出久がなんか魔法少女になる話   作:匿名希望

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遅くなってすいません。どうも、今回は筆が進みませんでした………。すげー、難産だった。

また、誤字報告をしてくださる方、ありがとうございます。
投稿前に読み返しているのですが、どうも無くなりません。すいません。


最後に、この物語の一番の被害者は掃除されなかった海浜公園です。




転んじゃったら縁起悪いもんね。

 

 

2月26日、ついに雄英高校の入学試験当日となった。

本人以上に緊張した母に見送られ、心音がうるさく鳴るなか、なんとか"彼女"は雄英高校へとたどり着いた。

見上げると、独特な形の校舎と校門が見え、出久はさらに緊張した。

 

『大丈夫だよ。出久は今日まで頑張ってきたんだ。きっと受かるよ。』

 

ユイのその言葉に、出久は少しだけ緊張が解けた。

意を決して校門をくぐる。学ランやセーラー服、ブレザーなど様々な制服の人たちも出久と同じように校門をくぐり次々と校舎に入っていく。同じように緊張をした人も多くいるが、中には自信ありげな人までもいる。しかし、そんな人たちとは違い、まるで(ヴィラン)のような形相で勝己が校門をくぐった。その雰囲気に気弱な人は距離を取り道を開けていく。

 

「どけ、デク! 俺の前に立つな、クソが!殺すぞ!」

 

今まで、前に人がいても普通に通り過ぎていた勝己だが、前に出久いると分かると低い声で怒鳴り睨んだ。

それに対して、出久はビクッと肩を震わせて道を開けた。

 

「—————か、かっちゃん! お、お互い、がんばろうね。」

 

出久は怯えながらいうが勝己は舌打ちして横を通り過ぎて行った。その後ろ姿を見て、出久は「ふぅ」と、軽くため息をついた。

そして、軽く首を振るうと出久は拳を握り校舎を見上げた。

 

(このままじゃダメだ。ここから、ヒーローへの道が始まるんだ!)

 

ユイが開いてくれたヒーローへの道。彼の応援を無駄にしないためにも、絶対に受かってみせる、と、出久は決意を新たにした。

そして、一歩、歩き出した途端に足がもつれてそのまま正面に倒れてしまう。その突然のことにユイも反応できず、そのまま顔面から地面に倒れる事になる。

 

(あー、これだよ。)

 

転ぶ、そう認識した時出久の身体は空中に静止し、何者かの手によって地面に戻される。

 

「……え?」

 

横を見ると、丸顔で茶髪の女子が笑顔で立っていた。

 

「私の"個性"、ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね。」

 

出久は女性の身体に慣れたと言っても心は男のままだ。しかも、中学では元男ということもあり、女子、男子とも微妙に距離が空いていたため女性どころか、会話に慣れていない。

元々、コミュニケーションが得意な方ではないが、ここ数年で微妙に悪化していた。

そのため、知らない女子との会話に変に緊張してしまいうまく頭が回らなくなってしまった。しかし、それでも女体化してしまったおかげなのか、最低限の受け答えができる程度には冷静を保てた。

 

「……えっと、あ、ありがとう。」

 

「うん、全然良いよ。それにしても緊張するよねぇ……。あ、早くしないと遅れちゃうよ。」

 

出久を助けた少女は、早く行こうと促した。それに出久は頷き、2人で行く流れになってしまった。少女も緊張しており必至に出久に話しかけ紛らわせているようだ。出久も、2、3こと言葉を交わす内に彼女と話す事に慣れてきて、試験への緊張もほぐれてきていた。

 

「お互い、頑張ろうね!」

 

「うん! 頑張ろう。」

 

そして、試験の説明会場で2人は激励しあって別れた。しかし、すぐに名前を聞いていなかった事を思い出した。話しているときは会話の流れもあり、完全に失念していた。すこし、寂しく思ったが、2人とも受かればまた会えると思い直して実技試験の説明会場に入った。

 

説明会場は驚くほど広く説明者のプレゼントマイクは豆ツブほどにしか見えないほどだった。しかし、それでもヒーローオタクである出久にとっては飛び上がるほど嬉しいことで、いつものブツブツ(アレ)が始まってしまった。受験番号が連番であるため隣に座っている勝己は「うるせぇ」と呟きながらも我慢していた。というよりも、長いつきあいなので、諦めてしまっている。

 

「入試概要通り! リスナーには十分間の『模擬市街地演出』を行なって貰うぜ!」

 

プレゼントマイクは"個性"によるものなのか大きな声でやかましく入試の説明をし始めた。

試験の内容は単純だ。試験会場の中で他受験者と競い仮想敵であるロボットと戦うというもので、仮想敵を無力化・行動不能にするとポイントが加点され、そのポイントを競う。仮想敵には1点から3点までおり、それらを見極めて戦う必要がある。

それらをプレゼントマイクが説明し終わると、眼鏡をかけた受験生が手を挙げて質問をし始めた。

 

「プリントには4種の(ヴィラン)が記載されています!誤載であれば、 日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!」

 

その質問で出久はプリントを見ると確かに4体のイラストが描かれていた。雄英関係なく入試概要にミスはあまりよろしい話ではない。だが、眼鏡の受験生の話はそれだけでは終わらなかった。

 

「ついでに、そこのウェーブのかかった髪の女子生徒! 先程からボソボソと……。気が散る!! 物見遊山なら即刻、立ち去りたまえ!」

 

その言葉に出久はハッとなり慌てて黙った。プレゼントマイクはと言うと、出久に対しては触れずに前半の質問にだけ答えた。

4体目の仮想敵は0点のロボットだと言う。倒しても得点にはならないギミックで、戦わないことを推奨していた。

そうして、実技試験の説明が終わると受験生たちは会場へと移動した。

 

「広!」

 

試験会場はもはや街であった。その広さに出久は圧倒されてしまった。もとより緊張しているのに、さらにガチガチとなってしまう。

それに対して、一部の受験生はここで試験をするのか、と、まさにワクワクしている様子である。

 

「凄い、みんな"個性"にあった装備とかしてる……」

 

辺りを見渡すと"個性"にあった装備品をつけた受験生が多くいる。そういった人たちはだいたい、自信ありげである。無論、多くの受験生はジャージなどの普通の運動着で緊張した様子、自信なさげなのだが、どうしても自信ありげな人たちに目がいき、更に緊張してしまう。

 

『大丈夫だよ。"個性"の性質上、出久に有利な試験だから、落ち着いていれば受かるよ。』

 

「……う、うん。」

 

肩に乗ったユイの言葉で出久にとって焼け石に水だった。"彼女"自身もガチガチに緊張してしまっていることは頭では理解しているので、どうにかほぐそうと辺りを見渡すと、校舎の前で出会った、転ぶのを助けてくれた少女がいた。

せっかく一緒の会場となれたので、話しかけようと少女の方へと向かうと突如、背後から声をかけられた。

 

「その少女は精神統一を図っているんじゃないか?」

 

出久は慌てて足を止めて、おそるおそる振り返ると、そこには説明の時に出久へ注意をした眼鏡の受験生がいた。彼は鋭い目線で出久を睨んでいる。彼自身、普段ならここまで威圧的な態度を取ることはない。ただ、彼が憧れていた雄英高校の入試という場であることと、緊張からこのような態度となってしまっているのだろうか。

 

「君は何だ? 妨害目的で受験したのか? そもそも、実技の試験なのにどうして()()()()()()()()!! やる気はあるのか?!」

 

その立て続けの質問と威圧に完全に出久は萎縮してしまっていた。

しかし、出久の服装が制服のままなのは事実である。かろうじて普段と違うのはスパッツを履いていることくらいで、一見するとやる気のない受験生である。しかし、出久の"個性"の性質上、服装を変える必要はない。弁解しようにも出久はうまく言葉を発することは出来なかった。

その服装と完全に萎縮してしまっている姿に他の受験生は「ラッキー」と、思った。

 

その時、

 

「ハイ、スタートー!」

 

唐突にプレゼントマイクの声が響いた。

その声に受験生達は動きを止め、プレゼントマイクがいる方を見る。するの、プレゼントマイクは続けて大声を上げる。

 

「どうしたぁ?! 実戦じゃカウントなんざねぇんだよ! 走れ走れ!賽は投げられてんぞ!!」

 

その声により、受験生たちは一斉に走り始めた。しかし、出久はそれについて行くことが出来ずに、完全に出遅れてしまった。

 

(———-出遅れたっ!)

 

『出久! 急いで!』

 

ユイの言葉が"彼女"は慌てて変身する。

制服は、光に包まれると魔法少女のコスチュームへと変わる。ハイカットのスニーカーは黒いロングブーツへと変わり、膝上まであったスカートは、股下数センチとなる。セーラー服は白いブラウスとなる。

そして、ツバが広い魔女のような三角帽子が頭にかぶさる。

いつも通りの、コスチュームだ。しかし、普段と違い、スカートの下には先ほどまで履いていたスパッツが存在している。

ここ数年で出久が習得した、着ていた服やカバンを残したままの変身である。これで、激しく動いてもパンツが見られることはない。

 

「え……?」

 

急ぎ試験会場に入ると、まず目についたのは人よりも明らかに大きいロボットである。そのロボットは出久を発見すると真っ直ぐに襲いかかってきた。しかし、出久は反応することが出来ない。

 

『出久! 落ち着いて!見掛け倒し! 勝てない相手じゃないよ!』

 

ユイは叫ぶが、"彼女"には届かない。

すでに、メガネの受験生やなぜか自信満々な受験生のせいで"彼女"完全に萎縮し、恐怖で心は満たされている。一種のパニック状態だ。

 

(動け! 動けっ!)

 

そう頭の中で叫ぶが動くことが出来なかった。ビビってしまう癖、前々から直したいと思っていたことがここに来て最大の足枷となってしまった。

 

(馬鹿ヤロウ……、なんで……)

 

『出久! ごめん!』

 

「痛ッ—————-!」

 

"彼女"の脳裏にユイの言葉が響く。それと同時に、耳に激痛が走った。すぐに、ユイに噛まれたんだと分かったが、そのおかげで、恐怖に染まっていた心はユイの方へと傾いた。

 

『落ち着いて! やる事はいつもと変わらないよ!』

 

「変わらない?」

 

『うん、いつも、サンドバッグにやってることを少し強めでやればいいだよ。基本は変わらない、ただ、敵を探す必要があるだけ。』

 

出久は"個性"の練習のためなサンドバッグなどの道具を買ってもらっていた。それらを使って練習してきたことを思い出す。

なるほど、対象が違うだけで本質的には同じだ。そう()()()()()()()

 

「ありがとう、ユイ君」

 

そう呟き、もう既に眼前に迫る仮想敵を見る。距離は既に1メートルを切っており、何もしなければ、あと1秒もしないうちにその巨大な爪で攻撃されてしまうだろう。

 

武器をイメージする。

魔法少女の"個性"で最も大切なことだ。

 

出久は右手を何かを掴むように掲げる。すると自身の身長ほどの長さの杖が出現した。見た目の材質は木製に近い。杖先は細く杖頭はゼンマイの新芽のように渦巻き型になっている。

そして、杖頭を仮想敵に向けた。

更にイメージ、そして、それをより強固にするため呪文を唱える。

 

「ファイアッ!」

 

刹那、紫色の閃光が衝撃波となり仮想敵を襲った。仮想敵はそのまま吹き飛び、砕け散った。

これが出久の固有魔法、紫色のエネルギー体を操る能力だ。操るエネルギー体を弾丸のようにしたり、壁にしバリアのように身を守るなど様々な使い方ができる。しかし、この能力の起点はどうしてか出久ではなく、コスチュームとは別枠の武器である杖だ。なくても使えるが、杖を用いて能力を使用した方が操作性も威力も上がる。

 

『まずは、1点だね。急ごう。次の敵を倒さないと』

 

「うん」

 

出久は頷くと、杖に跨り地面を蹴った。すると、杖頭は紫色に輝き、文字通り出久を乗せて空を飛んだ。これは固有魔法の応用だ。

"エネルギー体"は出久の意思で自在に飛び回ることが出来る。それを利用し、杖頭にエネルギー体を集め空を飛んでいるのだ。

 

「見つけた!」

 

空を飛び、仮想敵が数体いるところを発見する。将来的に飛行しながらの遠距離射撃などもしてみたいと思っているが、今の出久には不可能である。

空を飛ぶのはエネルギー体を精密に動かす必要があり、起点である杖を飛ばす事はできても出久自身を飛ばす事はまだ出来ない。そのため、遠距離射撃をするために杖を使うことが不可能なのだ。さらに、根本的な話になるが、仮に遠距離射撃をすることが出来ても今の出久には攻撃を当てる技術なんてない。そのため、ある程度、近づかないと攻撃なんて出来ないのである。

 

出久は数体いる仮想敵を見下ろせる二階建ての建物の上に着地して杖を掲げて、5個の球体のエネルギー体、魔弾を作った。

 

「シュート」

 

そう唱えながら、杖を仮想敵の方へと振り下ろす。すると、魔弾は仮想敵の方へと放たれた。5個の魔弾はまず1点(ヴィラン)を一撃で貫通し倒した。そして、そのまま次の仮想敵の下へと向かう。2点は貫通しないまでも動けないように破壊し、3点(ヴィラン)は何度か攻撃し続けて破壊した。

 

「………ふぅ、何とかなりそうだね。」

 

『———— 後ろっ!』

 

下にいた仮想敵を倒し終わり、一瞬気が抜けたタイミングでユイの声が響いた。慌てて振り向くと2点(ヴィラン)が背後に迫っていた。

 

(動けッ!)

 

突然の危機にビビる自分自身に喝を入れて出久は仮想敵の攻撃をかわした。そして、杖を短く持ち2点(ヴィラン)の方へ向けて衝撃波を放った。

 

「ファイアッ!」

 

2点(ヴィラン)は建物から落ち、大破した。

 

「よし、次っ!」

 

そして、また、杖に跨り仮想敵を探しに行く。

このようにして出久は次々とポイントを手にしていき、(ヴィラン)ポイントが45点になった時、試験会場が大きく揺れた。

ビルやマンションを模した建物を次々と壊し、ソレ、0点(ヴィラン)は現れた。

 

『………嘘でしょ?』

 

ユイの言葉は、おそらく全受験生の思いと同じだ。

その大きさ、質量には勝てるわけがない。圧倒的脅威だ。当然、出久も逃げるという判断を下した。

しかし、

 

(アレは? あの時の?)

 

朝出会った少女が視界の端で、0点(ヴィラン)の足元に倒れているのが目に入ってしまった。

その瞬間、出久の中で1人で逃げるという選択肢は無くなった。

慌てて杖に跨り地面を蹴る。さらに、杖頭からエネルギーを放出しその反動で加速する。

 

『出久?! 何やってるの! 試験だから先生方が助けるよ!それに、()()だってギリギリじゃないか!』

 

ユイの言葉はもっともだ。

既に出久は限界を超えて仮想敵を倒してきた。全身は重いし、息だって完全に上がっている。しかし、無視して突き進む。少女の下へたどり着くと、すぐに杖を瓦礫の方に向け少女の足に被さっている瓦礫を破壊する。

 

「ま、魔女ッ子や!」

 

少女は倒れたまま出久を見上げて、真っ先にそう叫んだ。その言葉に出久は一瞬、自分の格好を恥ずかしく思ったが、今更なのですぐに諦めた。

 

「逃げよう! 乗って!」

 

杖にまたがり、少女に手を差し伸べる。少女は一瞬だけ迷うようなそぶりをしたが、目と鼻の先にいる0点(ヴィラン)を見て出久の手を取った。

 

「行くよ! 掴まってて!」

 

「……うん、ありがとう。」

 

出久は彼女を自分の後ろに乗せて、バイクや自転車の2人乗りのような体勢となった。そのため、身体は密着しており一瞬だが出久の脳裏によこしまなことが浮かんだ。しかし、すぐに振り払い、出久は杖頭からエネルギーを放出し、最大出力で加速した。一瞬で地面から離れビルを越え、0点(ヴィラン)との距離を取ろうとする。

 

(これならギリもつ!)

 

「————-まずい!」

 

『かわして、出久!』

 

しかし、そんな甘いものじゃなかった。

少女とユイの声が響く。0点(ヴィラン)の拳が出久の真後ろに迫っていた。

"個性"とは身体機能だ。出久の扱うエネルギーも当然、限界がある。疲れれば走る速さも落ちるように、慣れない2人乗りということもあり、思っていたよりも速さが出なかったのだ。

 

(どうする? 回避? 間に合わない?)

 

刹那の思考の中、出久は回避することを諦めた。

飛行を止めて空中で少女を左手で抱き寄せる。杖を右手で持ち直し、迫り来る拳の方に向けた。出久の小さい腕で抱えられている少女は一瞬の出来事で何が起きているのかは分からない。ただ、"彼女"が自分を守ろうとしている。それだけは分かった。

 

「シールド!」

 

そう唱えたのは、0点(ヴィラン)の拳が彼女達にぶつかる瞬間だった。しかし、そのとき、拳と杖の間に紫色の花が咲いた。

花弁は4つ。太陽にも似た光の花は、確かに0点(ヴィラン)の攻撃を受け止めた。しかし、一瞬だけだった。

当然だ。出久はただ壁を出しただけで、押し合いをする力なんて到底存在していない。すぐさま、バリアごと出久達は吹き飛ばされた。

 

「————ぐっ、ぁああああ!」

 

「わぁああ!」

 

2人は更に上空に投げ出され、十数メートルの距離を吹き飛ばされた。不幸中の幸いと言うべきか0点(ヴィラン)からかなりの距離を離れることが出来たが、2人は辺りのビルよりも明らかに高くまで打ち上げられており、当然真っ逆さまに落下しはじめた。

 

(後は、着陸するだけ)

空を飛ぼうと杖に力を込めるが、出久は一瞬輝くと元の制服に戻ってしまった。

 

『コスチュームが……! 魔力切れだ!』

 

「え? ぇぇえええええええ!」

 

何とか飛ぼうと、杖に力を込めるが紫色の光が水鉄砲のように出るだけで飛べる気配はない。しかし、着実に地面が迫る。このままでは地面に叩きつけられる事となり、下手をすれば命に関わる。

出来れば()()使()()()()()()ユイであるが、契約者の命を守るために"使う"覚悟を決めた。その時、出久が助けた少女が叫んだ。

 

「飛べんの?」

 

その言葉に出久はコクリと頷いた。

状況は最悪だ。しかし、少女は体調の悪そうな顔だが、少し笑みを見せた。

 

「着地は! 任せて!」

 

少女はまず、出久の身体に触れる。すると、出久の身体は落下をやめて空中に浮かび静止した。それで朝、転びそうになった時に身体が浮いていたことを思い出した。見ると少女も浮いており、“ものを浮かす個性"ではないかと出久は推察した。

少女も出久よりも低い位置だが空中で静止している。

 

「解除!」

 

少女が両手の指を合わせると、浮遊感は無くなり2人は落下した。

そして、すぐさま少女は地面に俯き何をとは言わないが戻した。出久はすぐさま駆けよろうとしたが、少女は手で制した。

 

「残り、1分〜」

 

試験管の声が会場に響く。

少女は左手で口を押さえながらふらりと立ち上がった。

 

「た、助けてくれてありがとう。でも、もう大丈夫、残り1分、お互い、ベストを尽くそう。」

 

そう言う少女の目は弱々しく、顔は真っ青だが、まだ、試験を続けたいと言う思いが込められていた。

 

『出久、君も試験中だよ。これ以上、出来ることはないよ。』

 

「————うん、お互い、頑張ろう。」

 

もう手伝えることはないし、本来はライバルなのだ。そう思い、出久は少女と別れて、残り1分、少しでも得点を稼ぐために杖で1点を殴り倒して回ることにした。

 

そして、

 

「終了〜〜!!!」

 

試験は幕を閉じた。





次回、出久の心臓が悲鳴をあげるぞ!
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