けものフレンズR 星色の記憶   作:檻人

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けもフレ一期とSBR見返してたら遅くなりました。そして戦闘回だから全然けもフレっぽくないです。許してくださいなんでも(ry



デイ・トゥ・リメンバー その②

 あまりにもリビングが薄暗いので壁際のスイッチで照明を点ける。すぐそばに掛けられた時計を見ると、針はそろそろ六時を指し示そうとする頃だった。

 リビングにたどり着いたあたしは周りを見回す。

 他のお部屋を探ってみても誰もおらず、誰かが隠れているとしたらもうこのリビング以外には考えられなかった。

 けれどもそんなあたしの用心とは裏腹にお部屋には誰の姿も見当たらない。リビングと繋がっているキッチンも同じだった。

 そもそも、既に玄関の扉は開いていた。家にいた誰かはもう、外へ出ていってしまったらしい。

 窓の向こうではざぁざぁとそれなりに強い雨が降り始めている。お部屋が急に暗くなったのは、時間だけでなくこの雨のせいでもあったんだろう。

 イエイヌちゃんが言うにはこの時期、このちほーではよく雨が降るそうだ。

 

「この雨の中で風邪を引かないといいんだけど……」

 

 閉じ込められるという憂き目に合わされたものの、流石にこの天気の中を出ていったと思うと同情してしまう。

 でも一体どうして、あたし達にあんなことをしたんだろう?

 イエイヌちゃんがああなってしまったのは誰かのせいというよりは、何かの病気のせいだと思うし、そうなると相手はイエイヌちゃんを丁寧にベッドに寝かせてくれたということになる。

 しかしそうなるとやっぱり、閉じ込められたことへの合点がいかない。

 

「うーん、考えても仕方ないね。今はまずイエイヌちゃんを看病することを一番に考えよう」

 

 とりあえず開いている玄関の扉を閉めなきゃ。雨の勢いも強いし、このままだとお部屋が濡れちゃうからね。

 小脇に抱えていたスケッチブックをテーブルに置き、玄関の扉のノブに手を掛けようと近付いたところで、あたしはあることに気がつき足を止めた。

 

 ──なんか、扉の開き具合が小さくない?

 

 外開きの扉は隙間から外の様子をやっと窺えるくらいにしか開いていない。誰かが外に出ていったなら、もっと大きく開いていてもいいのではないだろうか?

 もちろん、誰かが出ていった後に反動で扉が閉まった可能性も十分にある。でも、そうだとしても、扉が殆んど濡れていないのは不自然なんじゃあないの?

 扉の隙間から上の方を覗いてみる。

 やっぱり、この家の玄関の外側にある庇の部分はとても短い。これだと誰かが外に出られるくらいに扉を開けたとき、その大部分は必ず庇からはみ出してしまい雨に濡れる筈である。

 けれどもこの扉はまったくと言っていいほど濡れていない。なぜ?

 玄関の扉を閉めてもなお、あたしはその場から動かず考え込んだ。

 

 ──雨が降る前にその誰かは出ていって、雨が降る前に扉は閉まってしまったから? それとも、その誰かは扉を開けてはみたものの、ここからは出られないと気付いたから扉を開けきらなかったということ? この雨のせいで?

 

「あれ、もしそうだとすると、このおうちの中にはまだ──」

 

 あたしがとある可能性に思い至った時、リビングの照明が突然切れた。外から差し込む光がある為に完全に視界を失うことはないものの、厚い雨雲に遮られた夕刻の光量はあまりにも心許ない。あたしは慌てて照明を点け直す為にスイッチのある壁へと向かう。

 薄暗いので足下に気を付けながら進み、なんとかスイッチのある壁にたどり着く。

 そして明かりを点け直そうとスイッチへ手を伸ばしたあたしの手は、こつんと何か固いものに触れた。

 不思議に思いよく見てみると、何か透明なものがスイッチの上に覆い被さってガードしている。

 

「これって、ガラスのコップ? あれ、なんだこれ! 壁にぴったりと張り付いてて取れないよ!?」

 

 まるで吸盤のようにぴたりとスイッチに張り付いたコップは押しても引いても揺らしてもびくともしない。

 

「まさか……!」

 

 暗がりの中、更に目を凝らしコップを観察する。コップと壁の境目にはあの、文字の入った奇妙なテープが貼り付けられていた。

 

『keep in! keep in! keep in!』

 

「間違いない! やはり『誰か』はまだこのおうちの中にいるッ! そして今再びあたし達を閉じ込めるつもりなんだッ」

 

 背中を壁に張り付け背後をカバーする。スイッチは廊下のドアのすぐ近くにあり、その為に今あたしがいる位置からはリビング全体を大まかに見通すことができる。

 そして周囲を見回そうとするも、明かりの消えたリビングは薄暗く全体をくまなく見通せているか自信が持てない。けれどもこの家は、人が身を隠しながら色々と動ける程広くはないのだ。しっかりと注意を払っていれば、必ず相手を見付けられる筈。

 

 ──でも、さっきリビングに入った時に確認したけど、誰もいなかったよね?

 

 いや、きっとあたしの探し方が甘かったせいだ。だからもう、油断さえしなければ……!

 そうしてリビングの隅々を見回したものの、視界に現れるのは壁際に置かれた家具と、部屋の中央に置いてあるちょっと大きめのテーブルだけ。もちろんテーブルにも椅子にも、その下に誰かが隠れてなんていない。今あたしがいる所からは完璧にテーブルと椅子の足の向こう側が見通せている。

 家具もまた、壁に沿うようにして並べられているので遮蔽物としての役割はまるで果たしていない。

 一番怪しいベッドの下は念入りに確認してみたけれど、残念ながら誰もいる様子はなかった。

 最後にここから唯一の死角になっているキッチンの方を覗いてみる。しかしここにも誰の姿も確認できない。カウンターの影に隠れてリビングから身を隠すくらいのスペースしかないこの空間に他の隠れ場所があるとも思えなかった。

 

「そんな……隠れる場所なんてないはずなんだけどなぁ……?」

 

 コロン コロン

 

 ふと、どこからともなくコップが足元へと転がってくる。ハンカチで蓋をされたそのコップにはやはり例のテープが巻き付けられていた。

 そしてそのコップの中には、何かが入っている。屈んで手に取り確かめてみると、それは人差し指程の大きさの小さなヒトの人形であった。

 

「一体どこからこんな……きゃあっ!?」

 

 コップの人形に気をとられた刹那、頭上から何か大きな物が覆い被さってくる。

 それはあたしをすっぽり包み込んでしまえるくらいに大きな布のようなものだった。そしてそのまま、あのテープがしゅるしゅると布の内側へと入り込んでくる。

 

「まずいッ! このままだと床と布の間に閉じ込められる!?」

 

 必死の思いで布を振り払い、浮き上がった布の隙間から滑るようにして間一髪脱出する。布はそのまま床にぴったりと張り付くようにして広がり落ちると、テープにより完全に封をされてしまった。

 

「て、テーブルクロスだ……テーブルクロスを上から被せて床に蓋をすることで、その中にいるあたしを閉じ込めようとしたんだ……!」

 

 テーブルを見ると、先ほどまで掛けられていたテーブルクロスが無くなっていた。

 いつの間にあんな大きな物を動かしたというのだろう。しかもただ動かしたのではない。それをあたしの頭上まで運び、落としてきたのだ。

 何よりもそれだけ大胆なことをされたのに、リビングで動く人影のようなものは全く確認できなかった。

 ここまでされるともう、暗くて見逃したとか確認が甘かったとか、そんな単純な理由では説明できない。

 

「『閉じ込める』だけじゃあない! この相手にはそれ以外にも何か、隠された物があるッ!」

 

 正直、かなりマズいと思う。相手がどのようにしてこの広くないリビングで神出鬼没の振る舞いをしているのか全く見当がつかない。

 もういっそ、イエイヌちゃんの側にいられるなら閉じ込められてもいいんじゃないのかな?

 

 ──いや、それはダメだ。いつまで閉じ込められるかも分からない状況に、熱で苦しんでいるイエイヌちゃんを置いておくことなんてできる訳がない!

 やっぱり何とかして相手を見付けて、この行為を止めてもらわないとダメなんだ!

 

 それに、ここまでに至るまでの諸々で分かった。相手は多分、あたしが今ここで何を言っても閉じ込めようとするのを止めないだろうって。

 ハッキリとは言えないけど、この行いからは『物凄く必死な何か』を感じる。もう目の前の目的を遂げることだけしか見えなくなって、立ち止まることが出来なくなってしまっているのだ。

 このパークにあたし以外にヒトがいない以上、きっとこの相手はフレンズに間違いない。

 あたしはまだこのジャパリパークにどんなフレンズ達がいるのか知らない。その子達がどんな考えを持っているのか、どんな生き方をしているのか、一つも分かっていないのだ。

 けれども、イエイヌちゃんが教えてくれた「どんなフレンズでも、フレンズ同士、そしてヒトと友達になれる」というかつてのパークの姿を思い起こさずにはいられなかった。

 

「あなたにどんな事情があって、どういう理由でこんなことをしているのか、あたしは知りたい。そして、あなたが困っているのなら力になってあげたい。だって、このジャパリパークはみんなが友達でいられる場所なんだもん!」

 

「だからあたしはこれから、あなたを見付けにいく! この奥の部屋で苦しんでいるイエイヌちゃんのために、そしてあなたと友達になるために!!」

 

 そう呟いてあたしはテーブルの上から床に落ちていたスケッチブックを手に取る。そのそばには先ほどイエイヌちゃんと一緒に開けたバッグもあった。

 そこから鉛筆を取り出し、スケッチブックを開く。

 そして真っ白なページの上に迷うことなく筆を走らせた。

 

「『デイ・トゥ・リメンバー』! あたしがここに描いた絵は紙を飛び出して、現実のものになるッ!」

 

 紙面に描かれた絵はまるで切り抜かれたみたいにして紙から浮き上がり、膨らみ始める。平面が立体へと、まるで「水が液体から固体へと変わるように当然だ」と主張するように、空想が現実へと置き換わっていく。

 そして現れるかつて絵だったそれは、この部屋を包み込む薄暗い影の帳を貫く眩い光を放出する!

 

「不思議な気分……『覚えていないのに知ってる』なんて…… 普通は物凄く違和感だらけで不快な感じになるのかもしれないけれど、今はとってもありがたい。おかげでこの薄闇を切り開くことができたッ!」

 

 あたしがスケッチブックへと描き出したのは一個のランタン。

 薄暗い中で描き出したそれに、このリビングを照らし出すだけのパワーが備わっているかは賭けだったけれど、どうやらこの様子では大成功みたい。部屋の照明に負けず劣らず、リビングをはっきりくっきりと光で満たしているんだから。

 

 そして──ランタンが浮かび上がらせたのは、本来の部屋の姿だけではなかった。

 ランタンを持つ左手の袖に何か、灰色の粉のようなものが付着している。よく見ると左手だけじゃなく、右手側にも同様にそれは付着していた。

 いや、袖だけじゃあない。その灰色の粉はあたしの着ている服全体にまるで振りかけたみたいに薄くかかっている。

 

「これにもだ……あたしの服から、というよりはきっとこっちから、あたしの服にくっついたんだ」

 

 先程あたしを襲ったテーブルクロスも、同じく灰色の粉にまみれていた。他にも何か綿のようなものが所々に付着している。これは間違いない。

『埃』だ。

 なんでこんなに沢山の『埃』が? テーブルから運ばれる途中で床にでも引き摺られたのかな?

 いや、あのイエイヌちゃんがそんな目に見える所の掃除を適当に済ませている筈がないよね、ありえない。

 じゃあどこでこんな汚れが付いたのか。

 

 改めてリビングを見る。

 テーブルのそば、つまり部屋の中央から見回してもやはり誰かが隠れている様子はない。

 けれども床の所々に、微かにではあるが埃が落ちている箇所があった。

 ピカピカに磨かれた床の上に、まるで湧き出てきたかのように埃が存在している。

 

「やっぱり変だ。砂漠のまっさらな砂の上にひとつだけ『足跡』が付いてるみたいに、この『埃』の落ち方はおかしいよ。周りがこんなに綺麗なのに、ここだけ汚れてるなんてのは……」

 

 そう言い掛けた時、あたしの頭の中で閃光が走るかのような感覚が起こった。目まぐるしく頭の中で可能性が浮かんでは消えていく。

 右手の拳を握り、親指の先を人差し指の付け根に置いてスイッチを押すようなポーズで唇に寄せる。なんだか分からないけれど、こうしていると考えがまとまる気がするのだ。

 そうして徐々に、とある一つの仮説が急速に形を成していく。

 

 そんなこと、ありえない。

 でも、もしかすると、フレンズならばあるいは。

 

「まさか、あなたが今いる場所って──」

 

 ボコッ! ボコッ!

 

 何かが膨れ上がるような音が聞こえた。

 すぐさま音の出所を確認すると、そこには鍋が一つ置いてあった。

 置いてある所は、確か、リビングに面したキッチンのカウンターだ。

 よく見てみると、その鍋の下には何か黒いシートのようなものが引かれている。

 

 なんだろう、あれ。

 

「ーーーーッ! あ、あれはッ 電磁調理器だ! 鍋を電磁調理器で加熱しているのかッ!? でも一体、何を暖めているんだ?」

 

 ボコッ! ボコッ! ボコッ!

 

 と更に膨れ上がる音が大きくなる。

 そして次第に鍋から煙のようなものが立ち昇っていく。臭いはしないし、炎も出ていない。どうやら煙じゃあないようだ。

 じゃあ、あれは何?

 気が付くと、額にじっとりと汗をかいていた。いや、額だけではない。手や脇や、背中に足。全身の至るところに汗をかき始めている。

 なんだか急にじっとりとしてきて気持ちが悪い──あっ!?

 

「まさかあれは、『水』を煮立てているのかッ!? 立ち昇るあの白いのは気体化した水──湯気!!」

 

 でも、なんでこんなことをする必要があるの? 一体この行為に何の意味が……

 疑問に思うのもつかの間、キッチンカウンターの表面が真っ白に曇り始めていることに気が付く。

 空気中に溢れた水が冷えて結露し、付着した物体の表面で再び水へと戻りだしたのだろう。極々微小な水滴は肉眼では粒の区別が付かず、まるで白い布を被せられたかのように白く──

 

 シュルリ、シュルル

 

 その、白い表面を覆うようにして、あのテープがキッチンカウンターに貼り付いた。

 

「な、何ィーーーーーー!? こ、これはどういうことだッ!? このテープは何かを『閉じ込めて』それを固定する能力! そういう『ルール』の筈ッ! 無差別に貼り付いて固定できるような、そんな強力なものだったというのか!?」

 

「いや違うッ この『水滴』だ……これを表面に隙間なく付着させることによって『閉じ込めて』いるんだ。物体を薄い薄い水の『膜』の中にッ! ……ハッ!?」

 

 よく見ると既にキッチンカウンターだけではない。周囲の壁、天井、冷蔵庫に電子レンジに流し台や食器棚。キッチンにある諸々がテープにより覆われ、封じられている。

 そして次第に次第に、テープはこのリビングにまで広がり始めていた。湯気の広がりと共にこのテープはその領域を広げているのだ。

 

「クソッ! 外は雨ッ! だからこのおうちの中で発生した水は湿気として外へ抜けていく量よりも、内部へと籠っていく量の方が多くなっているんだ! ま、まずい……このままじゃあこのリビング全てが湯気とテープに『閉じ込められて』しまうッ!!!」

 

 絶体絶命──誰が見てもそう答えるであろう超危機的状況。

 そんな中にあたしはいる。その筈なのに、どうしてだかあたしは笑みを浮かべた。

 でも決してこれは、自棄になった笑いでも嘲りの笑いでも、この危機的状況そのものを楽しんでいるような笑いじゃあない。

 

「この笑みはきっと、『楽しみへの予感』の笑み。この状況のお陰であたしは、これから直ぐに『あなたを見付けて友達になれる』って確信できたからね!!」

 




スタンド名:アローン・イン・ア・ルーム
本体:?
【破壊力 - E / スピード - E / 射程距離 - C / 持続力 - A / 精密動作性 - E / 成長性 - E】
箱状の本体から引き出されるテープを貼り付けることで空間を『密閉』することが出来る。
ただし空気だけは普段から通すようにしている。そうしないと、相手も自分も窒息してしまうからだ。
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