終わらない喜劇   作:SINSOU

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終幕:終わらない喜劇

少女は笑う。

久々に開いたお気に入りの本の内容に。その本はかつては少女のお気に入りであり、お気に入り『だった』。しかし今、少女のお気に入りの本として再び元に戻った。

 

「うんうん、やっぱり私、この作品が大好き!」

 

ぺらぺらと頁をめくる音が部屋の中で響き渡る。少女は椅子に腰を掛け、パタパタと足を動かす。フンフンフフーン♪ランララーン♪少女は鼻歌を歌う。

 

 

 

だからだろう……少女の結末はここで決まった。いや、そもそも少女の運命などはとっくに決まっていたのだろう、()()()()()()()

 

 

少女の胸に赤い点が灯った。その赤い点は徐々に広がり、赤い染みとなっていく。少女は鼻歌を止め、ぱたりと本を閉じ、目の前の机に置いた。

 

「あーあ」

 

少女はため息を吐く。まるで楽しかった時間に終わりが来ることを知ったように。そして……少女の胸から銀色の刃物が突き出た。赤く濡れた先端から垂れる紅い液体が、床に散らばった本を染める。そのまま胸を貫かれたまま、少女は宙に吊るされた状態だ。傍から見たら、猟奇的な光景だろう。胸から刃物が飛び出す少女と、それを持ち上げる来訪者。一体どっちが悪党なのだろうかね?

 

一方で、胸から刃が飛び出ているというのに、少女の顔は何事でもない様に落ち着いていた。

 

「解ってはいたことだけどさぁ……?何もかもが唐突過ぎて私、どう反応したらいいか分かんないんですけど?驚けばいいのか、痛い痛いって叫べばいいのか。君、私はどうすれないいと思う?というか、こういうことする時って、一声かけるもんじゃないの?ほら、ゲームや漫画だと、正々堂々って感じで。まあ私って一応、君らからすれば許せない怨敵みたいな存在だしぃ?」

 

胸に広がった真っ赤な染みが、少女のワンピースを真っ赤に染めていく中、少女は吊るされたまま来訪者に尋ねる。

 

「ま、今更聞くことじゃないけど、一応聞いておこうかな。どうしてこんなことするの?」

 

『お前が言えたことか、この化け物め』

 

少女の純粋無垢な問いに、来訪者は感情を押し殺した、重く、暗い声で応えた。

 

「化け物ってさぁ……うん、ひっどーい!こんな純粋無垢で思いやりにあふれた私をそう定義するのは些か横暴じゃないの?断固はんたーい!裁判長、異議を申し立てます!」

 

『黙れ!!』

 

ブォン!と音と共に、来訪者は刃物を突き刺さった少女ごと振った。もちろん、突き刺さっていた少女はそのまま刃物から抜けて、本棚に激突。爆音と共に、並んでいた本棚のいくつかを破壊しながら突き抜けていった。崩れた本棚によって誇りや紙の頁が舞う中、来訪者は少女の後を追う。

 

 

「いたた……。ねえ、ちょっといいかな?流石にこれは拙いと思うんだよ?ほら、この光景を見てるとしたら、明らかに君が悪党だよ?……ほら!皆だってそう言ってるよ!」

 

『何を訳の解らないことを言っていやがる』

 

「あ、やっぱり君は……いや、()()()()()()()()()()()()()()()。でもでも、一時的とはいえ、ここに来れる辺り、相当頑張ったんだろうねぇ。うんうん、やっぱり凄いよ!花丸あげちゃう!」

 

砂埃が晴れ、来訪者が目にした光景は、手足が本来曲がらない方へと向いたまま、本に半ば埋もれた少女だった。だが少女の顔は、胸を突き刺された時と同様に、嗤っていた。

来訪者はそのまま本の山へと近づき、人の形を成していない少女の首に手をかけ、そのまま持ち上げた。

 

「ところで、ここまでやる罪状ってのは一体何なのかにゃ?いやいやいや、まあ一応知ってるけどさぁ?でもでもやっぱり確認しないと拙いでしょう?勘違いでここまでされたとしたら、君が悪役確定しちゃうわけだしぃ」

 

『ふざけるのも大概にしろ!』

 

来訪者は、少女を地面へと叩き付けた。まるで爆発したような音が響き、部屋がびりびりと揺れる。叩き付けた場所は深く凹み、周りは大きな罅割れが起きていた。

 

『貴様は!貴様はぁぁぁぁぁ!俺を、俺たちを苦しめてきた!』

 

叩き付ける

 

『自分勝手な理由で俺たちの世界を滅茶苦茶にした!』

 

叩き付ける叩き付ける

 

『訳の分からない存在を送り込みやがって!何が、貴様の存在は悪だ、だ!』

 

叩き付ける叩き付ける叩き付ける

 

『俺は、俺たちは生きていた!たとえ幻想だろうと、フィクションであろうと!俺たちは生きていたんだ!』

 

叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き叩き叩き叩き叩き叩き叩き叩きたたたたたたたたた……

 

『それを、それを!お前はぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

来訪者は少女をまた横へと放り投げる。だが先ほどとは違い、横にすっ飛んで行く少女に追い付くと、来訪者はそれを上へと蹴り上げる。ベキバキャボキ……の音と共に少女は曲がらない方向へくの字に曲がり上へと飛ぶ。来訪者は直ぐに上へと跳ぶと、目の前に飛んでくる少女に、今度は踵を叩き付けた。

 

「ところで一つ聞いていいかな?良いよね?もちろん、君の口答えは聞いてない!あれ?違ったかな?でもああいっか!」

 

地面に激突した場所から、少女の声がする。その声は先ほどの惨劇を受けたにもかかわらず、何も変わらず、少女らしい声で。

 

「君の、君たちの生きるってなぁに?どういう意味?それって一体どういうことかしら?」

 

『知れたことだ!俺は、俺たちは新しい人生を得た。神によって殺された人生を、新しい世界でやり直す!本来得るはずだった物を得る為に!だから俺たちは好きなようにやらせてもらう!それが俺たちの生きるってことだ!』

 

来訪者は叫ぶ。それは()()()()()()()()()彼らの意見なのだろう。彼……いや、()()からしたら、それは正統な権利なのだから。誤って殺されたしまったのだ。それを考えたら、彼ら自身が()()()()()()()物を得る為に、新たな人生を生きる権利は確かにある。

 

『力まで与えられたんだ。しかも神から直々に!だったら何をしても許されるんだ!なにせ神から許されているんだからな!』

 

ガチャリと音と共に、来訪者の持っていた刃物の形が変わる。突き出ていた刃物の先端から、何か筒状のものへと変化し、その手には銃器が収まっていた。また来訪者の背後には、先ほどまで無かった、何やら大小さまざまな機械が浮いている。それぞれの先端にはバチバチと音を奏でながら、何やら光る球状の個体が、少女の落ちた場所へと向けている。

 

『それをお前は!いや、お前が寄越した訳の分からない存在がぁ!!俺たちの人生を滅茶苦茶にしやがった!ああ許せるか!許せるものか!貴様らの存在が、俺たちにとっての悪だ!勝手な理由で俺たちを襲てきやがってよぉぉぉぉぉ!!』

 

ガチャリと、手にした武器の銃口を少女へと向ける。

 

『お前等は邪魔なんだよ!転生者(俺たち)が好きに生きて何が悪い!それをてめぇ勝手な理屈をこねくり回しやがって!俺たちの人生を!生き方を!!てめぇらが勝手に決めつけて断罪しに来るじゃねぇぞ糞がぁァァァァ!!』

 

カチ

 

その音と共に、来訪者の手にした銃器から、空に浮いていた機械から、全てを焼きつくそうとするほどに大きなエネルギーが迸った。もちろん、その爆発的な熱量を浴びるのは……。

 

「ふーん」

 

そして爆音と共に、巨大なエネルギーの塊が、少女ごと部屋を焼き尽くした。

 

 

跡形もなく、灰すらも残すことなく、文字通り真っ新になった場所に、来訪者は一人佇んでいた。

 

『やった……』

 

来訪者は、目の前に広がる惨状に言葉を漏らす。

 

『やった、やったぞ。俺たちはやったんだ!成し遂げたんだ!』

 

その声は叫び声となり、何も残っていない世界に響き渡る。

 

『これで、俺を……俺たちを否定する存在はいなくなった!もう誰にも邪魔されない!これでようやく、転生者(俺たち)は自由に生きることが出来る!あは、あはは、あははははははははははははは!!』

 

始めに現れた時と違い、来訪者はその仮面を脱ぎ去った。そして訪れるだろうハッピーライフに心を躍らせる。いや待てよ。もしかしたら今後もこう言った『自分勝手な俺たちを否定する存在(転生者アンチ)』が現れるかもしれない。だったら今度は先にそいつらを殺しに行くべきだろう。そうだ、その通りだ!そっちが先に否定しに来たんだ。だったら今度はこちらから殺しに行こう。そして全ての邪魔者を殺し尽くせば、一生俺たちは幸せになれる!絶頂を味わえる!

 

 

 

 

こうして争いは繰り返される。互いが互いを否定するために、互いが互いを殺し尽くすために。それは決して終わらない喜劇。繰り返される永遠のお話。


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