デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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今回は七月に入ってからなんとかすぐに更新をする
ことができました‼︎


今回は『11845文字』までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)


【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎


面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。


最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎


八舞テンペスト
DEMの策動


「……なんで、こんなことに」

 

 

士道は絶望的なそんな心地でそう呟くと、今自分が

置かれている状況を認識するために目を瞬かせた。

 

 

士道の視界には、二人の少女が確認できた。

 

 

一人は明るい髪を結い上げた、勝ち気そうな元気の

ある少女である。

 

 

可愛らしい唇の端を小さく上げ、美しい造形の顔には

不敵な笑み浮かべている。そして鎖骨の浮き出た首元

から描かれるそのほっそりしたそのボディラインは、

彼女の大仰な所作とは対照的に、どこか庇護欲などを

かき立てられる儚げな魅力に溢れていた。

 

 

「くく……士道よ。何を悩む必要がある? 御主は

ただ選べばよいのだ。この我を。八舞耶倶矢(やまいかぐや)をな。

さすれば主の望みを何なりと叶えてやるぞ?」

 

 

言って、少女──耶倶矢が、まるで歌劇でも演ずる

かのような調子で優雅に手を伸ばし、士道のあごを

クイと軽く持ち上げてくる。それだけの動作なのに、

士道の脳には電気を流されたかのような衝撃などが

走った。

 

 

 

だが──それで終わりではない。

 

 

 

もう一人の少女は、耶倶矢と非常に───それこそ、

ドッペルゲンガーを疑うほどに──よく似た顔立ちを

していた。

 

 

三つ編みに結われた髪に、どことなく物憂げな色を

映す双眸。反してその肢体は、思わず目を釘付けに

されてしまうほどに、肉感的な魅力に彩られる。

 

 

「誘惑。士道、耶倶矢などより、夕弦の方を選んで

ください。耶倶矢のその貧相な身体では味わえない

快楽を与えてあげます」

 

 

言って、指先で士道の頬を撫でてくる。その官能的な

感触に、士道は思わず身を強ばらせた。

 

 

「ふ……夕弦よ、やめておけやめておけ。貴様なぞに

言い寄られては、士道も迷惑というものだ」

 

 

「失笑。正攻法では勝てないからと、夕弦の行動に

けちを付けるのはみっともないです」

 

 

耶倶矢と夕弦は互いに睨み合うと、まったく同時に

士道に視線をすぐに戻し、これもまた同時にバッと

手を差し出してきた。

 

 

「さあ、士道よ」

 

 

「質問。どちらを選ぶのですか?」

 

 

「や、そ、そんなことを言われても……」

 

 

士道の顔中に脂汗を浮かばせながら後ずさった。

 

 

 

すると、

 

 

 

「なあ……我の方が、可愛いだろう」

 

 

「質問。夕弦では……駄目ですか?」

 

 

なんて、二人してすぐに上目遣いになりながら、

士道に問うてくる。

 

 

「う……」

 

 

頭の中に、混乱と疑問がぐるぐると渦巻く。

 

 

確かに士道は精霊を助けるため、世界を救うために、

精霊を攻略することを是とした。

 

 

なのに……なんで。

 

 

 

──今士道は、精霊に、()()()()()いるのだろう。

 

 

 

士道が曖昧な笑みを浮かべながら答えをはぐらかして

いると、耶倶矢と夕弦の二人がさらにぐいとその手を

差し出してきた。

 

 

 

「さあ──どちらか一方を」

 

 

請願(せいがん)。選んでください。士道」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それでは、処分を言い渡す」

 

 

静かで重い男の声が、直立したそんな折紙の鼓膜を

震わせる。

 

 

自衛隊天宮駐屯地のある一室には今、数名の男たちが

居並び、部屋の中央に立った折紙に視線を向けてた。

その表情は一様に険しく、まるで折紙を糾弾している

かのようである。

 

 

だが、それも当然であった。

 

 

なぜなら、今行われているのは、先の折紙の不祥事に

対する査問であったのだから。

 

 

正面に座った男が──桐谷(きりたに)陸将が、厳かな調子の言葉

を続けてくる。

 

 

鳶一折紙一曹(とびいちおりがみいっそう)を、懲戒処分とする。もう顕現装置(リアライザ)

触れることは二度とないと思え」

 

 

「…………」

 

 

予想通りの言葉。表情などを変えることもなく細く

息を吐く。

 

 

この査問は開始前からほとんど結末が定められている

ようなものだった。

 

 

形式上、弁護役に直属の上司である日下部遼子も列席

はしていたが、ほとんど発言など認められていない。

これはあくまで、折紙を懲戒にするためのそんな手順

に過ぎなかった。

 

 

とはいえ、あれだけ派手なことをしでかしたのだ。

当然といえば当然の結果である。むしろ折紙自身、

それを覚悟の上で起こした行動でもあった。

 

 

あの精霊さえ。折紙の両親を殺した精霊の一体、

炎の精霊〈イフリート〉をこの手で倒せたならば、

そう思って、あの討滅兵装の引き金を引いたのだ。

 

 

 

折紙(おりがみ)誤算(ごさん)は……〈イフリート〉五河琴里(いつかことり)が、両親(りょうしん)(かたき)ではなかったことだった。

 

 

 

否──まだはっきりしたわけではない。だが士道が

命を賭して訴えた言葉をまったくの嘘と切り捨てる

こともまた、折紙にはできないのだった。

 

 

もし士道の言っていることが本当で、あの五年前に

白銀の精霊〈アテナ〉以外に、もう一体精霊がいた

としたならば、折紙は真犯人たちを追うチャンスを、

今ここで失ってしまうことになる。

 

 

その事実が、滅多なことでは動じない折紙の心臓を

きつく締め付けるのだった。

 

 

 

だが──その瞬間。

 

 

 

「……?」

 

 

突然部屋の扉が開かれ、部屋に居並んだ男たちの

視線がそちらに注がれた。

 

 

「なんだ、今は査問中だぞ。誰も入れるなと──」

 

 

桐谷が眉根を寄せながら言いかけ、その闖入者の顔を

見ると同時、言葉を止める。

 

 

 

「──ミスター・ウエストコット?」

 

 

 

その怪訝そうな声と顔に違和感などを覚え、折紙も

ちらと後方を見やる。

 

 

それは、一人の男が、右目に眼帯した秘書と思しき

少女を従えて立っていた。

 

 

漆黒のスーツをその身に包んだの高い男である。

くすんだアッシュブロンドに、貌にナイフで切り込み

を入れたかのように鋭い双眸。年齢はせいぜい三〇代

半ばといったところだったが、どこか時を経た老練さ

を感じさせる不思議な男だった。

 

 

その男の顔を見て、そして桐谷が呼んだ名を聞いて、

折紙は微かに眉を動かした。

 

 

 

DEM社業務執行取締役(マネージング・ディレクター)、サー・アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット。

 

 

 

世界で唯一顕現装置(リアライザ)を製造することのできる会社(メーカー)の、実質的なトップである。

 

 

「──ああ、お取り込み中だったかな。これは失礼」

 

 

ウェストコットは部屋を見回すと、流暢な日本語で

そう言って小さく肩をすくめた。

 

 

「な、なぜこんなところにあなたが……」

 

 

桐谷が狼狽えた様子で言うと、ウェストコットが

そちらに目を向ける。

 

 

「いえね、せっかく〈ホワイト・リコリス〉などを

プレゼントしたのに、マナがダウンしてしまっている

とそのように聞きましてね。ちょうど日本に来る予定

がありましたので、ついでに激励とお見舞いなどにと

思っていたのですが……道中、随分と面白い内容など

を耳にしまして」

 

 

「面白いこと?」

 

 

桐谷は理解が出来ずに首を傾げると、ウェストコット

は大仰にうなずいた。

 

 

「〈ホワイト・リコリス〉を起動させ、精霊と戦った

隊員がいるそうではありませんか」

 

 

「……っ」

 

 

ウェストコットのその言葉に、桐谷が息を呑むのが

誰でもわかる。

 

 

それはそうだろう。DW-029〈ホワイト・リコリス〉

──折紙が無断使用した討滅兵装は、DEMの実験機。

秘匿技術の結晶である。技術的に使用が困難だという

話以前に、DEMの出向社員たる真那にしか起動などが

許されていない装備だったのだ。

 

 

そんな思考などを察したのか、ウェストコットが芝居

がかった調子で首を振った。

 

 

「早合点はいけない。私は別に、そのことを責める

つもりも、不祥事を盾にとって某かの要求を通そう

とするつもりもありません」

 

 

「……? では?」

 

 

「純粋な好奇心です。あのじゃじゃ馬な機体を僅かな

間とはいえ乗りこなしてた魔術師(ウィザード)というのはどんな方

かと思いましてね。まあ──」

 

 

そう言いながら、ウェストコットが折紙に視線を

向けてくる。

 

 

「君のような可愛らしいお嬢さんだったとは

思わなかったがね」

 

 

「………」

 

 

その視線に、得体の知れないそんな気味悪さを感じ、

折紙はごくりと唾液を飲み下した。

 

 

それが伝わってしまったのだろうか、ウェストコット

が苦笑しながら肩をすくめた。

 

 

と、そんな二人のやりとりを遮るように、桐谷陸将が

わざとらしく咳払いをした。

 

 

「今回の件に関しては後に正式な場所で謝罪させて

いただく。一曹にも処分を与えるつもりだ」

 

 

「処分といいますと?」

 

 

「記憶処理を施した上での懲戒処分が妥当だという

結論が出たが」

 

 

桐谷がきっぱりと言うと、ウェストコットは大きな

ため息を吐いた。

 

 

「何を言っているのですか。あれを扱えるレベルの

魔術師(ウィザード)なんて、そうはいませんよ?」

 

 

「……そういう問題ではないのだよ、ミスター。

これは隊の規律の問題だ」

 

 

「オォゥ……」

 

 

桐谷の言葉に、ウェストコットは大仰な仕草で

額に手を置き、細く息を吐いた。

 

 

そして桐谷の目の前の机に手を突き、ずいと顔を

寄せて口を開く。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『……っ』

 

 

ウェストコットの言葉に、部屋に居並んだ武官たちが

一斉に息を詰まらせた。

 

 

それだけの迫力が彼にあったのも確かなのだが──

それではあるまい。

 

 

アイザック・ウェストはDEM社の業務執行取締役(マネージング・ディレクター)

つまり、世界中の顕現装置(リアライザ)を牛耳っていると言っても

過言ではない男だ。

 

 

三〇年前、人類が手にした奇跡の技術。

 

 

空想を現実に再現する魔術(まじゅつ)の一端。

 

 

 

一般には公表されていないものの、既に顕現装置(リアライザ)

各国の重要機関に配備されている。

 

 

もし仮に、DEM社の気まぐれで、特定の国に顕現装置(リアライザ)

が供給されないという事態にでもしてしまったなら、

その国の力を大きく削ぐことになってしまう可能性

さえあるのだ。

 

 

桐谷陸将が、ごくりとのどを鳴らすのがわかる。

ただでさえ今、陸上自衛隊はDEM社に大きな借りを

作ってしまっているのである。ここで判断を誤って、

ウェストコットの機嫌を損ねたならば、間違いなく

厄介なことになるだろう。

 

 

だが。桐谷はぎりと奥歯を力強く噛み締めると、

拳を机に打ち付けた。

 

 

「……舐めるなよ民間企業。この決定は覆らん。

鳶一一曹は懲戒処分だ」

 

 

言って、キッとウェストコットを睨み付ける。

 

 

一瞬部屋中から息を呑む音が聞こえてくるが──

異議を差し挟む者はいなかった。

 

 

当然といえば当然である。自衛隊の幹部が外国企業の

要求に屈するなどというその前例を、こんなところで

作ってしまうわけにはいかないのだ。

 

 

「ご立派」

 

 

しばしの間無言で桐谷とそんな視線を交じらせていた

ウェストコットは、ふぅと息を吐くと、ジャケットの

内ポケットからスマートフォンを取り出し、どこかに

電話をかけ始めた。

 

 

「──ああ、どうも。お久しぶりです。ええ、実は

ご相談したいことがありまして……」

 

 

そして幾度か言葉を交わしたのち、ウェストコットは

桐谷に電話を手渡した

 

 

「……? 何を──」

 

 

「出ていただければわかります」

 

 

桐谷は訝しげに表情を歪めながらも、ウェストコット

から電話を受け取った。

 

 

そして、それから数秒後。

 

 

 

「……ッ、佐伯防衛大臣……⁉︎」

 

 

 

桐谷はガタッと椅子を揺らしながら、顔を驚愕に

染めた。

 

 

「は……ですが。───い、いえ、決してそのような

ことは……」

 

 

桐谷は額に汗を滲ませながら、眉間に盛大なまでの

しわを刻む。

 

 

そして通話を終えた桐谷は、電話をウェストコット

に叩きつけるように放った。

 

 

「おっと。大事に扱ってくださいよ。最新型の携帯

なんですから」

 

 

「……貴様っ」

 

 

「ふふ、文民統制(シビリンコントロール)というのは本当に素晴らしい

システムですね。屈強な方々たちを相手取らずも、

一人の紳士と懇意にするだけで事が済む」

 

 

すると、ウェストコットは電話を内ポケットへと

しまい込み、桐谷に視線を送りながら小さく肩を

すくめ、発言を促すように手の平を表に向けた。

 

 

桐谷は忌々げにうめくと、先ほど打ち付けた拳を

再び振り上げ、机に叩きつける。

 

 

「鳶一折紙一曹を、二ヶ月間の謹慎処分とする

こととする……!」

 

 

『……⁉︎』

 

 

その宣言で、並んだ幹部たちが目を見開いた。

謹慎──要は、 顕現装置(リアライザ)の使用禁止。

 

 

折紙のしたこと考えれば、信じられないほどに

甘い処分である。

 

 

「陸将。それは」

 

 

「……ッ、黙れ。私は処分を伝えたぞ。これにて

査問は終わりだ。さっさと失せろ!」

 

 

「ですが」

 

 

折紙が言いかけたところで、遼子が泡を食って

立ち上がり、手を取ってきた。

 

 

「し、失礼します!」

 

 

言って敬礼をし、折紙を連れて早足にその部屋を

出ていく。

 

 

その際、ウェストコットが友人にするような動作で

小さく手を上げてきたが、折紙はそれを一瞥をする

だけで返さず、遼子に引かれるままに扉をくぐって

いった。

 

 

そして遼子は折紙を連れてさらにカツカツと歩き、

声が届かないの距離までに至ってから、再び言葉を

発してきた。

 

 

「……折紙、あんたさっさ何言おうとしたのよ」

 

 

「……、たとえ間接的とはいえ、自衛隊幹部が

外国企業の要求に──」

 

 

そう言いかけたところで、折紙はスパンッ! と

頭を叩かれた。

 

 

「何をするの」

 

 

「こっちの台詞よ。下手なことを言ってまた懲戒に

されたらどうするの!」

 

 

「……困る」

 

 

折紙がそう言うと、遼子は頭をくしゃくしゃと

かきながらはぁと息を吐いてきた。

 

 

「なら、いいじゃないの。偶然でもなんでも。

神様が強面のエンジェルを遣わしてくれたとでも

思っときなさい。……それに親御さんたちの仇、

取るんでしょ?」

 

 

「…………」

 

 

遼子の言葉に、折紙は拳をきゅっと握って静かに

うなずいた。

 

 

遼子は表情を弛ませ、応ずるように首を前に倒す。

 

 

と。

 

 

「……ん?」

 

 

そこで遼子が不意に眉をひそめ、通路の奥へと

視線をやる。

 

 

それにつられて首を後方へ回すと、廊下の曲がり角

辺りから、小さな小さな頭が二つ覗いていることが

わかった。

 

 

遼子と目を合わせてから、静かにそちらに向かって

歩いていく。そして、

 

 

「わっ!」

 

 

遼子が不意に声を発すると、その二つの頭はビクッと

震わせ、その場にどてんと倒れ込んだ。

 

 

「い、痛たた……何するんですかぁ」

 

 

「むぎゅっ、お、重いです、ミケ」

 

 

そこにいたのは、十代半ばくらいの少女たちだった。

片方は髪を二つに括り、来禅高校の制服に身を包んだ

女の子。もう片方は、作業服のその上に大きめの白衣

を羽織り眼鏡をかけた、金髪碧眼の少女だ。

 

 

その二人は岡峰美紀恵二等陸士(おかみえみきえにとうりくし)に、ミルドレッド・F・藤村二等陸曹(ふじむらにとうりくそう)実践要員と整備士という違いは

あれど、双方、折紙や遼子の同じASTのメンバーで

あった。年などが近いからか、妙に折紙に懐いてる

二人組である。

 

 

「ミケにミリィ。あんたら……こんなところで

何してるのよ」

 

 

腕組みしながら半眼を作った遼子がそう問うと、

二人は一瞬で姿勢を正し、あたふたと手振りを

始めた。

 

 

「あ、あの、それはですね、ええと、何ででしたっけ

ミリィさん」

 

 

「うぇ⁉︎ ミリィに振られても困りますよー」

 

 

遼子はそんな二人のその様子に、深いため息を

吐き出した。

 

 

「どうせ折紙が心配だったんでしょ。……ったく」

 

 

「あ、あぅう……」

 

 

「申し訳ないです」

 

 

美紀恵とミリィはすまなそうに言うと、しゅんと

肩をすぼませた。

 

 

だが美紀恵はすぐにバッと顔を上げると、折紙の方に

視線を向けてくる。

 

 

「そ、それで……! どうだったんですか、

折紙さん!」

 

 

美紀恵が叫ぶように言うと、ミリィもそれに倣うよう

面をすぐに上げた。そんな二人の様子に、遼子が再び

「ったく」と呆れ顔で軽い吐息をこぼす。そののち、

答えてやれ、とでも言うように折紙に視線を向けて

あごをしゃくてきた。

 

 

遼子に応ずるように小さく首を前に傾けてから、

唇を動かす。

 

 

「……二ヶ月間の謹慎処分が言い渡された」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、膝からがくりとその場に

くずおれた。

 

 

だがすぐに首をブンブンと振ると、ポケットから

辞表(じひょう)と書かれた茶封筒を取り出し、廊下へと

叩きつける。

 

 

「か、かくなる上は私もASTの職を辞めさせて

いただきたきゅ」

 

 

「言えてないですよミケ」

 

 

ミリィが、どうどう、と動物を宥めるように美紀恵の

背をさする。

 

 

「ていうか、落ち着いてオリガミの言った言葉を復唱

してください」

 

 

「え……? だ、だって折紙さんは二ヶ月の謹慎に

……え? あれ? 謹慎?」

 

 

目に浮かんだ大粒の涙を袖で拭い、美紀恵がその場に

立ち上がる。

 

 

「き、謹慎ってことは、ASTを辞めなくてもいいって

ことですか⁉︎」

 

 

「そう」

 

 

瞬間、絶望に染まっていた美紀恵の顔がパァァァっと

明るくなる。

 

 

「よ、よかったです……折紙さんが免職になったら

私……私……っ」

 

 

せっかく拭ったその涙が、再び美紀恵の目に浮かぶ。

美紀恵はそうまま感極まった調子で両手を広げると、

折紙に飛びついてきた。

 

 

「折紙さぁぁぁんっ!」

 

 

しかし折紙はそれに応ずることなどなく、咄嗟に

身を捻ると、向かってきた小さな体躯を受け流し、

すれ違い様、後頭部にエルボーを打ち込んだ。

 

 

別に美紀恵に攻撃をする意図などはなかったのだが、

身体に染み付いた感覚が、自分に向かってくる相手に

過剰反応を示してしまったのだ。

 

 

「へぶッ⁉︎」

 

 

何とも珍奇な叫び声を上げて、美紀恵がびたーん!

と勢いよく廊下に顔を打ち付ける。

 

 

「お、折紙さぁん……」

 

 

「……、突然来られたら、驚く」

 

 

「そ、そんなぁ……結構感動的なシーンでしたよね、

今の……」

 

 

真っ赤になった鼻と額をさすりながら、美紀恵が

ずずっと鼻水を啜る。

 

 

と、そんな美紀恵の無様である姿を横目に見ながら、

遼子が腰をかがめ、廊下に落ちていたその茶封筒を

ひょい、と摘み上げた。

 

 

「ふーん………ASTを辞めたいんだ。仕方ないわね。

人手不足は痛いけれど、ご丁寧にこんなものまで用意

されちゃ、無下に断るわけにもいかないか」

 

 

言って、遼子が大げさなジェスチャーを交えながら

肩をすくめ、わざとらしくため息を吐いてみせる。

 

 

「へっ⁉︎」

 

 

素っ頓狂な声を上げたのはもちろん美紀恵だった。

両目をまん丸に見開き、慌てた様子でパタパタと

遼子の方に走っていく。

 

 

「あ、あの! それは……!」

 

 

「んー? なーにー。どうしたのミケ。……ああ、

馴れ馴れしい呼び方してごめんなさいね岡峰さん。

大丈夫、あなたならきっとこれからの人生も上手く

やっていけるわよ」

 

 

「ち、違うんです! それは違うんですぅぅっ!」

 

 

ミケが隊長から辞表を取り返そうと手を伸ばす。

だが、すんでのところで遼子がひょいと辞表を

摘んだ手を上げた。

 

 

「そ、それは、それは何かの間違いなんです!

悪の組織の陰謀なんですぅぅぅ!」

 

 

「間違いって……あんたが書いたんでしょうに」

 

 

美紀恵がぴょんこぴょんこ飛び跳ねるタイミングに

合わせて、遼子がひょいひょいとその辞表を上片へ

逃す。

 

 

 

明らかに、遊んでいた。生真面目な遼子にしては

珍しく行動だったが……先ほどのストレスなども

あったのかもしれないし、ただ単にあの美紀恵が

全身からいじめてオーラを出しているからかも

しれなかった。

 

 

と、折紙がそんな様子をいつもと変わらない視線で

見つめていると、ミリィがあははと朗らかな笑みを

浮かべてくる。

 

 

「まあ、二人とも、オリガミがクビにならずに済んで

とても嬉しいんですよ。………でも謹慎二ヶ月程度で

済みましたねえ。正直、免職以外あり得ないと思って

いたんですけれども」

 

 

何を言ったらいいのだろうか、折紙がそんな説明を

しあぐねていると、ミリィがハッとした様子で両手

戦慄(わなな)かせ始めた。

 

 

「っ! ま、ままままさか……」

 

 

「ミルドレッド?」

 

 

不審に思い、名を呼んでみる。だがミリィはまったく

気付かぬ様子で頬を紅潮させ、額に汗などを滲ませて

いった。

 

 

「普通に考えれば懲戒クラスまでの不祥事……でも

オリガミに下された処分は謹慎……あまりに軽すぎる

不自然な処分……暗い部屋…… 好色な笑みを浮かべる

上官たち……『君はクビになりたくはないだろう? だったら何をすればいいのかわかってるよなあ?』

……嗚呼、オリガミは屈辱的な格好で這い蹲らされ、

誰にも見せたことのない乙女の──」

 

 

「こらッ!」

 

 

「ぎゃん!」

 

 

げしっ、と遼子の強烈なその拳がミリィの脳天に

振り下ろされる。

 

 

「な、何をするんですかー! ミリィの脳天は人類の

至宝ですぞー!」

 

 

「うっさい、考えてること全部口から漏れてるわよ」

 

 

「も、漏れてるって……まさかそんなマニアックな

プレイまで強要され」

 

 

もう一度遼子の強烈な拳がミリィの頭を揺らした。

 

 

「いったたた……もう、ミリィがバカになったら

リョウコは責任とれるのですかー⁉︎」

 

 

「もう十分膿んでるわよこの耳年増」

 

 

遼子はやれやれといった調子で拳を開くと、ミリィの

頭をわしわしと撫でた。

 

 

と、そこで廊下の先から、そんな二人分の靴音が

響いてくる。

 

 

視線をそちらの方へと向けると、黒いスーツの男と、

サングラスかけた右目に黒い眼帯をしている少女の

姿が確認できた。アイザック・ウェストコットと

その秘書だ。

 

 

「………」

 

 

ぺこり、と頭を下げる。そんな折紙の様子を見て、

他の面々もウェストコットの存在に気付いたらしい。

ピタリとじゃれ合うのを止め、口を噤んでその場に

直立する。

 

 

「──ああ」

 

 

ウェストコットはこちらに気付いたように眉を

動かすと、折紙の脇を通る瞬間、その肩にポン、

と手を置いた。

 

 

 

「期待しているよ、若き魔術師(ウィザード)。君ならきっと、精霊を討ち滅ぼせる」

 

 

 

「…………っ」

 

 

折紙はごくりと唾液を飲み下した。

 

 

敵意を感じるでも、殺意を感じるまでもない。だが、

折紙の心臓は普段から考えられないくらいに急速に

収縮を繰り返していた。まるで───今しがた隣を

通り過ぎたその男に、恐怖を感じてでもいるかの

ように。

 

 

「あれを」

 

 

ウェストコットがそう言うと、秘書が懐から小さな紙

を取り出し、折紙に手渡した。

 

 

「どうぞ」

 

 

無言で、それを受け取る。そこにはI.R.P.Westcottの

名前と、電話番号と思しき数字の羅列、そしてメール

アドレスが書かれていた。

 

 

「何か困ったことがあったならいつでも言って

くれたまえ。──デウス・エクス・マキナは、

君への()()を惜しまない」

 

 

「……感謝します」

 

 

書かれている名刺を受け取り、静かな声で返す。

だが結局、その目を見返すことはできなかった。

 

 

そんな折紙の様子に気付いているのかいないのか、

ウェストコット本人は小さな笑みを浮かべてから、

秘書を伴って歩み去っていった。

 

 

「あ、あのー……今のって」

 

 

「どちら様です?」

 

 

ミケとミリィが、まったく同じタイミングで首を

傾げる。緊張した面持ちを作っていた燎子は呆れた

様子で頭をかくと、二人に半眼を向けた。

 

 

「DEM社のウェストコット氏よ。テレビとか雑誌で

見たことないの? ……ていうか、ミケはまだいい

として、ミリィ。あんたDEM社の出向でしょう。

なんで知らないのよ」

 

 

CR‐ユニットの要である顕現装置(リアライザ)を製造できるのは、

世界中でDEM社のみである。ゆえに顕現装置(リアライザ)を配備

している各国の軍隊や警察組織には、DEM社からの

監督役や整備主任が派遣されているのだ。ミリィも

また、そんな人員の一人だった。

 

 

しかしミリィは、燎子の言葉に「あー」と指をあごに

当てた。

 

 

「そういえばそんな人いたかもしれませんねー」

 

 

「そういえばって……あんたのところの親分

じゃない」

 

 

「あはは、メカニックとマネージャーなんてそうそう

顔合わせる機会ないですからねー。経営陣なんてのは

黙ってミリィたちにカネ出してくれてりゃ誰だって

いーですし」

 

 

「さらっと問題発言するわねえ」

 

 

燎子が苦笑する。だが折紙は、そんなやり取りが

ほとんど耳に入っていなかった。

 

 

手の平の上に残された名刺。そこに書かれた数字と

文字の羅列などを睨むように見つめ──もう一度、

のどを唾液で湿らせた。

 

 

 

 

 

 

 

ウェストコットはカツカツと廊下に靴音を

響かせながら、静かに息を吐いた。

 

 

「──見たかエレン。誰も彼も、ことの重大さを理解

をしていない。そんな無能者が雁首を揃えて、万人に

一人の天才を糾弾しているというんだから、まったく

おかしなものだ」

 

 

「そうですね」

 

 

ウェストコットの数歩あとを歩きながら、眼帯の少女

──エレンが静かに返答してくる。

 

 

「しかし、未精製の魔術師(ウィザード)が〈ホワイト・リコリス〉

を動かせるとはね。──キリタニがあれでもトビイチ

オリガミの処分を撤回しないようであれば、彼女を

我が社へと迎え入れてもよかったかもしれないな。

そういった意味では、彼が折れてくれたのは少し残念だよ」

 

 

「DEMに、ですか」

 

 

「ああ。時間をかけて丁寧に魔力処理などを施せば、

マナやアルテミシアや………それこそ、世界最強の

魔術師(ウィザード)、エレン・メイザースさえ超える魔術師(ウィザード)になる

かもしれない」

 

 

「…………」

 

 

ウェストコットが目を細めながら言うと、世界最強の

魔術師(ウィザード)はしばらく押し黙った。冗談だとわかっている

だろうに、もしかしたら少し不機嫌になってるのかもしれない。ウェストコットはそんな表情をしている

エレンがたまらなく可愛らしく思えて、小さく肩を

すくめた。

 

 

だがエレンはすぐに、何かを思いだしたように

声を上げてきた。

 

 

「──そういえば、二つご報告が」

 

 

言って、エレンが手にしていたファイルを開く。

 

 

「報告?」

 

 

「はい。関東近辺に連続して現界していたAAAランク

精霊───識別名〈プリンセス〉が、およそ三ヶ月前

から確認されなくなっていることについては、先日

お伝えしましたね」

 

 

「ああ、聞いたよ。だが別にそんなことは珍しく

ないだろう?」

 

 

「はい。ですが、これを」

 

 

エレンがとある一枚の写真を、ウェストコットに

向けてくる。

 

 

そこには二人の少女の姿が収められていた。一人は、

先ほど顔を合わせた鳶一折紙一曹である。そういえば

彼女は予備隊員の扱いで、平時は高校に通っていると

聞いていた。

 

 

だが──問題は、もう一人の少女の方だった。

 

 

折紙と同じデザインの来禅高校の制服に身を包んだ、

細身の少女である。腰まであろうかというあの夜色の

髪に、美しい面。一度見たならば生涯忘れなどしない

であろう、幻想的な水晶の瞳。

 

 

間違いない。間違えようがない。それは、

 

 

「──〈プリンセス〉、だと?」

 

 

ウェストコットは鼓動を早めた心臓を制しながら、

静かな声で言った。

 

 

そう。そこに写っていたのは、件の精霊・

〈プリンセス〉だったのである。

 

 

「どういうことだ、これは。精霊がハイスクールに

通っているとでも言うのか?」

 

 

ウェストコットが眉をひそめながら言うと、

エレンは小さく口を開いた。

 

 

「彼女の名は夜刀神十香。〈プリンセス〉が姿を

眩ましたのと同時期に、都立来禅高校に転入した

女子生徒だそうです」

 

 

「自衛隊の対応は?」

 

 

「鳶一一曹から精霊に酷似した女子生徒がいるとの

報告はあったようですが、観測の結果精霊の反応が

確認できなかったため、一般人と断定した模様です」

 

 

「観測方法は」

 

 

「DS‐06による外部観測です」

 

 

「馬鹿な」

 

 

使用した観測器の名を聞いたウェストコットは、

右手で額を覆い、ため息を吐いた。

 

 

「精度の低い車載型の観測機で一度きり? 

それだけで他人の空似と断定したと?」

 

 

「そのようです」

 

 

「今確信したよエレン。平和呆けはどんな痴呆よりも

恐ろしい」

 

 

「至急、再調査を要請します」

 

 

「──いや、待て」

 

 

だが、ウェストコットは手を広げてそんなエレンの

動作を制止した。

 

 

「どうせお優しい自衛隊のお歴々に任せたところで、

健康診断と変わらぬような検査などをするくらいが

限界だろう」

 

 

「では」

 

 

「──ああ。()()()()()()()やらせていただくよ。

その方が手っ取り早いし、確実だ」

 

 

「しかし」

 

 

エレンが言ってくるのを制止する。彼女の言いたい

ことはわかってた。 この夜刀神十香嬢が精霊である

可能性がある以上、彼女が本性を現した際に対応を

するだけの戦力を用意しておく必要がある。

 

 

だが、AAAランク精霊に対応するだけの人員と装備

などを、ASTのお膝元で秘密裏に運用するのは非常

に困難だ。

 

 

要は、ご馳走を目の前に置かれながら、手を出せない

状況である。エレンが自衛隊やASTに再要請を出そう

としたのも、そんな考えがあったからだろう。

 

 

「──それをもう少し見せて貰えるかな」

 

 

「は」

 

 

ウェストコットがエレンの手元を指さすと、彼女は

短くそう答えてから、手にしていたそのファイルを

差し出した。

 

 

それをパラパラと捲り───ウェストコットは唇の端

を歪めた。

 

 

「ほう……まさか、〈アテナ〉まで現界してるとは、

グッドタイミングじゃあないか。───なあエレン、

最近精霊を相手にしていなくて身体が鈍ってるのでは

ないかね?」

 

 

「…………」

 

 

言うと、エレンはぴくりと頬を動かした。

 

 

ギリシャ近辺に連続して現界していたSSランクである

白銀の精霊────識別名〈アテナ〉の名前を聞いた

瞬間、エレンのその目には憎しみなどが満ちており、

右腕の義手を強く握りしめていた。

 

 

その瞳には、様々な感情が渦巻いているのだろう。

怒りや殺意などが混ざり合った歪んだ感情。

 

 

精霊は気まぐれで神出鬼没である。最強の戦力を用意

したところに都合良くその場へと出現してくれるとは

限らないし、仮に精霊を追いつめたとしても、すぐに

消失(ロスト)されてしまっては意味がない。

 

 

だが、その所在などがわかっているというのならば、

話は単純だった。

 

 

「この件は君に任せることにしよう。──エレン。

エレン・ミラ・メイザース。世界に二人と並ぶ者の

いない、人類最強の魔術師(ウィザード)よ。君にならばできる

はずだ。たとえ相手が、世界を殺す彼の悪逆の精霊

であろうとも」

 

 

エレンは、一拍おいてから答えてきた。

 

 

「もちろんです。相手が何者であろうと、私は()()

負けません」

 

 

ウェストコットは右眼の漆黒の眼帯を触りながら、

静かに冷たい声で言うエレンのその言葉と表情を

見てくつくつと、愉快そうに笑った。




最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎



【報告】

今回の作品は『五等分の花嫁 繋がり合う絆』
【アレンジ版】『とある暗躍の幻視者』をする
予定ですので、これからも楽しみにしてもらえたら、
本当にありがたいです‼︎


『他の投稿作品』もあるので、是非ともそちらも
楽しんで見ていただければ、本当にありがたいです‼︎
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