東方半妖録 作:名無しの天狗
時が経つのは早いもので、あれから150年の月日が流れた。
……爺さんが逝ってしまってからは約一世紀だろうか。
爺さんが逝ってしまった後、俺は特に信念や目標も無く惰性で修験道の修行を続けていた。
途中ボロボロになっていた白髪の少女を拾って世話した事もあったっけか。まぁ、見た目に反して健康体だったのだが……。
見た目が痛ましかった事もあり、過去の自分を重ねてしまっていたのだ。それで少々構い過ぎてしまい、最後は喧嘩別れしてしまった。
最後まで自分の方が歳上なのだ言い張っていたっけ? 見た目は確かにそうだが妖怪の俺の方が歳上に決まっているのだ。子供は大人しく世話されるべきなのだ。
懐かしいな……あの娘はどうなったのだろう? 願わくば最後は孫に囲まれて逝く人生であって欲しい。
そして案の定というか、なんというか、俺は天狗としての一面を手に入れていた。
天狗は誤った修行を積んでしまった僧が成るという。
そういう意味では爺さんは正しい修行を積めたのだろう、人として生きて死ぬことができたのだから。
朝起きたら辺り一面に黒い羽毛が散らばっていたりしたら流石に察する。
そんでもっていつの間にか黒い翼を自在に出し入れ出来るようになっていた。ただ初めて意識して出した時は服ををぶち抜いて生えてきたせいで一張羅が台無しになってしまった。
流石に勿体無かったので切って繕い直したのだけれど、どこぞの魂魄世界の隠密の総司令官が着るような背中丸出し衣装になってしまった。
背中に直接風を感じられて気持ちがよかったのだが人前に出るのは流石に恥ずかしいので今は改良して翼を出すための切れ込みが入った衣装にしてある。
子供の身体だからなのか鳥だからなのか体温高くて運動してると熱っついのよね。
でだ……現在俺は山登りをしている最中である。その理由だが、自らの同族である天狗を探しているのだ。
里で聞いた話ではこの山には数多くの天狗が過ごしているらしい。流石に人間の知り合いも皆逝ってしまい一人で修行をするのも飽きてきたので俺も仲間に入れてもらえないかなーっと思い立ち天狗の里を探しているところなのだ。
……それにしても森深い山だな。
複雑に絡み合った木々のせいで迂回やら登り降りやらでまだ裾野なのに方向を見失いそうだ。
意識を逸らすための迷いの結界もいくつか越えたしそろそろだと思うのだけど……。
「そこで止まりなさい!侵入者!!」
そうしていると突然、空から厳しい制止の命令が降ってきた。声からしてかなり若い女性のものだ。
おー、思いの外早く見つけてもらえたな。
見つかる様に動いてはいたけどそれでもこの広い裾野を隈無く警らしているとは流石の組織力。妖怪の中では珍しく、階級社会をつくりあげて辺り一体を支配しただけはある。
それにしても女の天狗とは珍しいな……自分で言うのもなんだけどさ。
脚を止めて声のする方を見上げると、一人の烏天狗が舞い降りてきた。
その烏天狗は山伏の衣装に似た簡素な着物に黒の法衣を纏いながらも品のある小物を幾つか身に付け、朱塗りの一本下駄を履いている。
それなりの階級にいるのか女性としての身嗜みなのか……どちらにせよこの時代からしたらかなりのお洒落さんだとわかる。
良く手入れされている濡れ羽色の髪に美しい翼、白磁の肌に花を添える石榴石の如き暗赤色の瞳と桜色の唇。パーツ一つ一つの造りもさることながら顔全体の造形も整っていて文句無しの美人さんである。
その凛とした佇まいは正にしゃめい…………? アイエエエ!? 射命丸 !? 射命丸ナンデ!?
何で射命丸がいるの!? いや、まぁ妖怪が存在している時点でただの逆行転生じゃないのは何となく解ってはいたけど……東方の世界かよっ!
「そこの娘、何を呆けた顔をしているのですか。質問に答えなさい」
「質問……?」
やばいリアル射命丸という衝撃に脳が機能していなかった。
「はぁ……何用があってこの山に侵入したのかと問うているのです」
あ、そゆこと。
面倒臭そうにしながらも職務に忠実な文ちゃんマジ天使。
「我が名は緋緋金焔! 奈良の山中にて産まれ、山伏の修行をへて天狗へと至った者! この山に天狗の里があると聞き参った次第である!」
ちょっとうるさいかもしれないけど最初の自己紹介はしっかりやらないとね!
「天狗……お前が?」
うわっ凄い疑ってる目だ。
翼を見せれば納得してくれるかな? でもいきなりだと示威行動として叩き斬られそう……この文ちゃん容赦無さそうだし……。
「あー、いたー!」
どうしようかと頭を悩ませていると、空から声と同時に新しい天狗が降りてきた。
……って!はたてさーん!姫海棠はたてさんじゃないですかっ!
……射名丸と違って警備とかできるような服装じゃないな。布地も多くて刺繍もしてあるしお姫様って感じだ。
「いきなり視界から消えないでよ文! ……で、このちっこいのは何?」
「成り立ての天狗みたいですが……どうやら仲間に入れて欲しいみたいですね」
いや、一応天狗としての一面を得た時から能力の使い方を習熟すべく修行を重ねてきたわけで、成り立てというわけじゃないんですけどね……。
上手く飛べない天狗とか恥ずかし過ぎるし練習するでしょ。
「ふーん……まぁいいんじゃないの?」
「そんな安易に……」
お? これは良い流れだ。ここで自分を売り込まなければ!
「一生懸命頑張りますのでどうか!」
秘技! 土下座!
「お前の様な小童に何ができるというのですか? 保護を求めるだけのお荷物になるだけでしょう。お前が我々にもたらすものなど何も有りはしない」
「いえいえいえっ! 私、武具の扱いには一家言ありまして! 製造から保守整備まで、より良い環境を提供できる自信があります!」
マジかよ、俺の土下座気にも留めてねぇし……。
だがしかし! 武具、特に刀剣についてはそんじゃそこらの職人に負けるつもりは毛頭無いのだ。
旅の最中でも鍛冶屋を騙くらかして何度か刀を打っているが、やはり自分の拠点をもって年中刀に触れていたいのだ。そうなれるチャンスを見逃す俺ではない!
「ふんっ、賢しい人間の考えそうな事です。どうせ前線に出るのが嫌で言っているのでしょう? そもそも大切な装備を使えるかどうかも分からない新入りに任せるはずがないでしょう?」
えー……ちょっと厳し過ぎない?
「そもそも人から転じたという時点で選考外なのです。どうせ永い時に耐えきれず壊れて討伐されるか、その辺の野良妖怪に喰われて死ぬのが落ちです。解ったならとくと失せなさい」
よ、容赦ねぇ……。
純正の妖怪にとって人から転じた妖怪は不純物が多すぎるのだろうか? 確かに見下すのも解る……が、ここで負けるわけにはいかないのだ! 俺のより良い鍛冶師ライフと東方ライフのためにも!
「お待ちください! こちらは私が鍛えた刀にございます! どうかお受け取りください!」
一応売り込み用にと、最近打ったなかではなかなかの出来の刀を持ってきたのだ。
「ほう? 見せてみなさい」
俺の打った刀を射名丸が抜き放ち見聞していいる。その横からもはたてが興味深そうに観察している。
「ふむ……」
「へー、いい刀じゃない。刃文も綺麗だし家に飾ってあるのにも負けないかも」
格好からして薄々そうじゃないかと思ってたけどやっぱり良いとこのお嬢さんだったか。
というかこれと同じ位の刀があるのか。仲良くなったら見せてもらおう。
「まぁ、いいでしょう……付いてきなさい」
よっしゃ! 勝ったッ! 第3部完!!
取り敢えず仲間に入れてもらえるみたいで、拠点へと二人に続いて空を飛んでいる。
一応大天狗の許可が必要みたいなのだが、そんな末端の人事には興味が無いらしく現場でほとんどの事が決められているらしい。今回は有り難いけどそれはそれで組織としてどうなのだろう? まぁいいか。
そういえばずっと気になっている事があるんだよね。ちょうどいいし今聞いてみようかな?
「ところで御二人はどういう関係なんですか?」
武家の娘の様な雰囲気の射名丸と華族のお嬢様の様な雰囲気のはたて、接点が無さそうだけどどんな風に出会ったのか気になるのよね。
「んー? 文との関係かー……あれかな、お世話係的な? 確か私が天狗として初めての任を授かった時に、同じ位の年頃で一足先に任に就いていて有能だった文を親が引っ張ってきた」
「私は姫海棠家の様な昔から続いている名家の産まれではありませんからね、特に理由が無ければ拒否出来ませんから仕方なくです」
成る程成る程、そういう感じだったのね。それがこれから千年続く縁になるのだから人生分からないものだ。
「無駄口叩いてないで行きますよ、遅れてもそのまま置いていくのでそのつもりで」
ハーイ!
ひどく単純な話ではあるが、こうして俺は再び生きる意味を見出すのだった。
……余談だけど二人の後ろを飛んでるとはいっても、この時代はまだ袴みたいなのを着ていたのでスカートの中は覗けませんでした残念!