保健室での手当を終えた俺は、教室に向かう途中で誰かの声が聞こえた。
「─レン─た───て」
おそらく幻聴だろう。
そう思ったが、その声は尚も続く。
「エレン……助けて……」
これは……ただ事ではないな……
俺はふとある事に気づいた。
この特徴のある声、これは────────
───────母さんの声だ!
これは大変な事なのではないのか……
確証はないが、妙な胸騒ぎがする。
心臓の動悸が止まらない……
急がなければ、そう思った俺は教室へ向かう反対の方向へ向き走った。
学校を出ると、いつもの通学路に通り過ぎる人々、いつもの平和な日常だ。
母さんはいつもの様に家で家事をこなしているはずだ!
きっとそうに決まっている!
しかし、謎の焦燥感が俺をさらに緊張させている。
いつもなら息切れしないはずだが、不思議とこの時は息が切れていた。
何故だろう、この感覚は……俺が普通だった時の感覚だ。
急いで走り、次の角を曲がったところにはいつもの家が────
玄関前についたが、扉が少し空いていた。
急いで家の中に入ると、母さんは居間にいた。
しかし、いつもと違うのは……血を流して倒れている事だった。
母さんの顔はうっすら白がかっており、血の気が無いようだ。
急いで母さんの元へ駆け寄ると、まだ微かに息があった。
急いで救急車を呼ばねば、そう思った俺は携帯を出す。
すると、母さんはゆっくり瞼を開いた。
虚ろな目をしていて、今にも消えてしまいそうな光がわずかに残っている。
重い口を開き、今にも消えそうなほどかすれた声で母さんは言った。
「エ……レン……早く……早く逃げて……」
震える手で俺の手を握る。
その手はとても冷たく、ほんのりあたたかい。
「彼らが……来る……だから、早く逃げなさい……しばらく身を隠すのよ……」
「嫌だ、母さんを置いていけない!」
頭ではわかっていた。母さんは助からないと。しかし、口から出た言葉はこれだった。
「エレン……見れば分かるでしょ……私はもう───」
ここで母さんの目の光が消えてしまった。
ロウソクの火のように息を吹きかけ、消えてしまうように……
「母さん……嘘だろ……」
俺が物思いにふけっていると、後ろから物音がした。
急いで振り返りと、ペストマスクをつけた何者かが、手に持っている鈍器をふりかざそうとしていたのだった。
これはもう避け切れない、このまま当たりどころが悪ければポックリ逝ってしまうだろう。
そう思った瞬間、視界の横からにょろっと何者かの足がそのマスク野郎の顔面に直撃したのだった。
ペスト野郎の悲痛な叫び声が聞こえたが、マスクを被っている所為で、あまり良く聞き取れなかった。
ぼーっとする俺を透き通った綺麗な声が俺を呼んだ。
「エレン、早く逃げるよ!」
そいつの顔を見る間も無く、腕を掴まれ思うがままに引っ張られる。
今まで住んでいた家が遠のく、俺は腕を伸ばし掴みかけるが、ペスト野郎が顔を抑えながら迫ってきたのだった。
急いで走り、ふと手を掴んだ奴の顔を見た。
そいつはクリスタだった。
「クリスタ、お前だったのか……」
すると、クリスタは振り返りもせず答えた
「話は後、それに……私の名前はヒストリアよ」
ヒストリア……だって?───────
お待たせして、すみませんでしたぁぁぁぁ(スライディング土下座)
えぇ……なんとか完成しました。
と言っても一日で完成させたので、出来栄えが不安ですが……
とまあ、今回から運命の歯車が動き出してきたような感じですかね。
気付いたら、お気に入りとか増えていてびっくりしましたけど。
という事で、この作品を見てくださった方々、大変ありがとうございます。
本当に嬉しいかぎりです。
今後とも、よろしくお願いします!