ことができました‼︎
今回は『15271文字』 までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎
「くく……下等な人間共め。我と寝所を共に出来る
ことを光栄に思うがいいぞ。その心に我が高き名を
刻むが良い。颶風の御子、八舞耶倶矢の名をな」
十香たちの泊まる四〇一号室にやってきた少女は、
テーブルに腰掛けてふんぞり返りながらそんな挨拶
をした。
無礼極まるそんな口ぶりではあったのだが、耶倶矢の
得意げなそんな顔と甲高い声のためか、そこまで嫌味
にも高圧的にもなっていなかった。なんというのか、
小さな子供が好きなキャラクターを真似ているような
微笑ましさがあるのである。
「うむ、仲良くするぞ。よろしくだ!」
十香は腕組みなどをしながらうんうんとうなずいた。
それに合わせるように、隣に並んで座っていた班員の
亜衣、麻衣、美衣も、ニコニコと微笑を作る。
急に令音に、この少女を一晩君たちの部屋に泊めて
やってくれ、なんて言われたときには三人とも驚いた
ようだったが、基本的に皆楽しいことと可愛いものが
好きなメンバーなので、すぐ適応していたのだった。
「きゃー!」と色めき立つように笑顔を作り、耶倶矢
の頭を撫でたりほっぺを突っついたりし始める。
「やーもー、かーわーいーいー。イタ可愛いー」
「髪さらさらー。ほっぺぷにぷにー」
「甘いの好き? ポッキー食べる?」
「や、やめんか、貴様等! 無礼であるぞ!
んぐんぐ……」
耶倶矢がたまらず叫びを上げる。ちなみにポッキーは
食べていた。
「あっ! 美衣、私もポッキーが欲しいぞ!」
「はいはーい、いいわよ十香ちゃーん。……て、あ、
ごめんごめん。今耶倶矢ちゃんにあげちゃったので
最後だったわ。ヤンヤンつけボー食べる?」
「な……なんだそれは!?」
十香が手渡された円筒形の物体を真剣な顔で矯めつ
眇めつ眺め回していると、亜衣麻衣美衣が耶倶矢に
次なる質問を投げかけた。
「ねーねー、それで、耶倶矢ちゃんてどっから
来たのー?」
「この時期に転校って珍しいよねー」
「新学期入ったら四組ってことでいいのー?」
亜衣麻衣美衣が矢継ぎ早に質問を投げかける。
耶倶矢はフフンと足を組み替えた。
「何処から……か。ふ、いい質問だ。我らが在った
場所は天の頂にして地の底。幽世の最果て最果てに
して現世の傍ら。貴様等の思考の範疇では理解する
ことすら出来ぬ領域よ」
「かくり……うつし……?」
十香は首を傾げた。だが、何となく凄そうなことを
言っているのは理解できる。
「むう。そうか、耶倶矢はむつかしい言葉をいっぱい
知っていて凄いな!」
「くく……よく解っているではないか。
気に入ったぞ。名をなんと申す」
「うむ、夜刀神十香だ」
「十香か……くく、佳き名よ。ほうれ、この我の手で
撫でてやろう」
なぜか耶倶矢が上機嫌になって、十香の頭をぐりぐり
と撫でてくる。
「ぬ? な、なんだ、くすぐったいぞ」
「貴様はなかなか見所がある。この闇の洗礼を以て、
我が眷属に加えてくれよう」
「けんぞく? なんだそれは」
「くく……それは我が軍門となって戦列に並ぶことが
許される資格。この世でもっとも偉大なる一族に名を
連ねることができることを意味するものだ」
「おお……! なんだかよくわからないが、そんなに
凄いものにしてくれるのか!?」
なぜだろうか、十香が素直にそう言うと、耶倶矢が
感極まったように指を震わせてた。何となく、初めて
自分の理解者が現れた芸術家か発明家みたいな調子に
見えた。
「お、おうとも! 我が全身全霊を以て貴様を
護ってやる! 光栄に思うがいいぞ!」
「うむ、光栄だ!」
そんな二人の様子を見てか、亜衣麻衣美衣が頬に
手を置いて「やーん!」と声を上げた。
「うっわマジもーたまんねー。十香ちゃんも耶倶矢
ちゃんも可愛すぎー」
「ちょっ、一枚いいっすか? 目線くださーい!」
「性別とかもう些細なことだと思うんだよね」
言って、何やら身を捩ったりデジカメなどを構えたり
ギラギラ光る眼でこちらを見つめながら舌なめずりを
してきたりする。
耶倶矢がそんな視線に眉をひそめてから、ふと何かに
気付いたように目を丸くした。
「十香といったな。御主まさか……あのとき士道の背
に負われていたおなごか?」
「? シドーがどうかしたのか?」
十香がそう答えると、耶倶矢は目を細め、十香の手を
引っ張って部屋の隅に歩いていった。
「あれれー、耶倶矢ちゃんどこ行くのー?」
「今から我は、我が眷属と非常に重大な情報共有など
を図るのだ。常人には耐えられぬ呪いの言葉ゆえ、
聞けば耳が爛れ落ちるぞ。それでもよいならば聞き耳
を立てるがよい」
「あー、内緒話ね。あはは、盗み聞きなんてしない
ってばー」
亜衣が朗らかに笑いながらそう言ってくる。だが、
十香は気が気でなかった。すぐに両手で耳たぶを
押さえながら、カタカタと身を震わせる。
「み、耳が落ちるのか……?」
「案ずるな。我が眷属たる御主はこう、不思議な
パワーが宿ってるから大丈夫なのだ」
「そうか……眷属とは凄いのだな」
十香が神妙な面持ちで呟くと、耶倶矢は満足げに
うなずき、声をひそめて訊ねてきた。
「十香、御主、士道と親しいようだな」
ぬ? うむ、シドーのことならよく知っているぞ」
「! そうか。くく……ならば十香、御主に幾つか
訊きたいことがある」
十香が言うと、耶倶矢はピンと指を立てて問いを
発してきた。
「請願。今晩お世話になります、八舞夕弦です。
どうぞよろしくお願いします」
言って、気怠げな半眼を作った少女が三つ指を突いて
頭を下げる。
「い、いや、そんな畏まらなくても大丈夫よ……?」
夕弦の無駄に丁寧な所作に、四〇二号室の面々は
逆に畏まってしまっているようだった。あせあせと
落ち着かない様子で手や視線を動かし、ぎこちない
苦笑を作る。
もとよりこの班は、クラスの中でも大人しい女子の
グループを中心に、人数合わせであぶれた面子を組み
込んだ余り物の集まりなのである。もともと班員同士
の会話も多くないため、会話がそれ以上発展しない
のだった。
「…………」
だが、折紙としては、そんな微妙な雰囲気など微塵も
気にかけていなかった。むしろ常に静かで、必要以上
に会話などを一切しなくていい分、この班のことは
気に入っていたくらいである。
部屋の隅に腰掛け、窓の外の景色を見ながら残念そうに
ため息を吐く。
事前の入念なリサーチの結果、女湯と男湯を隔ている
垣根の一部に隙間を発見したのであるが……士道の姿
を発見することはできなかったのだ。
と、沈黙に耐えかねたのか、班員の一人が夕弦に声を
かけるのが聞こえてきた。
「え、ええっと……足痛くないですか? 座布団も
ありますんで、よかったら……」
「感謝。お言葉に甘えます」
短く言って、夕弦が班員たちの方に歩いてくる。
その行動で、ようやく班員たちは放念の息を吐いたら
しかった。部屋の雰囲気が、ほんの少しだけ柔らかく
なっていた。
「急な転入でいろいろ大変でしょうし、わからない
ことなどがあったらなんでも訊いてね?」
「多謝。お心遣い痛み入ります」
言って、またも夕弦が頭を下げる。眼鏡をかけた
女子生徒が、困ったように苦笑した。
と、夕弦が顔を上げると同時に唇を開く。
「質問。では一つ、お訊きしたいことなどがある
のですが、よろしいでしょうか」
「ええ、もちろん。何?」
「請願。男性の気を引く方法をお教え願いたい
のですが」
『え……ッ!?』
夕弦が無表情のまま発したその質問に、班員たちが
固まる。
「え、ええと……? 今なんて?」
「復唱。男性の気を引く方法を、と。理性のくびきを
取り払い、辛抱たまらなくしてしまう手練手管などを
ご教授願いたいのです」
『…………っ!?』
班員たちの顔が真っ赤に染まる。クラスでも比較的
地味な女子ばかりが集まっているグループである。
そういう話題にあまり免疫など事態がないのかも
しれなかった。
だが、なんでも訊いてと言った以上引っ込みなどが
つかないのか、最初に声をかけた女子がおずおずと
口を開く。
「そうねえ……こう、偶然を装ってお互いの手と手を
触れ合わせるとか……?」
「い、いや、そんな少女漫画みたいな……」
「ええ……じゃあどういうのがいいのよ」
「えっと、そうだな……こう、飲みかけのジュースを
渡してみるとか……?」
「──甘い」
そんなやり取りに、折紙は横から口を挟んだ。
班員たちが、意外そうな顔で見てくる。
「え? と、鳶一さん……?」
「甘いって言うと……?」
「話にならない。そんな漫然とした行動では、
意中の人は落とせない」
折紙がそう言うと、夕弦の目が静かに輝くのが
わかった。
「請願。徒者ではないとお見受けします。
どうかご教授を」
「…………」
折紙は小さく息を吐くと、身体の向きを夕弦の方に
向け、目の前を指で指し示した。
すぐに夕弦が立ち上がり、折紙の示したその場所に
正座する。
「まず、大事なのは──」
そして折紙は、静かに語り始めた。
どうにか海から上がって令音の部屋まで辿り着き、
予備の浴衣を借りた士道は、湯飲みに注がれていた
お茶を一気に飲み干してからようやく大きなため息
を吐いた。
「すいません、助かりました……」
「……いや。災難だったようだね」
言って、令音が小さく肩をすくめる。
士道は思わず目を逸らした。令音は備え付けの浴衣を
着ていたのだが……帯の締め方などがぞんざいなため
だろうか、彼女が動くたび、悩ましい胸元がちらちら
と覗いていたのである。健全な男子高校生の目には、
いささか強すぎる毒だった。
「……? どうかしたかね」
「い、いえ。それより、〈フラクシナス〉との通信は
回復したんですか?」
問うと、令音が無言で首を振った。
「……いや、駄目だ」
「そう……ですか。えっと、じゃああの二人──
耶倶矢と夕弦は……」
令音が小さく首肯し、テーブルの上に置かれた小型の
ノートパソコンをカタカタと操作し始めた。画面に、
望遠で撮影された、風の中に躍る二つの人影の姿と、
細かな数値や文字列が表示される。
その画像だけで人相までは判別できないが──
「これは……耶倶矢と夕弦?」
「……ああ、恐らくね」
士道が画面を指さして声を上げると、令音は小さく
首を倒した。
「……実は、彼女らは我々の間ではちょっとした
有名人でね。風の中で二人組の精霊を見たと聞いた
瞬間から、なんとなく目星はついていたんだ」
「有名人……っていうと」 士道が問うと、令音は
順を追って話そう、というように、軽く手をかざしてきた。
「……彼女らは、〈ベルセルク〉と呼ばれている。
君も見たように、風を伴う精霊だ」
「〈ベルセルク〉……」
「……ああ。世界各地で現界が確認されている二人組
の精霊だ。こちら世界に現れては、常に二人でじゃれ
合っているだけなのだが……その規模が問題でね」
「ああ……」
士道は頬などをかきながら昼間のことを思い出した。
木々を薙ぎ海を荒らす凄まじい大嵐。あんなものを
何度も起こされてはたまらないだろう。
「とある各地で起きている突発性暴風雨の何割かは、
彼女たちのせいだろう。その上、目撃情報も非常に
多いときている。アメリカではゴシップ誌に写真を
撮られ、天使なのかUFOなのか、それとも空飛ぶ
スパゲッティ・モンスターかでちょっとした論争が
起きているらしい」
「目撃……って、あ──」
そこで士道は気づいた。そういえば、あんなに近くに
精霊が現れたというのに、この辺りには空間震警報が
鳴っていなかったのである。
ここ或美島の北街区は、士道たちの住んでいる天宮市
に負けないほどに、シェルター普及率の高い場所だ。
空間震の予兆が確認されれば、間違いなく警報などが
鳴るだろう。
「まさか、あの二人も静粛現界を?」
士道が戦慄した調子でそう言うと、令音が首を
横に振った。
「……いや、予兆は確認されていたようだ。
──太平洋沖の遥か上空で、だがね」
士道は思わず目を丸くした。
「太平洋沖の──空?」
「……ああ。〈ベルセルク〉二人の空間震規模などは
Aランク……十香たちとは比べものにはならないほど
大爆発だ。だがどういうわけかその多くは、何もない
空中で確認されている」
「え、それじゃあ、なんであの二人はこの島に……」
「……簡単な話さ。空中で現界したのち、ここまで
移動してきたんだ。まるで移動性低気圧のように二人
で組んず解れつなどしながら、数百キロという距離を、
わずか数分でね」
「な……」
「……世界を悩ます意思ある台風さ。人間へ明確な
攻撃意思を示すでも、世界を憎むでもなく、二人で
争う余波だけで森を、山河を、街をなど壊滅させる、
気まぐれな狂戦士だ」
令音がそう言いながら、愛用の端末のエンターキーを
タンッ、と叩く。すると端末の画面に、滅茶苦茶まで
に破砕された街の様子が映し出された。
「……彼女らによる被害は甚大だ。加えて、その姿を
何度も衆目に晒してしまっているというのも、精霊の
存在を秘匿しておきたい組織にとっては悩みの種だ。
ゆえに耶倶矢と夕弦は、白銀の精霊と呼ばれている
〈アテナ〉同様に〈ラタトスク〉からもASTからも、
優先目標にまで指定されている。……だが、今まで
彼女らに接触できる者はほとんどいない」
「な、なんでですか?」
「……彼女らの移動範囲と移動速度のためさ。現界を
してから追っていては、誰も彼女たち二人の速度には
決して追いつけないんだ。だから君が今回二人に遭遇
できたのは、僥倖中の僥倖といえる」
「な、なるほど……」
令音は頭をゆらりと動かしてから続けてきた。
「……確かに今は、〈フラクシナス〉との通信などが
途絶え、〈ラタトスク〉からのサポートや援護が一切
受けられない状況だ。私も今ある機材だけでは、十分
な解析は行えない。このまま攻略を行うのは、いつも
以上にリスキーだろう。だが───悪いことばかり
じゃあない」
「っていうと……」
「……彼女らは今、向こうから君の気を引こうとして
いるじゃあないか」
「ああ……」
士道は頬に汗を垂らした。そのせいで、先ほどは
えらい目に遭ったのである。
「……極めて遭遇率の低い〈ベルセルク〉相手に、
これは願ってもない状況なんだ。もしも、この機会を
逃したなら、何の冗談でもなく、耶倶矢と夕弦の二人
にはもう二度と会うことができないかもしれない。
だから、彼女らの気が変わらないうちに封印を施して
しまいたいんだ」
「じゃあ、〈ラタトスク〉の協力なしで攻略する……
ってことですか」
言ってから、士道は自分の言葉に緊張するように
唾液を飲み込んだ。
あの選択肢が役に立つかは五分五分なのだが……対象
の精神状態などを知ることすらもできないのは痛い。
それに何より、後ろにサポートが控えている、自分が
一人でないと認識していられるのは、想像以上までに
心理的な余裕となるのである。
「……そうなるね。それと実はもう一つ、彼女らを
攻略する上で問題となることがある」
「問題となること……っていうと」
「……単純な理由さ。〈ベルセルク〉という精霊は
二人いるんだ。しかも、今彼女らはどちらが君を籠絡
するかを競っている。もし仮に君がどちらかにキスを
したなら──どうなるかな」
「あ……」
封印のためキスをしたなら、彼女らは、キスされた方
が決闘の勝者と認識するだろう。
だがその勝者は、勝利の瞬間に霊力を失ってしまう
ことになる。
もし敗者がその決着に納得せず暴れ出したりしても
───それを止めることのできる者はいなくなって
しまうのである。
「……彼女らの道義と矜持を疑うわけではないが……
それを根拠に生徒や或美島の人々を危険に晒すことは
できない」
「そう……ですね。じゃ、じゃあ、片方に隠れて
キスするしかないってことですか?」
士道の提案に、しかし令音は難しげにうなった。
「……それも確実とは言えないね。彼女らはもともと
同一の精霊だったという話だったろう。君と十香たち
のように、二人の間に霊力の経路が通っている可能性
がある。そうなると、片方を封印した際に気付かれて
しまうだろう」
「じゃ、じゃあ、一体どうすれば……」
士道が難しげな顔を作って問うと、令音が腕組み
しながら首を前に倒した。
「……まったく打つ手がないわけじゃあない。
一つ、策を講じさせてもらった」
「策?」
「……ああ。今日の昼間、話をした際に、彼女らと
一つ取り決めを交わしたのさ。修学旅行最終日──
つまり明後日の朝までに、君に必ずどちらが魅力的
かを選択させると」
「明後日……ですか」
「……ああ。二日後に必ず成果が得られるとあれば、
彼女らもそう簡単に意趣を返したりはしないだろう?
少なくとも、一日の猶予を稼ぐことができる。我々に
とっては何より貴重な──デートの時間を」
令音の言葉に、士道はごくりと息を飲んだ。
「つまり……明日一日で、耶倶矢と夕弦をデレさせろ
……と? でも──」
「……いや、少し違う」
と、士道の言葉の途中で、令音が首を横に振った。
「……
「…………………………は?」
「……
一瞬令音の言っている意味がわからず、士道は目を
見開き口をポカンと開けた。自分からは見取ること
ができないが、相当に間の抜けた顔をしていること
だろう。
だが令音はそんな滑稽な士道の様子を笑うでもなく、
静かに声を続けてきた。
「……私は耶倶矢と夕弦にインカムを渡し、シン、
君を攻略する手助けを行うつもりだ。君は私が指示
した彼女らの行動に対し、色好い反応を示していて
くれればいい。──私のサポートが信頼できるもの
である、と、彼女らに思わせるようにね」
「え、いや、ちょっと、言ってる意味が……」
「……二人が、こちらのアドバイスなどが的確である
という判断をしてくれさえすれば───二人の行動を
ある程度御することが可能だろう。そう、たとえば
───
「……っ!?」
士道はハッと肩を揺らした。
二人同時に、キスをする。
無論そんなこと一度も試したことはないが──
それで二人の霊力を同時に封印できるのなら、
令音の懸念は解消することができるだろう。
「……苦肉の策には変わりない。だが……二人を封印
できるとしたら、この方法しかないと私は考えてる。
どうだろうか?」
令音が士道の目をジッと見ながら言ってくる。
「どう……って」
その隈に飾られた瞳を見つめ返しながら、士道は唾液
でのどを湿らせた。
確かに困難極まるミッションである。一歩間違えば
士道のみならず、十香や折紙、学校の面々や島の人々
をも巻き込んでしまう。
だが──今士道がやらねば、また突発性のハリケーン
が世界のどこかで発生することになってしまうだろう。
──それに。士道は小さく唇を噛んだ。
耶倶矢と夕弦から二人の関係性などを聞いてから、
士道は堪らない気持ちの悪さを覚えていたのである。
主人格の座をかけて争い──敗北した方は、相手に
取り込まれて消えてしまう。
自分が生き残るために、相手を殺さねばならない
という最悪の筋書き。
生まれた瞬間に、どちらかが消えねばならないという
理不尽極まる運命を背負わされた二人。
だが、士道がもし二人の霊力を封印することができた
ならば、その運命すら覆すことができるかもしれない
のである。
「…………」
士道の脳裏に、今まで触れ合ってきた複数の精霊たち
の記憶が蘇る。
十香。〈アテナ〉。四糸乃。狂三。そして──琴里。
危険がどうだとか、世界がどうだとか、そんなものは
二番目三番目で構わない。
──精霊を。最悪の定めに囚われた少女を、
救いたい。
士道が手を伸ばす理由としては、それだけあれば
十分なのだった。
「わかりました……やってみます」
「……すまない。助かるよ」
言うと、令音がふっと士道から視線を外し、
軽く頭を下げる。
そこまで畏まられても困ってしまう。士道は苦笑
しながら手を振った。
「そんな。俺だって精霊を──」
と。言いかけたところで、
「──ぅえっくしょん!」
士道は派手な大きなくしゃみをして肩を揺らした。
そういえば、夏場だというのに少し肌寒い気がする。
どうやら先ほど勢いよく海へとダイブしたのが祟って
しまったらしい。
「……風邪かね?」
「いや……大丈夫だと思いますけど」
言って、ずずっと鼻水を啜る。
と、そこで令音が、何かを思いついたかのように
ポンと手を打った。
「令音さん? どうかしましたか?」
「……ああ、やはり大事になるといけない。
今日はもう休みたまえ」
「え? いや、さすがにそんな……」
「……明日、君が万が一ダウンしてしまったなら、
耶倶矢と夕弦はどうするんだい?」
言われて、士道はむうとうなった。
「わかりました。じゃあ今日は休ませてもらいます」
そう言って立ち上がろうとすると、なぜか令音が
士道の手を取った。
「……待ちたまえ、シン。──ここで、寝るんだ」
「へ?」
令音の言っているその意味がわからず、士道は目を
丸くした。
それからおよそ二〇分後。士道は令音の意図を完全に
理解した。
「くく……令音から聞いたぞ士道よ。どうやら風邪
らしいではないか。かか、人間というものは斯くも
脆弱なものか。あの程度で身体を病むとはな」
「宣言。安心してください。夕弦の看病にかかれば、
明日までに全快です」
そう言いながら、浴衣姿の耶倶矢と夕弦が部屋に
入ってきたのである。
「……ああ、悪いな」
布団を被り額に濡れタオルを載せた士道は、渇いた
笑みを浮かべながらそう言った。
一瞬「誰のせいだ、誰の」なんて言葉などが口から
漏れかけるが、それは心の奥底にしまっておく。
大体のことは令音に聞いていた。要は看病で二人との
親密度などを上げておくのと同時に、彼女たちの行動
パターンを把握しておこうというのである。
だから生徒への感染を防ぐ、という名目で教員の部屋
を空けて、士道が一人で寝込んでいたのだ。ちなみに
物陰には隠しカメラが設置され、彼女らの行動を逐一
記録している。
耶倶矢と夕弦にしても、どうにかここでポイントを
稼ぎ、士道に自分を選んでもらおうと張り切っている
のだろう。妙に気合が入っている様子だった。
「くく……では邪魔するぞ」
「失礼。上がらせていただきます」
二人はスリッパを脱ぎ、部屋に上がってくると、
士道を挟むように左右に正座した。
そして、ジッと士道の顔を見下ろしてくる。
「……ええと、なんだ?」
士道が言うと、耶倶矢と夕弦はふっと顔を上げて視線
を交じらせた。
「くく……夕弦よ。先に言っておくが、我を今までの
八舞耶倶矢だと思うていては怪我をするぞ。我は優秀
なる眷属を得、新たなる我へと生まれ変わったのだ」
「溜息。また耶倶矢のハッタリが始まりました」
耶倶矢の言葉に、夕弦がやれやれと肩をすくめる。
あからさまなか挑発である。しかし耶倶矢はそれには
乗らず、口元を歪めて不敵なまでの笑みを漏らすのみ
だった。
夕弦も、そんな耶倶矢の余裕を感じ取ったらしい。
微かに目を細める。
「驚嘆。どうやらあながち嘘でもないようですね。
───ですが、それは夕弦の方も同じです。夕弦は
素晴らしい師を得ました。今の無敵になった夕弦に
敵はありません」
「ほう……? 面白い。では尋常に勝負!」
言って、耶倶矢は再び士道に視線を落としてきた。
「む」
入浴を終え寝間着に着替えてた十香が旅館の廊下を
歩いていると、十字路に差し掛かったところで折紙
に遭遇した。
シンプルなデザインの部屋着姿で、小さなポーチの
ようなものを手首に提げ、何故か手元にはラップの
かかった皿を持っている。どうやら載っているのは
おにぎりらしかった。
なぜそんなものを持っているのかは気にはなったが、
正直遭遇して嬉しい相手ではないし、別段話すことも
なかった。ぷいを顔を背けて十香は目的の方向へと
歩いていく。──だが、
「……ぬ?」
十香は怪訝そうに眉をひそめた。折紙が、無言で十香
のあとをついてきたのである。
「む、なぜ私のあとをついてくるのだ?」
「あなたを追ってなどいない。進む方向が同じだけ」
折紙が、表情一つ変えぬまま返してくる。十香は眉間
のしわをさらに深くした。
「……貴様、まさか令音の部屋に行くつもりではない
だろうな」
十香が言うと、折紙は初めてぴくりと眉を動かした。
そう。十香もまた、令音の部屋に───正確に言う
ならば、令音の部屋で休んでいるという士道の看病
に行くつもりだったのである。
先ほど士道と遊ぼうと、士道の部屋に行ったところ、
風邪をひいて別室で休んでいると聞かされたのだ。
だが───まさか折紙までもがその情報を掴んで
いたとは。
「士道の看病は私一人で十分。あなたは自分の部屋に
戻っていればいい」
「ふざけるな、シドーは私が看病するのだ!」
「あなたにそんなことが可能とは思えない」
「何おう!」
「では、具体的に何をするの?」
「そんなの決まっているだろう、まずは──」
十香は、自信満々に話し始めた。
士道はひッと息を漏らしていた。耶倶矢が軽く顔を
染めてから、意を決するように頬を張り、そのまま
いそいそと士道の布団へと入り込んでこようとして
きたのである。
「ちょッ、ちょっと待った! 一体何を──!」
「くく……風邪のときはとにかく身体を温かくする
ものだろう。そして士道、御主聞くところによると、
おなごと同衾するのが大好きだそうではないか」
「は……はぁっ!?」
士道は布団を両手でキープしながら叫びを上げた。
そりゃあ士道も男の子である。無論嫌いなことは
ないが……
「な、なんだよそれ。そんなこと言われる
覚えなんて──」
「違うのか? 我が眷属は、ある朝起きたら御主が
いつの間にか布団にいたと……」
「……すまん、あった」
士道は頬をぴくつかせながらそう答えた。恐らく、
というか間違いなく、耶倶矢のいう『眷属』とやらは
十香のことだろう。以前琴里によって、寝ている間に
十香の布団に放り込まれたことが確かにあった。
そんな士道の回答を聞いてか、耶倶矢がふふんと
勝ち誇ったそんな笑みを夕弦の方に向け、満足げに
うなずいた。そしてそのまま、またも布団の方へと
押し入ってこようとする。
「い、いや、だから──!」
と、士道がそれを拒絶するかのようにすぐに布団を
押さえつけると、耶倶矢が「うぐ……」と両方の眉
を八の字にした。
「わ、私じゃ……駄目?」
「……ッ! そ、そういうわけじゃ……
ああもうッ!」
士道は、困り切った顔を作って額に手を置いた。
「──という風に、添い寝して温かくするのだ!」
十香は、ふふんと鼻息を鳴らしながら、自信満々に
腕組みした。
そう。令音や琴里が、風邪のときは温かくするのが
大事と言っていたのを覚えていたのである。
加えて、士道はいつの間にか十香の布団に潜り込んで
いるほどの添い寝好きなのだ。あのときは突然のこと
に驚いてたのだが、体調を崩している今は……まあ、
特別である。
だが、折紙はやれやれといった調子で軽く首を横に
振ってきた。
「やはり、あなたでは役者不足。大人しく部屋に
戻るべき」
「な、なんだと!?」
「その証拠に、あなたは何も用意していない」
「何?」
十香が睨みながら言うと、折紙は手首に提げたポーチ
に視線を落とした。
「体温計、冷却シート、それに身体を拭くための
タオルも用意してある。抜かりはない」
「ふ、ふんっ! タオルは部屋に数枚備え付けて
あるだろう! それくらい私にだって……」
言うと、折紙がふるふると首を振った。
「それでは意味がない。せっかく汗を拭いても、
備え付けのタオルでは、回収できない」
「む、むぅ……?」
今ひとつ折紙の言っていることがわからなかった。
うめくようにのどを鳴らす。
「それに、あなたは大事なことを理解していない」
「大事なこと?」
「そう。タオルを使うのは最後の手段」
「何? それでは汗が拭けぬではないか」
「私ならばこうする」
折紙は、淡々と語り始めた。
士道と耶倶矢が攻防戦を繰り広げていると、今度は
夕弦が、ゆったりとしたそんな動作で士道の方へと
一歩近づいてきた。
そして、バサッと布団を剥ぎ取ってくる。
「うわっ!? な、何するんだよ夕弦」
「っ! そうだぞ貴様、我の添い寝の邪魔をするとは
卑怯なり!」
士道に同調するように、布団に入り込もうとしていた
耶倶矢がすぐ非難の声を上げる。しかし夕弦はさして
気にも留めていないそんな様子で、ひくひくと小さく
鼻を動かしてきた。
「確認。発汗が見られます」
「え? ああ……そりゃ、少しはな」
士道は小さくうなずきながら答えた。風邪をひいてる
状態を演出するため、夜とはいえ夏場に分厚い布団を
被らされていたのである。当然、汗くらいはかいて
だろう。
「指摘。汗は放っておくと気化熱で体温を奪います。
すぐに拭わねばなりません」
「や……まあ、そりゃそうかもしれないけど……」
と、士道がキョトンと目を丸くしていると、夕弦が
突然士道の浴衣の合わせを掴み、ガバッと胸元を
はだけさせた。
「は──」
そして夕弦は士道に覆い被さり、舌を伸ばして士道の
胸元をぺろぺろと舐めてきた。
柔らかく温かい、濡れた感触が、士道の胸をくすぐる
ように這い回っていた。突然のことに、士道は思わず
「きゃんっ!」と女の子のようなそんな声を発して
しまった。
「ゆ、夕弦ッ!? ちょ……ッ!」
「な、なななななにしてんのよ夕弦ぅぅッ!」
士道に合わせて耶倶矢が叫び、夕弦の頭をがっしと
掴んで士道から引き剥がす。
すると夕弦はぺろりと唇を舐めてから、不思議そうな
顔を作った。
「疑問。なぜ止めるのですか?」
「なッ、なぜってあんた、一体何してんのよ!?」
「汗を拭うにはこの方法が一番であると、尊敬できる
師に教わりました」
夕弦のそんな言葉に、士道はぴくりと眉を動かした。
……なんだか、思い当たるそんな人物が一人だけいる
気がする。
だがとにかく、今はこの状況を何とかする方が先決
なのである。士道ははだけられてる胸元を直すと、
奪われた布団を被り直した。
「──というように、舌で以て汗を舐め取る」
「そ、それに何の意味があるのだ!?」
十香が頬に汗を滲ませながら叫ぶと、折紙はほうと
吐息してきた。
「あなたの感性の貧弱さには哀れみすら覚える」
「ぐ……」
なんだろうか、正しいのはこちらのはずなのに、
言い知れぬ敗北感を覚えて十香は歯噛みした。
だが、ここで相手にまれてはいけない。十香は
ブンブンと首を振ると、反論するようにのどを
震わせた。
「だ、だが結局、汗を拭いたあとは添い寝が必要に
なるだろう!」
「確かに、一理ある。ともに寝るのはとても重要な
ファクター」
「それ見たことか! 私だって役に立つのだ!」
しかし折紙は、再び否定を示してきた。
「それにおいても、私一人がいれば十分」
「ふ、ふざけるな! 私の方が上手く添い寝が
できるのだ!」
十香と折紙は、視線を交じらせると、バチバチと
火花を散らした。
士道が布団を被り直すと、それを待っていましたよと
言うように、耶倶矢が四つん這いになりながら士道の
布団を捲り上げてきた。
「くく……どうやら士道は我の添い寝の方が
いいようだな」
「否定。添い寝テクでも夕弦は耶倶矢を凌駕します。
暖を取るのなら是非夕弦で」
「いや、おかしい! 何かがおかしい!」
士道が必死になって制止すると、耶倶矢と夕弦は
キョトンと目を丸くした。
「何だ……? 温かくするときは人肌が一番では
ないのか?」
「同調。そのように聞きましたが」
「ゆ、雪山じゃねえんだから、一人で大丈夫
だって……」
士道は胸元で布団を握りしめ、二人から逃れるように
しながら言った。絵柄的には、まるで暴漢に襲われる
ヒロインのような格好である。
すると夕弦が、何やら得心がいったようにポンと
手を打ち、小さくうなずいてきた。
そしておもむろに立ち上がると、浴衣を留めていた
帯をするりと解く。
『な……ッ!?』
士道と耶倶矢の狼狽が見事に重なる。
だが夕弦はさして気にしていない様子で悠然と士道を
見下ろしてきた。縛めを解かれたそんな浴衣の僅かな
スリットから彼女の艶めかしい肌と、上下揃いの下着
が覗き、士道の動悸を異様に加速させる。
「な、なな、何を……」
「理解。そういえば師が、身体を温めるなら直接触れ
合わねば意味がないと仰っていました」
「何その超理論!?」
士道が悲鳴じみた声を上げるも、夕弦は構わず布団に
入り込んできた。
そして士道の震える左腕を取って、自分の浴衣の中に
滑り込ませていく。
「はぅあ!?」
士道は顔を真っ赤にして叫びを上げた。自分からは
見えないが、きっと頭や耳からは煙が吹き出している
ことだろう。
「ちょッ、な、なにモゾモゾしてんのよ!」
「無視。耶倶矢は知らなくていいのです。布団の中は
大人の空間なのです」
夕弦がそう言うと、耶倶矢が悔しそうな表情で
歯を摺り合わせた。
「な、舐めんなぁぁぁ!」
そして勢いよく自分の帯に手を掛け、バサッとそれを
取り去る。
「な……っ!?」
士道は目を丸くした。夕弦よりも勢いをつけて帯を
パージしたものだから、一瞬浴衣がめくれ上がった
のである。しかも──
「な、なんで裸なんだよ耶倶矢ッ!?」
そう。夕弦でさえ浴衣の下にはブラとショーツを着用
していたというのに、今の耶倶矢は、何も着けてすら
いなかったのである。慌てて目を瞑る。
「……! 驚愕。まさかそこまで」
夕弦もまた、驚いたように目を丸くする。そんな二人
の反応を見てか、耶倶矢が戸惑いながら大きな声を
発してきた。
「えっ? こういうものじゃないの、浴衣って。
だって十香が言って──」
「いや、正しくはそうかもしれないけど!」
「え、ええい! もうどうにでもなれ……ッ!」
興奮状態の耶倶矢は自棄気味に叫ぶと、そのまま、
士道の布団にダイブしてきた。
そして夕弦と同じように士道の手を取り、両足を
士道の身体に絡めてくる。
「さ、さぁ……士道よ。我が偉大なる癒しの力を
感じるがいい……! 夕弦なんぞより温かかろう。
ほら、夕弦は若干冷え性気味だし!」
「否定。耶倶矢の方が胸元が寂しい分、発熱量は
少ないはずです」
「くは……ッ!?」
二人の口論の中、士道は全身を緊張させながら
息を吐いた。
何しろ布団に閉じ込められた上、その両側から身体を
押し付けられている状態である。しっとりと張り付く
ような肌の感触だとか、耳元へと感じる吐息だとか、
微かに漂う汗の匂いだとかが鮮明なまで感じられて
もうやっべぇ。さすがにもう耐えられそうにすら
なかった。
「制止。耶倶矢、士道の顔が赤くなっています」
「なんだと? 我ら二人で温めているというのに、
体調が悪化しているというのか?」
「仮説。もしかしたら、耶倶矢アレルギーなのかも
しれません。離れてみてください」
「ひっ、人をハウスダストみたいに言うなッ!」
「進言。冗談はさておき、どうにかせねば
なりません」
「どうにかって……どうするというのだ」
「提案。そういえば、直接だとそう言っていながら、
肌の接触領域が限定的だとは思いませんか?」
と、夕弦が言ったかと思うと、不意に士道の左腕に
絡みついていた手が解かれた。
ほう……と放念の息を吐く。だが次の瞬間、士道は
再度身体を強ばらせた。
理由は単純なものだった。夕弦の手が士道の浴衣を
留める帯を解き始めたのである。
「ちょッ、やっ、な、何っ!?」
士道が涙目になりながら叫ぶも、夕弦は手を止めよう
としなかった。それどころか、途中で夕弦のその行動
に気付いた耶倶矢までもが、顔を赤くしながら負けじ
と士道の浴衣を脱がしにかかってくる。
「きっ、きゃぁぁぁ! きゃぁぁぁぁぁッ!?」
「うるさい、黙らぬか! 脱がせづらいわ!」
「同調。うぶなねんねじゃあるまいし」
布団がモゾモゾとうねり、その脇からぽーい、と
士道の着ていたその浴衣が放り出される。正直、
何をされたのかすらわからなかった。まるで奇術
のような手際のよさである。
だが、その悪夢はそれだけでは終わらなかった。
次いで耶倶矢と夕弦の指が、士道の最後の砦たる
パンツにかけられたのである。
「さ、さあ……ここが最後だ」
「肯定。一気にいきましょう」
興奮した様子で息を荒くしながら、二人がグッと
手に力を入れる。
「いッ、いやぁぁぁぁぁぁッ!?」
甲高い士道の悲鳴が、部屋中に響き渡った。
旅館の廊下で折紙と向かい合ったままそんな膠着状態
に陥っていた十香は、不意にどこかから聞こえてきた
悲鳴のようなものを耳にして眉をひそめた。
「……ぬ? 何か聞こえなかったか?」
「きっと幻聴。大事をとって部屋に戻るべき。
士道は私に任せて」
「まだ言うか……っ!」
十香はビッと折紙の持っていた皿に指を突き付けた。
「では、その皿はなんだ!? それこそ、シドーの看病
には必要ないだろう!」
十香が言うと、折紙は至極当然といった調子で
返してきた。
「士道の夜食用。風邪をひいているときは、とにかく
体力をつけなければならない」
「ふ、ふん! 馬脚を現したな! 風邪をひいている
人はお粥を食べるものなのだ!」
そう。確か以前、令音と琴里がそんなことを
言っていた気がする。
だが折紙はさして驚く様子もなく、淡々と言葉を
返してきた。
「風邪のときは、消化のいいものを。
そんなことは当然」
「何……? ではなぜそんな──」
「これは、私がその場でペースト状にし、直接士道
の口に注入する。何も問題はない」
「な、なんだと……?」
十香は首を傾げた。折紙は他に器具らしきものを
持っているようには見えないのだが、どうやって
ペースト状にするというのだろうか。しかも直接
とは一体……
十香が考えを巡らせていると、折紙が無言で足を
進め始めた。ハッと目を見開き、慌ててその肩を
掴む。
「ま、待てっ! シドーの看病をするのは私だ!」
「離して。士道が私を待っている」
「ふざけるな、そんなはずが──」
と、通路の真ん中で十香と折紙が激しく口論を
していると、二人の背後から三つの影が素早く
走り寄ってきて、姿勢を低くしながら二人の周り
をサササッと取り囲んだ。
「な、なんだ……?」
十香はビクッと肩を揺らし、周囲に展開していた女子
生徒たちを見やった。覚えのある顔。十香と同部屋の
亜衣、麻衣、美衣トリオである。
「へいへいお二人さーん、今日も精が出るねーぃ」
「でもこんな往来で騒いでいたんじゃ、みんなの迷惑
になっちゃうよー」
「よければその勝負、私たちに預けてみなーい?」
亜衣麻衣美衣が、盗塁を狙う走者のような姿勢で、
小刻みに左右に動かしながら順にそんなことを
言ってくる。
「ぬ……?」
「…………」
三人に囲まれた十香と折紙は、不思議そうに目を
見合わせた。
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『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎
今回は『転生したらスライムだった件 ■■の魔王』
や『五等分の花嫁 繋がり合う絆』。そして更には
『とある暗躍の幻視者』などを更新してますので、
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