を無事に更新をすることができました‼︎
今回は『13133文字』まで頑張って書きましたが、
豆腐のようなクソナメクジメンタルの自分はきちんと
面白く書けているのかとても心配になります……(汗)
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそのメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただければありがたいです‼︎
士道は、フラフラと公園のベンチまで歩くと、
どすん、と力無く腰を落とした。
「………」
頭の中には、今さっき目の前で繰り広げられた光景が
ぐるぐると渦巻いていた。
狂三が、人を殺し、真那が狂三を殺して、そんな真那
に殺意を持って狙う〈アテナ〉。
頭の中ではわかっていたのだ。十香と折紙だって──
極論すればそんな関係だった。
〈アテナ〉の言う通りで、この二ヶ月間で十香が
この世界に慣れ、士道も緊張感が抜けていたことは
否めない。
ほんのわずかでもバランスが崩れていたのならば、
〈アテナ〉の言うようなそんな光景をもっと早くに
目にしていた可能性だってあるのに。
そして〈アテナ〉のあの時の言葉。
”
そんな彼女の冷たい言葉が残酷ながらも、これが現実
なのだと嫌でも理解してまう。
「なんなんだよ……そりゃあ……ッ」
しかし、士道は全てに、納得がいかない。
なぜ、
なぜ、
そして、
なぜ、〈アテナ〉はあれほどまでの
頭のどこかで甘えがあった。口先では危険とそう叫び
ながら、精霊はみんな十香や四糸乃のように本当は
いい奴に違いないだなんて、そんな都合のいい思考が
あった。結局ASTには精霊を殺せるはずなんてないと
いう驕りがあった……!
と。
「シドー!」
そこに、聞き慣れた呼び声がかけられて、士道は
ハッと顔を上げた。
十香が、士道の方に駆けてきているのが見える。
きっと士道が戻ってこないので捜しにきたのだろう。
加え、その後ろには折紙の姿もあった。途中で遭遇を
してしまったらしい。
「シドー、どこへ行っていたのだ!」
「──一体、これはどういうこと」
士道の面前まで到達した十香と折紙が、不機嫌そうに
言葉を投げてくる。
だが今の士道に、それに弁明をするだけの余裕は
なかった。
「……ごめん」
短い謝罪のその言葉だけをのどから絞り出し、
再び黙り込む。
「……シドー?」
「どうしたの」
さすがに不審に思ったのか、十香と折紙が心配そうに
顔を覗き込んできた。
「! シドー、怪我をしているではないか!」
と、十香が士道の手取ってくる。
あまりに衝撃的な出来事の連続で気づいていなかった
みたいで、確かに手の平に擦りむいたようなそんな
あとがあった。恐らく、足を取られて転んでしまった
時の傷だろう。
だが、十香に手を触れられた瞬間、頭の中に狂三の
血に濡れた貌が頭を過り──
「ひ……ッ」
息を詰まらせるような音をのどから発して、十香の手
を払いのけてしまった。
「え……あ、シドー……?」
十香が、呆然とした様子で自分の手と士道の手を交互
に見てから、視線を送る。
「す、すまん……痛かったか……?」
「……っ、悪……い」
士道は小さく頭を下げると、小刻みに震える自分の手
を、もう片方の手で握りしめた。
十香は士道を心配してくれたのに、それさえ拒絶して
しまった自分が泣きたくなるくらいに情けなくて。
「ごめん……本当に、ごめん」
「そ、そんなに気にすることでもあるまい。
一体どうしたというのだ……?」
「…………ごめん……ッ」
士道はそれだけ残して立ち上がると、その場から
駆け出してしまった。
「し、シドー⁉︎」
「どこへ──」
後方から十香と折紙の声が聞こえてくる。
だが、士道は足を止められなかった。
二人は、追ってこない。
そして──どれくらい走っただろうか。
ひとけのない道に差し掛かったところで、士道は
奇妙な浮遊感に包まれるのを感じた。
「……っ、これは──」
この感覚、覚えがある。これは、〈フラクシナス〉の
転送装置だ。
予想通り、一瞬のあと、士道の視界は人通りのない
公園の一角から、〈フラクシナス〉の内部に変貌して
いた。
「──無事で何よりよ」
と、士道の背に、そんな声がかけられる。士道は声が
する方へ振り向くと、そこには深紅の軍服を肩がけに
した琴里か、難しげな顔をしながら立っていた。
「……琴里」
「ようやく転送可能な位置に移動したわね。何度も
呼びかけたのだけれど?」
言われて士道は右耳に手をやり、目を見開いた。
「……インカム、ねえや」
そう、そこには、任務中はいつも付けているはずの
インカムがなかったのである。どうやら、どこかで
落としてしまったらしい。……今の今まで気づいて
いなかった。
「落としたの? いつ?」
「……悪い、よくわからん」
士道が答えると、琴里は小さくうなるようにのどを
鳴らしてあごに手を置いた。
「……そうなると、考えられるとしたら、狂三に
襲われたとき……? それとも、〈アテナ〉に遭遇
したときかしら……? じゃあさっきの声は──」
「どうかしたのか……?」
士道が訊ねると、琴里は深刻そうな表情をしながらも
小さく息を吐いて首を横に振った。
「何でもないわ。──それより、怪我の手当てを
しましょ。ついてらっしゃい」
「……っ、ああ……でも、十香と折紙は──」
「十香は一人になったら〈フラクシナス〉で拾って、
簡単に事情を説明しておくわ。鳶一折紙は──まあ、
放っておいても大丈夫でしょう。明日学校でフォロー
しておいて」
「そ、か……」
士道は力なく答えると、琴里のあとをついていった。
「……なあ」
道中、士道は琴里の背に声をかけた。
「何よ」
「俺の──俺たちのしていることは、本当に正しい
んだよな……?」
琴里は通路に靴音を響かせるのを止めると、士道の方
にキッと目を向けてきた。
「それって、どういう意味?」
「……俺は、精霊が……自分の意思とは関係なく
空間震を起こしてしまうそんな存在が、理不尽に
襲われるのが許せなくて、お前たちに協力をして
いるんだ」
「……ええ、そうね」
「でも……狂三は、人を──」
人を、殺していた。空間震ではなく、自分の手で。
自分の意思で。
〈アテナ〉の言う通り
そんな
そんな衝撃的な光景を目の当たりにした瞬間、
それが、どうしようもなく、恐ろしかった。
「何が言いたいのよ」
「俺には……無理だ……」
士道は──ついにその言葉を吐き出した。
「今まで上手くいってたのは、十香や四糸乃が偶然
いい奴だったからなんだよ……。結局、〈アテナ〉
の言う通り、俺には、何も──」
と、そこで士道は言葉を止めた。──正確には、
止めさせられた。
琴里が士道の襟首を引っ張り、見事な平手打ちで
士道の頬を叩いたからだ。
「え、あ……」
「……随分と根性がなくなかったものね……ッ」
士道が呆然としていると、琴里が顔をしかめながら
言った。あるいはそれは、今にも泣き出してしまい
そうな表情なのかもしれなかったが──今の士道には
判別がつかなかった
「俺は? 無理だ……? ふん、あの程度で泣き言を
言ってるんじゃあないわよ! まだ昔の方が度胸が
あったんじゃないの……ッ⁉︎」
「何の、話──」
琴里が言っていることがよくわからず、頬を押さえ
ながら訊き返す。
しかし琴里は答えず、士道の胸ぐらを掴むようにして
続けてきた。
「あなたは……っ、もっと恐ろしい精霊にだって立ち
向かってみせたじゃない! 救ってみせたじゃない!
無理だなんて軽々しく言わないで。あなたが諦めて
しまったら、狂三はもっとたくさんの人を殺すわ。
真那は狂三と──自分の心を殺し続けるわ。そして
〈アテナ〉は真那の命を狙って確実に殺すわ……!
あなたにしか──止められないのよ……ッ」
「……っ──」
言われて、士道はごくりと唾液を飲み込んだ。
琴里の言った『もっと恐ろしい精霊』というのが、
十香を指しているのか四糸乃を指しているのかは
わからなかったが──言葉の後半は、速やかに脳に
染み渡っていった。
そう。殺しても死なない狂三が人を殺し、そのたびに
真那が狂三を殺す。
その時、真那は言った。それは、ずっと前から狂三
とはそれを繰り返されていたことだと。
そしてそれはきっと……これからもずっと繰り返され
狙われ続けるのだろう。そして〈アテナ〉はそんな
真那を容赦なく狙い続けて躊躇いなく息の根を止めに
くるだろう。──狂三と〈アテナ〉のその二人に、
精霊の力がある限り。
そして、その精霊の力を封じることができるのは、
士道しかいないのだった。
「………」
士道は無言で、手を額に当てた。
もう
そして──〈アテナ〉に
それは本当だった。士道の真意だった。
そしてその意思を成すためには一体、どうしなければ
いけないのか──これも、わかりきったことだった。
「……そうだな」
言って、ふらふらする足取りで先に進んで行く。
「あ、ちょっと……!」
すると琴里が慌てた様子であとを追ってきた。
「……狂三にこれ以上人を殺させないためには、霊力
を封印しなきゃならないもんな。真那にこれ以上狂三
を殺させず、そして〈アテナ〉に真那を殺させない
ためには……俺がやるしかないもんな。わかったよ。
……それで満足だろ?」
「…………ええ」
なぜだろうか、琴里の声は少しだけ、不安そう
だった。
その日の夜。士道はリビングのソファで横になり、
ぐるぐると思案を巡らせていた。
「………」
天井に設えられた白熱灯の輝きをぼんやりと
眺めながら、細く、長く息を吐き出す。
きっと明日も、狂三は学校に登校してくるだろう。
そうしたならば、仕事の再開だ。
狂三の好感度を上げて、キスをして、力を封印する。
そうすれば、全てが解決する。
狂三が人を殺すことはなくなるし、そうなれば自然、
真那が狂三を殺すこともなくなる。
士道に許された、唯一のパーフェクトでハッピーな
そんなエンディングへと至る方法は、それしかない。
──の、だけど。
〈アテナ〉をどうにかしなければ〈アテナ〉が
真那を殺してしまうだろう……。
重りを乗せられているかのように、全身が重い。
士道は陰鬱な空気を肺から絞り出した。
と──そこで、廊下の向こうから、玄関が開く音が
聞こえてくる。
「ん……?」
士道は重い身体をどうにか起こすと、リビングの
入り口の方に目をやった。
インターホンを鳴らさずに入ってくるということは
……普通に考えれば琴里だろう。だが琴里は今日、
仕事や〈アテナ〉の対策会議のため艦に泊まると
言っていた。となれば──誰だろうか。
士道がそんなことを考えていると、リビングの扉が
開き、十香がおずおずと顔を出した。
「十香……?」
「……うむ。入っていいか?」
既に家に入ってきている時点で、訊ねるタイミング
を間違えている気がしないでもなかったのだが──
まあ細かいことは気にしないでおく。
「お、おう、もちろん」
十香は小さくうなずいてリビングに入ってくると、
士道の方に走り寄ってきた。
「シドー。……身体に触っても大丈夫か?」
士道のすぐ近くまで来た十香が、わざわざそんなこと
を訊いてくる。もしかしたら、あの時、公園で手を
振り払われたことを気にしているのかもしれない。
「あ……ああ、大丈夫だよ」
士道が答えると、十香はソファによじ登り、ソファと
士道の間に入り込んだ。
「何してんだ……?」
「いいから、少し黙っていろ」
十香はそう言うと、士道の身体に手を回し、背後から
ぎうー、と抱きしめてきた。
「と、十香? い、一体何を……」
背後に柔らかい感触を覚えて、士道は額に大粒の汗を
浮ばせながら言った。
「……ん。寂しいときや、怖いときは、こうするのが
いいとテレビで言っていた」
「……ちなみに、どんな番組で?」
「『おかあさまといっしょ』……だったかな」
比類無きまでに幼児番組だった。思わず苦笑が
漏れる。
だけれど、その言は正しいようだった。確かに、
少し、落ち着いた気がする。
そのまま、どのくらいそうしていただろうか。
不意に、十香が唇を開いた。
「……令音にな、話を聞いた」
「話……って」
「狂三と、真那と、〈アテナ〉の話だ。シドーの様子
がおかしい理由を訊いたら──話してくれた」
「……っ、そ、うか……」
士道はごくりと唾液を飲み下してからその言葉を
吐いた。
令音はあまり十香に精霊やASTに関連する話を
聞かせたがらなかったはずなのだが……きっと、
教えなければ十香の精神状態が乱れてしまうと
踏んだのだろう。
「シドー。私がこの家に厄介になっていたとき言った
ことを覚えているか……?」
「え……?」
「私と同じような精霊が現れたら……きっと救って
欲しい」
「ああ──」
士道は小さくうなずいた。その言葉は、よく覚えて
いる。
そう。士道は応と声に出して答えた。その気持ちに
嘘はなかったし、その決意は今も変わらない。
「でも、狂三と〈アテナ〉は」
「──変わらない。私と」
「え?」
十香が士道の背中に顔を押し付けてくる。
「……私には、シドーが側にいてくれた。シドーが、
私を必死になって救ってくれた。──でも、狂三と
〈アテナ〉には、誰にもいなかった。私よりもずっと
長い間、誰からも手を差し伸べられずにいたのだ」
痛いくらいに、十香が腕に力を入れる。
「もしシドーがいなくて、私がふた月前のあの状態の
まま、ずっとずっと殺意と敵意に晒され続けていたの
なら──私は、狂三や〈アテナ〉のようになっていた
かもしれない」
「そ、んなこと──」
言いかけて士道は言葉を止めた。
今から二ヶ月前。士道が初めて会ったときの十香は、
今からは考えられないくらいに荒んでいた。終わりの
見えない戦いに飽き、憔悴し、疲弊し、心が摩滅する
寸前だった。
その絶望を、当人でない士道が軽々しく断じる
ことは、許されない気がしたのである。
「本当に──もう救いようがないほど、狂三と
〈アテナ〉が悪い精霊だったなら、私が身を挺して
でもシドーを守る」
「え……?」
「だから……シドー。お願いだ。狂三と〈アテナ〉
のことを、もう一度だけ見てやってくれ。狂三と
〈アテナ〉に、もう、人を殺させないでくれ……」
「…………っ」
言われて。士道は、ごくりと唾液を飲み込んだ。
──ああ、ようやく、理解した。
そして──〈アテナ〉が
この最悪の状態を終わらせるためにも、狂三と
〈アテナ〉を止めるのだと、そう決意した。
だけれど、それには重要なピースが一つ欠けていた
のだった。
「……ありがとう、十香」
「む……ぬ? な、なぜだ? 私は礼を言われる
ような──」
「……いや、おまえのおかげだ」
そう。狂三と〈アテナ〉にキスして力を封印せねば
ならないのに、士道が考えていたのは狂三に殺される
人や、真那、そして〈アテナ〉の冷たい言葉ばかりで
あった。
あまりにもショッキングなシーンを目にしてしまった
ものだから、『狂三と〈アテナ〉の二人を救う』と
いう当たり前のことが、頭の中から抜け落ちていた。
確かに何人もの人間を殺した精霊である狂三と真那を
含めた
精霊〈アテナ〉だ。だが、どんな理由があっても二人
の行いは決して許されることではない。
でも。
十香の力を封印するとき。士道は、十香を救おうと
思っていた。
理不尽に殺意を向けられる少女をどうにかして
助けたいと願っていた。
四糸乃の力を封印するとき。士道は、四糸乃を
救おうと心から思っていた。
敵意を向けられてなお相手のことを慮る少女が
報われないのは嘘だと思った。
だから、士道は行動できた。
確かに士道は、人智を超えた回復能力と、精霊の力を
封印する力を持っている。
だが、平均程度の体格と筋力と頭しか持たないそんな
男子高校生が、血反吐を吐きながら目的に手を伸ばす
ことができたのは、その一心があったからなのだ。
狂三を、救う。
殺しの連鎖と輪廻に囚われた少女を、救い出す。
真那も、救う。
士道の妹だというあの少女にも、もう狂三は絶対に
殺させない。あれ以上、心を摩滅させたりはしない。
そして──〈アテナ〉も救う。
憎しみを抱き、
真那を殺させない。
妄想でもいい。空想でもいい。偽善でもいい。
それができると信じなければ、士道が手を伸ばすこと
など不可能だったのだ。
「──十香。もう、大丈夫だ」
「む……もう、寂しくないか?」
「ああ」
「もう、怖くないか?」
「……それは、ちょっとまあ、怖いけども」
士道は苦笑しながら頬をかいた。
「でも、大丈夫だ」
「ん……そうか」
十香はそう言うと、士道の身体に回していた
手を緩めた。
士道はその場にすくっと立ち上がると、軽く伸ばす。
同時に、くぅとお腹が鳴る。……そういえば、昼食を
全部路地に吐き出してから、何も食べていなかった
気がする。
「……何か、作るか。十香、食べていくだろ?」
「うむ!」
十香は、元気よく首肯した。
「令音」
琴里は〈フラクシナス〉艦橋で、艦長席から比較的
近い位置に座った。令音の名を呼んだ。
だが、返事がない。不審に思って令音の手元を覗き
込み──小首を傾げる。
令音の手元にあるディスプレイには、なぜか真那の
顔が、画面いっぱいに拡大されていた。そしてそれを
見つめながら、令音はいつにもなく難しげな顔をして
いたのである。
「令音? 真那がどうかしたの?」
「……!」
そこでようやく琴里の存在に気づいたのだろうか、
令音が隈に彩られた目を向けてきた。
「……琴里か。──ん。少しね」
言って、慣れた手つきでコンソールを操作する。
すると画面がズームアウトし、真那の顔が小さく
なっていった。
「……それより、シンの様子はどうだい?」
「ええ──ちょっと不安だったんだけど、十香と
話して吹っ切れたみたい」
「……そうか」
令音はは小さくうなずいてから、ふっと顔を上げた。
「……ああ、そうだ。頼まれていた解析が済んだよ」
令音の言葉に、琴里はぴくりと眉を動かした。
先日入手した真那の毛髪と唾液を渡し、令音にDNA
鑑定をしていたのである。
「で……どうだったの?」
「……ん、真那は、シンの実の妹にみて間違いない」
「──っ、そ、そう……」
琴里はこくんと唾液を飲み下し、胸の辺りに
手をやった。
予想していなかったわけではないのだが……やはり、
少し胸がざわつくのだった。
「本当の……妹、か。一体どうしてそんな
ASTに……」
「……いや」
琴里の言葉を遮るように、令音が声を上げてくる。
「……少し調べてみたが、正確には違う」
「どういうこと?」
「……彼女はもともと自衛隊員などではなく、
DEMインダストリーからの出向社員だ」
「──っ、
DEMインダストリー社。
精霊を狩ることにも非常に積極的に行動をしている
ため、琴里たち〈ラタトスク〉にとっては”
とも呼べる因縁の相手である。
無論、同社にはCR-ユニットを扱う
いるのだが──その練度は、各国の特殊部隊員たちを
上回るさえ言われている。
「ちょっと待ってよ。余計意味がわからなくなって
きたわ。士道の妹が、なんでDEMなんかで
やってるわけ?」
「……それはまだわからない。だが……」
令音が言葉を切ると、ギリと奥歯を強く噛み、怒りに
震えるように拳を握った。
琴里は訝しげに眉を顰めた。長い付き合いになるが
──こんな令音は初めて見る。
「一体何があったの?」
「……これを見てくれ」
言って令音がコンソールを操作すると、画面に真那の
写真と、細やかな数値が表示された。
「っ……これは──」
「……ああ、全身にかなり魔力処理が施されている。
彼女は異常な強さはこれのためだ。……だが、代償も
大きい。恐らく、あと一〇年ほどしか生きられないだろうね」
「──っ、何よ、それ──」
琴里は忌々しげにうめいた。
そもそも、DEM社製の
未だ
人間の脳でそれを補われなければならないのだ。
ゆえに脳波を増幅するため、外科手術で頭に小さな
部品を埋め込むことが必要されている。
折紙たちAST隊員も、髪に隠れて角のような突起が
頭から出ているはずだ。
だが──真那の
いたのだ。
それこそ……身体の数割が精霊になってしまっている
と言ってもいいような状態だ。
「……彼女がどんな決意でこれを受け入れたのかは
わからない。だが……まだシンには明かさない方が
……いいだろう」
令音が重々しい口調で言う。琴里は、ごくりと唾液を
飲み込み、唇を噛んだ。
次の日の朝、士道が教室に入ると、既に狂三が席に
着いているのが目に入った。
明らかな異常。一度体験していることとはいえ、
やはり違和感があった。──死んだはずの少女が、
何食わぬ顔をして登校してきている、なんてのは。
士道の姿を認めるなり穏やかな微笑を作り、狂三が
ぺこりと頭を下げてくる。
「あら、士道さん。ごきげんよう」
その姿は、昨日と何ら変わりなかった。
昨日この少女が裏路地で、両足を潰され腹を貫かれ、
首を切断されただなんて訴えたなら、間違いなく
士道の方が頭を心配されることになるだろう。
「……おう、おはよう」
だが、そこまでの驚きはない。予想していた事態だ。
士道は静かに挨拶を返した。
「昨日は楽しかったですわね。また是非とも誘って
くださいまし」
「そう……か。楽しかった、か」
「ええ、とても」
狂三が、再びにこりと微笑む。それは士道とのデート
のことを言っているのか、それとも路地裏でのことを
言っているのか。士道には判別がつかなかった。
狂三はそんな士道の思案に気づいているのかいない
のか、可愛らしい微笑を顔に貼り付けたまま言葉を
続けてきた。
「でも、少し驚きましたわ」
「……? 何にだ?」
士道が訊き返すと、狂三は微かに目を細めた。
「てっきり士道さんは、学校をお休みになると思って
おりましたので」
一瞬、言葉を途切れさせてしまう。だがすぐに
思い直し、唇を動かした。
「そいつは……悪かったな。学校に来ない方が
よかったか?」
「いえ、士道さんがちゃんと登校してきてくれて、
とても嬉しいですわ」
屈託のない笑顔でそう言う。
士道は動悸を抑えるように胸元を軽く叩いてから、
狂三の真ん前に足を進めた。
「──狂三」
「? なんですの?」
「俺は── おまえを、
「……? 救う?」
士道が言った瞬間。狂三の表情から温度が失われる
のがわかった。
「……おかしなことを仰いますのね、士道さん」
「もういいだろう、そういうのは。──もうおまえ
に、絶対人を殺させない。もう真那に、おまえを
殺させない。それが、俺が昨日出した結論だ 」
「勝手に価値観を押しつけないでいただけます?
わたくし、甘っちょろい理想論は嫌いですの」
狂三は〈アテナ〉と同様に拒絶の言葉を士道に
向かって口にする。
「そうかい。それは残念だ。── でも悪いが、
もう決めた。おまえは、俺が救う。何をしようと、
絶対に」
士道が言うと、狂三は眉をひそめた。
だが数瞬の間考え込むような仕草をしたあと、
唇を開いてくる。
「── なら、あなたが
「あ……?」
「今日の放課後、屋上に来てくださいまし」
狂三はそうとだけ言うと、士道から視線を外した。
来禅高校の屋上に立った狂三は、妖しく笑って
トン、トン、と軽快な足音を響かせた。
空は雲ひとつない快晴。真夏さながらの強烈な
日差しが狂三に注ぎ、いつもよりその影を黒々と
地面に映し出している。
時刻は九時一〇分というところだろう。もう一限目の
授業が始まっているためか、校舎から響いてくる喧騒
は幾分か収まっていた。その代わり、音楽室からは
まばらな音楽の音が、体育館からボールの弾むそんな
音が聞こえてくる。
狂三は、踊るようにステップを踏んでいた。地面に円
を描くように、くるくると。
「もう少し、士道さんとの学校生活を楽しんでも
よかったのですけれど── 」
もし、上空からその光景を見たものがいたなら、
その異常に気がついたらかもしれない。
狂三が通った場所が、薄暗くなっているのである。
そう──まるで、狂三の軌跡から、影が消えない
ように。
「そろそろ、潮時ですわね」
そして、カッ、と踵を地面に突き立てる。
すると屋上の中央に薄暗い線で描かれた円が、
じわじわと面積を広げていった。
屋上全域を覆い尽くし、校舎の外壁を伝い、校庭を
一瞬に侵食し、やがて学校を中心としたその一区画
覆わんばかりに。
「──きひひ、ひひひひひひひひひ」
唇を歪んだ三日月の形にし、笑みを漏らす。
「ああ、ああ、士道さん、士道さん。愛しい愛しい
士道さん。あなたはこれでも私を救うだなんて言葉を
仰いまして?」
「ん……?」
一限目・世界史の授業中、士道はふっと窓の外に
目をやった。
なんとなく、辺りが暗くなったため、空に雲が
かかったのかと思ったのだ。
「……まさか」
ふと、狂三の方を見やる。つい一〇分ほど前に不穏な
ことを言っていたので、もしやと思ったのだ。
だが、狂三におかしな動きは見られなかった。
真面目に授業を受けている。
「気にしすぎか……」
小さく息を吐き、姿勢を直す。
何にせよ、正面場は放課後である。士道は気合いを
入れるように大きく深呼吸した。
錆びついたノブが回し、ドアを押し開ける。
老朽化したドアはパラパラと剥がれた塗装の砕片を
その場に落としながら、耳障りな悲鳴を上げた。
「……ち」
琴里は眉をひそめながらも小さく舌打ちをし、
その建物の屋上に出た。
今琴里が訪れていたのは、天宮市の南端に位置する
廃ビルの一つだった。
別に廃墟探索の趣味があるわけではない。
こんな辺鄙な場所に来たのは理由があった。
と、
「──お待ちしてました、
先に屋上で待ち構えていた少女──真那が、琴里に
声をかけてきた。
〈アテナ〉に深々と突き刺されて串刺しにされた真那
の右肩に負った傷は
治っていた。
今日の朝琴里が家に戻ってみると、琴里の部屋の
窓に、時刻と場所、そして真那の名前が書かれた
紙が貼ってあったのである。
琴里は不機嫌そうな心地を隠すまでもなく、フンと
鼻を鳴らした。
「……まったく、何なのよここは。私を呼び出そう
っていうんなら、美味しいお茶とケーキくらい用意を
してからになさい」
「これは失敬。──ですが、お互いに人の目と耳は
ねえー方がいいと思いやがりまして」
「……ふん。それで、一体何の用だっていうの?」
「少し、お話したいと思いまして」
と、真那がポケットから何かを取り出し、琴里に
向かって放り投げてきた。
緩やかな放物線を描いて迫ってきたそれを、両手で
キャッチする。
「これは……」
琴里は眉をひそめた。真那が琴里に放ったそれは、
〈ラタトスク〉が使用をしている超高感度の小型
インカムだったのである。──そう。昨日、士道が
なくしたものだ。
「──〈ラタトスク機関〉」
「……っ」
琴里は、真那の口から出た言葉にぴくりと片眉を
動かした。
「噂には聞いていました。精霊を武力で殲滅する
のではなく、対話によって懐柔することを目的と
した組織。──初めて聞いたときは都市伝説かと
思っていやがったのですが……」
真那が、キッと琴里を睨み付けてくる。
「──まさか、あなたと兄様が」
琴里はインカムをポケットの中にしまい込むと、
チュッパチャップスの棒をぴこぴこ動かした。
「……なるほど、昨日のあの通信はあなたの仕業
だったわけね」
そう、士道がインカムを紛失したと判断する前に
一度、〈フラクシナス〉は妙な通信を受け取っていた
のである。確かに士道ではあったものの、琴里の名前
や現在の状況などを幾つか確認すると、急に回線が
閉じ、それきり何も聞こえなくなったのだ。
琴里は真那に聞こえないくらいの大きさで舌打ち
をした。油断。たぶんそのときの返答で、真那は
〈ラタトスク〉という組織の実在を確信したのだ。
真那が、小さく肩をすくめる。
「
ですから」
「……そ」
琴里は髪をかき上げると、不敵に目を細めた。
「何が目的? わざわざ私を呼び出したってことは、
何か狙いがあるんでしょう?」
「──私は、〈アテナ〉以外のこの件を上に報告する
つもりはねーです」
「……ふうん?」
「そのかわり。兄様を今すぐに、〈ラタトスク〉から
解放しやがってください」
真那のその言葉に、琴里は眉をひそめた。
「どういうこと?」
「どういうことも何もねーです。──琴里さん、
なぜあなたは、兄様にあんな危険な真似をさせて
いやがるのですか。
を一つも持たせずに精霊と相対させやがるだなんて、
とても正気の沙汰とは思えねーです」
「これから口説き落とそうって相手に銃を突きつけ
ながら喋れっていうの? それじゃあ強姦魔のような
やつらと何も変わらないじゃない。もしかしてあなた
琴里が言うと、真那はさらに目つきを鋭くし、
語気を強めた。
「ふざけねーでください。あなたは兄様を何だと
思っていやがるのですか。あのときあの場に私が
いなかったら、今頃兄様は〈ナイトメア〉かそれか
〈アテナ〉に殺されていやがりましたよ」
「…………」
さすがに、これ以上情報をしてやる義理はない。
琴里は口をつぐんだ。
だが真那は琴里の態度をどう受け取ったのか、
奥歯を噛み締め、あとを続けてきた。
「琴里さん。──いえ、五河琴里。とても残念です。
あなたは兄様の妹失格です。あなたのような人に、
兄様を任せられねーです」
「……っ」
琴里は頬をぴくりと動かすと、チュッパチャップスの
棒をピンと立てた。
「へえ、それで、私が妹失格だったらどうするって
いうの?」
「私が兄様の身柄を引き受けることも考えなければ
なりません」
真那の言葉に、琴里は顔を歪めた。
「冗談じゃないわ。DEMみたいな悪徳企業に士道を
預けろっていうの?」
言いながら琴里が肩すくめると、真那が驚愕した
ように腕を解き、肩を揺らした。
「……っ、なぜそれを」
「優秀な友人がいてね。情報を握っているのは
お互い様ってこと」
琴里が不敵に言うと、真那はふうと息を吐いた。
「──まあ、割れているのなら隠す必要ねーですね。
そう、私はもともと自衛官だったわけではねーです。
DEMインダストリー社から出向してくるに当たって、
必要だったから適当な階級を得たに過ぎねーです」
しかしそう言うと、またすぐに視線を研ぎ澄ます。
「しかし、DEMが悪徳企業というその言葉は聞き
捨てならねーですね。あそこは記憶喪失である私を
受け入れてくれて、さらには存在理由を与えてくれ
やがりました。感謝してもしきれねーです」
「……本気? 狂ってるとしか言いようがないわ」
「失礼な。何を言っていやがるのですか」
琴里は真那の口ぶりに、違和感を覚えた。
もしかして彼女は──
「あなた、もしかして、知らないの……?
自分の身体のことを」
「身体……? 何の話ですか」
キョトンとした様子で、真那か首を傾げてくる。
琴里は戦慄に唾液を飲み込んだ。
「……っ、なんてこと」
まったく予想していなかったわけではないが……
まさか令音の懸念通りとなるとは。琴里は渋面を作り
真那の方にツカツカと歩いていくと、その肩を力強く
掴んだ。
「な、何をしやがるのですか」
「……悪いことは言わないわ。あなたこそDEMを
抜けなさい。その後は〈ラタトスク〉が面倒を
見たっていいわ。だから──」
「はぁ……? いきなり何を……」
と、真那が眉をひそめて言いかけた瞬間、琴里と真那
の携帯電話がほとんど同時に着信音を鳴らし始めた。
苛立たしげに顔をしかめてから、通話ボタンを押す。
「──私よ。何?」
『し、司令!
「なんですって……?」
琴里はちらと真那の方へと見やった。どうやら──
表情からして、彼女もまた、琴里と似たような報告を
受けているようだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎
これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎
『他の投稿作品』もあるので、是非ともそちらも
楽しんで見ていただければありがたいです‼︎
【報告】
『東方墨染残花』や『五等分の花嫁 繋がり合う絆』
『転生したらスライムだった件 ■■の魔王』などを
近いうちに『更新』する予定なので、是非とも楽しみ
にしてもらえたらありがたいです‼︎