眼前に迫るトランプの弾幕を躱し続ける。
トランプの嵐を避け終えると、その影に身を潜めていたヒソカが俺の顔面目掛けて拳撃を放つ。これを身体を回転させてかわし、その勢いのままヒソカの顔面目掛けて回し蹴りを見舞った。
ヒソカは蹴りを受け止め、俺の脚に自身の粘性を帯びたオーラを付着させようとしたが、俺はヒソカのオーラが変化する前に蹴り脚と他数ヶ所から体内に密封されていたオーラを暴発させて空中で回転。逆サイドからヒソカの顔面に裏拳を見舞う。
裏拳はヒソカの左頬に命中したものの、命中の瞬間に与えられた衝撃に従ってヒソカが後ろに飛んだ為に威力の四割程を殺されてしまった。地面に着地したヒソカは手にトランプを携え地面を強く蹴り接近。俺の喉元に斬撃を繰り出した。これを身を反らして回避。
続いてヒソカはトランプを縦に振り下ろし、俺は身を横に反らして躱そうとしたが突然トランプが加速した事で避けきれずに太股が小さく裂けた。
距離を取ってみると俺は今起こった事の正体に気がついた。ヒソカは先ほどトランプを振り下ろす途中でトランプから手を離し、自身のオーラをロープの様に使ってトランプを"振りまわした"らしい。トランプなんて物を自分の獲物に用いているだけあって流石に引き出しが多いな。
「結構出来るじゃないの」
「褒めて頂きどうも♠」
どうして俺がヒソカと戦闘に突入したのかを説明するには、少し時間を遡る必要がある。
地下道を抜け、湿原に突入した俺達の元にレオリオの絶叫が聞こえるとゴンはすぐにレオリオの方に走って行った。
「オイオッサン!アンタは行かなくていいのか?アイツぜってー殺されるぞ」
「オッサン言うな......うーん、ゴンなら何とかなりそうな気がするけどな。まあそんなにゴンの事が心配って言うなら行ってやっても良いけどさ」
「...別に心配なんてしてねえよ!ただアンタはあいつの知り合いっていうから」
素直じゃない奴め。
「そんなに心配なら...お前はコイツを持ってな。」
俺はキルアに木製の板を手渡した。
「何だよコレ?」
「お守りさ。お前はこのまま二次試験会場に向かいな、俺もゴン達を回収したら合流するからよ」
そして俺はゴンの後を追い、レオリオ君に叩き込まれようとしていたヒソカの拳を受け止め、その勢いのままに戦闘に突入したという訳だ。
ヒソカの身体が高速で接近する。
繰り出されたハイキックを上体を屈めて避けながらヒソカの懐に踏み込み顎をかちあげる様に掌底を放ったがヒソカは後方に飛びのいてかわし、空中から俺に少なくない量のトランプを投げ放った。
俺はトランプを掌からのオーラ放出で受け流しながら、ヒソカにオーラ砲を放とうとして_____ヒソカの懐からコール音が響いた。
「...............。」
「...とっとと出ろよ」
コール音を響かせたのはヒソカの携帯だった。
『ヒソカ、そろそろ戻ってこいよ。どうやらもうすぐ二次試験会場に着くみたいだぜ』
「...OK。すぐ行く♠」
あ、そういや完全に忘れてたけど俺ゴンを追い掛けて来たんだったや。
「久しぶりに結構楽しかったよ。また今度続きをやろう」
「...ああ♥」
そう言って霧の中に消えていくヒソカを見送り、三人の方に目を向けてみると、三人は何やら呆然とした様子で固まっていた。
「おい、何ボケーッとしてるんだ?もう時間も無いみたいだし俺達も試験会場に急ごうぜ」
「......あ、ああ。というか、ここから帰る方法があるのか?」
「ああ。キルア君に"お守り"を渡してきた。」
右手の人差し指の先から僅かにオーラを放出して空中に幾つかの文字を描く。
二十個に満たない複雑な意匠の記号は描き出されると直ぐに他の文字達と絡みあって簡潔な術式を形成する。形成を終えた術式を息で吹き飛ばすと、術式は物理的な白い輝きを放つ球体へと変化した。
「わ、何これ!」
「"導く人魂"。道案内を目的として編み出された最も基本的な『神術』の一つ。こいつの後に着いていけば二次試験会場に着けると思うぜ」
人魂は会場へと進んでいく。俺達は人魂を追って霧の中へ駆け出した。
「...糞。半信半疑だったが、こんなん見せられちゃあとうとう信じるしかねえじゃねえか」
「全くだな」
こいつらまだ信じて無かったのか...疑り深い奴ら。
神術について興味深々なゴン君の相手をしながら十分程走り、俺達は無事二次試験の会場に辿り着いた。
「や、やっっっと着いた...。」
疲労困憊なレオリオが地面に倒れ込む中、周囲を見渡す。この会場に辿り着いたのは最初の半分程だろうか。そんなことを考えていると、キルア君が俺に話しかけて来た。
「ようオッサン、どんな手品を使ったんだ?」
「なあに、"お守り"のお陰さ。」
"導きの人魂"は幾つかのモードによる運用が可能である。今回は目標地点として"神言"の刻まれた木片をキルア君に手渡しておくことで工程を幾つか省略することが出来た。
「ところで、これはどういう状況なんだ?」
会場の周りで他の受験生達がたむろす中、扉の閉まった建物の中からは何かの唸り声の様な物が響いていた。
「中に入れないんだよ、試験の開始は正午かららしいぜ」
「ふーん」
そして待つこと数分。時計の針が正午を指し示すと扉が開き、そこには二人の人間が居た。
一人は露出の多い衣服を身に纏った細身の女。ソファに腰掛けた身体の周囲に漂うオーラの"匂い"から考えて、恐らくこいつは今まで数え切れない程の美食を味わってきた、一流の"グルメハンター"という奴なのだろう。
もう一人は女の後ろの地面に座っている巨漢。建物の中から聞こえていた唸り声の正体はこの男の腹の虫が鳴く音だった様だ。その大きな身体を覆うオーラからは女と同じくらいの良い"匂い"がする。この男もグルメハンターだ。
「お待たせしたわね。二次試験の試験官はあたし、グルメハンターのメンチと」「同じくグルメハンターのブハラの二人が勤めるよ」
やはりグルメハンターであった二人の試験官が出したお題は_____料理。
...料理か。少しまずいな。食材の扱いに自信が無い訳では無いがぶっちゃけここ最近の人類の食文化とか分からん。
「オレのメニューは…俺の大好物、豚の丸焼き!この森林公園に生息する豚なら種類は自由。…それじゃ」
「二次試験、スタート!!!」
前言撤回、それなら何とかなりそうだ。
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