小説の林堂 二次創作 小説「キノの旅」   作:イバ・ヨシアキ

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 キノの旅
 二次創作第2弾でございます。
 お読みになられている方々に感謝いたします。
 今回はシズ様や師匠、キノの三サイドでの表現に挑戦してみました。 
 うまく混じり合っていれば幸いです。
 今回は趣味として銃や兵器の説明に力を入れています。
 お楽しみいただけたら幸いです。
 ご感想、ご意見随時募集中です。


 「狩りの話」

 

 狩りの話 

 

 ──Talk of hunting──

 

 それは冬が始まろうとしていた頃のお話。

 

 緑がすっかりと色落ち褪せた小さな林の茂みの中に、モトラド(注意・二輪車の事)のエルメスと、大人用のぶかぶかの茶色いコートをしっかりと着こんでいた旅人のキノがいた。

 エルメスはセンタースタンドが下され、やわらかい草の上にしっかりと停められ、キノはエルメスの後部パイプキャリアから、いそいそと荷物を降ろしていた。

「ねえ、本当に手伝わなくていいの?」

 荷物を下ろすキノに、モトラドのエルメスがのんびりと訊ね、

「うん、大丈夫だよ」

 丸く畳んだ縫い目が目立つ寝袋をエルメスのシートに置き、よいしょと、力んだ声を出しながら、細長くそれでいて頑丈で、とても衝撃に強そうな細長い鞄を取り出す。

「それに、たまには自分で目測しなきゃ腕が鈍っちゃうからね」

 キノは両手に抱えた、その細長い鞄を草根の深い落ち葉の茂った地面へと下ろし、カチリと鞄の淵の鍵を外し、そのままパカリと鞄を開いた。

 鞄の中には、前部、後部と二つに分解された、組み立て式の消音自動式ライフル──『フルート』と、その組み立て手順と分解、整備の仕方が丁寧に書かれた小冊子に、7・7mm×58弾が納められた紙箱と、入念に整備された錆びのない9発入りの弾倉と、鞄と同じように頑丈そうな小さな細長い箱が、衝撃用のクッションの中に丁寧に仕舞われていた。

「じゃあ、こっちは〝お好みの会見〟といこうかな」

 細長い小さな箱を取り出し、中に仕舞っていた、綺麗な布を二重に巻いたスコープを取りだそうとしていた手を止めて、

「……お手並み拝見?」

 キノが訪ねると、

「うん、そうそれ♪」

 エルメスの相槌の後、キノは何事もなかったように巻いてあった布を解き、綺麗に手入れが行き届いているスコープを手に取る。

 空いた片手で組み立てたフルートの後部のグリップを、引き金に指をかけることなく掴み持ち上げ、上部部分のツールにカチリとはめ込み、ネジをくるくると回し、発砲時の衝撃に外れ落ちないように固定した。

 スコープを堅く固定し終えた後、前と後ろの蓋を取り、すっと中を覗く。

明瞭な十字線の視界の先には、茫々と生える雑草の地面が映り、レンズには汚れや曇りはなく、照準がずれていないことを確認すると、キノはスコープから視線を離す。

 そして鞄に残っていた『フルート』の前部を手に取り、カチリとスコープと同じ要領で取り付け、前部後部の連結部を堅く固定していた前部のフレームの脇に取り付けてあったサプレッサーを外し、バレルの先の銃口にクルクルとネジみたく何度も手慣れたように回しながら、スコープと同じように取り付けた。

 サプレッサーを取り付けた銃口の下には、二脚が折り畳まれたままで、どうしよう、使おうかなと考えるが、地面が少し湿っぽかったので、後の手入れなども鑑みて今回は使わないでおくことにした。

 安全装置を確認し、そのまま両手に『フルート』を抱いた姿勢で、キノは後部のストックと引き金の先の機関部に、9発入りの弾倉をカチリとはめ込み、ボルトを引き、ガシャンと一発の7・7mm×58弾を薬室に装填する。

「よし、準備完了」

「がんばってねー」

「うん」

 エルメスののんびりとした声援を後に、キノは『フルート』を両手に持ちながらその場に立ち上がり、すっと重く瞼を閉じ、大きく一呼吸を置く。呼吸を身体の中に這わせ無駄な身体の力を抜きながら、瞼をゆっくりと開いた。

 潤い濡れた視界の先の遠くにある標的に、じっと瞬きせずに落ち着いた視線を向け、軽くなった身体を標的に向け、両膝を折りながら、その場に座り込む。

 右足を伸ばし、左足を曲げ、今この場でなにかあっても直ぐに立ち上がれそうな座りこみのしゃがんだ姿勢で、上半身を直立に保ったまま『フルート』を内に折り曲げた左腕の肘の上に乗せる。

 まるで赤ん坊でも抱くかのような丁寧な持ち方で、後部の木製ストックを柔らかく身体に保持しながら、右腕の中にそっと抱いた。

 そしてそのまま慎重に抱いた『フルート』のグリップを堅く握り締めながら、銃身が震えないように堅く構え、後部の上に取り付けた狙撃用のスコープを覗く。

 すぐ傍にでもいるかのような十字線の視線の先に、立派な角を生やした一頭のカモシカを捉える。とても暖かそうなフカフカな毛皮を重たそうにずっしりと生やし、売れば相当な値がつきそうな二本の大きな角を生やした、年老いた大きなカモシカだった。

 群れからはぐれてしまったのか、それとも群れから追い出されたのか、カモシカはただ寂しそうにしながら、平原にぼうぼうと沢山に生えた草をもしゃもしゃと食べていた。

 そんな年老いたカモシカの食事を遠く茂みの中から見つめながら、キノはすうっと息を静かに吐き出し、一呼吸だけをまた身体の中に吸い込み、口を閉じぴたっと息を止め、十字の印の交点中心に、カモシカの額を定める。

 草の動き、葉の音、気まぐれに吹く風の間隔を見取り感じながら、グリップを握る手を放し、スコープのターレットをカチリカチリと動かし、目測をいくつか修正しながら、カモシカを十字線の真ん中へと治めていく。

 十字線の中心を吸いつかせるようにカモシカの眉間を捉えると、

「!」

カモシカは急に草を食べるのを止め、澱みのない黒い視線を、じっとキノの方向に向けてきた。スコープ越しの十字の印の中にもその姿は捉えられ、キノと視線の合ったカモシカに、キノはなんら躊躇する事もなく、安全装置を外し、緩やかな動作で引き金を、銃身を揺らさないように静かに引き下ろす。

 撃針が薬莢を叩いた同時に『フルート』から、7・7mm×58弾がサプレッサーで音を掻き殺されながら発砲され、薬莢が排出されたと同時に弾丸はライフリングに沿った勢いのある直線の軌道をまっすぐに描きながら、カモシカの額を叩いた。

 弾丸は皮膚を破り、肉を裂き、骨を砕き、脳内をグシャグシャとかき乱しながら後部の骨を砕き、着弾と同じように後部の肉と皮膚をグシャグシャに引き裂きながら、弾丸は外へと飛び出した。

 そしてボシュと鈍い着弾音とともにカモシカの後頭部はグシャグシャに弾け、弾けた勢いにまかせたまま首を後ろに、のけ反るようにグシャリと折り曲げ、身を横にぐるんと振り回しながら、そのまま草原に、どさりと勢いよく転げながら倒れた。

 倒れた拍子に大きく開いた額の穴と、グシャグシャに砕け弾けた後頭部から、まるで並々に水を注いだ水筒でも倒したかのように血がコプコプと穴から溢れ出て、先程まで食べていた緑の草々を真っ赤に濡らしていく。

 ゆったりと真っ赤に濡れていく地面には、べちゃりと赤い肉の塊と白い骨の小さく砕けた欠片がバラバラと散乱していた。

その中にどろりと砕けたカモシカの脳味噌が、砕き空いた後頭部からずるりと流れ落ち、べしゃりと音をたて、沢山に溜まった血だまりへと落ちていった。  

「めいちゅーう!」

 と、まるで射的の大当たりのような呑気な声でエルメスは声を上げ、

「すごいね、ど真ん中だよ。大当たりだ」

「……ありがとう」

 少し照れながらキノは、安全装置をかけ、ピクピクと震え四肢を痙攣させていたカモシカをスコープ越しから離し、二脚をたて『フルート』を傍に置き、深呼吸と共に身体の力を抜いていく。

 ふうっと息を小さく長く吐き、繰り返しながら呼吸を整え、そして立ち上がり、脚、腰や腕を伸ばしながら、気が張っていた身体を柔らかくほぐしていく。

 一呼吸おいてキノは置いていた『フルート』を手に持ち、なれた動作で『フルート』をカチャカチャと分解し始めた。

まず最初にキノはボルトを引き固定させ、薬室からライフル弾を排出させ、弾倉にまとまった残りのライフル弾を取り外す。

 薬室に弾丸が残っていない事をしっかりと確認した後、今度はスコープを丁寧に取り外し、綺麗な布を二重に巻き直し、そっと箱へと戻す。

それを箱にしまい終えた後、今度は9発入り弾倉を手に持ち、両手で残っていた弾丸を弾倉から排出させ、弾倉を空にし、ライフル弾を紙箱へと戻し、弾倉ともども鞄にしまう。

『フルート』の前部、後部の連結を解き、結合部を離し、仕舞っていたカバンの中に仕舞い、足元に転がっていた薬莢を拾い、そのままコートのポケットにいれた。『フルート』をしまった鞄を閉じ、エルメスの後部キャリアに載せ、紐でぎゅっと堅く固定する。

「ごくろーさん」

「じゃあ、はやく行こうか」

「りょーかい」

 エルメスに跨り、キノはセンタースタンドを蹴り外し、エンジンをかけエルメスを勢いよく走らせる。深い森を抜け、果てまで拓けた平原へと飛び出し、丘陵とした草根の丘道を勢いよく走りだす。

徐々に距離が近づき、小さかったカモシカが大きく見え始めていた。

 いつの間にか集まった数羽の鳥が仕留めた獲物の上空を旋回しながら、獲物をものほしそうに狙っている。キノとエルメスがようやくカモシカの元へと訪れ停車すると、真上を旋回していた鳥達は、エルメスのエンジン音に驚いてどこかへと去っていた。

「まったく油断できないね」

 と、遠くに飛び去る鳥を見つめながらエルメスが何気に言い、

「しかたがないさ。狩りにはよくあることだよ」

 キノは遠くへと去る鳥を見送りながら、エンジンを止め、センタースタンドを出し、エルメスを平原に立たせ、仕留めたカモシカに視線をやる。

たっぷりと流した自分の血だまりにしっとりと浸かり沈むカモシカに、キノは帽子を脱いで静かに黙祷し、エルメスもそれにならって言葉を閉じた。

 そして視線を開け、仕留め射抜いたカモシカをじっと見つめながら、

「……あー、結構、大きかったんだ」 

「こりゃあ大物だね」

 いまだに止まる事なく鮮血をドクドクと流し、血まみれた草に横たわるカモシカは、とても大きかった。

 冬に蓄えたフカフカな毛皮はとてもぶ厚く、売れば相当な値がつくだろう角も、とても大きく、その歳に合わせ育った身の肉もとても大きく、下手をすればエルメスよりも大きそうな、そんな大き過ぎたカモシカを見て、

「こんなに大きいとは思わなかったな……」

「でも、こーいうことも狩りにはよくあることじゃない」

「そうだね」

「で、どうすんの?」

「うーん、どうしようかな。こんなに大きいと全部持っていけないや」

「全部は持っていけないなら、ここで全部食べちゃえば?」

 エルメスが面白おかしく茶化す。

「……ま、とりあえず、解体しながら考えてみるよ」

 帽子をかぶりなおしてキノはエルメスの後部にあるカバンから、狩りの解体に使う大きな、よく斬れるナイフを取り出し、それと一緒に使い捨てのビニールの袋と、もういらなくなった古い厚い布も取りだし、仕留めたカモシカの解体をいそいそと始める。

 陽は冬場なのにとても暖かく、鳥が一羽も泳いでない澄んだ蒼空が、とても眩しい午後だった。

 

 

 それは夏へと移り変わろうとしていた頃のお話。

 

「……釣れないな」

 と、夏色に染まった大きな泉の畔に、刀の鞘で釣り糸を垂らしていた、たくましい体躯をし、シャツの上からパーカーを着込んだ青年──シズは、ぴくりとも、まるで動かない釣り糸を見て、何気に呟いた。

「場所が悪いんでしょうか?」

 仏頂面の怒っているかのような顔をしていた少女──ティーに、その小さな両腕にしっかりと抱かれた、もこもことした白い毛を生やした、笑っているかのような可愛らし顔をした犬の陸が何気に言い、

「いや、場所を変えても同じような気がするな。どうやら私には釣りの才能がないみたいだ……ん?」

 急に暗くなり、ぼうっと何気に空を眺めてみると、夏の入道雲が流れ、大きな日陰を作ってくれていた。

 少し涼やかになったかのような心地い気持ちで、夏色に澄んだ蒼く広い空を見つめながら、

「ま、別になにを急ぐ事もないし、もう少し待ってみるのもいいかもしれない。こうやって、ゆっくりするのも釣りの楽しみの一つだしな」

「そうかもしれませんね。今日は天気もいい事ですし、別に急ぐ旅でもありませんからね……ん!」

 陸はむず痒そうにもぞもぞと身体を動かすと、ティーは頭の上に、ぽすんと顎を載せ、動こうとした陸の動きを止める。

 シズは欠伸を噛み殺し草地に寝ころびながら、釣り糸を確認するが、まるでぴくりとも動く気配はなかった。

 すると、

「? ティーどうしました?」

 ティーはいきなりすっと立ち上がり、そのままてててとバギーへと戻っていった。

「……どうやらティーには退屈みたいだな」

「私がしばらく遊び相手になりましょうか?」

「いや、陸も疲れているだろう」

 シズは申し訳なさそうにバギーに戻ったティーを見送り、

「そろそろ釣りを切り上げて出発した方がいいかもしれない。今夜は携帯食料だな」

 と、鞘を引き釣り湖面に沈んだ糸を上げようとしたとき、バギーの方から、てててと急ぎながらティーが戻ってきた。

 戻ってきたティーの小さな両手には、40ミリのグレネードランチャーが握られ、肩には弾が数発ほど入ったポーチが下げられている。

 シズと陸の居る場所に戻るや否や、ティーは木製のストックをしっかりと握ったまま、空いた手でグレネードランチャーのロックをぱかっと外し、中折れ式の銃身を覗かせる。

 そしてポーチから一発の40×46mmの榴弾を取り出し、開いたグレネードランチャーの薬室に榴弾を装填した。

 シズが以前教えた一連の使い方や動作をしっかりと行いながら、ティーは弾を銃口へと滑らせ装填し、かちりと堅くロックをし、弾が込められ少し重くなったグレネードランチャーを、ひょいっと振り上げるように斜め上に持ち上げ、細い小さな両腕でしっかりと保持しながら、そして躊躇なくに引き金を引いた。

 ぽん! と、圧縮したガスの弾ける音が響き、曲線の軌道を描きながら、炸裂弾は湖面へと落ち、ちゃぷんと水柱をたて、大きな波紋を湖面に描いた。

 そして。

 

 ──ばしゅん!

 

 と、水中で大きな爆発が起こり、丸い水柱がもこっと沸き上がり、それは瞬く間にぼんと勢いよく弾けた。

 弾けたと同時に水しぶきが畔までざっと降りかかり、急な、にわか雨が降ってきたかのように畔をびしょびしょに濡らしていく。

 すぐに水しぶきは止み、辺りはしんと、また静かになった。岸に近かったシズと陸は少し濡れてしまい、ティーは全く濡れてはいなかった。

「……あ、見て下さい」

 ずぶ濡れになった陸は、びしょびしょに濡れてしまった白いもこもこした前足を湖面に向け、シズも同じように湖面に視線を向ける。

「……」

 ぷかり、ぷかりと魚が一匹と二匹と湖面に浮かび上がり、まるで波紋に引き上げられるかのように魚が次から次へと湖面に浮かび上がってくる。

「……どうやら釣れたみたいだな」

「そのようで……」

「しかし、少し遠いな」

 びしょぬれになったシズと陸は浮かぶ沢山の魚をどうしようかと困惑したまま、シズは申し訳なさそうにずぶ濡れになったしまった陸を見て、

「すまないが陸、魚をとってきてくれないか」

 陸は、

「暑かったので、丁度良いですね」

 少し後ろに下がり、てててと勢いよく走りながら泉へと飛び込んだ。

 ぼちゃんと水しぶきを上げ、そのままバシャバシャと水面に浮かぶ魚を取りに泳いでいく陸を見ていると、

「ん?」 

 足元でズボンをくいくいと引っ張るティーに視線をやると、タオルをむずっと向けていた。 

 シズは、

「ありがとう」

 受け取り、濡れた髪をがしがしと拭う中で、

「きにするな。かりにはよくあることだ」

 ティーは水面に浮かぶ、たくさんの魚を見ながらぼそっと、どこか満足げに呟く。

 髪を拭うシズと満足そうなティーを覆っていた雲の日陰が去り、暑い陽射しがまた強く射しこみ始めていた。

 

 

 それは春が訪れようとしていた頃のお話です。

 

 とある戦争の真っただ中の国の細い裏通り。

 その近くにあるバラバラに崩れた建物の瓦礫の隙間に隠れながら、青年がうんざりと、

「あー、おそいですねぇ~」

 呟きます。

 青年はとても綺麗な、うっかりとすれば女性と見間違えてしまいそうな程に、とてもハンサムな顔立ちをしていました。

「師匠ぉ、本当にここを通るんですか。全然来ないし、もうよそに行っちゃってるんじゃないんですかね」

「情報は確かです。もう少し待ちましょう」

 同じように瓦礫に隠れた艶やかな黒髪を一本に束ねた師匠と呼ばれた女性は、双眼鏡を片手にあっさりと言葉を返します。

 遠くでは砲撃音や爆発音がとてもうるさく響き、時折地面がグラグラと揺れます。

 黒煙ももくもくと幾つも上がり、春の色よい蒼の空が、とても黒々と濁っています。

 砲撃音と爆発音がバンバン、ドカンドカンと響く度、どこかの建物が轟音を立て崩れ、機銃や機関砲や大砲、ハンド・パースエイダーの連射音や単発の発砲音や悲鳴や怒声で、とてもうるさいです。

「あーあー、こんなに気持ちの良い天気の日によくやりますよねぇ。戦争のなにが楽しいんだか」

「戦争とはそんなものです……!」

「? え、来たんですか師匠」

「ええ、ようやく着ました。手筈通りにお願いします」

「りょーかい!」

 青年は傍に置いていた大きなバックを引っ張り上げ、中にしまってあった4つの筒を取り出します。

 それは使い捨て型の対戦車ロケット弾を撃つことのできる、それはそれはとても強力な対戦車用のバズーカ砲でした。

「では、まかせます」

「ええ、任せてください。ちゃんと仕留めますよ」

 と、師匠は青年から渡された細長い鞄を片手に、建物の屋上へと足早に走ります。音もなくに階段を駆け上がった師匠を後に、青年は瓦礫に隠れたまま、筒の後部のピンを抜き、後部を引きのばします。

 そしてカチリと固定させた後、前部の先に照準器が立ちあがり、後部の押し込み式のトリガーの前にも照準器が立ちあがります。

 もう一つの筒も同じ手順で使えるようにし、4本とも直ぐに撃てる様にしました。その四本を鞄にしまい、 瓦礫に隠れ潜んだまま、青年は通りの方を息を殺し注意深く警戒します。

 爆撃と砲撃が響く中で、ひと際うるさい空気を震わせる頑丈そうなエンジン音がゴゴゴと響きます。その大きな音と共にキャラキャラと地面をすり潰すような金属音も一緒に響いてきます。

 そして大通りの角の崩れかけた建物がガラガラと崩れた後、

「また、ぞろぞろと引連れちゃって」    

 とても大きな戦車が通りに転がる瓦礫と死体を苦もなく踏みつぶしながら、青年の居る建物へとじりじりと近づいてきます。

 周囲を警戒しながら戦車は常に砲塔を左右に動かし、後ろに並走している装甲車の機銃座に座る兵士も、搭載された自動機銃を左右に向けながら周囲の建物を注意深く警戒しています。

 そしてその後には、前の二台とはうってかわってとても場違いな純白の長い車体をした高級車が、恐る恐ると、とても鈍く走っています。

 その後ろには、前と同じように装甲車と戦車が高級車と同じ速度でノロノロと走っています。

青年は撃てる状態にしたバズーカを構え、前の戦車にその砲口をしっかりと向けます。

 照準器に戦車を写した後、今朝師匠と打ち合わせた位置に戦車が来るのを待ちます。

 合図が来るまでの間、陽気でウトウトと沸く眠気に欠伸が出そうになりますが、青年は噛み殺しながら、しっかりとバズーカ砲をかまえます。

 ゆっくりと警戒しながら走り進む戦車が、打ち合わせた位置に入ったその時に、青年はバズーカ砲の押し込み式のトリガーの安全装置を外し、そしてそのままトリガーを押し込みました。

 するとバズーカ砲の後方から炎が吹きだし、砲口から66㎜HEATロケット弾が戦車に向かって、まっすぐに発射されます。

そしてガン!っと、堅く強固な戦車の車体など意に介さないように穴が開きます。

 そのまま青年の腕がらくらく一本入りそうなほどの穴が、ぽっかりとあいた後に。

 

 ──ボカン!

 

 と、戦車はいとも簡単に爆発してしまいました。

 車内に積載していた砲弾に誘爆してしまったのか砲塔が噴き出すように吹き飛び、そのまま宙に浮かんだ砲塔がけたたましい音を立て、地面にガランガランと転がっていきます。

 吹き飛んだ戦車の後ろの装甲車で機銃を構える兵士が、そんな光景にぽかんと気を奪われ唖然とし、その光景をぼうっと眺めていると、唐突に一人の兵士の眉間に穴が空きました。

 そしてそのままヘルメットをかぶった後頭部がパンと弾き、真っ赤な脳漿をびしゃびしゃとまき散らし、大きくのけぞりながら兵士は機銃座からゴロゴロと車内に転がり落ちていきます。

 どさりと車内に転げ落ちたと同時に、装甲車の正面に先程の戦車と同じ穴がガンっとあきました。青年が二発目のバズーカ砲を使い、ロケット弾を撃ちこんだからです。

 すると装甲車も戦車と同じように、

 

 ──ボカン!

 

 と、まるで空気を沢山いれた風船が破裂するようにぱんっと爆発してしまいました。

 たて続けの爆発に高級車は慌てて走り出そうとしますが、破壊された装甲車や戦車の残骸が前を塞ぎ、思うように走り出せません。

 もたもたとしていると高級車のタイヤにバスッと穴があき、タイヤがパンクしてしまいます。そのまま4つのタイヤは、あっという間に打ち抜かれ弾け裂けてしまい、高級車は使いものにならなくなりました。

 そんなガラクタになってしまった高級車から運転手が慌てて飛び出し、どこかへと逃げ出そうとしますが、そんな運転手の頭がパンと弾けてしまいます。顔面も同じように弾け、赤黒いものを辺りにまき散らしながら運転手はそのまま、どさりと地面に倒れてしまいます。

 これで完全に走れなくなった高級車の後ろを並走した二台目の装甲車の機銃座に座る兵士は、大慌てで相手も見えないのに辺り構わずに機銃を掃射します。

 青年と師匠がいる方向とはまるで違う、あさっての方向で掃射するそんな取り乱した兵士のこめかみに穴が空き、そのまま顔の半分がばちんと弾けてしまいました。

 普通なら絶命して、そのままだらんと倒れ込んでしまいますが、よほど力が入っていたのでしょうか、機銃の引き金を強く引いたままの兵士の死体は、機銃の勢いに任せて辺りに弾丸を撒き散らしていきます。

 そして撒き散らかされたいくつもの12.7mm弾が高級車をバカバカと簡単に穴だらけにしてしまいます。

 さすがの高級車の防弾装甲も12.7mm弾の前では紙のように無力でした。

 それを見て青年は、

「あちゃー、ありゃ死んじゃったかな」

 と、心の底から残念がりました。

 やがて弾薬が切れ、硝煙を上げ、ガチャンと大きな音をたて動きが止まった機銃座からずるりと兵士が車内に滑り落ちると同時に、装甲車の後方の扉ががばんと開き、大慌てで兵士達が出てきます。

 青年は残念な気持ちを抑え、統率がとれずにもたもたと出てくる沢山の兵士と装甲車に向かって3発目のバズーカ砲を構え、そしてあっさりと撃ちました。

 逸れることも外れることなくロケット弾は装甲車に着弾し、そのまま装甲車は折れるように爆発してしまいます。外に出た兵士達もその爆発に巻き込まれてしまい、バラバラに千切れ辺りに吹き飛んでしまいました。

 運よく助かった兵士も、とどめと言わんばかりに頭を狙撃で吹き飛ばされていきます。

 最後に残った戦車があわてて砲塔を動かし、辺り構わずに戦車砲を撃とうとしましたが、ロケット弾が、ばすん! と装甲の厚い前部をあっさりと貫き、装甲車と同じようにいとも簡単に爆発してしまいました。

 膨れる爆炎にキャタピラが引きちぎれ、破片と一緒にバラバラと辺りに巻き散ります。

 その場には穴だらけの高級車だけがぽつんと残り、辺りはとても静かになりました。

 いつのまにか遠くで響いていた大砲の砲撃音や爆発音なども止み、黒煙も、もうどこにも上っていません。青年は身を潜めていた瓦礫から這い出し、服の埃をパンパンとはたきながら、転がる死体や出来上がったばかりの死体や肉片、血だまりをうっかり踏まないように気をつけながら、穴だらけの高級車へと歩いていきます。

「終わりましたね」   

 と、ちょうど屋上から降りてきた師匠に、

「どうでした、俺の狙撃銃は?」

「ええ、とても良い銃です。軽くて持ちやすくて、とても狙撃しやすかったです」

「でしょ。自慢の軽量式のテレスコープ付き消音自動狙撃銃ですからね」

「でも、少し上に跳ね上がる癖がありますね」 

「それがいいんですよ」

「そうですか」

 と、御自慢の狙撃銃が入ったかばんを満足そうな笑顔をした青年に手渡し、二人は高級車へと向かいます。

 バラバラに壊れ真っ赤な火に塗れた戦車と装甲車の間を通り、穴だらけになった高級車の運転席や助手席には人影はありません。後部座席へと視線を向けると、師匠は腰に下げていたリボルヴァー式のパースエイダーを抜き、青年も腰に下げていたオートマティック式のパースエイダーを抜きます。

 青年は手慣れたように警戒しながら先程の激しい機銃の銃撃で壊された、外れかけたドアをおもいっきりに引きますが、引いた途端にドアはガチャンと外れてしまい、地面に大きな音をたて落ちてしまいます。

 青年は別に気にした様子もなく、パースエイダーを構えたまま、ひょいっと中を覗きます。

 覗くと、

「うわぁー、ぐちゃぐちゃ」

 車内は、それはそれはとてもひどい有様でした。

 白を基準にした高価そうな革で張られたシートは見るも影もなく穴だらけに千切れ、高級な造りであつらえられただろう車内の到る所も穴だらけで、そしてどこもかしこもが引きちぎれた人間の血肉で真っ赤に染まっていました。

 車内には千切れた腕や足、それとも頭の一部が身体の一部とも解らない小さな肉片が、びっちゃりと、たくさん張り付き転がっていました。

 何人乗っていたのかは解りませんが、けっして一人ではありません。

 細い腕や足、小さな手足や、子供の割れた頭の欠片などと、どうやら家族全員が窮屈に、この高級車に、ぎゅうぎゅう詰めで乗っていたみたいです。

「あーあー、獲物がめちゃくちゃですね。こりゃあ反政府軍に持ってても賞金くれないっすよ」 

 青年は残念そうな声を出します。

「でも、これだけは無事でしたし、今回はそれで良しとしましょう」

 師匠はなにも気にした様子もなく血まみれの車内に手を伸ばし、あれだけの機銃掃射でも、まったく壊れていなかった、血まみれで傷だらけの頑丈そうなアタッシュケースを取り上げます。千切れた男性らしい太い手首が、決して離したくないように持ち手を強く握っていましたが、師匠は気にせず手首を鷲掴み、指輪が付いていないかを確認してから、そのままぽいっと車内に投げ捨てます。

 ゴロゴロとモノのように転がる手首を後に、

「開けれますか?」 

 と、青年に訊ねます。

「これくらい簡単ですよ」

 青年はアタッシュケースを受取り、内ポケットから細長い小さなケースを取り出します。

 中には手入れされたピッキング用のツールが仕舞われ、細い針金のツールを手に取り、とても慣れた手つきでアタッシュケースの鍵穴をカチャカチャといじり始めます。 

 そしてものの数分もたたないうちに、

「開きましたよ」

 さっとツールを仕舞い、アタッシュケースを地面に置き、がちゃりと開けてみると、中には大きな宝石や金塊がぎっしりと、溢れんばかりに、窮屈にぎゅうぎゅうとしき詰められていました。

「うわぁー、あの独裁者けっこう持ち出していたんですね。こんな大きなダイヤ見たことないですよ」  

「家族で国外逃亡するにはこれくらい必要なんでしょう。おかげでとても助かります」

 大きな宝石に見入っていた弟子の視界を遮るように、ぱたんと師匠は素早くアタッシュケースを閉じ、ひょいっと軽々と持ち上げて、

「では、行きましょうか。もうこの国に用はありません」

 きびすを返し、すたすた歩きだします。

「あー、やっと、こんなうるさい国から、おさらば出来るんですね」

 ほっとしながら、青年は狙撃銃を仕舞った鞄を片手に、師匠を追いかけます。

 破壊された装甲車がめらめらと燃え、頭部を失った血まみれで野ざらしに横たわる沢山の兵士達の死体を踏みつけないよう気をつけて歩いていく中で、

「でも、ほんと惜しかったですよね。大統領とその一家の懸賞金、すごい金額だったのに……死んでしまうなんて惜しかったなぁ」 

 青年はとても残念そうにそう言いました。

 師匠は、

「思い通りにいかないのも狩りにはよくあることですよ」

 流すように言いました。

 そんな会話をしている中、いつの間にか空に鳴り響いていた砲撃と銃声はすっかりと止んでいました。

 空はとても綺麗で、陽射しも暖かく、とても心地のいい、眠気を誘う小春日和でした。

 

 狩りの話 end

 




 いかがでしたか?
 銃などは大好きなので詳しく描写させて頂きました。
 楽しんでいただけたなら幸いです。
 ティーの持っている武器使用はまだ本編の方では使用されていないので、表現として間違っていないか、違和感が無いかと、頑張ってみました。
 最後まで読んでくださった方々に感謝します。
 
 ご感想、ご意見、随時お待ちしております。
 
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