東方半妖録 作:名無しの天狗
「お母さーん! ご飯ここでいーい?」
作業中の母さんが気が付くようにと大声でご飯を持ってきたことを伝える。因みに俺の手作りだ。
ボタン1つで温めができてしまう便利な現代に生きてきた俺は竈の扱いすら最初はままならず、かなり苦労したものだ。だが最近はなんとか一人でも料理をこなせる様になってきたのだ。
「おー! ありがとうほむら!」
母さんも声を返してくれてはいるが、実際は俺が何処にご飯を置いたのか分かってないだろう。作業の手を止めることも無く、視線だって手元から外さない。
相変わらずの鍛冶馬鹿だ。
といっても記憶が戻ってから早三年、俺も立派な鍛冶馬鹿になってしまったわけだが……。
記憶が戻り前世の事とか色々と整理がついた後、俺は両親に対して鍛冶の手伝いをもっとしたい、鍛冶を教えてくれ、とお願いをした。
しょうがないだろう? 刀は全男子の憧れそのものなのだ。学べる環境が目の前にあるのに突っ込んで行かないなんて嘘だ。
女が鍛冶なんて! と怒られないか少し心配したが特に反論も無く了承された。
よく考えたら母さんも鍛冶屋だ、父さんに至ってはそもそも人間の考え方など些末事であり、何も感じていない様子だった。
というか母さんが父さんと一緒になったのはその辺りが原因らしい。
なんでも母さんは中々大きな鍛冶師一門の姫様だったらしい。しかし女だからという下らない理由で鍛冶ができない事に腹を立て、大喧嘩の末家出したらしい。
そんな折、刀剣の魅力に取り憑かれたが鍛冶の基礎も道具も伝も無く、村の近くの山に居を構えている鬼(父さんの事だ)がいるとの噂を聞き、その家に押し掛け女房の如く鍛冶道具一式を背負って押し入ったらしい。
そしてそのまま既成事実(俺の事だ)をつくり今に至る……との事だ。
そんな大恋愛? があった様だが今でも実家の村に買い出しに行く程度には交流が続いているみたいだ。
そんなこんなで俺も鍛冶師としての一歩を踏み出したのだった。
「文句があるやつは実力で黙らせればいい!」は母さんの言だ。
俺もそれに倣う様に二人の技を学び、模倣し、工夫を凝らしている。
そうやって技術や発想を高め、理想を実現せんと邁進する毎日。それはとても充実して、楽しく幸せな日々だった。
ずっとこんな日常が続けば良いのに……そう思ってしまうのも無理からぬ事だった。
だがしかし、日常というものは時に簡単に崩れ去るのだ、それも酷く呆気なく。
俺は最後の最後までそれに気付かずにいたのだった……。