ことができました‼︎
今回は『12517文字』 までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎
短く息を吐いて、
長い間目を使っていなかったためだろうか、モザイク
がかかったように視界がぼやける。身体にも上手く
力が入らず、全身が鈍く痛んだ。
「ここ……は……」
一瞬、自分ののどから発されたその声が、誰のものか
わからなかった。渇ききったのどと、耳鳴りなどする
その鼓膜。声を誤認するには十分過ぎる要素だろう。
あとはもしかしたら、脳自体が自分の声を覚えて
いないのかもしれない。そんな馬鹿みたいな考えが
頭を過ぎる。
数分をかけて、真那は身体の感覚などを取り戻し、
自分の置かれている状況を確かめた。
白い部屋。大きなベッド。身体の至る所に綺麗な包帯
が巻かれ、左手には点滴、口元には酸素マスクが取り
付けられている。胸元の辺りには電極のようなものが
張り付けられ、真那の鼓動に合わせて近くの心電図が
規則的な音を鳴らしていた。
真那は思わず苦笑した。どこからどう見ても重体患者
のそれである。
「なんで、私は、こんな……」
そこまで言って、真那は目を見開いた。酸素マスクを
むしり取って、痛む身体を起こす。
そして首を回し、棚の上に置かれているデジタル時計
に目をやった。
──14:00 7/5 WED
「七月……五日……!?」
そこに記されていた時計のその日付を見て、真那は
息を詰まらせてしまった。
この時計が狂っているだとか、誰かが真那を騙そう
として意図的に時計の日付などをずらしているとか、
そういったことがない限り。
真那が〈ナイトメア〉──時崎狂三と来禅高校の屋上
で戦ったあの日から、ひと月近くの時間が過ぎていた
のである。
そう。あのとき真那は、天使を顕現させてきた本物の
狂三の前に為す術なく敗れ去ってしまったのだった。
あの場にいたのは真那と狂三以外に、士道、十香、
折紙の三人きり。誰も、あの絶望的である状況を
覆すことができるとは思えなかった。それが意味
すること。即ち……
「兄様……ッ!」
真那は胸に張り付けられた電極と、左腕に刺された
点滴を無理矢理外した。途端に心電図などが乱れ、
ピー、という音が鳴る。
そしてそこでようやく、真那は初歩的なことに
気付いた。
「なんで……私、死んでねーんでしょう……」
確かに身体は痛む。目は霞む。全身の感覚器が本調子
とは言い難い。
だが──生きている。
あの人喰い〈ナイトメア〉の前で無防備なまでの姿を
晒してなお、真那は生存していた。
だとすると、余計わけがわからなくなってしまう。
真那が気を失ってしまっていた時点で、戦況は最悪
だった。高校の屋上には大量の狂三の分身体が溢れ、
その最奥には、時を操る彼女の天使が鎮座していた。
誰でも一目見ればわかるようなそんな絶望的状況。
それを打破するような戦力が、そうそうこの世に
存在するとは思えない。
だが、それだと真那自身が生きてることに説明などが
つかないのである。──あの変態女が、気まぐれとか
そういった理由で意趣を返しでもしない限りは。
真那は痛む頭に手を置いた。真那が存命しているから
といって、他の面々に危害が及んでいないのか否かは
わからない。あの場所にいた皆は、一体どうなって
しまったのだろうか。
「……え?」
と──思案を巡らせていた真那は、不意に声を発して
眉をひそめた。
病室の扉が開き、黒いスーツを纏った数名の人間が
入ってきたからだ。
「──崇宮真那だな」
「……何者でいやがりますか、あなたたちは。
医者や看護師にしては
真那が視線を鋭くするも、黒服の男は微塵も
動じなかった。
「一緒に来てもらおう。手荒な真似はしたくないが、
抵抗するのならその限りではない」
「……ああ?」
真那は顔を不機嫌そうに歪めると、言葉を発した
男を睨み付けた。
「誰に向かってそんな口をきいているのかわかって
いやがるのですか? 手荒な真似? この私に?
はッ、できるものならしてみやがれってんです」
言って、真那はその場に立ち上がり、身体を慣らす
ように手首を振った。
「崇宮さん、どうかされましたか?」
言って病室の扉を開け──その看護師は凍り付いた。
「え……?」
崇宮真那の心電図に異常などが見られたということで
すぐに急いで様子を見に来たのだが……その病室には
今、誰もいなかったのである。
乱れたベッドの上には、取り外された酸素マスクや
電極、点滴の針などが散乱し、つい今し方まで人が
寝ていたことを示すようにうっすらとしたくぼみが
できている。
だが、左右に首を振っても、病室のベッドの下など
を覗いてみても、意識不明だったはずの患者の姿は
どこにも見えない。
看護帥は慌ててベッドの枕元に駆け寄ると、すぐに
近くのナースコールのボタンを押した。
「終わったー……」
聞き慣れたチャイムが校内に鳴り響くとそれと同時、
五河士道は力を使い果たしたように机に突っ伏した。
自分では見えないが、たぶん頭からは煙が立ち上って
いることだろう。
だがそれも仕方あるまい。何しろ士道は今、学校生活
におけるそんな難敵の一つ、期末試験を終えたばかり
なのだから。
「はいはーい、ダレてちゃ駄目ですよぉ。
うしろから答案を集めてくださーい」
パン、パンと軽くその手を叩き、教卓の前に立った
小柄な眼鏡の教師が声を上げる。このクラスの担任、
岡峰珠恵教諭・通称タマちゃんである。
生徒たちはゾンビのような挙動で身を起こすと、
順にテストを前の席へ送っていった。
いつもよりもクラスメートのゾンビ率が高い気が
したのだが、それも当然だろう。
ただでさえ範囲の広い期末考査だったというのに、
この学校の生徒たちは、つい数日前まで、集団で
病院送りになっていたのである。
先月末、来禅高校にいた生徒・職員が皆意識不明に
陥るという事件が発生した。
徹底的なガス管や建材、あとはガスを発する異物等の
検査などの末、休校は解除されたのだが……無慈悲な
ことに、期末試験の日程などは一日も動かなかった
のである。
「……ん?」
と、プリントの束に自分の答案を載せて前に送ている
際に、右隣の席に座っている少女の姿が目に入った。
一瞬前の士道と同じように、机にびたー、とした状態
で突っ伏している。
「十香、大丈夫か?」
「う、うむ……」
士道が話しかけると、十香がゆらりと顔を上げた。
「どうだった?」
「む……むぅ、まあまあだ」
十香が疲れ果てた顔で、ひらひらと手を振ってくる。
前の中間試験では、答案用紙に落書きをしていただけ
(点数は令音が赤点にならないよう手を回していた)
の彼女だったのだが、士道に目の前のテストの意味を
聞いてからは、自分で頑張ってみせると勉強を始めて
いたのだった。どうやら、士道がテスト勉強などを
しているのに、自分だけが何もしないでいるのが
嫌だったらしい。
自発的な十香のその行動は〈ラタトスク〉側としても
望むところらしく、テスト数日前に五河家で勉強会を
開いたのだが……やはり慣れない勉強は相当に彼女の
体力を削っていたらしい。実際、その勉強会を始めて
一時間で熱を出していた。ある意味、本当の知恵熱
である。
「はい、ではこれで、一学期末テストは全教科終了と
なります。皆さんお疲れさまでした」
タマちゃんが声を上げる。教室中から歓声と放念の
息が漏れた。
「でも、今日はまだ決めることが残ってますから、
帰っちゃだめですよぉ?」
タマちゃんは念を押すように言うと、大量の答案用紙
の束を整え、教室を出ていった。
と、それに合わせるように、カッサカサになっている
十香がゆらゆらと椅子から立ち上がる。
「シドー……少し、水を飲んでくる」
「お、おう。大丈夫か?」
「うむ……心配するな。少し疲れただけだ」
言うと、十香はふらふらした足取りで教室を横切り、
扉を開けて廊下へと出ていった。
「はは……まあ、頑張ったもんな」
士道は十香の背を見送ってからふうと息を吐くと、
椅子の背もたれへと身を預け───ぴくりと眉を
動かした。
理由は単純。視界の端に、左隣の席に座った女子生徒
の姿が映り込んだからだ。
肩口をくすぐるその髪をピンで留めた、色白の少女で
あった。首を左──窓の方に向けてるため、顔などは
窺い知れないのだが、そこには表情らしきものなどが
微塵も浮かべられていないであろうことは容易に想像
がついた。
鳶一折紙。士道のクラスメートにして、精霊を狩る
ASTの隊員である。
「……ぅ」
何をしているわけでもないのに、心臓が軋むように
痛んだ。思わず顔を歪めてしまう。
士道は先月の一件を最後に、一度も折紙と会話を
交わしていなかったのだ。
なんとなく、この機会を逃しては、また話しかける
そんなチャンスを逸してしまうような気がした。
意を決して唇を開く。
「お……折紙」
士道が名を呼ぶと、折紙は一瞬肩をぴくりと
揺らしてから振り向いてきた。
「──なに」
そして、いつものように静かで抑揚のない声音で、
そう言ってくる。
なぜだろうか、そんな折紙の調子に少しだけホッと
してしまった。
だが、その言葉を最後に、士道と折紙の間に沈黙が
流れた。
「え、ええと」
このまま黙っていても仕方がない。士道はあの一件の
あとのことを訊こうとした。
だが、さすがにクラスメートの耳があるこの教室で
そんな話をするわけにもいくまい。
幸い帰りのホームルームまでは少し時間があるし、
十香も席を外している。士道はごくりと唾液を飲み
下してから、再び口を動かした。
「折紙。ちょっと、今から二人きりになれる場所に
行かないか?」
「…………っ」
士道がそう言ったところで、折紙が眉を動かした。
「
そしてなぜか、一言ずつ区切るように言ってくる。
「ああ。ほら、前話をした階段の上とかでも──」
「──きて」
折紙はすっくと立ち上がると、そのまま士道の手を
むんずと掴んで歩いていった。
「お、おい、折紙?」
名前を呼ぶも折紙は答えなかった。屋上に至る階段
には目もくれず、ひとけのない校舎の奥へと足音を
響かせていく。
そして折紙はそのまま、校舎の端にある女子トイレへ
向かっていった。
「いや、ちょっと待てよ!」
「なに」
士道がすんでのところで手を振り払うと、折紙が
不思議そうに首を傾げてきた。
「ここは教室から離れているから、テスト期間中は
まず誰も来ない」
「いや、そうかもしれねぇけど!」
「大丈夫」
「ちょッ、やめ───いやマジでどこ連れて
くつもり!?」
士道の抵抗は意味を成さなかった。士道はぐいと手を
引かれると、そのまま一番奥の個室に連れ込まれ、
ガチャリと鍵を掛けられた。
「……ええと」
明らかに二人以上の人間が入ることを想定されて
いない手狭な空間で折紙と向かい合いながら、
士道は頬に汗を垂らした。
と、そんな視界の端で、何やら折紙がモゾモゾと
動き始める。
「折紙、何して──」
言いかけて、息を詰まらせる。
だがそれも当然だろう。何しろ折紙が両手を左右から
スカートの中へと差し入れたかと思うと、そのまま
白の下着をぐいと足の中程まで下ろしたからだ。
「ちょっ、待てっ! ストップ! よ、用足すのなら
外で待ってるから!」
「……?」
しかし折紙は、そんな士道の反応こそ意外といった
顔をして首を傾げた。
そしてすぐにポンと手を打つと、下着を穿き直し、
今度はその場にしゃがみ込んだ。そして士道の腰元に
手を伸ばし、カチャカチャとベルトの金具を外そうと
してくる。
ひッ! と息を詰まらせ、泡を食ってすぐに折紙の
両腕を掴み、動きを止めさせる。
「何してんだ! 何してんだ!?」
「……? では、何をするためにこんなところに
連れ込んだの?」
「連れ込んだのは折紙さんですよね!?」
半ば泣きそうになりながら必死に叫んでから、
どうにか息を整える。
「俺は……ただ、先月のことについて話をしようと」
「……ああ」
士道がそう言うと、折紙は納得したような、そこは
かとなく残念そうな顔を作った。
「……何をすると思ってたんだ?」
「それは」
「やっぱ言わなくていいですごめんなさい」
「そう」
折紙はすっくと立ち上がって士道の顔を見ると、
静かに唇を開いてきた。
「───査問の結果、二ヶ月間の謹慎処分が
言い渡された」
「え?」
「あのあとのこと」
「謹慎……ってことは、ASTを辞めずに
済んだのか!?」
士道が驚愕の声を上げると、折紙は黙って首を前に
倒した。
「そっか……クビにはならなかったのか」
胸元に手を置き、ほうと吐息する。すると折紙が、
微かに眉を揺らした。
「なぜそんな反応をするの」
「あ、いや……確かに、そうだな。なんでだろうな」
言われて、士道は困ったように頭をかいた。
士道は折紙に、精霊と戦って欲しくないはずなのに。
できることならば、ASTから抜けて欲しかったはず
なのに。
なぜだろうか、折紙の口からそれを訊いたその瞬間、
少しだけホッとしてしまったのだった。
「──私は、まだ納得しきったわけではない」
「……っ」
折紙の言葉に、息を詰まらせる。
彼女が何のことを言っているのか、一瞬で察しが
ついてしまったからだ。
「炎の精霊、〈イフリート〉。あなたは、私の両親を
殺した精霊の一体は彼女ではないと言った。───
でも、それを証明する決定的証拠は、ない」
「……、それは……」
折紙は、過去に両親を殺した精霊たちを討つために、
ASTに入隊したのだという。
そして先月。彼女はようやくその仇と思しき精霊の
一体と見えた。士道の妹──琴里と。
無論、折紙は全てを擲ち、法と規定を犯してまで
琴里を殺そうと襲いかかってきた。
だがそのとき、士道は思い出してしまったのだ。
五年前の記憶を。炎に包まれた街の情景を。
そして──そこにいた、白銀の精霊。〈アテナ〉
以外のもう一人の精霊の存在を。
「確かにそうかもしれない。でも……信じて欲しい。
俺は、絶対に嘘は──」
「勘違いしないでほしい。士道のことを信じていない
わけではない。あなたの言葉は、信じたい。───
それに、どちらかといえば、士道のその言葉が正しく
あって欲しいと思っている」
「え……?」
「私も、できることなら士道の妹を殺したく
なんてない」
「折紙……」
士道は一瞬目を見開いてから、拳をくっと握って
小さく頭を下げた。
「──ありがとう、折紙」
「それは、こちらの台詞」
折紙が、再び士道から目を背け、そんなことを言う。
彼女の意図がわからず、士道は微かに眉根を寄せた。
折紙がゆっくりと視線の位置を元に戻しながら、
少し躊躇いがちに唇を動かしてくる。
「感謝している。……私に、変わらずいつものように
話しかけてくれて」
「……いや、おまえな」
「私は、あなたの妹を殺そうとした人間。──いえ、
それ以前に三ヶ月前、私はこの手であなたを殺して
しまうところだった」
「…………」
士道は苦虫を噛み潰したようなそんな顔を作ると、
頭をくしゃくしゃと掻きむしった。
「気にするな………とは言えねえよ。でも───
それでも俺は、折紙、おまえと今まで通り話したい
と思ってる。──駄目か?」
士道が問うと、折紙は一瞬逡巡のようなものを
見せてから、ふるふると首を横に振った。
「ん」
士道は腕組みすると、再び首を前に倒した。
「じゃあ、そろそろ教室戻るか。すぐホームルーム
始まるし」
「──待って。一つ、確認しておきたいことがある」
「ん、なんだ?」
士道が身体を後方に向け直しながらそう言うと、
折紙が士道の顔をジッと見つめてきた。
「──士道。あなたは、人間?」
「……っ」
思わず言葉を詰まらせる。──だが、それは十分
予想できた質問だった。
「前から、不思議に思っていた。私はあのとき、
間違いなくあなたを撃った。………でも、あなたは
数日後、傷一つない状態で学校にきた。それに──
この前の遊園地のときも」
そう。折紙が琴里を襲撃した日。士道は、琴里の霊力
を封印し、琴里から得た再生能力を示した上で折紙に
言ったのだ。
──
──だから、
「ぐ……」
思えば、士道も無茶をしたものである。
折紙を説得するためには仕方なかったことはいえ、
精霊と敵対しているそんなAST隊員である彼女に、
自分の秘密を漏らしてしまったのである。
そんな思考を表情から推し量ったのだろうか、
折紙が士道の言葉を待たず口を開く。
「安心して。上には、報告していない」
「っ、そうなのか?」
問うと、折紙はほとんど間をおかずにうなずいた。
「でも、一体なんで……」
「不確定な情報などを流して隊を混乱させるわけには
いかない。それに、もしもあなたが精霊であると判断
された場合、あなたの討伐指令が出る可能性がある」
「……っ!」
心臓がどくんと脈打つ。討伐指令。その文言は一つの
事柄しか示さない。つまりは──ASTが、機械の鎧を
纏ってる現代の魔術師たちが、その全力を以て士道を
殺しに来るということである。
だが、それも無理からぬことである。何しろ、士道は
精霊の力を封印し、一部とはいえそれを使用している
というのだ。精霊と断じられても不思議はない。
しかし──
「俺は……人間だよ。少なくとも、自分自身では
そのつもりだ」
意図せず琴里と同じ言い回しになってしまったが、
そう言う他なかった。
「そう」
「……疑わない、のか?」
「言ったはず。あなたの言うことは、信じたい」
ちらと士道の顔を見るように首を回し、続ける。
「いつか、もし私に話してくれるときが来たなら、
詳しい話を聞かせて欲しい」
「……すまん。ありがとう」
士道が言うと、折紙は個室の扉を開けて、
「士道。最後に言っておきたいことがある」
「どうした、折紙?」
折紙は思い出したのか、視線を士道に向けてくる。
そんな折紙に戸惑いながらも、士道は返事をする。
「〈アテナ〉を殺すのを邪魔しないでほしい」
「え……?」
折紙の言葉に士道は顔を困惑に染めた。
「これ以上、あなたを巻き込みたくはない」
「ち、ちょっと待った。何を言ってるんだよ……?」
士道は声を震わせながら問うと、折紙は決意した
ように拳を握ってから、唇を開いた。
「〈アテナ〉は危険。二度と私のような人間たちを
作らないためにも、彼女の存在自体を許すわけには
いかない」
仇の精霊の一人である白銀の精霊──〈アテナ〉
しか見えていないのか、折紙のその瞳には殺意が
宿っているのがわかった。
「お、折紙……」
折紙の仇の精霊の一人が〈アテナ〉だという現実に
戸惑いながらも、何か言おうと考えてみるのだが、
一向に浮かばない。
「士道にそれだけは、言っておきたかった」
折紙はそう言って、トイレから出ていった。
「それでも、俺は……」
士道は納得がいかなかったのか、一人になった個室で
拳を力強く握りしめる。
真那を含めた大勢の
殺してきた〈アテナ〉の行動はどんな償いをしても
決して許されることではない。
それでも、白銀の少女を救う。
そして──折紙も。
二人を救うことができるのは、士道しかいない。
そのあと、士道はそう決意をした後、とんでもない
デンジャーゾーンに一人置き去りにされてたことに
気付き、キョロキョロと辺りの様子を窺いながら、
そそくさとトイレから逃げ出した。
が、折紙のあとを追って廊下を歩いていき、教室に
戻ったところで、
「……シドー?」
背後から訝しげな十香の声がして、士道はビクッと
肩を揺らした。
「と、十香……」
どうやら水を飲み終えたらしい十香は怪訝そうに
士道と折紙を交互に見ると、険しい顔をしながら
言葉を続けてきた。
「……なぜシドーと鳶一折紙が、女子トイレから
出てきたのだ?」
「ッ!」
瞬間、顔面にぶわっと汗が噴き出る。完全に、
見られていた。
「い、五河君……どうして……」
「い、いや、それは……その……」
しかも、零も信じられないといった表情で士道を
見ていた。しかも、ドン引きすらしている。
士道は事情を説明しようとしたが、もう周囲には
親友の零を含めた生徒たちの姿が見受けられる。
下手なことは言えなかった。
「…………」
と、折紙が無言のまま、意味ありげな表情で士道に
目配せをしてくる。
「なんだ今のは! 一体何をしていたのだ!?」
「内緒。二人だけの、秘密」
「な、なんだと!?」
折紙が人差し指を一本立て、鼻の前に持っていく。
その折紙らしからぬコミカルなジェスチャーに、
十香は目を見開いて叫びを上げた。すぐさま、
士道に鋭い視線を向けてくる。
「シドー! 何をしていたのだ!」
「え!? や……その、だな」
士道は気まずげに頭をかいた。別に十香に言う分には
構わないのだが……四〇人弱もの生徒が密集している
教室で先ほどの折紙との話の内容をするのはあまり
気が進まなかった。
「……すまん、あとでな」
「!!」
仕方なく士道が頭を下げると、そんな十香は背後に
『がーん!』という擬音が見えるかのような表情を
作ってその場にくずおれた。
「と、十香!」
「うっ、ううぅぅぅ……なぜだ、なぜ鳶一折紙は
よくて、私は駄目なのだ……」
悔しそうにうめき、歯をぎりぎりと噛み合わせる。
「お、落ち着け! あとで! あとでちゃんと
話してやるから!」
「ほ、本当……か?」
「本当! 本当だから!」
足を折って膝を突き、あたふたと手を動かしながら
訴えかけると、どうにか十香は不安そうなその顔を
上げた。だが、
「……言えない。あんなことをされたなんて」
折紙の言葉に、十香が愕然と目を見開く。
「し、シドー……? おまえ、一体何を……」
それと同時に、周囲からもひそひそとした声が
聞こえてきた。
「えー……五河君サイテー」
「鳶一さんのあんな顔初めて見た……」
「真っ昼間の学校でナニしてんのよ」
「十香ちゃんというものがありながら……」
「ちくしょう……ちくしょう……」
「なあ毒出すのって酸性と塩素系だっけ?」
「今すぐ賛美歌13番をリクエストしろ」
「いや、何もしてねえって! ていうか後半!
何しようとしてんだよ!」
弁解の声を上げる。だが、周囲から注がれた
粘っこい視線は一向に晴れなかった。
と、そこで、背後から教室の扉が開く音が聞こえ、
タマちゃん教諭が現れる。
「はいはーい、皆さん席に着いてくださぁい。
ホームルームを始めますよぉ」
「! ほ、ほら十香! とりあえず席着こう!
な!? みんなも!」
天の助けである。士道は必要以上に大きな声で
叫ぶと、自ら率先して椅子に腰掛けた。
皆まだ何か言いたげだったが、先生が来てしまった
以上仕方がない、と席に戻っていく。十香もまた、
「……あとでちゃんと全部教えるのだぞ」と士道に
そう言いながら着席した。
そんな様子を見てか、タマちゃん教諭がくすくすと
笑みを漏らす。
「あらー、楽しそうですねぇ。みんなで何して
たんですかぁ?」
「いえ、お気になさらず……」
士道が汗を滲ませながら言うと、タマちゃん教諭は
「あらあらー」と楽しそうに笑ってから教卓の前に
立った。
「さ、じゃあ帰りのホームルームを始めまぁす。
でも、その前に決めておかないといけないことが
あるんですねぇ」
「はーい、何決めるんですかー?」
殿町が手を高く挙げ、質問を投げる。タマちゃんは
小さくうなずいてから声を続けた。
「修学旅行の部屋割りと、飛行機の席順ですよぉ」
「……あ」
タマちゃんが言った瞬間、士道は声を上げた。
そういえば、七月の半ば──夏休みの直前に、
沖縄への修学旅行が控えていたのだ。
集団昏睡事件に、期末試験。それに精霊関連などの
様々な案件のため、学生生活における一大イベント
を失念してしまっていたのである。
とはいえ、それは士道だけではなかったらしい。
クラスの三分の一くらいは、士道と同じように
「あー……そういえば」とうなずいていた。
「うふふ、みんな忘れんぼさんですねぇ。
さ、じゃ早いところ──っと、そうだ」
と、タマちゃんが、何かを思い出したように眉を
跳ね上げ、出席簿に挟んであったそのプリントを
取り出した。
「その前に。──今回の修学旅行、行き先が変更に
なりました」
『──え?』
クラス中の声が、見事に重なる。
それはそうだ。修学旅行まであと半月程度しかない
のである。そんな土壇場になって行き先などが変更
になるだなんて、聞いたことがない。
「んん……まぁそうなりますよねぇ」
「ええと、それで、どこに変更になったんですか?」
再び、殿町が質問を投げる。
そう。なぜ急に行き先が変更になったのかも確かに
気にかかるのだが………皆にとって一番大事なのは
そこだった。
何しろ元の目的地は沖縄だったのである。青い海白い
砂浜、さーたーあんだぎーとちんすこうなどをかじり
ながら珊瑚礁とめんそーれな旅行のメッカなのだ。
この日のために水着などを新調している女子だって
少なくはない。これでもしも海無し県に変更にでも
なったのなら、冗談抜きに暴動が起きかねない。
そんな不穏なまでの気配を肌で感じ取ったのか、
タマちゃんが少し上擦った声で続けた。
「だ、大丈夫ですよぉ。変更後の場所も、とっても
素敵なところですから」
「だから、結局どこになったんですか?」
「ええと……或美島です」
タマちゃん教諭がその名を発すると、クラスの半分
くらいが「あー……」とうなるようなその声を上げ、
もう半分が首を傾げた。
「或美島っていうと……確か伊豆の方だっけ?」
「まったく、なんだよ近場になってんじゃん。
グレードダウンかよ」
「いや、そうとも言えないぞ。観光地としては
悪くない」
「はいはい! 静かにしてくださぁい」
にわかに騒がしくなったクラスを静めるように、
タマちゃんがパンパンと手を叩く。
クラスの面々などは、「まあとりあえず海が無くなら
なかっただけでもよしとするか……」というクラスの
総意の下、大人しく教諭の指示に従った。
「細かい部分の説明は改訂版のしおりができてから
行いますので、とにかく今は部屋割りを決めちゃい
ましょぉ。好きな人同士で四、五人くらいの班を
作ってくださぁい」
タマちゃんが指示を出すと、皆は一瞬周囲のそんな
様子を窺うように視線を巡らせてから、ガタガタと
席を立ち、仲の良いグループを作っていった。
士道の方にも、殿町と零が歩いてくる。
「おう五河、部屋組も──」
「シドー!」
だが殿町の声は、右方からの叫びに掻き消された。
十香が、目を輝かせて机から身を乗り出している。
「その部屋割りとやら、一緒に組むぞ!」
「え……ええっ?」
思わず眉根を寄せて、素っ頓狂な声を出してしまう。
しかし十香は、なぜ士道が驚いているのかわからない
といった様子で不思議そうに首を傾げた。
「ぬ? どうかしたのか?」
「え、えーと……十香ちゃん?」
「いや、さすがにそれはまずいだろ」
「なぜだ? 五人一組になるのだろう?
ならば問題ないではないか」
「だ、駄目ですよ夜刀神さん。男子と女子は別々に
組んでくださぁい!」
その会話が聞こえていたのだろう、教卓の方から
タマちゃんが叫んでくる。
「むう……なぜだ? シドーと一緒がいいのだが」
「な、なぜって……それは」
タマちゃんは顔を
ごにょごにょと口ごもった。
士道はため息を吐くと、十香に向き直る。
「あんま先生を困らせるなって。とにかく、
部屋は男女別じゃないといけないんだ」
「ぬ……そうか」
十香は残念そうにしゅんと肩を落とした。が、
すぐにバッと顔を上げる。
「! そうだ!」
十香はそう言うと、教室の外へと走っていった。
そして扉がぴしゃりと閉じられたのち、廊下から
ロッカーをいじくるようなガタガタという音が響く。
一分ほどあと、再び教室の扉が勢いよく開かれ、
十香が入ってきた。 ──スカートの代わりに
ジャージを穿き、髪を引っ詰めにした十香が。
「……十香?」
「違う。わた──俺は、十……とお、そう、
とおるだ」
士道が名を呼ぶと、十香がなぜか意図的に低くした
声音でそう返してきた。 十香の意図を察するに、
それは……
「というわけだ。タマちゃん先生。俺は今日から
男なのだ。これで問題なかろう」
「大ありですっ!」
たまらず、といった感でタマちゃんが叫びを上げる。
「むぅ……これでも駄目なのか……」
十香が弱り切った顔でしょんぼりと背を丸める。と、
「──待って」
そこで予想外の人物が十香に助け船を出してきた。
折紙だ。
「夜刀神十香の言い分を認めてあげて欲しい。
是非柔軟な対応を」
「え……ええっ!?」
十香と犬猿の仲である彼女の発言に、タマちゃん教諭
が驚愕の表情を作る。否、先生だけではない。日頃の
彼女らの小競り合いを見ている面々が、一様に驚いた
顔をしていた。
「貴様……何が目的だ?」
「あなたの諦めない姿勢に感銘を覚えただけ。
あなたには男子の部屋に入る資格がある」
十香はしばしの間、警戒をするように半眼で折紙を
見つめていたが、数秒のあと、ふんと鼻を鳴らして
視線を逸らした。
「……れ、礼は言わんぞ!」
「必要ない」
「ちょ、ちょっとちょっと! 何二人で話を進めて
るんですかぁ! 駄目ですよぉ!?」
タマちゃん教諭がバンと教卓を叩き、制止する。
が、折紙はさして気にする素振りもなく
言葉を続けた。
「──ただし、男子として修学旅行に臨む以上、
きちんと決まりは守ってもらう」
「決まり?」
「そう。トイレも、入浴も、全て男子と一緒」
「な……ッ!」
『おぉ……ッ!?』
十香が顔を真っ赤にして息を詰まらせて、同時に
零以外のクラスの男子たちが一斉に色めき立つ。
そんな男子たちを、女子の一団がじとっとした
視線で見ていた。
「無論、身体をじろじろ見られようと、何かの弾み
に触れられようと、それは合法。なぜならあなたは
男子なのだから」
「な、ななな……」
十香が手を
睨み付ける。
しかし折紙は意に介さず、視線を士道の方に
向けてきた。
「──しかし、女子が一人男子になってしまったのは
非常に重大なイレギュラー。きちんと補完をする必要
がある」
「は……? それってどういう……」
「男子が増えてしまった以上、士道には女子になって
もらう他ない」
「いや意味がわかんねえよ!」
「一緒に洗いっこしよ、しど美」
「それ俺の名前!?」
士道はたまらず叫んだ。優等生である折紙の言うこと
だからきっと正しいのだろう、みたいな顔をしていた
クラスの面々も、さすがに「んん?」と首を捻る。
と、そこで何やらあごに手を当てての考えを巡らせて
いた十香がハッと目を見開いた。
「ちょっと待て! シドーが女子になったら、
私と一緒の部屋になれないではないか!」
「あなたは男子として強く生きて。応援している」
「う、うぬぅぅッ、図ったな、鳶一折紙ッ!」
「あーもう二人とも落ち着けッ! とにかく、男女は
別部屋だ! 性別入れ替えもなし!」
士道が今までで一番の大声を上げると、ようやく
二人は大人しくなった。
一応の落着を見てか、タマちゃん教諭もほうと
胸をなで下ろす。だが──
「ま、まあ、お部屋などは一緒というわけには
いきませんけど、飛行機の席順は自由ですからね。
そっちなら隣でもいいですよ?」
タマちゃんがそんないらないことを言った瞬間、
十香と折紙の目が再び輝いた。
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今回の更新する作品は『とある暗躍の幻視者』や
『五等分の花嫁 繋がり合う絆』の【アレンジ版】などを
更新してますので、見てもらえれば嬉しいです!
他にも『投稿作品』 がありますので、そちらの方も
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