思っていたよりもかなり好評だったので本格的に
『続編』を投稿させてもらいました‼︎
何度も描き直しをしてしまい本当にすみません‼︎
【お気に入り】や【投票】と【感想】更に
【しおり】などをどうかよろしくお願いします‼︎
「──状況は?」
真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女は、
艦橋に入るなりそう言った。
「司令」
艦長席の隣に控えていた男が、軍の教本にでも書いて
あるかのような綺麗な敬礼をする。司令と呼ばれた
少女はそれを一瞥してだけして、男のすねをつま先で
蹴った。
「おうっ!」
「挨拶はいいから、状況を説明なさい」
苦悶、というよりは恍惚とした表情を浮かべる男に
言いながら、艦長席に腰掛ける。男性は、即座に姿勢
を正した。
「はっ。『精霊』出現と同時に攻撃が開始
されました」
「AST?」
「そのようですね」
AST。
精霊を殺すために機械の鎧を纏った、人間以上怪物
未満の現代の
では、太刀打ちできないのが現状であった。
それくらい、精霊の力は、桁が違う。
「──確認されているのは……こ、これは……⁉︎」
「どうしたのかしら?」
司令と呼ばれた少女は男に聞くが男性は話そうと
しない。まるで言うべきか言わざるべきか躊躇って
いる様だった。
「い、いえ……じ、実は……」
男は青ざめた表情を浮かべながら、司令と呼ばれた
少女に何かを言おうとしているようではあったが
しかし、いくら待っても男が躊躇って言う気配が
なく、そして返事が返ってこないのが原因だった
のか司令と呼ばれた少女は最初は足踏みなどをいた
が徐々に男に業を煮やしたのか男を睨んでその煮え
切らないその態度や行動に司令と呼ばれた少女の苛々
が徐々に募っていく。
「いいから早く言いなさい‼︎」
ああ‼︎ もう‼︎ 焦ったいわね‼︎ はっきりと
言いなさいよ‼︎ 面倒臭いわね‼︎
我慢の限界だったのか司令と呼ばれた少女は男に
その言うと司令と呼ばれた少女はガタンと椅子から
立ち上がったせいか、椅子が勢いよく倒れた。
「……落ち着きたまえ。そうやってすぐにカッと
なって身の回りが見えなくなってしまうところは
君の短所であり悪いところだ」
眠たげな顔をした女は司令と呼ばれた少女に冷静
に注意すると、司令と呼ばれた少女は気まずそうな
表情を浮かべながら
「うっ‼︎ そ、そうね……私も少し感情的にカッと
なり過ぎたわ……」
眠たげな女に視線を向けて司令と呼ばれた少女は
眠たげな女性の隣にいた男性の方に視線を向けて
申し訳なさそうな表情をしながら謝っていた。
「こ、こちらこそすみませんでした……先ほどは
取り乱してしまいましたが……安心してください。
私はもう大丈夫です」
艦長席の隣に控えていた男は落ちたのか一呼吸を
しながら、司令と呼ばれた少女は真剣な表情で
向き合っていた。
「そう。じゃあ、改めて状況の説明をお願いするわ」
司令と呼ばれた少女は艦長席の隣に控えていた男に
そう言うと男性も「了解しました。司令」と言うと
男は改めて状況の説明を始めた。
「『精霊』出現と同時に攻撃が開始されました。
そして確認されているのは一○名。現在一名が
追撃、交戦していました……」
「していました……? それだと過去系になって
いるけど一体どういう意味なのかしら?」
隣に控えていた男の『交戦していた』という
過去系になっていることに疑問を覚えた。
そもそも『交戦している』なら分かるが何故、
『交戦していた』などと言うのだろうか?
一体、何がどうなっているというのだろう?
「映像を出してちょうだい」
気になる……一体、何が起きているというのだろう。
まさか……考えたくはないが私達が予想や予測が
出来ない最悪の事態が起きたというのだろうか?
「わかりました……」
とにかくあれこれ考えるより、映像を見ればすぐに
私が知りたい事実が分かる。
男が言うと大モニタにリアルタイム映像が大きく
映し出される。
「こ、これは……⁉︎」
司令と呼ばれた少女は驚いた。むしろ驚くなと
言う方がとても難しかったのだろう。
だが、あり得ない……こんな非現実的なことが
現実的にあって良い筈がない……だが、そんな
非現実的に今、自分の目の前で起きている。
それに。
「……どうやら気付いたようだね」
眠たげな顔をした女性は司令にそう言うと、司令は
眠たげな顔をした女性が自分に何を言いたいのかを
理解したのか、改めて大モニタに写っている地面が
割れ、建物が倒壊しているおよそ現実とは思えない
瓦礫だらけの街の中で『ある人物の姿』を見て
驚いていたからだ。
「そんな‼︎ あ、あり得ないわ……‼︎ ま、まさか
『彼女』が出てくるなんて……こんなの本当に
予想外過ぎる……だからあんたは報告することを
躊躇っていたのね?」
司令は何故、男が躊躇っていたのかを理解した
後、やれやれといった表情を浮かべ更にため息の
吐息をつきながら視線を大モニタに向けて考えて
いると
「えぇ、確かにそのとおりです。ですが、そもそも
精霊の行動を完璧に予測するなんて我々にも無理な
ことです。なので司令もあまり気にしないで
ください」
「………」
男は司令にそう言うと司令と呼ばれた少女は足
をゆっくりとだが上げていき
そして。
「ぐきっ!」
ブーツの踵で男の足を踏みつぶした。だが、その時
男性の表情はこの上なくまさに幸せそうな顔を作って
いるのを無視して司令と呼ばれた少女は小さく嘆息
していた。
「あんたが私の心配するなんて知らないうちに
随分と偉くなったわね?」
「ぐっ‼︎ あ、ありがとうございます‼︎」
司令と呼ばれた少女はどうやら目の前にいるこの
(変態)男に励まされたことに、かなりイラッと
したのだろうかブーツの踵の踏みつぶす力がさらに
増していくが男は更に幸せそうな笑顔をしていた。
「わかっているとは思うが……」
眠たげな顔をした女は司令に声を掛けると、司令
と呼ばれた少女は踏みつぶしていた足をゆっくり
退けて眠たげな顔をした女と向き合って話す。
「えぇ、言われなくてもわかっているわ。
──見ているだけというのも飽きてきたところよ」
「と、いうことは」
眠たげな顔をした女は司令と呼ばれた少女に
そう言うと司令と呼ばれた少女はニヤリと笑い
ながら返事をすると男は何かを察した表情を
浮かべて
「ええ。ようやく
──作戦を始めるわよ」
それに早く始めないといけないわ……今回は
予想外な展開が多すぎる……。
その言葉に、艦橋にいたクルーたちが息を呑む
のが聞こえる。
「
司令と呼ばれた少女は先ほど倒した背もたれを
戻して軽く背もたれに身体を預けるようにすると、
小さく右手を上げ、人差し指と中指をピンと立てた。
まるで、煙草でも要求するように。
「はっ」
神無月と呼ばれた男は素早く懐にに手をやると、
棒付きの小さなキャンディを取り出した。そして
速やかに、しかし丁寧に包装を剥がしていく。
そして司令と呼ばれた少女の隣に跪き「どうぞ」
と、司令の指の間にキャンディの棒を挟み込んだ。
司令がそれを口に放り込み、棒をピコピコ動かす。
「……ああ、そういえば肝心の
さっき電話に出なかったのだけれど。ちゃんと避難
しているんでしょうね?」
「調べてみましょう──と、 ん?」
神無月が、怪訝そうに首をひねる。
「どうかしたの?」
「いえ、あれを」
神無月が画面を指す。司令はそちらに目をやり──
「あ」と短い声を発した。精霊とAST要員が武器を
打ち合っている横で、制服姿の少年が伸びていた
のである。
「……ちょうどいいわ。回収しちゃって」
「了解しました」
神無月は、またも折り目正しく礼をした。
さもないと『全てが終わってしまう』から……
──久しぶり。
頭の中に、どこか聞いたことのある声が響く。
──やっと、やっと会えたね、■■■。
懐かしむように、慈しむように。
──嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
一体誰だ、と問いかけるも、答えはない。
──もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。
だから、
不思議な声はそこで途切れた。
「…………はっ!」
と士道は目を覚まし、
「うわッ!」
とすぐさま叫びを上げた。それはそうだ。
何しろ見知らぬ女性が指で士道の瞼を開き、小さな
ペンライトのようなもので光を当てていたからである。
「……ん? 目覚めたね」
妙に眠たげな顔をした女は、その顔に違わぬぼうっと
した声でそう言った。気絶した士道の眼球運動などを
見ていたらしく、妙に顔が近い。シャンプーの匂い
だろうか、微かにいい香りがした。
「だ、だだだだダレデスカ」
「……ん、ああ」
女性はぼうっと様子のまま身体を起こすと、垂れて
いた前髪を鬱陶しげにかき上げた。一定の距離が
空いたところで、女性の全貌が見取れるように
なる。
軍服らしき服を纏った、
ある。無造作に纏められた髪に、分厚い隈に
飾られた目、あとはなぜか軍服のポケットから
顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみが
特徴的だった。
「……ここで解析官をやっている、
あいにく医務官が席を外していてね。……まあ
安心してくれ。免許こそ持っていないが、簡単な
看護くらいならできる」
「………」
まるで安心できない。
だって明らかに、士道よりもこの令音という女性の
方が不健康そうに見えるのである。実際先ほどから、
頭で小さく円を描くようにして身体をふらふらさせて
いる。と、上体を起こした士道は、今の令音の言葉に
引っかかりを覚えた。
「──
言って、周囲を見回す。
士道は簡素なパイプベッドの上に寝かされていた。
そしてその周りを取り囲むように、白いカーテンが
仕切りを作っている。まるで学校の保健室のような
空間だった。
ただ少し異なるのは天井だった。何やら無骨な配管
や配線が剥き出しになっている。
「ど、どこですか、ここ……」
「……ああ、〈フラクシナス〉の医務室だ。
気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」
「〈フラクシナス〉……? っていうか気絶って
……、あ───」
そうだ、あの時士道と折紙、そして謎の少女は
あの白銀の槍の異常な力の風圧に吹き飛ばされ、
そして自分は気を失っていたのだった。
「……え、ええと、質問いいですか。
ちょっとよくわからないことが多すぎて──」
頭をくしゃくしゃとやりながら声を発する。
しかし令音は応じず、無言で士道に背を向けた。
「あ──ちょっと……」
「……ついてきたまえ。君に紹介したい人がいる。
……気になることはいろいろあるだろうが、どうも
私は説明下手でね。詳しい話はその人から聞くと
いい」
言って、カーテンを開ける。カーテンの外は少し
広い空間になっていた。ベッドが六つほど並び、
部屋の奥には見慣れない医療器具のようなものが
置かれている。令音は部屋の出入り口と思しき方向
に向かって、ふらふらと歩みを進めていった。が、
すぐに足をもつれさせると、ガン!と音を立て頭を
壁に打ちつけた。
「! だ、大丈夫ですか!」
「……むう」
一応、倒れはしなかったらしい。令音が壁に
もたれかかるようにしながらうめく。
「……ああ、すまんね。最近寝不足なんだ」
「ど、どれくらい寝てないんですか」
士道が問うと、令音は考えを巡らせる仕草を
見せてから、指を三本立ててきた。
「三日。そりゃ眠いですよ」
「……三○、かな?」
「ケタが違ぇ!」
三週間くらいまでだったら覚悟していた士道
だったが、さすがに予想外の答えだった。
というか明らかに、彼女の外見年齢を超えている。
「……まあ、最後に睡眠をとった日が思い出せない
のは本当だ。どうも不眠症気味でね」
「そ、そうですか……」
「……と。ああ、失礼、薬の時間だ」
と、令音は突然懐を探ると、錠剤の入ったピルケース
を取り出した。そしてピルケースを開けると、錠剤を
ラッパ飲みの要領で一気に口の中に放り込んだ。
「っておいッ!」
何の躊躇いもなく、夥しい量の錠剤をバリバリ
グシャグシャバキバキゴクンに、思わずつっこみを
入れ入れる。
「……なんだね、騒々しい」
「いや、なんて量飲んでるんですか!
ていうか何の薬ですか⁉︎」
「……全部
「それ死ぬッ! さすがに洒落にならねえ!」
「……でもいまひとつ効きが悪くてね」
「どんな身体してるんですか!」
「……まあでも甘くて美味しいからいいんだがね」
「それラムネじゃねえの⁉︎」
ひとしきりに叫んでから、士道ははあとため息を
吐いた。
「……とにかく、こっちだついてきたまえ」
令音が空っぽになったピルケースを懐に戻してから、
また危なっかしい足取りで歩みを進め、医務室の扉
を開ける。
「──っとと」
士道は慌てて靴を履くと、そのあとを追って部屋の
外に出た。
「なんだ、こりゃあ……」
部屋の外は、狭い廊下のような作りになっていた。
淡色で構成された機械的な壁に床。士道は
なんとなく、スペースオペラなんかに出てくる
潜水艦の通路を思い出した。
「……さ、何をしているんだい?」
士道はもう何が何だかんだわからないまま、
ゆっくりと足を動かし始めた。ふらふらと足元の
おぼつかない令音の背だけを頼りに、映画のセット
のような通路に、足音を響かせていく。
そして、どれぐらい歩いた頃だろうか。
「……ここだ」
通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた
扉の前で足止め、令音が言った。次の瞬間、
電子パネルの軽快な音を鳴らし、なめらかに扉が
スライドする。
「……さ、入りたまえ」
令音が中に入っていく。士道もそのあとに続いた。
「……っ、こりゃあ……」
そして、扉の向こうに広がっていた光景に、目を
見開く。一言で言うと、船の艦橋のような場所
だった。士道がくぐった扉から、半楕円の形に床が
広がっていてその中心に艦長席と思わしき椅子が
設えられている。さらに左右両側になだらかな階段
延びており、そこか下りた下段には、複雑そうな
コンソールを操作するクルーたちが見受けられた。
全体的に薄暗く、あちこちに設えられたモニタの
光が、いやに存在感を主張している。
「……連れてきたよ」
令音が、ふらふらと頭を揺らしながら言う。
「ご苦労様です」
艦長席の横に立った長身の男が、執事のような
調子で軽く礼をする。ウェーブのかかった髪に、
日本人離れした鼻梁。耽美小説にでも出てきそうな
風貌の青年だった。
「初めまして。私はここの副司令、
申します。以後お見知り置きを」
「は、はあ……」
頬をかきながら、小さく頭を下げる。士道は一瞬、
令音がこの男に話しかけたのだと思った。
だが───違う。
「司令、村雨解析官が戻りました」
神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた
艦長席が、低いうなりを上げながらゆっくりと回転
した。
そして。
「──歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」
『司令』なんて呼ばれるには少々可愛らし過ぎる声
を響かせながら、真紅の軍服を肩掛けにした少女の
姿が明らかになった。
大きな黒いリボンで二つに括られた髪。
小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目。
そして口にくわえたチュッパチャプス。
士道は眉をひそめた。
だって、それはどう見ても──
「………琴里」
そう、格好、口調、それに全体から発する雰囲気
など、違いは数あれど、その少女は間違いなく士道
の可愛い妹・
「相変わらず腑抜けた顔をしているわねぇ?
まあ、良いわ。早速で悪いけどとりあえず目の前
のモニタを見てもらうわ」
琴里がその言って指でパチンと鳴らすと照明の灯り
が消えて巨大なモニタが出てきた。
「──で、これが精霊って呼ばれている怪物で、
こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。厄介なものに
巻き込まれてくれたわね。私たちが回収してなかった
ら、今頃二、三回くらい死んでたかもしれない
わよ? で、次に行くけど──」
「ちょ、ちょっと待った!」
ペラペラと説明を始めた琴里を制するように、
士道は声を上げた。
「何、どうしたのよ。せっかく司令官直々に説明
してあげているっていうのに。もっと光栄に咽び
泣いてみせなさいよ。今なら特別に、足の裏くらい
舐めさせてあげるわよ?」
軽くあごを上に向け、士道を見下すような視線を
作りながら、琴里が琴里らしからぬ暴言を吐いて
くる。
「ほ……ッ、本当ですか⁉︎」
喜び勇んで声を上げたのは、琴里の横に立った
神無月だった。琴里が即座に、「あんたじゃない」
と
「ぎゃぉふッ……!」
そんなやりとりを眺めながら、士道は呆然と口を
開いた。
「……こ、琴里……だよな? 無事だったのか?」
「あら、妹の顔を忘れたの、
悪いとは思っていたけど、さすがにそこまでとは
予想外だったわね。今から老人ホームを予約して
おいた方がいいかしら?」
士道は頬に汗をひとすじ垂らした。
ついでにほっぺをつねってみる。痛かった。
士道の可愛い妹は、お兄ちゃんのことを呼び捨て
になんかしないはずなのだが。士道は後頭部を
かくと、困ったように声を発した。
「……なんかもう、意味がわからなすぎて頭の中
がワニワニパニックだ。おまえ、何してんだ?
ていうかここ、ドコだ? この人たち、何だ?
それに──」
琴里が、はいはい、と言いたげに手を広げて士道の
言葉を止めさせる。
「落ち着きなさい。まずはこっちから理解して
もらわないと、説明のしようがないのよ」
言って琴里が、艦橋のスクリーンを指す。
そこには、先刻士道が遭遇した黒髪の少女と、
機械の鎧を纏った人間たちが映し出されていた。
「ええと……精霊……って言ったっけ?」
士道は頬をかきながらそう言った。確か、先ほど
琴里がそう説明していた気がする。不定期に世界
に出現する、正体不明の怪物。
「そ。彼女は本来この世界には存在しないモノで
あり──この世界に出現するだけで、己の意思とは
関係なく、あたり一帯を吹き飛ばちゃうの」
琴里が両手をドーン! と広げ、爆発を表現する。
士道は、額に手をあてて渋面を作った。
「……悪い、ちょっと壮大すぎてよくわかんね」
すると、琴里が「ここまで言ってわからない?」
と肩をすくめながら吐息した。
「空間震、って呼ばれる現象は、彼女みたいな
精霊が、この世界に現れるときの余波だって
言ってるのよ」
「な──」
士道は思わず眉根を寄せた。空間の地震。
空間震。人類を、蝕む理不尽極まる現象。
その原因が、あの少女だというのか──?
「ま……規模はまちまちだけどね。小さければ
数メートル程度、大きければ──それこそ、大陸
に大穴が開くくらい」
琴里が、両手で大きな輪を作る。三○年前確認
された最初の空間震──ユーラシア大空災のこと
を言っているのだろう。
「運がいいわよ士道。もし今回の爆発規模がもっと
大きかったら、あなた一緒に吹っ飛ばされてたかも
しれないんだから」
「……っ」
確かに、その通りである。士道は今さらながら
身を竦ませた。琴里が、そんな士道の様子に半眼
を作る。
「だいたい、なんで警報発令中に外に出たの?
馬鹿なの? 死ぬの?」
「いや……だっておまえ、これ」
士道はポケットから携帯電話を取り出すと、琴里の
位置情報を表示させた。やはり、琴里のアイコンは
ファミレスの前で停止してる。
「ん? ああ、それ」
しかし琴里は、懐から携帯電話を取り出して
見せた。
「あ……? なんでおまえ、それ」
士道は自分の携帯画面と、目の前に掲げられた
琴里の携帯電話を交互に見た。こんなところに
琴里がいるものだから、てっきりファミレス前に
携帯を落としてきたのかと思っていたのだ。
琴里は肩をすくめると、はふうと嘆息した。
「なんで警報発令中に外にいたのかと思ったら、
それが原因だったのね。私をどれだけ馬鹿だと
思ってるのかしらこの
「いや、だって……え、ていうか、なんで──」
「簡単よ。ここがファミレスの前だから」
「は……?」
「ちょうどいいわ。見せた方が早いでしょ。
───一回フィルター切って」
琴里が言うと、薄暗かった艦橋が一気に明るく
なった。とはいえ、照明が点けられたわけでは
ない。どちらかと、天井にかけられていた暗幕を
一気に取り払ったような感じだ。
事実──あたりには、青空が広がっていた。
「な、なんだこりゃ……ッ」
「騒がないでちょうだい。外の景色がそのまま
見えてるだけよ」
「外の景色って……これ」
「ええ。ここは天宮市上空一万五○○○メートル。
──位置的にはちょうど、待ち合わせしてた
ファミレスのあたりになるかしらね」
「ここ、って……」
「そう。この〈フラクシナス〉は、空中艦よ」
わがかや腕組みし、琴里がふふんと鼻を鳴らす。
まるでお気に入りの玩具を自慢する子供のように。
否──どちらかいうと、手塩にかけて育てた我が子
を紹介する教育ママといった方が近いかも
しれなかった。
「く、空中艦ん……っ? なんだそりゃ。
何でお前がそんなのに──」
「だから順を追って説明するって言っている
でしょう? 鶏だって三歩歩くまでは覚えてる
でしょうに」
「む……」
「……でも、ケータイの位置確認で調べられちゃう
なんて盲点だったわね。
打っておかないと」
琴里が、よくわかんない単語を呟きながらあごに
手を置く。
「な、何を言ってるんだ?」
「ああ、気にしないで。 そこまで士道に期待して
ないから。グラム当たりの値段でいったら毛蟹に
負けるくらいの脳だものね」
「………」
「司令。
士道は頬に汗を垂らしていると、神無月が穏やかな
声でそう言った。
「………」
琴里はちょいちょい、と手招きをすると、神無月に
腰折らせた。そしてその目を向けて、プッ、と舐め
終わったキャンディの棒を吹き出す。
「ぬぁォうッ!」
目元を抑え、神無月が後方へ転がった。
「だ──大丈夫ですかッ!」
さすがに洒落にならない。士道は声を上げた。
しかしその場に駆け寄ろうとしたところで足を
止める。床に転がった神無月が、
懐からハンカチを取り出し、今し方琴里が放った
キャンディの棒を丁寧に包み込んでいた。
「おっと、心配させてしまいましたか?
大丈夫、我々の業界ではご
言って、神無月がピョンと立ち上がり、完璧な
直立姿勢を作る。どんな業界だろうか。あまり
深くは知りたくなかった。
「神無月」
「はっ」
琴里が二本立てると神無月が代わりの飴を
取り出し、手渡した。
「それと、次はこっちね。AST。精霊専門部隊よ」
言って、琴里がスクリーンに映し出されていた
一団を示す。
「……精霊専門の部隊って──具体的には何して
いるんだよ」
士道が問うと、琴里は当然と言うように眉を
上げた。
「簡単よ。精霊が出現したら、その場に飛んで
いって処理するの」
「処理……?」
「要はぶっ殺すってこと」
「……ッ!」
琴里の言葉をまったく予想していなかったわけ
ではない。しかし──士道は心臓が引き絞られる
かのような感覚に襲われた。
「こ、殺す……?」
「ええ」
こともなげに、琴里がうなずく。士道はごくりと
唾液を飲み込んだ。動悸の音が、やけにうるさい。
言っていることは理解できた。精霊。なるほど
確かに危険な存在だ。
でも──いくらなんでも、殺す、だなんて。ふと、
士道の脳裏に、あの少女の顔が浮かんできた。
(──だっておまえも、私を殺しに来たんだろう?)
少女があんなことを言った意味が、ようやく
わかった。そしてあの、今にも泣き出してしまい
そうな顔の意味も。
「まあ、普通に考えれば死んでくれるのが
一番でしょうね」
特に感慨もなさそうに琴里が言う。
「な、なん……っ、でだよ」
「なんで、ですって?」
士道が表情を歪めながらうめくように言うと、
琴里が興味深そうにあごに手を当てた。
「何もおかしいことはないでしょう。
あれは
「だっておまえ、言ったじゃねえか。空間震は、
精霊の意思とは関係なく起こるって」
「ええ。少なくとも現界時の爆発は、本人の意思
とは関わりというのが有力な見方よ。──まあ、
そのあとASTとドンパチした
数えられているけどね」
「……それはASTって奴らが攻撃するからだろ?」
「まあ、そうかもしれないわね。
──でもそれはあくまで推測。もしかしたら、
ASTが何もしなくても、精霊は大喜びで破壊活動
を始めるかもしれない」
「それは……ねえだろ」
士道が言うと、琴里が不思議そうに首を傾げた。
「根拠は?」
「好きこのんで街ぶっ壊すような奴は……
あんな顔、しねえんだよ」
それは根拠と呼ぶにはあまりに曖昧で薄弱なもの
だったが……なぜだろうか、士道はそれを心の底
から確信していた。
「本人の意思じゃねえんだろ? それなのに──」
「随意か不随意かなんて、そんなの大した問題じゃ
ないのよ。どっちにしろ精霊が空間震を起こすこと
に変わりないんだから。士道の言い分もわからなく
はないけれど、かわいそうって理由だけで、
レベルの危険生物をそのまま放置しておくことは
できないわ。今のところは小規模な爆発で済んでる
けれど、いつユーラシア級の大空災起こるのかは
わからないのよ?」
「だからって……殺すなんて」
士道がしつこく追いすがると、琴里はやれやれと
肩をすくめた。
「数分程度しか接点のない、しかも自分が殺され
かけた相手だっていうのに、随分精霊の肩を持つ
じゃない。……もしかして、惚れちゃた?」
「っ、違ぇよ。ただ、もっと他に方法がある
んじゃねえかって思うだけだ」
「方法、ね」
士道の言葉に、琴里はふうと息を吐いた。
「それじゃあ訊くけれど、どんな方法があると
思うの?」
「それは───」
言われて、言葉が止まる。頭では、琴里の言うこと
が理解できてしまっているのだ。出現するだけで
世界に深刻な爪痕を残す異常──精霊。そんな
ものは、迅速に殺さねばならないのだろう。
でも。たった一瞬だけれど。 士道は見てしまった。
少女の、今にも泣き出して しまいそうな顔を。
士道は聞いてしまった。少女の、悲痛な声を。
──ああ、これは、
しまった。
「……とにかく」
士道の口は、自然と言葉を紡いでいた。
「一度……ちゃんと話してみないと……
わかんねえだろ」
あのとき直面した死の恐怖は、未だ身体の奥底に
刻まれている。正直、逃げ出したくなるくらい
怖い。でも士道には、あの少女をこのまま放って
おくことができなかった。
だって彼女は──
そんな士道の言葉に、琴里はニヤリと唇の端を
上げた。その言葉、待ってました、と
言わんばかりに。
「そう。──じゃあ、手伝ってあげる」
「は……?」
士道が口をぽかんと開けると同時、琴里が両手を
バッと広げた。令音を、神無月を、下段に広がる
クルーたちを、そしてこの空中艦───
〈フラクシナス〉を示すように。
「私たちが、それを手伝ってあげるって
言ったのよ。〈ラタトスク機関〉の総力を以って、
士道をサポートしてあげるって」
琴里が優雅な所作で膝の上を絡ませる。
「な、なんだよそれ。意味が───」
「最初の質問に答えてあげるわ。私たちが
何なのか、を」
士道の言葉を遮るように、琴里が声を上げた。
「いい? 精霊の対処方法は、大きく分けて
二つあるの」
「二つ……?」
士道が問うと、琴里は大仰にうなずき、人差し指を
立てた。
「一つは、ASTのやり方。戦力をぶつけてこれを
殲滅する方法」
さ次いで、中指を立てる。
「もう一つは……精霊と、対話する方法。
───私たちは〈ラタトスク〉。対話によって、
精霊を殺さず空間震を解決するために結成された
組織よ」
「………」
士道は眉をひそめて考えを巡らせた。その組織とは
何なのかとか、なぜ琴里がそんなところに所属して
いるのかとか、気になることはたくさんあったのだが
──とにかく、今もっとも気にせねばならないことを
口に出す。
「……で、なんでその組織が俺をサポートするって
話になるんだよ」
「ていうか、前提が逆なのよ。
そもそも〈ラタトスク〉っていうのは、士道のために
作られた組織だから」
「は、はぁ……ッ⁉︎」
士道は今までで一番盛大に表情を崩すと、素っ頓狂な
声を上げた。
「ちょと待て。今まで以上に意味がわからん。
俺のため?」
「ええ。──まあ、士道を精霊との交渉役に据えて、
精霊問題を解決しようって組織って言った方が正しい
のかもしれないけれど。どちらにせよ、士道が
いなかったら始まらない組織なのよ」
「ま、待てって。どういうことなんだよ。この人たち
が、全部そんなことのために集められたってことか?
ていうかなんで俺なんだよ!」
士道が問うと、琴里はキャンディを口で転がし
ながらうなった。
「んー、まあ、士道は特別なのよ」
「説明になってねぇぇええぇぇ!」
たまらず、叫ぶ。
しかし琴里は不敵に笑うと、肩をすくめる仕草を
して見せてきた。
「まあ、理由はそのうちわかるわ。いいじゃない。
私たちが、全人員、全技術を以て士道の行動を
後押ししてあげるって言ってるのよ? それとも
──また一人で何の用意もなく精霊とASTの間に
立つつもり? 死ぬわよ、今度こそ」
琴里が半眼を作り、冷淡な口調で言ってくる。
士道は思わず息を呑んだ。確かに、琴里の言う
とおりである。士道は理想と希望を唱えている
だけで、それを実現させる手段を持っていない。
言いたいことはのどの奥からあふれ出るほどあった
が、なんとかこらえて、話を進める問いのみを
発する。
「……その、対話ってのは、具体的に何する
んだよ」
言うと、琴里は、小さく笑みを浮かべた。
「それはね」
そしてあごを手に置き、
「精霊に──
ふふんと得意げに、そう言った。
………………。
しばしの間のあと。
「………はい?」
士道は、頰に汗をひとすじ垂らし、眉をひそめた。
「……すまん、ちょと意味がわからん」
「だから、精霊と仲良くお話ししてイチャイチャ
してデートしてメロメロにさせるの」
さも当然のごとく言う琴里に、士道は頭を抱えた。
「……ええと、それで何で空間震が解決
するんだ?」
琴里は指を一本あごに当てながら「んー」と
考えるような仕草を見せたあと、
「武力以外で空間を解決しようとしたら、要は
精霊を説得しなきゃならないわけでしょ?」
「そうだな」
「そのためにはまず、精霊に世界を好きになって
もらうのが手っ取り早いじゃない。世界がこんな
素晴らしいモノなんだー、ってわかれば、精霊
だってむやみやたらに暴れたりしないでしょうし」
「なるほど」
「で、ほら、よく言うじゃない。恋をすると世界が
美しく見えるって。──というわけでデートして、
精霊をデレさせなさい!」
「いや、そのりくつはおかしい」
明らかに理論が飛躍している。士道は頰に汗を
垂らしながら言った。
「お、俺はそういうやり方じゃなくてだな……」
「黙りなさいこのフライドチキン」
士道が反論しかけると、琴里が有無を言わせぬ
強い口調で遮ってきた。
「ASTが精霊殺すの許せましぇ〜ん、もっと他に
方法があるはずでちゅ〜、でも〈ラタトスク〉の
やり方はイヤでちゅ〜……って? 甘えるのも
にしなさいよこのミイデラゴミムシ。士道一人で
何ができるって言うの? 身の程を知りなさい」
「ぐ、ぬ……」
「──腹の底では全部に賛同しなくたっていいわ。
でも、あなたがもし精霊を殺したくないっていうの
なら……手段は選んでいられないんじゃないの?」
なんともまあ、悪そうな笑みを琴里が浮かべる。
実際、その通りだった。
なんの力も後ろ盾もない士道が、もう一度あの精霊
の少女と話しがしたいと願っても、まず叶うまい。
ASTのやり方は論外だし──琴里たちだって、要は
精霊を
ようにしか思えない。だけれど──他に方法がない
のも事実だった。
「……っ、わかったよッ」
士道が苦々しくうなずくと、琴里は満面の笑みを
作った。
「──よろしい。今までのデータから見て、精霊が
訓練よ」
「は……? くんれん……?」
士道は、呆然と呟いた。
「そうよ。でも今は訓練のことは気にしなくて
いいわ、それに……士道。あなたには聞きたい
ことがあるわ」
「き、聞きたいこと?」
士道が琴里に聞いて顔を見ると先程の満面の笑み
がまる嘘のように消えて真剣な表情をしていた。
「神無月」
琴里がそう言うと「了解しました」と神無月が
そう言うと照明が消えて先程精霊やASTについての
説明の時に使った大きなスクリーンにパッと明るく
なって『ある映像』が映し出される。
「──ッ‼︎ これは……」
士道は大きなモニタに映し出されている
『ある映像』驚いていた。
「その驚きの反応……士道…あなたも見たのね?」
「あ、ああ……俺もあの時、意識が曖昧だった
から夢だとばかり思っていたんだが……」
士道が驚くのも無理はなかった。
何故なら……
スクリーンの映像を見て空想が確信へと変わった。
決して見間違えるはずがない。
そして
いうよりも『
しっくりくるだろう。何故なら彼女の手元には
あの『汚れ』や『淀み』、そして『不純物』などが
一切ないあの『白銀の槍』を持っている姿があった
からだ。
「そう、なら話が早いわ。士道、早速で悪いけど
彼女のことについて詳しく教えてもらうわよ?」
「な、なんでだよ……? 話の流れからして彼女も
精霊なんだろ? そんなに気にするほどのやつ
なのか?」
士道が琴里に恐る恐ると聞くと
「『
「えっ…?」
琴里が士道にそう言うと士道は情け無い声を
出していた。
「彼女は『
「厄介な、精霊……?」
「そう。彼女ほど厄介過ぎる精霊はいないわよ。
なんせ『世界各国』が『
「せ、世界各国だと……っ‼︎ お、おい‼︎ 琴里‼︎
じょ、冗談なら程々にしろよ……‼︎」
士道は額からだらだらと滝のように冷や汗を流し
ながら琴里が今言った言葉に驚いて戸惑う中、
琴里に反論するようにそう言うが
「士道。残念だけど……これは嘘でもなければ冗談
でもないわ。 現に彼女は当時
「ま、マジかよ……」
鳶一折紙達のような精霊殲滅、討伐を専門とした
AST達のような人達を沢山の部隊をたった一人の
白銀の少女が殲滅させたと聞いてそれを想像する
だけで背筋にゾクリと寒気がした。
琴里が冷静に言うと士道は信じられないと言った
表情をしているが琴里はそんなこと御構い無しに
更に話を続ける。
「ええ、それに彼女の『目撃情報は今まで一切
なかった』はずなのに最近になってから目撃される
ようになったから私としてはかなりの不安要素
なのよ……」
「そ、そうなのか……」
士道はそう言った瞬間、『ある疑問』が浮かんだ。
それはさっき琴里が言った『殲滅』の言葉だ。
もし、琴里が言ったようにその白銀の少女に
があったら間違いなく人を殺す可能性だってゼロ
じゃない。その『白銀の戦乙女』と呼ばれている
彼女を目撃されていた時、そんな彼女を討伐隊の
人たちはその後、どうなってしまったのだろうか?
もしかして彼女に殺されてしまったのだろうか?
「な、なあ、琴里……ちなみにその白銀の戦乙女と
呼ばれている彼女を討伐しようとした討伐隊は
し、しん──「大丈夫よ」」
士道が言おうとした瞬間、琴里は冷静な表情をして
「大丈夫」と一言言って士道の言葉を容赦なく
一刀両断された。
「だ、大丈夫って……琴里、俺はまだ、何も……」
「言わなくても士道の考えくらい分かるわよ。
どうせさっきの話を気にして彼女がASTなどの
討伐隊を殲滅という名の
人を殺しているじゃないのかって心配していた
んでしょ?」
「ッ‼︎ そ、それは……」
士道は琴里に考えていることを当てられたせいか
目が泳ぎながらも苦笑いしていた。琴里はそんな
士道の姿を見て溜息が出ていた。
「彼女が人を殺したという情報は今のところ
ないわね……」
「そうか…良かった……」
士道は琴里のその言葉に安心したのか一呼吸して
胸を撫で下ろしていた。
「安心しているところ悪いけど彼女も攻略対象の
精霊なんだからしっかりしなさい。後、一応言って
おくけど彼女の名前は別に『白銀の戦乙女』なんか
じゃないからね?」
「そうなのか⁉︎ てっきり彼女の名前がそれじゃ
ないかと……っていうか名前を知ってたんだな……」
「そうね…でも、私が知っているのは本名とか
じゃなくてあくまで精霊としての識別名だから」
琴里がそう言うと士道は「そうか……」と言って
呟いていたが琴里は我気にせずと言った状態で
話しを続ける。
「まあ、良いわ……彼女の
「──五河、士道」
小さな、誰にも聞こえないくらいの声を発し、
折紙は頭の中に彼の顔を思い浮かべた。
間違いなく、『あのとき』の少年だった。
折紙の記憶が、間違えるはずがない。少し残念では
あったけど──会ったのはあれ一回きりだったし、
向こうが折紙のことを覚えていないのは仕方ない。
高校に入学したときあれこれと接触を試みていた
が、全て失敗に終わっていたし。今はそれ以上に
気になることがあった。
「なぜ、あんなところに」
空間震警報の鳴り響く街になぜ彼が出ていたのか
がわからなかった。それに──彼は、間違いなく
目にしていた。
特殊兵装を纏った折紙の姿と──精霊を。
「
「─────」
突然響いた整備士の声に、折紙はふっうつむかせて
いた顔を上げた。そしてすぐさま、頭の中に浮遊の
指令を発現させる。するとその指令は折紙が纏った
スラスターパーツに伝わり、内臓された
を発動させた。
およそ飛行には向きそうもないフォルムの装備を
纏った折紙の身体が、鈍重そうな武器ごと軽やかに
宙に浮く。陸上自衛隊・天宮駐屯地。
その一角に位置する格納庫で、折紙は整備士の誘導
に従いながら、自分の専用ドックに腰掛けるように
着地し、武器を安定位置に収めると、ようやく息を
吐いて全ての
今まで欠片も感じていなかった装備の重量や身体に
蓄積した疲労が、一気に折紙の身体押さえつけた。
後方から機械音がして、背中に装備していた
スラスターの接続が解除される。だがその後三分
ほど、折紙はその場から立ち上がることが
できなかった。
CR-ユニットを使用したあとは毎回こうである。
超人から一般人に戻ると、それだけで身体が異様に
重く感じてしまう。
通称CR-ユニット。
三○年前の大空災の折、人類が手にした奇跡の技術
・
である。コンピュータ上の計算結果を、物理法則を
歪めて現実世界に再現する。要は、制限付きでは
あるものの、想像を現実にする技術である。
科学的な手段を以て、いわゆる『魔法』を再現する
システムと言うこともできた。そして同時に──
人間が精霊に、唯一対抗できる手段である。
「ちょっと退いて! 担架通るよ!」
と、右方から怒鳴るような声が響いてくる。
ちらっと視線だけを動かしてみてやると、折紙と
同じくワイヤリングスーツ身を包んだ隊員が、
担架に乗せられていることがわかった。
「……くそッ、くそッ、あの女ども……ッ!
絶対、絶対ぶっ殺してやる……ッ!」
担架に乗せられた隊員が、血の滲む額の包帯を
押さえて、忌々しげにうめきながら運ばれていく。
「………」
毒づく元気があるなら大丈夫だろう。折紙は興味
なさげに視線を戻した。実際、
用いて治療を行えば、よほど深刻な怪我ではない限り
はすぐに完治する。前に折紙が足を骨折したときも、
翌日には歩けるようになっていた。
「────」
折紙は、細く息を吐くと同時、視線を少し上に
やった。今日の戦闘を思い起こす。
───世界を殺す
超人たる折紙たちが
傷一つつけることが叶わない異常。
どこからともなく現れ、気まぐれに破壊を
撒いていく、”天災的”怪物。
「………」
結局今日の戦闘も、精霊の
なった。
ではない。要は、空間を超えて逃げられただけだ。
書類上はASTの働きによって精霊を撃退した、
ということになるだろうが──折紙を含め現場で
直接戦っている隊員たちは皆、理解していた。
精霊がこちらのことを何の脅威とも思っておらず、
消失するのも、精霊の気まぐれに過ぎたないのだと
いうことを。
「………っ」
表情はぴくりとも動かさず。
けれど、折紙は奥歯を強く嚙みしめた。
「折紙」
と、そこで格納庫の奥から響いてきた声に、
折紙は思考を中断させられた。
「…………」
無言で、そちらを向く。
まだ身体が慣れていないのか、首がずっしりと
重かった。ワイヤリングスーツに搭載されている
メートルに
この領域がCR-ユニットの要だ。
文字通り、使用者の思い通りになる空間のことで
ある。
どんな衝撃をも緩和し、また、内部の重力さえも
自在に設定することができる。この領域を展開して
いる限り、折紙たちAST要員たちは超人となり得る
のだ。だから逆に、CR-ユニットを使用後は少し
の間、身体が思うように動かせなくなるのである。
「ご苦労さん」
そこには、折紙と同じくワイヤリングスーツを
着込んだ、二○代ばくらいの女が、腰に手を当てて
立っていた。
「よく一人で精霊を撃退してくれたわね。
……友原と加賀谷にはきつく言っとくわ。
折紙一人に精霊任せて離脱するなんて」
「撃退なんて、していない」
折紙がー言うと、遼子は肩をすくめた。
「上への報告はそうしとかなきゃなんないのよ。
ちゃんと成果出てますってことにしとかなきゃ
予算が下りないの」
「………」
「そう怖い顔すんじゃないの。褒めてんだから。
エースが席を空けている状況で、よく頑張って
くれてるわ。あんたがいなきゃ死んでた人間も、
一人や二人じゃ済まないでしょうよ」
言って、ふうと息を吐く。
「ただねえ」
遼子は視線を尖らせると、折紙の頭を掴んで自分に
向けさせた。
「あんたは少し無茶しすぎ。
──そんなに死にたいの?」
「………」
遼子は折紙に鋭い視線を向けたまま言葉を続けた。
「あんた、自分がどんな怪物相手にしているか本当
にわかって戦ってるの? あれは化物よ。知能を
持ったハリケーンよ。 ──いい? できるだけ被害
を最小限に抑えて、できるだけ早く
それが私たちの仕事よ。無駄な危険は冒さないよう
にしなさい」
「──違う」
折紙は遼子の目をまっすぐ見つめ返すと、小さく
唇を開いた。
「精霊を倒すのが、ASTの役目」
「…………」
遼子が、眉根を寄せる。それはそうだろう。
彼女はASTの隊長。
折紙よりずっと深く、重く理解しているはず
だった。理解した上で、彼女は言っているのだ。
───自分たちには、被害を抑えることしか
できないと。
けれどそれを承知した上で、折紙はもう一度
言った。
「──私は、精霊を、倒す」
「………」
遼子は息を吐くと、折紙の頭から手を離した。
「……別に、個人の考えに口出すつもりはないわ。
好きに思ってなさい。──でも、今回みたいに戦場
で命令に背くようなら、部隊から外すわよ」
「……了解」
折紙はまだ少し納得していないのか少し遅れて短く
答えてようやく馴染んだ身体を起こし、歩いた。
だが、何故かは分からないがその時だけ馴染んだ
筈の身体がいつもよりも重く感じた。
「日下隊長……
でしょうか……?」
折紙と遼子の会話を聞いていたASTの隊員の一人が
心配そうに恐る恐ると遼子に話していた。
「大丈夫でしょう。外傷面はね……」
「外傷面は……?」
「ええ、でも相手が『あの例の精霊』だったんだ
から最悪全滅すると思っていたけどまあ、結果的
に折紙のおかげで全滅しなかったから私的には本当
に折紙はよくやったほうなんだと思っているんだ
けど本人としてはどうにもあまり納得が出来て
いないみたいなのよね……」
「そう、なんですか……」
「まあ、一応、折紙には無理するなって釘を刺し
といたし、それに私が見ている限りこれ以上、
折紙には無理はさせないから心配しなくても
大丈夫よ。だから安心しなさい」
「はい‼︎ 了解しました‼︎
そのAST隊員は遼子に元気な声で返事すると遼子も
少し笑顔になってそのAST隊員の頭をぽんぽんと
軽く撫でていた。
折紙は格納庫を出てコツコツと早歩きで足音を立て
ながら歩いていると少ししたところで足を止めた。
「精霊……」
折紙がそう言った瞬間、ギュッと握り拳を作った
せいか白くて綺麗な折紙の手から赤くて一筋の水滴
が流れ出て地面にポタポタと落ちて奥歯をギリッ‼︎
と歯軋りしていたが折紙はそんなこと御構い無しに
怪我している手で壁を思いっきり叩きつける。
「今度こそ……今度こそ仕留めてやる……」
折紙は奥歯を更に嚙みしめてぎりっと音を立てて
光なき瞳と殺意を剥き出しにしながら
「『精霊、〈アテナ〉……ッ‼︎』」
折紙はそう低い声でその名前を言った後、歩く速度
を上げて再び歩き出して行った。
その日を境に錆びれて今迄全もって動かなかった
『運命の歯車』は軋みを上げながらもゆっくりと
であるが回り始めそして加速していっていることを
この時、誰一人知る者はいなかった。
皆さん最後まで読んでいただき本当にありがとう
ございます‼︎
【報告】
『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』の
『最新話』を更新する予定となっていますので
是非ともお楽しみにしていてください。
更には『ロクでなし魔術講師と死神魔術師』の
『最新』も制作中なので頑張って更新をしていく
つもりですのでこれからもよろしくお願いします‼︎
それと、近いうちに『新たな作品を投稿』しようと
考えています‼︎
何度も描き直してばかりで本当にすみません‼︎
楽しみにしていてくれていたら本当に嬉しいです‼︎
十香と士道が出会う前の四月九日の話を書いた方がいいか
-
書くべき
-
書かなくていい
-
どっちでもいい