デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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今回は十月に入ってからなんとかすぐに更新をする
ことができました‼︎


今回は『152914文字』 までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)


【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎


面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。


最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎


クロスカウンター・ハート

旅館の廊下の壁に張り付くようにして様子を窺っていた

エレンは、ターゲットである夜刀神十香が部屋に入って

いくのを確認してから、インカムを指で押さえた。

 

 

「──こちらアデプタス1。ターゲットが部屋に入る

のを確認しました」

 

 

『了解。〈バンダースナッチ〉を展開させますか?』

 

 

「念のため部屋の外に三体ほどお願いします。ただし、

部屋の中には鳶一折紙一曹もいる模様です。念のため、

随意領域(テリトリー)の展開範囲には注意しておいてください」

 

 

『了解。〈バンダースナッチ〉一から三号機、移動』

 

 

エレンの言葉に従い、オペレーターが指示を発する。

 

 

と、エレンはインカムに次なる指示を出そうとした

ところで、

 

 

「──へぶっ!?」

 

 

いきなり部屋の中から飛んできた何かを顔面に受け、

その場にひっくり返った。

 

 

「つ──今のは」

 

 

鼻を押さえながら身体を起こし、瞬時に身を固くする。

 

 

「まさか、気付かれた……?」

 

 

さしたるダメージなどではないものの、今の一撃は、

間違いなくエレンを狙っていた。

 

 

───そんなはずはない。エレンは自分の思考に心中で

首を振った。〈バンダースナッチ〉もまだ目立った行動

などは取ってすらいないし、エレンの方だって何をした

わけでもない。いやしかし、精霊の知覚能力であれば

……そんな思考が、一瞬のうちにエレンの脳内を巡る。

 

 

何にせよ、危機的状況には変わりなかった。エレンは

その場から退去しようとし──

 

 

「あ、カメラマンさんはっけーん」

 

 

部屋の中から響いてきた脳天気なそんな声に、その身を

射竦められた。

 

 

「お、ホントだホントだ。エレンさんだっけ?」

 

 

「逃がすな、確保ォォォォォ!!」

 

 

などと叫びながら、部屋から三人の少女たちがエレンの

方へと走って来たかと思うと、エレンを取り囲むように

ぐるぐると回り始めた。

 

 

「な……」

 

 

──囲まれた!

 

 

エレンは奥歯を噛みしめた。

 

 

彼女らの顔には見覚えがある。ターゲットと同じ部屋に

宿泊している生徒たちだ。

 

 

エレンは自分の油断を呪った。恐らく彼女たちは既に

精霊に自我を奪われ、操られているようなそんな状態に

あるのだろう。でなければ、この異常な行動などに説明

がつかない。

 

 

と、そんなことを考えているうちに、エレンは亜衣麻衣

美衣に両手両足を押さえられ、彼女たちの部屋の中へと

担ぎ込まれてしまった。

 

 

「く──何を……!」

 

 

「おーい、カメラマンさんも参戦するってさー!」

 

 

亜衣がそんなことを言ったその瞬間、部屋の奥から

「おお!」と十香の声が響いてきた。

 

 

「よかろう、纏めて葬ってくれる!」

 

 

「いい度胸」

 

 

叫び、部屋の奥で睨み合っていた十香と折紙が大きく

振りかぶり、何かを投擲してくる。

 

 

「させるか! カメラマンバリアー!」

 

 

と、その瞬間、エレンの足を担ぎ上げていた亜衣が急に

手を離し、エレンの背後に隠れるように身を縮めてた。

同時に、エレンの顔面に、布を固めたような物体が連続

で直撃する。

 

 

「かは……っ!」

 

 

喀血するように息を吐き、エレンは一瞬にして、その場

にくずおれた。

 

 

「エ、エレェェェェェェェン!!」

 

 

「大丈夫か、傷は浅いぞ!」

 

 

「しっかりしろ、郷里に家族が待ってるんだろう!?」

 

 

なんて、エレンを盾にした張本人たちが、わざとらしく

涙を拭うような仕草を見せる。

 

 

エレンは混乱する意識の中で、自分の顔に直撃した物体

の正体を確かめた。

 

 

「……枕(ピロー)?」

 

 

そんなエレンの呟きとともに──戦争が、再開した。

 

 

 

 

 

職員会議などを終えた二年四組担任教諭・岡峰珠恵は、

自分自身の部屋の隣に位置する村雨令音教諭の部屋に

立ち寄っていた。

 

 

なんでも、珠恵のクラスの生徒である五河士道が急に

体調を崩したため、大事をとって休ませているらしい。

 

 

眠っているようなら起こさない方がいいだろうが……

一応、担任として状態の確認などくらいはしておかねば

なるまい。珠恵はコンコン、と控えめに目の前の扉を

ノックした。

 

 

「五河くーん? 熱が出たって聞きましたけど、

大丈夫ですかぁ?」

 

 

そしてそう言いながら、ゆっくりと扉を開ける。

 

 

すると、その瞬間。

 

 

 

「や、やめてぇぇぇぇぇっ!」

 

 

なんて情けない叫びを上げながら、件の五河士道が部屋

から飛び出してきた。

 

 

 

──なぜか、裸で。

 

 

 

「────」

 

 

「へ……?」

 

 

士道が、珠恵の顔を見て驚いたような顔を作る。

 

 

瞬間──

 

 

 

『──きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 

珠恵と士道の絶叫が、ホテル中にこだました。

 

 

 

 

 

 

 

日が明けて、修学旅行二日目。

 

 

士道は、或美島北端に位置する赤流海岸にやって

きていた。

 

 

三〇年前の空間震で島が削り取られてできてしまった

この海岸は、上から見るとなだらかな弧を描いている

らしく、観光ガイドなどでは格好良く三日月海岸とも

呼ばれているらしい。

 

 

「…………」

 

 

が、そこに観光客らしきそんな人影などは一人も

見当たらなかった。

 

 

だがそれも当然だろう。士道は皆と一緒に更衣室に

向かうところで令音に呼び止められ、用意してあった

レンタカーで、赤流海岸の端に位置するプライベート

ビーチに連れてこられていたのである。

 

 

なんでも士(・)道(・)の(・)攻(・)略(・)を行う上でクラスメートが邪魔に

なる可能性が高いとかで、わざわざ昨日のうちに手配

していたらしい。

 

 

「はあ……すごいなこりゃ」

 

 

空は快晴。強烈な太陽の光が透明度の高い水に反射

して、士道の目を細めさせてくる。

 

 

だが士道は、恐らく一般の海水浴場などで遊んでいる

であろう精気に溢れてる若人たちとは対照的に、老人の

ような口調でそう呟くと、頬と胸元にできた引っ掻き傷

をそっと撫でた。

 

 

瞬間、微かな痛みが肌に走り、思わず顔をしかめる。

 

 

「いっててて……」

 

 

昨晩、耶倶矢と夕弦から逃げようと扉を開けた瞬間、

タマちゃんのスラッシュファングが襲いかかってきた

のである。

 

 

琴里の霊力によって、どんな大怪我を負おうと再生する

身体を有している士道であるが、どうやら自身の治癒力

でなんとかなってしまいそうな怪我は対象外らしい。

この状態で海に入ったなら、苛烈なる海水の洗礼に涙を

流すことになるだろう。

 

 

まあ、とはいえ──

 

 

 

「どっちにしろ、気楽に遊べるってわけじゃない

だろうしな……」

 

 

士道はふうと息を吐いた。それに合わせるようにして、

右耳に装着したインカムから、聞き覚えのある眠たげな

声が響いてくる。

 

 

『……シン、耶倶矢と夕弦が着替えを終えたようだ。

準備はいいかい?』

 

 

令音の言葉に、士道は大きく深呼吸をしてから

「はい」と答えた。

 

 

『……昨日説明したとおり、二人には同じインカムを

渡してある。海水浴をしたことがないそうなのでね、

こちらから色々と指示をしようと思う。できるだけ

それに合わせてくれ』

 

 

「りょ、了解です」

 

 

『……彼女らへのアドバイスと君との会話が混線して

しまうのを防ぐため、一度回線を閉じることになる。

……大丈夫だね?』

 

 

「はい、なんとかやってみます。……正直、ちょっと

不安ですけど」

 

 

昨日の出来事を思い起こし、力無く苦笑する。

 

 

『……まあ、昨日はいろいろと大変だったようだが、

今日はこちらからある程度セーブするとするよ。では、

作戦開始だ。彼女らの水着姿を褒めるのを忘れずにね』

 

 

その言葉を最後に、通信が途絶える。

 

 

と、それと同時に、背後からとある二人分の声が

聞こえてきた。

 

 

「くく……こんなところに隠れていたか」

 

 

「発見。見つけました、士道」

 

 

特徴的な語調。確認するまでもない。士道はゆっくりと

振り向いた。

 

 

そこには予想通り耶倶矢と夕弦が立っていた。耶倶矢は

白のレースに飾られた黒のビキニを、夕弦は逆に白地に

黒いレースのついたビキニを身に纏っている。

 

 

双方、嫌味なほどに似合っていた。こんな少女たちが

二人浜辺を歩いていたなら、思わず声をかけてしまう

男も一人や二人では済まないだろう。

 

 

「お、おう、二人とも。似合ってるじゃないか。

すげえ綺麗だよ」

 

 

令音の言いつけ通り士道が水着姿を褒めると、耶倶矢が

驚いたように顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトン

として自分の装いを見下ろした。

 

 

だがすぐにハッとした様子で、耶倶矢が腕組み

してくる。

 

 

「く、くくく………そ、そうであろうそうであろう。

だが勘違いするなよ。この程度の衣服では、我の魅力の

前に霞んでしまうわ」

 

 

「謝辞。ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

 

次いで、夕弦が素直に首肯してくる。

 

 

と、そこで。

 

 

「……ん?」

 

 

「確認。はい」

 

 

不意に耶倶矢と夕弦が眉を動かしたかと思うと、二人が

それぞれ耳に手を当てる。よく見ると、彼女らの耳には

士道が使っているのと同じ機種タイプのインカムである

と見受けられた。

 

 

「くく……なるほど、承知した」

 

 

「了承。理解しました」

 

 

士道は思わず苦笑をしてしまった。慣れない動作だろう

から仕方ないのだが……二人して令音が渡したインカム

に気を取られているのが、なんともおかしな光景だった

のである。

 

 

ほどなくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、

士道に向き直ってくる。

 

 

「士道よ。常闇へと身を置く我には、この天よりの光は

少々堪える。我が身に、聖光を阻む瘴気の加護を施す事

を許すぞ」

 

 

「へ……?」

 

 

「請願。日焼け止めというのを塗ってください」

 

 

「ああ……なるほど」

 

 

夕弦の言葉でようやく理解する。

 

 

が、大変なのはすぐに理解したあとだった。だって、

日焼け止めを塗るということは──

 

 

「ふ……では頼んだぞ。我の背中は貴様に任せる」

 

 

耶倶矢が、なんか明らかに使う場の間違っている言葉

を吐きながら、日焼け止めローションを手渡してくる。

次いで、夕弦も同じように言ってきた。

 

 

「依頼。お願いします」

 

 

一体どこからこんなものを取ってきたのかと思ったが、

すぐに知れた。そんな士道たちのすぐ近くに、パラソル

とレジャーシートで休憩スペースのようなものが設営

されていたのである。

 

 

恐らく、令音が事前に用意していたのだろう。

 

 

二人はキッと互いの視線を交じらせると、パラソルの

陰にうつ伏せに寝そべった。そしてトップスのホック

を外し、その白い背中を士道に晒す。

 

 

「え、ええと……」

 

 

隣り合わせで寝ころんだ二人の背中を見ながら、士道は

顔中にびっしりと汗を滲ませた。

 

 

これを塗る……ということは、つまり直接少女の柔肌に

手を這わせねばならないということである。

 

 

すると、さすがに焦れたのか、耶倶矢と夕弦がインカム

に触れて小さな声を発し始めた。

 

 

「おい、士道が乗って来ぬぞ。話が違うではないか?」

 

 

「質問。何がいけないのでしょうか」

 

 

「……っ、やべっ」

 

 

士道は眉をひそめた。今日の狙いは、令音のアドバイス

に信憑性などを持たせることにあるのだ。ここで士道が

二の足を踏んでいては、作戦が台無しになってしまう。

 

 

「よ、よし、じゃあ塗るぞ!」

 

 

言うと、耶倶矢と夕弦は一瞬士道の方を向いてから、

小さくうなずいた。

 

 

「ふう……」

 

 

どうにか令音から事前に聞いていたアドバイスを無為に

せずに済んだようである。士道は放念の息を吐いた。

 

 

だが──

 

 

「くく……それで士道、訊くまでもないことなのかも

しれぬが、無論我から塗るのだろう?」

 

 

「質問。士道はどちらから日焼け止め施すのですか?」

 

 

「え……? いや、それは」

 

 

と、二人が寝そべったまま互いの視線を交じらせたかと

思うと、不意に耶倶矢が夕弦に組み付き、身体をゴロン

とひっくり返す要領で夕弦の上に乗った。そして両手足

で夕弦のその身体が動かぬように押さえ込みながら、

声を上げてくる。

 

 

「士道、今だ。我に瘴気の加護を!」

 

 

「油断。く……」

 

 

耶倶矢が勝ち誇ったように唇の端を上げ、夕弦が苦悶の

声を漏らす。

 

 

何というか、水着のトップス部分などを外した状態で

そんな体勢になっているものだから、耶倶矢と夕弦の

乳房がお互いの身体にぎゅうと押しつぶされ、何だか

妙にエロかった。

 

 

「早くせんか!」

 

 

「お、おう!」

 

 

気圧されるような形で、士道はその場に膝を突くと、

手にローションを適量取ってから、耶倶矢の背中に

触れた。瞬間──

 

 

「っ、ふぁ……っ」

 

 

なんて今までにない甘い声を出しながら、耶倶矢が

全身をビクッと震わせた。

 

 

「! わ、悪い、冷たかったか?」

 

 

「だ、大丈夫だ。早く……しろ……」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

だが士道が手を動かすたび、耶倶矢がくすぐったそうに

その身を捩りながら、「あ……っ」だの「んん……っ」

だのと、やたら官能的な声を響かせてくる。

 

 

耶倶矢に抑えつけられた夕弦もまた、耶倶矢のその反応

を見て「おお……」と感嘆のようなものを発していた。

 

 

だが、夕弦はすぐにハッとした様子で眉を動かすと、

耶倶矢の一瞬の隙を突き、ぐるりと身体を回転させる。

 

 

「反撃。隙ありです」

 

 

「ぐ……っ」

 

 

そして今度は夕弦が仰向けの耶倶矢を押さえつける

ような格好になって、士道の方へと目を向けてくる。

マウントポジションを取られてしまった耶倶矢は、

しかし夕弦に抵抗する余裕もないような様子で、

はぁはぁと息を荒くしていた。

 

 

「請願。士道、早く、夕弦にも……ください」

 

 

「う……っ!? お、おう」

 

 

日焼け止めのこととはわかっているのだが、その妙に

扇情的なそんなポーズと台詞などに、不覚にもドキッ

としてしまう。

 

 

士道はどうにか自身の心を落ち着けると、夕弦の背に

ローションを塗り始めた。

 

 

「痙、攣。う……ぁ、っ」

 

 

すると夕弦が、小刻みに鼻から息を吐きながら、

押し殺したような声を発してくる。

 

 

そして士道がおっかなびっくりといったその手つきで、

背筋へと沿うように手を動かすと、遂に耐えきれなく

なったように身体をビクンと跳ねさせた。

 

 

「え、ええと……」

 

 

「驚……嘆、とても、上手です……士道」

 

 

「ず、ずるい! 次は私!」

 

 

ようやく呼吸を整えたらしい耶倶矢が身体を起こし、

位置を逆転させる。

 

 

だが士道が再びローションを塗り始めると、またも

嬌声を上げて身を震わせ始めた。

 

 

「反、撃……そうはさせません」

 

 

今度は夕弦が身体を捻って、耶倶矢の背中をレジャー

シートにつける。過剰に塗りたくられたローションが

シートに流れていった。

 

 

「このっ、何をする……!」

 

 

だが耶倶矢の方も今度は夕弦なかやられっぱなしでは

済まさなかった。すぐさま夕弦の手を取り、マウント

ポジションを取り返す。

 

 

幾度かそんなことを続けたのち、ローションで滑った

のだろうか、二人はそれぞれがシートに腹這いの状態

になって睨み合うような格好になった。

 

 

「えっと、この場合は……」

 

 

士道は両手を合わせてローションをもう片方の手にも

つけると、並んでうつぶせになった二人の背に同時に

指を這わせていった。

 

 

すると──

 

 

 

『──ぅ、あ、あぁぁぁっ!』

 

 

 

二人は同時に大声を上げると、ぐったりとその場に

手足を投げ出し、全力疾走をしたあとのように肩で

息をし始めた。

 

 

「だ、大丈夫か、二人とも……!」

 

 

士道が戸惑いながら二人にそう言うと、二人は虚ろな

目を合わせた。

 

 

「……無自覚で、これとか……」

 

 

「戦慄……神の指です……とんだ狼です」

 

 

「は、はぁ……っ?」

 

 

だが、そこでまた何やら令音からインカムの通信が

入ったらしい。二人同時にインカムを押さえると、

呼吸を整えてから小さくうなずき始めた。

 

 

「ふ、ふむ、次は……スイカ割り……? 士道に目隠し

をさせて……?」

 

 

「確……認。ぐるぐる回してふらふらにしたのち、

進行方向上に待機して……?」

 

 

「ちょっ、ちょっと待った! 何しようとしてんだ!?」

 

 

たまらず叫びを上げ──士道はぴくりと眉を動かした。

 

 

耶倶矢と夕弦のそれとは別に、どこからか声が聞こえた

気がしたのである。

 

 

一瞬インカムから令音の声が聞こえてきたのかと思った

のだが、違う。そう、これは──

 

 

「──シドー!」

 

 

「っ、十香……!?」

 

 

聞き覚えのある声に名を呼ばれ、士道は弾かれるように

振り返った。後方には海が広がっているだけなのだが、

確かにそちらから声がした気がしたのである。

 

 

見ると、凄まじい波しぶきを立てながら、十香が沖から

泳いできてるのがわかった。フォームは滅茶苦茶だが、

恐ろしく速い。ついでにその後方には、美しいクロール

で泳いでくる折紙の姿も見受けられた。

 

 

海岸では、ターゲットである夜刀神十香を監視していた

エレンは、小さく息を吐きながら義手である漆黒の右手

で左手を肩を揉みほぐした。随意領域(テリトリー)なしで激しい運動

をしたのは久しぶりだったため、軽い筋肉痛になって

しまっていたのだった。

 

……結局、昨日は夜遅くまで枕投げなどに巻き込まれて

しまい、いつの間にか疲れてターゲットと一緒に寝て

しまっていたのである。

 

 

今日こそはと気を取り直してターゲットを監視している

のだが、やはり日中は人の目も多く、一人にはなりそう

にないのである。やはり今日も夜になるのを待った方が

よいだろうか──そんな考えが頭を過ぎると、

 

 

「──ん?」

 

 

エレンは訝しげに両の眉をひそめた。先ほどから一向に

落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見回していた

ターゲットが、不意に海の方を向いたかと思うと、

 

 

「おおシドー、あんなところに!」と叫び、海に入って

いったのである。

 

 

いや、それだけならばまだいいのだが───問題は、

ターゲット(と、なぜか鳶一折紙までも)がそのまま

一直線に泳いでいってしまったことだった。

 

 

「───〈アルバテル〉。ターゲットがどこかへと

向かいました。そちらで追えますか?」

 

 

エレンがインカムに向かって声を上げると、すぐに

オペレーターの声が返ってきた。

 

 

『確認しました。どうやら、向かいの海岸に向かって

いる模様です』

 

 

「向かいの海岸、ですか」

 

 

言いながら、エレンは今いる赤流海岸の地図の図面など

を思い浮かべた。確か今エレンたちは、三日月のように

弧を描いた海岸の端あたりにいるはずである。ここから

では小さくしか見えないが、十香たちの泳いでいった

ラインは、ちょうど海岸の端と端を繋ぐコースだった。

 

 

「その向かいの海岸には何があるのですか?」

 

 

『どうやら、プライベートビーチのようです。現在三名

の男女が確認できます』

 

 

その単語を聞いて、エレンはぺろりと唇を舐めた。

 

 

なぜ急に十香と折紙がそんなところに向かい始めたのか

わからないが、これは好機である。一般開放されている

この海水浴場とは異なり人の目も少ないし、ターゲット

が沖へと泳いでいってしまったというクラスメートの

証言も期待できる。行方不明扱いにしてしまうには絶好

のチャンスだろう。

 

 

「私もそちらに向かいます。〈バンダースナッチ〉を

随行させてください」

 

 

『了解』

 

 

応答を聞くと、エレンは構えていたカメラを肩に提げ、

その場にすっくと立ち上がった。

 

 

──だが。

 

 

「おっ、カメラさーん! ほらほらこっち、私たちを

撮って撮ってー!」

 

 

不意に背後から声をかけられ、エレンはちらとそちらを

一瞥した。

 

 

そこには浜辺で砂遊びなどに興じている数名の男女が

見受けられた。髪をワックスで固めてた少年が首だけ

出して砂に埋められており、少年の首から下に、砂で

変なポーズを取った身体が形作られている。

 

 

ついでに何とも最悪なことに、その周囲には、昨日

エレンを枕投げに巻き込んだあの三人の女子生徒も

見受けられた。

 

 

「申し訳ありませんが、私は──」

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

「いーじゃん撮ってよエレンさーん」

 

 

「熱い夜を共にした仲じゃなーい」

 

 

「…………はぁ」

 

 

エレンは面倒そうに息を吐くと、カメラを構えて

ぞんざいにシャッターを切った。

 

 

「これでいいですか。では、急ぎますので」

 

 

「えー、もっと撮ってよー」

 

 

「今目つぶっちゃったー」

 

 

「ていうかどこ行くのー? 遊ぼうよー」

 

 

「…………」

 

 

エレンが無視をして歩いていこうとすると、背後から

亜衣麻衣美衣がカサカサカサカサッ、と近づいてきて、

エレンが肩掛けにしていたカメラをひょいと奪い去った。

 

 

「! 何をするんですか。返してください」

 

 

「いやー、撮ってもらってばっかも悪いからさ、

エレンさんも撮ってあげるよ」

 

 

「ひ、必要ありません。返してください」

 

 

「いーからいーから、遠慮しないで」

 

 

「遠慮などしていません。用事があるので──」

 

 

「はいっ、一名様ごあんなーい!」

 

 

美衣がそう言うと同時、どこからともなく生徒たちが

わらわらと周囲に集まってきて、エレンの身体を軽々

と持ち上げた。そしてそのまま浜辺に連れていかれる。

 

 

するとそれと同時に亜衣麻衣美衣がスコップを手にし、

ザッザッザッと瞬く間に人間大の穴を砂浜に掘ったかと

思うと、エレンをその中にひょい、と放り込んだ。

 

 

「くっ、一体何を……! というか掘るのが早すぎ

ませんか!?」

 

 

「ふ! 昨日旅館裏の森で、地面ボコボコになるまで

高速穴掘り術を練習したかんね!」

 

 

「砂浜なんぞ、今の私たちにかかれば豆腐などを掘る

ようなもの!」

 

 

「さ、野郎ども、やっちまえーい!」

 

 

『おー!』

 

 

亜衣のその音頭とともに、エレンの身体に一斉に砂が

かけられる。

 

 

「うわぷっ……、な、や、やめてください」

 

 

抵抗むなしく、エレンの身体は完全に砂に埋められて

しまった。ついでにそこに砂が盛り上げられ、彫刻の

ように身体が形作られる。

 

 

「く……困ります。離してください」

 

 

「まーまー、そう焦りなさんなって」

 

 

「とりあえず一枚、ね?」

 

 

「おっぱい増量しといたからさー」

 

 

身体の方に視線を落とすと、美衣の言うとおり妙に胸元

に砂が大量なまで盛り上げられていた。……果てしなく

余計なお世話だった。  

 

 

ついでによく見ると、右下の方に、先ほど大量なまでの

砂に埋められていた少年の顔が確認できていることが

わかる。というか──エレンの顔の下に作られた身体は

鞭を振り上げた女王様で、少年の方のそんな身体は、

四つん這いになって尻を向ける裸の男だった。

 

 

そして恐らくその両方を収めるように、少し離れた位置

で亜衣がシャッターを切る。

 

 

「…………」

 

 

エレンが頬をぴくつかせていると、埋められている少年

───確か、殿町宏人とかいったか──が顔をこちらに

向けてきた。

 

 

「ははっ、え、エレンさん……でしたっけ。困っちゃい

ますよね」

 

 

「はあ」

 

 

エレンが気のない返事をすると、殿町は軽く両頬を

染めながら続けてきた。

 

 

「なんていうか──いや、ははっ、こういうのも、

運命……って言うんですかね」

 

 

「…………」

 

 

こんなにも他人に唾を吐きたくなったのは、生まれて

初めてだった。

 

 

 

 

 

十香と折紙は海岸に到着すると、小走りになって士道

たちの方へとやってきた。

 

 

ちなみに二人の装いは、先月士道が買ってあげた水着

である。十香がダークカラー、折紙が白のビキニだ。

どちらも吟味を重ねただけあって、よく似合っていた。

 

 

「シドー、こんなところにいたか! 探したぞ!」

 

 

「士道。なぜあなたと八舞姉妹が一緒にいるの?」

 

 

と、十香が元気良く、折紙が訝しげに言ってくる。

士道は曖昧に誤魔化すように苦笑いを浮かべながら

一歩後ずさった。

 

 

「い、いや、まあ……そ、その、あはは、実は道に

迷っちまって……」

 

 

するとそこで、どうにか呼吸を整え、水着のトップスを

着け直した耶倶矢と夕弦が声を発してくる。

 

 

「ほう? 十香ではないか。くく……主の元に参じる

とは愛い奴よ。褒めて遣わす」

 

 

「驚嘆。マスター折紙、なぜこんなところに」

 

 

そういえば、耶倶矢と夕弦の二人はそれぞれ十香と折紙

の部屋に厄介になっているという話だった。

 

 

お互い顔を覚えていても不思議ではないだろう。……

まあ、主だとかマスターだとか、あまりお友達関係では

使いそうにない呼称が使われているのが気になったりは

したけれど。

 

 

「おお、耶倶矢もいたのか。何をしていたのだ?」

 

 

「くく……今から、闇と深緑に染まりしそんな外殻を

打ち砕き、紅き血と臓物を吐き出させる悪魔の遊戯を

執り行おうとしていたところよ」

 

 

「な、なんだそれは。恐ろしそうだぞ」

 

 

「解説。耶倶矢はスイカ割りをしようと──」

 

 

「……ちょっと、待ってくれるかな」

 

 

と。夕弦の言葉の途中で、背後から眠たげな声が

聞こえてくる。

 

 

見やるとそこには、水着の上にパーカーを羽織った令音

の姿があった。直射の日光が眩しいかったのだろうか、

目を細めながら手で陰を作り、頭をフラフラと左右に

揺らしている。まるで今にも倒れそうな貧血患者の様相

であるのだが……まあ、士道はそれが令音の平常状態と

知っていた。

 

 

「! 令音さん……?」

 

 

士道は訝しげに眉をひそめた。確か令音は今、インカム

を通して耶倶矢と夕弦にアドバイスを出してたはずだ。

 

 

耶倶矢と夕弦も同じ疑問を抱いたのだろう、不思議そう

に令音を見つめ、耳につけたインカムに手を触れてる。

 

 

「……悪いが、スイカを用意するのを忘れてしまって。

──その代わり、せっかく人数が増えたんだ。あちらに

コートを設営してある。ビーチバレーでもどうかな?」

 

 

言って、浜辺の奥の方を指さしてくる。

 

 

耶倶矢と夕弦は最初怪訝そうにしていたものの、すぐに

方針変更を読みとったらしい。

 

 

「ふん、まあ良かろう。何をしようと我が頂点に立つ

ことは決まっているからな」

 

 

「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です」

 

 

二人はそう言って目を見合わせると、別に競走などでも

ないのに、同時に走っていった。

 

 

「おお!」

 

 

と、十香もそれに触発されたように駆け出していく。

 

 

折紙は未だ納得のいっていないような視線を士道と令音

に向けてきていたが、これ以上の説明などは得られない

と察したのか、浜辺を歩いていった。

 

 

それを追うように、令音と士道も歩き出す。

 

 

「……で、令音さん。なんで出てきたんですか?」

 

 

「……ああ。十香と折紙が現れるというイレギュラー

が起こってしまったからね。プランをBに移行させて

もらったよ。〈ラタトスク〉の機関員を使えるのなら

何とかなったかもしれないが……私一人ではさすがに

限界がある」

 

 

「プランB、ですか」

 

 

「……ああ、一緒のチームでともに戦うことによって、

彼女らと君との結束、仲間意識などを高めようという

作戦だ」

 

 

「一緒のチームって……あの二人が大人しくチームを

組みますかね……」

 

 

「……まあ、そこは考えてある。見ていたまえ」

 

 

そうこう話をしていると、士道たちは浜辺に設営された

見事なビーチバレーコートにたどり着いた。

 

 

すると令音が身をかがめ、ポールに立て掛けられていた

筒のようなものを手に取る。

 

 

「……さ、ではチーム分けをしよう。三人一組だ。

くじを引いてくれたまえ」

 

 

「む?」

 

 

十香から順に筒の口が向けられ、中に入っていた棒を

引かされていく。士道はなるほど、と手を軽く打った。

恐らくあのくじに、耶倶矢と夕弦、そして士道を同じ

チームにできるような仕掛けが施してあるに違いない。

 

 

「……さ、シンもだ」

 

 

「あ、はい」

 

 

言われて、残っていた二本のうち一本を引く。

 

 

そして、くじの先端部分に目をやり──士道は「へ?」

と間抜け面を作った。

 

 

何しろそこには、数字や記号ではなく、やたら劇画調に

男性の顔が描かれていたからだ。

 

 

「……では、グレゴォル、ジャクソン、スペンサーを

引いた人はこちら、アレクサンドル、エイブラハム、

アンソニーを引いた人は向こうのコートの方に行って

くれたまえ」

 

 

「令音、これはどちらなのだ?」

 

 

「これは?」

 

 

十香と折紙が困ったように令音にくじを見せる。

 

 

「……ああ、これはグレゴォルだね。こちらは

スペンサーだ」

 

 

次いで耶倶矢と夕弦が、同じように令音にくじを

見せた。

 

 

「……君たちはアレクサンドルとエイブラハムだね。

向こうへ回ってくれ」

 

 

「…………」

 

 

半眼でもう一度劇画調の男(たぶんアンソニー)を

眺めてる。……十香たちのそれと、どこが違うのか

よくわからなかった。

 

 

 

 

Aチーム……耶倶矢、夕弦、士道。

 

 

Bチーム……十香、折紙、令音。

 

 

耶倶矢に夕弦に十香に折紙。実に六人中四人が不満と

いうチーム編成ではあったが、令音の「勝ったチーム

にはシンの誰にも知られたくない秘密などを教えよう」

というその一言のもとに、試合は開始された。士道は

泣きそうな顔で抗議したが受け入れられなかった。

 

 

「よし! ではいくぞっ!」

 

 

十香が元気良く声を上げ、向こうのコートの端から

サーブを放ってくる。

 

 

が──

 

 

「なッ!?」

 

 

ボヒュッ! という音とともにボールがネットを易々と

突き破って、そのまま弾丸のように伸びてくる。士道は

咄嗟に身体を横に移動させた。

 

 

そんなボールは今まで士道がいた場所を刺し貫くと、

ギャギャギャギャギャッ! と浜辺上でコマのように

踊ってからようやく停止した。

 

 

「令音! 今のは何点だ!?」

 

 

「……〇点だ」

 

 

「むう、技術点は追加されないのか……」

 

 

「……恐らくだが、君は何か別の競技と勘違いを

してる」

 

 

そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を

上げていた。

 

 

「くく……やるではないか。どうやら我も本気を──」

 

 

「いや、出さなくていい。出さなくていいから」

 

 

こんな球の応酬をされていては、命が幾つあっても

足りない。士道は首を振った。

 

 

「ふん、つまらん。まあいい、次は我々のサーブだな?」

 

 

言って、耶倶矢が地面を抉ったボールに手を伸ばす。

 

 

そして存外綺麗なフォームでもって、相手側のコートに

ボールを放った。

 

 

「おお、来たぞ!」

 

 

「邪魔しないで」

 

 

十香の動きを声で制し、折紙がボールをレシーブする。

 

 

するとその後方に立っていた令音が、綺麗なトスを

上げた。その際、凄まじい質量を誇る令音の胸が上下に

揺れ、思わず士道は目を釘付けにされる。

 

 

「警告。危険です」

 

 

「は……っ!」

 

 

夕弦に言われて、ハッと目を見開く。気付いたとき

には目の前に、ネットを越える勢いでジャンプした

十香の姿があった。

 

 

「はぁッ!」

 

 

裂帛の気合とともに、十香がボールに手の平を叩きつける。

そこから放たれた弾丸のような一撃は、ぼうっと立っていた

士道の頬を掠めていった。

 

 

「うわっ!?」

 

 

「くッ、ボーっとしているな、士道!」

 

 

「同意。邪魔です」

 

 

後方から耶倶矢と夕弦の声が響く。どうやらボールを

拾うために滑り込んだらしい。

 

 

だが、二人同時に同じ位置に走り込んだものだから、

二人はお互いの頭をゴツンと強くぶつけてその場へと

倒れ込んでしまった。その間に、ボールはコート内で

バウンドし、コロコロと砂の上を転がっていった。

 

 

「くあっ! な、何をしているのだ夕弦!」

 

 

「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」

 

 

耶倶矢と夕弦が額を押さえながら睨み合う。

 

 

「……よし十香、今のは一点だ」

 

 

「おお! 本当か!」

 

 

対して、反対のコートは賑やかだった。十香と令音が

パチン、とハイタッチをする。折紙は無視していたよう

だったが、令音に手を取られ、強制的にハイタッチへと

参加させられていた。

 

 

が、耶倶矢と夕弦はそんなもの気にも留めず、言い合い

を続ける。

 

 

「今のはどう考えても我の領分ぞ。出過ぎた真似を

するでない!」

 

 

「反論。うすのろな耶倶矢では間に合わないかと

思いました」

 

 

「な、なんだと貴様っ!」

 

 

「応戦。なんですか」

 

 

「お、おい、落ち着けよ二人とも……」

 

 

と、士道が二人の間に割って入るのと同時に、向こうの

コートで令音が、十香と折紙に何やら耳打ちをした。

すると、

 

 

「──ほう、そういうものなのか」

 

 

「……約束のものはあとで必ずもらう」

 

 

なんて言いながら、十香と折紙がふんぞり返るように

耶倶矢と夕弦を見下ろしてくる。

 

 

「ふっ、なんだ、耶倶矢と夕弦も大したことがないな!」

 

 

「期待はずれ。この程度で私に挑もうだなんて

身の程知らず」

 

 

『……!』

 

 

見え透いた挑発に、しかし耶倶矢と夕弦はぴくりと

反応した。

 

 

と、令音がまたもひそひそと十香と折紙に耳打ちする。

何となくではあるのだが……「もっと口汚く。本場では

そうやるんだ」と聞こえた気がした。

 

 

「耶倶矢は弱虫で夕弦はへたっぴなのだ! 二人揃って

へっぽこぴーだな!」

 

 

「この×××。×××を×××していればいい。敗者には

それがお似合いサノバビッチ」

 

 

やたら幼稚な悪口と、やたら淡々とした罵りが、

向こうのコートから降ってくる。

 

 

『…………』

 

 

二人の煽りに、耶倶矢と夕弦は静かに目を細くした。

 

 

「……ねえ夕弦」

 

 

「返答。なんでしょう」

 

 

「……やっちゃう?」

 

 

「同調。やっちゃいます」

 

 

二人が、ちらと視線を交じらせ合う。

 

 

しかし次のサーバーである折紙は至極落ち着いた様子で

ボールを手に取ると、美しいフォームでコートの隅に

ボールを放ってきた。

 

 

「夕弦!」

 

 

「応答。わかっています」

 

 

だが、夕弦がすんでのところですぐ滑り込み、その完璧

に近いサーブをレシーブする。

 

 

そしてそのボールを耶倶矢が打ち上げ、相手コートへ

戻した。先ほどまでの醜態が信じられないくらいの、

綺麗な連係プレーである。

 

 

しかし相手チームも負けてはいない。迫り来たボールを

折紙が打ち上げる。

 

 

「村雨教諭」

 

 

「……ああ、わかっている」

 

 

すると次いで、令音がそのボールをトン、と軽やかに

トスした。先ほどと同様のパターンである。どうにか

胸に気を取られないようにしながらコートに気を張って

いると、またも十香が高く飛び上がるのが見えた。

 

 

「おおッ!」

 

 

叫び、遥か上空から鋭いアタックを放ってくる。

 

 

「士道、止めろ!」

 

 

耶倶矢の声が響く。士道は慌てながらも手を組みわせ、

十香の一撃に備えた。

 

 

だが、そんなボールは士道の手ではなく一直線に顔面に

突き刺さると、そのまま激しくバウンドして天高くへと

舞い上がった。凄まじい衝撃が士道の頭を襲い、視界に

チカチカと星が舞う。

 

 

「ぐえッ!?」

 

 

「よしっ! ボールが当たったからシドーはこちらの

チームに貰えるのだったな?」

 

 

「……いや、そんなルールは聞いたことがないが」

 

 

敵コートからそんな声が聞こえてくる。どうやら先ほど

から十香のボールが士道を狙っていたのにはそういう

理由があるらしかった。

 

 

「賞賛。ナイスです」

 

 

しかし、朦朧とする意識の中で聞こえてきたのは夕弦の

そんな声だった。

 

 

「設営。耶倶矢」

 

 

「おうとも!」

 

 

夕弦がその場に片膝を突き、両手を組み合わせて手の平

を上に向ける。そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を

乗せるとそれと同時、夕弦が耶倶矢の身体を軽々と空に

放り上げた。

 

 

「な……!」

 

 

「……っ!」

 

 

十香と折紙の声が、敵コートから聞こえてくる。

次の瞬間──

 

 

 

「──はぁぁぁぁぁッ!」  天高く舞い上がった耶倶矢

が上空に舞うボールを叩き落とし──矢のような一撃が

敵コートに突き刺さった。あまりに見事な一撃である。

 

 

「よっし! 同点! 見たかこらぁぁッ!」

 

 

いつもの口調を忘れた調子で、耶倶矢が空中でグッと

ガッツポーズを取る。

 

 

そして地面に降り立ったのち、至極自然に、夕弦と

ハイタッチを交わした。

 

 

「いぃぃやっほぉう!」

 

 

「歓喜。いやっほー」

 

 

「やー! 今のは完璧だったね夕弦。びゅーんいったよ

びゅーん!」

 

 

「肯定。見事な一撃でした。さすが耶倶矢です」

 

 

「いやいや、あれは夕弦が──」

 

 

と、そこで二人はハッと肩を揺らし、フンとお互いが

目を逸らした。

 

 

「ふん……調子に乗るなよ下賤。我が足に踏まれたこと

を光栄に思え」

 

 

「不快。手に臭いが付きました。くさいです。くさやと

納豆とシュールストレミングをミックスしたような臭い

がします」

 

 

「そ、そこまでくさくないわー!」

 

 

と、思い出したように喧嘩を始める。なんともおかしな

様相だった。

 

 

だが、今の士道に、それを事細かに観察するような余裕

はない。頭の上に響く「シドー! 大丈夫か!?」なんて

叫びを聞きながら、僅かに残っていた意識は闇に沈んで

いった。




最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも皆さんが『応援』をしていただければ、
『更新』をする頻度が更に上がる可能性があるかも
しれません‼︎


今回の更新作品は『五等分の花嫁 繋がり合う絆』を
更新してますので、見てもらえれば嬉しいです!



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