聖闘士星矢 -名もなき雑兵-   作:ぱすえ

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魔鈴の回想録
第1話 「追憶」


……

 

遠い日の記憶

 

 

 

 

「クソッ……またやられた。」

 

古い石垣にもたれかかり、そう悪態をついているのは、まだ、鷲座の聖衣の継承者にもなっていない、幼い頃の私。

つぎはぎだらけの服に、今日もまた新しい穴があく。

 

…ここは、聖域の聖闘士修練場。

 

私を含む聖闘士候補生達はここを「この世の地獄」と呼んでいる。

何故、こんな不名誉な名前で呼ばれているのかというと……

 

 

 

 

 

 

「おい貴様!そこの女聖闘士候補生ッ!何をそんなところで突っ立てる!!早く修行に戻らんか!!」

 

「(…チッ…見つかったか。)すみません。すぐに戻ります。」ギロリッ

 

「ふんッ!全く、いけ好かないのは相変わらずだな。……その根性を叩き直してやるッ!!喰らえ!!」ギュンッ!!

 

 

教官と呼ばれている雑兵が、急に拳を大きく振り上げると、そのまま、私を殴りつけた。

ゴスッ…と、私の体から、肉がたわみ骨が軋む音がする。

 

 

「ガハッ!!」ドサッ

 

「ヘッ!ったく、目を離せば直ぐに何処かに行きやがって……おい!何をグズグズ寝っ転がっている?早く立たんかッ!!」

 

「(クソ…自分で殴り倒しておいてその言い草かい……全く反吐がでるね。)……わかり…ました。」フラ…

 

「オラァッ!!もう1発ッッ!」ガスッ!!  

 

起き上がった瞬間、間髪入れずにはいる蹴り。咄嗟の事に反応できなかった私は、モロにその蹴りを食らう。

……胃の中のものが全部出ちまいそうな…そんな激痛とともに、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

……そう、これが地獄と呼ばれる由縁。

ここでは、"聖闘士の修行"と言えば、理不尽な暴力も子供への虐待も許される。

 

そんな、地獄の中で私は……今日も生きる。

 

 

生き別れた"弟"を探すために……

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「斗馬!!」

 

「姉さん!!」

 

暗い暗闇の中、私は、弟の名を叫ぶ。

返事は返ってくるが、弟の姿は見えない。

 

 

「斗馬ァァ!!」

 

「姉さん!!魔鈴姉さぁぁぁん!!」

 

 

暗闇の中を走り抜け、必死に弟を探す。それでもまだ、見つからない。聞こえる声を頼りに、私は、暗闇の中をがむしゃらに探し回る。

 

 

 

 

「魔鈴姉さん!!助けて!!」

 

「なっ!? どうしたの斗馬!?」

 

「うわぁぁぁ!!来るな!来るな!!うわぁぁぁ!!!!」

 

「ッッ!!斗馬!!今行くからね!!」

 

 

突然、弟が私に助けを求めてくる。それも今にも殺されそうな金切り声を上げて……

……待っていろ、斗馬。もう、離れ離れになるもんか。姉さんが…姉さんが必ず、助けてやる!!

 

 

「やめて!!姉さん!、こっちに、こっちに来ないで!!」

 

「!?ッ どうしたんだい!斗馬!!なんでそんな事を言うの!!」

 

「……だ、ダメなんだ……もう僕は……」

 

 

瞬間、背筋にゾクリとした寒気が走る。

ま、まさか……斗馬……お前は……

 

 

「もう僕は………"死んだんだよ"……姉さん。」

 

 

嘘だ…

嘘だ。嘘だ。嘘だ。

そんな……そんな……そんな……

 

 

待って…待ってよ斗馬……私を……私を置いていかないで!!!

斗馬ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!

 

 

 

絶叫する私を、今まで私を取り巻いていた暗闇が、私を生温かく包みんで行く。

…苦しい…気持ち悪い…

そんな感覚に囚われながら、私の意識的また、深く深く堕ちていった……

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

パチッ…パチッ……

 

今度は何か…枝の爆ぜる音が聞こえ、何やら良い匂いが私の鼻腔をくすぐる。

 

(なんだ…これ?……さっきの続きか?)

 

朦朧とした意識の中で薄っすらと目を開けてみると、先程とは打って変わって眼前には広大な星空。

そして、その下にポツンと不恰好に作られた石のかまどと、そこに掛けられている大きな鉄鍋が見えた。

 

(…さっきの続きじゃない?…と言う事は…こ、ここはまさか…)

 

徐々に覚醒してきた脳が、私が、今何処に居るのかを認識させる。

そして、その直後、聞こえてきた奴の声でそれを確信する。

 

 

「お、目が覚めたかー。おそようさん魔鈴。教官に今日もこってり絞られてたみたいじゃないか笑………()()()見れたか?」ニヒィ

 

ここは、奴の調理場。

候補生も雑兵も聖域では、基本的に自給自足、その為個々で、料理をこしらえる事が多い。……大方私は、教官に殴られ伸びていたところをコイツに拾われたのであろう。

 

 

「……ついてないな。まさかお前に…拾われるなんて……」

 

「なッ!?…助けてやったのその言い草わねぇだろ!!ったく、相ッ変わらず、口悪いなぁお前ぇ。」

 

「…その言葉、そっくりそのまま返すよ。」

 

「うぐっ…(図星)……あ!、雑炊いい感じじゃ〜ん!!(目そらし)さっさと食おうぜ!!」ガシャガシャ!

 

 

図星突かれて、あからさまに話題を変えた奴は、いそいそと掛けていた鍋をかき混ぜる。

私は、そんな奴……"名無し"の姿を尻目にまだ痛む身体を起こした。

 

 

 

 

 

…それから少し経ち

 

 

「…ズズズ……ん?ほら、早く食えよ。無くなっちまうぞ。」ガッガッ

 

 

名無しは、雑炊を口にかき込む片手間、私にこう尋ねてきた。

いや、そりゃ私だって、腹が減っているから早く食べたい。だが…

 

 

「……名無し、お前、私に()()()()()()そんな事言ってるのかい?」

 

「ガッガッ…!?ッ…ゲフッ!!……わ、悪りぃ完全に忘れてた。そうだよな……()()()()()()()()飯食えねぇわな。」

 

 

女聖闘士は、例え候補生で有れども、人前で仮面を外す事は許されない。

もし、誰かにその仮面の下の素顔を見られたとしたら……ソイツを"殺す"か"愛す"かの二択を迫られるのだ。

 

……相変わらず、コイツの無神経さには腹が立つ。

 

そんなわけで名無しは、すぐ様、私に背を向けると、また先程と同じように、雑炊を掻き込み始めた。

私も、仮面を外し雑炊を頂く。

…うーん。……美味い。だが、コイツにそれを言うのは、少し癪に触るな……

 

 

「……この雑炊。味付けがイマイチじゃないか?。」パクッ

 

「っ!!なんだと!?テメェー文句あるなら食うんじゃ…」チラ…

 

「名無し……どさくさに紛れて、振り向こうとしてないかい?……顔見たら、この箸でお前の両目玉……くり抜くよ?」

 

「ッ!!…わ、わかった!絶対振り向かねぇよ!振り向かねぇから!!…だから、その……背中越しに殺気を送るのやめてくれぇぇ!」ソッポムキッ!! 

 

 

……ったく油断も隙もあったもんじゃない。

まぁ、いい。実際コイツに見られたとしても、殺せばいいだけだけの話、なんら問題はない。

 

 

「お、おい魔鈴、お前、今、すげぇ恐ろしい事考えててねぇか?」

 

「ご想像にお任せするよ。でもまぁ、死にたくないなら行動には気をつけるこったね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……1時間後。

鍋の中にあった雑炊はあっという間に無くなり、私は、近くの石畳の上で横になっていた。名無しはというと、食後の片付けをいそいそと行っている。

…何もしないのは流石に悪いと思い、手伝うと言ったのに、奴はヘラヘラと笑いながら、「怪我人は寝てろ、バーカ」の一点張りで、1人で片付けをしてくれている。

 

だが、正直言えば、まだ身体の節々が痛いため、休ませてくれるのは有難い。

ただ、最後の「バーカ」の一言は頂けないがな……

 

そんな事を考えているうちに、名無しは作業を終え、私の隣にやってきた。

 

 

「ふぅ……やーっと終わったぜ。今度からは、もう少し大きめの鍋で作ってもいいかもなー。2人分だと足りねぇよアレじゃ。」ヨッコイショ…

 

「……ねぇ……名無し。1つ聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」

 

「ん?…聞きたいこと?」キョトン

 

 

突然私が、質問した事に驚いたのか、間抜けな顔でこちらを伺う名無し。

そんな様子の名無しに、私はこう問いかけた。

 

 

「なんで……助けたんだい?私達、聖闘士候補生に情けは必要ないだろ。弱いものは死に、強いものが生き延びる。これが聖域の掟だ。」

 

 

そう、私の聞きたかった事はこれだ。

聖域での修行生活は弱肉強食。それはガキであろうと無かろうと関係ない。力あるものは生き延び、力のないものは……死ぬ。

そういった過酷な環境で己の限界を越えるからこそ、聖闘士はその超人的な力を手に入れる事ができるのだ。

 

だが、コイツのしている事は、それを真っ向から否定するようなもの……なのにコイツときたら……

 

 

「ん?あーなんだ。そんな事かよ、くだらねーなー」ゴロンッ

 

「なっ!下らないだと!」

 

「ああ、下らねぇさ。お前さーあったま固いんだよ。昔っから。」

 

「このっ!それ以上バカにするならタダじゃおかな…うぐっ!?」ズキンッ!!

 

「ほーれみろ。体ぶっ壊れかけてんじゃねーか。そんなんじゃ聖闘士になる前に死んじまうわな。ほれ!」スッ…

 

 

名無しの言葉に、思わず手が出そうになるも、ズキリとした痛みが身体を駆け巡る。……クッソ。自分よりも弱いくせに…言うことだけは一人前ぶりやがる。

それに、奴はこちらに何かねっとりとした緑色のジェル状のものを投げつけてきた。……なんだこれ、スースーする……

 

 

「即効性の湿布薬だ。町の薬屋から貰ってきたんだよ。塗っとけば、明日にゃ動けるようになってるはずだぜ。」

 

「こ、これ以上の情けなんて受けてたまるか!!バカにするのも大概にしろ!!」

 

「おいおい、ムキになるなよ……あのな…力だけ強かったて、聖闘士にはなれねーぞ。」

 

「!?ッッ」

 

「聖闘士てのは、この世に蔓延る邪悪から地上を守る存在だ。つまりよ、力云々以前に人間性ができてなきゃならねぇーってわけさ。」

 

「くっ……そんなの屁理屈だ。」

 

 

奴の最もらしい答えに、思わず詰まってしまう私。

…でも、そんなのは屁理屈だ。現にそんな風に甘い考えの奴ほど死んでいく……散々見てきたんだ。次死ぬのはお前かもしれないんだぞ!

そう言い返そうにも、疲れていて言葉を返す気力も無い。

そんな、苦し紛れの私の反論に奴はこう言った。

 

 

「屁理屈なのは認めるさ。でも……俺が聖闘士を目指す理由は、"人"を守る為だ。それなのに、目の前で死にかかってる奴を放っておけるかよ。」スタ…

 

「な!何立ち上がって……ま、まだ話は終わって……無いぞ…」ウト…ウト

 

「もう寝ろよ……明日もどうせしごかれるんだ。あ、後この毛布やるから風邪引くなよ。」ポイッ

 

「ど、どこへ行く…つもり……だ…」ウト…ウト…

 

「俺も寝るんだよ、自分の寝床でさ。ふぁぁぁ(あくび)じゃあな、ダチ公。………今度は、お前が嫌な夢みないようお祈りを捧げてな。」スッ!スッ!

 

 

そう言って指で十字架を切った奴は、クルリと背を向けて自分の寝床へと帰っていく。

 

(……ちくしょう…何がお祈りだ…このキザ野郎…。)

 

……奴の背中を見ながら、最早野次にもならない野次を飛ばし…私はまた意識を堕とした。

 

 

忌々しい事にこの後、私はあの嫌な夢を見る事は無かった。

まるで、奴の祈りが叶ったかのように……

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

この頃の私にとって、名無しと言う少年は、食えない同僚。又は、少し気に食わないクソ野郎ぐらいの認識だった。

 

聖闘士に対する考え方。

脱落者にかける情の是非。

 

これらの考え方はまるで違っていた。

そんな名無しに…私が心を許し始めたのはまた次の話……

 

 

 

 

 

 

 

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