を無事に投稿をすることができました‼︎
今回は『11573文字』までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのか、とても心配に
なります……(汗)
『デート・ア・ライブ0』も更新をしていますので
是非そちらも見ていただければありがたいです‼︎
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ豆腐のようなメンタルで脆い自分
も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎
「シドー!」
士道が〈フラクシナス〉の転送装置で艦内に移動を
すると、そこには令音と、着替えなどなかったため
だろうか、令音とお揃いの軍服に身を包んだ十香が
待ち構えていた。
「お、十香じゃないか。目が覚め──」
士道の言葉を最後まで聞かず、十香がいきなりバッと
飛びかかってくる。
「う、うわっ!」
咄嗟のことに驚き、一瞬身体などが硬直してしまう。
しかし十香は構わず士道の首に手を回すと、ぎぅー、
と腕に力を入れてきた。
「うむ! シドー! 無事だったか!
よかったぞ!」
「ん……おかげさまでな」
苦笑しながらぽんぽん、と肩を叩き、そろそろ離れる
ように促す。十香は「ん」とうなずくと、そんな士道
の意を察して身を剥がそうとし──
「……ぬ?」
怪訝そうに眉をひそめて再び士道の首元にすぐに顔を
近づけた。
そのまま匂いを嗅ぐように、ひくひくと鼻を動かす。
「な、なんだ? どうしたのか十香」
「いや……なんだか嫌な匂いがする気がしてな。
なんというのだろうか……いい匂いのはずなのだが、
嗅いでいるだけでムカムカとしてくるというか……
腹が立ってくるというか……ああ、そうだ、鳶一折紙
みたいな匂いがするのだ」
十香は渋い顔をしながら言う。凄まじい嗅覚である。
士道は心臓を跳ねさせた。
「──っ! き、ききき気のせいじゃあないか
……?」
「む……そうか。そうだな。シドーから鳶一折紙の
匂いがするだなんて、私はどうしてしまったという
のだろうか。シドーがあの女をおぶったりなどでも
しない限り、匂いが付くだなんてありえないのだと
いうのに」
「……! そ、そうだよ。そんなことあるはずない
じゃないか」
「……そろそろいいかな、シン」
と、そんな士道と十香の様子を横で見てた令音が、
ゆらりゆらりと頭を揺らしながら声を上げてきた。
相変わらず眠そうな表情というか、今にもその場に
倒れしまいそうな調子である。
「あ……はい、すみません」
「……ん、では付いてきてくれ。十香は少しだけ、
四糸乃と遊んでいてくれるかな?」
「ぬ? シドーと一緒ではいけないのか?」
士道が眉を八の字にしながら士道の顔を見てくる。
胸の辺りがちくりと痛むのを感じたのだが……
琴里をデレさせるための会議に十香を出席させる
わけにはいかないだろう。
「ごめんな、十香。俺はちょっと用事があるんだ」
「むう……わかった」
十香は唇を尖らせながらも、素直に言ってゆっくりと
歩いていった。
「……さ、では行こうか」
言って、ふらふらと歩き出す。士道はその背について
足を進めていった。
通ったことのないルートを通って、大きな扉のもとへ
辿り着く。令音がその扉の前に立つと、ピピっという
音がして、扉が自動でスライドした。
「……さ、入ってくれ」
令音が扉の横に立ち、士道に促してくる。
中は広い空間になっていた。部屋の中央には円卓状の
机が設えられ、既に何人ものクルーたちがそれぞれの
席に着いている。どうやらここは作戦会議室のような
場所らしい。
「……空いている席に座ってくれたまえ」
令音はゆらゆらと幽霊のような挙動で足を進めると、
空いてるその席に腰を落ち着けた。それを倣うように
士道はその隣に座る。そして視線を手元へ見やると、
そこには小さな液晶画面とキーボードの設置などが
されていた。どうやらすべての席に、簡易コンソール
が設えているらしい。
と、奥の席に腰掛けていた男が、こほんと咳払いを
してからすくっと立ち上がった。
背にかかるくらいの髪に、日本離れした彫りの深い
顔の造作。一昔前の少女漫画にでも出てきそうな
風貌をした長身の男である。
であり、〈ラタトスク〉実部隊の服司令官でもある男
だった。司令官の琴里が隔離エリアに収容されている
今、彼がこの艦の事実上の最高責任者となってるはず
である。
「よく集まってくれました、諸君。緊急事態につき、
司令に代わってこの私、神無月がこの場を仕切らせて
いただきます。──士道くん、しばらくお付き合いを
頂けると幸いです」
「はい、もちろんです」
士道がうなずくと、神無月は満足げに首肯して言葉を
続けた
「では早速本題に入りましょう。以前から司令の身体
について知った者、今回の件で初めて知った者………
様々いるでしょうが、どうか協力をお願い致します。
──今日の主の議題が、二日後に迫ってる五河司令と
五河くんのデートプランの作戦です。各々持ち寄った
情報を紹介しあい、司令が心から楽しいと思える一日
を演出するのです」
そう言って神無月が部屋に並んだクルーと見回し──
すぅっと大きく息を吸う。
「……シン。少し耳を塞いでおきたまえ」
「え?」
不意に令音がそんなことを言ってきて、士道は首を
傾げた。と──
「──さあ諸君。親愛なる〈ラタトスク〉機関員の
諸君。我らが愛しき女神の一大事だ。日頃の御恩に
報いるときなのだ。司令が! 五河琴里司令が!
我らの助けを必要としている! それに応える気概
はあるか⁉︎」
『応ッ!』
神無月がよく通る声で叫ぶと、円卓の席に着いていた
クルーたちが神無月の声に応えるように一斉に大声を
上げた。凄まじい轟声がビリビリと空気を震わせて、
部屋の壁に幾重にも反響をして士道の鼓膜を乱暴に
叩く。
「な、なんだ⁉︎」
士道の狼狽など気にしてない様子で、さらに神無月が
続ける。
「司令に褒められたいか⁉︎」
『応ッ!』
「司令の笑顔を見たいか⁉︎」
『応ッ!』
「司令に四つん這いにされたのち、ブーツの踵で尻を
重点的に蹴られたいか⁉︎」
『お……ぅ?』
どうやらこれは賛同が得られなかったらしい。
神無月がこほんと咳払いをする。
「今こそ! 我らがその愛を示すとき! 謳え、高き
その御名を!」
『KO・TO・RI! KO・TO・RI! LO・V・E・KO・TO・RI!』
ブリーフィングルームが熱狂に沈む。もう号令とか
問答とかではなく、アイドルライブなどでも見てる
かのような調子だった。
「よろしい! では報告を開始せよ! 司令の希望、
司令の願望、それら全てを成就させ、我らが司令を
デレさせん!」
『
神無月の声に応え、クルーたちが手元のコンソールを
操作したり、持参した資料を操ったりし始める。
士道は未だキィンという耳鳴りを覚えながら小さく
頭を振った。
「な、なんですか……これ」
「……まあ、なんだ。皆琴里が大好きなのさ」
「はあ……」
士道が頬の辺りに汗をひとすじ垂らしながら言うと、
円卓の反対側から声が上がった。髪に白髪が混じり
始めた、痩身の男である。確か名前は──〈
「副司令! 私が!」
「よろしい、発言を許可する!」
「はっ! 何より基本なのはやっぱり、プレゼント!
好みがわかっている分、通常の精霊よりもポイントが
わかりやすい言えましょう! 司令の大好物といえば
皆さんご存じチュッパチャプス! これのオリジナル
フレーバーを作成し司令に献上すれば──!」
「
凄まじいまでのチュッパ愛を超越できると思ったか⁉︎
心せよ! 相手の愛するものこそが、最も贈るに難き
ものであると!」
「……っ! も、申し訳ありませんッ!」
「次!」
「はっ!」
神無月の号令に合わせ、別のクルーがその席を立つ。
丸眼鏡が特徴的なそんな人物、〈
中津川である。
「司令の中学校の友達、早乙女加奈ちゃんからの情報
によりますと、どうやら司令は最近人気の携帯アプリ
でブタさんの育成にはまっているらしくて──」
「ちょっ、どこから情報得てんですか!」
たまらず士道が叫ぶと、中津川はもの凄くイイ笑顔で
ビッ! と親指を立ててきた。
「ご心配なさるな。口止め料については十分支払って
おりますし、〈
ちゃんと『琴里ちゃんに付きまとう変態ストーカー』
を演じておきました!」
「どういうことですか⁉︎」
「はァ…… はァ……ね、ねえ君ィ、さっき一緒に
歩いていた子と友達なんだよね……? お、お小遣い
あげるから、あの子の情報などについて詳しく教えて
くれないかなァ……?」
「最悪だぁぁぁッ! ていうか加奈ちゃんそんな奴に
情報売ったのかよおい!」
「なんでもご病気のお母様がいるらしく、どうしても
お金が必要だったとかで。さんざ悩んだ末での決断で
ござりました。未だ後悔に枕を濡らしてる様子です」
「ごめん加奈ちゃん事情知らず!」
士道が頭を抱えていると、次いで中年の男──
〈
「副司令、それでは私が」
「よろしい、期待していますよ」
「はっ。──まずはこちらをご覧ください。
これは五月二日の映像です」
と、川越が手元にあるコンソールをすぐ操作する。
すると円卓の中央に設えられていたそのモニタに、
艦橋の映像が映し出された。
艦長席に、琴里が腰掛けている。どうやら何かの仕事
を終えたところなのだろう。琴里は「んん……っ」と
伸びをすると、手で肩をさすりながら口を開いた。
『……ふぅ、疲れた。たまには温泉にでも行って
ゆったりしたいわね』
『……っ!』
その光景に、居並んだクルーたちが騒然となった。
「お、温泉……だと……」
「はっ。確かに司令は仰いました。──そこで私が
提案するのがこちらです」
言うと同時に、モニタの映像が古風な温泉宿のものに
切り替わる。
「安らぎのひとときをあなたに。身も心などの疲れを
リフレッシュして、開放感溢れる休息を! 月見ヶ原
温泉三泊四日コース! 源泉かけ流しの天然温泉が、
司令の凝った肩と心を解きほぐしてくれるでしょう」
「な、なるほど……!」
「しかも、それだけではありません。この温泉、
時間制なのですが──混浴があるのです!」
『な……ッ』
再び、クルーたちに戦慄が走る。川越が鬼気迫る
調子でバッと両手を広げた。
「捜査をした結果、司令が士道くんと最後にお風呂に
入ったのは今からおよそ五年前!」
「な、なんでそんなことまで詳しく知ってるんですか
……っ!」
士道が叫ぶも、華麗に無視された。川越が、熱っぽく
語るように続ける。
「日頃は男女を意識しない兄妹間なれど、久方ぶりの
入浴で士道くんは意外な妹の成長に気付いて、司令も
また、兄のその身体に不思議な感情を覚える……!
理性とは裏腹に高鳴る鼓動。不意に肌が触れ合うたび
に意識し合う二人……! 無論、このシーンはカメラ
の数をいつもの倍にして記録します!」
『お、おお……ッ』
クルーたちが色めきたつ。女性機関員なども何人いる
のだが、なぜか一緒になって興奮気味に鼻息など荒く
していた。まるで、そっちの方が目的と言わんばかり
である。
「──そして迎えた最後の夜。楽しいひとときなども
やがて終わる。そんなとき、司令は勇気を出して最後
にこう言うのです。『……ふん、今日くらいは一緒に
寝てあげてもいいわよ』」
『……っ! ……っ!』
クルーたちが悶えるように身を捩る。
「どちらかともなく手が触れ合い、いつしか重なる
身体と身体。そしてついに触れるお互いの唇と唇ッ!
嗚呼っ、おめでとうございます! 司令! 本当に
おめでとうございます……っ!」
川越が目を覆う。よく見ると目の前で泣いていた。
否、川越だけではない。円卓に着いてた令音以外の
クルーたちが、感極まったようにその目元には涙を
浮かべている。
「士道くん……司令を頼みます……」
「お願いします、どうか彼女を幸せにしてあげて
ください」
「うぉぃおぃおぃ……」
いくつもの涙に濡れた視線に注視され、士道本人は
辟易しながら頬をかいた。
「い、いや、そんなこと言われましても……」
「! なんて煮え切らない! それでも男か⁉︎」
「そうですよ! 責任をとりなさい!」
「そんな男にうちの司令はやれんぞ!」
なんかもうみんな琴里の父親みたいになっていた。
困り顔を作って額に手を当てる。
と、その場を制するように神無月がぱん、ぱん、と
手を打った。
「いやしかし、彼のプランは本当に素晴らしい!
「有り難き幸せ!」
川越が拳を手の平に打ち付けて、頭を下げてみせる。
士道はそんな様子を見せながら、隣に座っている令音
に小声で話しかけた。
「ええと、
「……
「……そうですか」
なんというか、あまりありがたみのない勲章だった。
と、もう半ば方針が決定してしまったかのような様子
でうなずき合うクルーたちに、令音が声を上げる。
「……しかし、三泊四日では琴里のリミットなどは
過ぎてはしまわないかね」
『……あ』
クルーたちはポカンと口を開け、顔を見合わせた。
そして一斉に困り顔を作る。
「む、むう……そういえば確かに。なんとか期間を
短縮できませんか」
「駄目です! このプランは前二日の微妙な二人の
付かず離れずのその距離感が、最後の夜の引き金に
なるのです……!」
「……それに、最後の夜の琴里の行動はプランという
より願望に近い気がするのだが」
『は……っ!』
令音に言われて初めて気付いたと言った様子で、
皆が息を詰まらせた。
「く──ならばどうすれば……」
神無月が苦しげにうなる。そんな様子を見てか、
令音が小さく息を吐いた。
「……まあ、そこまで難しく考える必要もないと
思うけれどね」
「と、言いますと?」
「……そうだな。シン、どこか琴里が行きたいと
言っていた場所などはないかい?」
「行きたがっている場所……ですか?」
「……ああ。伝聞や盗み聞きではなく、琴里がシンに
聞こえていることを自覚しているそんな場面で言って
いたことの方がとても望ましい。シンに直接、連れて
ってくれ、だなんて言っていたら最高だね」
「は、はあ……」
士道はあごに手をあてた。琴里は士道に連れていって
とせがんだ場所といえば──
「ええと……あ、そうだ。そういえばいつだったか、
CMでやっているのを見て栄部のオーシャンパークに
連れてって、とか言われた気が……」
「……ん、そうか。だったらそこでいいんじゃあ
ないかな?」
令音が軽い調子でうなずきながら言う。
「い、いいんですか? 琴里が言ったっていっても、
司令官モードじゃなくて妹モードのときですよ?」
「……構わないさ。べつに、四糸乃のように別人格に
なっているというわけじゃあないんだ。むしろ感情を
発露している状態であるし、好都合ではないかな」
「はあ……」
だが、神無月は難しげに眉を歪めた。
「オーシャンパーク……ですか。まあデートスポット
としては王道ではありますが、明確なプランを示さず
にはい決定というわけには……」
他のクルーも神無月と同意見らしかった。皆、承諾を
しかねるといった様子で口をへの字に結んでいる。
「……オーシャンパークなら琴里の可愛い水着姿が
見られるのだがね」
『………っ』
しかし令音の一言に、皆が息を詰まらせるその音が
聞こえてくる。
……琴里と〈ラタトスク〉の命運を賭けたそんな
デートプランは、なんだか存外、簡単に決定して
しまった。
翌、六月十日、土曜日。
もとより休日ではあるものの、士道たちの通っている
都立来禅高校は今日、臨時休校の扱いとなっていた。
まぁ、しかし無理からぬことではある。何しろ学校に
いる生徒・職員全員が倒れ、一時意識不明状態などに
陥ったというのだ。
幸い症状の重い生徒はいなかったが、ガス管等の徹底
検査をするらしく、今週いっぱいの臨時休校が決定を
したらしい。
「……ま、ありがたいといえばありがたい……か」
『……さ、そろそろ一〇時だ。こちらからも先ほど
四糸乃をマンションの屋上に転送をした。もうすぐ
そちらに着くだろう』
士道が家の扉に鍵をかけながら息を吐くと、不意に
そんな眠たげな令音の声が士道の右耳に響いてきた。
だが、近くに令音の姿はない。あるのは、士道の右耳
に目立たぬように装着をされた小型のインカムだけで
あった。
そう。士道は今日、明日の琴里とのデートに向けた
訓練を申しつけられていたのである。
「それで、今日の訓練は何するんですか?
まだ聞いてませんけど……」
士道は軽く右耳に触れるようにしながら問うた。
士道は今日の朝、十香、四糸乃と家の前で待ち合わせ
をしろとだけしか伝えられていなかったのである。
『……ああ。十香たちと合流をしたのなら、そのまま
天宮駅前に向かってくれたまえ。目的地はツインビル
のB館四階だ。……そこで、二人に水着を見繕って
やってもらいたい』
「み、水着……⁉︎」
眉をひそめる。自然に目が右方──声のする方へと
向けられていた。十香と、四糸乃の水着姿。
その文言だけで、なんとなく頬が赤くなってしまう。
『……そう、水着だ。資金は昨日渡しておいたね?
それだけあれば十分なはずだ』
「や、そ、それはいいですけど……一体なんでまた
水着なんて」
『……シン。君は明日、琴里とオーシャンパークへ
行くんだろう? ならば当日緊張などしないために、
今から水着姿の女の子に目慣らしておく必要がある』
令音が至極当然のごとくそう言ってくる。士道は半眼
を作って頬をぴくつかせた。
「……い、いや、令音さん? さすがにも俺でも、
妹の水着姿に緊張なんてしませんってば……」
『……そうかな。まあ、仮にそうなのだとしても、
やはり、いや───だからこその訓練は必要だろう。
それに、オーシャンパークにいる少女は琴里だけでは
ないんだ。せっかくのデートで他の女の子に目移りを
しているようでは困るんだよ』
「………」
即座に「そんなことはない」と返そうとした士道で
あったが、つい数十秒前に想像だけで頬を熱くして
しまったばかりである手間、あまり偉そうなことは
言えなかった。うぐ……と唇を噛んでから、ため息
混じりにうなずく。
「はあ……わかりましたよ」
と、そんな会話をしていると、後方からとある靴音が
響いてきた。たぶん十香か四糸乃の二人のどちらかが
マンションから出てきたのだろう。士道は小さく手を
上げながら振り向いた。
「おう、おはよ──」
そして、そこで士道は身体を一瞬にして硬直させる。
そこにいたのは十香でも四糸乃でもなく、カットソー
にスカートという動きやすそうな格好をした鳶一折紙
だったのである。
「お、折紙?」
「…………」
折紙が無言でうなずく。
「今日はどうしたんだ? こんなところで会うなんて
珍し──」
言いかけて、士道はハッと肩を揺らした。目の前の
折紙に勘付かれぬように自然な調子で口元を隠し、
小さな声でインカムに問いかける。
「令音さん? これももしかしてそっちの仕込み
なんですか……?」
『……いや、少なくとも私は何も知らないな』
「そ、そうですか……」
士道は口元を隠していた手を横へ持っていき、
頬をかいてから折紙に視線を戻した。
「そういえば身体は大丈夫なのか? 昨日まで入院を
していたのに……」
「怪我自体は対したことがなかった。あのあと検査を
してすぐ退院の許可が出た」
「そうか……そりゃ何よりだ。で、えっと……
真那は?」
士道が問うと、折紙が微かに眉を動かした気がした。
「まだ意識が戻っていない。……もし真那が目覚めて
いれば、ここに来る必要などがなかったかもしれない
のに。──でも、いい。士道に会えたのは僥倖」
「え、それって」
「シドー!」
『やっはー、おっまたせー』
士道が折紙に問い返そうとしたところで、五河家の
隣に聳えたマンションから、そんな声が響いてきた。
そちらの方に目をやると、淡い色のキャミソール姿の
四糸乃が立っていることがわかる。
「む?」
が、満面の笑みを作っていた十香は、士道の隣にいる
少女にすぐに気付くと同時、ぴくりと眉を揺らした。
そして、徐々にその顔が警戒色を帯びていく。
「鳶一折紙……! 貴様、なぜこんなところに
いるのだ!」
言いながらダッと駆け寄り、士道と折紙の間に入り、
折紙に向かってがるる……と威嚇じみた声を発する。
しかし折紙はそんな威嚇に怯むでもなく、ちらっと
四糸乃の方に視線をやった。
「〈ハーミット〉……? なぜこんなところに」
「……っ!」
四糸乃が怯えるように肩を揺らす。昔ASTの隊員に
追い回されたその経験がまだ後を引いているのかも
しれなかったし、ただ単純に折紙の冷淡な眼差しに
怯えたのかもしれなかった。
が、すぐに四糸乃を守るように、左手に装着された
パペットが間に入る。
『はーいはいお嬢ちゃぁん。四糸乃をいじめないで
もらえるかなぁ? あんまりしかめっ面ばかりして
いると、年取ったとき小ジワが増えるよー?』
折紙はそんな挑発にも眉一つ動かさず、視線を士道に
戻してきた。
「どういうこと」
「え、いや、あの」
士道はしどろもどろになって折紙から目を逸らした。
そういえば、霊力を封印した四糸乃と折紙がお互いに
顔を合わせるのは初めてだったかもしれない。
まだ十香の件にさえまだ納得がいっていない様子の
折紙である。そんなところにもう一人の精霊が現れた
というのである。それは不審に思ってしまうだろう。
だが、かといって〈ラタトスク〉のことを説明する
わけにもいかない。
『……面倒だな。なんとか誤魔化してくれ』
「な、なんとかって……」
令音からのアバウトな指令に士道が困り顔を作って
いると、先ほどから肩越しに会話を進められていた
十香が両手をバタバタと動かした。
「む、無視するなっ! 貴様、一体何の用かと訊いて
いるのだ!」
折紙が、四糸乃を一瞥してから軽く小さな息を吐き、
すっと視線を十香に移す。
「──夜刀神十香。あなたに訊きたいことがある」
「なんだと?」
十香が、訝しげに眉をひそめる。士道としても予想外
の台詞だった。てっきり、また士道に何か用事がある
のだと思っていたのである。
「なんだ、訊きたいこととは」
「一昨日。空から炎を纏った精霊が現れたその時を
覚えている?」
「……っ!」
折紙の質問に息を詰まらせたのは、質問を受けた十香
ではなく士道だった。
なるほど、平時からすこぶる仲が悪い関係である十香
に何を訊ねにきたのかと思ったのだが、考えみれば
道理である。琴里が空に現れたとき屋上にいたのは、
士道、折紙、真那、狂三、〈アテナ〉、そして十香の
六人だけだ。残る十香へと照準が定まるのは、当然と
いえば当然のことだった。
「れ、令音さん……っ」
士道は眉をひそめながらインカムに呼びかけた。
上手くない状況である。確かに琴里が現れたとき、
十香はその場にいた。琴里の顔を見ていた可能性も
十分ある。
『……落ち着きたまえ、シン。そう簡単にはいかない
だろう』
「で、でも──」
士道は自分の心臓が立てている大きな動悸の音を
聞きながら、折紙と十香に視線を戻した。
十香を止めて発言を控えさせた方がいいだろうか。
──否、それではかえって折紙に疑念を抱かせて
しまうことになる。いや、だがこのままでは──
と、士道がそんな思考をぐるぐる巡らせていると、
十香が腕組みしながら口を開いた。
「ふんっ、知っていたとしても貴様には教えてなど
やらん!」
言って、ぷすー! と頬を膨らます。
士道ははぁと息を吐いた。……二人の仲の悪さが、
こんなところで役に立つとは。
「………」
だが、それでは終わらなかった。折紙は無言・無表情
のまましばしその場に立っていたが、静かに足を一歩
引くと、すっと頭を下げたのである。
「お願い」
「な……っ」
予想外の展開に、士道は目を丸くした。あの折紙が、
十香に頭を下げるなんて。
それは十香も同じだったらしい。驚きに目を見開き、
落ち着かない様子であたふたと首を動かしている。
「や、やめんか! い、一体何が目的だ!」
「炎の精霊のことを教えてほしい。お願い」
「わ、わかった! わかったから顔を上げんか
気持ち悪い!」
十香が叫ぶように言うと、折紙がすっと頭を元の位置
に戻した。
「それで」
「む……炎の精霊だったな。確かに見たぞ」
やはり、十香は琴里の姿を捉えていたらしい。
十香の言葉に、士道は全身が緊張するのを感じた。
──しかし。
「あれは……あれだな、うむ、赤かった」
折紙が、無言で十香を見つめる。
「──あとは」
「む? あとは……そうだな、強かった」
「それだけ?」
「ぬ。え、ええと……こう、ブワー!
という感じだった」
「…………」
折紙は再び、しばしの間無言になってから
口を開いた。
「役立たず」
「な、なんだとっ⁉︎ せっかく答えてやったと
いうのに、なんだその態度は!」
「爪の先程度でもあなたに期待した私が愚かだった。
まだ定点カメラかボイスレコーダーの方が存在価値が
一番ある」
「この、言わせておけば……!」
「ま、まあまあ、落ち着けって」
士道は心の中でホッとしながら、十香の肩を叩いた。
十香は未だ怒りが収まらないといった様子だったが、
素直に士道のその言葉に従って、唇を尖らせながらも
静かになった。
「──ところで、あなたたちは何をしているの」
と、折紙が士道、十香、そして四糸乃を見渡しながら
唇を開いてくる。
「ふん、誰がシドーに水着を買ってもらうことなどを
貴様に教えるか!」
「水着を買いにいくの?」
折紙が視線を士道に向けてくる。
「や、まあ、その……そうなるな」
「そう」
そう言うと、折紙はふっと踵を返した。そのまま、
元来た方向へと歩いていく。
が、数歩進んだところで足を止めると、わざとらしく
ポンと手を打った。
「そういえば、私は学校指定の競泳水着しか持って
いなかった」
なんて理由を言いながら、額に手を当て、
オーバーリアクション気味に首を振ってみせる。
「このままでは、プールや海に行く用事などができた
場合、非常に困った事態になる」
士道が無言でいると、折紙はちらっと後方に視線を
送ってきた。
「非常に困った事態になる」
「……ええと」
士道が非常に困った事態になりながら頬を軽くかいて
いると、令音の静かな声が響いてきた。
『……シン。仕方ない。彼女も誘ってあげたまえ』
「だ、大丈夫ですかね……? その、十香とか、
四糸乃とか」
『……仕方あるまい。どうせこの調子では、無視など
していったところであとをつけてくるだろう。それに
まあ、サンプルの女の子が増えること自体は悪いこと
ではないしね』
「う……」
容易にその場面が想像できて、士道は額に大量の汗を
滲ませながら苦笑した。
はあと吐息をこぼし、未だわざとらしく困った仕草を
続ける折紙に顔を向ける。
「よかったら一緒に行くか、折紙」
「行く」
「な──!」
折紙がくるりと身体の方向をこちらに向けてうなずく
と同時、十香が愕然とした様子で肩を震わせる。
「な、なぜだシドー! 今日は私とシドーと四糸乃と
『よしのん』だけで買い物するのではなかったのか!
なぜよりにもよって鳶一折紙が一緒なのだ!」
「ま、まあ、そう怒るなよ。あいつも困っている
みたいだし」
「ぐぐ……そうは言ってもだな」
十香が納得いなかないといったそんな様子で奥歯を
摺り合わせる。
すると、折紙が平然とした調子で深くうなずいた。
「そこまで嫌ならば仕方ない。私は一緒に行くのを
やめる」
「! な、なんだと?」
いつにない素直に驚いてか、十香が顔を訝しげな色に
染める。
と、折紙は軽やかなそんなステップで士道の元に
舞い戻ると、士道の手を取ってすたすたと歩いて
いった。一拍遅れて、十香はハッとした顔を作る。
「ま、待て! 何をしている!」
「私と士道と一緒に水着を買いに行く。
あなたは〈ハーミット〉と行くといい」
「な、なぜそうなるのだ!」
「あなたが、私と一緒は嫌と言った。だからこれは
仕方のないこと」
「な……それはあれだ! そういう意味など
ではなく──」
十香の言葉の途中で、折紙がさらに強く引いてくる。
急な引力に、士道は引っ張られるままに足を動かして
しまった。
「シドー! この──手を離さんか!」
「しかし、それでは私とあなたが一緒に買い物に行く
ことになってしまう」
「そ、そうなのか……⁉︎」
「そう。それはどうしようもないこと」
困惑したようなそんな十香の声に、折紙は自信満々に
うなずいた。そして十香はしばしの間「ぐぐ……」と
うなったあと、悔しげに口を開く。
「わ、わかった、もう貴様も一緒でいいからシドーを
離せ!」
「そう。私はいや」
「──っ⁉︎」
十香が、顔を驚愕に染める。
「一緒に行きたいなら、お願いは」
「な……な……」
十香は自分が今どんな状況に置かれているのか
わからないといった感で士道と折紙の顔を交互に
見ていた。
「できないならば構わない。私と士道だけで行く」
「ちょ、ちょっと待て! た、頼む! お願いだから
私も連れていってくれ!」
折紙に手を引かれる士道の姿を見て、十香が叫ぶ。
折紙はふっと手の力を緩めると、ゆっくりと十香に
視線を定めた。そして、優しく唇を開く。
「いや」
「な……っ!」
十香が愕然と目を見開き、今にも泣いてしまいそうな
顔を作る。
「……おい」
さすがに見かねて、士道は半眼を作りながらため息を
吐いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎
これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎
【報告】
今回は無事に『五等分の花嫁 繋がり合う絆』や
『とある暗躍の幻視者』の二つを『更新』をする
予定なので是非とも楽しみにしてもらえたら本当に
ありがたいです‼︎
『他の投稿作品』もあるので是非ともそちらも
楽しんで見ていただければ本当にありがたいです‼︎