「塔助はいるか」
「むっ、無情先輩!?おい塔助、早く来い!」
「あー、はいはい」
部屋で本を読んでいると無情さんがクラスにやってきた。
要件はお昼が食べたいそうなので、屋上に行こうとのことだ。
「それで、今日は何を食べますか?」
「…………焼きそばパンだな」
「焼きそばパンですか……」
今日のリクエストは難関だ。
焼きそばパンは結構人気で、すぐに売れてしまう。
無情さんを待っていたからお昼休みの始まりから少し経っており、既に購買には長蛇の列ができているだろう。
「まあ、頑張ってみます」
「……いや、今日は自分で買いたい気分なんだ。いつも並んでもらって塔助には悪いし、今日くらいは私がならぶさ」
「え。……まあ無情さんがいいなら」
「ああ」
……僕は一抹の不安を覚えながら無情さんと購買へ向かった。
◇
「買えてよかったな」
「そうですね……」
屋上で美しい銀髪をたなびかせる無情さんの背中を見ながら、僕は死んだ目をしていた。
無情さんが列に並んだ瞬間に無情さんの前の生徒が一斉に列から外れたのだ。
それこそVIP待遇のように。モーゼが海を割ったように。
それで無情さんはまだ売れてなかった焼きそばパンを買って『二つも買えた。おひとつどうだ?』とか言ってくるんだから。
「あの、無情さん」
「なんだ?」
「無情さんってその、自覚あるんですか?」
「なにがだ?」
ダメか……。
無情さんが自発的に行動───言い方が悪いか、自分で何かを成そうとしたのは初めてだ。
ホイホイついていったのは少し失敗だ。
「無情さん」
「今日は質問が多いな。なんだ?」
「次からは、何かするときは離れてもらってもいいですか?メールで教えてください」
「それは……私が嫌いになった、という意味か?」
「いえそんな滅相も無い!……その」
「その?」
「……無情さんと関係がバレると、無情さんにヘイトが集まると思うんです。その、僕なんかが一緒にいても」
「……つまり?」
「無情さんは高嶺の花というか……すごい存在なので、僕なんかが一緒にいると、無情さんの格が下がってしまうというか」
「塔助」
「は、はい」
「私は高嶺の花だとか、すごいだなんて言葉は似合わないぞ」
急な語らい……いやまあ僕も何だけど、無情さんにびっくりする。
「私は塔助が毎日何かの訓練をしていることを知っている。身長だって会った時より少し伸びたな」
「…………」
「むしろ私は塔助に助けられてだな。それの恩返しをしようと思ったんだ。何かできないかと」
無情さんは街並みを眺める。
町の真ん中に、大きなビルが建っていた。
「私は君に恩返しがしたい。毎日頑張っている君を、隣で見て、褒めてやりたいんだ」
「無情さん……」
「それに、私はこれ以上嫌われないと思うぞ」
「嫌われる?無情さんが?現時点で?」
「あぁ。今日私が購買に向かった時だってそうだろう。私が入った途端にみんな静まり返って、私が並ぼうとするとみんながどこかへ行く。教室でもそんな感じだ。……というか、この学校で私を嫌ってないのは塔助だけじゃないか?」
それは恐れ多いからで……。
……否。当人からすると、どっちにしても避けられていると感じるのは普通だろう。
「ふふ……。あはは!」
「なッ!?な、なぜ笑うんだ塔助!乙女の悩みだぞ!」
「いえ、違うんですよ……。ははっ……。そうですね……少なくとも、無情さんは人気ものですよ」
「世辞や接待は良いんだ!素直に話せ!私は嫌われているのだろう?」
「うーん……。僕は好きですよ?」
「っ……」
「そろそろ僕は行きますね。無情さん、これ遅くなりましたがお飲み物です。渡すの忘れてました。じゃあ、僕これから体育あるので」
愉快で仕方のない気持ちを抑えて、無情さんに挨拶をして帰る。
そうだな……無情さんは友達がいないのか。
じゃあ、いろんな人に無情さんを紹介すればいいかな。
◇
塔助が笑顔で去っていく。
一息つくため、屋上の柵に掴まる。
私の右手には紙パックのリンゴジュースが握られていた。さっき塔助に渡されたものだ。
塔助に……。
『うーん……。僕は好きですよ?』
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
急激に体温が上がるのを感じる。
きっと今、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
「平常心、平常心だ……」
無情財閥の次期当主が、こんなのでどうする。
不思議だ。
塔助に会った時から、私は異様に心拍数が上がるようになった。
胸が苦しい。
「う〜っ、何故なんだ!」
紙パックを頰に当てる。
体温の上がった肌では、紙パックはだいぶ冷たく感じた。
恥じらえ!無情さん【お試し版】は、この二話で終わりとなります。
連載希望の方がいたのならこのまま連載を続行しますが、ワタシも人である手前、コメント欄にて「連載希望」などのコメントが来た場合、続行するか否かを定めようと思います。
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