デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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みなさん新年明けましておめでとうございます‼︎


今回は一月に入ってからなんとかすぐに『最新話』
を無事に投稿をすることができました‼︎


今回は『13794文字』までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタル
の自分はきちんと面白く書けているのかとても心配
になります……(汗)


【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎


面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。


最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎


妹の(シスター・) 注文(オーダー)

「ここまで来れば、大丈夫かな。よっと」

 

 

〈アテナ〉はそう言って、狂三を下ろして周囲を警戒

をしながら、視線を来禅(らいぜん)高校の方向に向けて抱いて

いた狂三を下ろした。

 

 

「どうして、わたくしを助けたのですの?」

 

 

狂三は警戒しながらも、〈アテナ〉に質問する。

 

 

「あのまま、君を見殺しにするのは後味が悪いと

思った、それだけだよ」

 

 

「そんな理由で……いえ、それを言うのは野暮という

ものでしょう」

 

 

狂三が口元に手を当てながら考え込むように

そう言っていた。

 

 

「それで、『白銀(はくぎん)戦乙女(いくさおとめ)』と世界各国の魔術師(ウィザード)たち

からそう呼ばれてるそんな精霊のあなたがわたくしに

一体何の用でして? ただの善意などで助けた訳では

ありませんわよね?」

 

 

狂三はそう言いながらも、〈アテナ〉を警戒しながら

視線を逸らさず〈アテナ〉に銃口を向けて質問する。

 

 

「〈ナイトメア〉、時崎狂三。君と同盟を結びたい」

 

 

「同盟……わたくしとですの?」

 

 

「うん。君と少年たちの目的は違うでしょ?

それに少年たちなんかよりも信用はできる」

 

 

確かに、狂三と士道の目的は違うので決して

相容れることはない。

 

 

「その同盟をわたくしが断ったなら、いかがする

おつもりですの?」

 

 

「別に、断るならそれでも構わないよ。この同盟の話

を断ったからって、殺したりしないから安心して」

 

 

「………」

 

 

〈アテナ〉がそう言うと狂三は無言で、向けていた

銃口を下げる。

 

 

それに『白銀(はくぎん)戦乙女(いくさおとめ)』と 世界各国(せかいかっこく)魔術師(ウィザード)たちから

討伐(とうばつ)するのは不可能(ふかのう)だとさえ言われて恐れられている

SSランクの精霊だ。

 

 

自分の天使の能力を大勢の前で堂々と喋ってしまった

そんな状態で、彼女と敵対するのは得策ではない。

 

 

「……まあ、いいですわ。わたくしとしても、あなた

が協力していただけるのでしたら、その条件を素直に

呑むとしましょう」

 

 

ここで〈アテナ〉と争っても意味などはないし、

メリットもこれっぽっちもないのだから。

 

 

「交渉成立だね。これからよろしく、狂三」

 

 

「ええ、こちらこそ」

 

 

狂三はそう言いながら〈アテナ〉と薄っぺらい握手を

交わす。

 

 

ならば、己の目的のために彼女を最大限に利用させて

もらうとしよう。

 

 

「狂三。最後に確認したいことがあるんだけど」

 

 

「あら、一体、何を確認……ですの。うふふ、内容に

よりますわねえ」

 

 

狂三はおどけるように言う。〈アテナ〉はそんな狂三

に気にもせずに話を続ける。

 

 

「君の天使に───────はあるのかな?」

 

 

〈アテナ〉のその言葉に、狂三は眉根を寄せた。

 

 

刻々帝(ザフキエル)〉の能力を知られてしまった今の状態である

のならば、そんな可能性にたどり着いていても不思議

ではないと思った。

 

 

「……もしあるとしたら、どうだといいますの?」

 

 

狂三は怪訝そうな顔を作りながら問い返した。

 

 

「簡単なことだよ。それを”とある人物”に使わないで

ほしいだけ」

 

 

「……どういうことでしょう? あなたが言っている

その人物とは一体……?」

 

 

「その人物の名は───」

 

 

狂三はその意味がまったく理解できないようだった。

だが〈アテナ〉はそんな狂三の事情など気にもせずに

その人物の名前を口にする。

 

 

「あらあら、あなたがその人物の名前を口にするとは

思いませんでしたわ」

 

 

「それで、どうなの? 良いの? ダメなの?」

 

 

狂三はそう言いながらも聞いてくる〈アテナ〉に

内心を悟られぬように笑顔で言葉を続けた。

 

 

「あなたに言われなくても、わたくしが誰かのために

()()を使うつもりはありませんわ」

 

 

「なるほど……君がそこまで言うのであれば、

こっちとしても何も言うことはないよ」

 

 

狂三が〈アテナ〉にそう言うと、狂三のその言葉に

納得したのか、〈アテナ〉がそれ以上、狂三に何か

を言うことはなかった。

 

 

「それでは、わたくしはこれで失礼しますわ。

またお会いしましょう」

 

 

狂三はそう言いながら、スカートの裾を上げて再開

の言葉を仄めかしながらも、そのまま暗闇の中へと

去って行った。

 

 

「さて、自分も動くとするかな」

 

 

〈アテナ〉はそう言って、消えるようにその場を

去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃える。燃える。家が燃える。

 

 

燃える。燃える。町々が燃える。

 

 

燃える。燃える。世界が燃える。

 

 

士道の視界の中で焔が躍り狂う。

 

 

ぱちぱちと。めらめらと。ごうごうと。

 

 

それでも、士道は足を止めなかった。

 

 

(琴里……っ! 琴里!)

 

 

妹の名前を呼びながら、ただひたすらに、地獄の底と

化した街を走っていく。

 

 

そうしていながらも、士道はまだこの状況を理解

しきれていなかったのかもしれない。

 

 

だが、それも仕方のないことだった。何しろ家に

戻ろうとしたら、見慣れた街が丸ごと炎に包まれて

いたのだから。

 

 

今日は、琴里の九歳の誕生日だった。そのプレゼント

を買いに、士道は駅前まで出掛けていたのである。

そのおかげで火災を免れたのだから琴里に感謝せざる

を得ないが───肝心の琴里がまだ、家に残っている

はずだったのだ。

 

 

忙しい両親は娘の誕生日だというのに、いつもの

ごとく仕事で家を空けている。今、家には琴里が

一人きりなのだ。

 

 

泣き虫な琴里のことである。きっと、逃げることも

できず一人泣いているだろう。

 

 

その姿が頭を掠めた瞬間、士道は駆け出していた。

 

 

琴里。士道の可愛い妹。()()()()()()士道の家族に

なってくれた、優しい女の子。

 

 

昔。実の母に捨てられ、絶望に沈んでいた頃、士道は

父母に、琴里に救われた。

 

 

だから、今度は士道が救わなければならないのだ。

琴里のためならば、士道は自らの命を投げ出すこと

さえ厭わなかった。

 

 

(琴里──ッ‼︎)

 

 

幾度も幾度ものどを震わせながら、家の方に向かって

走っていく。

 

 

だが、そこで士道は足を止めた。目の前の街並みが、

ところどころに燻ったその炎の残滓を残し、綺麗に

舐め取られたかのように消え失せていたからである。

 

 

 

そして、その直中に。一人の小さな女の子が、力無く

へたり込んで泣きじゃくっていた。

 

 

(あれは──)

 

 

奇妙な出で立ちをした少女だった。袖や裾の広がった

和装に、頭部の角。それに括られていた()()()()()

身体の周囲には、ゆらゆらと焔が揺らめいている。

 

 

だけれど士道には、その女の子が可愛い妹であると

すぐにわかった。

 

 

琴里が、泣いている。──士道の身体が動くのに、

それ以外の理由など必要なかった。

 

 

(琴里!)

 

 

手にしていた鞄をその場に放り、名を呼びながら、

琴里の方へ走っていく。

 

 

(ぅ、ぁ、ぁ、お、おにぃちゃん……っ、

おにーちゃん、おにーちゃん……ッ!)

 

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔を両手で拭いながら、

琴里が琴里が士道のことを呼んでくる。

 

 

が──士道が琴里の近くに寄ろうとしたその瞬間、

琴里の身体にまとわりついていた焔が急に大きく

膨れ上がった。

 

 

琴里が、ハッとした様子で目を見開いて、

肩を震わせる。

 

 

(おにーぢゃん! 来ぢゃだめぇぇぇぇぇっ‼︎)

 

 

涙に濡れた声で、のどを潰さんばかりの大声を

上げてくる。

 

 

(──え?)

 

 

士道は呆然と声を発した。

 

 

 

だがこれも仕方のないことだろう。何しろ気付いた

ときには士道の身体は、体積を増した琴里焔の奔流

を受け、軽々と吹き飛んでいたのだから。

 

 

(ぁ────)

 

 

どさ、と背中から地面に落ちる。背中に強烈な激痛が

走り、全身の肌が火傷を負ったように悲鳴を上げる。

だが、士道はその痛みに身を捩ることも、叫び上げる

こともできなかった。ただぼんやりとした視界と意識

の中、空を見上げながら短い声をこぼす。

 

 

まだ意識がない方がよかったのかもしれない。

指を動かすことさえ叶わず、痛みに苛まれながらも、

遠くなる意識を冷静に認識しているそんな自分が、

どこか空恐ろしかった。

 

 

(おにーちゃん……っ!)

 

 

 

すぐに這うようにしていて琴里が駆け寄ってくる。

 

 

数瞬前に意識がない方がよかったという考えが頭を

掠めたばかりなのだというのに、脳は容易く意趣を

返した。今の士道にとって、琴里の顔を見取ること

ができるのは、何も代え難い報奨だったのである。

 

 

琴里の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。それは士道の

焼け爛れた肌に触れると、さらなる激痛となって襲い

かかってきた。だが、どうにかうめきを上げぬように

奥歯を噛む。ただでさえ泣き虫である琴里をこれ以上

泣かせてしまったら、士道はお兄ちゃん失格である。

 

 

霞む視界。滲む琴里の顔。薄れゆく空の色。

すべてが、どんどん実像を失っていく。

 

 

だが……そのとき。

 

 

 

【──ねえ、彼を助けたい?】

 

 

 

そんな声が、士道と琴里の上から響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「──つっ……」

 

 

士道は頭に蟠っていた微睡みを切り裂いたのは、

鈍い痛みだった。額を押さえ、小さな声を発する。

 

 

触れた限り、外傷はない。切り傷などはもとより、

こぶのようなものも確認ができなかった。どちらかと

いうと頭の奥底からじんわりと鈍痛が湧いてくるかの

ような感覚である。

 

 

しばしの間うなりを上げてから目を開くと、視界に

大小さまざまな配管ののたくった天井が広がっている

ことがわかった。

 

 

そこでようやく、自分のベッドに横になっている

ことに気付く。

 

 

「ここは……」

 

 

士道は数度目をしばたたかせて、辺りなどの様子を

見やった。ベッドが等間隔に並べており、それぞれの

周囲に、間仕切り用のカーテンが纏められている。

 

 

覚えがある空間。士道は前にも一度、今と同じように

ここに寝ていたことがあった。

 

 

そう。〈ラタトスク〉の所有をしている空中艦

〈フラクシナス〉の医務室である。

 

 

士道はぼうっとするそんな頭を覚醒させるように、

軽く側頭部を叩きながら身を起こした。

 

 

「あいたた……」

 

 

頭だけではなく、身体の節々痛んだ。小さく顔を

しかめた。

 

 

ついでに、なぜだろうか、唇を微かな違和感が

ある気がした。気を失う前に何かが触れでもした

のだろう。

 

 

だが、すぐにそんなものは気にならなくなった。

理由は単純。士道のベッドにもたれ掛かるように

して、見知った顔の少女が眠っていたからだ。

 

 

美しい夜色の髪に、陶器のように滑らかな肌。

顔の造作は、これまた作り物のように端正で、

その寝姿はまるで童話のワンシーンを思わせた。

……まあ、口の端からひとすじに垂れた涎が、

それを台無しにしてはいるのだが。

 

 

「十香……?」

 

 

士道が名を呼ぶも、少女──夜刀神十香(やとがみとおか)は反応を

返して来なかった。ただ規則的に肩を上下させ、

静かに寝息を立てるのみだ。

 

 

「なんで十香がこんなところに……いや、それより

なんで俺は──」

 

 

と、士道の呟きは途中で止められた。

 

 

不意に医務室の入り口が開き、二人分の足音が

入ってきたのである。

 

 

「……ん? ああ、目覚めたかい、シン」

 

 

栗鼠色の軍服を纏った二〇歳くらいの女が、

士道の姿を見るなりそう言ってくる。

 

 

厚い隈に飾られた双眸と、長年のインドア生活を

示すような生白い肌が特徴的な〈ラタトスク〉の

解析官、村雨令音(むらさめれいね)である。

 

 

「令音さん? それに──」

 

 

士道は令音に返しながら、ふと視線をその後ろに

目をやった。ようやくティーンエンジャーに指を

引っかけたくらいの少女が、令音の陰に隠れる

ように立っている。

 

 

およそ自然に生まれ得ないであろうブルーの髪と、

綺麗な蒼玉の瞳を、つばの広い麦わら帽子を隠した

女の子である。左手にはコミカルな意匠が施された

ウサギのパペットなんぞを着けており、そして時折

その小さな手をわきわきと動かしていた。

 

 

『おー、士道くん。なぁーによ、元気そうじゃない。

心配して損しちゃったわぁよー』

 

 

「無事で……よかった、です」

 

 

パペットが大仰な仕草で言ったのち、少女が蚊の鳴く

ような声を発してくる。

 

 

「四糸乃まで。一体どうしたんだ……?」

 

 

『むー』

 

 

「……あ、ああ、悪い。よしのんもいたな」

 

 

士道は不服そうなパペットに苦笑しながら返して

から、視線を令音の方に戻した。

 

 

「それで、令音さん。なんで俺、

こんなところに……?」

 

 

「……ん。昨日、時崎狂三との交戦と〈アテナ〉の

出現のあと、気絶した君をここに搬入してね」

 

 

「……っ!」

 

 

 

時崎狂三。士道の学校に突如として転校してきた

少女であり──()()

 

 

そして、世界各国(せかいかっこく) から『白銀(はくぎん)戦乙女(いくさおとめ)』と呼ばれた最凶最悪(さいきょうさいあく)で討伐することすら不可能だと言われてる

白銀の鎧の霊装を纏った白銀の少女──白銀の精霊、

〈アテナ〉。

 

 

その二人の名前が令音の口から発された次の瞬間、

士道の頭に薄らぎかけていた鈍痛が戻ってきた。

 

 

昨日の光景が、頭の中に鮮明に思い出される。

 

 

「そ、うだ……! あ、あれからどうなった

んですか⁉︎ 十香は眠っているだけなんですよね?

何ともないんですよね? それに琴里は⁉︎ あいつ、

急に現れて……っていうか、あの姿は一体……!

あと折紙は⁉︎ あいつもかなり手酷くやられてた

はずなんです!」

 

 

「……落ち着きたまえ、シン」

 

 

「っ──そうだ、真那は一体どうなったんですか⁉︎

途中から見えなかったんです! 無事なんですよね⁉︎

学校のみんなも──」

 

 

と、士道はそこで言葉を止めた。正確に言うのなら、

止められた。

 

 

令音が狼狽える士道の頭を抱えるように、ぎゅっと

抱きしめてきたからだ。

 

 

「んー! んー⁉︎」

 

 

「……よしよし」

 

 

言いながら、令音が頭を優しく撫でてくる。

だが士道はどちらかというと、顔を押し付けられた

温かくて柔らかい胸元の感触に気が行ってしまった。

 

 

令音の腕をタップして降参を示す。すると令音は

数秒後、ようやく身を離した。

 

 

「……落ち着いたかい?」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

大きく息を吐いてから問いかけるように視線を

上げると、令音がそれに応じるように首肯してくる。

後ろでは四糸乃が手で赤い顔を覆い、でも指の隙間

からしっかり見ていた。

 

 

「……安心したまえ。皆無事だ。私の知る限り死者は

出ていない。近隣の病院はかなりパンク状態だがね。

鳶一折紙(とびいちおりがみ)崇宮真那(たかみやまな)はあとから現れたAST隊員に回収されていった。多分自衛隊天宮病院に搬送をされた

だろう。あそこには医療用の顕現装置(リアライザ)が配備されて

いるからね。─── 狂三は〈アテナ〉によって連れて

行かれたよ。十香は見ての通りさ。自分も傷を負って

いるというのに、君の看病をするんだと何度も言って

聞かなくてね。疲れて眠ってしまっただけだろう」

 

 

「……っ」

 

 

令音の言葉を聞いて、士道は奥歯を噛みしめ拳を

握りしめた。

 

 

──結局、士道は何も解決できなかった。

 

 

狂三を救ってみせると、真那を救って見せると、

そして〈アテナ〉を救ってみせると言いながら、

何もできはしなかった。

 

 

狂三に、真那に重症を負わせ、折紙と十香、学校の

皆さえ巻き込んだ挙げ句、狂三の力を封印することは

出来ず、〈アテナ〉の力も封印するどころか、言葉を

返すことすらも叶わなかった。

 

 

 

「く──そ……っ」

 

 

悔しげに毒づき、ベッドを殴る。

 

 

「……君はよくやった。あまり思い詰めて自分を

責めないことだ」

 

 

「で、でも……!」

 

 

「……狂三があんな力を隠して、さらには〈アテナ〉

が現れるとは、誰も予想できなかったろう。むしろ

あの一件で死者が誰も出なかったことを喜びたまえ。

まだ狂三と〈アテナ〉を救いたいと思っているなら、

その手は彼女たちの頬を叩いて叱りつけるために

とっておきたまえ」

 

 

「……はい……」

 

 

士道は押し殺すようにしてそう言い──ハッと目を

見開いた。

 

 

令音の言葉の中には、一人、重要な人物が欠けていた

のである。

 

 

「令音さん……! 琴里は。琴里は今、どこにいる

んですか?」

 

 

上体を起こしながら問うと、令音は想像通りの質問

を受けたといった様子でうなずいた。

 

 

「……案内しよう。立てるかい?」

 

 

「は、はい」

 

 

士道は布団を足元に畳むと、ベッドの脇に揃えて

あった靴を履いて立ち上がった。が──長い間横に

なっていたからだろうか、軽い立ちくらみを感じ、

姿勢を崩してしまう。

 

 

「……!」

 

 

と、そこで令音の脇から四糸乃が駆け寄り、士道の

身体を支えてくれた。

 

 

「お、おう、悪い。ありがとうな、四糸乃」

 

 

「い、いえ……」

 

 

苦笑しながら士道がそう言うと、四糸乃がどこか

恥ずかしそうに顔をうつむけた。左手の『よしのん』

が、『ひゅー』だなんてわざとらしいそんな口笛(?)

を拭く。

 

 

「……大丈夫かい? もう少し休んだ方が──」

 

 

「や、大丈夫です。それより、琴里のところに」

 

 

令音は士道の様子を見るように目を細めたが、

すぐに小さな息を吐き、首肯した。

 

 

「……ついてきたまえ」

 

 

言って、ゆらりと踵を返す。士道は十香をちゃんと

ベッドに寝かせてから、その背を追うように足を

踏み出した。

 

 

と、四糸乃が士道の腰元を支えたまま、一緒に歩く

ようにしてくる。

 

 

「四糸乃? もう大丈夫だぞ?」

 

 

「……っ、あ、はい……でも、その、あぶない、

ですから」

 

 

四糸乃の目にはそんなにも士道が弱々しく見えたの

だろうか。

 

 

しかしわざわざ厚意を振り払う理由もない。

士道は苦笑をしながら「……じゃあ、お願いするよ」

と言ってともに歩みを進めていった。なぜかウサギの

パペットが器用にニヤニヤとしていたが、まあそんな

のはいつものことなのでさして気に止めなかった。

 

 

四糸乃に伴われながら、〈フラクシナス〉の狭い通路

に足音を響かせていく。

 

 

そんな道中で、士道は不意に眉根を寄せた。てっきり

いつものように艦橋に向かうものだとそう思っていた

のだが、令音が途中で進路を変えたのである。

 

 

 

そのまま歩みを進め、数分後。

 

 

 

「……ここだ」

 

 

足を止めた令音の前の扉を見て、士道は思わず

息を呑んだ。

 

 

士道は別段、〈フラクシナス〉の内部構造について

詳しいわけではない。幾度か足を踏み入れたことは

あるが、丁寧に案内をされたわけでもないし、行く

ところといえば転送装置のある機体下部と艦橋、

医務室あとはトイレや食堂、レストルームである。

 

 

正直、今自分が艦のどの位置にいて、この部屋が

どういった役割を持っているのかなんてことも

正確にはわからない。

 

 

しかしそれでも、その銀行の大金庫などを思わせる

如何にも頑強そうな扉が、どのような意図をもって

設えられているのかは容易に推し量れた。

 

 

「ここって……」

 

 

問うように視線を送るも、令音は答えず、扉の横に

備えられた電子パネルの前に立つと、番号を入力

してから手の平をかざした。

 

 

「……解析官・村雨令音」

 

 

そして名を言うと、パネルが小さな音が鳴らし、

その大きな扉が左右に分かれて開いていった。

 

 

「……さ、来たまえ」

 

 

令音が部屋の中に入っていく。士道はごくりと

のどを鳴らしてからその背を迫った。

 

 

そしてすぐに、士道は眉をひそめた。なんとも

奇妙な部屋である。部屋の手前の奥がガラス製の壁

で仕切られており、それを境として内装がまったく

異なっている。

 

 

士道たちのいる手前側が、様々な機械が所狭しと

並べられた薄暗い実験室のような風情なのに対し、

奥は普通に人間が生活を行うマンションの一室の

ように調えられていた。

 

 

まるで、猛獣を閉じこめ監視しておくための檻の

ような空間だった。

 

 

そしてその部屋の奥。ガラスを隔てたそんな場所に、

琴里の姿はあった。瀟洒な椅子に腰を掛け、優雅に

紅茶なんぞを飲んでいる。

 

 

もう霊装は纏っておらず、いつもの私服姿である。

見慣れた妹の姿に、士道は思わずそんな放念の息を

吐いた。

 

 

「琴里!」

 

 

名を呼んでみる。が、琴里は答えなかった。

 

 

「……こちらの音声はあちらに届いていない。

──シン。ここからは君一人だ」

 

 

言って、令音はが歩いていく。ガラスの壁の一角に、

扉のようになった場所があった。

 

 

四糸乃は士道から身を離す。士道は短く礼を言って

令音の方に足を進めた。

 

 

令音が先ほどと同じように指紋、声紋を確認して、

扉を開ける。士道は小さく頭を下げてから奥の部屋

入っていった。その際、部屋を隔てるガラスの壁の

異様な分厚さが視界に入り……弛みかけていた緊張

の糸が、再びピンと張り詰めた。

 

 

「……ん? あら、士道じゃない。目が覚めたのね」

 

 

と、士道の闖入に気が付いたのだろう。琴里が視線

を上げてくる。

 

 

「お、おう……」

 

 

どうしてだろうか、少し気まずい気がして、

ぎこちない調子でそう返す。

 

 

「突っ立ってないで座ったら? 案山子志望だって

いうのならその夢応援するけど」

 

 

「あ、いや……ん、そうだな」

 

 

言われるままに、琴里の向かいに置かれた椅子に

腰掛ける。その際ちらと令音たちのいる方に目を

やったが、その姿を認めることはできなかった。

向こう側からガラス張りに見えていたそんな部屋

の仕切りが、こちらからは真っ白な壁面にしか

見えなかった。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

テーブルを挟んで、しばしの間無言で向かい合う。

 

 

訊きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ当人を

前にしてみると、何を言っていいかわからなかった。

 

 

そんな琴里はさして緊張をしたふうもなく、

シナモンスティックでミルクティをかき混ぜ──

スティックをぱくりと口に放り込んだ。

 

 

「……って、それもチュッパチャプスかよ!」

 

 

士道は思わず叫んでいた。そう、紅茶に浸かってる

のはシナモンスティックでもスプーンでもマドラー

でもなく、琴里の大好物の小さな棒付きキャンディ

だった。

 

 

「何よ。文句ある?」

 

 

「いや、別にねえけども!」

 

 

士道は叫びを上げてから、はあと息を吐いた。

……なんだか、図らずも肩の力が抜けた気がする。

心の中でほんの少しだけチュッパチャプスに感謝を

しながら、唇を動かす。

 

 

「琴里。──おまえは一体、何者なんだ?」

 

 

「士道の可愛い妹よ」

 

 

「……自分で可愛いとか言うかフツー」

 

 

「可愛いでしょう?」

 

 

「……まあ、否定はしねえけど」

 

 

士道は髪をくしゃくしゃとやってから、膝に手を

ついて、軽く頭を下げた。

 

 

 

「琴里……おまえは、精霊(せいれい)、なのか」

 

 

 

担当直入に。単純明確に。もっとも気になっている

ことを問う。

 

 

すると琴里が、肩をすくめながら鼻を鳴らしていた。

 

 

「ふん、違うって言ったら信じてくれるのかしら?」

 

 

是非もない。士道はごくりとうなずいた。

 

 

「ああ。おまえが違うって言うんなら、信じる」

 

 

 

「……正気? 自分の目よりも他人の言葉を信じる

だなんて、とても賢明な人間のすることとは思えない

けれど」

 

 

「可愛い妹の言ってることを信じられなくなったら、

人間としては上等だったとしてもお兄ちゃんとしては

終わりだろうよ」

 

 

「……………」

 

 

琴里はそんなカップをソーサーの上に落ち着けると、

無言で士道の目見つめ返してきた。

 

 

そして数秒の間視線を交わせたあと、はあと小さく

吐息をこぼしてくる。

 

 

「……私は人間よ。少なくとも、自分ではそうだと

思ってるつもり。──でも、きっとそうはいかない

んでしょうね。観測装置の数値は今、私のことを

精霊と判断しているから」

 

 

「どういう……ことだ?」

 

 

琴里の言ってる意味がよくわからず、眉をひそめる。

いつもならば憎まれ口の一つでも叩いてくるそんな

琴里だったが、今回ばかりはその疑問も当然といった

様子で言葉を続けた。

 

 

「私は、五河家に生まれた人間。それは間違いない。

でも、今から五年前。──私は精霊に()()()

 

 

「は……?」

 

 

士道は目を点にし口をぽかんと開けて、呆然と声を

発した。

 

 

精霊とは、隣界(りんかい)と呼ばれるそんな領域に存在してる、

特殊災害指定生命体のことである。少なくとも士道は

琴里や令音にそう聞いていた。

 

 

「どういうことだよ。人間と精霊って、そもそも種が

違うんじゃないのか?」

 

 

「まあ……そうね。正確には、精霊の力を持った人間

っていった方が適当かもしれない」

 

 

「っ、そんなことが……」

 

 

言葉の途中で、士道は不意に眉をひそめた。

 

 

「あ──」

 

 

それは、夢だった。先ほど目覚める前に見ていた、

そんな夢。

 

 

燃える街の中で、霊装を纏った琴里が一人泣いている

──夢。

 

 

「どうしたのよ、士道」

 

 

「い、や……俺は──それを……知って、る……?」

 

 

「っ、どういうこと?」

 

 

琴里が問うてくる。その真剣な表情に、士道は思わず

身体を反らしてしまった。

 

 

「ど、どういうことって言われてもな……」

 

 

「だって、士道は五年前の火災のときのことを──

私が精霊になったときのことを、全く覚えてなかった

じゃない」

 

 

「や、そう……なん、だが。……ええと、笑うなよ」

 

 

「笑わないわよ」

 

 

琴里が憮然とした様子で腕を組む。士道は後頭部を

かきながら口を開いた。

 

 

「その、さっき、夢……で」

 

 

「夢? どんな夢?」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

士道が掻い摘んで夢の内容を説明すると、琴里が

ほんのりと頬を染めて顔を逸らした。

 

 

「……まあ、私が泣きながらおにーちゃん連呼して

たかどうかは異議を唱えたいけど……概ね私の記憶

の通りよ」

 

 

琴里はふむとあごに手を当てると、チュッパチャプス

の棒をピンと立ててみせた。

 

 

「……もしかしたら、私が士道から霊力を引き戻した

影響で、経路(パス)を通って記憶が流れ込んだのかしら。

それとも、それが原因で士道自身のそんな記憶が

呼び起こされた……? ふむ、どっちにしても

興味深いわね」

 

 

何やら思案するように、琴里が小刻みにうなずく。

 

 

「……一人で納得しないでくれよ。それより琴里」

 

 

「ん? 何よ」

 

 

琴里が顔を上げて士道の方を見返してくる。

 

 

「精霊になった──って言ったよな。五年前、

一体何があったんだ?」

 

 

精霊と人間は、そもそも種が違う。人間が途中から

精霊になるだなんてことが───あるいは、人間が

精霊に相当する霊力を手に入れるだなんてことが

あるとしたなら、それは一体どんなことだというの

だろうか。

 

 

しかし琴里は、あっけらかんと首を振った。

 

 

「それが、ほとんど覚えてないのよね」

 

 

「は……? 覚えてない……って」

 

 

「んー、漠然と何かがあった気がするんだけど、

どうも思い出せないのよ。いや、精霊になった

ことは覚えているのよ? でも一体何が原因で

そうなったのかが今ひとつ」

 

 

「……そんな重要なこと忘れるかフツー」

 

 

「妹が精霊化したしたことすら忘れてた兄には

言われたくないわね」

 

 

「ぐ……」

 

 

そう言われては何も言い返せなかった。が、そこで

疑問が一つ浮かんでくる。

 

 

「って……その割には随分戦い慣れていたみたい

だったけど」

 

 

士道は屋上での光景を思い起こしながら言った。

そう、琴里は、逃げられたとはいえ、あの狂三を

圧倒していたのである。

 

 

「不思議よね。一応シュミレーターで訓練を受けて

いたとはいえ、実戦は初めてだったのだけれど。

……でもまあ、精霊になったときの記憶などが曖昧

だから、そのときに何かあったのかもしれないわね。

まるで身体が戦い方を知っていたみたいに動いていた

から驚いたわ」

 

 

「な……じ、じゃあ、空間震を相殺したのは──」

 

 

「ああ、あれもぶっつけ本番。令音の計算では可能

であるって結果は出てたけど、さすがにもうやりたく

ないわね。失敗したら被害が倍になっちゃうだろう

でしょうし」

 

 

事も無げに言う琴里に、汗を滲ませる。

 

 

すると、琴里がはあと息を吐いてからさらに言葉を

続けてきた。

 

 

「でも……まあ、士道の言うことももっともなのよ」

 

 

「っていうと?」

 

 

「そんな重要なことを忘れるはずがない。

それに関しては私も同意。士道だけならまだしも、

自分の存在がひっくり返るようなそんな大事件を、

この私がうっかりで忘れるはずがないわ」

 

 

「まだしもってなんだ、まだしもって」

 

 

半眼を作って不満げに言う。が、琴里は無視して

言葉を続けた。

 

 

「五年前、あの場にいた二人が揃って記憶を

失っている。……何か妙だと思わない?」

 

 

「……っ、それって……」

 

 

 

「たとえば、(だれ)かが(わたし)たちの記憶(きおく)()したとか」

 

 

 

「な──」

 

 

──誰かが、二人の記憶を消した? なんとも気味の

悪い話に、士道は眉を歪めた。

 

 

 

確かに顕現装置(リアライザ)を用いれば──あるいは人智を及ばぬ

力を持つ精霊ならば、そういうことも可能だろう。

しかし、一体誰が何のために。

 

 

そんな士道のリアクションを見てか、琴里が肩を

すくめた。

 

 

「ま、あくまで可能性の一つだけどね」

 

 

補足をされるも、士道の背はじっとり湿ったまま

だった。

 

 

確かにそう考えると、話に筋が通るそんな気がした

のである。

 

 

だが、思い出せない以上今それを考えても詮ない

ことである。士道はもう一つ気になっていることを

問うた。

 

 

「でも……そのあと、琴里はいつもの生活に戻った

んだよな? 一体どうやったんだ?」

 

 

少なくとも、五年前の火災から今まで、五河琴里は

士道と一緒に日常を過ごしてきた。それはしっかりと

覚えている。

 

 

しかし琴里は「はぁ?」といった調子で口を

開いてきた。

 

 

「そこは思い出してないの? 士道が私の力を封印

したからに決まってるじゃない」

 

 

「え?」

 

 

士道は素っ頓狂な声を発した。

 

 

「お、俺が……?」

 

 

「ええ。──昨日言わなかった? 

()()()()()()()()、って」

 

 

そういえば、確かに昨日琴里が現れたとき、

そんなことを言っていた。

 

 

「俺、が……」

 

 

士道は軽く額に手を触れて、小さくうなった。

琴里の霊装を見たときに頭の奥底に生まれた、

疼くような痛みが再び現れたのである。

 

 

どうも──思い出せない。他のことは朧気ながら

思い起こすことができるのに、五年前のその事件に

関してだけは、上手くその記憶だけを手繰ることが

できなかった。

 

 

「そう。……そして士道に力を封印されたそのあと、

私は〈ラタトスク〉に見出されたのよ。そして──

世界の裏側で起こっていたこと、精霊というものの

存在を知って……精霊を、救いたいと思った」

 

 

「…………」

 

 

まだ一四にもなっていない琴里がなぜ〈ラタトスク〉

だなんて秘密組織の司令官やっているのか、今まで

ずっと疑問だったのだが……ようやく腑に落ちた。

 

 

だから、と琴里が続ける。

 

 

「精霊の交渉役に士道が選ばれたのは、それが一番の

理由よ。原因はわからないけれど、あなたには精霊の

力を封印する力があったの」

 

 

「あ──」

 

 

士道は目を丸くした。

 

 

 

確かに疑問だったのだ。士道にそんな力が備わって

いたとしても、なぜ〈ラタトスク〉がそれを発見する

ことができたのだろうか、と。

 

 

何のことはない。琴里という実例が、五年も前に

あったのだ。

 

 

 

そういえば思い当たる点はあった。狂三の銃撃を

受けるたびに、琴里の肌に刻まれた傷は炎に覆われ、

治癒していったのである

 

 

紛れもなく、士道の身体に備わっていた再生能力

そのものだった。

 

 

「って、ことは──」

 

 

 

士道の表情から思考を察したのだろうか、琴里が

深く首肯してくる。

 

 

「そう。士道の回復能力は、もともと私の力よ。

……と、いうわけで士道、ちょっとそこに移動を

して立ちなさい」

 

 

「は? な、なんでだよ」

 

 

「いいから、早く」

 

 

士道は琴里に言われるままに立ち上がった。

 

 

瞬間、琴里の鋭い拳が鳩尾に放たれ、士道は身体

をくの字に折って悶絶した。

 

 

「ぐは……ッ⁉︎」

 

 

「言ったわよね、私、言ったわよね?

気を付けなさいって。今のあなたは簡単にも死んで

しまうって。なのに何? 私の前に飛び出してこよう

とするわ、挙げ句狂三を守ろうとして〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の

前に飛び出してくるわ……ッ! 私がすんでのところ

で意識を取り戻して〈アテナ〉が守ってくれたから

いいようなものの、もしも一瞬でも遅くなってたら

消し炭よ……⁉︎ 結局その隙に〈アテナ〉と狂三にも

逃げてしまうし! ねえ、聞いてるの⁉︎」

 

 

「き、聞いてる……聞いてるから揺するな……」

 

 

なんとか首を縦に振る。しばしのあと、ようやく

呼吸が戻った士道は椅子に腰掛け直し、ほうと

息を吐いた。

 

 

「ってて……いきなり何しやがるんだよ」

 

 

「ふん。言ってわからない犬には躾をするしかない

でしょう」

 

 

士道は言い返そうとして、言葉を納めた。

それよりも、気になることがあったのだ。

 

 

 

「琴里。今、()()()()()()()()って言ったよな」

 

 

 

「……っ」

 

 

琴里が、ぴくりと眉を揺らす。

 

 

士道は屋上での出来事を思い起こした。狂三に砲と

化した〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を容赦なく向けた琴里。あれは、

どう見ても普段の琴里ではなかった。

 

 

琴里が観念したようにはあと息を吐いてくる。

 

 

「……言ったわよ」

 

 

「でも、ちゃんと喋ってたし、正確に攻撃をしてた。

あれは──」

 

 

「……わからない。精霊の力を士道から返して

もらってから一日……時折、何かを壊したくて、

誰かを殺したくて堪らなくなって──身体が言うこと

を聞かなくなるの。今はどうにか薬で抑えているんだ

けど……あのとき〈アテナ〉があの場にいなかったら

私は、間違いなく狂三を惨たらしく殺していたわね」

 

 

「な……」

 

 

「……もしかしたらあのときも、士道が狂三の前に

出てくれたから、正気に戻れたかもね。そのことに

関しては、ほんの少しだけ感謝しといてあげる」

 

 

自嘲気味に肩をすくめながら、琴里が苦笑する。

 

 

だが、士道はそれに返すことができなかった。

今し方琴里から聞かされた情報が、無茶苦茶に

士道の頭の中を叩く。

 

 

だから、と琴里は告げた。

 

 

「……怖いのよ。自分が何をしてしまうのか

わからないの。自分で、自分が、抑えられない。

もしかしたら〈アテナ〉の言っていた通りその記憶が

残っていないだけで、五年前にも何かをしてしまった

のかもしれない。 ───それこそ、(わたし)記憶(きおく)がない部分(ぶぶん)で、(だれ)かを(ころ)してしまっている可能性(かのうせい)すらある。もしそうだったら、(わたし)は──

 

 

 

「琴里……」

 

 

と、琴里はそこで言葉を止めた。恐怖を振り払う

ように首を振る。

 

 

「忘れてちょうだい。らしくないことを言った」

 

 

「あ、ああ……。でも……おまえの精霊の力は、

まだ俺からおまえに戻ったままか?」

 

 

「ええ。でなければ、こんな厳重な隔離エリアに

収まっている理由もないでしょう?」

 

 

言いながら、部屋の中を見回すように首を動かして

みせる。

 

 

ここから見る分には上等な内装の部屋ではあるが、

そこに至るまでの道を通ってきたそんな士道には、

ここが居心地の良い空間とは全く思えなかった。

 

 

「で、でも十香の力が逆流したときは、自然に

もとに戻ったじゃねえかよ。なんで──」

 

 

「十香に逆流をした力の絶対量が少ないからよ。

十香の精神状態さえ落ち着けば、経路を通って自然

に士道に戻ってくるわ。──でも、私の場合は違う。

ほぼ一〇〇パーセントの精霊の力を士道から完全に

引き出しちゃったからね。こうなってしまったら

もう、自然にはもとに戻らないわ」

 

 

「じゃ、じゃあどうすれば──」

 

 

士道が何とかして言葉を絞り出す。そんな姿がよほど

可笑しかったのか、琴里が苦笑しながら口を開いた。

 

 

「まあ、再封印をするしかないでしょうね」

 

 

「さ、再封印……? それって一体」

 

 

「簡単な話よ」

 

 

琴里はそう言うと、口からチュッパチャップスを

抜き、ビッと士道に突き付けてきた。

 

 

 

 

「──私を、デレさせてちょうだい」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎


『他の投稿作品』もあるので、是非ともそちらも
楽しんで見ていただければ、本当にありがたいです‼︎


どうか今年もよろしくお願いします‼︎
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