出久がなんか魔法少女になる話   作:匿名希望

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テンポよく行こう
じゃないとグダる


必ずや高額納税者ランキングにこの名を刻むのだ!

 ついに、出久は中学へ復学することとなった。

 復学と言っても休んでいた期間は2週間ほどで、そんな大げさなものではないが、それでも出久に多大な恐怖に似た緊張を与えていた。

 

『大丈夫? 』

 

「うん、大丈夫じゃないけど、行くしかないよ……。」

 

 中学の制服であるセーラー服に身を包み出久は言った。スカートは魔法少女のコスチュームで慣れているため大丈夫だ。そう言い聞かせ、教科書類が詰まったスクールバッグを持った。

 

「行くよ。ユイ君」

 

『うん』

 

 ユイは出久の肩に飛び乗のった。

 自分の部屋に出ると、インコが心配そうに準備が終わるのを待っていた。母にこれ以上の心配をかけないためにも行かないわけにはいかない。

 

「お母さん、行ってきます。」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

そして、ゆっくりと玄関を開けて家を出た。

 

「ふぅ……」

 

 いつもと違う格好をしているだけで、見慣れたはずの団地の一角も違って見えた。肩にいるユイも"彼女"になんて声をかければ良いのか分からず、頭を悩ませていた。

 そんなおり、たまたま、隣のおばさんが通りがかった。時間から考えるとゴミ捨てに行ってきた帰りだろう。

 

「お、おはようございます。」

 

 出久の性別が変わったということはこの団地内に既に広まっている。別段、それで人間関係がどうのとかは無いが流石に今まで通りとはいかない。

 

「えっと、緑谷さんちの……、今日から学校なんだね……、えっと………。よく似合ってるわ。」

 

 隣のおばさんには悪気はない。いつもなら2、3、他愛のない話をしてから別れるのだが、今回ばかりはなんて声をかければ分からず、こう言ってしまったのだ。

 しかし、出久にとっては『よく似合っている』という言葉は自身が()()していることを再確認してしまう発言だった。

 

『い、出久!?』

 

 みるみるうちに出久の顔、いや、全身は真っ赤になった。

 女性物の服が魔法少女コスチュームで慣れているとは言っても人前で着たことなんて母に見せた時だけだ(ユイは除く)。

 そのため、人前で()()していることに耐えられる訳がなく、出久は逃げ出した。

 

「が、ががが、学校がありますから!」

 

 駆け足でその場を後にし、運良くこの階似合ったエレベーターに飛び乗った。しかし、ある意味それは悪手だった。

 

『出久………。』

 

「—————!」

 

 このエレベーターには鏡があり、自身の制服姿を見てしまったのだ。肩あたりまで伸びた天パの髪の毛、そばかすなどかつての面影が残るが明らかに女性のものになった顔。そして、女子制服を着た小柄な身体。 

 出久もこれが自分じゃ無ければ美人だと思っただろう。しかし、それら全てが自分自身だと、小さなエレベーターの中で突きつけられた。

 

『…………動物の目から見ても、似合ってるし、可愛いと思うよ。』

 

 鏡を見て、真っ赤なら顔で唖然としている"彼女"にユイはどうにかしようとそう言った。けど、逆効果でしかなかった。

 このような状態では、当然、学校に到着するるころには出久はヘトヘトとなっていた。もう何もする前から帰りたくて仕方がない、しかし、学校に着いてすぐ帰る訳にもいかいため、職員室に向かった。そこで、担任教師と合流し出久のクラスへと向かう。

 

『大丈夫、出久? 顔色が悪いよ』

 

「……なんとか」

 

 担任教師に気づかれない程度で出久は答えた。そして、チャイムと共に2人(と1匹)は教室へと入った。クラスメイトは一斉に出久の方を見た。そのほとんどが、好奇心的な目線だ。朝のホームルームで担任教師と入ってきた『見知らぬ少女』だ、クラスメイトは転校生かと思っていた。

 そんな視線に晒されて出久はとっさに、どうしてか勝己の方を見た。勝己は頬づえをつきながらだが、"彼女"のことを睨むように見ていた。普通の人ならば普段と変わらないと思うだろうか、付き合いの長い出久には自身が勝己に探りをかけられていることが分かった。

 事実、勝己は()()()()()()なのに何処かで見たような気がしてならなかったのだ。

 

「えー、緑谷が、"個性"の関係上、女の子になってしまった。今まで通り、なんてお互い難しいだろうが上手く折り合いをつけてくれ」

 

 担任教師がそう言うと、クラスの空気が固まった。 さっきまで、少しざわついていたが、先生のこの発言により静りかえったのだ。クラスの全員がなんとも言えない表情をしており、まさに、『困惑』と言って良いだろう。

 それもそのはずだ、いきなりクラスメイトが女の子になりました、なんて言われてもどんな反応して良いか分からない。嫌悪も何もないのだ。困惑、放心、それが、クラスメイトを支配していた。

 そのクラスメイト達の中でも勝己だけは違った反応をしていた。目を見開き、金魚の口をパクパクとさせ、全身から冷や汗を流している。そんな彼はもはや出久も見たことない、というか"見たくなかった"勝己史上、もっとも面白い顔となっている。

 そんな勝己を見て、"彼女"は少し笑ってしまい出久は緊張がほぐれた。

 

「えっと、その、緑谷出久です。」

 

 そう挨拶をして、先生に促されて自分の席に着いた。生徒達は、不安と困惑混じった目で"彼女"を追った。そして、必要事項を生徒に報告してた担任の先生が教室を後にした数秒後、勝己が再起動した。

 

「おい、こらぁああ!クソデク! どういうことか説明しろ!」

 

 机を"個性"で()()()()()()に爆破しながら、立ち上がった。

クラス全員の出久へのなんとも言えない空気とは打って変わり、今度は、爆豪勝己といういつ爆発してもおかしくない火薬庫への恐怖に変わった。

 

「無視してんじゃねぇぞ! クソナードが!」

 

 出久の席まで移動した勝己はそう詰め寄る。それに対して出久は涙目となり、完全に怯えきっている。

 しかし、出久もなんやかんやでこのような状況には慣れている。勝己への恐怖からなんとか、口を開いた。

 

「………どうしても、なにも、魔法少女って"個性"が発現したんだ。 ……。無個性で、"個性"が発現しないってのは誤診だった………みたいで、えっと、発育には個人差があるから……。そして、性別が変わって女の子になっちゃっ—————」

 

「————-っ、うるせぇぇええええ! ! 」

 

そして、教室内に勝己の本人すら今のわかっていない叫び声が響いた。それからというもの、出久と勝己の関係はかなりギクシャクしてしまった。元々、仲のいい幼馴染では無かったが、その関係が変わろうとさして違いはない。と、思うかもしれないが、いじめっ子、いじめられっ子とも違う2人の間に流れる微妙な空気はお互いに大きなストレスとなっていた。

 しかし、その関係は全く改善されないまま中3に上がるのだった。

 

「えー、おまえらも3年になったことで、そろそろ進路について真剣に考えなくてはならない………。でも、みんな、だいたいヒーロー科だよね!」

 

 LHR(ロングホームルーム)、学校によっては総合、学活なんて呼ばれているこの時間、担任教師は進路希望を放り投げた。こんなのでいいのか、と、思う人もいるかもしれないが事実としてこのクラスの全員がヒーロー科志望である。

 

「せんせー! みんなって一緒くたにすんなよ! 俺はこんな没個性共と仲良く底辺なんかにいかね——-よ!」

 

 机に足を乗っけて勝己は周りを挑発するように言った。そんな態度に当然クラス中から大バッシングだ。だが、そんなバッシングなど気にも留めないで、勝己は笑って言い放つ。

 

「モブがモブらしくうるせー!」

 

 そんな勝己の様子に、担任教師は思い出しように呟いた。

 

「あー、確か爆豪は雄英志望だったなー」

 

 その少し気の抜けた発言に、クラスメイト達は凍りついた。

 ヒーロー科No. 1の国立高校だ。偏差値は79、入試倍率は300倍にも登る超が3つくらいつく難関高校である。そんな高校に受験するとききクラスの全員はざわつくが、それらを押さえつけるように勝己は高らかに言い放つ。

 

「そのザワつきが、モブたる所以だ! 模試でもA判定! 俺は!あのオールマイトも超えてトップヒーローとなり! 必ずや高額納税者ランキングにこの名を刻むのだ!」

 

 なんとも微妙にズレた宣言を声高らかにした。だが、それでも高い目標に対して必ず達成できるという自信に満ち溢れていた。そんな彼に慣れているのか、担任の先生は淡々と口を開く。

 

「そういやぁ、緑谷も雄英志望だったな。」

 

 その言葉に勝己は固まった。

 一方、クラスメイトは"彼女"も雄英に入学できてもおかしくないなぁ、と、思っていた。勝己ほどではないが出久は勉強も出来るし、"個性"教育という"個性"を伸ばす授業で、"彼女"の"個性"はかなり優秀であることも皆知っている。勝己が雄英志望ならば、出久も雄英志望でもなんらおかしくはない。というのがクラス全員の見解だった。

 一方、勝己はというと出久が雄英志望であることが気にくわないのか、ギラリと睨んだ。

 

「おい、どういうことだ!? クソナード!」

 

 その怒鳴り声に、出久は肩を震わせた。

 もう"個性"をもち馬鹿にされる理由はないし、"個性"ありの喧嘩となっても()()()()くらいの力を得た。それでも、ビクついてしまうのは昔からの癖のようなものだ、

 

「ど、どういうこともないよ……。ち、小さい頃からの夢なんだ……。」

 

 怯えながらもそう言う出久に、勝己は舌打ちをした。

 勝己とてすでに、出久が()()()()()()なんかではないことに気がついている。昔から馬鹿にしてきた幼馴染は既に、()()()()()()に迫り、スキあらば追い抜こうとしている。そして、それを可能にする力を持っている。それに気がつき、自分が出久を認めているという事実に彼は激しい苛立ちを覚えていた。

 

「テメェは! 俺より下だ!」

 

 勝己は出久の机を爆破し、自分の席に戻った。その後ろ姿を見て出久は胸を撫で下ろした。

 

『怖かった……。』

 

 ユイも出久とともに過ごすうちに勝己の味というか、彼と絶縁をしない理由をなんとなく理解してきていたため、あまり悪口を言いたくはなかった。それでも、少しくらい文句というか不満をぶつけたくなる気持ちが湧いてきたが、グッと堪えた。

 

 

 その後の授業は滞りなく終わり、放課後となった。出久とユイは特に用事は無いため真っ直ぐに帰路に着いていた。女子制服にも慣れ落ち着いて過ごせるようになり、この格好のまま買い物したりも今は出来るようになっていた。

 

「ユイ君、僕、雄英に受かると思う?」

 

 出久は不安げにユイに問いかけた。

 側から見ると一人で話しているかのようだが、"個性"が広まった現代では()()()()()()()で変な目で見られたりはしない。

 

『………僕は受かってほしいと思っているよ。けど、受かるかどうかは分からない。昔、契約していた()も雄英に受験して、落ちたことがあったんだ。当時の実技は対人戦闘で、彼女の固有能力は回復系だったからってのもあるんだけど……。なによりも、 雄英の入試はレベルが高い。出久の固有能力は確かに強力だけど、今のままだと、落ちるかもしれない。』

 

 ユイは淡々と分析を口にした。

 彼は今まで100年以上もの間、魔法少女と生きてきた。その長年培われてきた目はかなり信用が出来る。

 

「そうだよね……。"個性"を鍛えるにしても、部屋の中や、団地の裏庭じゃあ限度があるし……。なら、"個性"を補うために身体能力を?」

 

 出久は"個性"を鍛える場として、殆どは家の中で行ってきた。たまに、管理人に許可をもらい団地の裏庭で練習をしているが、どちらも物を壊さないように気をつける必要があり、()()()()()"個性"を使える訳ではない。唯一思いっきり使えるのは、学校の"個性"教育の時間ぐらいである。

 ならば、と、体を鍛える方に重きをおくべきか? と、出久は今後の雄英入試、ひいてはヒーローを目指すためにすべき特訓を考え、ブツブツと言いながら帰宅した。

 その夜、ネットの記事でオールマイトが家の近所で(ヴィラン)を捕まえた事を知り、()()()()()()()()()と知りすこし残念に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 




ユイ
年齢 ??
性別 オス
種族 不明(ペットに出来る動物)

"個性" 契約獣
誰かと契約し、契約者の"個性"を魔法少女に変える"個性"。
契約者からエネルギーを得て生きているため、物を食べたりする必要はない。また、契約者がいれば寿命に関係なく生きながらえることが可能。しかし、契約していないと餓死してしまう。
長年モノを食べていないため、内臓が食べ物を受け付けなくなっている。リハビリでおそらく食べれるようになるが、素人である出久とユイでは、リハビリなんて行えない。
契約獣の"個性"にはほかに、別位相に移動する力や、ケルベロスモードという姿になる力があるという。また、契約者相手にはテレパシーで会話が出来る、
契約には名前と血が必要

別位相
ユイが作る空間。
魔法少女の素質がある人にしか干渉できない微妙に位相がズレた空間である。外と内にいる存在はお互いに干渉出来なくなる。また、この空間自体そう広いものではないため、あまり空間内で移動しすぎると外に出てしまう。
リリなのをイメージして作った能力。しかし、正直、今後の活躍は期待されていない。

魔法少女
ユイと契約して手に入る"個性"。"個性"の上書きであるため、「元々持っていた"個性"は無くなってしまう」。その特性上、異形型の人が契約すると普通の少女の姿になる。
また、異形型の"個性"でもあるため、どんな年齢、性別、体型でも少女の姿になる。
魔法少女にはコスチュームチェンジと固有能力の2つの力がある。
その両方とも人によって各々、異なるものになる。

テレパシー
契約者相手に使える能力。相手の心に直接語りかけることが出来る。しかし、契約者は使えない。











次回! 原作ヒロインがキラキラしたものを出すよ!

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