『ハァ……ハァ……
「黒だが」
『えっ』
「えっ」
無情さんは今日も動じない。
身体能力抜群、成績優秀、料理上手で美人。
そんは彼女───
下の名を
電話番号、メールアドレス、住所、どこで知ったのかスリーサイズまで。
もちろんそこに漬け込むのがネットの闇であり、彼女はネットの的となった。
がしかし、彼女は強かった。
スマホは機種変しないしメールは送られた端から丁寧にメールを送り返している。スリーサイズなんかは成長したら逐一報告しているようである。
家に押しかけるストーカーは家に上がらせて対談までしている様子。
なんというか……強い。何度も言うが、彼女には強いという言葉がしっくりくる。
「なあ
「あー、あれじゃないですか?間違い電話」
「なるほどな。間違えたのが恥ずかしかったのか」
いやそんなワケないでしょ。
おもきし本人の名前言ってたし、絶対素で返されて困惑してるだけだって。
「じゃあ塔助、昼飯にするぞ」
「あ、はい」
「あ、あのっ!!無情先輩!」
「む、私か?」
「その、僕と付き合っ「はい無情先輩はお昼のプライベートなのでまた後日お伺いくださーい」えっちょっ待っ」
わざわざ無情さんと僕のいる屋上まで登ってきた無情さんファンを押し戻し、扉に鍵をかける。
「今日も悪いな」
「いえいえ。これが僕のお勤めですから」
……僕が無情さんのボディガードを勤め始めたのは少し前のことである。
商店街に行けばオマケを貰いまくり、街を歩けばモデルスカウトに会う無情さん一人では、ありとあらゆる申し出を断るのは難しいものがある。
それに、『恥ずかしい』や『嫌』という感情があるなら人は少なからず罪悪感を覚えるものだが、無情さんは何をされても無情。
『興味がない』だけなのだ。
そんなわけで、人目を集める無情さんが見ていられなくなった僕は鈍感すぎる無情のボディガードを引き受けたのだった。
「しかし、懲りずによく来るものだな、いたずら」
「呪いの手紙でも渡されてるのかも知れませんねー」
「なるほどな。内容は『この手紙を貰ったら嫌いな人に告白する』が妥当だろうか?」
「そうかも知れませんね!」
あるわけねぇだろ。
「まあいい。早めに昼飯を食べないと昼休みが無くなってしまう」
「ですね。あ、どうぞ飲み物です」
「あぁ、ありがとう」
「無情さんが購買で何か買うとそれの売り上げがぐんと上がりますからね」
この高校の生徒は逞しい。
好きな人とお揃いにしたいのはわからないでもないけどね。
ちなみにだが、僕はどこにでもいる平凡な高校生だ。
個性的な生徒の多いこの学校では影が極端に薄く、それ故に僕がボディガードであることは奇跡的に誰も知らない。
「(だいぶ慣れたもんだなぁ……)」
無表情で野菜ジュースを貪る無情先輩を見ながらそんなことを考える。
長いまつげや吸い込まれそうな真っ赤な瞳。
腰元まで伸びた銀色の髪に発育の良い身体。
先祖に一人だけ外人の血が混じっている彼女はその先祖還りらしく、純粋な日本人でありながらその見た目は外国人のもの。
よくそんな人のボディガードができるな、僕。
最近になって筋トレとかもやり始めているけど、未だにひょろいまんまだ。
どうしたものだろうか。
そんなことを考えながら、僕は空を見上げた。