出久がなんか魔法少女になる話 作:匿名希望
戦闘訓練の翌日、雄英高校の前には数え切れないほどの報道陣が生徒たちにインタビューをしていた。インタビュー内容は教師となったNo. 1ヒーロー、オールマイトの授業についてなのだ。しかし、彼が授業をしたのは昨日が初で、1年A組にしか指導をしていない。そのため、殆どの生徒はオールマイトの授業を受けていないうえ、うまくA組を引き当てても「筋骨隆々?」や「うるせぇ」など、文字通りの個性派ばかりで、あまり思い通りのインタビューが出来ていない。
そんな彼らの様子を出久は少し離れたところで見ていた。近づけば必ずインタビューを受けなくてはならない。けれど、出久は悲しいことに知らない人と話すことは得意ではないうえ、クラスから微妙に浮いていた中学生活のせいでコミュ力はゼロとなっていた。そのせいで正史より、インタビューに対して消極的で緊張していた。
しかし、
「行くしかない。」
学校には行かなくてはならない。"個性"をこんな街中で使うわけにもいかない。つまり、報道陣の中を通らなくてはならないのだ。そもそも、ヒーローになったらインタビューを受けるのは当たり前で怖がってはいられない。
「オールマイトの授業はどうでしたか!?」
校門の方に近づくと思っていた通りに出久は報道陣に囲まれた。しかも悲しいことに、登校時間として遅くはないが通学ラッシュは過ぎており生徒もまばらだ。そのため"彼女"ひとりにマイクが集中している。
「えっと……。じ、実践的で、さすがはオールマイトって感じで……。」
なんとなくではあるが、言うことを決めていた出久は、いざ、マイクを向けられると何がなんだか、分からなくなってしまった。 緊張により頭はうまく回らなくなり、もはや"彼女"も自分で何を言っているのか分からなくなってしまっている。
そして、最終的に癖とも言える一瞬のお家芸が始まってしまう。ボソボソとオールマイトの情報だけを口から垂れ流し始めてしまう。情報は完璧だが報道陣が求めているのはそんなコアなものでは無い。
『出久!? しっかりして! 適当に返事して通り過ぎれば良いんだよ! 記者たちも無視には慣れてるから!』
そんなユイの声は悲しいかな、半ばパニックの出久の耳には入らない。仮に用事などがありここから離れなければならない理由があれば別だったかもしれないが、授業が始まる時間まで20分以上の時間がある。嘘のつけない"彼女"にとって最悪な状態だ。
けれど、そんな状態の出久の横に長身の男子生徒が少し早足でやってきた。彼は制服の上からでも分かる鍛えられた肉体をもち、そのうえ長身であるため『大きい』や、『広い』という表現がしっくりとくる体格をしている。けれど、そんな体格とは対照的に明るく笑いながら、出久の肩に優しく手を置いた。
「アハハハ、オールマイトの授業か、最高峰のヒーロー科って感じがしますよね。」
そういうと、一瞬、笑いを止めて出久の方を見た。"彼女"も彼の方を見ると目が合う。
(あれ? この人どこかで?)
出久は彼がどこかで見たような気がした。直接あったことなんて無いはずなのだが、見覚えが確かにある。
「えっと……。貴方は?」
記者たちは出久へのインタビューに乱入してきた男子生徒にマイクを向け、そのうち1人の女性アナウンサーが質問を投げた。もし出久なら緊張してしまう状況だが、男子生徒は全く気にした様子なく口を開ける。
「通形ミリオ、雄英高校3年生です。 えっと、サー・ナイトアイ事務所でヒーローインターンをさせて頂いてます。はい。」
サー・ナイトアイ。
その名を聞いて出久も含めた数人だけが目を見開いた。オールマイトのファンや、ヒーローに詳しい人なら聞いたことが無いはずがない。
オールマイトはサイドキックを取らないことで有名だ。しかし、そんな彼が唯一組んだサイドキックがサー・ナイトアイである。
「サー・ナイトアイ! あの、オールマイトの元サイドキックの?」
男性記者が少し声を荒げながら叫ぶように質問すると、男子生徒、ミリオは真剣な表情で
そんなおり、出久は手を掴まれた。
「通形が気を引いてくれてる間に学校に入っちゃおう。」
その方を見ると髪の長い女子生徒がいた。その声で辺りを見ると、確かに他の生徒達は報道陣から逃げるように学校に入って行っている。
しかし、ひとり報道陣に置き去りにするという生け贄のようなことは出久には憚られた。
「えっと……」
「大丈夫。彼はああいうの慣れてるから」
そう言われ、出久は女子生徒に手を引かれて雄英の敷地内に入った。雄英内に入ると報道陣はおらず外での騒動が嘘のようにいつも通りの風景が広がっていた。
そのことに安心して出久もユイも安心して一息つき頭を下げた。
「……えっと、助けていただいて、ありがとうございます。」
「ううん、ヒーローはお節介が仕事だからね! 私は3年の波動ねじれ! ねぇ! 君の名前はなんて言うの? その子は"個性"? ホンモノの動物みたい! 不思議!」
女子生徒は波動ねじれと名乗ると、出久の肩に乗ってるユイを撫で始めた。その突然な動きに出久は一瞬、戸惑ったがユイもそこまで嫌がっている様子はないのでとりあえず名乗ることにした。
「えっと、私は緑谷出久、です。 この子はユイと言ってて………。"個性"の一部みたいなものです。」
出久の自己紹介が終わるか終わらないかの瀬戸際で、ねじれはまたもや興味を引くものがあったのかユイを撫でるのを辞めて出久の後ろを指差した。
「ねぇ! あれって雄英バリアって言うんだって! 凄いよね!学生証とか無い人が入ろうとしたら自動で閉まるんだ! でも、まだ登校してない人がいたらどうするんだろうね? 不思議! 」
そう言われて出久が後ろを見ると校門の扉が閉まっていた。その扉の前にはミリオがいて小走りで近づいていた。
「波動さん。ありがとう。 君も無事に登校出来たんだ良かった。無事って言ってもただのマスコミだけどね。」
そんな彼を見ると出久はミリオにも頭を下げた。
しかし、ミリオなまったく気にしてないのか笑った。
「ヒーローはお節介が仕事だからね。気にしなくて全然平気!」
「ねー! 通形! それ私が言ったのと同じ! 知らなかったよね? 凄い偶然!」
「うん、ヒーローを目指すならだいたいみんな同じこと言うよね。 あ、そろそろ時間だから急いだ方が良いよ!」
ミリオがそう言いながら両腕をまるで走っているかのように高速で振る。その様子に少し出久は驚いたが、とても明るい人なんだとなんとなく察した。
「あ、はい!」
その後、出久は校舎の中で2人と別れていつもよりも遅めに教室に入った。思いのほか到着がギリギリになってしまったため"彼女"が着くとすぐに相澤が来てホームルームが始まった。
彼は昨日の戦闘訓練について注意すると、すぐに本題へと入った。
「では、今日は学級委員長を決めてもらう。」
「学校っぽいの来た!」
A組はそのツッコミと共に、一斉に手を挙げた。
学級委員長といえば、あまり率先してやりたがらない人が多いがヒーロー科では別で人気である。
『出久はやりたくないの?』
皆が手を挙げてる中、手を降ろしている出久にユイは聞いた。それに対して出久は周りに聞こえない程度の声で応えた。
「……うん、今は自分のことで精一杯だから」
学級委員長とはクラスをまとめる役だ。自分だけでなく、クラス全体を見て動かなくてはならない。その経験はヒーローだけではなく将来どんな仕事を目指すうえでも大切なものになるだろう。しかし、クラスの代表であるため責任も重大だ。今の出久は性の問題も含め、自分のことで手一杯だ。別段、意地でもやりたいって言うほど学級委員長にこだわりがあるわけでもなかったこともあり、あっさり"彼女"は身を引いた。
「多をけん引する責任重大な仕事だぞ! ここは、民主主義に則り多数決で決めるべきでは!」
皆が我先にと名乗りをあげる中、天哉はそう言った。右手を聳え立たせているところを見ると自身もやりたがっているのが丸わかりだが、それだけ真面目なのだろう。
しかし、これだけやりたい人がいれば皆、自分に入れるのは丸わかりだ。けれども、このままでは決まらないのも事実である。そのためなのか分からないが、相澤は多数決で決める事を了承し寝袋に入ってしまった。
(多数決か、誰に入れようか……。)
学級委員長だ。出来れば真面目な人が良いのだろう。真っ先に勝己を除外しながら出久は誰に投票すべきか考えた。しかし、出会ってまだ日の浅いクラスメイトの誰がリーダーに向いているのかなんて分からない。
「なら、飯田くんが良いのかな? 真面目な人だと思うし……」
『僕も同感かな、ほぼ初対面じゃ判断しようがないしね。』
誰にも聞こえない程度の小声でユイと話しながら出久は投票する人を決めた。
その結果、3票入った八百万 百が学級委員となった。その票は彼女自身と轟焦凍、そして天哉が入れたものだ。
「えっと、私に票を入れて下さった方、本当にありがとうございます。 学級委員長に選ばれたからには、誠心誠意努めさせて頂きます。」
百は少し嬉しそうにそう言ったのち、寝袋で寝ている相澤の方に向き直った。
「副委員長は、もう一度、私を抜いて先ほどの投票をしようと思うのですが、どうでしょうか?」
「………決まれば何でもいい。」
それを了承と受け取り、A組は百を除く19人により再度投票を行った。結果は天哉が2票で当選となった。この2票は焦凍と出久のもので、天哉自身は焦凍に票を入れている。
そして、その日は、昼の侵入者騒ぎ(教師陣が鎮圧した。)以外は大きな問題なく過ごした。
けれども、その日の放課後、構内に放送が流れた。
「yeahhhh! 1年A組の緑谷出久、応接室まで来るように! 急ぎでもないから、帰り支度を済ませてからでも構わないらしいぜ!」
けたたましく流れるその放送はすぐに誰がしゃべっているのかは誰にも分かった。けれども、それ以上にクラスでも出久と近しい生徒は少し驚いた。
「ケロ、出久ちゃん、何か心当たりあるかしら?」
梅雨が出久に問いかけるが、出久にはこれっぽっちも心当たりはない。どんなに考えても何も引っかからなかった。
「急ぎではないからといっても、待たせるのは良くありませんわ。」
百と梅雨と話しながら帰り支度をしている出久にそう言った。確かにその通りなので、急いで支度を済ませリュックを背負い応接室へと向かった。
◆
応接室、とは言っても小ぶりもので机を挟んで向き合う形に2人がけのソファがら2つあるだけだ。周りにはよくわからない表彰状や盾やらが並ぶ棚が置いてある。
そこに出久は憧れのヒーローであるオールマイトと向き合う形でソファーに腰掛けていた。
「よく来てくれた。 突然の呼び出し、済まない。私も教師としての職に就いたが、何かと忙しい身なんだ。」
「え? い、いや、その、め、めめ滅相もあ、ありません!」
憧れの人と2人(と1匹)きりという場面で、出久はもはや何がなんだかわからない状態になっていた。確かに、彼の授業を受けたがそれでも面と向かって話すのはこれが初めてだ。もはや、緊張しすぎて、全身は真っ赤に染まり、心臓が口から飛び出そうになっている。
「落ち着いてくれ、緑谷しょ……。緑谷くん。割と真面目な話なんだ。」
出久の性別に関しての微妙な立ち位置を知っていたための気遣いからなのか言い直した。しかし、緊張でガチガチな出久にはそんなこと伝わる訳がない。
オールマイトはユイに目線を一度向け、一拍置いたあと、話を続ける。
「君の"個性"は、魔法少女であっているかな?」
「は、はい。」
出久は頷くと、オールマイトは静かに目を瞑った。彼はできる限り出久のことを調べあげていた。その結果、出久自身の"個性"の発現が明らかに遅いことや、医者に無個性だと診断されていることなど、様々なことが分かり
「"契約獣"、という名の"個性"に心当たりは無いかな?」
"契約獣" と、オールマイトが口にした瞬間、出久、そしてユイの表情は変わった。唖然とも茫然とも異なる驚きの表情、それを見て彼は『当たり』だと確信した。
それに対して、出久はなんとか言葉を捻り出した。
「お、オールマイト。どうして、それを?」
「HAHAHA、私は仮にも平和の象徴。それくらいは知っているさ。
その言葉で、出久は確かにオールマイトならユイの存在に気がついていてもおかしくは無いな、と、思った。しかし、それに対して"彼女"の肩の上にいるユイは信じられないとばかりに首を振っていた。
(そう呼ばれ
オールマイトは
(もしかして……。うそだ。)
期待と不安、希望と絶望。全く相反する感情がユイの中で渦巻く。
どういうことなのか訊かなくてはならないが、聴くのは怖い。
だが、それでも、だからこそ、
(聴かないと……。自分で)
『出久、僕も話すよ。話さなくちゃ。少し力もらうね。』
「え? 良いけど、それって……」
ユイは肩から机へと飛び降りると、弱い光を一瞬放つとひと回り大きくなった。
(ケルベロスモード・0.5%)
彼は契約者から与えられているエネルギーを糧に生きている。普段は日常生活に必要な分だけだが、その量を増やせば肉体の強化・変化など、能力を向上させることも可能となる。しかし、
「……大丈夫なの?」
「うん、話すくらいなら問題ないよ。それに、僕が話さないといけないと思うんだ。」
ユイは実際に声を出してそう言った。しかし、彼の声を初めて聞く出久ではあるが普段のテレパシーにも似た声とさほど大差がなく不思議と違和感が無かった。また、ユイへと供給しているエネルギーはたいして増えていないことや、そもそもケルベロスモードを使ったところなど見たことがないため、ユイの問題ないという言葉を信じた。
「オールマイト、僕が"契約獣"。出久と契約し、魔法少女にした存在だよ。はじめに言っておくと、僕も出久は関係ないし。ましてや
ユイは少し警戒したように言う。自身のようなよく分からない存在をヒーローが放っておくわけが無い。下手をすれば出久の身にも何か起こるかもしれない。そう考えたユイは少なくとも出久にだけは迷惑をかけないように、と、考えたのだ。
「……心配しなくても大丈夫だ。私は君たちに味方さ。"契約獣"、いや、ユイくん。君は
「……間違いないよ。僕はヤツに作られ、ヤツを倒すためにここまで生きながらえてきたんだ。」
そう言うユイにオールマイトは「そうか」と、短く相槌を打ちを打った。そして、どこまで話すか、と、頭を巡らせた。
奇しくもユイと
(だが、ヒーローとはナチュラルボーンであるべきだ。この秘密を明かすわけにはいかない。)
「…………単刀直入に言うと。君の敵はもういない。私が5年前に倒した。君は、すでに、
「………………」
数年前からそんな予感はしていた。オールマイトの話が始まった段階で覚悟はできていた。けれども、いざ、面と向かって言われてみるとかなりこたえるものがあった。100年もの間生きる目的だったものが崩れ落ちたのだ。そこには絶望も喜びもなく。ただ、清々しいほどになにもなかった。
「————そうか、そうだったんだね。ありがとう、オールマイト。これで、出久を最後に僕は終われる。」
ユイは心の底からそう言えた。
天喰
彼は作者の技量的に登場人物を増やすと回せなくなるので出せませんでした。すいません。ヒーローインターン中です多分?
ミリオとねじれはインターンの合間を縫って登校。