東方半妖録 作:名無しの天狗
――あつい。
頭痛が酷い。身体中が熱く、それに寒気もする。更には節々まで痛みがあった。
俺は知っている、これは……。
「インフルエンザだぁ……」
思いの外かすれた声が出た。それと同時に襲いかかってくる喉の痛みに涙が出そうになる。
周囲を窺えば家の中の様だが土間しかなかった。てっきり病院にでも担ぎ込まれたと思っていたのだが当てが外れた。
自分は土間に敷かれた筵と藁に包まれていたみたいだ。辺りは薄暗く扉の隙間から洩れる光が唯一の光源だった。
俺は光に吸い寄せられる虫の様に怠い身体を引きずり、その扉までたどり着いた。
そして扉を開けるとそこは、雪国だった。
――は?
何で! 辺り一面!! 雪が降り積もってるのさ!? さっきまで真夏だったよねぇ!? そもそも普通は起きたら病院のはずだろっ!!
いけないいけない、少々興奮し過ぎてしまった……。
あれは結構な大怪我になると思ったんだけど、病気的な体調不良以外、特に違和感は感じない。
疑問に思い身体を見下ろしてみると、目に入ってきたのは身に纏った記憶の無い粗末な着物と子供の様に小さな手足だった。そして振り返った先には見慣れない建物。でも知ってるよ、堅穴式住居だっけ? 昔授業で習ったな……ハハッ。
あぁ、真っ白な雪が目に痛い。
視界の隅で駆け寄ってくる女性を認識しながら、俺は意識を失ったのだった。
まぁ、なんというか、俺は所謂転生というやつをしたみたいだ。
あの後、三日ほど寝込んでいる最中に出した答えがそれだった。病気や怪我等の命の危機に陥った事により前世の記憶を思い出す、というよくあるパターンだ。
因みに倒れる直前に駆け寄ってきた女性は今世の母親だったみたいだ。その後もそこそこの頻度で看病してくれている。
まともに動けない事もあり、藁に埋もれながら記憶の整理をする時間は十分にあったのだ。
まだ前世を思い出す前の自分の記憶を掘り起こす。
今世の名前は緋緋金(ひひがね )焔(ほむら)。年齢は未だ十にもなっていないだろう。容姿は鏡が無いので直接はわからない。ただ、よく似ているといわれる両親からの推測だが、瞳は父親譲りの朱金だ。赤熱した鉄の様な赤とも金ともとれる色合いで、よく母親にほめられた記憶がある。髪は母親譲りで、鍛えられた鋼の様な黒とも銀ともつかない色合いをしている。普段の生活は両親の仕事の手伝いをしつつ家事全般をこなしているようだ。
そして両親の名前だが母親は緋緋金 色(しき)で父親が緋緋金 炎浄(えんじょう)だ。二人とも職業鍛冶屋の鍛冶馬鹿だ。一度鍛冶場に籠ると平気で数日出てこないみたいだ。
そのせいか幼い自分が家事全般を担うことになっていたのだ。
それから母親は種族人間で父親は種族妖怪(鬼)だそうだ……そう、種族鬼。この世界には妖怪が存在している。そしてそんな両親の間に産まれた俺は種族半妖(半鬼)といったところだろう。
そっかー、自分純人間じゃなかったのかー。
……ま、まぁ身体が丈夫なのは良いことだよね!
無理矢理前向きに考えるが、そこそこ目立つ容姿をしているし差別とかされたら嫌だなぁ……。
因みにこの世界についてだが一応日本だ。そもそも喋っている言語が日本語だし。
時代については母親の寝物語で聞いた京の都のきらびやかな貴族の生活や、羅生門に鬼が住み着いているという話しから平安時代後期辺りだと推測できた。
また、少し山々に踏み入れば妖怪などという謎存在が跋扈しているし、自分もそいつらの領域に片足突っ込んでいるわけで……。
それれらの事を踏まえるとただの時間の逆行ではなく、パラレルな感じの日本に逆行転生したのだと推測できた。
あー、頭痛くなってきた……。
まだ完治というわけではないのだろう。考えるのは止めてもう一眠りしようかな。
では、お休みなさい――。