広場。その噴水前に、鳶一折紙
の姿があったのである。
タートルノースリーブにミニスカートというその完璧
な出で立ちで、肩に小さな鞄掛け、ぴくりとも動かず
直立姿勢を保っている。何も知らない人たちがそれを
見たならば、マネキンに間違われてしまったとしても
おかしくなかった。
確か折紙との待ち合わせは一一時だ。今の時刻は
一〇時五分。随分と気が早かった。
「ぬ? どうかしたのか、シドー」
「い、いや、何でもないぞ! さあ行こうすぐ行こう
即行こう!」
長くここにいて折紙に見つかってしまっては大変
である。士道は十香の姿を隠すように自分の右手側
を歩かせると、自分の顔を十香の方に向けるように
しながら歩き始めた。
『あら、なかなか気遣いが身に付いてきたじゃない。
女の子に車道側を歩かせない。視線を女の子から
外さない。うん、ベタだけど、意外と嬉しいものよ、
そういうの』
「そ、そうか……」
士道は苦笑しながら小声で琴里に返した。本来の意図
とは違うのだが……まあ、結果オーライということに
しておこう。
どうにか
腕で額で拭い、一息。と、そこで隣を歩く十香の声を
かけてきた。
「そういえばシドー」
「ん? どうした?」
「水族館とは一体何なんだ?」
「何って……十香が行きたかったんじゃないのか?」
「勘違いするな。私はシドーと一緒にデェトが
したかっただけだぞ」
「…………」
何だろうか、顔が熱くなる。……普通の女の子は
「か、勘違いしないでよねっ! ただ単に水族館に
行きたかっただけなんだから!」とか言うのだと
思うのだが……なんか、逆だった。
気を取り直すようにこほんと咳払いをし、口を開く。
「水族館ってのは……まあ、魚とかがたくさんいる
ところだ」
「なんと!」
十香が、目を丸くして声を上げる。
「塩焼きか⁉︎」
「いやいやいや」
「では煮付けか?」
「だから違うって」
「とすると、アクアパッツァ?」
「は……?」
「はっ、もしや
「食べる方向ばっかじゃねえか! ていうかなんで
そんなに調理法に詳しいんだよ⁉︎」
どこで仕入れた知識かは知らないが、随分と偏りが
あった。後半などは、料理に明るい士道でなければ
突っ込みきれなかったかもしれない。
「むう、違うのか?」
「ああ。魚が泳いでるのを見て楽しむんだよ」
「魚が……泳ぐ……⁉︎」
十香は戦慄した様子で眉をひそめた。
そういえば十香は、美味しく調理されたあとの魚しか
見たことがなかったかもしれない。
「あー……まあ、百聞は一見に如かずだ。とりあえず
行ってみよう」
「む……うむ、そ、そうだな」
うなずく十香を引き連れて、道沿いに進んでいく。
ほどなくして、二人の目的の天宮クインテットに
たどり着いた。去年完成されたばかりの、新しい複合
商業施設である。すぐ近くに同グループの経営をする
ホテルや室内遊園地、映画館、ショッピングモールが
並び、まるで一つの小さな街のようになっている。
新たな観光地としても人気が高く、平日だというのに
数多くの人影が見受けられた。
「さて、と。水族館はあれだな」
「シドー」
と、十香が不意に、士道の手をきゅっと握ってきた。
「……っ⁉︎ と、十香?
ど、どどどどうかしたのか……?」
「む、こう人が多くてははぐれてしまいかねん」
「ああ……そ、そうだな」
士道は激しく脈打つ心臓をどうにか制しながら
手を握り返すと、水族館に入っていった。
受付でチケットを手渡し、薄暗い館内に足を踏み
入れる。
すると、
「な……っ、なんだこれは……っ!」
周囲のいた客が一斉に士道と十香に視線をこちらへと
注いでくる。
「と、十香。ここでは静かにな」
「! う、うむ……すまん。だがシドー、これは……
凄いぞ」
少し小声になって、十香は顔を上げた。
館内は一面がガラス張りになっており、大小無数の
魚たちが泳ぎ回っていた。士道でさえ思わず感嘆の
声を漏らしてしまうほどのスケールである。十香が
驚くのも当然といえば当然だった。
「こ、これが全て魚か……」
足元をまったく見ずに歩きながら、十香は言う。
「ああ、そうだ。綺麗なもんだろ?」
「う、うむ。とても綺麗だ……」
言いながら、十香が士道から手を離す。そのまま
フラフラと歩いていき、大きなガラスの壁にペタリ
と両手をつけた。その目の前を、小さな魚の大群が
横切っていく。
「おお……」
十香が目をまんまるにして、魚群の動きを目で追う。
その姿が妙に可愛らしく見えて、士道は思わず笑って
しまった。
「し、シドー、もっと奥まで行ってみよう!」
「はは、そうだな。じゃあ──」
と、そのとき。右耳に装着していたインカムから
軽快なアラームが鳴り響き、士道はビクッと肩を
揺らした。
『──士道、そろそろ狂三との待ち合わせ時間よ。
〈フラクシナス〉で拾うから、外に出て人目のない
場所に移動してちょうだい』
「……っ」
「シドー? 行かないのか?」
急に足を止めた士道を不思議に思ってか、十香が
キョトンとした様子で首を傾げる。
「あー……っと」
士道はしばらく目を泳がせてから、お腹辺りを
押さえて少し前屈みになった。
「あ、あいたたたた……っ」
「⁉︎ ど、どうしたのだシドー!」
「い、いや、ちょっと腹の調子がな……トイレに
行ってくるから、少し待っててくれないか?」
「な……っ! だ、大丈夫なのか……?
も、もし酷いようなら琴里たちを……!」
「い、いや! そんなに深刻なアレじゃないから
心配しないでくれ! な⁉︎」
「う、うむ……」
士道が言うも、十香は心底心配そうな顔のまま、
士道を見つめてきた。……ものっすごい罪悪感が
胸中に広がる。
だがモタモタなどしていては狂三を待たせることに
なってしまう。士道は、段ボールに入った捨て犬の
前から去るような心地で出口に足を向けた。
「で、できるだけ早く戻るから、水族館の魚でも
見ててくれ!」
「う、うむ、わかった。辛かったらすぐ琴里に連絡
するのだぞ……⁉︎」
「お、おう……」
うなずき、お腹を押さえながら歩いていく。
角に曲がり、十香の視界から外れた辺りで姿勢を
直し、全速力で駆け出した。
「ま……っ、待たせたな……!」
士道が息を荒くしながら天宮駅東口改札の前に
たどり着いた時には、既にそこには狂三の姿が
あった。
高級そうな黒のブラウスにロングスカートという
出で立ちだったのだが、それら全てが黒で統一を
されているためか、まるで喪服でも着ているかの
ように見えた。
「いいえ、わたくしも今来たところですわ」
言って狂三がにっこりと微笑む。士道は呼吸を
整えると、改めて狂三に向き直った。
「悪い……少し遅れた」
「うふふ、そんなに急がれなくてもわたくしは
大丈夫でしたのに」
「い、いや、まあ……はは」
曖昧に笑って誤魔化す。
いくら〈フラクシナス〉を通ってショートカットが
できるとはいえ、転送のためには、上空に遮蔽物が
なく、人目のないそんな場所に移動する必要がある。
水族館から人通りの多い駅前に移動してくるには、
それなりの距離を走らねばならないのだった。
『──さ、今日はこれが本番よ。しっかりね』
琴里が言ってくる。士道はインカムを軽く小突いて
了解を示した。
今日の最大目標は、狂三の唇が目に入り、士道は
気まずげに頬をかいた。
と、狂三がぺこりと頭を下げてくる。
「今日はお誘いいただきありがとうございます。
とても嬉しいですわ。──それで、まずはどちらに
行かれますの?」
「ん……そうだな」
士道が言うと同時、右耳に琴里の『待ちなさい』
という言葉が聞こえてきた。
〈フラクシナス〉のメインモニタに、選択肢が
表示される。
①ショッピングモールでブラブラお買い物デート。
②二人で甘い
③ランジェリーショプで彼女の
「総員、選択!」
言うと、すぐさま琴里の手元の小型ディスプレイに
集計結果が表示された。
「ふむ……」
琴里がうなっていると、艦橋下段からクルーの声が
響いてきた。
「ここは②ですって! 薄暗い空間、不意に重なる
手と手! これしかありません!」
「いやいや、①しかありませんよ! 女の子はやはり
お買い物大好きなんですって!」
確かに、どちらもいけそうではある。だが琴里は頬を
かいた。ここから一番近いショッピングモールに映画
となると……十香のいる天宮クインテットになって
しまうのだ。さすがに鉢合わせするとは思えないが、
わざわざ不安定要素を増やすこともないだろう。
とはいえ、残った選択肢となると……
「③って、さすがにちょっと引かれない……?」
琴里が辟易した調子で言うと、下段から令音が声を
上げてきた。
「……いや、だが数値や昨日の反応を見る限り、
絶対に断られるとも言えないんだ」
「ふむ……」
琴里は眉をひそめてうなっていた。リスクが高いが、
これが通るのなら、狂三がよほど士道に心を許して
いるという証左にもなる。有用なリトマス試験紙
でもあった。
「士道、③よ。駅ビルのランジェリーショップを
案内してあげなさい」
『おう、了解……って、はぁ……⁉︎』
スピーカーから、士道の素っ頓狂なそんな声が
聞こえてきた。
「え、ええと……狂三。何か買いたいもの……
というか、見たいものってないか? た、たとえば
こう、身につけるもの……とか」
「お洋服ですの? ああ、それは見たいですわね」
「や、洋服というか……その下に着けるもの
というか……」
「その下……?」
そこで士道の言っていることに気付いたのだろう、
狂三がほんのりと染める。
「い、いや、やっぱりおかしいよな!
よし、とりあえず別の──」
士道が額に汗を滲ませ、歩いていこうとすると、
服の裾がきゅっと摘まれた。
「え……?」
見やると、狂三が上目遣いになりながら、視線を
士道に向けてきていた。
「士道さんが……選んでくださいますの?」
「え⁉︎ あ……あ、ああ……」
士道が困惑気味にうなずくと、狂三ははにかんだ
ような笑みを浮かべた。
「ふふっ、でしたら──可愛らしいものを、お願い
しますわ」
「え、ええと…………はい」
自分から誘った手前、嫌とも言えない。士道はまるで
ロボットのような挙動で歩き出した。
『驚いた。本当に乗ってくるなんて』
「……おい」
おまえが指示したんだろうが、とインカムを小突く。
と、そこで、道路を隔てた駅前広場が視界に入る。
噴水の前には、三〇分前から変わらぬ姿勢で立って
いる折紙の姿が見受けられた。
だがまったく違いがないわけではなかった。
ナンパだろうか、三組の男が、やたらフレンドリーな
調子で折紙に話しかけていたのである。
しかし折紙は微動だにしない。まるで男たちの存在に
気づいていないかのように。
と、三人組のうち一人が、無視をされたことに腹を
立てたのか、折紙の肩を掴もうとする。
折紙は鮮やかな身のこなしで男の腕を捻り上げ、
地面に組み伏せた。
よほど痛かったのだろう、男が涙目になって悲鳴を
上げる。が、男たちの仲間は怖がってしまってしまい
その場から動けずにいた。そうしているうちに騒ぎを
聞きつけて野次馬が集まり、終いには警官がやって
きて、男たちを連れていってしまった。
折紙は何事になかったかのように、先ほどと同じ
姿勢に戻った。
「……………」
「士道さん、どうかしまして?」
頬に汗浮かべながら足を止めていた士道を不審に
思ってか、狂三が声をかけてくる。
「や……な、なんでもない」
士道は折紙に気づかれないように、駅のすぐ近くに
聳えたビルの中に入っていった。
そしてエスカレーターを使い三階、目的地である
ランジェリーショップへ。士道も何度かこの駅ビル
を利用していたが、さすがにこのスペースに足を踏み
入れるのは初めてだった。
入り口から、やたらとセクシーな下着が並べられた
エリアである。無論、店員も客も、そこにいる全員
が女性だった。
士道が店に入るなり、一瞬辺りから好奇の視線が
こちらへと注ぐ。狂三が隣にいるからいいような
ものの、あまり気持ちのいい空間ではなかった。
「まあ! 可愛らしいですわね! 士道さん、
どちらがいいと思いまして?」
さっそくお気に入りを見つけた狂三が、上下セット
の下着を二着示してくる。どちらも精緻なレースで
飾られた可愛らしいデザインで、士道は思わず顔を
赤くしてしまった。
「そ……そうだな。ええと……」
『士道、ちょっと待ちなさい』
艦橋のメインモニタに、選択肢が表示される。
①右手側。ピンク地に黒のレースの妖艶なデザイン。
②左手側。淡いブルーの爽やかなデザイン。
③「俺はもっと露出度高い方が……」後ろにかかっている下着を指す。
「総員、選択!」
琴里が叫ぶと、すぐさま集計結果が表示された。
僅差だが、多いのは以外にも、③。
「ここまで来たなら攻めに出ましょう! 最初に
感覚を麻痺させておいて、キスへの抵抗を少なく
するんです!」
クルーの声が響いてくる。琴里はふむとあごに
手を当てた。
「ま、AIがあえて第三の選択肢を提案をしてきた
んだし、試してみる価値はあるかしらね。──士道、
③よ。狂三の後ろの下着を選びなさい」
琴里が言うと、画面の中の士道が狂三の後ろを
指した。
「そ、そうだな……どっちもいいけど、俺としては
あっち方が……」
指示通り狂三の後ろの下着を指す。と──そこで
士道は頬をぴくりと動かした。
そこにかかってシースルー素材の、なんともきわどい
代物だったのである。
「士道はこれがよろしいんですの……?」
「い、いや、なんというか……」
士道がしどろもどろになっていると、狂三は手に
していた下着を元の場所に戻し、躊躇いがちに、
士道が指示したセクシーランジェリーを手に取った。
「や、狂三、何も無理に──」
「いえ、せっかく士道さんが選んでくださったの
ですもの。──試着してみせますわ。似合っているか
どうか見てくださいまして……?」
「え、と……お、おう……」
士道がうなずくと、狂三は目の前にあった試着室に
入り、カーテンを閉めた。
自然、士道は店内に一人取り残される形となる。
……なんだか周囲からの視線が一層強いなった
気がした。
「………」
居心地の悪い空気に身をよじる。と、そこで
士道の肩がちょんちょん、とつつかれた。
「ん……?」
不思議に思って振り返ってみると、そこには少女が
三人立っていた。一瞬だけ、ポカンとするが、すぐに
思い出す。確か士道のクラスメートの、亜衣・麻衣・
麻衣とトリオだった。
「やーやー五河君。なんでこんなとこいんの?
女装癖?」
「ていうか今日は十香ちゃんと天宮クインテットで
水族館デートじゃないの?」
「え? まさかすっぽかしたの? 死にたいの?」
亜衣、麻衣、美衣の順に、次々に口を開いてくる。
「え? あ、いや……」
士道はおもわず口ごもった。なぜこの三人が十香との
約束を知っているのかも気になったのだが……今は
それどころではない。今狂三と一緒にいるこの場面を
見られたら、零にも伝わってしまい、あとあと厄介な
ことになる可能性があった。
するとそんな士道を見てか、三人が一斉に士道を
睨んできた。
「え? ちょっとマジ? あり得ない。十香ちゃんの
お誘いを断るとか──」
「い、いや、そんなことしねえって! 今から行く
ところだよ!」
士道が慌てて首を振ると、三人は疑わしげな眼差し
を送ってくる。
「本当でしょうね? もしも嘘だったら許さない
かんね。私のお父さん、黒魔術結社の幹部だから。
女の子に触れるたび寿命が一年縮む呪いとかかけて
もらうわよ」
「そうよ。十香ちゃん泣かせたりしたらその時は
タダじゃ済まさないわ。私のお母さんSMの女王様
なんだから。泣きながらありがとうございますって
言うまで調教してもらうわよ」
「本気で骨も残らないと思いなさい。私の叔父さん、
外国でヒットマンやってるんだから。この前誕生日
にもらった『一人殺したらもう一人サービス券』を
使うわよ」
「紳士服のサービスみたいな券で殺されてたまるか!
ていうか一人殺してんのかよ⁉︎」
たまらず叫んでから、士道ははあと息を吐いた。
「と、とにかく。十香との約束は破ってねえから
安心──」
と、そこで試着室のカーテンが開かれる。
「どうですかしら……?」
なんて、狂三が少し恥ずかしそうに足を摺りながら、
高校生にあるまじき布面積の下着と、それに申し訳
程度に覆われた白い肌を晒す。
「……ちょっと、五河くん?」
瞬間、周囲の温度が下がった気がした。
「あ、あの、これはだな……」
と──士道が弁明しようとしたとしたところで、
右耳に軽快なアラームが鳴る。
次いで琴里の声が聞こえてきた。
『士道、時間よ。……本当だったら狂三に注力を
しなきゃならないところなんだけど、待ち合わせ
に遅れて捜し回られて面倒だわ。鳶一折紙もとに
向かってちょうだい』
「そ、そんなこと言われても……」
『いいから、早く向かいなさい。──あ、狂三に
ちゃんと「可愛い」って言ってあげるのよ?』
「……り、了解」
士道は意を決すると、「あいたた……」とお腹を
押さえた。
「すまん狂三! ちょっと腹具合悪い! トイレに
行ってくるからしばらく待っててくれ! ちなみに
その下着似合ってる! 可愛いぞ!」
士道がそう言って駆け出すと、後方で狂三は「まっ」
と頬を赤くした。
だがその周囲展開した三人が、凄まじい怒声を士道の
背に放ってくる。
「ちょっと待てコラァァァッ! なんで時崎さんがここにいるわけ⁉︎」
「しかももうこんなエロ下着選ぶ仲⁉︎ 十香ちゃんとは遊びだったの⁉︎」
「今私は、貴様を刺し殺すか撃ち殺すかのどちらにすべきか迷っている!」
士道は泣きそうになりながら、ぴかぴかの床を
走っていった。
「す、すまん……、折紙……っ、
ちょっ、遅れた……!」
息を絶え絶えに士道が言うと、折紙は表情を変えぬ
まま士道の目を見つめて唇を開いた。
「問題ない。私も今来たところ」
ダウト。
……なんて言ってしまいそうな心地をどうにか抑え
込む。少なくとも折紙は、一時間前にはもうここに
いたはずだが、士道がそれを知っていてはおかしな
ことになる。
「え、ええと……今回はどこに行くんだ?」
「映画」
士道はぴくりと頬を動かした。ここから一番近い
映画館といえば──
「な、なあ折紙、その映画ってどこで……」
「天宮クインテット」
「……ですよねー」
士道は引きつった笑みを浮かべながら、インカムを
コンコンと小突いた。
『んん……そうね。十香と鉢合わせする可能性が
あるし、あまり望ましくないわ。どうにか別の場所
に変えられるか打診してみてちょうだい』
「あ、あのだな折紙、もしよかったら別の──」
と、士道が言いかけたところで、折紙がチケットを
一枚手渡してきた。
「先に渡しておく。なくさないで」
「……はい」
完全に先手を打たれていた。チケットまで用意されて
いるのに断るのは不自然だろう。
『……ま、仕方ないわね。敷地も広いし、行く施設が
違うんだから大丈夫でしょう』
「そ、そうだよな」
士道は小声で言ってから、折紙に向き直った。
「じゃあ、行くか」
折紙がこくりとうなずく。二人は並んで歩き出した。
だが不意に折紙が士道の腕に自分の腕を絡ませ、
ぎゅっと身を寄せてきたものだから、士道は思わず
硬直しまった。
「あ、あの……折紙さん……? 何をしてらっしゃる
んでしょうか……?」
「腕を組んでいる」
単純明快だった。何を言っても無駄なのだと悟って、
心臓をバクバク言わせたまま歩き出す。
なんかもうそのたびに、腕に柔らかい感触がまとわり
ついて、士道は目を泳がせた。
妙に時間が長く感じる。十香のときと同じルートを
辿り、天宮クインテットの敷地内到達したころには、
緊張で軽く一歳くらい歳をとってしまった気がした。
と、敷地内に入るなり、なぜか折紙が水族館の方に
向かって歩き始める。
「……ッ! お、折紙……! ど、どどどこに行く
んだ、映画館はこっちだぞ……⁉︎」
慌てて折紙の手を引っ張る。だが折紙は静かに
道の先を指した。
「上映までまだ時間がある。軽く昼食を摂っていく」
「え……?」
折紙の指の先を見る。水族館の隣に、こじゃれた
レストランが見受けられた。
「あ、ああ……なるほど、そうか」
ほうと安堵の息を吐く。
だが、十香のいる水族館と目の鼻の先というのは、
精神衛生上あまりよろしくなかった。確か敷地内には
他にも食事ができる場所があったはずだ。士道は場所
の変更を提案し──たのだが、半ば強引に、ざりざり
と引きずられていってしまった。
「あ、あれ……?」
士道が呆気に取られているうちに、レストランに
入ってしまう。
どうやら席を予約していたらしい。折紙が名前を
告げると、窓際の席に案内された。
そして料理の方もすでに予約を入れてあるらしく、
ウェイターは飲み物の注文だけを取ってそのまま
去っていった。
「………」
「………」
それからしばらく、向かい合ったまま沈黙が流れる。
『……何か言いなさいよ、士道』
「あ……っ、ああ……」
士道は頬をかくと、唇を動かした。
「なあ折紙、今日はなんで俺をデートに
誘ったんだ……?」
士道が言うと、折紙は、視線を士道の目に向けて
ジッと見つめてきた。
「今日は、できるだけ一人にならないで欲しかった」
「え……?」
眉をひそめる。だが折紙構う様子なくあとを続けた。
「デートが終わったら、うちに来て欲しい」
「……⁉︎ ど、どういうことだ……?」
「そして、しばらくうちに泊まって欲しい」
「え──ええッ⁉︎」
士道はおもわず大声を出してしまった。周囲の客たち
が驚いたような目を向けてくる。
だが、今の士道にそれを気にする余裕はなかった。
「な、ななななななんでいきなり、そんな……」
「私は本気」
「え、ええええええと……っ」
目が泳ぎまくり、しどろもどろになる。実際、言葉に
違わず折紙の目はマジだった。というか、彼女が冗談
を言っている場面などは思い浮かばなかった。
と、そこで天の助け。ウェイターが料理をこちらへと
運んでやってきた。慣れて手つきでテーブルの上に皿
を置き、簡単な料理の説明をしてから、伝票を置いて
去っていく。
「と、とりあえず冷めないうちに食べよう! な⁉︎」
士道が言うと、折紙は一応納得した様子でこくりと
うなずいた。
混乱した頭のまま、黙々と料理を口に運ぶ。
正直、あんまり味がわからなかった。
そしてそれから食べ終えたころ、右耳にアラームが
聞こえてきた。
『士道、十香が不安がっているいるわ。一旦戻って
あげて。そこからなら歩いて行けるわね?』
士道は了解を示すかのようにインカムを小突くと、
その場から立ち上がった。
「お、折紙! すまん、ちょっとトイレに
行ってくる!」
士道はそう言うと、トイレの前を通ってから店の外に
出ていった。
士道が入り口で半券を提示し、水族館に再入館を
すると、入り口ほどの近いエリアに、十香の姿を
見つけることができた。
眉は不安そうな八の字に歪み、誰かの姿を探すように
しきりに辺りを見回している。
誰か、なんて考えるまでもなかった。士道の他にいる
はずがない。
「十香!」
士道が近づき、声を掛けると、十香は十香は曇って
いた表情をパァと明るくした。
「シドー! だ、大丈夫だったか……?」
「お……おう、なんとかな」
言って、士道がお腹をポン! と叩くと、十香は
心の底から安堵したような表情をして息を吐いた。
……なんだか、もの凄く良心が痛む。
と、そこで十香のお腹がコロコロコロ……とそんな
可愛らしい音を立てた。
「ぬ……むう」
十香が恥ずかしそうに顔を伏せる。士道は思わず
苦笑してしまった。どうやらお腹が減ったらしい。
とはいえ無理もない。もう時間的に昼時なのである。
「十香、ここのチケットの半券あれば再入館できる
みたいだし、何か食べにいくか?」
「む……うむ! それはとてもいいと思うぞ!」
士道が言うと、十香は大きく首を前に倒してきた。
「じゃあどうするかな。十香、何か食べたいものとか
あったりするか?」
「ん、シドーは何が食べたいのだ?」
「え……俺か? 俺は……」
士道はお腹をさすった。今し方料理を平らげてきた
ため、まったくお腹が減っていなかったのである。
「いや、俺は……今はいいや。十香が好きなもの
でいいぞ」
しかし士道がそう言うと、十香がまたも不安そうな
顔を作った。
「シドー……ま、まだお腹が痛いのか……?
やはり琴里に連絡した方が……」
「う……」
……なんだか、もう一食食べねばならないような
気がした。
「す、すまん、待たせたな……!」
十香との食事を終え、一旦駅ビルにいる狂三のもとへ
戻った士道は、パンパンになったお腹をさすりながら
そう言った。
「いえ。それより、大丈夫ですの?」
狂三が、士道を心配そうに言ってくる。
ちなみに彼女の手には、ランジェリーショップの
紙袋が握られていた。
「ああ……なんとか。──て、もしかして、あの下着
を買ったのか……?」
「ええ。──士道さんが、似合うとそう仰って
くれましたので」
「……っ」
士道はなんだか気恥ずかしくなって、頬をかいた。
話題を逸らすように、キョロキョロと辺りを見回す。
……まあ、ランジェリーショップの前でキョロキョロ
する士道のその姿は、それなりに怪しそうではあった
けれど。
「……そ、そういえば、あの三人組は……?」
「士道さんがお手洗いに行ったあと、お帰りに
なられましたわ」
「そ、そうか……」
ほう、と息を吐く。どうにか士道の首は繋がった
ようだった。
「あ、伝言を言付かっていますわ。ええと──
『五河くん、あとで、泣かす』 」
「…………」
前言撤回。明日が大変そうだった。
と、そこで狂三が、士道の顔を覗き込むように
しながら唇を開いてくる。
「ところで、士道さん」
「ん……? なんだ?」
士道が首を傾げると、狂三が無邪気な笑顔を浮かべ
ながら、絶望的な言葉を吐いた。
「そろそろ、お腹が空きませんこと?」
「ふぅ……士道さんたら。せっかくのデートですって
のに、今日は随分と忙しないですわね」
公園のベンチに腰掛けながら、狂三は小さく息を
吐き出した。
時刻は三時三〇分。士道が通算三〇度目のトイレに
立ったあとのことである。
デートを始めてから五時間ほどの時間が経っている
というのに、一緒にいたのはせいぜいその三分の一
程度に過ぎなかった。
「──まあ、でも、いいですわ」
狂三は手の平の上にあごを置いて、ふふ、と
微笑んだ。
そう。そんなのは些細な問題だ。全ては過程に
過ぎず、道理に過ぎない。
「どうせ最後は──わたくしのものになる
んですもの」
人差し指でトントン、と頬を叩きながら、適当な鼻歌
を口ずさむ。
ふと目を閉じると、自然と士道の顔が浮かんだ。
もしかしたらこの感情は、人間でいうところの恋に
あたるのかもしれなかった。
士道のことを知って以来、寝ても、覚めても、
彼のことが頭にちらつく。
もっと彼のことを知りたい。
彼の趣味。
彼の思想。
彼の──味。
「──ふふ」
狂三はさらに笑みを濃くし、その場からゆっくりと
立ち上がった。んん、と小さく伸びをする。
頭の中で妄想を巡らせていると、どうしても身体が
熱くなってしまった。何か、冷たいものが飲みたく
なった。
確か来がけの道に自動販売機があったはずである。
どうせ士道は帰ってこないだろうし、少し離れても
問題はあるまい。狂三は軽い足取りで公園を横切って
いった。
──と。
「……?」
公園を抜けて静かな路地裏に出、自動販売機の前まで
来た狂三は、片眉を動かした。
せっかく良い気分だったのに、耳が、不快な声と音を
拾ったのである。
「………」
狂三は無言のまま足を動かすと、奥まった場所にある
路地裏の袋小路にたどり着いた。
「……あらあら。何をしておられますの?」
そして、静かに半眼を作り、唇を開く。
「……いッ?」
狂三に声をかけられた少年が驚いたように肩を
揺らし、振り向いてくる。
その場には、四人の人間がいた。いずれも銃器──
ここは日本だ。モデルガンだろう──を手にして、
路地裏の奥に向けていた。
そして袋小路の最奥には、小さく蠢くその影が見て
取れる。猫だ。生まれてそう間もない仔猫が、足を
引きずりながらみーみーと鳴いていた。
そこで、悟る。改造したモデルガンの試射か、安易で
容易なストレス発散辺りが目的か──まあ、そんな
ところだろう。狂三はすっと目を細めた。
「っ、……んだよ。脅かすなって」
「おい、どーしたんだよ」
「いや……女の子が」
そこで全員が狂三の存在に気づいたらしい。皆一斉に
視線を向けてくる。
「あー……悪いんだが、ちょっとここは使用中だ。
向こう行ってくれるかな」
言って、狂三を追い払うように手を振ってくる。
しかし狂三は足を一歩前に踏み出すと、魅力的な
微笑を作ってみせた。
「あらあら。どうかそんなことおっしゃらないで
くださいまし。わたくしこれでも銃の扱いには
一家言ありますのよ? わたくしもお仲間に入れて
くださいまし」
「あ……?」
少年の一人が訝しげに狂三を睨みつけ──
眉を動かす。
どうやらようやく、自分の目の前にいるのが絶世の
美少女であることにやっと気づいたらしい。途端に
馴れ馴れしいそんな笑みを浮かべ、狂三の方に
近づいていた。
「あー、何、君もやりたいの?」
「ええ。是非お願いしますわ」
「しょうがねえなあ。じゃあほら、これで──」
「うふふ、お気遣いなく。──それより、少しだけ
ルールを変えませんこと?」
狂三の言葉に、少年たちが首を捻る。
「ルールを? どういうこった?」
「難しい話ではございませんのよ。──ただ少し、
的を替えるだけですわ」
狂三は、凄絶な笑みを浮かべた。
「むう……シドーはどこへ消えたのだ……」
十香は眉をひそめながら、首を左右に振って
辺りを見回した。
辺りにはたくさんの人が溢れていたが、士道の姿が
見受けられない。
何度も頻繁に席を外す士道が心配になって、あとを
つけてみたのだが、ひとけのない建物の裏手に入り
込んだところで、その姿が忽然と消えてしまった
のである。
そう、せっかくのデートだというのに、士道はすぐに
いなくなってしまうため、あまり一緒にいることが
できないでいたのだ。
「むう……」
十香は不満げに、そして不安そうにうなった。
士道とのデートはとても楽しい。二人で一緒に歩いて
いるだけで、本当に時間を忘れてしまうような感覚を
得ることができる。
でも、いや、だからこそ──士道がいなくなって
しまったあとの寂しさは、より強くなってしまうの
だった。
と──考え事をしていたからだろうか、十香は向こう
側から歩いていた人とぶつかってしまった。
「むぉ……っ!」
その場に尻餅を突いてしまう。十香はお尻をさすり
ながら立ち上がった。
「す、すまん。急いでいたのだ」
「大丈夫。こちらも不注意だった」
十香が申し訳なさそうに言うと、その人物は抑揚の
ない声で返してきた。
訝しげに眉をひそめ、顔を上げる。……十香が一番
見たくない顔が、そこにあった。
「と……、鳶一折紙⁉︎」
「……っ、夜刀神十香」
そこで折紙も気づいたのだろう。十香のその叫びと
同時に、どこか忌々しげに言ってくる。
「なぜあなたがこんなところに」
「そ、それはこちらの台詞だ! 何をしに来た!」
「あなたに話す義務はない」
「なん──」
言い返そうとして、十香は思い直した。今は折紙に
構っている場合ではない。
「……まあいい。私は今忙しい。貴様を相手にして
いる暇はないのだ」
「そう。私も今忙しい」
「ふん、何をしているのか知らんが……」
「士道を捜さなければならない」
「……なんだと?」
折紙の口から出た名前に、十香は眉をひそめた。
「待て。シドーは私とデェトしている。なぜ貴様が
ちょっかいを出してくるのだ?」
「そんなはずはない。彼は今日、私とデートを
している」
「な……っ、なんだと⁉︎ 嘘をつくな!」
「嘘ではない。あなたこそ、妄想を垂れ流すのは
やめるべき」
「も、妄想などではない! 私は今日、ちゃんと
シドーと水族館に来たのだ!」
「その士道というのは、犬? 人形?」
「人間のシドーに決まっているだろうっ!」
「…………」
十香がそう言うと、折紙はしばしの間思案を巡らせる
ような仕草を見せ──やがて、何かに気づいたように
小さく顔を上げた。
「まさか」
言って、十香を置いてその場から歩き出す。
「ちょ、ちょっと待て! 話は終わっていないぞ!
どういうことだ!」
十香は、そのあとを追っていった。
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
士道は全身を蝕む疲労の中、どうにか狂三と別れた
公園のベンチにたどり着いた。
それぞれはそこまで大した距離ではないとはいえ、
もう士道は、十香と狂三と折紙の間を三〇周以上も
しているのである。そろそろ身体の限界に達しようと
していた。
と、士道はシャツの袖で汗を拭いながら、小さく眉を
ひそめた。
「あ、れ……?」
『どうしたの、士道』
「や……狂三がいないんだが」
そう、そうベンチに、狂三の姿がなかったのである。
『え? ちょっとカメラ班、狂三の動きはどうなって
いるの?』
『え、映像が途絶えています。カメラに何かがあった
のだと……』
『……なんですって?』
──と、琴里が言った瞬間。
『司令! 微弱ですが、付近に霊波反応が……!』
不意にインカムの向こうから、別のクルーと思しき
男性の声が響いてきた。
『どこ?』
『公園東出口付近の裏口です! この反応は──
間違いありません、時崎狂三です!』
「……っ⁉︎」
士道は肩を揺らしてバッと顔を上げ、公園の東出口の
方を見やった。
『……ふむ。何かあったのかしら。士道、向かって
みてくれる?』
「あ、ああ……!」
〈フラクシナス〉の誘導に従い、自動販売機の脇を
通って、狭い路地を走っていく。
そして。
「────は?」
目的の場所に着いた瞬間。
士道は、呆然と目を見開き、その場に立ち尽くした。
視界を埋め尽くしたのは、赤い色だった。
灰色の塀や地面の上に、夥しい量の赤がぶち撒け
られている。
そして処所に、歪な形をした大きな塊が三つ、
小島のように浮かんでいた。
あまりに馴染みのないその光景に、士道は一瞬、
状況が理解できなかった。
否──一瞬を超え、数瞬を超え、数秒を超え。
段々と推測が固まっていっても、士道の脳はその状況
の理解を拒絶しようとしていた。
だって、あり得るはずがないのだ。
こんな街中で。こんな日常の中で。
──人が、死んでいるだなんて。
「う ──わぁぁぁぁぁッ⁉︎」
事実が脳の拒絶を超えて、ようやく。
士道は悲鳴じみた叫びを発した。
『士道! 落ち着きなさい、士道!』
琴里の声が鼓膜を震わせるが、そんなものは意味を
成さなかった。
脳が状況を認識してしまった瞬間、辺りに漂う異様な
臭気が鼻腔を襲い、士道に途方もないそんな嘔吐感を
覚えさせる。過剰摂取した昼食が胃からせり上がって
くる感覚にどうにか抗うため、士道は思わず口元を
覆った。
「……っ、う……っ」
「 ──あら?」
その声に、視線を上げる。赤い、赤い海の中央に。
その黒い少女は立っていた。
「……士道さん。もう来てしまいましたの?」
赤と黒の霊装を纏った時崎狂三が、士道の方に視線を
振り返りながら言ってくる。左手にはどこから持って
きたのか、細緻な装飾な施された古式のその短銃を
握っていた。
と ──そこで士道はもう一つの事柄に気づいた。
裏路地の奥に、男が一人いて、全身をガタガタと
震わせながらへたり込んでいることに。
若い男である。なぜか腹部に、血で同心円が三つが
大きく大々的に描かれており、まるで的当ての的の
ようになっていた。
「ひ ──ッ、ひ ──ッ」
男は今にも死んでしまいそうな呼吸をしながら、
士道に目を向けてきた。
「た……ッ、助け……く、れ……ッ! なん……、
こいつ……、化物……ッ!」
「あらあら」
狂三は顔を男の方に戻すと、手に握っていた銃を
向けた。
「狂三……っ、おま、何を──」
半ば呆然と士道がカラカラののどを絞ると、狂三は
くすくすと笑った。
いつものような可愛らしい微笑ではない。聞いている
だけで歯の根が鳴るような、不気味な笑い声だった。
「何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟が
ないだなんて、おかしいと思いませんこと? 命に
銃口を向けるというのは、こういうことですのよ?」
「……、や、め……」
息も絶え絶えといった調子で男が声を発そうした
次の瞬間。
狂三が躊躇も逡巡もなく引き金を引いた。
瞬間、銃口から影を固めたかのような漆黒の銃弾が、
これまた真っ黒い軌跡を描きながら、男の腹に大きく
描かれていた的の中央に吸い込まれていった。
「ひぐ──ッ」
男の身体がビクンと跳ねる。それきり、男は何も
声を発さなくなった。
「一〇〇点、ですわね」
短く息を吐き、銃をその場に落とす。するとそれは、
狂三の影の中に消えていった。
「お待たせしましたわ、士道さん。お恥ずかしい
ところを見られてしまいましたわね」
狂三が、士道の方に振り返ってくる。
『──道! 士道! 逃げなさい! すぐに!』
そこで士道は、ずっと琴里がインカムを通して叫びを
上げていることに気づいた。どうにか立ち上がると、
ガクガクと震える足を制してその場から逃げ出す。
しかし。
「うふふ、駄ァ……目、ですわよ」
「うわ……っ⁉︎」
後方から狂三の声が響いたかと思うと、士道は急に
足を取られ、地面に身体を叩きつけられるようにして
転げた。不意のことで、頭をしたたかに打ち付けて
しまう。
「つ……ッ」
目の前に火花が散るかのような鈍痛に顔をしかめる。
だが今はそれどころではない。
逃げなければならない──が、右足が何者かに拘束
され、その場から動いてくれない。
狂三の影から白い手が顔を出し、士道の足をがっしり
と掴んでいる。
「な、なんだ……これ……ッ!」
仰向けになり、必死になって足をばたつかせて振り
解こうとするも、見た目に似合わぬ凄まじい力で
足首を締め付けられ、逃れることができない。
そうしているうちに、狂三がゆっくりと士道の面前
にまで迫ってきた。
「ふふ、捕まえましたわ」
言ってにっこりと笑い、傍らに膝を突いて、士道に
覆い被さるように身を寄せてくる。
「……っ」
心臓が締め付けられるように痛む。だがそれは、
狂三の美しい貌と大胆な行動によるものではなく
──純粋な、恐怖によるものだった。
そう。士道は今──狂三に、精霊に恐怖していた。
世界を殺す厄災。人類の天敵。
言葉の上では何度も耳にしていたその言葉。
飽くほとに折紙が繰り返していたはずのその台詞。
そして、〈アテナ〉が士道に対して口にした言葉。
『もしも
それが、初めて生々しい臭いを伴って、士道の脳髄に
染み込んできた。
「──ああ、ああ、失敗してしまいましたわ。
失敗してしまいましたわ。それなら、もっと早くに
片を付けておくべきでしたわ。──もう少しだけ、
士道さんとのデートを楽しみたかったのですけど」
ぴと、と士道の両頬を包み込むように、狂三が手を
這わせてくる。
「……っ、……」
逃げようとした。叫びを上げようとした。
でも、できなかった。足が痙攣し、のどから掠れた
息が漏れるだけだった。
狂三が、士道に顔を近づけてくる。
でもそれはキスというより、まるで首筋に噛みつこう
としているようで──
「……っ、え……?」
と。──そのとき、士道ののどから、ようやく声が
出た。
狂三の口が士道に触れるかどうかのところで、全身を
奇妙な感覚が包んだのである。
経験したことのない、不思議な感覚。まるで士道を
包む空気全部が粘度の高い液体になり、意識を持って
士道の体表を撫で回しているかのような、そんな奇妙
な感じがした。
そして、次の瞬間。
「────っ」
短い息を伴って、狂三の身体が軽々と後方へと
吹き飛んだ。
コンクリートの塀に華奢な肢体が叩きつけられ、
細かなヒビが入る。
「な──」
士道は何が起きているのかわからず、呆然と目を
見開いた。一体、これは──
「──無事ですか、兄様」
と。どうにか状況を理解しようと思考を巡らせる
士道の鼓膜を、そんな声が震わせた。
「は……?」
間の抜けた声を絞り出しながら顔を上げる。
いつの間に現れたのだろうか、そこには今、目の前で
ワイヤリングスーツを纏った真那が、士道を守るよう
に背を向けながら立っていた。両肩には盾のような、
羽のようなパーツが装着されている。昨日、士道が
映像で見た装備だった。
「真、那……?」
士道が掠れた声で名を叫ぶと、真那は視線を士道の
方に向けて、「はい」とうなずいた。
「間一髪でした。大事はねーですか?」
「あ、ああ……」
呆然と声発する。と、真那はその反応をどう疑った
のか、自分の装いを見下ろしながら、気まずそうに
後頭部をかいた。
「ああ……そりゃ驚きやがりますよね。
なんというか、ちょっとワケありでして」
と、前方から小さなコンクリートの破片が地面に
落ちる音が聞こえてきた。
「……、まあ、話はあとです」
真那が言うと同時、狂三がゆらりと立ち上がり、
唇を動かしてくる。
「あらあら……私と士道さんの愛しき逢瀬を邪魔する
だなんて、マナー違反が過ぎませんこと?」
「うるせーです。人の兄様を狙いやがるだなんて、
どんな了見ですか」
真那が言うと、狂三は驚いたように目を見開いた。
「真那さんと士道さんのお二人はご兄妹で
いらっしゃいますの?」
「……ふん、貴様には関係ねーです」
真那は吐き捨てるように言うと、小さく首を回した。
その動作に合わせて両肩に装備されたパーツが前を
向いて可変していき、先端部まるで手のように五つに
別れる。
そして左右合計一〇の先端部に、青白い光が現れた。
「とっととくたばりやがってください、
〈ナイトメア〉」
その言葉とともに真那が指を鳴らすと、両肩のパーツ
から一〇条の光線が迸り、狂三に向かって迷いなく
伸びていく。
まさに瞬きの間の出来事。しかし狂三は軽々と身を
ひねると、光線を華麗にかわしていった。
「うふふ、危ないですわね」
「──ち」
真那が鬱陶しげに舌打ちし、指を微かに動かす。
すると狂三に避けられた光線が急に進路を変え、
再び狂三に向かっていった。
「ぎゅ……ッ」
さすがにこれは避けきれなかったらしい。両足と腹部
を光線に貫かれ、狂三が奇妙な悲鳴を漏らし、その場
にくずおれた。どく、どくと赤い血がゆっくりと地面
に広がっていく。
「……っ」
あまりに凄惨な光景に、士道は眉をひそめた。
「手間をかけさせてるんじゃねーです。化物風情が」
だが真那は眉一つ動かさず、軽く右手を上げた。
すると手の平のように開かれていたパーツが再び盾の
ような形に戻り、その先端から、巨大な光の刃が姿を
現す。
「──っ」
士道は息を詰まらせた。
あの形態には覚えがある。映像の中で、真那が狂三に
とどめを刺した剣だ。
「真、那……ッ!」
思わず、士道は声を発していた。
「どうかしやがりましたか。すぐにでも片付け
ちまいますので、待ってやがってください」
「駄……目だ! 殺しちゃ──」
士道が言うと、真那は不思議そうに目を見開いた。
だがすぐに目を伏せ、かぶりを振ってくる。
「……そういえばこの女、兄様のクラスに人間として
きやがったのでしたね。──兄様。詳しい内容などは
言えねーですが、どうかこの女のことは忘れやがって
ください。この女は人間ではありません。生きていて
はいけねー存在なのです」
そう言って、地面に倒れ伏した狂三の方にゆっくりと
歩いていく。
「……ッ! そういう問題じゃない! やめろ!
やめてくれ……ッ!」
士道が懇願すると、狂三が、のどからひゅうひゅう
という息を漏らしながら、消え入りそうなそんな声
を発してきた。
「……ふ、ふ……やっぱ、り、士道さん、は、
優しい……お方」
──真那の剣が、狂三に振り下ろされる。
じゅッ、という嫌な音がして、それきり狂三は
何も言わなくなった。
「ふぅ」
真那は軽く手を振る。すると手に装着されていた
パーツが肩に戻っていった。
「なん……で」
そんな真那の背に、士道は震えてる声を投げた。
真那は小さく息を吐きながら士道に向き直り、
足を進めてくる。ユニットとスーツを装着した
ままの状態で。
「知った顔が死ぬのは少しショックが大きかったの
かもしれねーですが、兄様、あの女を殺さなければ、
殺されていたのは兄様ですよ」
「………」
真那に言われて、言葉を失う。
「悪いこと言わねーですから、今日のことは悪い夢
でも見たと思って、早めに忘れやがってください。
あの女の死に心を痛めては駄目です。アレは死んで
当然、存在してはならねーモノなのです」
真那の言葉に、士道は思わず拳を握っていた。
「っ、ASTの言い分はわかる……! 今助けて
もらったのにも礼を言う! でも……でも、いくら
精霊だからってそんな言い方は……」
真那が怪訝そうに眉根を寄せる。
「……兄様、どこでそれを?」
「っ、……」
士道は微かに眉を動かした。そういえば、真那は
こちらが精霊やASTのことを知らないのだ。
だが真那は数秒のあと、何やら納得したように
腕組みした。
「……さては、鳶一
……兄様には甘々なんですから」
真那はやれやれと息を吐くと、再度視線を士道に目を
向けてきた。
「でもまあ、それなら話ははえーです。そこまで
知っていやがるのは存じねーですが、つまりは、
そういうことです」
真那が、何の感慨も無さそうに言ってくる。
士道はそんな真那の様子に、戦慄を覚えずには
いられなかった。
「な、なんで……おまえは、そこまで平然として
られるんだよ。おまえは、今、人……を、」
その言葉を発するのが躊躇われたのだろうか、
のどが痛んだ。だが、無理矢理発音する。
「人を──殺し……たんだぞ……ッ!」
「人ではねーです。精霊です」
「それでもだ……! なんで、そんなにあっさりと──」
「慣れていやがりますから」
「……っ」
そう言った真那の声があまりに冷たく。
士道は、息を詰まらせた。
「〈ナイトメア〉──時崎狂三は、精霊の中でも
特別です」
「特別……?」
真那が、「ええ」とつぶやく。
「
殺しても。あの女は、何事もなかったかのように、
必ずどこかに出現して、平然な顔して何度も人を殺し
やがるんです」
「……っ⁉︎ な、なんだよ、それ……」
言いながらも──その説明はすぐ腑に落ちた。
士道が昨日見た映像と、合致する。
「言葉通りですよ。それ以上の説明を求められても
困ります」
真那が細く息を吐きながら、軽くあごを上げる。
その表情は、えらく歳を取っているように、
くたびれて見えた。
「──だから。私は殺し続けているんです。
あの女を。〈ナイトメア〉を。時崎狂三を。
執拗に追いかけて、何度も、何度も、何度も」
疲れたように、真那が続ける。士道は顔を歪めた。
「違う……っ!」
「え?」
「それは──慣れているだなんて言わない。
すり減ってるだけだ。……心がッ!」
士道が言う、真那が小さく眉を揺らした。
「何を……言ってやがるんですか、兄様」
「もう、止めてくれ、真那……おまえは俺の妹だって
いうんだろ……? だったら……一つだけでいい。
俺の頼みを聞いてくれ……っ」
士道が祈るようにのどを絞った。
それは妄想でもなんでもない。心は負荷をかけられる
とすり減り──それがずっと続くと、ついにはもとに
戻らないくらいに摩滅してしまうのだ。
──母に捨てられた時の士道が、そうなりかけていたように。
──敵意と殺意を向けられ続けた十香がそうなりかけていたように。
「……無理ですよ、兄様」
しかし真那は、自嘲気味に言った。
「〈ナイトメア〉が生き返る限り、そして人を殺し
続けやがる限り、私はあの女の首を摘まなけねば
ならねーんです。でないと、あの女はもっともっと
人を殺します。──私にしか、できねーんです」
「………ッ」
──違う。……方法は、それだけではない。
が、士道がそれを口に出すより早く、真那が顔の
向きを右上の方に向けた。
「──ん、兄様。今日はここまでです」
「な……、まだ話は」
「増援が近づいています。兄様がここにいては面倒な
ことになりやがります」
真那が、士道にそう言って半ば無理矢理に方向転換
させて、背中を押そうとすると
「相変わらず、聞くに耐えないな……」
「この声は……ッ‼︎」
「ッ‼︎ 〈ムラクモ〉──双刃形態ソードスタイル‼︎」
真那は慌てたように大声で肩のユニットを可変させて
両の腕に装着させて盾の先端部から巨大な光の刃が姿
を現す。
「あめーです‼︎」
そして次の瞬間、巨大な光の刃でこちらに飛んでくる
『とある物体』を弾き飛ばした。
「無事ですか、兄様⁉︎」
「あ、ああ……真那も大丈夫なのか……?」
「はい。問題ねーです」
真那は士道に視線を向けて心配する声掛けると士道の
無事な姿を見て安心したのかホッとしたそんな表情を
浮かべていた。
「少しはやるようだね……」
「き、貴様は……ッ‼︎」
上空から冷たくそして静かな声が聞こえてきて真那は
上空を見上げてそして目を見開いた。
「あ、〈アテナ〉……ッ‼︎」
目の前にいるのは当時
まで称されて呼ばれていた討伐隊をたった一人で軽々
と倒してしまうほどの
と呼ばれた〈ナイトメア〉以上に最凶最悪の
現れたからだ。
「ま、まさか……〈アテナ〉がこのタイミングで
出てくるだなんて聞いてねーですよ‼︎」
真那は額に汗を流しながらも必死になって頭の中を
フル回転させて思考を巡らせる。如何にして窮地で
最悪であるこの状態を如何にして士道を守り切る
ことが出来るのかをとにかく考える。
(〈ナイトメア〉を相手するのも厄介でいやがるのに、
ここで〈アテナ〉を相手するだなんて、それはあまり
にも現実的なんかじゃねーですし、本当にふざけて
いやがりますよ……ッ‼︎)
「ま、真那……?」
今までにないほどの険しいそんな表情をした真那の
顔を見た士道はなんとか声を出して真那の名前を
呼んだ次の瞬間、
「〈
〈アテナ〉が自身の天使の名前を口にした瞬間、
〈アテナ〉の周囲に一本の白銀の槍が現れて、
「──っ」
顕現した一本が真那の方へと飛んでいき、容赦なく
真那の右肩を刺し貫く。
「真那……っ!」
士道が必死になって真那に呼びかけるが、真那は
あまりの痛みで声にならない悲鳴を上げて、地面に
膝を突いて刺し貫かれた右肩を押さえながらうずく
まっていた。
そんな真那の姿を見ていた〈アテナ〉は持っていた
〈
容赦などはなく突き付けていた。
「ぐ……ッ⁉︎」
「……ッ! やめろ! やめてくれ……ッ!」
士道が必死になって〈アテナ〉に言うが〈アテナ〉は
そんな士道の声に返事をしない。
「兄──様、危険です。離れやがってください」
「馬鹿、言ってやがる!」
真那はなんとか、士道を逃がそうと逃げるように、
必死に言うが士道は真那のそんな言葉を無視しながら
大声を出して逃げずにいた。
「少年。あれだけ精霊を救うと口にしておきながら、
随分と惨めな姿だね」
あれだけ無言だった〈アテナ〉は士道に冷たい声で
そう言ってくる。
「あの時に言ったよね? 『
なんてそんな
答えられなかった。中途半端で甘えたそんな考えで
精霊に関わった結果がこれだよ」
「そ、それは……」
士道は〈アテナ〉のその言葉に反論が出来なかった。
実際、〈アテナ〉の言う通り狂三は真那の手によって
士道の目の前で殺されたからだ。
「それに少年、君は
生き物なのか知らないから、そんなにも甘い言葉を
口にできるんだよ。……DEMの
「──ッ‼︎」
士道は〈アテナ〉のその言葉と声を聞いた瞬間、身体
の全身に寒気が走った。その時の〈アテナ〉は
を憎むようなそんな憎しみと殺意に満ちたそんな声
だったからだ。
「さて、本題だけど……今すぐにでも、この街から
出て行ってくれないかな?」
「ど、どうして、貴様の言う事を──」
「これは、”お願い”じゃなくて、”強制”だよ」
〈アテナ〉が真那にそう言うと真那は〈アテナ〉の
提案を拒否するが、〈アテナ〉はさらに低く冷たい
声で強調する。
「もし、断ったら、どうなりやがりますか……?」
「その時は地の果てまで追いかけて、お前のご自慢の
ガラクタの装備ごと串刺しにするだけだよ。ちなみに
なんだけど、返答はもちろん『はい』か『イエス』の
二つしか受け付けないからね?」
「やめろ……お願いだから、やめてくれ……」
「………」
士道は声を震わせながら〈アテナ〉に縋るように必死
になって懇願の言葉を口にする。
「数日の猶予をあげる。自分の気が変わらないうちに
一刻も早くこの街から出て行ってね」
〈アテナ〉は真那にそう言って、視線を真那から士道
の方へと向ける。
「ねえ少年、いい加減にその自惚れた絵空事の夢から
覚めた方がいいよ。君の語るその救いは、ある意味、
『傲慢』と『偽善』という名の一番タチの悪い一種の
病気だよ」
〈アテナ〉は士道にそう言って真那を見向きもせずに
「それに」と言って、
「いずれ、少年にもわかるよ」
”精霊”と”
〈アテナ〉はその言葉を最後にまるで消えるように
その場を去っていった。
「真那……っ!」
士道は急いで怪我している真那の名前呼んで近づこう
とした瞬間、真那は指をピンと立てると、士道の身体
がふわりと中に浮いた。
「な──これは……」
間違いない。これは、ASTが
真那はCR-ユニットとスーツを装着したままの怪我を
したそんな状態でなんとかしながらこの領域を展開
したのである。
「に、兄様……また、会いましょう。今度は、
もっと時間に余裕を持って」
「待──」
言葉の途中で士道の身体は路地の外まで飛ばされ──
優しく着地させられた。
「っ……」
AST隊員がいようと関係ない。士道はすぐ路地に
引き返そうとした。
だが、不可能だった。路地の入り口には見えない
壁が張られ、先に進めなくなっていたのだ。
きっと、真那の仕業だろう。
「……っ──」
士道はその場に膝を突くと、血が出んばかりに
地面に拳を叩きつけた。
「……あー」
士道を路地の外に移動させた真那は、くしゃくしゃ
と頭を掻きむしった。
いろいろと余計なことを話してしまった気がする。
これでは折紙のことを言えない。
だが……なぜだろうか、士道には聞いて欲しかった
のである。
「こんなの、ただのルーチンワークでしかねー
ですのに……」
刺し貫かれた右肩を押さえながらも、路地の奥で無残
に横たわった〈ナイトメア〉──時崎狂三の 遺体に
視線を落とす。
と……どこから現れたのか、小さな仔猫が後ろ足を
引きずりながら、狂三の亡骸に寄り添っていた。
不思議に思い、膝を折って左手で頭を撫でてやる。
仔猫はにゃあ、と鳴いた。
「ほら、こんなところにいると血で身体が汚れちまい
やがりますよ」
言って、ゆっくりと猫を抱き上げる。それから真那は
再度、狂三の亡骸を見た。
「……なんで、か」
士道の言っていた言葉を口に出す。
そういえば、なんで──真那は狂三を殺し続けている
のだったのだろうか。
狂三は人を殺しまくる〈アテナ〉の次に最悪の精霊と
呼ばれる精霊で、真那には
その素質があった。だから、真那は、その力をみんな
のために役に立てようと、した……はず……なの、
だけれ、ど。
「……つっ」
不意に頭に走った痛みに顔をしかめる。真那の記憶が
曖昧で、よく思い出せなかった。
軽く頭を振って、頭痛を追い払うようにする。と──
「ん……?」
真那は、地面に不思議なものを見つけた。ちょうど
士道が狂三に襲われていたあたりに、何やら小さな
機械のようなものが落ちていたのである。
それを拾い上げて、矯めつ眇めつ眺めてみる。
「これは、インカム……ですかね?」
そう、それは耳に装着するタイプの小型通信機の
ようだった。
「なんでこんなものが……」
真那は首をひねると、何とはなしにそれを右耳に
近づけてみた。すると。
『──士道! 返答しなさい、士道!
一旦〈フラクシナス〉で拾うわ! 移動して!』
「…………?」
どこかで聞いたような声が、真那の兄の名を呼んで
いるのが、聞こえてきた。
最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎
これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎
『他の投稿作品』もあるので、是非ともそちらも
楽しんで見ていただければ、ありがたいです‼︎
【報告】
今回はなんとか無事に『百戦錬磨のウマ娘』や
『転生したらスライムだった件 ■■の魔王』、
そして『新しい作品』などを近いうちに『投稿』と
『更新』をする予定なので、是非とも楽しみにして
もらえたら本当にありがたいです‼︎
『東方墨染残花』も『
是非とも見ていただければ本当にありがたいです‼︎