終わらない喜劇   作:SINSOU

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ギリギリな描写故に、不快になりますので注意ください。


2章 

『吐き気がする』

 

そう思わずにはいられない光景が、『私』の目の前に広がっている。男に与えられたのは、人一人には大きすぎるベッド。あまりに大きすぎたせいで、彼の部屋の大半を占領しているのだ。だが、そのベッドでさえ、男を取り囲む少女たちのせいで既に窮屈になっていた。彼女たちはみんな、それぞれが可愛く、また綺麗だった。髪の色や見た目、顔立ちや姿、人種等々、全てが違っていた。だが、一方で共通しているのは、彼女たちは衣服を纏わずに生まれたままの姿であるということ。そして彼女たちが纏う()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。言ってしまえば、仮に彼女たちの瞳を見ればハートが映っているだろう。そして彼女たちの中心には、同じように衣服を纏わない少年が一人横たわっていた。

 

少年の出で立ちを説明するならば、まさに美男子だろう。スッキリした顔立ちに引き締まった筋肉の身体。その両目は()()()()()()()()()()()()()()()朱色だった。少年はただただ何もせずに横になっているだけだ。一方で聞こえてくる、ベッドが軋む音と荒れた呼吸音、そして粘着質な音。耳を塞ぎたい衝動に駆られるが、唇を噛みしめながらも耐えるしかなかった。そして音が止むと、ドサリという音と共に少女の一人が床に倒れた。

 

『終わった』

 

そう思い、『私』はすぐさま少年の方へと駆けよって言伝を渡す。一瞬、少年の朱い目が私を見据えたことに身体が竦むが、努めて何も感じないように口を笑顔に歪める。「それでは失礼します」という言葉を伝え、一目散に部屋の外へと駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

『おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』

 

 

 

 

 

飛び出した部屋の甘ったるい空気を吸い続け、『私』はふらつきながらも自分の部屋に戻り、洗面台に吐いた。胃の中をぶちまけ終わり、少しえづきながら、私はタイルの床に身体を崩した。

 

『イカレテル』

 

『私』はそう思わずにはいられなかった。あんな●●な光景を見せられて、私はすでに彼女たちのように狂っているのではないかと思ってしまう。なんだあの光景は。ここは学生寮のはずなのに、いつからホテルになったんですか?そして何度も見せれるアレは一体何なんですか?()()()()()()()()()()()()()()、彼らは一体何をしているんですか?あまつさえ、唯一の肉親だった先生さえも、そんなことなど露にもかけずに、平然と彼らに交じっているなんて信じられなかった。

 

 

 

「どうしてこうなったんですか……?」

 

 

 

私はゆっくりと身体を起こし、鏡を見る。そこには私ではない私が鏡に映っていた。そこには誰からも頼りにされようと熱意に燃えていた私ではなく、もはや燃え尽きた薪のような私がいた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

部屋からでると、生徒が一人駆け寄ってきた。()()()()()()()()生徒の姿に、私はにこりと笑う。

 

「大丈夫ですよ。ただ言伝を渡しに行っただけですから」

 

「で、でも先生!それでも先生の身体は…!」

 

私は生徒の両肩に手を置き、しっかりと見つめる。

 

「大丈夫です。先生は強いですから。まだ大丈夫ですよ。ええ、私はまだ狂ってません」

 

「先生…」

 

そうだ、私は先生だ、先生なんだ。だから生徒たちを護るためにも、私が頑張らなければいけない。もしも私が壊れてしまっても、生徒たちを守り続けよう。私は隣で歩く生徒を、教室で待っている生徒たちを思い、唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

ベッドの上で寝ている少年、●●●●は溜息を吐いた。ゆっくりと身体を起こせば、そこらじゅうに倒れている少女たちの姿。彼女たちはみな、息をぜぇぜぇときらして動けないでいた。●●はそのままベッドから降りて、部屋に設置されているシャワーを浴びる。()()()()()()()()を洗い流し、綺麗さっぱり気分爽快。学園の制服に着替え、気分がいいのか、口笛を吹かしながら廊下へと出る。

 

「あ~、いい気分だ」

 

寝ていたせいで身体が少し鈍ってしまい、身体をゆっくりと伸ばす。

 

「おはよう!いい天気だね!」

 

「お、おはようございます」

 

「は、はい!おはようございます!」

 

「おや?どうしたんだい。少し元気がないみだけどさ」

 

「だ、大丈夫です!少し寝不足気味なだけだから」

 

「そっか、あまり身体を崩さないようにね」

 

廊下で出会った学生たちに笑顔で声をかける。彼女たちは一瞬言葉を詰まらせるが、笑顔でこちらに挨拶を返してくれた。いいねぇ…顔立ちも悪くないし、少し気に入ったかも。そんなことを考えながら、少年は教室へと入る。

 

「みんな、おはよう!」

 

「おはよう、●●くん!」

 

教室の同級生たちも、みんな少年に笑顔で挨拶をする。その後、しばらくして担任の先生がやってきた。色々と連絡をする先生を見ながら、少年は考える。

 

『そろそろ先生も加えちゃってもいい機会かもなぁ~』

 

先生を上から下へと見ながら、少年は自身の欲望を滾らせる。

 

「それでですね、急なことだったんですが、このクラスに転校生が来ることになりました」

 

朝の言伝を見て、少年は転校生がやってくることを知り、顔を出したのである。ざわつく教室を一端鎮め、担任が廊下に声をかけた。

 

「失礼します」

 

という声と共には言ってきたのは、少年好みの美少女だった。

 

「×××××です。皆よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げ、顔を挙げてニコリと笑う転校生。その姿に、少年は身体中に電気が走った。

 

 

『欲しい』

 

 

少年が抱いたのはその思い。一瞬にして、少年は少女に心を奪われたのである。そして少年は無意識に口元を歪める。なぜなら少年には()()()()()()()()()()()。その力を使えば、誰も彼もが少年に首ったけ。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがこの力には条件があった。それは、相手が自分をいい人と受け入れることだ。今回までは、()()()()()()()()()()すんなりと上手く行っていた。しかし、()()()()()()()()()。そのせいで、少年の力が些か不安定になっているのである。

 

だが少年は気にしなかった。なにせ自身は受け入れられる姿と声を持っているのだから。故に、少しの時間と機会があれば、直ぐにでも一緒になれると考えていたのだ。それに、今、少年の目の前で行われている女子たちの話を聞くに、少女は大の男嫌い。何でも、世間の男に嫌気を刺しているとのこと。だったら、自分は違うと言うことを見せれば、後は今まで通りだと、少年は思ったのだ。

 

しかし、少年の思いとは裏腹に、少女の行動は彼の思惑を超えていた。

少年から話しかければ、男嫌いゆえに嫌悪する様な視線、すぐさま距離を取ろうとするあからさまな態度。時には無視する様な行動さえもしてきたのだ。一緒に出掛けないか?と誘えば、やんわりとはいえ、全て断られる始末。ISの訓練にしても、今まで躾けてきた少女たちに阻まれてしまった。

 

「~さんと一緒に出掛ける予定がありますので」「●●さんは彼女たち候補生の方と一緒に訓練された方がよろしいのでは?」「すみません、私、男が大嫌いなので、近づかないでくれませんか?」などなど、あからさまに拒絶の反応ばかり。

 

始めは少し生意気な所がそそっていたのだが、こうまでお預けをされ続ければ、寛大な少年もイラつくのは仕方がないのであろう。時にはその苛立ちを一緒に住んでいる少女たちにぶつけてはいたが、その少女たちも少年からしても邪魔な存在になってきたのだ。なにせ、「私が、私が……」と常に纏わりついてくるのだ。少年からしたら、せっかく目の前にご馳走があるというのに、その邪魔をされ続けているのだからたまったものではない。その結果、少年は少女たちを拒み始めた。まあ、飽き飽きしていたのも理由かもしれない。

 

さて、()()()()()()()()()()()()()からすれば、今まで愛されてきたご主人様に愛されないとなれば、とてもとても腹が立つのは仕方がないだろう。そして少し豆知識だが、愛している人から愛されなくなった場合、その人はどうするのだろうか?

 

大まかな噂としては『男性は愛していた人が浮気をされた場合、その男と妻・恋人の両方を恨むらしい。一方、女性の場合は、浮気をした男よりも、浮気を齎した女性を恨む』とはよく言われるもの。まあ眉唾物でしかありません。まあ、浮気をしてもゆるされるなんて、それこそハーレム系か寝取られ、寝とり系の作品くらいでしょう。おっと失礼、関係ありませんでしたね。

 

ようは、その恨みは転校生へと向けらることになったのである。正直、転校生からしたら堪ったものではないだろう。嫌だと断っているのに少年からしつこく付き纏われている上に、何故か「泥棒猫」呼ばわりなのだから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから、仕方がないのではあるが。それは転校生が知るはずが無かろう。

果てにはISを持ち出しての強襲が行われたのだから、もう大混乱である。結果としては、転校生が()()()()()()()退()()()()()怪我を負うことは無かったが、完全に少年に対してもは嫌悪を通り越してしまったのである。

 

「ふざけるなよ……!」

 

ベッドの上で怒りをぶちまける少年と、頻りに謝り続ける少女たち。傍から見れば狂気的な光景だろう。

 

「散々俺の計画を邪魔しやがって!愛してやってるのに、それを仇で返しやがって!いい加減うっとおしいんだよ!」

 

()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、少年は怒りに任せて彼女たちを罵る。すると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。気が荒立っていた少年は、無視しようかと思ったが、「すみません××××ですけど、●●さんはいらっしゃいますか?」という声に驚いた。

 

まさかの転校生が部屋に来るとは思っていなかったのだ。一方で、少年の心にどす黒い思いが宿る。このまま部屋に連れ込んでしまえば、あとはこっちのものだという思いだ。

 

「はい、いますよ。今開けますね」

 

そして少年は扉を開ける。

 

「急にどうしたんですか?」

 

にこやかに笑う少年に対し、転校生は俯きながら言葉を零す。

 

「ごめんなさい。私もどうかしていましたわ。流石に言い過ぎだと周りに言われまして、こうして謝りに来たのです」

 

「いや、別に××××さんが悪い訳じゃないよ。悪いのは彼女たちだし、止められなかった僕も悪かったんだ」

 

申し訳なさそうに頭を下げる●●に××××は言葉をかける。

 

「それはもういいじゃありませんか。互いに思うところがありますが、水に流しましょう。それでですね…」

 

××××の言葉に、●●は耳を疑った。

 

「ですから、こうした出来事もありましたし、互いに親睦を深めませんか?」

 

「え、いいのかい?」

 

思っても見なかった好機に、少年の頭の中はハッピーセットだ。ファンファーレやクラッカーが鳴り響いている。

 

「それで一つ条件を言ってもよろしいですか?」

 

「ん?なんだい」

 

「私、殿方には私だけを見ていただきたい独占欲がありまして。その、できれば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああもちろん!僕は君だけを愛するよ!」

 

『勝った!』少年は確信した。これで条件はそろった。これで目の前の××××は自分だけに狂う恋の奴隷だと。もちろん、少年は約束を守るつもりはなかった。結局のところ、目の前の少女も単なるハーレム余韻でしかないのだ。とろかせてしまえば、どうとでもなる。自身の勝利を確信した少年が見たのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()×()×()×()×()()だった。

 

『この時を待っていましたわ。ええ、この瞬間、君はここで終わったんだよ』

 

あまりの豹変に、少年は呆然としながら目の前の少女を見据える。

 

『焦らして焦らして、涎塗れになるまで我慢し続ける貴方を見ていた時は、本当に愉しかった。でも今この瞬間が一番楽しいよ。なにせ、僕の目の前で君は終わるんだから』

 

「な、何を言ってるんだよ…?僕が終わる?一体何の話をしているんだ!」

 

先ほどの爽やかさをかなぐり捨て、床に崩れ、滑稽なほどに狼狽える少年を見ながら×××は嗤う。

 

『君は今言ったじゃないか。僕だけを愛するって。さて、これで君の力は僕だけに注がれることになったんだけど、でも残念。私はそういう類いの物は効かない様になっているんですの』

 

口元を歪めたまま、××××は少年を見下す。

 

『あるところに一人の女の子がおりました。女の子は父親に愛されていないのではないか?という不安を抱えて生きていました。別のところでは、父親を、いえ…男を憎んでいた女の子がおりました』

 

『二人の少女は、とある場所で一人の男の子と出会います。少年は鈍感などで色々と困った人ではありましたが、二人にとっては大切な人になりました。ところがある日、二人…いえ、少女たちの前に白馬の王子様が現れました。彼は見る者を魅了する美貌と、心を溶かす優しさがあったのです』

 

××××は儚げな笑みを浮かべる。

 

『王子様は言いました。僕の方が素敵だよ。僕が君たちを愛そう。さぁ、この手を取ってほしいと』

 

『二人の少女…いいえ、幾人かの少女たちは王子様の手を取り、大切『だった』男の子を棄ててしまいました。その後、男の子はいなくなってしまいましたが、誰一人気にもしませんでした。王子様に愛して貰う方が重要のだったのですからね』

 

××××の目から光が消えていく。

 

『そして月日が経ち、王子様が息を引き取った瞬間、少女…いえ、女性たちは驚きます。なんと、白馬の王子様がネズミに変わってしまったのですから。実は魔女の魔法で王子様に変身していたのです。死んでしまったことで、魔法が解けてしまったのですね。女性たちもまさかネズミを愛していたとは思ってもみなかったでしょう』

 

『さて、その後の結末なんて些かどうでもいいですわね。現実を突き付けられた夢見る少女たちの末路なんてものは、いつもろくでもないと決まってますから。誰からも見放され、一人孤独に生き果てたり、捨ててしまった者を探しに彷徨い続けたなど、いささか滑稽だったようですわ』

 

××××は、氷のように、生気すら感じない瞳で●●に嗤いかける。

 

『さて、魔法が解けたシンデレラは元のみすぼらしい小娘に戻りました。では、魔法が解けてしまった貴方はどうなるんでしょうね、()()()()()?』

 

「へ?」

 

××××の言葉に、少年は後を振り向いた。もちろん、そこにいるのは誰かは解っていた。

 

ガシリと、少年は無数の手に身体を掴まれた。

 

「あ、あああ、あああああ……」

 

少年の目に映ったのは、自分を見つめている無数の瞳。その瞳には光が無く、只々どこまでも昏い色を宿していた。

 

『あとは皆さんのお好きになさってください。そしてネズミさん、これからずぅっと彼女たちに愛され続けてくださいね(憎まれ続けてくださいね)

 

バタンと扉を閉めると、××××はそのまま扉の前でそのまま動かない。防音された部屋で起こっていることなどは容易に想像できるが、結局は真相は闇の中であろう。

 

『では、最後の後始末だね』

 

そう呟くと、××××は部屋の番号が書かれたプレートに布を被せ、パチンと指を鳴らす。そして扉をノックする。

 

「はーい」

 

部屋の主の声が聞こえ、ガチャリと扉が開ければ、

 

「あれ~××××さん、どうしたの~?」

 

出てきたのは、猫の被り物をした女の子だ。

 

「あら、ここは●●さんのお部屋じゃなかったかしら?」

 

××××の言葉に、女の子は首を傾げる。

 

「違うよ~?それに××××さん、この学園に●●って人はいないよ~?」

 

「あら、そうでしたかしら?ごめんなさい、前の学校の記憶と混ざってしまっていた様ですわ。それではまた明日教室でお会いしましょう」

 

「?」

 

首を傾げる女の子をよそに、××××はそこから離れる。そして××××はとある部屋へと足を止めた。そこはかつて使われていたが、今は誰も使っていない部屋だった。部屋の番号は『1025』。××××は何故か持っているその部屋のカギを使い、足を踏み入れる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、掃除をされてしまい、今は何もない殺風景な部屋になってしまっていた。××××は黙ったまま部屋へと入り、締められていたカーテンと窓を開けた。真っ赤な夕陽が海へと入っていく光景が見える。金色の髪を風に揺らしながら、××××は微笑む。制服のポケットから取り出したのは一枚の写真。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。そこには、一人の男の子を中心にして、周りの女の子たちが笑っている。

 

『さようなら、一夏さん(一夏)

 

その言葉を最後に、少女は消え、一枚の写真が風に乗って空に飛んでいくのだった。

 

そして世界は元に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、愛されるってことは恐いですわね~」

 

女神様は困った顔で白い部屋を見つめていた。

 

「もはや世界から切り離されてしまったのですから、もう私でも干渉(観賞)できないようですね。隔離されてしまって出口もありませんから、彼は一生部屋から抜け出すことも出来ず、永遠に少女たちに愛されることでしょう。ですが、彼の望みは愛されることでしたから、きっと幸せでしょうね~、ではでは~」

 

『助けて!神様!嫌だ!ここから出してくれ!もう嫌だぁ!ひぃ!?く、来るな!!俺にちかづくなぁー!!」

 

複数の少女たちに押さえつけられ、もはやイケメン顔を涙などの液体でぐちゃぐちゃにして、泣き叫んでいる少年に女神様は笑顔で手を振るのだった。


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