デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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今回は八月に入ってからなんとかすぐに更新をする
ことができました‼︎


今回は『12084文字』 までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)


【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎


面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。


最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎


暴風少女(サイクロン・ガールズ)

「修学旅行? ああ、聞いてるわ。沖縄でしょう?」

 

 

五河琴里は空中艦である〈フラクシナス〉の艦橋で、

口にくわえたチュッパチャプスの棒を器用にピコピコ

と動かしながら部下の報告に応じた。

 

 

長い髪を黒いリボンで二つに括り、深紅のジャケット

を肩がけにしている少女である。そして、どんぐりの

ように丸っこい目。未だに幼さが残る貌。どう見ても

艦橋などという場所にはあまりにも似つかわしくない

小さな女の子だ。

 

 

「……いや、急に目的地が変更になった。

行き先は或美島だ」

 

 

目元に分厚い隈を蓄えた軍服姿の女──村雨令音が、

酩酊でもしているかのように頭頂部をゆらゆらと

揺らしながらそう言葉を続けてくる。

 

 

「変更? こんな時期に? なんでまた」

 

 

「……ああ。ひと月ほど前、クロストラベルという

旅行会社が学校側に接触してきた。なんでも観光PR

のため、ランダムに学校を選び、島に招致している

らしい。パンフレット用の写真を撮ることが条件と

なるが、修学旅行の費用は全て会社持ちという話だ」

 

 

「はー、随分太っ腹ね。……でも、いくら好条件とは

いえ、そんな土壇場に行き先を変えちゃうかしらね。

宿泊先とか決まってたんでしょ?」

 

 

「……なんでも、予定していた宿などが突然崩落し、

利用できなくなっているらしい。そこにそんな申し出

があったものだから、学校側としても飛びついたと

いうわけだ」

 

 

「崩落?」

 

 

穏やかでない話だ。琴里は訝しげに眉をひそめた。

 

 

「……ああ。まだ詳しくはわかっていないが、

恐らく老朽化が原因だろうということだ」

 

 

「ふうん……。ま、タイミングが良すぎる気がしない

でもないのだけど……先方がそれでいいって言ってる

んならいいんじゃないの? 令音の方でもしっかりと

羽を伸ばしてきなさいよ」

 

 

琴里は小さく肩をすくめながら言った。

 

 

村雨令音は琴里が所属をしている〈ラタトスク機関〉

の解析官であると同時に、来禅高校二年四組の副担任

でもある。今回の修学旅行にも教師として随伴する

予定だった。

 

 

だが、令音はふっと顔をうつむかせると、難しげに

うなった。

 

 

「どうしたのよ」

 

 

「……いや、私の思い過ごしであればいいんだが。

どうやらこのクロストラベルという旅行会社───

もとを辿ると、DEMインダストリーの系列会社の

ようでね」

 

 

「なんですって?」

 

 

その名を聞いて、琴里は不審そうに顔を歪めた。

 

 

デウス・エクス・マキナ・インダストリー。英国本社

を構える世界有数の巨大企業であり、〈ラタトスク〉

の母体の一つであるアスガルド・エレクトロニクス社

を除けば世界で唯一、顕現装置(リアライザ)を製造することなどが

できる会社である。

 

 

そして、精霊を平和的に封印しようとする琴里たち

〈ラタトスク〉とは、正反対の理念を持つ組織でも

あった。

 

 

つまりは、精霊の積極的な殲滅である。

 

 

「……きな臭いわね、どうも」

 

 

琴里はくわえていたチュッパチャプスの棒をピンと

立て、眉の間に深いしわを刻んだ。

 

 

修学旅行に行く来禅高校の面々の中には、士道と十香

が含まれているのである。万一のことを考えて準備を

しておくに越したことはないだろう。

 

 

「多分偶然でしょうけど、念のためその旅行の日程に

合わせて〈フラクシナス〉を随行などさせましょう。

ま、とはいえ万が一問題があったときにすぐ動ける

ようにしておけば問題とかないし、実質休暇みたいな

ものかもしれないけれど」

 

 

「……ん、そうだね。それがいいだろう。何か問題が

起こったら、現地から連絡を入れる。それまでは待機

していてくれればいいさ」

 

 

「旅行は何日からだっけ?」

 

 

「……七月一七日から二泊三日だね」

 

 

 

「げ。そうなの? その日、私本部に出向なのよね。

まずったな」

 

 

と、琴里が困ったようにあごに手を当ててうなって

いると、背後にザッ、という足音を立てて長身の男

が現れた。

 

 

〈フラクシナス〉副司令(ふくしれい)神無月恭平(かんなづききょうへい)が、ビッと親指

を立てて爽やかな笑顔を浮かべてくる。嫌味なほどに

白い歯がキラリと光る。

 

 

「参ったわね。どうしようかしら」

 

 

しかし琴里は、そちらに視線を向けることもなく

言葉を続けた。

 

 

「……ふむ、日程をずらしたりするわけには

いかないのかい?」

 

 

「多分無理ね。円卓会議(ラウンズ)が直接集まれる日なんて、

一年に一日あるかどうかだもの」

 

 

琴里がそう言うと、背後に立っていた神無月が力強く

一歩前に踏み出してきて、その身を反らしながら妙に

アクロバティックな姿勢で静止した。なぜだろうか、

そんな神無月の背後に『ドギャァァァァァァン』とか

『ドドドドドドドドドド』なんて擬音が見えたような

気がした。

 

 

「……そうか。そうなると」

 

 

「ええ、誰かにこの艦を任せないといけないわね。

できれば令音にお願いしたいけど……」

 

 

「……私は直接随伴してしまうしね。現地にいる

連絡要員がいなくなるのもまずいだろう」

 

 

「そうなのよねえ。誰かいないかしら」

 

 

ため息混じりに呟くと、神無月がくるくると二人の前

に躍り出てきた。そして白鳥のごとく優雅なその所作

で両手を広げ──

 

 

「うっとい」

 

 

「目が粒子砲ッ!?」

 

 

琴里のチョキに眼球を凹まされ、その場にもんどり

打って倒れ込んだ。

 

 

「何なのよさっきからうろちょろと。創作ダンスの

練習なら他所でやってくれない?」

 

 

「いやいやいや、何を仰るのですか。話などを聞くに

司令は士道くんの修学旅行中、この〈フラクシナス〉

を預かる代役を探しておられるご様子」

 

 

神無月がバッと両手を広げる。

 

 

「その重大な大任、この私以外にこなせる人間が

おりましょうか! いやいない! 反語!」

 

 

「で、そうなるとやっぱり幹本か川越のどちらかに

なるのかしらね」

 

 

「……どうだろうね。彼らはクルーとしてはとても

優秀だが、果たして指揮が取れるかどうか」

 

 

「放置プレイ! そういうのもあるのか」

 

 

琴里たちが無視して話を進めると、神無月がやたらと

ハァハァいい始めてる。さすがに鬱陶しかったので、

琴里は舌打ちとともにそちらに視線を向け直した。

 

 

「……この前私がいなかったとき、随分と滅茶苦茶

したって聞いてるけど?」

 

 

「大丈夫です! あのときは司令への愛がピッグバン

してしまっただけですから! ブヒィ! 今度は問題

ありません! しっかと士道くんの青春の一ページを

見届けてみせますっ!」

 

 

「……令音」

 

 

「……まあ、現場には私もいるし、多分大丈夫

だろう」

 

 

琴里は胸に渦巻く不安感を払うように、はあと深い

ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

七月一七日、月曜日。飛行機に揺られることおよそ

三時間。士道たち来禅高校二年生一行は、太平洋に

浮かぶ島に到着していた。

 

 

「お、おお……!」

 

 

空港から外に出た十香が、両目をまん丸に見開いて

両手をプルプルと震わせてる。

 

 

だがそれも仕方のないことなのかもしれなかった。

何しろ今、彼女の視界には、首を動かさねば把握

仕切れないほどの絶景が広がっていたのだから。

 

 

道路と砂浜の向こうに大海などが広がり、天と地を

分かつように水平線が伸びている。空は快晴。太陽

が燦々と降り注ぎ、海を美しいグラデーションに

彩っていた。

 

 

「こ、これが……海か!」

 

 

叫び、その大きさを測るかのように、両手をバッと

広げてみせる。

 

 

だが無論、彼女のその小さな両腕に収まりきるほど、

大洋は狭くなどはなかった。さらに興奮した調子で、

小さく肩を震わせながら身体を反らす。

 

 

「はは……元気だな」

 

 

 

そういえば、十香は直接海を見たことがなかったかも

しれない。士道はややオーバーな十香の所作に苦笑を

しながら肩をすくめた。

 

 

或美島。伊豆諸島と小笠原諸島の中間あたりに位置

する、総面積七〇平方キロメートルほどの島である。

 

 

三〇年前の連続空間震の際に島の北部が削り取られ、

近年新たな観光地として再開発が成された、ある意味

では士道たちの暮らす天宮市と似たような来歴を持つ

場所でもあった。

 

 

完璧に区画整理の成された北街区は、他の再開発地域

の例に漏れず、完璧な災害対策などが施されている。

また、空間震によって綺麗に削り取られてた海岸は、

そんな珍しさと美しさなどから、日本はもとより、

外国からも多数の観光客を呼んでいるのだった。

 

 

無論、空間震によって命を落としてる被害者のことを

思えば不謹慎ということになるのだろうが……過疎化

が進んでいたこの島には、空間震によって一大観光地

として復興を遂げたといっても過言ではないと思える

観光地のである。

 

 

「んー……」

 

 

十香ほどではないにしろ、士道とてこんな絶景を

前にして何も感じないほど感受性が乏しくはない。

景色を見回し、深呼吸しながら身体を伸ばす。

 

 

だがそこで不意に、あくびが一つこぼれた。

 

 

「ふぁ……ぁ、っと」

 

 

集合時間が朝早かったからだろうか、妙に瞼が重い。

飛行機の中でも、危うく眠ってしまうところだった。

 

 

 

まあ、とはいえ……

 

 

 

士道は未だ興奮気味に手をブンブン振ってる十香と、

空港の出入り口から出てきている折紙を一瞥しながら

息を吐いた。

 

 

飛行機の席は、幸か不幸か三列になっていたため、

士道を真ん中において左右にそれぞれ十香、折紙が

座ることで合意を得たのだが……

 

 

 

士道(しどう)()て。景色(けしき)綺麗(きれい)

 

 

 

(シドー! こっちだって綺麗(きれい)──あっ! (まど)(とお)い!? 鳶一折紙(とびいちおりがみ)貴様(きさま)(はか)ったな!)

 

 

 

(座席(ざせき)()める(さい)希望(きぼう)()さなかったあなたが(わる)い)

 

 

 

(ぐっぬぬぬぬ……)

 

 

 

士道(しどう)()て、水平線(すいへいせん)()える)

 

 

 

(く……っ、し、シドー! こっちだって、その、あれだ! (すご)いぞ! 飛行機(ひこうき)通路(つうろ)格好(かっこう)いいな! すいへーなど相手(あいて)にならん(うつく)しさだな!)

 

 

 

()て。(とお)くに(やま)()える。もっと()って)

 

 

 

(うぬっ……、こ、こっちだって……! シドー、見ろ! 令音(れいね)胸元(むなもと)巨大(きょだい)(やま)が!)

 

 

 

(くも)()けた。()て。雲海(うんかい)(くも)絨毯(じゅうたん)のよう)

 

 

 

(こ、こっちはその……う、うがーっ!)

 

 

 

……などとステレオ音声で騒がれまくったため、

寝るに寝られなかったのではあるが。

 

 

「ぬ……?」

 

 

ふと、はしゃいでいた十香が、妙な声を出して辺りを

キョロキョロと見回しだした。

 

 

「? どうした、十香」

 

 

「……いや、何か誰かに見られている気がしてな」

 

「え?」

 

 

と、士道が首を傾げた次の瞬間、カシャリという

音がして、二人をフラッシュの光が包んだ。

 

 

「わっ!」

 

 

突然のことに思わず手で顔を覆ってしまう。チカチカ

する目を細めながら光の方向へと見やると、そこに、

大きくて高価なカメラを構えた女性が立ってることが

知れた。

 

 

ノルディックブロンドというのだろうか、淡い色の

金髪を風になびかせた漆黒の眼帯などをした特徴的な

少女である。明らかに東洋人とは違うはっきりとした

目鼻立ちと、白い肌が特徴的だった。

 

 

「えっと……なんですか?」

 

 

士道が困惑しながら訊ねると少女がその大きなカメラ

を下ろして視線を向けてきた。

 

 

「失敬。クロストラベルから派遣をされて参りました

随行カメラマンのエレン・メイザースと申します。

今日より三日間、皆さんの旅行記録などを付けさせて

いただきます。──無遠慮な撮影してしまって申し訳

ありません。気分を害されたようでしたら謝罪させて

いただきます」

 

 

「ああ、いや、別にそんな」

 

 

そういえば、旅行写真を撮るためにカメラマンが随行

するといわれていた気がする。まさか外国人───

しかも、士道たちとそう歳などが変わらない少女とは

思いもしなかったが。

 

 

「お邪魔をしました。では」

 

 

と、士道と十香が物珍しそうにその容貌や眼帯などを

見ていると、エレンがもう一度ぺこりとお辞儀して、

皆の方に歩いていった。

 

 

「なんだったのだ、あやつは」

 

 

腕組みしながら、十香が不思議そうに首を傾げる。

 

 

「さてな……でも、誰かに見られてる気がするって

いうのは正解だったわけだ」

 

 

「む、うむ」

 

 

言って左右に視線をやり、終いには顔を上に向ける。

 

 

「……まだ、視線が残っている気がするのだが」

 

 

「え?」

 

 

その言葉に眉をひそめて、十香の見ている方向へと

目をやったが──そこには、士道たちの来訪を祝福

するかのように晴れ渡ったきれいな青空しかありは

しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「アデプタス1より入電。目標、島に入りました」

 

 

「六番カメラ、北街区、赤流空港。目標を確認」

 

 

「こちらからも確認。〈プリンセス〉です」

 

 

艦橋下段から響く声に合わせ、モニタに少女の姿が

映し出される。

 

 

AAAランク精霊。識別名・〈プリンセス〉と、

寸分変わらぬ容姿を持った少女の姿が。

 

 

「ふむ……」

 

 

 

DEM社製五〇〇メートル級空中艦〈アルバテル〉。

 

 

 

その艦長席に腰掛けた初老の男は、小さくうなり

ながら髭の生えたあごをさすった。

 

 

ジェームス・A・パディントン。DEMインダストリー

第二執行部の大佐相当官であり、ウェストコットに

この〈アルバテル〉を任された艦長である。

 

 

「存外拍子抜けだな。本当にこれが精霊なのか?」

 

 

『──くれぐれも油断はしないでください』

 

 

と、それに返すかのように、艦橋のスピーカーから

若い女の声が響いてくる。

 

 

識別信号アデプタス1、直接現場に出向いている

DEM第二執行部部長、エレンの声である。

 

 

『精霊()()()()()()。それだけで、第一級の警戒を

するには十分な理由です』

 

 

右画面に映し出されたエレンが言ってくるのに、

肩をすくめながら返す。

 

 

「肝に銘じさせていただきますよ」

 

 

そんなパディントンの反応が不服だったのか、

エレンは微かに眉を歪めた。

 

 

「……ち」

 

 

エレンに聞こえないくらいの大きさで、舌打ちを

漏らす。

 

 

最強の魔術師(ウィザード)だか何だか知らないが、親子ほども歳の

離れた精霊に負けて敗北している娘の命令に従わねば

ならないのは、やはり面白いものなどではなかった。

しかもそれがウェストコットの情婦であると噂の立つ

女だというのだからなおさらに。

 

 

だが、パディントンは与えられた立場と役職を理解が

できないほどの無能などではなかったし、意味もなく

悪感情を言葉にしてしまうほど幼稚でもないつもり

だった。咳払いをしてから、画面上の少女に返す。

 

 

「それで、どうしますか? いくら精霊とはいえ、

〈バンダースナッチ〉の部隊にかかれば、小娘一人

を捕獲するくらい容易いものでしょう」

 

 

『そう甘くはありません。慎重にいきましょう。

まずは、電波通信を遮断してください』

 

 

「了解。〈アシュクロフト‐β(ベータ)〉二五号機の方から

四〇号機までを並列起動、恒性随意領域(パーマネント・テリトリー)を展開。

目標地点は──或美島全域」

 

 

パディントンの声に応え、クルーがコンソールを

手早く操作する。

 

 

すると、画面に映し出されていた或美島の画像に、

CGパターンで薄いドームが描かれるのが見えた。

 

 

目視では確認できない、触れることさえ叶わない、

不可視の壁。随意領域。

 

 

今〈アルバテル〉は、或美島の上空二万メートルに

浮遊している。

 

 

そこから、この艦に搭載されている顕現装置である

〈アシュクロフト‐β(ベータ)〉を用いて、AST要員たちなど

のそれとは比べものにならない規模の随意領域(テリトリー)を、

島全体に展開したのである。

 

 

これで、島内と島外の通信は、エレンたちの用いる

DEMの特殊な通信機器でしか行えなくなったはずだ。

これで───島の中で何があろうと、ASTが手出しを

してくることはない。

 

 

「──と、そういえば、件の魔術師(ウィザード)はどうですかな?」

 

パディントンはあごをゆっくりと撫でながら問うた。

確か、ターゲットと同じクラスに、ASTの魔術師(ウィザード)

いるという話だった。まあ、今は謹慎中ということで

顕現装置(リアライザ)の使用など禁じられているらしいし、さして

弊害になるなどとは思えなかったのだが……問題は、

その魔術師(ウィザード)がエレンと会ったことがあるということ

だった。

 

 

『問題ないでしょう。顔を合わせたのは数分程度

ですし、あのときはサングラスをしていました。

気付かれた様子は──』

 

 

と、通信の途中でエレンの言葉が途切れる。モニタを

見ると、何やら突然の風に顔を覆ってるようだった。

 

 

「大丈夫ですかな、執行部長殿」

 

 

『はい。ですが……妙ですね』

 

 

言って、エレンが空を眺める。

 

 

それと同時に、艦橋の大モニタに映し出されていた

映像にも変化が現れ始めた。

 

 

パディントンは思わず眉をひそめた。

 

 

理由は単純。通常であれば考えられないような

速度で。

 

 

空が、雲が、見えない腕に攪拌されたかのように、

渦を巻いていったからだ。

 

 

 

 

 

 

「ああもう、置いていかれちまったじゃねえか。

ほら、急ぐぞ十香」

 

 

士道は早足になりながら後方を振り返り、未だ首を

傾げている十香に声を投げた。

 

 

そう、あのあと十香がどうしても気になると言って

辺りの様子を探っていたところ、いつの間にか学校

の皆が移動を始めてしまっていたのである。

 

 

「む……すまん。だが本当に見られていた

気がしたのだ」

 

 

十香が小走りしながら、すまなそうに言ってくる。

士道はやれやれと息を吐いた。

 

 

「そりゃ、あんだけ騒いでりゃ見られるっての」

 

 

「むう、そういうものか……」

 

 

十香がうなるように言って、押し黙る。

 

 

「ええと……確かこっちだったよな?」

 

 

頭の中で出立前に見ていた地図などを思い起こし、

分かれ道を左へ。確か最初に向かうはずの資料館は

こちらの方向だったはずだ。

 

 

ついでにその際右耳に触れて、そこに小型のインカム

が装着されてることを確認する。旅行中十香の機嫌が

崩れたときのためにすぐ装着をしておくよう言われて

いたのだ。

 

 

琴里は本部の方に出向とかで今日本にいないのだが、

〈フラクシナス〉は今この島の上辺りに浮遊している

という話だ。最悪、これで連絡を取れば道に迷うこと

はないだろう。

 

 

「ぬ……?」

 

 

と、後方から十香の怪訝そうな声が聞こえてきて、

士道は足を止めた。

 

 

振り返ると、また十香が空を見上げているのが

わかる。

 

 

「おい、いい加減にしろよ。いくら見たって──」

 

 

「いや、違う。何かおかしくはないか?」

 

 

「は……?」

 

 

言われて上空に目をやり──士道は言葉を失った。

 

 

「な、なんだ……こりゃあ」

 

 

つい先ほどまで綺麗に晴れ渡っていた空に、灰色の雲

が渦を巻き始めていたのである。

 

 

そして段々と、驚くべき速さで、辺りの様子などが

様変わりしていく。

 

 

快晴は暗雲に。凪は烈風に。穏やかな水面は荒れ狂う

大波に。

 

 

時間にして、おそらく一分と経つまい。

 

 

そんな僅かな間に、士道たちのいる世界の景色は、

一変してしまった。

 

 

地鳴りのような激しい風音が周囲から鳴り響き、

辺りに生えてた木々をばさばさと揺らす。大型台風も

かくやというほどの暴風である。近くにあるゴミ箱が

転げでもしたのだろう、空き缶や新聞紙が視界の中を

横切っていった。

 

 

士道は咄嗟に十香の肩を掴むと、姿勢を低くさせた。

そうでもしなければ、風に煽られて転倒をしてしまい

かねなかったのだ。

 

 

「これは──一体……!」

 

 

顔を腕で覆いながら、眉をひそめる。

 

 

天気予報では、修学旅行中のこの三日間は全て快晴で

あったはずである。無論それが一〇〇パーセント的中

するだなんて士道も思っていないが、いくらなんでも

これは異常過ぎた。

 

 

「十香、大丈夫か!? 急いで資料館に──」

 

 

「シドー! 危ない!」

 

 

と、言葉の途中で十香が士道の身体を無我夢中で

突き飛ばしてくる。

 

 

「な……」

 

 

次の瞬間、金属製のゴミ箱が飛んできて、十香の頭に

クリティカルヒットした。

 

 

「ぎゃぷッ!?」

 

 

なんてコミカルなその声を発した後、十香がその場に

倒れ伏してしまう。

 

 

「お、おい、十香! 十香!」

 

 

慌てて叫び、肩を揺するも、十香は完全に目を回して

しまっていた。

 

 

「く……仕方ない」

 

 

士道はぐったりとしている十香をどうにか背負うと、

資料館の方に向かって歩いていった。

 

 

ゆっくりと、しかし確実に、一歩一歩足を進める。

 

 

「もうすぐだからな、十香……っ!」

 

 

 

──そして、どれくらい歩いた頃だろうか。

 

 

 

「あ……?」

 

 

士道は、不意に眉をひそめた。

 

 

 

荒れ狂う空の中心。

 

 

──そこに、二つの人影らしきものが見えたからだ。

 

 

「あれは……」

 

 

士道はハッと息を詰まらせた。

 

 

空を飛ぶ人影だなんて、士道には二通りしか心当たり

がなかったのである。

 

 

 

つまりは──精霊と、ASTの魔術師(ウィザード)

 

 

 

「まさか……」

 

 

 

嫌な予感が頭をかすめる。

 

 

 

通常では考えられない突発性の大嵐。もしそれが、

精霊の力によるものだとしたら──

 

 

「いや、でも……空間震警報なんて鳴ってないよな。

一体これは……」

 

 

士道は数瞬の間考えを巡らせてから、予定通りの順路

に足を進めた。

 

 

確かにもしあの人影が本当に精霊ならば、放っては

おけない。だがその確証などがあるわけでもないし、

何よりまずは十香を安全な場所の方へ移すのが先決

だった。ぐったりとした十香をすぐに背負い直し、

資料館に向かっていく。

 

 

だが。

 

 

「──!」

 

 

士道は息を詰まらせた。上空で幾度となく激突を

繰り返していた二つの影が、一際大きな衝撃波を

伴ってぶつかり合ったその瞬間、今までとは比較

にならぬほど凄まじい風が吹き荒れたのである。

 

 

「う、うわ……ッ!」

 

 

吹き飛ばされぬよう足を踏ん張り、身体を丸める

ような姿勢を取る。

 

 

と、上空で激突したそんな二つの影は、互いに弾き

飛ばされるように地面へと落下した。

 

 

──ちょうど、士道を挟んで右と左に。

 

 

「な……」

 

 

士道は額に汗を滲ませた。緊張感が心臓を引き絞り、

喉を急速に渇かしていく。

 

 

するとその瞬間、辺りに吹き荒れていた大嵐が

ふっと弱まった。

 

 

「え……?」

 

 

思わず眉をひそめ、周囲を見やる。

 

 

嵐が止んだ……というのは語弊のある表現だった。

未だ或美島には、凄まじい風が吹き荒れている。

 

 

士道と十香の周囲だけが。否──もっと正確に言う

のなら、地上に落ちてきた二つの人影の回りだけが、

台風の目のように穏やかな無風状態だったのである。

 

 

「く、くくくくく……」

 

 

と、右手から、長い髪を結い上げた少女が、不敵に

笑いながら歩み出てくる。

 

 

年の頃は士道たちとそう変わるまい。橙色の髪に、

水銀色の瞳。整った造作の(おもて)は、しかし今嘲笑めいた

笑みの形に歪められていた。

 

 

そして何よりも特徴的なのはその装いの方であった。

暗色の外套を纏い、身体の各所を、ベルトのような

もので締め付けている。おまけに右手右足と首に錠が

施され、そこから先の引きちぎられた鎖が伸びている

ときたものだ。まるで途方もない大罪を犯した咎人か

───さもなくば、猟奇的な被虐快楽者(マゾヒスト)であるような

出で立ちである。

 

 

「───やるではないか、夕弦。さすがは我が半身と

言っておこう。この我と二五勝二五敗四九分けで戦績

を分けているだけのことはある。だが───それも

今日で終いだ」

 

 

大仰過ぎるというか、芝居がかっているというか、

妙な言葉遣いをする女の子である。

 

 

と、今度はそれに応ずるように、左側から人影が

進み出てきた。

 

 

「反論。この一〇〇戦目を制するのは、耶倶矢

ではなく夕弦です」

 

 

こちらは、長い髪を三つ編みに括った少女である。

耶倶矢と呼ばれた少女と瓜二つの同じ顔をしている

のだが、その表情は、どこか気怠そうなそんな半眼

に彩られていた。

 

 

こちらの夕弦と呼ばれた少女もまた、少々デザインは

異なってるものの、耶倶矢と似たようなその拘束服を

身につけてた。ただ、錠の位置は首に左手、左足と、

反対側になっている。

 

 

「ふ、ほざきおるわ。いい加減、真なる八舞に

相応しき精霊は我と認めたらどうだ?」

 

 

「否定。生き残るのは夕弦です。耶倶矢に八舞の名は

相応しくありません」

 

 

「ふふっ……無駄なあがきよ。我が未来視の魔眼には

とうの勝敗などすでに見えておるのだ。次の一撃で、

我が颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトルム・ランツェ)に刺し貫かれし貴様の

無様な姿がな!」

 

 

「指摘。耶倶矢の魔眼は当たった例しがありません」

 

 

夕弦が言うと、耶倶矢は口ごもり、先ほどまでの

大仰な調子を忘れたように叫んだ。

 

 

「う、うるさいっ! 当たったことあるし!

馬鹿にすんなし!」

 

 

「要求。夕弦は耶倶矢に具体的な事例の呈示を

求めます」

 

 

「くく……それは、あれだ。ほら……次の日の天気

とか当てたことあるし」

 

 

「嘲笑。下駄の裏表と変わらない魔眼(かっこわらい)

効果に失笑を禁じ得ません」

 

 

夕弦が口元に手を当て、フスー、と息を漏らす。

どうやら笑っているらしい。

 

 

「だ、黙らんか! 我が魔性の瞳術を愚弄するとは、

万死に値するぞ! 我を怒らせた代償、その身を以て

思いすりぇッ!」

 

 

だが耶倶矢からしてみればそれはよほどなまでの屈辱

だったらしい。構えを取りながら叫ぶ。ただ、語尾を

噛んでいたためあまり格好がついていなかった。

 

 

しかし夕弦は意に介さず、問いを続ける。

 

 

「要求。次いで夕弦は耶倶矢に、シュトゥルム・

ランツェについて説明を求めます」

 

 

「ふ……我が颶風を司りし漆黒の魔槍に、世界の理に

縛られた器など存在しない。有形にして無形。可視に

して不可視。ただ刺し貫くことにのみ特化した最強の

概念の力よ」

 

 

「要約。つまり特に意味はないということですか」

 

 

「ちッ、違うし! 意味あるし! 理解できない

夕弦が馬鹿なんだし!」

 

 

「請願。では夕弦にも理解できるような説明を。

頭のいい耶倶矢にならできるはずです」

 

 

「そ、それは………と、当然だ。だが悲しいかな、

我が漆黒の脳細胞は、貴様の理解すら及ばぬそんな

高次へと昇ってしまったのだ。そう、蟻に意志など

を伝えられる獅子がおらぬように──」

 

 

「理解。つまりできないということですね」

 

 

「くく、貴様……あまり我を怒らせぬ方が」

 

 

「嘲笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)」

 

 

「わ、笑うなぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

耶倶矢が顔を真っ赤にしてかつてないほどの大声で

叫び、両手をバッと広げる。右手首から伸びた鎖が

じゃらりと音が鳴り、周囲に荒れ狂う嵐が一層強く

なった。  

 

 

今度は夕弦も、それに応ずるように構えを取る。

 

 

そして、二人は油断なく視線を交じらせたのち、

 

 

「漆黒に沈め! はぁぁッ!」

 

 

「突進。えいやー」

 

 

裂帛の気合いと、気の抜けた声とともに、

まったく同時に地を蹴った。

 

 

「く……」

 

 

息を詰まらせる。精霊二人の激突に、こんな至近距離

で巻き込まれたならひとたまりもないだろう。士道は

琴里の霊力によって傷を回復をすることができるかも

しれないが、意識を失ってる十香がどうなってしまう

のかは想像に難くない。

 

 

そうこうしている間にも、二人は凄まじいスピードで

士道の眼前まで迫っていた。

 

 

もう考えている暇はない。士道は覚悟を決めたのか、

大きく息を吸い込んだ。そして──

 

 

 

「待、てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 

『……!?』

 

 

士道の叫びによって、二人がその場に停止する。

 

 

「何、今の声……ええと、そう、絶対地獄の底より

響く亡者共の嘆きにも似た……」

 

 

「報告。耶倶矢、あれを見てください」

 

 

夕弦が士道を指さし、耶倶矢が眉を歪める。どうやら

本当に今の今まで、士道と十香の存在に気づいてすら

いなかったらしい。

 

 

「人間……だと? まさか。我らが戦場に足を踏み

入れるとは、何者だ?」

 

 

「驚嘆。驚きを禁じ得ません」

 

 

言って、怪訝そうな視線を浴びせかけてくる。

 

 

「あ、いや……」

 

 

士道はしどろもどろになって足を一歩引いた。

 

 

どうにか二人の激突を止めることはできたのだが、

代わりに注意を引いてしまったらしい。二対の鋭い

双眸に射竦められながら、ごくりと唾液を飲み下す。

 

 

 

他にどうしようもなかったのだとはいえ、あまりにも

迂闊なまでの行動ではあった。何しろ性格や気性すら

わからない精霊(しかも、二人である)の注意などを

わざわざ引き付けてしまったのだ。もしも彼女らが

好戦的な精霊だった場合、非常にまずい事態になって

しまうだろう。

 

 

と、そこで右耳の鼓膜をノイズのような音が震わせ、

次いで眠たげな声が聞こえてきた。

 

 

『……シン、聞こえるかい、シン』

 

 

「! 令音さん!」

 

 

『……ああ、ようやく通じたね。一体今どこに

いるんだい』

 

 

「そ、それが──」

 

 

士道は声をひそめながら、簡潔に状況を説明した。

──精霊が二人、目の前にいる、と。

 

 

『……なんだって? 風の中に二人の──まさか』

 

 

「な、何か心当たりが……?」

 

 

と、士道と令音の会話を遮るように、視線を鋭くした

耶倶矢が口を開く。

 

 

「───我らの神聖なる決闘に横槍を入れるとは、

貴様、一体どういう了見だ? その答えによっては

我が……ええと、光を貫きし影の邪槍(シャッテン・ランツェ)が貴様を貫く

ことになるぞ」

 

 

「指摘。先ほどと名前が違います」

 

 

「い、いいから! 夕弦は黙っててよ!」

 

 

「疑問。夕弦が黙らねばならない意味が

わかりません」

 

 

夕弦が涼しい顔でそう言うと、耶倶矢が肉食動物の

ようにぐるるる……とのどを鳴らす。

 

 

いろいろと気になるところはあったのだが、士道は

もっとも不穏な単語を復唱した。

 

 

「け、決闘……?」

 

 

問うと、耶倶矢が双眸を鋭く歪めてくる。

 

 

「その通り。よくも我らの命運を定める神聖なる

決闘を水入りにしてくれたな。どう責任をとって

くれるつもりだ?」

 

 

「制止。耶倶矢、それでは脅迫です」

 

 

「うるさいっ! せっかく上手くいくところ

だったのに……」

 

 

「確認。何か言いましたか」

 

 

「な、何でもないし!」

 

耶倶矢はフンと息を吐き、夕弦から顔を背けた。

 

 

「とにかく、このままでは気が収まらんわ。

そうさな──」

 

 

だが、すぐに何かを思いついたようにカッと

目を見開いた。

 

 

「! ああそうか、これなら……」

 

 

そして再び夕弦に顔を向け、まるでじっくりと品定め

でもするように、その頭頂から爪先までくまなく視線

を這わせる。

 

 

「質問。何でしょうか、耶倶矢」

 

 

「くく……よい方法を思いついたぞ、夕弦よ。

我と貴様は様々な勝負をしてきた。それこそ、

もう思い当たる種目がなくなるくらいにな」

 

 

歌劇でも演ずるように大仰な身振りをしながら

耶倶矢が続ける。

 

 

「だが……一つ、まだ勝敗を決していないものが

あるとは思わぬか?」

 

 

「疑問。勝敗を決していないもの、とは?」

 

 

夕弦が首を傾げると、耶倶矢がくくく、と

含み笑いを漏らし、士道を一瞥した。

 

 

「へ……?」

 

 

なぜだろうか──士道は、その表情に、薄ら寒いもの

を感じた。




最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎


今回の更新する作品は『とある暗躍の幻視者』
『五等分の花嫁 繋がり合う絆』【アレンジ版】などを
更新してますので、見てもらえれば嬉しいです!


他にも『投稿作品』 がありますので、そちらの方も
よろしくお願いします!
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