デート・ア・ライブ ■■■の精霊   作:灰ノ愚者

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皆さん遅くなってしまいましたが、あけまして
おめでとうございます‼︎


今年で『2020年の令和二年』になりました。
今年もよろしくお願いします‼︎


今回は正月なので『16840文字』ぐらいの量を頑張って、
書かせていただきました。


是非、読んで頂いたり更には【お気に入り】や
【しおり】更に【投票】などの『応援』をして
もらえたらとてもありがたいです‼︎


理不尽なる特訓

 

次の日。

 

 

 

「来て」

 

 

「へ?」

 

 

 

突然。

 

 

士道は折紙に手を掴まれ、素っ頓狂な声を発した。

 

 

「あ、ちょ、ちょっと……」

 

 

ガタンと椅子を倒し、折紙に引っ張られて教室を

出ていく。後方では殿町がポカンと口を開け、

女子の集団が何やらキャーキャーと騒いでいた。

 

 

またあらぬ噂が流れるだろうなあと思いながらも、

折紙についていく。まあ少なくとも、俺と殿町が

ベストカップル扱いされるよりは随分マシだろうと

いう諦観を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

四月一一日、火曜日。

 

 

士道がおおよそ現実とは思えない不思議な体験をした

日の翌日である。

 

 

結局あのあと士道は別室に移され、知らないオジサン

に事態の詳細な説明を深夜まで延々聞かされたあと

(正直、最後の方はあまり記憶がない)、何やら

様々な書類にサインをさせられてからようやく

家に帰された。

 

 

風呂も入らずベッドにダイブして、気がつけば

朝である。気怠い身体を引きずりながら登校、

眠い目を、擦りながらなんとか授業に耐え、

帰りの午後のホームルームが終わった──と

思った瞬間の出来事だった。

 

 

折紙は無言のまま階段を上り、しっかりと施錠された

屋上への扉の前までやってきて、ようやくその手を

離した。

 

 

下校する生徒たちの喧噪が、随分遠くに聞こえる。

人がいる場所から一○メートルも離れていないのに、

まるで隔離されたかのような寂しさのあるそんな

空間だった。

 

 

「え、ええと……」

 

 

なんというか、折紙にその気がないのはわかっている

のだが、女の子にこんな場所に連れてこられると、

照れる。士道は視線を泳がせた。

 

 

 

だが折紙は何の前置きもなく、

 

 

 

「昨日、なぜあんなところにいたの」

 

 

そう、士道の目をじっと見つめながら言った。

 

 

「や、妹が警報発令中に街にいたみたいで、

探しに……」

 

 

「そう。 ───見つかったの?」

 

 

士道が答えると、折紙はぴくりとも表情を一切

変えないままそう言った。

 

 

「──ッ、あ、ああ……おかげさまで」

 

 

「そう。よかった」

 

 

折紙がそう言うと、続けて唇を動かした。

 

 

「──昨日、あなたは私を見た」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「誰にも口外しないで」

 

 

 

士道が首肯するのと同時に、折紙が有無を言わせぬ

迫力で言ってきた。

 

 

 

もしここで「バラされたくなかったら俺のいうことを聞くんだなあげっへっへ」とか言ったらどんな反応が

返ってくるのだろう、なんて危険な好奇心が僅かに顔

を出す。が、さすがに士道にそんな度胸はなかった。

こくこくと首を前に倒す。

 

 

「それに、私のこと以外も──昨日見たこと、

聞いたこと。全て忘れた方がいい」

 

 

それはきっと……精霊のことを言っている

のだろう。

 

 

「……あの、女の子たちのことか?」

 

 

「………」

 

 

折紙は無言で士道を見つめてくるだけだった。

 

 

「な、なあ……鳶一。あの女の子たちって──」

 

 

精霊のことは一通り〈ラタトスク〉から聞いて

いたが、士道は問うた。

 

 

あくまであれは琴里たちの組織の見解。実際に刃を

突き合わせ折紙たちなら、また違った考えを持って

いるのではないかと思って。

 

 

「あれは精霊」

 

 

折紙は、短く答えた。

 

 

 

「私が倒さなければならないもの」

 

 

「……っ、そ、その精霊っていうのは、悪い奴等

なのか……?」

 

 

士道は、そんな質問を投げてみた。

すると微かにだが、折紙は唇を噛みしめた気がする。

 

 

 

「──私の両親、五年前、精霊のせいで死んだ」

 

 

「……な──」

 

 

予想外の答えに、士道は言葉を詰まらせた。

 

 

「私のような人間は、もう増やしたくない」

 

 

「……そ、うか──」

 

 

士道は、自分の胸に手を置いた。やたらと激しくなる

動悸を、なんとか抑え込むように。

 

 

だが、ふと気になることがあった。未だこちらに

真っ直ぐな視線を送ってきている折紙に、頬をかき、

躊躇いながらも訊ねる。

 

 

「そういえば鳶一……精霊とか、そういう情報って、

そんな簡単に言っちまっていいもんなのか……?

いや、そりゃ訊いたのは俺なんだけどよ……」

 

 

「………」

 

 

 

折紙は、一瞬黙った。

 

 

 

「問題ない」

 

 

「そ、そうなのか?」

 

 

「あなたが口外しなければ」

 

 

「………もし話したら?」

 

 

「……………」

 

 

また、一瞬だけ言葉を止める。

 

 

「困る」

 

 

「そ、そうか……そりゃ大変だな。

………約束するよ、誰にも言わない」

 

 

こくり、と折紙が首肯する。

 

 

その会話を最後に、折紙は士道から視線を外し、

階段から下ろうとすると

 

 

 

「鳶一‼︎ ま、待ってくれ‼︎」

 

 

「なに」

 

 

士道が折紙を呼び止めると折紙は表情を全く

変えないまま視線をまた士道に向けた。

 

 

「あ、あの子も……白銀の槍を持っていた

あの白銀の精霊も倒すのか……?」

 

 

この際だから折紙に聞いておきたかった。

白銀の精霊の少女、『白銀の戦乙女』について

どう思っているのか……

 

 

それにいくら『白銀の戦乙女』と呼ばれた精霊でも

人を殺していないんだ……そんな精霊すらも折紙は

倒すと言うのだろうか?

 

 

 

(ころ)す」

 

 

「──ッ‼︎」

 

 

士道がそう考えていると折紙は何の迷いや躊躇い

すらなくただ短く冷たく低い声で「倒す」ではなく

「殺す」とそう一言だけはっきりと士道の目の前で

言った。折紙のその一言を聞いた瞬間、士道の背筋

がゾクっと寒気がしながらもゆっくりとだが視線を

折紙に向けると

 

 

 

(ころ)す……(かなら)ずこの()(ころ)す……」

 

 

「と、鳶一……?」

 

 

いつも無表情の折紙が『白銀の戦乙女』の話しをした

瞬間、僅かであるが無表情(むひょうじょう)だった顔を歪ませて唇など

を噛みしめガリっと歯軋りしていた。さらにはその瞳

の奥には『憎悪(ぞうお)(ほのお)』が迸り、そして宿っているのが

見えた。

 

 

「それに、もしかしたら……」

 

 

折紙は考え込んで小声で何やらぶつぶつと一人言

を言っていて一体、何を言っているか聞き取れず

分からなかったが士道から見た今の折紙は今迄の

無表情だった折紙からはまったく想像がつかず

恐ろしくて戸惑っていた。

 

 

「とにかく、言わないと言ってくれてありがとう」

 

 

その会話を最後に、折紙は士道から視線を外し、

階段を下りていった。

 

 

「……ふぃぃ………」

 

 

士道は折紙の背が見えなくなってから、壁に背を

ついて息を吐いた。ただ話をしただけなのに、

やたらと緊張した気がする。

 

 

「両親が、精霊のせいで死んだ──か」

 

 

ゴン、と壁に頭をつけ、呟くように言う。

 

 

世界を殺す厄災とさえ呼ばれる精霊だ。

そういうことも──あるのだろう。

 

 

「……やっぱり、俺が甘いだけなのかね……」

 

 

折紙も、琴里も、方向が違えど、確固たる信念の下

に動いている。

 

 

士道は───どうだろうか。

 

 

昨日琴里の前で切った啖呵を、折紙の前でも発する

ことができるのだろうか

 

 

「……………」

 

 

はあ、と息を吐く。自分の行動を間違いだとは

思っていないが、複雑な気分だった。

 

 

そして士道は昨日、琴里に言われた『とある内容』

を思い出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、〈アテナ〉……それが、彼女の名前……」

 

 

「正確には『精霊(せいれい)識別名(しきべつめい)としての名前(なまえ)』の方

なんだけどね……」

 

 

士道は琴里から先ほど、汚れや更に不純物などが

一切ないあの『幻想的な白銀の槍』を持っていた

白銀の精霊の少女『白銀の戦乙女』と呼ばれた

精霊、『【識別名】〈アテナ〉』の名前を聞いて

ある疑問があった。

 

 

 

『何故、〈アテナ〉と呼ばれているんだろうか?』

 

 

 

そもそも『アテナ』は知恵(ちえ)芸術(げいじゅつ)工芸(こうげい)戦略(せんりゃく)

(つかさど)るギリシア神話(しんわ)女神(めがみ)で、オリュンポス十二神(じゅうにしん)

一柱(ひとばら)であり、アルテミスやヘスティアと同じく

処女神(しょじょしん)である。

 

 

更に、女神の崇拝の中心はアテーナイであるが、

起源的には、ギリシア民族がペロポネーソス半島を

南下して勢力を伸張させる以前より、多数存在した

城塞都市の守護女神であったと考えられている。

ギリシアの地に固有の女神だが、ヘレーネス

(古代ギリシア人)たちは、この神をギリシアの

征服と共に自分たちの神に組み込んだ世界の誰もが

知ってる女神の名前である。

 

 

なのに〈アテナ〉と呼ばれた『ギリシヤの英雄』で

あり戦略(せんりゃく)女神(めがみ)の名前を精霊のあの少女は日本のましてやこの天宮市現れているのに何故現れて

呼ばれているんだろう?

 

 

「琴里……だったら、どうして彼女は〈アテナ〉と

呼ばれているんだ……? それに彼女は日本の

ましてや天宮市(この街)で確認された精霊なんだろ?」

 

 

「士道、あなた勘違いしているわよ」

 

 

「えっ……?」

 

 

士道が情けない声を上げ、更に士道があまりにも

的外れした勘違い後、琴里はため息をついて冷たい

瞳で冷静にその間違いを指摘していく。答え方は

まるで士道の言う言葉を予想していたかのように

答える。

 

 

「彼女が初めてこの世界で確認されたのはここ、

『日本の天宮市』ではなく海外、『ギリシャ』

で確認された精霊なのよ」

 

 

「──ッ‼︎ じ、じゃあ、なにか? 彼女は日本で

じゃなくてギリシャで、確認された……? つまり

『白銀の戦乙女』こと〈アテナ〉はギリシャの精霊

ってことか……?」

 

 

士道は戸惑いながらも言うと琴里は士道が言う内容

を予想していたかのように

 

 

「ええ、普通に考えたら間違いなくそう考えるのが

妥当な判断でしょうね……」

 

 

「だったら〈アテナ〉……だったか……?

だったら、なんでそんなヤバイ精霊がこの日本に

ましてやこの天宮市にいるんだよ……?」

 

 

確かに士道の言う通りだった。ギリシャにいた

精霊が一体、なんの目的があって日本のましてや

この天宮市に現れたのだろうか……?

 

 

「それについては今のところ不明よ。

でも、士道これだけは覚えおいといて……」

 

 

 

琴里は士道にそう言って、

 

 

 

そして

 

 

 

「あれは世界に現れるだけで空間震を起こすそんな

最凶最悪の猛毒あり自然災害の厄災そのもののような

存在よ? 彼女はその精霊たちの中でも『世界各国の討伐隊』をたった一人で滅ぼしてしまうほどの唯一の厄介な精霊を誰も討伐出来ずに結局、『彼女を討伐することは絶望的で不可能と諦められている精霊』だと言うことを忘れないでちょうだい……」

 

 

この時、『白銀の精霊』〈アテナ〉の話をしている

時の琴里の表情は額に一筋の汗を流しながらも今迄

にないようなそんな真剣な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが士道は昨日の琴里の話や先程の折紙の話を

聞いていくつか分かったことがある。

 

 

『一つ目の方法は、〈AST〉のやり方。

武力をぶつけてこれを殲滅する方法』

 

 

それはつまり、『武力をもって精霊を殺して

処理しようとする』ことだ。

 

 

 

現に折紙から聞いた話がそうだった。

 

 

 

 

(──私の両親、五年前、精霊のせいで死んだ)

 

 

 

(私のような人間は、もう増やしたくない)

 

 

 

確かに折紙も一般人を助けたいという自分なりの

『考え』や『正義』、更には絶対に曲げられない

『信念』があるだろう。

 

 

それにそれも一つの解決策なのだろう……

 

 

しかし、

 

 

 

(殺す)

 

 

 

(殺す……必ずこの手で殺す……)

 

 

 

〈プリンセス〉と呼ばれたあの子の話をする時よりも

〈アテナ〉と呼ばれた精霊の話をしたあの時の折紙の

『低い声』と『憎悪(ぞうお)()みちた(ひとみ)』を間近で見た

瞬間、自分自身の背筋がゾクッと寒気がした。

 

 

 

『そしてもう一つは琴里が所属している組織、

〈ラタトスク〉の方法』

 

 

『精霊と対話して解決する方法』。対話によって、

精霊を殺さず空間震を解決するために結成された

組織であり、更には俺のために作られた組織だと

言っていたが

 

 

「もし、この二つ方法しかないんだったら……

俺は……」

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───ッ‼︎」

 

 

 

廊下の方から女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「………っ⁉︎ な、なんだ?」

 

 

慌てて階段を駆け下りてみると、廊下に数名の生徒

が集まっているのが見えた。そしてその中心に、

白衣を着た女性が一人、うつぶせで倒れているのが

確認できる。

 

 

「ど、どうしたんだこれ」

 

 

「し、新任の先生らしいんだけど……

急に倒れて……っ!」

 

 

呟くと、近くにいた女子生徒があたふたしながら

そう返してきた。

 

 

「よくわかんねえけど、とにかく保健室の

先生を───」

 

 

士道が言いかけると、倒れていた白衣の女性が

がしっ、と士道の足を掴んだ。

 

 

「う、うわぁっ⁉︎」

 

 

「……心配はいらない。ただ転んでしまった

だけだ」

 

 

言いながら、女が廊下にべったりつけていた

顔面を、ゆらりと上げる。

 

 

「あ、あんたは……!」

 

 

長い前髪に、分厚(ぶあつ)(くま)。 眼鏡(めがね)なぞかけていたが、

その特徴的な顔を忘れるはずがない。

 

 

「……ん?  ああ、君は───」

 

 

女──〈ラタトスク〉の解析官(かいせきかん)・村雨令音が、

のろのろと身を起こす。

 

 

「な、何しているんですか、こんなところで……」

 

 

「……見てわからないかい? 教員として世話に

なることにしたんだ。 ちなみに教科は物理、

二年四組の副担任も兼任する」

 

 

白衣の胸につけていたネームプレートを示しながら、

令音が言ってくる。 ちなみに、そのすぐ上の胸

ポケットからは、傷だらけのクマさんが覗いていた。

 

 

「いや、わかるはずないでしょうがっ!」

 

 

叫び───士道はそこで、異様に周囲の視線を

集めてしまっていることに気づいた。

 

 

「あ……こ、この人大丈夫みたいだから」

 

 

言って手を差し伸べ、令音を立ち上がらせる。

 

 

「……ん、悪いね」

 

 

「それはいいですけど、歩きながら話しましょう」

 

 

当たりに気を払いながら、士道は言った。

そのまま令音のペースに合わせ、のたのたと

歩いていく。

 

 

 

「ええと──村雨解析官(むらさめかいせきかん)

 

 

 

「……ん、ああ、令音で構わんよ」

 

 

「は?」

 

 

「……私も君を名前で呼ばせてもらおう。

連携と協力は信頼から生まれるからね」

 

 

令音はうんうんとうなずき、士道の顔を見た。

 

 

「ええと、君は……しんたろう、だったかな」

 

 

「し、しか合ってねえ!」

 

 

信頼も何もなかった。

 

 

「……さてシン、早速だが」

 

 

「なんですかその華麗なスルーは! 

ていうか変な愛称までつけた!」

 

 

たまらず叫ぶ。しかし令音は、士道の言葉など

聞いていない様子で続けてきた。

 

 

「……昨日琴里が言っていた強化訓練の準備が

整った。君を探していたところだ。ちょうどいい、

このまま物理準備室に向かう」

 

 

士道はもう何を言っても無駄とつっこみを諦め、

はあと息を吐いて問い返した。

 

 

「訓練ってのは一体どんなことするんですか?

ええと……令音さん」

 

 

「……うむ。琴里に聞いたが、シン、君は女の子

と交際をしたことがないそうじゃないか」

 

 

「…………」

 

 

──うちの妹様は、なんだって兄の女性遍歴

(ゼロ)を他人にもたらすのだろうか。

 

 

士道は頰をピクつかせながらも曖昧にうなずいた。

 

 

「……別に責めているわけじゃあない。身持ちが

堅いのは大変結構なことだ。……だが、精霊を

口説くとなるとそうも言ってられないんだ」

 

 

「むう……」

 

 

眉根を寄せながら、うめく。

と、職員室の近くを通ったときだったろうか、

 

 

「……あ?」

 

 

士道は奇妙なものを目にして立ち止まった。

 

 

「………どうかしたかね?」

 

 

「いや、あれ……」

 

 

視線の先を、担任のタマちゃん教諭が歩いていた

のだが───その後ろに、どうも見覚えがある、

髪を二つ結びにしたちっこい影がついて回って

いたのである。

 

 

「あ!」

 

 

士道の視線に気がついたのだろうか、ちっこい影

───琴里が表情をパァッと明るくした。

 

 

「おにーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 

瞬間、琴里が、吸い込まれるように士道の腹に

突撃してくる。

 

 

「はがぁ……っ!」

 

 

「あははは、はがーだって! 市長さんだー!

あはははは!」

 

 

「こ、琴里……っ⁉︎ おまえなんだって高校に……」

 

 

士道が腹にまとわりつく琴里をどうにか

引き剥がしながら言うと、琴里の後ろから

タマちゃん教諭がトテトテと歩いてきた。

 

 

「あ、五河くん。妹さんが来てたから、校内放送で

呼ぼうとしてたんですよぅ」

 

 

「は、はあ………」

 

 

よく見ると、琴里は来賓用のスリッパを履き、

中学の制服の胸に入校証をつけていた。きちんと

した手続きを踏んで学校に入ってきたらしい。

 

 

「おー、先生、ありがとうー!」

 

 

「はぁい、どういたしましてぇ」

 

 

元気よく手をブンブンと振る琴里に、

先生がにこやかに返す。

 

 

「やー、もうっ、可愛い妹さんですねぇ」

 

 

「はあ……まあ」

 

 

士道は頰に汗を垂らして苦笑いしながら、

曖昧な返事をした。

 

 

先生は琴里と笑顔で「バイバイ」と手を振り合う、

職員室の方に歩いていった。

 

 

「……んで、琴里」

 

 

「んー、なーに?」

 

 

琴里が丸っこい目を見開きながら首を傾げてくる。

その仕草は、士道のよく見知ったいつもの可愛い

妹のものだった。

 

 

「おまえ……昨日のあれ、〈ラタトスク〉とか、

精霊とか───」

 

 

「その話はあとにしよーよ」

 

 

口調はいつもと変わらないままだったが、

なぜか得も言われぬプレッシャーのような

ものを感じて、士道は黙り込んだ。

 

 

と、士道の後方から、令音の静かな声が

響いてくる。

 

 

「……早かったね、琴里」

 

 

「うん、途中で〈フラクシナス〉に拾って

もらったからねー」

 

 

自分であとにしよう、と言ったわりには、

普通に艦の名を出している。

 

 

少しは不条理なものを感じながら、士道は額に

手をついた。

 

 

琴里は脳天気そうな笑顔でそれを見てから、

士道を誘導するように廊下を進み始める。

 

 

「それよりほら、おにーちゃん。早く行こ?」

 

 

言って、琴里が手を引いてくる。

 

 

「っとと……ちょ、わかったから走るなって」

 

 

今日はよく女の子に引っ張られる日である。

そんな脳天気なことを考えているうちに、

二人は目的地に到達した。

 

 

東校舎四階、物理準備室。

 

 

「さ。入ろー、入ろー♪」

 

 

「ハイ・ホー、みたいに言うんじゃねえよ」

 

 

琴里に促され、士道はスライド式のドアを

滑らせた。

 

 

そしてすぐに、眉根を寄せて目をこする。

 

 

「……ちょっと」

 

 

「……何かね」

 

 

士道の言葉に、令音が小首を傾げた。

 

 

「なんですか、この部屋」

 

 

物理準備室なんて、生徒がそうそう入る場所では

ないし、実際、士道も中に何が置かれているか

なんて知らない。

 

 

それでも、はっきりと認識できてしまった。

 

 

 

『──ここは、物理準備室ではない、と』

 

 

 

何しろ今士道の視界は、いくつものコンピューターに

ディスプレイ、その他見たこともない様々な機械で

埋め尽くされていたのだから。

 

 

「……部屋の備品さ?」

 

 

「いやなんで疑問形なんですか! ていうか以前に、

ここ物理準備室でしょう? もといた先生は一体、

どうしたんですか!」

 

 

そう。ここはもともと、善良で目立たない初老の

物理教論・長宗我部正市(通称・ナチュラルボーン

石ころぼうし)がトイレ以外で唯一安らげる空間

だったはずなのだ。

 

 

その長宗我部教諭の姿は今、どこにも見えない。

 

 

「……ああ、彼か。うむ」

 

 

令音があごに手をやり、小さくうなずく。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

そのまま、数秒が過ぎた。

 

 

「……まあそこまで立っていても仕方ない。

入りたまえ」

 

 

「うむ、の次は⁉︎」

 

 

パリイ! そんな単語が令音の頭上に見えた

気がした。何というスルー力。昨今の日本人は

是非身につけるべきスキルだ。

 

 

令音は先部屋に入ると、部屋の最奥に置かれていた

椅子に腰掛けた。次いで、士道の脇から琴里が部屋に

入っていく。

 

 

そして、慣れた様子で白いリボンで括られていた髪

をほどくと、ポケットから取り出した黒いリボンで

髪を結び直す。

 

 

「───ふぅ」

 

 

するといきなり、琴里の雰囲気が変わった

気がした。

 

 

どこか気怠げに制服の首元を緩め、令音の近くの

椅子にどっかりと座り込む。

 

 

そして琴里は、持っていた鞄から小さなバインダーの

ようなものを取り出した。

 

 

中には綺麗に、様々なチュッパチャプスが並べて

セットしてある。

 

 

まさかの飴玉セットホルダーである。

 

 

琴里はその中から一つ選び、口に入れると、

未だ部屋の入り口に立ち尽くしていた士道に、

見下すように視線を向けた。

 

 

「いつまで突っ立てるのよ、士道。もしかして

カカシ希望? やめときなさい。あなたの間抜け面

じゃあ、カラスも追い払えないと思うわよ。ああ、

でもあまりの気持ち悪さに人間は寄ってこないかも

しれないわね」

 

 

「………」

 

 

一瞬のうちに女王様に変貌した妹を見て、士道は

額に手を置いた。

 

 

リボンを替えるのがマインドセットのスイッチに

でもなっているのだろうか。

 

 

まるでオセロの駒がひっくり返ったかのような、

見事なジキルとハイドぶりだった。

 

 

「……琴里、おまえどっちが本性なんだ……?」

 

 

「嫌な言い方するわね。そんなんじゃ女の子に

もてないわよ。───ああ、だからまだ童貞だった

んだけ。ごめんなさいね初歩的なこと指摘して」

 

 

「……おい」

 

 

「統計だと、二二歳までに女性と交際出来なかった

男の半数以上は、一生童貞らしいわ」

 

 

「まだ五年以上猶予があるわ!

未来の俺を舐めるなよ!」

 

 

「猶予と可能性ばかり口に出す人間は、結局

『明日から頑張る』しか言わないのよね」

 

 

「ぐ……」

 

 

口喧嘩ではまず敵わないと悟り、ぐっと堪えて

ドアを閉める。

 

 

「……さ、ともかくシン。訓練を始めよう。

ここに座りたまえ」

 

 

言って令音が、二人に挟まれるように

設けられている椅子を示す。

 

 

「……了解」

 

 

もう何を訴えても無駄と悟った士道は、

言われるままに椅子に腰掛けた。

 

 

「さ、じゃあ早速調きょ……ゲフンゲフン、

訓練を始めましょう」

 

 

「てめ今調教って言おうとしたな」

 

 

「気のせいよ。──令音」

 

 

「……ああ」

 

 

琴里がそう言うと、令音が足を組み替えながら

首肯した。

 

 

「……君の真意はどうあれ、我々の作戦に乗る

以上は、最低限クリアしておかなければならない

ことがある」

 

 

「何ですか?」

 

 

「……単純な話さ。女性への対応に慣れておいて

もらわねばならないんだ」

 

 

「女性への対応……ですか」

 

 

「……ああ」

 

 

令音がうなずく。なんだか、そのまま眠って

しまいそうだった。

 

 

「……対象の警戒を解くため、ひいては好意を

持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動

や台詞は指示を出せるが……やはり本人が緊張しては

話にならない」

 

 

「女の子と会話って……さすがにそれくらいは」

 

 

「本当かしらね」

 

 

と、琴里がいきなり士道の頭を押し、ぎゅっと

令音の胸に押しつけた。

 

 

「………ッ⁉︎」

 

 

「………ん?」

 

 

令音が、不思議そうに声を発した。

 

 

両頰は温かくて柔らかい感触が襲い、ついでに

脳がとろけてしまいそうなほどいい匂いが鼻腔を

駆け回る。士道はすぐさま琴里の手を退かすと、

バッと顔を上げた。

 

 

「……ッ、な、ななななにしやがる……ッ!」

 

 

「はん、ダメダメね」

 

 

琴里が嘲るように肩をすくめた。

 

 

「わかったでしょ、こういうこと。これくらいで

心拍を乱してちゃ話にならないの」

 

 

「いや、明らかに例がおかしいだろ⁉︎」

 

 

しかし琴里は聞く耳持たず、やれやれ首を振って

くる。

 

 

「ホント、悲しいまでにチェリーボーイね。

やだやだ、可愛いとでも思ってるの?」

 

 

「う、うるせえ」

 

 

「……まあ、いいじゃないか。だからこそ

私たちがここに来たのだから」

 

 

言って、令音が腕組みをする。自然女の見事な

バストが強調された。

 

 

 

というか、腕に『乗って』いた。

 

 

 

………っ

 

 

 

なんだか直視するのも毛恥ずかしくて、思わず

目を泳がせる。

 

 

───女性に慣れる、訓練。

 

 

士道の頭の中に、令音が発した言葉が過ぎった。

 

 

しかも多少エロティックな場面になっても

狼狽ないようにする……だなんて。

 

 

琴里と令音は、一体ここで士道にどんなことを──

 

 

「生唾呑み込んじゃって。いやらしい」

 

 

琴里が机に肘をつきながら、判眼でそう言って

きた。

 

 

「……! い、いや違うぞ琴里ッ! 

お、俺は別に……」

 

 

「……まあ、早いところ始めようじゃないか」

 

 

琴里と士道の会話を制し、令音が眼鏡をくいと

上げる。

 

 

「は──っ、い、いやまだ心の準備が……っ」

 

 

士道は緊張に声を震わせながらも背筋を伸ばした。

 

 

令音は構わず「……ん」と呟き、先ほどと

同じように士道に身体を近づけてきた。

 

 

何の前触れもなく接触されたさっきのケース

よりも、遥かに心臓が高鳴る。

 

 

 

───ああ、何? 一体何をされちゃうの……ッ⁉︎

 

 

 

ドキドキしながらも動くことができない。

八〇年代少女漫画の主人公みたいな表情をしながら、

士道はキュッと目を閉じた。

 

 

しかし、どれだけ待っても何も起こらない。

目を開けて見ると、令音は机の上のモニタに電源を

入れていただけだった。

 

 

「え……?」

 

 

士道がキョトンとしていると、画面に可愛らしく

デザインされた〈ラタトスク〉の文字が映った。

 

 

次いで、ポップな曲とともに、カラフルな髪の

美少女たちが順番に画面に表示され、タイトルと

思わしき『恋してマイ・リトル・シドー』のロゴが

踊る。

 

 

「こ、これは……」

 

 

「……うむ。

恋愛(れんあい)シュミレーションゲームというやつだ」

 

 

「ギャルゲーかよッ!」

 

 

士道は悲鳴じみた叫びを上げた。

 

 

「やだ、何を想像してたの? さすが妄想(もうそう)力だけは

一級品ね気持ち悪い」

 

 

「……っ、やっ、そ、それは……」

 

 

言い淀むが……なんとか咳払いをして心拍を

治める。

 

 

「お、俺はただ、本当にこんなもんで訓練に

なるのかって……」

 

 

琴里が無言のまま、(きた)いものを見る目で

見つめてくる。

 

 

せめて何か言って欲しかった。無言は、無言は

つらい。

 

 

「……まあ、そう言わないでくれ。

これはあくまで訓練の第一段階さ。それに市販品

ではなく、〈ラタトスク〉総監修によるものだ。

現実に起こりうるシュチュエーションをリアルに

再現してある。心構えくらいにはなるはずだ。

ちなみに15禁」

 

 

「ああ……18禁(エロゲ)ではないんですね」

 

 

何とはなしに士道が言うと、琴里が憐憫にも近い

眼差しを作った。

 

 

「やだ最低」

 

 

ついでに令音が、ぽりぽりと頭をかく。

 

 

「……シン、君は一六だろう? 18禁のゲームが

できるはずないじゃないか」

 

 

「いやおまえらさっきと言っていること微妙に

矛盾してね⁉︎」

 

 

叫ぶが、琴里と令音に取り合うつもりはない

ようだった。

 

 

「……ん、では始めてくれたまえ」

 

 

「はいはい……っと」

 

 

士道は腑に落ちないものを感じつつも、促される

ままコントローラーを手に取った。

 

 

妹と先生に見られながらギャルゲーとか、どんな

罰ゲームだろうと思いながら。

 

 

主人公のモノローグを適当に斜め読みし、ゲーム

を進めていく。

 

 

 

と、画面が一瞬暗転し、

 

 

 

「おはよう、お兄ちゃん! 今日もいい天気だね!」

 

 

 

そんな台詞と同時に、画面に綺麗なCGが

表示された。

 

 

主人公の妹キャラなのだろう、小柄な少女がアオリ

の構図で描かれている。

 

 

 

というか寝ている主人公を踏んでいた。

 

 

 

パンツ丸見えだった。

 

 

 

「ねぇ─────────よ‼︎」

 

 

士道はコントローラを握りしめながら声を上げた。

 

 

「……どうしたねシン。何か問題でも?」

 

 

「いや、これ実際にありそうなシュチュエーション

を再現とか言ってませんでした⁉︎」

 

 

「……そうだが、何かおかしいかね」

 

 

「おかしいも何も! こんなふざけた状況現実に

起こるわ……け……」

 

 

言いかけて、士道は額に汗を滲ませた。

 

 

なんか、すごーく似たような体験を、つい昨日の朝

したような気がするのだ。

 

 

「……何かね」

 

 

「……いや、なんでもないです」

 

 

士道はものすごく不条理な何かを感じながらも、

ゲームに戻った。

 

 

と、テキストを進めていくと、画面の真ん中に

何やら文字が現れる。

 

 

「ん……? なんだこれ」

 

 

「ん、選択肢よ。この中から主人公の行動を一つ

選ぶの。それによって高感度が上下するから注意

するのよ」

 

 

言って、琴里が画面の右下を指す。そこには、

ゼロの位置にカーソルがついたメーターのような

ものが表示されていた。

 

 

「ふーん……なるほどな。これのどれかを選べば

いいんだな?」

 

 

士道は高感度メーターから選択肢の方に視線を

移動させた。

 

 

 

①「おはよう。愛しているよリリコ」愛を込めて妹を()きしめる

 

 

②「起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃたよ」妹をベッドに引きずり込む。

 

 

③「かかったな、アホが!」踏んでいる妹の足を取り、アキレス(けん)固めをかける。

 

 

 

「……って、なんだこの三択は!

どこがリアルだ! 俺こんなんしたことねえぞ!」

 

 

「何でもいいけど、制限時間つきよ」

 

 

「は……ッ⁉︎」

 

 

確かに琴里の言うとおり、選択肢の下に表示されて

いた数字がどんどん減っていた。

 

 

「……っ、仕方ねえ」

 

 

士道はうめくように言うと、一番まともであろう

①の選択肢を選んだ。

 

 

 

「おはよう。愛しているよリリコ」

 

 

俺は妹のリリコを、愛を込めて抱きしめた。

 

 

すると、リリコは途端(とたん)顔を侮蔑(ぶべつ)の色に染め、俺を()()ばした。

 

 

「え……ちょっと、何、やめてくんない? キモいんだけど」

 

 

 

高感度のメーターが一気にマイナス五〇まで

落下する。

 

 

「リアルだったー!」

 

 

士道はコントローラーを膝の上に叩きつけながら

叫びを上げた。

 

 

「あーあ、馬鹿ね。いくら妹でも、突然抱き

ついたらそうなるに決まっているじゃない。

───まったく、ゲームだからいいものの、

これが本番だったら、士道のお腹には綺麗な

風穴開いているわよ?」

 

 

「じゃあどうしろってんだよこれッ!」

 

 

あまりに理不尽な仕打ちに士道が叫ぶも、

琴里はまるで取り合わなかった。

 

 

やれやれと息を吐きながら、自分の前に置かれていた

液晶ディスプレイを点灯させる。

 

 

「あ……?  何やってんだ?」

 

 

「訓練とはいえ、少し緊張感持って

もらわないとね」

 

 

画面に、見覚えのある風景が表示される。

来禅高校の昇降口だ。

 

 

ついでにそこに、高校の制服を着込んだおっさんが

一人、カメラ目立っていた。

 

 

「……なんだ、この人」

 

 

「うちのクルーよ」

 

 

言うと琴里は、どこからもなくマイクのような

ものを取り出して喋りかけた。

 

 

「───私よ。士道が選択に失敗したわ。

やってちょうだい」

 

 

『はっ』

 

 

画面の中の男が敬礼する。

 

 

 

「は……? な、何だってんだよ」

 

 

士道が眉をひそめていると、画面の中の男が懐から

一枚の紙を取り出した。それをカメラに映して

見せる。

 

 

それを見ると同時、士道に心臓が止まるかのような

衝撃が走った。

 

 

「こ、これは──」

 

 

その様子に、琴里がものっすごく楽しそうな笑み

を浮かべる。

 

 

「そう。若かれし頃、漫画に影響を受けまくった

士道がしたためたポエム・腐食(ふしょく)した世界(せかい)(ささ)ぐエチュード』よ」

 

 

「な……なななななななななんで

あれが……ッ⁉︎」

 

 

確かにあれは、士道が中学生のときにノートに

書いた詩だった。だがあれは、高校に上がる前に

恥ずかしくなって処分したはずである。

 

 

「ふふ、いつか役に立つと思って拾って

おいたのよね」

 

 

「ど、どどどうするつもりだ……ッ!」

 

 

琴里はにやりと笑いながら、「やりなさい」と

言った。

 

 

『はっ』

 

 

男は短く答え、そのポエムを丁寧にたたみ込んで、

身近な下駄箱に放り込んだ。これでは明日登校して

きた生徒が、士道渾身のポエムを読んでしまう。

 

 

「な……っ、何しやがる!」

 

 

「騒ぐんじゃないわよみっともない。精霊に対して

対応を間違ったらこんなもんじゃ済まないのよ。

士道自身はもちろん、私たちも被害を被る可能性が

あるんだから。───というわけで、緊張感を持って

もらうためにペナルティを設定されてもらったわ」

 

 

「重過ぎるわぁぁぁぁっッ! ていうか被害

被っているのは俺だけじゃねぇか!」

 

 

士道が叫ぶと令音がふむ、とあごに手を当てた。

 

 

「……なるほど、確かにシンの言うことにも

一理ある」

 

 

「! そ、そうでしょう⁉︎」

 

 

思わぬ助け船に、士道は明るくする。

 

 

 

だか、

 

 

 

「……ならばシンが選択を間違うたび、こちらも

ペナルティを負うことにしよう」

 

 

言って、おもむろに着ていた白衣を脱ぎ始めた。

 

 

「ちょッ、何してるんですか!」

 

 

「……いや、自分だけが恥ずかしい思いをするのは

不公平だって言いたいのだろう? ならばシンが

選択を謝るたびに私もこう、一枚ずつ脱いでいこう」

 

 

言って、別に恥ずかしそうなふうもなく

腕組みする。

 

 

「そういう意味じゃねぇぇぇぇッ!」

 

 

「なんでもいいから先進めなさいよ、先」

 

 

琴里が焦れたように、椅子を蹴ってくる。

 

 

士道は泣きそうな顔になりながらも、観念して

画面に向き直った。

 

 

だが、今後もこんな選択肢ばかりが出てくると

なると、無事にクリアできる自信がない。

 

 

 

「……なあ琴里、今後のために、この選択肢全部

試してみていいか?」

 

 

「うわ、チキンで小市民な発想ねみっともない」

 

 

「う、うるせっ、こういうのは初めてなんだから

これくらい許せよ!」

 

 

「まったく、仕方ないわね。今回だけよ。

───じゃあ一回セーブして」

 

 

「お、おう……」

 

 

士道はセーブを終えると、ゲームをリセットして

先ほどの選択肢まで戻ってきた。

 

 

「………」

 

 

険しい顔で選択肢を睨むが……やはりどれも

まともとは思えない。

 

 

だが③で高感度が上がるとは考えられなかった。

仕方なく②を選択してみる。

 

 

 

「起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃたよ」

 

 

俺はおもむろに起き上がると、リリコをベッドの中に引きずり込み、覆い被さった。

 

 

「や……ッ、な、何するのよっ!」

 

 

「仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになちゃったんだから」

 

 

「‼︎ いやッ、やめて! いやぁぁぁぁっ!」

 

 

「いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか」

 

 

 

画面が暗転する。

 

 

 

その後の展開は一瞬だった。

 

 

泣き崩れる妹。父親に殴りつけられる主人公。

カチャリという手錠の音。暗い部屋で一人笑う

主人公。

 

 

そのCGをバックに、悲しげな音楽とスタッフロール

が流れ始める。

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 

たまらず、叫び上げる。

 

 

「いきなりそんなことしたらそうなるに

決まってるじゃないこの性犯罪者」

 

 

「じゃあ③が正解だってのかよッ!」

 

 

士道はゲームをリセットすると、三たび最初の

選択肢に戻り、今度は③を選択した。

 

 

 

「かかったな、アホが!」

 

 

俺は妹の足をひねり上げ、アキレス腱固めをかけ───ようとした。

 

 

が、

 

 

 

「甘い」

 

 

妹が身体をねじり、こちらの手から逃れると、そのまま俺の背に回り、足を搦め捕って見事なサソリ固めをかけてきた。

 

 

「ぐぶ……ッ⁉︎」

 

 

 

その後、主人公はそのときの怪我が原因で半身付随

となり、一生車椅子での生活を余儀なくされた。

 

 

「これ、①正解だったんじゃねえの⁉︎

ていうか普通妹はこんな技使えねえよ!」

 

 

「ふうん」

 

 

士道が言うと、琴里が士道の胸ぐらを引っ張って

床に叩きつけたかと思うと、瞬時に足をとって

サソリ固めをかけてきた。

 

 

「ぎい……ッ⁉︎」

 

 

「ふん、ぎいだって。せいぜいママンママン言って

なさい」

 

 

言って士道を解放してから、涼しげに髪を

かき上げる。

 

 

 

「お、おまえ、どこでこんな技を──」

 

 

「淑女の嗜みよ」

 

 

きっぱりと言ってくる。

 

 

士道の持つ淑女のイメージが、筋骨隆々の

プロレスラーに変換されそうだった。

 

 

「てて……ッ、じゃあこれ、結局どうやるのが

正解だってんだよ」

 

 

 

「まったく、最後は出題者に答えまで聞くの?

情けないわね」

 

 

言いながらも、琴里は士道からコントローラーを

奪うと、ゲームをリセットして先ほどのところまで

進めた。

 

 

そして何も選択せず、ただ黙って画面眺め始める。

 

 

「……? 何してんだ? 早く選ばないと──」

 

 

士道が言うと同時に、選択肢の下に表示されていた

数字がゼロになる。

 

 

「んー……あと一〇分……」

 

 

「だめー! ちゃんと起きるのー!」

 

 

 

と、至極普通の会話が、画面に表示されていた。

高感度メーターは上昇も下昇もしていない。

 

 

「な……ッ」

 

 

「あんなおかしな選択肢選ぶなんて、どうかしてる

んじゃないの?」

 

 

鼻で笑って、琴里が士道にコントローラーを

放ってくる。

 

 

「特別にこの続きからやることを許してあげるから、

早く先進めなさい。次の選択肢からはペナルティ

ありだからね」

 

 

「ぐ……ッ、ぬぬ……」

 

 

力一杯腑に落ちないものを感じながらも、

士道はコントローラーを握った。

 

 

ゲームを進めていくと、一〇〇センチオーバーの

バストを誇る女教師が画面に現れる。なんかもう

その時点で非現実的だったのが、黙って話を

進めていった。

 

 

 

すると、

 

 

 

「きゃあっ!」

 

 

女教師がそんな悲鳴を上げ、何もないところで

すっ転び、主人公の顔に胸を押し当てながら

倒れ込んできた。

 

 

さすがに、コントローラーを机に投げる。

 

 

「だから、ねぇよ! こんな……」

 

 

言いかけて。士道はまたも汗を垂らすと、

ずごずごとコントローラーを拾った。今さっき、

状況は違えど似たようなことがあった気がする。

 

 

「どうしたのよ、士道」

 

 

「……や、なんでも」

 

 

大人しく、プレイを再開する。

すると、また選択肢が現れた。

 

 

 

①「こんなことされたら……先生のこと好きになっちゃいます」おもむろに抱きつく。

 

 

②「ち、乳神様じゃぁー!」胸をわしづかみにする。

 

 

③「隙ありぃぃッ!」腕ひしぎ十字固めに移行する。

 

 

 

……また、どれも正気とは思えない。

 

 

 

「っ、そうか……!」

 

 

しかし士道はぐっと拳を握った。きっと、

これも先ほどと同じパターンだろう。

 

 

選択肢の下のカウントがなくなるまで待っていると、

やはり画面にテキストが表示された。

 

 

 

「……ッ、きゃぁぁぁ! 何をしているの⁉︎ 痴漢! 痴漢よぉぉ!」

 

 

 

女教師が悲鳴を上げ、高感度が八〇マイナス

される。

 

 

「なんでだよッ!」

 

 

たまらず叫ぶが、琴里はやれやれと首を振る

だけだった。

 

 

「そんな長時間、避けることをしないで胸の感触を

楽しんでたら、当然そうなるわよ」

 

 

「じゃあどうしろってんだ!」

 

 

「選択肢前のテキスト読んでなかったの?

彼女は女子柔道部顧問・五所川原(ごしょがわら)チマツリ。

寝技に持ち込むことによって、意識を胸から勝負に

持っていかないといけなかったのよ」

 

 

「わかるかそんなもぉぉぉぉん!」

 

 

「──ま、失敗は失敗よ。やりなさい」

 

 

『はっ』

 

 

画面の男が、またも懐から紙を取り出し、カメラ

に映して見せる。

 

 

そこには拙いキャラクターのイラストと、細かな設定が

したためられていた。

 

 

「こ……ッ、これは!」

 

 

「そう。士道が昔作ったオリジナルキャラの設定資料よ」

 

 

「っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 

士道の叫びをよそに、男がまたも適当な下駄箱に

紙を放る。

 

 

「やめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

と、士道が頭を抱えて悲鳴を上げていると、

令音が何やらごそごそと動き出した。

 

 

「……っ、令音さん!」

 

 

忘れていた。そういえば士道が一つペナルティを

負うたび、彼女もまた服を一枚ずつ脱いでいく

とか言っていたのだった。

 

 

いや、士道も健全な男子校生であるわけだから、

嬉しくないといえば嘘になるのだが……その、

なんというか、困る。

 

 

幸いまだ令音は、その身に十分な数の衣服を

纏っている。選択肢さえ間違えなければ

しばらくは───

 

 

「……ん」

 

 

と、士道がそんなことを思っていると、令音が

おもむろに手を背中にやってパチン、という音を

させたのち、手を服の中に入れて何やらもぞもぞと

蠢き、首元からブラジャーを抜き取った。

 

 

「そこからッ⁉︎」

 

 

士道が叫ぶと、令音はふっと首を傾げた。

 

 

「……何か問題が?」

 

 

「いや、明らかに順番違うでしょうがっ!

ていうかもう脱がなくていいですから!」

 

 

「……ふむ? それでは不公平ではないかな?

全然いけるのだが……」

 

 

「あんたただ脱ぎたがりじゃねえだろうな⁉︎」

 

 

士道が声を上げると、また椅子がガン、と

蹴られた。

 

 

「何でもいいから早くしなさい。

ほら、次のキャラが出てきたわよ」

 

 

言って、琴里が画面を示してくる。

 

 

「ぐ……っ」

 

 

士道は仕方なく、ゲームを再開した。

 

 

今度は同級生と思しき女の子が、廊下の曲がり角

で主人公と激突、綺麗にM字開脚をしてパンツが

丸見えになるシーンが画面に映る。

 

 

「──!」

 

 

士道は自分の記憶を探りながらグッと拳を握る

と、高らかに声を上げた。

 

 

「ねぇよ‼︎ これは、こればかりは絶対にねぇよ‼︎」

 

 

「……そうかな? 意外とあると思うのだが……」

 

 

令音が言ってくるが、こればかりはさすがに遭遇

したことがない。士道は自信を持って首を振った。

 

 

だが、またも椅子が蹴られる。

 

 

「別になさそうなシチュエーションに突っ込みを

入れるゲームじゃないの。ちゃんとやりなさい。

次の選択肢を間違ったら──これよ」

 

 

 

言って、琴里が目の前のコンピュータを操作した。

 

 

「……あ?」

 

 

士道が眉をひそめていると、画面に動画が

表示される。

 

 

──背景は士道の部屋だった。そこに、上半身裸

の士道が立っている。

 

 

「こ……れは……」

 

 

士道は、青くした。

 

 

 

だって、それは───

 

 

 

『奥義・瞬閃爆轟破(しゅんせんごうばくは)ぁぁぁぁぁッ!』

 

 

画面の中の士道は両手を合わせて腰元から、

一気に前方に手を突き出した。

 

 

琴里が、もうこの上なく楽しそうな顔を作る。

 

 

「そう、昔士道が一人で留守番をしていたとき

……ぷっ、部屋でオリジナル必殺技の練習をして

いたときの……くくっ、映像よ……」

 

 

耐えられない、といった様子で含み笑いを

漏らしながら、琴里が言う。

 

 

「っいやぁぁぁあぁぁあぁぁああぁぁ──ッ⁉︎」

 

 

士道は、今日一番の盛大な悲鳴を上げた。

 

 

「琴里! ヤバい! これだけはヤバい!」

 

 

「ふふ、じゃあ次はちゃんと選択を成功させる

ことね。……ああ、途中で放棄なんてしたら、

動画サイトに投稿するからね」

 

 

「………っ」

 

 

士道は泣きそうになりながらもながらも、

コントローラーを握りなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし、この二つ方法しかないんだったら……

俺は……」

 

 

折紙と話した後、士道は顔を俯かせて広げていた

右手を見て少し考えた後、広げていた右手を

ギュッと握りしめていた。

 

 

その時、士道の表情は真っ直ぐで真剣な表情と

そして自分なりの自信と何か決意を固めたような

真剣な表情をしていた。

 

 

 

すると、

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───ッ‼︎」

 

 

「………っ⁉︎ な、なんだ?」

 

 

士道は俯きながらそう言った瞬間、廊下から

女子生徒の悲鳴が聞こえて施錠された屋上の扉の前

の階段を慌てて降りて行った。

 

 

だが、その時、士道は気づいけていなかった。

 

 

「…AST……鳶一、折紙………」

 

 

屋上の扉の前の階段の下に『ある人物』が

いることに

 

 

「五河、士道……」

 

 

折紙の名前を呟いたその人物は更には士道の名前

まで言った後、士道が去ったのを最後まで確認して

女子生徒の悲鳴が聞こえてきたがその人物はまるで

興味がないといった表情で階段下から出てきて

その場所を後にして廊下へと歩いて行った。

 

 

「おい、あっちで何かあったみたいだぜ‼︎

俺たちも見に行ってみようぜ‼︎」

 

 

「おう、そうだなあ……んじゃ、行ってみるか‼︎」

 

 

そして歩いていると先程の女子生徒の悲鳴を聞いた

男子生徒たちは面白半分か暇つぶしに見るような

ヤジ感覚で見に行くのだろう。

 

 

 

そしてその人物はそんな男子生徒たち会話を

聞いていてただ一言。

 

 

 

『醜いな……そして……』

 

 

 

虚ろで無機質な瞳で空を見上げながら

 

 

『実に虚しいな……』

 

 

 

悲しそうにこの色褪せて惰性に満ちたそんな

世界の中で一人で静かに呟いていた。

 





最後まで読んでいただき、本当にありがとう
ございます‼︎


これからも一生懸命頑張って更新を続けられるように
していきます‼︎


【報告】

これからについてなのですが、もしかしたら
『ロクでなし魔術講師と禁忌の教典』のシリーズか
もしくは、『落第騎士と幻影の騎士』を更新を優先
するかもしれませんのでよろしくお願いします。


そして今年もどうかよろしくお願いします‼︎

十香と士道が出会う前の四月九日の話を書いた方がいいか

  • 書くべき
  • 書かなくていい
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